有価証券報告書-第15期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/06/18 15:02
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対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、別段の記載がない限り、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。なお、「(4) かんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題について」は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 当社グループの経営理念及び経営方針
① グループ経営理念
郵政ネットワークの安心、信頼を礎として、民間企業としての創造性、効率性を最大限発揮しつつ、お客さま本位のサービスを提供し、地域のお客さまの生活を支援し、お客さまと社員の幸せを目指します。また、経営の透明性を自ら求め、規律を守り、社会と地域の発展に貢献します。
② グループ経営方針
・ お客さまの生活を最優先し、創造性を発揮しお客さまの人生のあらゆるステージで必要とされる商品・サービスを全国ネットワークで提供します。
・ 企業としてのガバナンス、監査・内部統制を確立しコンプライアンスを徹底します。
・ 適切な情報開示、グループ内取引の適正な推進などグループとしての経営の透明性を実現します。
・ グループの持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指します。
・ 働く人、事業を支えるパートナー、社会と地域の人々、みんながお互い協力し、社員一人ひとりが成長できる機会を創出します。
(2) 経営環境
当連結会計年度の国内経済は、企業収益が高水準を維持したほか、雇用・所得環境の改善を背景に、個人消費が消費税率引き上げなどの影響による振れを伴いつつも、所得から支出への循環が継続する中で、年末までは緩やかに拡大したものの、新型コロナウイルス感染症の拡大による内外需要の落ち込み等により、国内の景気は、年度末にかけて厳しい状況となっております。
世界経済は、年末までは緩やかな成長が続きましたが、年度末にかけ、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を受け、各国における出入国制限・在宅要請等の影響により経済活動の停滞を余儀なくされ、雇用・消費の状況も悪化して、急激に減速しました。
金融・資本市場では、国内の10年国債利回りは、米国の長期金利の影響で一時低下したものの、長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策のもと、ゼロ%付近で推移しました。日経平均株価は、米中通商交渉を巡る不透明感の高まり等を背景に一時下落しましたが、9月上旬以降、同交渉の進展期待により上昇に転じ、9月末には21,000円台後半に回復し、その後は堅調に概ね23,000~24,000円台を推移しました。しかし、2月以降、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により16,000円台まで急落しました。
物流業界におきましては、eコマース市場の拡大に伴い、宅配便市場が拡大する一方、受取人の不在などによる再配達の増加により、労働力不足への対応が必要となっているほか、サービス品質に対するお客さまニーズの高まりに対応し、AIやロボット等の先端技術を活用しながら、各社がサービスの向上に努めるなど厳しい競争下にあります。郵便事業においては、インターネットの普及等により、郵便物の減少が継続しております。また、労働市場の逼迫等を背景に、人件費単価の上昇等も続いております。
銀行業界におきましては、当連結会計年度は、全国銀行における預金が対前期比増加となり、貸出金も9年連続で増加しましたが、歴史的な低金利環境の長期化を受けて金融機関の基礎的収益力は低下が続いています。
生命保険業界におきましては、低金利環境の継続、少子高齢化や単身世帯化の進展、ライフスタイルの変化等を背景としたお客さまニーズの多様化や選別志向の高まりなどが見られます。
当社グループは、「郵便・物流」「貯金」「保険」の生活に必要な基礎的サービスや物販、提携金融サービス等を全国約24,000カ所の郵便局ネットワークを通じて提供するほか、不動産事業など多数のサービスを展開しています。郵便・物流事業においては1日に約3,100万カ所への郵便配達箇所数、銀行業においては約1億2,000万口座の通常貯金口座数、生命保険業においては2,468万人のお客さま数(契約者さま及び被保険者さまを合わせた人数(個人保険及び個人年金保険を含み、かんぽ生命保険が郵政管理・支援機構から受再している簡易生命保険契約を含みます。))など、毎日の生活の中で多くのお客さまにご利用頂いており、お客さまとの接点の多さは当社グループの強みとなっております。
(3) 当社グループの経営戦略等
① 中期経営計画等について
2020年度は、お客さまがかんぽ生命保険の保障を見直される際の取扱い等に関して判明した事案について、かんぽ生命のご契約に係る調査などその事案の全容解明・解決に向け、当社グループを挙げて、取り組むことを最優先の課題としております。(具体的な対応については、「(4) かんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題について」をご確認下さい。)。一方で、2018年5月に発表いたしました、2018年度から2020年度までを計画期間とする「日本郵政グループ中期経営計画2020」(以下「中期経営計画」といいます。)の最終年度であり、持続可能な事業運営のため、中期経営計画に掲げた施策・対応策の着実な実行に努めてまいります。
中期経営計画においては、政府による当社株式の売出しが進められている中で、国以外の一般の株主が増加していることを踏まえ、企業価値を評価する指標である1株当たり当期純利益を主要な経営目標として採用しています。

② 経営者の問題意識と今後の方針
当連結会計年度に判明したかんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題に関し、当社及びグループ各社は真摯に反省し、お客さま本位の業務運営の徹底にグループ一丸となって取り組んでまいります。
当社は、グループ各社とともに、2020年1月に策定した業務改善計画の実行を経営の最重要課題として位置づけ、業務改善計画に掲げた施策に取り組んでまいります。2020年4月には外部専門家により構成された「JP改革実行委員会」を設置し、公正・中立な立場から、特別調査委員会提言事項に対する進捗状況の確認や、当社グループが実施する各種取組みの有効性や十分性についての検証等を実施しております。(具体的な対応については、「(4) かんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題について」をご確認下さい。)
また、交付金・拠出金制度も活用し、郵便、貯金及び保険のユニバーサルサービス確保の責務を果たし、地域社会に貢献するとともに、郵便局ネットワークの一層の活用、維持による安定的なサービスの提供等を図るため、グループ各社の経営の基本方針を策定し、その実施に努めます。
金融2社株式の売却については、当社としましては、郵政民営化法に従い、最終的には当社が保有するすべての金融2社株式を売却する方針ですが、その前提として、金融2社株式の売却に伴う当社と金融2社との資本関係の変化が、金融2社の経営状況並びに当社及び日本郵便に課されているユニバーサルサービス確保の責務の履行に与える影響を見極める必要があります。そこで、当社としましては、まずは、金融2社の経営状況及びユニバーサルサービス確保の責務の履行への影響が軽微と考えられる、当社の保有割合が50%程度となるまで、段階的に売却を進めることとしております。なお、金融2社株式の2分の1以上を処分することにより、郵政民営化法により課せられている新規業務に係る規制が認可制から届出制へと緩和されることになります。
なお、政府も当社株式の売却収入を東日本大震災に係る復興債の償還費用の財源に充てることを目的として、当社株式の売却を段階的に進めていくことが予想されますが、当社及び金融2社の企業規模に鑑みれば、3社の時価総額は相当程度の規模になることが想定されるため、3社の株式を短期間で大規模に売却することは、株式市場の需給の観点からは容易ではないと考えられます。従って、当社としましては、金融2社株式をいつまでに売却するかを明確に示すことはできませんが、株式市場の動向等の条件が許す限り、まずは、保有割合が50%程度となるまで、段階的に売却を進めてまいります。
金融2社株式の売却に伴う手取金については、上場時の売却においては、その売却手取金を2015年12月に実施した自己株式の取得の資金に充てましたが、今後の売却においては、その売却手取金を適切な投資機会に対して投下し、企業価値の向上を図るとともに、必要に応じ、自己株式の取得を行うことにより資本効率の維持・向上を図ります。
金融2社株式の売却を見据えた事業ポートフォリオ移行手段として、当社グループ・グループ各社の企業価値向上に資する幅広い分野での資本提携やM&Aも、投資判断基準等に照らして慎重に検討し、適切と判断したものを実施してまいります。
今後も、当社グループの企業価値向上を目指し、中期経営計画を踏まえたグループ各社の収益力強化策やさらなる経営効率化を図るとともに、不動産事業など、新たな収益源の確保等が着実に進展するよう、グループ運営を行ってまいります。さらに、2020年度は、グループ全体に係る将来の事業方針や成長戦略を踏まえ、次期中期経営計画の策定に向けて検討を進めてまいります。
あわせて、当社グループが抱える経営課題については、持株会社として、グループ各社と連携を深めながら必要な支援を行い、その解消に努めてまいります。
まずは、業務の適正を確保するため、コーポレートガバナンスのさらなる強化に向け、引き続き、グループ全体の内部統制の強化を推進し、コンプライアンス水準の向上を重点課題として、グループ各社に必要となる支援・指導を行います。特に、かんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題を踏まえ、業務改善計画に掲げた施策に取り組み、適正な事業運営に向けて、お客さま本位の業務運営の徹底に努めてまいります。また、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策等についても、最重要課題の一つとして取組みを一層推進・管理してまいります。
当社は、日本郵便、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命保険の経営の基本方針の策定及び実施の確保並びに株主としての権利の行使を行うとともに、グループ各社が個別に実施するよりもグループ内で1カ所に集約したほうが効率的な実施が見込まれる間接業務を事業子会社等から受託して実施することにより事業子会社等の業務を支援するほか、病院及び宿泊施設の運営等を行うことにより、郵政ネットワークの安心、信頼を礎として、民間企業としての創造性、効率性を最大限発揮しつつ、お客さま本位のサービスを提供し、地域のお客さまの生活を支援し、お客さまと社員の幸せを目指します。
あわせて経営の透明性を自ら求め、規律を守り、社会と地域の発展に貢献できるよう努めていくことを基本として会社経営を行っていきます。なお、その業務の運営に当たっては、日本郵政株式会社法第5条第1項に規定される、郵便の役務、簡易な貯蓄、送金及び債権債務の決済の役務並びに簡易に利用できる生命保険の役務を利用者本位の簡便な方法により郵便局で一体的にかつあまねく全国において公平に利用できるようにする責務を果たすとともに、地域社会に貢献すべく、郵便局ネットワークの一層の活用を図ってまいります。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大防止、業務・サービスの継続等のため、必要な取組みを続け、厚生労働省から委託を受けた日本郵便によるマスクの全戸配達等を通じ、コロナ禍の早期収束に少しでも貢献してまいります。自然災害の発生等の危機に対しては、危機管理態勢を整備するとともに、危機発生時には迅速かつ的確な対応を行い、業務継続の確保に努めます。
高まるサイバー攻撃のリスクに対しては、グループ全体のサイバーセキュリティ対策の高度化及び情報共有による対応力の強化に取り組みます。
引き続き、グループ各社が提供するサービスの公益性・公共性の確保や、お客さま満足度の向上に取り組みます。
また、国連で採択された国際目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」を踏まえ、ESG(環境、社会、ガバナンス)に関する取組みをグループ全体として推進し、企業価値の向上につなげてまいります。
このほか、人的依存度の高いサービスを提供する当社グループにとって、人材は最も重要な経営資源との認識に立ち、お客さまへの総合的なコンサルティングサービス向上に向けた研修等の人材育成、ワーク・ライフ・バランスの確保を目指す働き方改革や社員の多様な能力・個性を活かすダイバーシティ・マネジメントの推進に取り組んでまいります。
(4) かんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題について
「ご契約調査の状況」
当連結会計年度においてかんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題が判明いたしました。
そのため当社グループは、お客さまが保障内容の見直しをされる際の保険契約の乗換において、お客さまのご意向に沿わず不利益が発生した可能性が特定可能な類型のご契約について、ご契約時の状況等をご確認するための調査を、書面、お電話、ご訪問等を通じて行いました(特定事案調査)。また、全てのご契約について、お客さまのご意向に沿わず不利益を生じさせたものがないかを確認するための書面調査を行いました(全ご契約調査)。
特定事案調査では、対象のお客さまに、ご契約時の状況や契約復元等のご意向確認を実施し、お客さまの不利益の解消を優先して、お手続きを進めさせていただくとともに、ご契約時の状況に関する調査等の確認結果に基づき、当該保険契約を受理した募集人への調査(募集人調査)を行いました。全ご契約調査では、ご加入いただいているご契約がご意向に沿うものであるかのほか、ご要望やご意見をお聞きし、お申し出の内容に応じて必要な対応や調査を行いました。
郵便局及びかんぽ生命保険支店においては、2019年7月以降、かんぽ生命保険商品の積極的なご提案を控えることとし、これらの調査に係るお客さま対応に最優先で取り組みました。その結果、特定事案調査(対象となるお客さま数15.6万人)におけるお客さま対応については、お客さま都合によるもの等を除いて、2020年3月末に完了しております。また、全ご契約調査についても、お客さま約1,900万人に対してご契約内容の確認を実施し、約101万通の回答をいただきましたが、お客さま都合によるもの等を除いて、同年3月末にお客さま対応が完了しております。
特定事案調査における募集人調査については、当該募集人が病気休暇中等の理由により調査不能となっている事案を除き、同年4月末でほぼ判定が終了しており、募集人処分を進めています。法令違反・社内ルール違反に該当した募集人のうち、現時点で業務廃止と判定されていない募集人に対する研修を実施しています。全ご契約調査については、ご契約内容の説明、住所変更などの各種手続きのご要望や感謝・激励のお声のほか、苦情やお叱りなど多数のご意見をいただいておりますが、このうち法令違反や社内ルール違反の可能性を確認しているご契約等について、募集人調査やお客さまの利益回復に向けた対応を実施しております。
また、全ご契約調査等でお客さまからいただいたご回答・ご意見等の中から、多数回にわたって契約の消滅・新規契約が繰り返され、お客さまのご意向に沿ったものではない可能性がある事例を把握しました。そのため、同年2月より、こうしたご契約について募集状況等の調査を行い、不利益が発生しているお客さまについてはその解消を図るため、全ご契約調査の更なる深掘調査を、優先順位の高いものから順次実施しております。本深掘調査については、ご契約内容の確認を同年6月末を目処に進める予定ですが、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、計画が遅れる可能性があります。なお、昨年より実施している多数回にわたって契約の消滅・新規契約が繰り返されているご契約の調査について、4月13日において、75人の募集人に対して業務廃止処分を実施し、2人に対して研修を所定の期間行った後に厳重注意処分を実施する予定となっております。
上記の調査対象以外についても、お客さまへの訪問活動等を通じてお客さまのご意見・ご要望を丁寧にお聞きし、お客さまのご意向に沿わず不利益が生じている場合には、誠実にその解消を図るなど、ご契約内容の確認等を継続して行ってまいります。
「特別調査委員会による調査」
契約乗換に係る事案の判明を受け、当社は日本郵便、かんぽ生命保険とともに、本事案の徹底解明と原因究明を中立・公正な外部専門家に委ねるため、3社と利害関係を有しない弁護士から構成される特別調査委員会を設置いたしました。本委員会からは、2019年9月30日付で「調査の現状及び今後の方針の概要について」、2019年12月18日付で「調査報告書」、2020年3月26日付で「追加報告書」を受領しております。
本委員会による調査は、2020年3月末をもって完了しておりますが、本委員会からいただいた改善策の提言を真摯に受け止め、対応してまいります。
「JP改革実行委員会による改善策の検証」
当社は日本郵便、かんぽ生命保険とともに、外部専門家の方々に公正・中立な立場から各種アドバイスをいただくため、JP改革実行委員会を設置いたしました。本委員会は、特別調査委員会提言事項に対する進捗状況の確認や、当社グループが実施する各種取組みの有効性や十分性についての検証等を実施していただくこととしております。
「当局による行政処分」
2019年12月27日、当社は、総務大臣より日本郵政株式会社法第13条第2項に基づく業務改善命令、金融庁より保険業法第271条の29第1項に基づく業務改善命令を、日本郵便は、総務大臣より日本郵便株式会社法第15条第2項に基づく業務停止命令及び業務改善命令、金融庁より保険業法第307条第1項及び第306条に基づく業務停止命令及び業務改善命令を、かんぽ生命保険は、金融庁より保険業法第132条第1項に基づく業務停止命令及び業務改善命令を受けました。2019年7月以降、郵便局及びかんぽ生命保険の支店からの積極的なかんぽ生命保険商品のご提案を控えてまいりましたが、当該業務停止命令により、2020年1月1日から同年3月31日までの間には、かんぽ生命保険商品に係る保険募集及び保険契約の締結を停止いたしました。また、当該業務改善命令を受けて、2020年1月31日付で、当社及び日本郵便は業務改善計画を総務大臣及び金融庁に、かんぽ生命保険は業務改善計画を金融庁に提出いたしました。引き続き、当該業務改善計画の実行を経営の最重要課題として位置づけ、適切な業務運営を確保し、保険契約者の保護を図るための施策の実行に全力で取り組んでまいります。
「業務改善計画の進捗状況」
〇 かんぽ生命保険の主な対策の進捗状況
① 適正な営業推進態勢の確立(乗換を助長しない、かつ実態に即した営業目標の策定を含む)
a. 適正な営業目標の設定
(a) 営業の実力に見合った営業目標の設定と配算方法の見直し
2020年度は営業目標の設定を行わないことを決定しました。
2021年度以降に営業目標を設定する場合においては、生命保険マーケット等の見通しを踏まえ、現場の営業力に不適切な募集が含まれていないかを確認することのほか、当年度と次年度の各種施策の変化要素にコンサルタント数の増減の影響を加えた上で算出するとともに、適正な募集品質に基づく営業力で達成できるものになっているか等、営業部門・経営企画部門のほか、募集管理部門との間で協議のうえ、決定します。
また、営業目標の日本郵便の各支社及び各郵便局への配算に際しては、営業目標の水準の適正化と合わせて、適切に実施できているか日本郵便の取組みの確認を行います。
(b) 販売額(フロー)を重視した営業目標から、保有契約(ストック)を重視した営業目標への見直し等
2021年度以降に営業目標を設定する場合においては、これまでの新契約月額保険料実績に偏重した目標管理等を改め、新契約と契約継続の両方を同じ重要度で評価できるよう、新契約と消滅契約(解約等)の月額保険料を差し引きしたストックを重視した目標に改めます。
また、3年間消滅率を目標化するとともに、純新規の契約者数及び青壮年の契約者数についても指標化し、青壮年層に重点を置いた営業活動に移行します。
(c) 人事評価の見直し
営業推進と募集品質の人事評価項目を一本化することにより、募集品質の確保を前提とした営業推進を評価する内容に見直すこととしました。
b. 契約乗換への対策
(a) 契約乗換の販売実績不計上・手当不支給
契約乗換については販売実績の計上を行わないとしたことに加え、2020年4月に手当(通常の契約の二分の一支給)も不支給とする見直しを実施しました。
(b) 契約乗換潜脱の防止
契約乗換の判定期間を拡大するとともに(新規契約の契約日前3か月・後6か月→前12か月・後13か月)、判定期間に近接する契約についてはアラート表示を行い、確認するためのシステム改正を実施しました。
c. 高齢者募集への対策
満70歳以上のお客さまについては、原則、募集人からの勧奨を停止しております。お客さまのご意向によりお申込みをいただく場合には、必ずご家族等の同席又はご家族等への事前のご説明を実施しておりますが、満80歳以上のお客さまからのお申込みの受付時に被保険者さまから事前同意をいただく取扱いを満70歳以上のお客さまに拡大しました。
d. お客さまの保障ニーズに応えるための商品開発
多様な保険商品の開発が出来ていない中、低金利環境下で、商品魅力が低下している養老保険・年金保険等の貯蓄性の高い商品が主力となっていたことを踏まえ、青壮年層を含めたお客さまの保障ニーズに応えるための商品の開発を目指します。
② コンプライアンス・顧客保護を重視する健全な組織風土の醸成(適切な募集方針の策定・浸透や職員及び募集人に対する研修を含む)
a. 適切な募集方針の策定・浸透
(a) お客さま本位の理念に基づいた行動規範の策定
生命保険本来の役割・使命を踏まえた高い倫理観に基づき保障を提供するというプリンシプルベースの基本的な行動の実践を徹底するため、2020年2月の取締役会においてお客さま本位の理念を反映させた勧誘方針を決議しました。
また、Webサイトへの掲載を通じて、お客さまに対して勧誘方針を公表しました。
(b) 「かんぽ営業スタンダード」の策定
お客さま本位の理念を反映させた勧誘方針に基づくかんぽ営業の行動原則を「かんぽ営業スタンダード」として定義するとともに、これを具体化した研修資料を2020年2月に作成しました。
この「かんぽ営業スタンダード」に基づき、お客さまの将来への不安や保険のご加入状況等を踏まえた真のニーズを的確に把握したうえで商品提案を行うための「ご意向お伺いシート」の作成及び同シートを活用した具体的なご意向確認方法を導入しました。
b. 募集人等に対する研修
「かんぽ営業スタンダード」の意義や基本的な考え方に関する研修を2020年2月21日から開始しました。(2020年3月末までにかんぽ生命保険及び日本郵便の全募集人等に対して実施済)
なお、引き続き各種研修を通じて、「かんぽ営業スタンダード」の確実な定着を図っていきます。
c. 社員の声の把握の充実
既に、かんぽ生命保険社員から同社社長への直接提案制度について実施しております。社員の声を踏まえ、本社からの情報発信の強化、現場志向を高める人事制度の導入、社員の声に迅速に対応する態勢の整備等についての検討を進めています。
また、上記の提案制度に加え、かんぽ生命保険経営陣が各支店等を訪問し、現場の社員の声を直接聞く「役員ダイアログ(対話)」を実施しております。(新型コロナウイルス感染症の感染状況を踏まえ、Web会議方式で一部実施)
③ 適正な募集管理態勢の確立(代理店に対する十分なけん制機能の構築を含む)
a. お申込みから契約締結までの重層的なチェックの実施
外形上、募集品質に懸念のある申込みについては、既に導入している「募集事前チェック機能」の対象を拡大するとともに、郵便局管理者及びかんぽ生命保険の専用コールセンターによるお客さまへのご意向確認に加え、引受審査時のかんぽ生命保険のサービスセンターによる重層的なご意向確認を行っております。
また、お客さまのご自宅等での解約請求の際には、郵便局管理社員による説明・確認に加え、かんぽ生命保険の専用コールセンターからお客さまに意向確認や不利益事項のご説明の有無の確認を行っております。
さらに今後は、解約手続きを原則郵便局の窓口のみで実施することの検討のほか、解約等請求時のサービスレベル低下の回避策として、ダイレクトチャネルでの解約等受付についても検討します。
b. 適正な募集管理に向けた態勢の強化
(a) かんぽ生命保険の本社の機能の見直し等
従来第2線(コンプライアンス部門・募集管理部門)が担ってきた適正募集の実現に向けた企画・指導業務を第1線(営業部門)に移管することで、これまでよりも第1線が募集品質の確保を前提とした営業への責任を担うとともに、第2線が第1線の施策に対する検証業務に注力することで、適切な相互けん制の下、お客さま本位に立脚した施策の立案が可能となる態勢を構築しました。
また、不適正募集等に対する調査業務の指揮命令機能をコンプライアンス調査室(新設)に集約することで調査機能を強化しました。
上記のほか、本社の募集管理部門、コンプライアンス部門及び苦情対応部門等の体制を引き続き強化していきます。
(b) かんぽ生命保険の支店等の機能の見直し
営業推進に注力した代理店支援から、募集品質の確保を前提とした代理店支援・指導へ見直し、募集態様調査及び適正募集指導に係る体制を強化します。
(c) お客さま情報の高度化
かんぽ生命保険の支店及び郵便局において、お客さまからお申込みをいただいた際に、お客さまの過去の契約の加入・消滅履歴等をシステム上、簡易に把握できる仕組みを設け、募集品質管理に活用できる態勢を整備します。
この一環として、2020年4月には、郵便局等におけるお客さまの契約の消滅履歴の確認範囲を過去3か月から過去24か月に拡大しました。
c. 条件付解約等制度・契約転換制度の導入
保障の見直しをお客さま本位で実現できる制度として、条件付解約等制度の導入を実施しました。
また、既契約の解約を伴わない契約転換制度の導入に向けたシステム開発に着手するなど具体的検討を進めております。
d. 募集状況の録音・録画・保管
募集時において、コンサルタントの携帯端末機で募集状況を録音・保管することにより、募集状況の可視化を図り、お客さまから苦情があった場合に、お客さまのご意向に沿ったご提案ができていたかを確認できる仕組みの構築に向けて、2020年3月2日から試行を開始するとともに、4月20日からは試行範囲をさらに拡大しております。
e. 苦情等からの潜在的問題の把握
募集態様に問題が疑われる苦情を高いリスク感度を持って検知し、各担当部署の役割分担を明確にしたうえで、入口から出口まで責任を持って、フォローを行う態勢を引き続き強化していきます。
f. 募集チェック態勢の検証
不適正募集の未然防止及び早期発見の観点から、第2線において、業務改善計画に基づき実施された募集チェック態勢の効果検証を実施し、その有効性を確認するとともに、第1線に対する更なる改善提言を実施していきます。
④ 上記を着実に実行し、定着を図るためのガバナンスの抜本的な強化
a. 募集状況等の実態把握の強化及びPDCAサイクルの徹底
(a) 社内外のリスク情報の把握・分析
お客さまからの苦情、社員の声、経営データ等様々な情報をシステム等を活用しながらリスク感度を上げて、把握・分析するための専任チームを設置しており、今後具体的な分析手法を確立するためのトライアル(苦情や社員の声の分析)を実施しております。
(b) 問題を検知した事象に対する同種同構造の事案の網羅的な横展開調査
重大なリスクの検知に漏れがないように、問題を検知した事象に対して個別的に対応するのみならず、あらゆる不適正募集の端緒を収集・分析し、同種同構造の事案を検知した場合には、能動的に調査を行うこととしております。なお、上記のプロセスと役割分担を明確化し、取組みを開始しております。
(c) PDCAサイクルの徹底
改善策の検討に当たっては、真因分析を行った上で、改善策の優先順位を含め、経営陣での深度ある議論を行い、募集品質向上に向けた改善策の効果検証・見直しのサイクルについてスピード感をもって徹底する態勢を整備します。
当面は今般の業務改善計画等における適正な募集管理態勢確立のための各種改善策の効果検証を実施しております。
b. 内部統制の強化
(a) 取締役会等のガバナンス機能強化
イ. 取締役会における「審議」の新設等
経営課題を前広に議論するため、従来の「決議」、「報告」に加え、決議案の作成段階から社外取締役の知見を活用する「審議」の新設を2020年3月の取締役会において決議しました。
また、取締役会の臨時開催のほか、積極的な意見交換を目的とした取締役懇談会や社外取締役間会合を開催し、内部統制システムの運用状況や2019年度の取締役会の実効性評価について議論しました。
ロ. 監査委員会の機能強化
ⅰ 内部監査計画の決定・変更および内部監査部門の重要人事(担当執行役・部長)については、監査委員会の事前同意を必要とすることと改めるための規程改正を2020年3月に実施し、同年4月から当該規程に基づく運用を実施しております。
ⅱ 監査委員会として、募集態様の実態やお客さまに生じている不利益事項に踏み込んだ報告を受けたうえで、検証のための調査を指示し、調査結果をもとに担当執行役に対して必要な助言等を行う体制を整備しております。2020年2月の監査委員会においては、内部監査担当執行役から調査報告を受け、報告内容をもとに協議を実施しました。
(b) 内部監査
内部監査の人材・体制を強化するほか、リスクアセスメントの強化などにより実効的な監査に向けて外部の専門家の協力を得られるよう準備を行っております。
〇 日本郵便の主な対策の進捗状況
① 営業推進管理の仕組みの見直し(営業目標、営業手当体系等)
a. 営業目標の設定方針
お客さまからの信頼回復に向けた活動に、最優先に取り組むため、2020年度は営業目標を設定しないことを決定しました。
なお、営業目標は設定しないものの、販売額(フロー)を重視した営業活動から保有契約(ストック)を重視した営業活動に移行します。
また、青壮年層や郵便局を利用されていないお客さまとの関係構築にも取り組みます。
さらに、募集品質の指標を設定しました。
b. 組織業績評価
2020年度の組織業績評価では「募集品質」を独立した項目として新設し、不祥事故および無効・合意解除案件といった項目も対象にしました。
c. 営業手当
個人契約の契約乗換についての手当支給等の見直し及びコンサルタントへの営業手当の支給水準(基本給と手当の割合)の見直しを、2020年4月に実施しました。
② 募集管理態勢の確立
a. 不適正募集等の抑制の仕組み・対応
(a) 多数契約及び意向把握不十分な契約
イ. 外形上、品質に懸念のある申込みについて、郵便局管理者によるお客さまのご意向確認に加え、かんぽ生命保険の専用コールセンターによる重層的なご意向確認(契約者が満70歳以上の場合は、ご家族等に対しても確認します。)を行っています。
ロ. 解約請求の際には、郵便局社員によるご意向確認及び不利益事項のご説明を実施しています。また、局外での受け付けの際は、郵便局管理者が対応した上で、かんぽ生命保険の専用コールセンターからお客さまにご意向確認及び不利益事項のご説明の有無の確認を実施しています。
ハ. お客さまのご希望による乗換の場合、新規契約の締結後に既契約を解約する条件付解約等制度を実施しています。
ニ. 募集時に、コンサルタントの携帯端末機で募集状況を録音・保管することにより、募集状況の可視化を図り、お客さまから苦情があった場合に、お客さまのご意向に沿ったご提案ができていたかを確認できる仕組みを2020年3月2日から試行実施しています。
ホ. 満70歳以上の契約者からの契約申込みにおいて契約者と被保険者が別人の場合は、事前に有効な同意をいただけることを確認する取扱いを2020年4月から実施しています。
ヘ. 既契約の解約を伴わない転換制度の早期導入に向け、かんぽ生命保険が作成する約款及びマニュアルを踏まえ、事務フローを調整します。
(b) 高齢者募集等への対策
満70歳以上の方から契約の申込みをいただいた場合は、募集人に加えかんぽ生命保険の専用コールセンターがご家族等に対して契約申込みに同意いただけることを確認する取扱いを行っています。
また、配布教材「正しく知ろう認知症」を活用した研修を2020年1月から2月に実施しました。
b. 懲戒処分運用
特定事案調査等の非違者および関係者に関する処分について準備を進めています。
c. 苦情等管理態勢
かんぽ生命保険のコールセンターが受け付けた「お客さまの声」を含めた全ての苦情等のデータ提供を受けて、不適正募集につながる行為等に関する苦情の背景・原因を分析し、苦情事例、取組等の対応状況を経営会議および取締役会に報告しています。
③ ガバナンスの強化
a. 取締役会等の機能発揮
(a) 代表取締役社長を本部長とする金融ビジネス緊急対策本部を設置し、募集品質に関する重要事項、取組の進捗等を協議しています。
(b) 取締役会については、定例開催のほか、かんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題に関しては臨時でも開催し、機動的かつ重点的に議論をしています。
(c) 監査役会でもかんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題に関する報告を行い、必要に応じて助言がなされ、監査役間でも議論をしています。
(d) コンプライアンス委員会等の協議のうち、お客さまの不利益につながるおそれがある募集実態等、重要な募集品質問題については、取締役会、経営会議または監査役会に付議し、深みのある議論をしています。
b. コンプライアンス委員会等
(a) 募集品質向上に向けた取組等や課題を報告・議論する会議体である「適正募集の推進検討会議」を2020年1月に新設し、関係各部が連携して募集管理について議論し、経営判断に寄与する実効的プロセスを担保しています。
(b) 「適正募集の推進検討会議」の議論のうちコンプライアンスに関する重要案件については、コンプライアンス委員会に付議し、適正募集の推進検討会議の結果は、経営会議等で経営陣に報告しました。
c. 三つの防衛線管理
(a) 第1線について
イ. 2019年9月以降、契約内容及び募集行為の適切性・妥当性の検証プロセスを強化しており、今後も取組みの徹底を図ります。
ⅰ 保険募集管理態勢の強化を図るため、金融渉外業務を担当する管理者に加え、窓口業務を担当する管理者についても、募集品質改善責任者として指定しました。
ⅱ かんぽ契約の過去の消滅状況等、お客さま情報を高度化して一元管理できる仕組みを2020年4月から導入しました。
ⅲ 乗換潜脱の防止を強化するため、2020年4月から乗換判定期間を拡大しました。
ロ.営業活動記録簿について、社員の記載を必須とする項目を追加し、記載ルールを明確化するとともに、管理者の確認項目を明確化し、募集品質面に留意した管理機能を強化しています。
(b) 第2線について
イ.募集品質改善のため、支社での保険募集管理態勢の強化に向けて、募集品質指導専門役及び支社金融業務部の体制に関する組織の改正を2020年4月に実施しました。
ロ.営業目標の設定方針について、支社による上乗せ不可等、過剰な目標とならないようにするなど、募集品質改善担当部署も参加し、確認しました。
ハ.地方検査室社員による全郵便局における保険募集品質の管理体制の検証を継続実施しています。
ニ.募集品質上の課題については、かんぽ生命保険から提供を受ける募集品質データの分析精度を高め、要因分析に基づく対応策等を関係の会議体に付議し、施策の実施可否、効果検証等を行っています。
(c) 第3線について
イ.監査部では、要員又はリスク分析担当の配置等、監査体制の充実に向け、内部監査職等を配置する組織改正を2020年4月に実施しました。
ロ.郵便局の実態がわかるよう事前アンケートの実施等でヒアリングの充実を図り、情報収集を強化するとともに、かんぽ生命保険商品の募集に特化したテーマ監査を実施しています。
④ お客さま本位の組織風土の醸成(人事評価、表彰制度、研修等)
a. お客さま本位の徹底に向けたマネジメント・育成
(a) 募集の基本方針(販売・サービス方針、お客さま本位の業務運営に関する基本方針)を2020年4月に見直しました。
(b) お客さまの将来のライフプランに寄り添い、その目的に合った商品およびサービスを幅広く提供できるよう、募集品質の向上、業務知識強化、コミュニケーションスキル向上等、お客さま本位の営業活動及び総合的なコンサルティングサービスに寄与する各種研修を実施しています。
(c) 管理者に対する研修体系・研修内容を策定しました。
営業推進管理に偏ったマネジメントから脱却するために、新たなマネジメントのあり方、コーチングを取り入れた管理・指導手法を習得する研修を進めます。
(d) 社員による研修に対する意見又は問題ある研修を報告により直接伝える仕組みの導入により、不適切な研修等の是正に取り組んでいきます。
イ. 社員が研修に関して、社内ポータルサイトを活用し本社に直接意見を伝えることのできる仕組みを2020年3月に導入しました。
ロ. 社員が要望する研修内容を会社が企画し、社員自らの意思による参加型の研修機会を提供する仕組みを2020年4月に導入しました。
(e) 2020年4月から総合的なコンサルティングサービスを指導できる指導者として、コンサルティング・アドバイザーを設置し、郵便局社員への指導方法を見直しました。
また、営業力養成センターを「コンサル育成センター」に改称し、本社直轄とする組織改正を2020年4月に実施しました。
(f) 郵便局の金融渉外部を「金融コンサルティング部」に改称のうえ、新たに支社に「金融コンサルティング統括本部」を設置し、お客さま本位のマネジメント体制に見直す組織改正を2020年4月に実施しました。
b. インセンティブ施策
(a) 2020年度は営業目標を設定しないため、2020年度実績に基づく2021年度の営業選奨は実施しないこととしました。
(b) 2020年度はインセンティブを実施しないこととしました。
c. 人事評価と処遇
窓口、コンサルタント等の人事評価についても、募集品質の評価項目及び評価基準を2020年4月から新設しました。
d. 真の情報共有
(a) 日本郵政に新たに設置された金融営業専用の社外通報窓口の社員周知及び認識の徹底に向け、研修を行いました。
(b) 募集品質の実態把握については、2020年1月に新設した「適正募集の推進検討会議」で、募集品質改善についての取組等の議論を行いました。コンプライアンスに関する重要案件はコンプライアンス委員会に付議し、適正募集の推進検討会議の結果は、経営会議等で経営陣に報告しました。
〇 当社の主な対策の進捗状況
① ガバナンス機能の発揮
a. 連絡会の新設・充実
新設したグループコンプライアンス委員会等の各種委員会、連絡会については、引き続き開催し、その状況を経営会議等へ報告しました。
b. 「グループ運営会議」の強化
かんぽ契約問題、2020年度経営計画、新型コロナウイルス感染症への対応等、グループの重要課題に関して議論しました。
② グループコンプライアンス機能の強化
a. 内部通報窓口の情報共有
内部通報窓口の利用状況について、引き続き、とりまとめを実施し、グループコンプライアンス委員会へ報告することで、各社間との情報共有を実施しました。
b. 金融営業専用の社外通報窓口の新設
グループ各社と調整のうえ、2020年3月23日に「不適正金融営業通報窓口」を新設し、運用を開始しました。
c. 「日本郵政グループ社員 業務相談窓口」の新設
2020年2月25日に新設した「日本郵政グループ社員 業務相談窓口」については、寄せられた相談に適切に対応するとともに、相談状況を各種会議等へ報告しました。
d. 営業・業務に関する機能の強化
各事業子会社の営業・業務面に関する課題事項・懸案事項等を経営会議、取締役会へ報告しました。
③ 監査部門の機能の強化
a. 事業子会社へのオンサイトモニタリングの実施
郵便局等に対するオンサイトモニタリングについて、2020年度は5月以降の実施を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により7月以降に延期しています。
b. グループ内部監査連絡会議等の充実
2019年度の郵便局等へのオンサイトモニタリング結果等について、取りまとめたうえ、グループ内部監査連絡会議等へ報告しました。
④ 経営理念を浸透させるための態勢整備及び各種施策を着実に実行させるためのガバナンスの抜本的な強化
a. トップメッセージの発出
営業再開時に、「お客さま本位の業務運営」の重要性について、全社員に対してトップメッセージを発出するため、適切なメッセージの発出方法を検討し、有効性等について協議しました。
b. 改善策の進捗管理及びお客さま本位の業務運営の実現に向けた取組
2020年4月2日に外部の有識者で構成する「JP改革実行委員会」を設置し、5月末までに2回の会合を実施しました。当社グループの改善策の進捗状況についてご確認いただくとともに、お客さま本位の業務運営に向けた各施策等を報告しました。
c. 経営理念の浸透のための取組み
当社グループタスクフォースメンバーによる会合において、適切な経営理念の浸透方法について協議し、その結果を「JP改革実行委員会」へ報告しました。
(5) 対処すべき課題
各事業セグメント別の対処すべき課題は、以下のとおりであります。
① 郵便・物流事業
日本郵便の郵便・物流事業において、郵便物の減少や荷物需要の増加に対応するため、以下の取組みを行います。
(a) 商品やオペレーション体系の一体的見直しとサービスの高付加価値化
引き続き、年賀状をはじめとしたスマートフォン等を使ったSNS連携サービスや手紙の楽しさを伝える活動の展開等により、郵便利用の維持を図るとともに、eコマース市場の拡大による荷物需要の増加に対応するため、個々のお客さまの課題に応える課題解決型営業を深化させるほか、物流ソリューションの拡大や差出・受取利便性を追求したサービス改善により収益の拡大を図ってまいります。
また、お客さまの利便性向上、業務効率や不在再配達率の改善に向け、置き配の普及・拡大等を進めるとともに、業務量に応じた担務別人件費・要員マネジメントの高度化を図ることにより、競争力あるオペレーションの確立を目指します。
なお、過去5事業年度の郵便、ゆうメール、ゆうパック及びゆうパケットの取扱物数の推移は以下のとおりとなります。
(単位:百万通・百万個)
2016年3月期2017年3月期2018年3月期2019年3月期2020年3月期
郵便18,03017,73017,22216,78116,350
ゆうメール3,4163,4983,6373,6503,569
ゆうパック
(含 ゆうパケット)
636697876942974
(再掲)
ゆうパケット
123176261357428

(注) ゆうメールに含めていたゆうパケットの物数については、2016年10月より、ゆうパックに含めて表示する方法に変更しました。これに伴い、2016年3月期及び2017年3月期については全ての期間の物数に当該変更を反映しております。
(b) 先端技術の積極的な活用による利便性・生産性向上
先端技術の活用によってオペレーション体系を見直し、生産性を向上させていくため、テレマティクス(移動体通信システムを利用したサービス)を活用した安全推進・業務適正化、区画・道順の見直しや、スマートフォンアプリを活用したゆうパック等の集配業務の効率化を進め、また、音声認識AIを活用した再配達依頼受付の本格展開に取り組むとともに、ドローンや配送ロボット等の配送高度化についても、将来的な実用化に向けて、試行・実験を進めてまいります。
さらに、郵便窓口でのキャッシュレス決済の導入局を拡大し、お客さまの利便性向上を実現します。
また、お客さまのニーズの変化やテクノロジーの進歩に即した業務の効率化、具体的にはデジタル化した差出情報等を活用した顧客視点の商品・サービスの付加価値創出、ストックデータを活用した組織運営の変革等を実現すべく、「デジタルトランスフォーメーション」の検討・実践に向けた取組みも継続して進めてまいります。
② 金融窓口事業
日本郵便の金融窓口事業において、お客様の利便性や営業生産性、事務品質の向上のため、以下の取組みを行います。
(a) かんぽ生命保険商品の不適正募集の再発防止に向けた取組み等
グループ各社と連携し、お客さまの不利益解消に取り組むとともに、業務改善計画を着実に実行することで、再発防止に取り組み、お客さま本位の業務運営を徹底してまいります。
(b) 郵便局ネットワークの維持・強化
お客さまの需要の動向や店舗・施設の計画的な保全・更新に伴う店舗配置の見直しを行ってまいります。
郵便局の移転・建替の際には、ショッピングセンター内等、市場性の高い場所へ出店することにより、お客さまの利便性向上に取り組みます。なお、利用者層や利用サービスが特定の層や商品に限られている郵便局等については、運営形態等の見直しを進めてまいります。
また、地方公共団体や他企業と連携したサービス展開や地方創生の取組み拡大、地域ニーズに応じた多様な郵便局の展開により、郵便局ネットワークの価値向上を実現します。
具体的には、地方公共団体からの包括事務受託、地方銀行との提携、駅と郵便局との併設、コンサルティングに特化した店舗の拡大等を進め、「地域の拠点」としての郵便局の価値向上に取り組んでまいります。
③ 国際物流事業
日本郵便の国際物流事業において、トール社に対する管理を強化・徹底してまいります。
同社では、新経営陣のもと、組織・体制のスリム化、従業員の給与削減及び人員削減等のコスト削減施策の徹底、赤字が継続しており収支の大幅な改善が見込まれないロジスティクス事業米国部門の閉鎖といった不採算事業の整理や非中核資産の売却、エクスプレス事業※1における既存顧客の単価改善や拠点統廃合による業務効率化などの収益性改善等、経営改善に向けた取組みを推進するとともに、成長戦略としてアジア地域での展開拡大を目指し、グループ営業部門の人員のアジア拠点への配置を強化する等、同地域での営業強化等に取り組んでまいります。
また、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、豪州国内におけるBtoB事業※2が停滞しているほか、国際的な荷動きも低調であることから、各事業において、マイナスの影響が生じております。今後もその動向を注視し、適時適切な対応を行ってまいります。
さらに、海外のBtoB事業を中心に事業展開するトール社と、国内に顧客基盤を有する日本郵便のシナジーを強化し、コントラクトロジスティクス※3を中心に国内のBtoB事業の拡大を進め、国内外での総合物流事業展開による一貫したソリューションの提供に取り組みます。具体的には、トール社が持つノウハウを用いて、2018年10月1日に発足したJPトールロジスティクス株式会社を通じたコントラクトロジスティクスサービスを行い、一気通貫での物流サービスの提供を推進します。また、トール社のJapan Desk(日系企業営業担当チーム)を活用した日系企業への営業推進を強化します。
2020年1月と5月にトール社が標的型サイバー攻撃を受けたことから、更なるITセキュリティの強化に向けて必要な対応策を講じてまいります。
※1 エクスプレス事業とは豪州及びニュージーランド国内におけるネットワークを活用して道路、鉄道、海上及び航空貨物輸送サービスを提供する事業のことです。
※2 BtoB 事業とは、Business-to-Businessの略で、企業間の商取引、企業が企業向けに行う事業のことです。
※3 コントラクトロジスティクスとは、売買に関与しない第三者が特定の荷主顧客と契約を結び、輸送や在庫・配送業務の効率運営を図るサービスのことです。
④ 銀行業
ゆうちょ銀行において、非常に厳しい経営環境が見込まれ、金融・資本市場が動揺している中、収益の確保と経営管理態勢の強化に向け、以下の諸施策に注力します。
(a) お客さま本位の良質な金融サービスの提供
お客さま本位の業務運営のもと、お客さまのライフプランに応じたコンサルティングを確立し、お客さま一人ひとりの資産形成ニーズに対応した商品・サービスを拡充します。具体的には、資産運用コンサルタントの育成や、タブレットを活用してお客さまのニーズ把握をサポートするツールを充実するほか、2019年5月に大和証券グループとの間で合意した「投資一任サービス※」について、サービスの開始に向けた取組みを進めます。
なお、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、その影響が収束する見通しが立つまでの間は、積極的な営業活動の停止、窓口の一部縮小などの対応を行います。
また、スマートフォン決済サービス「ゆうちょPay」については、利用できる店舗の開拓、普及促進、サービス拡充等を進め、「ゆうちょ通帳アプリ」については、機能追加や普及促進に取り組みます。さらに、コールセンター等へのAI導入等のデジタル技術活用により、お客さまに応対する品質及び運営効率を向上するなど、サービスのデジタル化やデジタル技術を用いた業務の効率化により、人的資源などの経営資源をトランザクション業務(窓口等における定型業務)からコンサルティング業務等に再配分し、お客さまサービスのさらなる充実に努めます。
※ 投資一任契約に基づき、投資運用業者が、お客さまから投資判断の全部又は一部を一任されるとともに、当該投資判断に基づきお客さまのための投資を行うに必要な売買・管理等までを行うサービスです。
(b) 運用の高度化・多様化
国内の低金利環境の継続に加え、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う世界経済の急速な後退懸念等、運用を取り巻く環境は非常に厳しく、かつ不透明な状況にあります。
このため、金融市場の混乱が収束するまでの間は、ALM・運用業務について、リスク抑制的に対応することとし、混乱に収束の見通しが立った場合等は、市場動向を注視しつつ、許容されるリスクの範囲内で、追加的な収益確保に努めます。
また、財務健全性の観点から、運用の高度化・多様化に必要十分な自己資本比率を確保するとともに、市場環境の変化やポートフォリオ・商品の特性を踏まえ、リスク管理態勢を高度化します。
(c) 地域への資金の循環等
引き続き、地域金融機関との連携・協働により、地域経済の発展・成長に貢献します。
地域活性化ファンドへの出資を推し進めるとともに、ATMネットワークの活用や事務の共同化等を通じて、地域金融機関との協業関係を深めます。
地域経済活性化のさらなる貢献に向けて、案件選定・投資判断などに努めるとともに、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受ける全国の企業への資本面での支援について、検討していきます。
(d) 経営管理態勢の強化
お客さま本位の業務運営に向け、「サービス向上委員会」を中心に、全社一体となって取り組みます。また、コンプライアンスに関する指導・研修を強化し、コンプライアンス意識の更なる浸透や資産運用商品の適正な販売に引き続き努め、お客さま目線に立った適正な投資勧誘・販売プロセスを徹底します。
また、全社的なリスクアペタイト・フレームワーク※に基づく業務運営を実施し、経営管理態勢の一層の高度化を図ります。
さらに、不正なアクセスの監視や被害防止に向けた対応を行っていますが、複雑・巧妙化するサイバー攻撃に対し、最新の動向に基づいて、引き続きサイバーセキュリティ態勢を強化します。特に2021年夏に開催が延期された東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、サイバー攻撃の脅威の高まりへの対応力を一層向上させます。
加えて、国際的な責務であるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与防止対策を一層強化します。これらの取組みを通じて、社会的責任を果たします。
※ リスクアペタイト・フレームワークとは、「リスクアペタイト=中長期的かつ安定的な収益性確保、財務健全性等を図るために必要な、ゆうちょ銀行が取得すべき適切なリスクの種類や水準」の明確化・見える化を通じ、「監督(取締役会)」機能の実効性を高め、リスクガバナンスを強化する枠組みのことです。
⑤ 生命保険業
かんぽ生命保険において、かんぽ生命保険商品の不適正募集の再発防止に向けた取組み等として、グループ各社と連携し、ご契約調査、お客さまの不利益解消等に取り組むとともに、業務改善計画(健全な組織風土の醸成・適正な営業推進態勢の確立、適正な募集管理態勢の強化、取締役会等によるガバナンスの強化)を着実に実行することで、お客さま本位の業務運営の徹底に取り組んでまいります。
また、これらの改善策やお客さまにご契約内容を確認いただくフォローアップ活動等の取組みを確実に実施するとともに、事業基盤を強化し、事業の成長につなげていくため、以下の施策についても取り組んでまいります。
(a) ビジネスモデルの再構築
これまでの主要な顧客層であった女性・中高年層のお客さまとの関係をより大事に深めながら、青壮年層へのアプローチを充実させていくことで、お客さま層を拡大していけるよう検討してまいります。
また、国内における超高齢社会の進展、健康志向の高まり、ソーシャルメディアネットワーク等で繋がるコミュニケーションの多様化といった社会的な変化を踏まえ、地域に根差した対面チャネルとしての郵便局の強みを再生しつつ、健康増進サービスやデジタルマーケティング等によるお客さまサービスの充実やお客さま接点の拡大にも取り組んでまいります。
(b) 商品開発
国内における低金利環境の継続、長寿社会の到来や医療技術の高度化等を背景として、お客さまニーズが多様化していることを踏まえ、青壮年層を含めた全てのお客さまの保障ニーズにお応えできるよう、早期に商品ラインナップの拡充を目指してまいります。
(c) ICT活用によるサービス向上・事務の効率化
前述の業務改善計画に対応した各種制度の導入及びシステム開発に最優先で取り組むとともに、情報通信技術(ICT)の積極的な活用により、事務サービスの高度化によるお客さまサービスの更なる向上と、バックオフィス(サービスセンター)事務の効率化等による事務コストの削減を目指してまいります。
(d) 資産運用の多様化
国内の低金利環境の継続に加え、新型コロナウイルス感染症の拡大による実体経済への影響等から、世界景気の急速な後退が懸念される等、2020年度は非常に厳しくかつ不透明な運用環境が想定されます。
このため、市場環境を注視しつつ慎重にリスクを見極めながら、資産クラス内における投資対象拡大や投資戦略分散などを選別的に行うこととし、迅速な意思決定と適切なオペレーションに取り組みます。
今後もERM※の枠組みの下、財務の健全性を十分に確保しつつ、多様化した運用の深化等による運用収益の拡大や金利リスクコントロール手法の高度化等により、リスク対比リターンの向上を目指してまいります。
※ERMとは、Enterprise Risk Managementの略語で、会社が直面するリスクに関して潜在的に重要なリスクを含めて総体的に捉え、会社全体の自己資本などと比較・対照することによって、事業全体として行うリスク管理のことです。
(参考)
過去の新契約、保有契約の件数の推移は下記のようになります。
(単位:万件)
契約の種類2016年3月期2017年3月期2018年3月期2019年3月期2020年3月期
新契約(個人保険)23924417317164
簡易生命保険1,6971,4411,2481,104990
かんぽ生命保険1,5351,7151,7921,8091,716

(注) 2007年10月1日の民営化時の簡易生命保険契約は5,517万件でした。