有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2019/06/28 15:00
【資料】
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【項目】
97項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針等
(i)経営方針
当社は、「「場の発明」を通じて欲しい未来をつくる。」をミッションに掲げ、「実空間と情報空間を横断した場づくりを実践する場の発明カンパニー」として、デザイン×ビジネス×テクノロジーの融合を強みとし、主に生活領域の社会課題を解決することで、これまで生み出せなかった新たな価値をつくり社会に届けていくことを目指しています。
(ⅱ)事業アプローチ
当社は、主に生活領域の社会変化の兆しに着目し「デザイン×ビジネス×テクノロジー」の融合により、これまで生み出せなかった価値を社会に届けていくことを目指しています。そのため、事業づくりにおいても、従来の競争型のアプローチではなく、異なる領域を“和える”編集型のアプローチにより産業を再定義していく独自の手法で事業創造を行っていきたいと考えています。
競争型のアプローチ編集型のアプローチ
基本的な戦略競争優位の確立による
シェア拡大・維持
産業の再編集による
市場創出
競争優位の源泉機能やコスト面での優位性一貫した世界観の確立による
高いエンゲージメント
重視する顧客価値経済価値・スペック感情価値・体験
オペレーションのつくり方競争優位につながる
特定機能に特化し秀でる
デザイン、テクノロジーを活用し
高度なオペレーションの統合を実現
組織のつくり方特定機能の効率的な実践が
可能な統制された組織
多様な職能が共存し
共創を行う組織

(ⅲ)共創型ワークスタイルの実践
事業プロデュース、広告クリエイティブ、不動産流通、建築・空間設計、メディア運営、編集、コミュニティマネジメント、イベントプランニング、そしてITエンジニアリングに至るまで、多様な職能のメンバーがツクルバに集っています。それぞれが自分の「色」を持ちながら、所属を超えて混ざり合い、「新たな色」を生み出す共創型ワークスタイルを実践することで、デザイン×ビジネス×テクノロジーの融合を実現しています。
(2) 経営戦略等
当社は、主力事業であるcowcamo(カウカモ)事業のサービス改善および組織体制の強化により事業規模を拡大させていくとともに、シェアードワークプレイス事業において複数の新規事業を創造することによるさらなる成長を実現させてまいります。両事業における具体的な経営戦略につきましては、以下のとおりとなります。
(i)統合型の住宅流通プラットフォーム「cowcamo」の確立・拡大
① cowcamoが目指す流通構造の改革
(a)中古住宅流通のバリューチェーンをテクノロジーで統合
中古住宅に関する既存の流通構造では、再販事業者が売主から物件を買取り、リノベーションを施して再販する「買取/企画開発」のプロセス、不動産ポータルサイトの運営事業者が物件情報を掲載する「情報流通」のプロセス、不動産売買仲介事業者を通じて買主が中古住宅を購入する「不動産流通」のプロセスが、いずれも別個の事業者に分散して行われています。当社のcowcamoでは、リノベーションマンションの企画開発、情報流通、不動産流通の一連のプロセスをテクノロジーで統合することにより、一貫した顧客体験と業務の生産性向上の両立を図っております。
(b)徹底的なユーザー視点で住宅購入の体験を革新
当事業では、テクノロジーを用いたメディアサービス及びエージェントサービスの統合により、ソーシャルメディア等のチャネルに特化した物件との出会いの体験、独自に撮影した画像や取材記事を中心としたコンテンツ型メディアを通じた物件選びの体験、当社エージェントとのコミュニケーションをオンラインチャット上で行うことによる物件購入の体験等、住まい探しの初期段階から購入までの一連の顧客体験すべてをデザインする事で、住宅購入に関する顧客体験の刷新を図っております。
② 独自のポジショニング
当社は、cowcamo(カウカモ)事業において、情報解析等のテクノロジーによって、従来は独立に存在していた不動産ポータル、仲介業ならびに不動産事業者支援サービスを統合した新しいプラットフォームを確立・拡大したいと考えております。

日本の住宅流通領域におけるサービスは、Web業界を出自とする不動産ポータル事業者、不動産業界を出自とする仲介事業者、またシステム・ソフトウエア業界を出自とする不動産事業者向けシステムの提供など、事業体の出自により、それぞれが独立に事業・サービスを提供し、分散されてきたものと考えております。しかしながら、当社が市場機会として着目するリノベーションマンションの流通におきましては、物件の固有性と多様化する顧客ニーズを適切にマッチングさせた上で、顧客の求める一点ものの商品を企画することが重要となるため、各事業体が提供するサービスを統合した事業モデルが有効であると考えております。
また、このような統合型の住宅流通プラットフォームを確立するうえでは、Webサービスの開発力、仲介業務の理解ならびに仲介業務を効率化する業務システムの開発力、物件情報を供給する不動産事業者とのネットワーク及び同事業者に対する業務支援サービス・システムの開発力など、テクノロジーと業務オペレーション、組織力の高度な統合が必要となり、これが同業他社による類似サービスの展開に対する障壁として有効に機能するものと考えております。
③ 一連のプロセスをテクノロジーによって統合・最適化
当社は、データ(物件データ、顧客データ、デザインデータ)を中心として、一連の業務プロセスを自社開発のシステムによって統合・最適化し、エージェントの生産性を継続的に改善する方針です。業務プロセスの具体例は以下の通りです。
(a) マーケティング:マーケティング支援ツールを用いた会員データ解析、マーケティングオートメーション
(※3)
(b) 物件企画・開発:企画支援ツールを用いた査定業務の自動化、物件・デザインデータの解析
(c) コンテンツ制作:制作支援ツールを用いたコンテンツ管理、物件選定の自動化
(d) エージェント・業務支援:エージェントCRMツール(※4)を用いた顧客データ管理、顧客と物件のマッチングによる提案支援、顧客応答の自動化、エージェントアサイン(※5)の自動化
④ ユーザーを起点とした自律的成長サイクルの実現
当社は、中古マンション購入における一連の顧客体験の統合・刷新等により、ユーザーのエンゲージメント(※6)を高めることで会員数の拡大を図る方針です。ユーザーが集まることにより、反響(※7)が集まり、早く適切な価格で売れる状態となり、それによって「cowcamo」に登録する売主が増加し、売主の増加によってユーザーが望む住宅が増える、というユーザーを起点とした自律的成長サイクルを実現したいと考えております。
⑤ 顧客、データ、ノウハウの蓄積により持続的な競争優位を確立
当社は、これまでの事業運営において、独自の顧客基盤、データ、オペレーションノウハウを蓄積して参りました。今後も独自の顧客基盤、データ、オペレーションノウハウの蓄積により、持続的な競争優位の構築を図る方針です。なお、サービス開始以降、「cowcamo」にて取材・記事掲載を行った売主・事業者数は本書提出日現在500社を超えており、「cowcamo」にて掲載した物件の累計取扱件数は本書提出日現在4,000件を超えております。
(a) 顧客基盤の蓄積:「cowcamo」は首都圏におけるリノベーション・中古住宅流通プラットフォームとして多数の利用事業者数・ユーザー数を擁しております。
(b) データの蓄積:当社は、首都圏のリノベーション住宅流通に関する独自のデータを蓄積しております。これらのデータは、自社での取材や実際の取引に基づく統合的なデータ(物件の定性的な評価情報や内装写真等の物件固有のデータ、売出から成約にいたるまでの価格推移等の取引情報データ、「cowcamo」上でのユーザーの物件への反響行動に関するデータ等)であり、部分的には存在していましたが、これらのデータを統合的に蓄積している点で、希少性の高い情報資産であると考えております。
(c) オペレーションノウハウの蓄積:当社は、オペレーション(物件情報取得、企画・デザイン、取材・記事制作、マーケティング、顧客管理、マッチング、接客支援等)をテクノロジーを活用して統合しております。一連のバリューチェーンを統合したノウハウが、同業他社による類似サービスの展開に対する障壁として有効に機能するものと考えております。
⑥ 一貫した世界観を実現するための組織
当社の組織的な能力であるテクノロジー、オペレーション、デザインが、構想力、プロダクト力、マーケティング力を発現する事で、中古住宅流通のバリューチェーンの統合による一貫した世界観が実現されると考えております。
(a) テクノロジー:エンジニア、データサイエンティスト(※8)を中心としたメンバーにより実現
(b) オペレーション:営業、マーケティング、コンテンツ制作を中心としたメンバーにより実現
(c) デザイン:Web/UXデザインに加え、建築デザインを専門とするメンバーにより実現
⑦ 「cowcamo」による市場創出
当社は、「cowcamo」を通じて、リノベーション物件の適切な価格形成と生涯買い替え頻度の向上により、中古物件流通市場の活性化をリードしたいと考えております。「cowcamo」は中古住宅の流通市場を対象としておりますが、(a)価格形成×(b)買い替え頻度向上により対象市場の拡大を図る方針です。なお、首相官邸「未来投資戦略2017(平成29年6月9日)」では、2025年までに既存住宅流通の市場規模を8兆円に倍増する(2010年時点で4兆円)事が目標として掲げられております。
(a) 価格形成の観点
これまで・再販時の物件価格は、リノベーション物件購入時の物件価格を大きく下回る傾向
・リノベーション物件の履歴事項や物件の固有性が評価されず、経年での価格下落が大きい
cowcamoが果たす役割・リノベーション物件の流通データの蓄積によるリノベーション物件の公正な評価
・一点ものの魅力を伝えるプレゼンテーション
これから・再販時の物件価格が、リノベーション物件購入時の物件価格に近づく
・リノベーション物件の履歴事項や物件固有性を評価・伝達し、経年での価格下落を緩やかにする

(b) 買い替え頻度向上の観点
これまで・20代は賃貸、30代で持ち家を購入し、同じ住宅に住み続ける「持ち家は一生もの」という価値観
cowcamoが果たす役割・ライフスタイルに応じた住み替えの促進
・流通中間コストの削減による買い替えの経済性向上
これから・従来の価値観に囚われず、ライフスタイルに応じて住宅を買い替える価値観

⑧ 事業アセットを活用した更なる成長ポテンシャル
当社では、cowcamo(カウカモ)事業の事業アセットであるデータ、デザインノウハウ、オペレーションモデル、ブランドを活用することで、収益機会の拡大と収益性の向上を図る方針です。
(a) データ、デザインノウハウの横展開による収益機会の拡大:売主・事業者向けサービス
・蓄積したデータを活用し売主・再販事業者へ企画・開発を支援(供給物件の質・量の向上、収益源の拡大)
(b) デザインノウハウ、ブランドの横展開による収益機会の拡大:自社企画物件
・デザインノウハウ、ブランドを活用し、自社企画物件を提供(流通額に対する収益性:テイクレート(※9)向上)
(c) オペレーションモデル、ブランドの横展開による収益機会の拡大:パートナーモデル
・自社エージェントにて確立されたオペレーションモデルを横展開(事業の拡張可能性の向上、収益源の拡大)
⑨ リノベーション時代の住宅流通プラットフォームとしてのポジションを確立
当社はリノベーション時代の競争原理の変化の特徴として、自分らしい生活を志向する購入者層の増加、ビジュアルコミュニケーションの重要度の高まりがあると考えております。当社は「cowcamo」を通じて、リノベーション時代の住宅流通プラットフォームとしてのポジション確立を図ってまいります。
従来の住宅流通産業cowcamoが実現するプラットフォーム
バリューチェーン上の力点川上(住宅の供給者)川下(住宅の購入者)
顧客の物件選択の軸スペック
(住宅の広さ、間取り、部屋数等)
ストーリー・デザイン
(ユーザーの視点に立ち、住みたい街や理想の暮らしを想像できる記事)
情報流通に求められる機能検索・絞り込みマッチング・提案
キーコンテンツ定量情報定性情報・ビジュアルイメージ
オペレーション分散的統合的


⑩ 企業価値向上に関する当社の考え
当社は、ユーザー基盤の蓄積と成約率改善による売上総利益の継続的な成長及びオペレーション最適化による営業利益率の改善並びに創出された利益の再投資による売上総利益の更なる拡大により、企業価値の向上を図る方針です。具体的には(a)取引件数の増加及び(b)取引あたり収益の増加による売上総利益の成長と、(c)広告効率及び(d)オペレーション効率等の向上による営業利益率の改善を通じた企業価値の向上を目指して参ります。
(a) 取引件数の増加要因:会員数の蓄積、成約率の向上、生涯取引機会の拡大等
(b) 取引あたり収益の増加要因:流通価格の適正化、テイクレートの向上、周辺領域での収益化
(c) 広告効率の改善要因:広告運用パフォーマンスの継続的改善(広告運用の内製化・最適化、顧客別のナーチャリング(※10))、プロダクトの継続的改善
(d) オペレーション効率の改善要因:エージェントオペレーションの型化・高度化(営業プロセスの型化と独自CRMの開発、独自ツール開発による業務プロセスの省人化)、その他オペレーションの型化・高度化
なお、(c)広告効率の改善及び(d)オペレーション効率の改善により「cowcamo(カウカモ)事業」のセグメント利益率は継続的に改善しております。
「cowcamo(カウカモ)事業」の業績の推移(単位:百万円)
2017年7月期2018年7月期2019年7月期
項目通期通期第1四半期
会計期間
第2四半期
会計期間
第3四半期
会計期間
売上高155382365238320
売上総利益155362175234268
セグメント利益
又は損失(△)
△21△1293785127

(注) 1.「セグメント利益又は損失」は「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」に掲げる「セグメント利益又は損失」です。
2. cowcamo(カウカモ)事業の主な収益源は、リノベーション・中古マンションの売買に関して売手及び買手から受領する売買仲介手数料等でありますが(純額により売上計上)、顧客ニーズに応じて一時的に物件の仕入・販売取引(再販取引)を行うケースがあります(総額により売上計上)。2019年7月期第1四半期は再販取引を行ったため、総額により売上計上される取引が含まれております。
3. 2019年7月期第2四半期会計期間及び第3四半期会計期間の金額は、監査法人によるレビューを受けておりません。なお、2019年7月期第2四半期会計期間の金額は、2019年7月期第2四半期累計期間から2019年7月期第1四半期累計期間を控除することにより算出しております。また、2019年7月期第3四半期会計期間の金額は、2019年7月期第3四半期累計期間から2019年7月期第2四半期累計期間を控除することにより算出しております。
当社が経営管理上重要視しているKPI(Key Performance Indicator の略称で主要な業績評価指標のこと)は以下の通りです。
「cowcamo」の会員および取引関連指標の推移
期間会員関連指標取引関連指標
会員数(期末)
単位:人
会員MAU(期中平均)
単位:人
取引件数(期間累計)
単位:件
GMV(期間累計) 単位:百万円
2017年7月期19,1557,174803,944
2018年7月期58,66022,4141376,809
2019年7月期
第1四半期69,63535,972592,638
第2四半期81,10238,836984,442
第3四半期90,80339,7391196,096

(注)1. 「会員数」は、「cowcamo」に会員登録したユーザーの特定の期間の末日における会員数です。一度も取引を行ったことのない会員も含まれております。
2.「会員MAU」は、特定の期間におけるMAU(特定月にサービスを利用したアクティブユーザー)の平均値です。
3.「取引件数」は、特定の期間において販売された住宅の件数の合計値です。累計値ではなく特定の期間の合計値を記載しております。表中の数字は住宅の購入に関する売買契約書の締結日を基準として集計した数値です。
4.「GMV(Gross Merchandise Value:流通総額)」は、特定の期間において販売された住宅の流通額の合計値です。累計値ではなく特定期間の合計値を記載しております。表中の数字は住宅の購入に関する売買契約書の締結日を基準として集計した数値です。金額は百万円未満を四捨五入しております。
業績の推移(単位:百万円)
期間売上高売上総利益営業利益又は営業損失(△)
全社cowcamo
(カウカモ)
事業
全社cowcamo
(カウカモ)
事業
全社cowcamo
(カウカモ)
事業
2017年7月期346155260155△105△21
2018年7月期531382438362△485△129
2019年7月期
第1四半期421365192175△5237
第2四半期2892382582341385
第3四半期37432028226849127

(注) 1.「営業利益又は営業損失」は、「全社」については全社の営業利益又は営業損失です。また、「cowcamo(カウカモ)事業」については「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」に掲げる「セグメント利益又は損失」です。
営業生産性(エージェント1人あたり売上総利益)の推移
年月営業生産性年月営業生産性
(直前期以前)(2019年7月期)
第1四半期1.0百万円
2017年7月期0.9百万円第2四半期1.3百万円
2018年7月期0.9百万円第3四半期1.5百万円

(注) 1.「営業生産性」は、「cowcamo(カウカモ)事業」の通期の売上総利益÷12か月(四半期については四半期の売上総利益÷3か月)÷「cowcamo(カウカモ)事業」に関与する正社員数(期中平均)にて算出しております。
2.金額は小数第2位を四捨五入しております。

(ⅱ)シェアードワークプレイス事業における新規事業の創出
当社は、前述の「cowcamo」の運営を通じて培った、テクノロジーと業務オペレーションを融合させるノウハウを活用し、シェアードワークプレイス事業においてもハイブリッド型の新規事業を拡大していく方針を考えております。
具体的には、サービス型のワークプレイスの提供とオンライン会員サービスを組み合わせた事業展開により、従来、不動産の物理的な面積や空間のサイズに制約されていた収益モデルから、拡大可能性の高い収益モデルの実現を目指しております。また、当社の強みの一つであるテクノロジーと企画・設計力の融合により、各案件に個別に最適化された高効率な物件開発を実現し、前述の拡大可能性と合わせて収益性の高い事業モデルの実現を目指してまいります。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、上記「企業価値向上に関する当社の考え」に記載の通り、売上高、売上総利益及び営業利益並びに会員数、取引件数、営業生産性、GMVを重要な経営指標とし、高収益事業を展開していくことにより利益率の向上を図ってまいります。
(4) 経営環境
当社は、cowcamo(カウカモ)事業、シェアードワークプレイス事業それぞれに係る事業環境を以下のように認識しています。
① cowcamo(カウカモ)事業
(①-1)市場規模
首都圏の中古住宅流通市場は、13,150億円(2013年)から16,616億円(2018年)に拡大しており(注1)、当事業の対象市場は拡大トレンドにあると考えております。また、上記中古住宅流通における築年数平均は、19.61年(2013年)から21.16年(2018年)と流通物件の高齢化が進展しております(注1)。
なかでも、中古マンションストックにおいては、築年数25年以上の物件の割合が31.5%(2015年)から49.5%(2025年)に達するとみられており(注2)、築年数の古い物件においては、リノベーションが実施される割合が高いことから、当社がターゲットとしているリノベーション・中古住宅セグメントの流通量は拡大するものと考えております。
当社では、首都圏での住宅購入においてリノベーションが普及するなかで、市場の拡大・一般化に伴ういくつかの変化を予想しております。
(a) リノベーション住宅市場の形成
・リノベーションを前提とした流通価格の形成
・「安いから」中古リノベーションから「こだわるなら」中古リノベーションへ
(b) 中古住宅の流通方法の多様化
・リノベーション済住宅の購入
・中古住宅の購入後にリノベーションを実施
・リノベーション済住宅の購入後に追加でリノベーションを実施
(c) 中古住宅流通事業者の変化
・再販事業者の拡大
・リノベーション住宅専門サイトの成長
(①-2)ユーザー基盤の拡大
当社は、ユーザー基盤の拡大を軸に、収益機会の最大化と市場創出に取り組む方針です。「cowcamo」の更なる認知拡大やプロダクトの機能向上を通じて、より多くのユーザーにご利用頂けるサービスを目指して参ります。また、現在の営業エリアである都区部(ターゲット層人口は約150万人、うち推計中古住宅購入検討者数約40万人)から首都圏(ターゲット層人口は約440万人、うち推計中古住宅購入検討者数約100万人 )への展開を通じて、一層のユーザー基盤の拡大を図って参ります(注3)。
② シェアードワークプレイス事業
東京23区のオフィスビルの空室率は2018年3月時点で1.98%と低い水準にあり(注4)、オフィス需要は引き続き堅調な状態にあると考えております。当事業の主要な顧客セグメントの一つである、国内のフリーランス(※11)人口は、913万人(2015年)から1,090万人(2019年)に拡大しております(注5)。また、政府は、働き方改革の一環として、テレワークの導入推進等の柔軟な働き方の実現を目指しており(注6、7)、これを受けて今後さらに働き方の多様性が高まるものと考えております。これらの結果、シェアードワークプレイスの需要は拡大するものと考えております。
(注) 1.公益財団法人東日本不動産流通機構 「首都圏不動産流通市場の動向(2018年)」
2.みずほ信託銀行「不動産マーケットレポート2016.5」
3. 都区部および首都圏のターゲット層人口(i)、推計中古住宅購入検討者数(ii)は以下の様に推計しております。
(i)都区部および首都圏のターゲット層人口:都区部(A1)、首都圏(A2)それぞれにおける25歳以上50歳未満の人口×推計持ち家許容割合(B)×推計中古住宅許容割合(C)により算出
A1:「住民基本台帳による東京都の世帯と人口(平成31年1月)」東京都総務局統計部
A2:「人口推計 平成30年10月1日現在人口推計」総務局統計部
B:「平成29年度 住宅経済関連データ 3.住宅に対する国民の意識」国土交通省 において「現在借家」の世帯のうち、今後の居住形態及び住み替え方法を「借家などへの住み替え」と答えた世帯を除く世帯の割合(66.2%)
C:「平成29年度 住宅経済関連データ 3.住宅に対する国民の意識」国土交通省 において「現在借家」の世帯のうち、今後の居住形態及び住み替え方法を「中古住宅」「こだわらない」と答えた世帯の割合(44.1%)
(ii)都区部および首都圏の推計中古住宅購入検討者数:都区部および首都圏それぞれのターゲット層人口(i)×5年以内に住み替えを希望する割合(D)により算出
D: 「今後の住み替え・改善意向(5区分)/家計主の年齢(8区分) 」総務省統計局 において、世帯主 の年齢が50歳未満の世帯のうち、5年以内に「住み替えたい」と答えた世帯の割合(23.6%)
4.三幸エステート株式会社 「オフィスマーケット調査月報」
5.ランサーズ株式会社 「フリーランス実態調査」
6.総務省 「テレワーク推進に向けた政府の取り組みについて」
7.首相官邸 働き方改革実現会議 「働き方改革実行計画」
(5) 事業上及び財務上の対処すべき課題
当社の対処すべき課題としましては、既存事業の拡大、収益性の向上ならびに中長期的な成長に資する体制整備が重要であると認識しており、特に下記を重要課題として取り組んでおります。
① サービスの知名度向上
当社は、テレビや新聞、雑誌、ラジオ等のマスメディア向けの広告は実施しておらず、これまで培ってきたWebマーケティングのノウハウを活用することにより、ユーザー、会員を獲得してまいりました。
一方で、当面の対象市場としている首都圏の中古マンション流通市場の規模は、1.3兆円(出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2018年)」) と言われており、中でもリノベーション市場は今後も拡大していくものと予測されます。このため、今後のユーザー、会員獲得においては、マスマーケットにおける認知の獲得が重要であると認識しており、今後はこれまで構築してきたWebマーケティングと並行し、費用対効果を慎重に検討したうえで、テレビや新聞、雑誌、ラジオ等のマスメディアを活用した広告宣伝活動を検討してまいります。
② エージェントサービスのオペレーションの高度化・効率化
当社は、これまでに開発してきた業務管理システム、蓄積してきたノウハウにより、エージェントサービスの生産性向上とサービス品質の両立を図っております。
しかしながら、今後の事業成長のためにはさらなるユーザー数の増加が必要であり、恒常的な収益性の向上を実現するためには、引き続きオペレーションの高度化・効率化が重要であると考えております。そのため、蓄積された顧客データ・業務データのさらなる活用、業務の自動化等の施策を実施してまいります。
③ 事業開発の強化
当社は、cowcamo(カウカモ)事業、シェアードワークプレイス事業のいずれにおいても、早期の事業拡大のために適切な外部の事業者との連携が重要であると考えております。そのため、取引先事業者との関係を強化し、事業開発の推進を図ってまいります。
④ 技術開発体制の強化
cowcamo(カウカモ)事業においては、技術革新のスピードは非常に早く、類似のサービスや競合の参入が予測されるため、新規サービスの展開スピードを速めるべく、エンジニアの採用・チーム体制の整備を通じて開発体制を早期に強化してまいります。
⑤ 組織体制の強化
当社は、事業規模の拡大及び成長のためには、専門性を有する人材の採用及び社員の育成及び社員への企業理念、経営方針の伝達が重要な課題と考えております。当社は社内研修の強化、福利厚生の充実を図っていくとともに、志望者を惹きつけるような事業を展開していくことで、優秀な人材の採用強化に取り組んでまいります。また、社員に対して経営ビジョン・ミッションを踏まえた当社の経験とノウハウに基づく研修を計画的に実施していくことで、社員の育成及び企業理念・経営方針の伝達を行ってまいります。
⑥ 情報管理体制の強化
当社は、ISO/IEC 27001「情報セキュリティマネジメントシステム-要求事項」に基づくISMS認証を取得しており、情報管理の徹底を図っておりますが、個人情報等の機密情報につきましては、社内規程の厳格な運用、定期的な社内教育の実施、情報セキュリティマネジメントシステムの整備等により、今後も引き続き、情報管理体制の強化を図ってまいります。
⑦ 内部統制の強化
当社事業が継続的に成長し、顧客に安定したサービスを提供し続けていくためには、継続的な内部統制の整備、強化に取り組んでいくことが重要であると考えております。当社は、組織が健全かつ有効的に運営されるように、内部統制の実効性を高めるための環境を整備し、コーポレート・ガバナンスを充実していくことにより、内部統制の整備、強化を行っていく方針であります。
[用語説明]
(※1)CRM
CRMとは、顧客関係管理(Customer Relationship Management)の略称であり、顧客満足度等の向上を通じて、売上高の拡大及び利益率の向上を目指す経営戦略手法またはシステムのこと。
(※2)リスティングサイト
リスティングサイトとは、売主または売主に依頼された不動産売買仲介が売出中の物件を掲載するウェブサイトのこと。
(※3)マーケティングオートメーション
マーケティングオートメーションとは、顧客開拓におけるマーケティング活動を可視化・自動化するツールのことです。
(※4)エージェントCRMツール
エージェントCRMツール(Agent CRM)とは、エージェント向けの顧客関係管理による顧客満足度等の向上を通じて、売上高の拡大及び利益率の向上を目指す業務支援システムです。
(※5)エージェントアサイン
エージェントアサインとは、自社エージェントと問い合わせがあった顧客とのアポイントメント管理のことです。
(※6)エンゲージメント
エンゲージメントとは、特定の企業(企業自体、企業が提供する商品、ブランド等)に対して、顧客が高い好感度や忠誠心を抱き、強い絆で結びついている状態のこと。
(※7)反響
反響とは、顧客から電話またはメール等で受ける物件に対する問い合わせのこと。
(※8)データサイエンティスト
データサイエンティストとは、主に、ITやビジネスに精通するデータ分析やマーケティングを行う専門家です。
(※9)テイクレート
テイクレートとは、Eコマース等の業態において、プラットフォーム上で取引されるGMV(Gross Merchandise Value:流通総額)に対して課される手数料率(Eコマース等の運営事業者の売上高となる)のこと。
(※10)ナーチャリング
ナーチャリングとは「養育」「育成」等を意味し、マーケティング戦略の分野においては「見込み客を顧客にする」という意味で用いられる。
(※11)フリーランス
フリーランスとは、特定の企業や団体、組織に専従しておらず、自らの技能を提供することにより社会的に独立した個人事業主です。