有価証券届出書(新規公開時)

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2021/05/19 15:00
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事業内容

当社は東京大学先端科学技術研究センター・システム生物医学ラボラトリー(LSBM)で開発された蛋白質発現・抗体(※1)作製技術を基盤として、診断・創薬標的に対応する抗体の医療への活用を目指して設立されました。創業以来、医薬品シーズ(※2)抗体を創生することで、がん及びその他疾患の治療用医薬品の研究開発、及び関連業務を行っております。LSBMで開発された蛋白質発現技術により、従来は作製することが困難だった標的蛋白質も免疫することが可能となり、そのような標的蛋白質に対する抗体の取得がより容易になりました。これをハイブリドーマ法(動物免疫法)(※3)と組み合わせることで、親和性(※4)の高い抗体の効率的な取得を可能にしています。さらに、当社は多様性に富むファージ抗体ライブラリ(※5)と特許技術でもある独自の抗体スクリーニング(※6)技術を保有しており、対象とする疾患の細胞に適用することで、創薬標的の探索と従来のハイブリドーマ法で得られるものとは異なる特徴を持つ高機能シーズ抗体の同時取得を可能にしています。当社の技術は、これら二つの抗体技術とシーズ探索術を融合し、医療ニーズにマッチした医薬品シーズ抗体を取得することを特長としております。また、当社は東京大学発であることを起点として、さらにそのネットワークを広げ、多くのアカデミアとの連携により「最先端の抗体技術で世界の医療に貢献する」ことを企業理念としております。
<シーズ探索のアプローチ>当社は以下の二つのアプローチによりシーズ探索を行っています。一つは、動物に免疫して取得する一般的なハイブリドーマ法です。臨床試験進行中のグリピカン3(PPMX-T001)やカドヘリン3(PPMX-T002)はこの手法で同定(※7)されました。もう一つは、動物を用いずに抗体を取得するファージディスプレイ法(※8)です。この手法は創薬標的の同定とがん特異的な抗体の探索を同時に行うことができる方法です。

世界におけるバイオ医薬品市場の推移を見ると、年々バイオ医薬品の売上高は増加しており、2019年には約2,660億ドル(バイオ医薬品比率29%)に達しました。今後も売上の増加が見込まれており、2026年には約5,050億ドル(バイオ医薬品比率35%)に達するとも予測されています。(出典:EvaluatePharma® World Preview 2020, Outlook to 2026)
また、2019年度の世界の医薬品の売上高上位10品目のうち、抗体医薬品(※13)は1位も含めて4品目を占めております(出典:日経BP社 「日経バイオテク」の調査データ)。

(出所:EvaluatePharma® World Preview 2020, Outlook to 2026を基に当社作成)
このような事業環境の中で、当社は機能性の高い抗体を当社独自の技術で作製し治療薬として開発しているほか、抗体に放射性同位体や毒素を化学的に結合させ、がん細胞への攻撃力を高める治療薬の研究開発も行っております。
(1) 当社の事業モデル
当社の事業セグメントは、医薬品事業のみの単一セグメントでありますが、以下の各分野において製品化に向けた研究開発、ライセンス、製造方法の確立に取り組んでおります。
① 創薬
当社は、長年の経験に基づいたハイブリドーマ法と、独自のスクリーニング技術を取り入れたファージディスプレイ法により、高機能抗体を取得したうえで、必要により抗体に遺伝子工学的な改変あるいは化学的な修飾を施し、抗体医薬品候補としての研究開発を進めております。
創薬の収益モデルは、国内外の製薬企業に対して、当社が開発した医薬候補品を導出(特定の医薬品を開発、販売するために必要な知的財産権の使用を許可すること。)することによる契約一時金収入、開発の進捗に応じて支払われるマイルストーン収入、上市(※14)後に売上高の一定割合が支払われるロイヤリティ収入等を獲得することであります。

収入の形態内容
契約一時金契約締結時に一時金として受け取る対価。
マイルストーン収入製薬企業等提携先が当社と契約締結後、当社又は提携先における研究開発が進捗し、契約上規定された特定の開発目標を達成した時の対価である開発マイルストーンと、医薬品販売後に、事前に設定した年間販売額を達成した時に受け取る収益である販売マイルストーンがあります。
ロイヤリティ収入上市後に当該製品売上高に対して契約に設定された一定割合を受け取る収入。

当社は、これまでに創出したがん治療用抗体のうち、肝臓がんを標的とする抗体及び固形がんを標的とする放射性同位体標識抗体を、それぞれ製薬企業である中外製薬株式会社及び富士フイルム株式会社に導出し、現在、導出先により臨床試験が行われております。また、難治性血液がんを標的とした抗体は、2014年に国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)に採択され、開発を進め、2018年より企業主体の開発に切り替えて自社で治験を推進中です。さらに、難治性固形がんを標的としたADC(※15)等、数々のがん治療用抗体の研究・開発を進めております。
なお、当社における抗体創薬の特長は、医薬品として高い薬理効果が期待できる新規抗体を効率的に取得することです。この抗体の物質特許が事業のベースになり、その抗体を医薬品として患者さんに届けるべく非臨床試験、臨床試験及び薬事承認を得るまで如何に早く進めるかが課題となります。導出は、一般的に、特許取得後すぐに大手製薬企業に導出するケース、自社で非臨床試験を完了してから導出するケース、自社単独であるいはパートナー企業と共同で臨床試験を実施し、パイプラインの価値を高めてから製薬企業に導出するケース等があります。この導出の形態は、薬剤の特性、薬剤ごとに異なる臨床試験の計画、適応疾患及び開発費用等を勘案して決定いたします。
近年、抗体医薬品の認知度が高まる中、多数の抗体医薬品が上市され、抗体医薬品ビジネスの競争も激化しつつあります。これに伴い非臨床段階では有利な経済条件で導出することが難しくなりつつあります。当社は、抗体医薬品を早期に患者さんに届けるため自社でも積極的に臨床試験を実施し、製薬企業に導出していくことを推進してまいります。
本書提出日現在においては、導出済みの3抗体に続く薬剤候補である抗トランスフェリン受容体抗体の開発に集中するとともに、新規抗体のシーズ探索を行っております。新規抗体に関しては、当社の保有するファージ抗体ライブラリを探索した結果、複数の候補が見つかっております。また、新規標識との組合せによるADC化等の研究も進んでおります。
なお、各開発品の詳細については、後述「(3) 当社の開発品」をご参照ください。
② 抗体研究支援
当社は、これまでにがん等を対象とした抗体医薬品や研究用試薬の創出を通じて培ってきた技術や経験を活かして、抗体に関連した研究支援(研究受託)を実施しております。特にアカデミアや製薬企業に対する抗体研究支援は、当社の創薬活動におけるネットワークの広がり等のシナジー効果があります。

a.抗体作製
動物細胞を利用した組換え蛋白質の生産系を利用して、薬効を確認する試験に使用することが可能な程度に高度に調製したIgG型抗体(※16)の作製を行います。一般にマウスなどを対象とした動物試験で使用する抗体の必要量は数十mg程度ですが、一般の試薬会社では100ug単位で販売されるのに対し、組換え蛋白質として抗体の生産を委託会社に依頼した場合、数g単位のような過剰量であることも多く費用が高額になりがちです。それに対し、当社は生産量にフレキシブルに対応することが可能です。
b.研究受託
抗体は物理的な安定性や薬理的な効果など様々な観点での試験が行われ、その用途に応じて、最適な抗体が選択される必要があります。当社ではこれまでに培った抗体解析・評価ノウハウをもとに、ある標的に対して得られる多数の抗体群の中から、診断・治療に適した抗体を選別・提供するような研究受託を行います。また前述した抗体作製で作製した抗体などを利用して薬効試験を代行・コンサルティングするなど、当社の抗体開発経験をもとにした各種サービスを提供することで、大学等の研究を支援致します。
c.配列解析
抗体産生細胞(ハイブリドーマ、一般に一種類のマウス抗体を産生する)から、抗体配列(※17)を取り出しその遺伝子配列を決定します。抗体の遺伝子配列は様々な標的との結合が可能となるように多様な組み合わせの配列を生成するという特有の特殊性を持つため、通常の配列決定法では一意に遺伝子配列を決めることが困難ですが、当社は独自に設計した遺伝子増幅用配列を用いることで、その抗体配列情報を解析することが可能です。そして、この解析を行うことでこの結果をもとにした特許出願を行ったり、前述した組換え蛋白質として抗体作製に用いたりすることが可能となります。
③ 抗体・試薬販売
当社では、がんや生活習慣病等、各種疾患のバイオマーカー(※18)となる核内受容体抗体を全48種類取り揃えており、世界の研究者に向けて研究用試薬として販売しております。また、PTX3 ELISAキット(※19)の開発に成功し、研究用試薬として販売しております。

a.核内受容体抗体
核内受容体とは細胞内でホルモンなどと結合する事で遺伝子の発現調節を行う蛋白質で、ヒトでは48種類存在します。核内受容体は生命維持の根幹に関わる遺伝子調節機能を担っており、創薬標的としても注目されている蛋白質群です。当社は、この核内受容体に対する抗体を全種類開発し、研究用途として世界の研究者に販売提供しております。

b.研究用試薬 PTX3 ELISA キット
蛋白質であるPTX3の血液中の濃度は血管炎症の程度を反映する指標と考えられています。当社ではこのPTX3の濃度を高感度に測定出来る測定試薬を開発し、研究用試薬として販売しています。更に近年猛威を振るう新型コロナウイルスは一部の感染者で急速に重篤化することが問題視されています。PTX3は炎症の程度を鋭敏に捉えるため、予め発症の数日前に肺炎症状が重篤化する感染者を予見できる可能性があります。そこで当社は複数の大学病院と連携し、その実証研究を進めております。もし重症化する感染者を予め予見出来ることが可能となれば、限られた医療資源を有効活用することが可能になると考えています。


<事業系統図>
(2) 当社の技術
治療用抗体を取得するために、当社では①抗体探索、②抗体工学、③標的探索、④機能性蛋白質発現の各技術を保有しております。
① 抗体探索
抗体を取得する方法として、当社ではファージディスプレイ法とハイブリドーマ法を保有しております。また、ファージディスプレイ法によって取得した抗体をスクリーニングする技術として、当社独自の手法であるICOS法(Isolation of antigen/antibody Complexes through Organic Solvent method、特許第4870348号)を保有しております。
a.ファージディスプレイ法
動物を用いない抗体取得方法として、以下の2つの抗体ライブラリから特定の標的分子と結合する抗体配列を選別します。当社は、保有する抗体ライブラリと独自のスクリーニング技術を組み合わせることで、薬剤となりうる抗体を取得しています。優れた抗体とは狙った標的分子のみに強く結合する性質を持ち、これを特異性(※22)、高親和性と呼びます。またその性質により標的分子の機能を制御する場合は機能性抗体と呼ばれ、抗体医薬品においては重要な性能となります。
(a)ヒト抗体ライブラリ
当社は多種類のヒト抗体配列を揃えたヒトナイーブ抗体ライブラリ(※23)を保有しています。抗体は、それぞれ2本のH鎖(重鎖:分子量が大きい)とL鎖(軽鎖:分子量が小さい)によって構成されています。抗体の抗原認識に対する寄与度は、L鎖よりもH鎖の方がより大きいことが知られています。そこで、当社は保有するヒト抗体ライブラリのH鎖の多様性を増やし、その結果、多彩な抗原を認識出来る抗体の存在比率を大幅に高めることにより、標的分子に対して多数の抗体群を取得することが可能となり、その事により標的抗原に対して親和性の高い抗体が含まれる可能性を向上させました。また標的抗原に対して多数のエピトープ(※24)を認識する抗体群を取得することで機能性抗体を選び出せる確率も上がります。
一般的に体内にあるナイーブレパートリーと呼ばれる抗体の中で特に未熟な抗体は免疫寛容(※25)を受けておらず、さまざまな標的に対する反応性を持っています。当社ではそのような素材からライブラリに格納する抗体集団を構築する手法により、様々な標的分子に対して最適な抗体の作出を可能にしています。

(b)ラクダ抗体ライブラリ
ラクダ抗体(※26)は、他の動物種の抗体とは異なりサイズが小さいため生産が容易で、かつ熱に対しても高い安定性を示すことが特徴です。また他の蛋白質との一体化など、用途に適した抗体へ改変することが容易で医薬品以外にも様々な利用で期待されています。
当社は上記の様々な優れた特性を持つラクダ抗体配列を多種類揃えたライブラリを保有しております。

(c)抗体スクリーニング技術
抗体医薬品の標的分子となる蛋白質は細胞膜上に出ており、その蛋白質が折り畳まれて複雑な立体構造を作っています。抗体は抗原認識の際に標的分子の持つ立体的な構造に大きく影響されますので、スクリーニングの際には細胞を用いることが効果的です。
しかしながら生きた細胞をそのままスクリーニングに使うと、標的に特異的でない抗体もその中に多く含んでしまうという問題が生じてしまいます。そのためこれまでは多くの場合、精製された抗原がスクリーニングに使われていましたが、当該手法では、精製の過程で立体構造が失われてしまう蛋白質に対する抗体を取得することは困難でした。これを解決した方法が、当社が独自に開発したICOS法です。ICOS法は特異性に欠ける抗体の分離に有機溶剤を利用する方法で、反応させた細胞が有機層に入る過程で特異性に欠ける抗体は細胞表面から除去されます。これにより細胞上に存在する蛋白質の立体構造を反映した親和性の高い抗体のみを効率的に取得することが可能となりました。
また細胞膜上の蛋白質に限らず、通常免疫法では取得困難な標的に対しても最適なスクリーニング技術を開発しており、蛋白質はもちろん、それ以外にも低分子等様々な標的に対する抗体を取得することができます。

b.ハイブリドーマ法
抗体作製技術の一つで、当社の抗体作製技術の出発点となっている基本的な重要技術です。標的分子(主には蛋白質)をマウスなどの動物に免疫することで、抗体を産生する細胞(ハイブリドーマ)を作出する古典的ですが、信頼性の高い手法です。現在市販されている抗体医薬品の多くがこの手法で作られています。
抗体医薬品の主な標的である膜蛋白質の多くは、ヒト以外の動物でも同じ形で存在することが知られています。この様な標的の場合、通常の免疫方法では免疫が自分自身を攻撃するのを防ぐ機構を持つために、ヒトを形作るのと同じ構造を持つ蛋白質に対する機能性抗体を得ることは難しいことが知られています(この現象を免疫寛容と言います)。しかし当社では、東京大学との多くの共同研究を通じて得た最先端の知識と、アジュバント(※27)と呼ばれる免疫増強剤の使用・投与方法の工夫といったノウハウを組み合わせることで、高い結合力で的確に目標に結合する抗体を効率的に取得しています。

② 抗体工学
a.抗体配列解析
抗体配列を100%正確に解析することは、後述する抗体デザインを行う上でとても重要な操作となります。
抗体産生細胞(ハイブリドーマ)が生産する抗体のアミノ酸の並び(抗体は蛋白質の一種で、蛋白質は連続したアミノ酸の並びで構成される)を解読するために、細胞から抗体の遺伝子を取り出し、その遺伝子配列を決定する必要があります。しかし抗体の遺伝子配列は様々な標的との結合が可能となるように多様な組み合わせの配列を生成するという特有の特殊性を持つため、通常の配列決定法では一意に遺伝子配列を決めることが困難です。そこで当社では独自に設計した遺伝子増幅用配列(プライマー(※28))を用いて、その抗体配列情報を解析しています。即ち、ハイブリドーマから抗体に翻訳される遺伝子領域を取り出し、その部分を独自に設計したプライマーを用いて増幅する事で遺伝子配列を解析します。これにより当社では非常に多様な抗体の配列情報を正確に決定いたします。

b.抗体デザイン
マウスに免疫して得られた抗体は、構造的にはマウスの特徴を備えた抗体であるため、これをそのままヒトに投与すると、ヒトの免疫機構が異物と判断して排除してしまい、安全性に問題が生じる場合があります。このような事象を回避するため、抗体が目標とする蛋白質と結合する部分だけを残して残りの部分をヒトの抗体構造と置き換えることで、ヒトに投与しても安全なデザインを施します。これを抗体のヒト化と称しています。一方、ヒト抗体ライブラリを使ってファージディスプレイ法で得られた抗体は、もともと全ての部分がヒトに由来しているため、マウス由来の抗体と比べて安全性が高いと考えられます。
こうしてデザインした抗体は、そのままの形で薬として利用する場合もありますが、例えば放射線を発する物質や強力な抗がん剤を抗体と直接連結することで、がん細胞だけを効果的に殺傷することもできます。
このように得られた抗体を様々にデザインすることで、より進化させ、最新の治療手法に応用することが可能です。

③ 標的探索
a.トランスクリプトーム(※29)解析
抗体医薬品の新薬開発において最も重要なことの1つが、その疾患の治療標的となる細胞表面に存在する蛋白質が何であるかを効率的に絞り込んでいくことです。当社では、油谷浩幸教授(LSBM)が構築したLSBMトランスクリプトームデータベースから得られた情報に基づき、治療標的となり得る有用な蛋白質を発掘し、がんの診断・治療に役立つ抗体を作製し、抗体医薬品候補として研究開発を行っております。

b.リバーストランスクリプトーム(※30)解析
疾患に関連した細胞(例えばがん細胞)の表面には正常な細胞とは異なり、その疾患に特有の構造を持つ蛋白質が往々にして存在します。そこで当社はそのような疾患に関連した細胞を利用して、その細胞表面に存在する多様な標的分子の細胞表面上での構造を正確にとらえた抗体を多数取得し、ライブラリ化しております。このようにして得られた抗体ライブラリには診断や治療に有用なものが多数含まれていることが期待され、ここから様々な治療効果を示す抗体を選別し、その抗体が標的にしている蛋白質の調査を進めていきます。このようにして得られた有用な抗体群は治療薬候補の抗体として研究開発が進められます。

④ 機能性蛋白質発現技術(BV:Budded Virus)
高い結合力で的確に目標と結合する抗体を作製するには、標的となる蛋白質を細胞上で形成される構造とその機能を保ったままの状態で作製することが極めて重要です。当社はこの課題を克服する手段の一つとして、LSBMにて浜窪隆雄教授を中心に開発したBV(Budded Virus)技術を利用しています。この技術は、標的蛋白質が構造と機能を保ったまま生産されるように遺伝子組換えを施したウイルスを昆虫細胞に感染させ、そこから放出されるウイルスを免疫源として直接利用することが可能です。これにより従来は作製することが困難だった標的蛋白質も免疫することが可能となり、これまで作製困難だった標的に対する抗体の取得がより容易になりました。


(3) 当社の開発品
当社の開発パイプラインの進捗状況は以下のとおりです。

① PPMX-T002
富士フイルム株式会社 開発コード:FF-21101
a.特徴
PPMX-T002は、がん細胞表面に存在するカドヘリン3(CDH3)を標的とした開発中の治療薬です。カドヘリン3は、細胞間接着蛋白質として機能すると考えられています。トランスクリプトーム解析から、主要正常臓器において発現が低く、各種がんで多く発現している標的として見出されました。

PPMX-T002は、放射性同位体を標識した抗体(Armed抗体(※31))を用いた抗がん剤で、通常の抗体医薬品とは異なる作用メカニズムを持ちます。一般的な抗体医薬品は、抗体ががん細胞表面に発現する特定の蛋白質に結合し、生体が持つ免疫機能を誘引することで標的細胞を攻撃しますが、免疫機能が低下した患者さんに対しては効果が弱くなります。一方PPMX-T002は、動物免疫で取得し、遺伝子改変した

抗体に放射性同位体を標識し、がん細胞に集積させ、放射性同位体から放出する放射線で直接がん細胞を攻撃することができるため、患者さんの免疫機能の状態に関わらず、高い効果が期待できます。また、PPMX-T002は、固形がんの細胞表面に多く発現しているCDH3を標的とし、肺がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん等の細胞に高い集積性を有する抗体を用いています。

b.開発状況
富士フイルム株式会社が米国にて2016年より進行性固形がん患者さんに対する抗がん剤として、第Ⅰ相試験を開始し、投与された患者さんでPPMX-T002の抗体が、がん組織に集積すること、及び安全性が確認された用量で一部症例において腫瘍の縮小が確認されました。ステージ4の患者さんを対象にした臨床試験で、15例中11例でSD又はCRという好成績が得られています。また、CRの症例では投与後、次第に腫瘍が小さくなり26か月後には卵巣がんが消失した症例(CR)がありました。

(出典 Subbiah et al. (2017) AACR Annual Meeting, Chicago, USA DOI: 10.1158/1538-7445.AM2017-
CT097)
米国において2019年より第Ⅰ相試験を拡大し、最大耐容用量で症例数を増やした拡大第Ⅰ相試験(日本の厚生労働省の定める第Ⅱ相試験相当)を実施中です。なお、拡大第Ⅰ相試験は、患者さんを増やして、多くの症例を得ることができ、その後の第Ⅱ相試験をコンパクトに実施可能となるため、近年、米国におけるがん治療薬候補においては、拡大第Ⅰ相試験が実施されるケースが増加しています。また、国内での第Ⅰ相試験も2020年4月より開始しました。
<海外におけるPPMX-T002(導出先での名称:FF-21101)の臨床試験>
治験名A Dose Escalation Study of Radio-labeled Antibody for the Treatment of Advanced Cancer
進行がんに対する放射性同位体標識抗体の用量漸増試験
治験フェーズ拡大第Ⅰ相試験(国内第II相試験相当)
対象進行性固形がん患者
実施国アメリカ
評価項目安全性、薬物動態 (主要)
有効性 (副次的)
状態実施中

<国内におけるPPMX-T002(導出先での名称:FF-21101)の臨床試験>
治験名標準治療後に再発又は遠隔転移をきたした固形がん患者を対象としたFF-21101In / FF-21101Yの第1相臨床試験- 非盲検、非対照、単施設試験
治験フェーズ第Ⅰ相試験
対象再発又は遠隔転移をきたした固形がん患者
実施国日本
評価項目安全性、薬物動態 (主要)
有効性 (副次的)
状態実施中

c.対象疾患
CDH3陽性難治性固形がん(卵巣がん、胆道がん、頭頸部扁平上皮がん)
d.ライセンスの状況
2011年1月に、当社及び富士フイルムRIファーマ株式会社(現 富士フイルム富山化学株式会社)のPPMX-T002に関する権利(「研究・開発」及び「製造・販売」等)を富士フイルム株式会社に実施許諾する契約を締結しました。
② PPMX-T003
a.特徴
PPMX-T003は、ファージディスプレイ法により取得された抗体で、トランスフェリン受容体(TfR)を標的とします。TfRは、鉄を結合したトランスフェリンを細胞内に取り込むため、細胞膜上に発現しています。細胞の生存には細胞内への鉄取り込みが必須であり、赤血球のもとになる赤芽球と増殖盛んな全てのがん細胞でTfRが高発現していることが古くから広く知られています。鉄の取り込みを阻害することで細胞内の鉄を枯渇させ、がん細胞を死滅させるという試みが、古くから行われてきました。これまでに数多の研究者が抗TfR抗体の研究開発に取り組んできましたが、臨床で使用可能な抗体は未だ見出されておりません。こうした中、当社は、当社独自のスクリーニング技術であるICOS法を取り入れたファージディスプレイ法で極めて高い鉄取り込み阻害能を示す完全ヒト抗体を取得しました。現在、幅広い血液疾患を対象とした治療薬の開発を計画しており、まずは真性多血症(PV:Polycythemia Vera)に対する治療薬開発を目指して、2019年11月から臨床試験を実施しています。
下の中央図は、PPMX-T003が、ブロッキング抗体としてTfRからの鉄結合蛋白質の取り込みを阻害する様子を表しています。右のグラフは、トランスフェリン受容体に対する結合阻害率を評価した競合アッセイデータです。横軸は濃度で左に行くほど結合が強く(低濃度で阻害する)、下に行くほど結合阻害率が高いことを示します。体内にあるトランスフェリンと比較して、PPMX-T003は、100倍以上結合が強いこと、また、完全に結合阻害していることがわかります。A24は従来の抗体で、結合力も弱く阻害率が半分にも到達していません。
<がん細胞の鉄の取込みを阻害すると細胞死・増殖抑制するイメージ図、及びPPMX-T003の結合活性を従来の抗体と比較したデータ>
PPMX-T003は、当社独自技術ICOS法により取得したユニークなヒト抗体であり、TfRに結合することでがん細胞の鉄の取り込みを阻害し、強力な抗腫瘍効果を示しております。これにより、化学療法剤で生じるような患者さんの大幅なQOL(※32)低下を伴わない治療効果が期待されます。また、試験管内で幅広い種類の血液がんに抗腫瘍効果を発揮し、各種マウスモデルでがん縮小/延命効果を発揮いたしました。
以下のデータ(表)は様々な血液がん細胞に対する増殖抑制効果のデータです。一番下の正常細胞(臍帯由来細胞)に対して、最下段以外の全てが種々のがん細胞で、そのEC50(細胞増殖を50%抑制するために必要な薬剤濃度)は2桁以上少なく、がん細胞が正常細胞に比較してPPMX-T003に敏感で、強く増殖抑制されることが判ります。
<正常細胞に対してがん細胞に強く作用するPPMX-T003の細胞増殖抑制の比較データ(表)>
(注)細胞株とは、がん組織から採取し、安定的に増殖・培養できるようにした実験用細胞のこと
以下のデータは担癌マウスを用いた動物実験データです。急性骨髄性白血病(AML)や悪性リンパ腫で薬剤の用量依存的にがん細胞の増殖が抑制されていることが判ります。いずれも横軸は日数、縦軸は腫瘍の大きさで、矢印は薬剤の投与を表しています。二つのグラフはいずれも、薬剤無し(Control)で日数と共に急速に腫瘍体積が大きくなっています。これに対してPPMX-T003を投与すると、投与量が増えるとともに腫瘍体積の増大が抑制されています。特に30日目以降は、その後に薬剤の投与が行われていないのに腫瘍体積は増えてきません。つまり、PPMX-T003は用量依存的に腫瘍体積の増加を抑制し、投与量が多い場合はがんを消失していることが確認できました。

(出典 Zhang et al.(2017) AACR Annual Meeting, Chicago, USA DOI: 10.1158/1538-7445.AM2017-5586)
b.開発状況
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発成果最適展開支援プログラムの採択後、2018年にサルを用いた非臨床毒性試験(GLP毒性試験)を完了し、2015年に終了した予備試験と同様の結果を得ております。また、本非臨床毒性試験完了をもって研究開発成果最適展開プログラムは終了し、現在、自社単独で治験を実施しております。
PPMX-T003は種々の血液がんで治療効果が期待されますが、最初に真性多血症治療薬の開発に取り組んでいます。真性多血症は赤血球が通常より多い疾患で血栓生成が問題です。現在の治療法は、瀉血(しゃけつ)又は抗がん剤等の薬物療法です。瀉血は体内の鉄分が不足するため、貧血や脱力感、うつ病、手足むずむず病等の精神症状を伴い、QOLが悪いという課題があります。また、抗がん剤等の既存の薬物療法は骨髄抑制や2次がん発症リスク等の問題があります。これに対して、PPMX-T003は、既存の治療法で問題となる副作用の大幅な低減が期待されます。
以下に真性多血症の標準的治療法と課題について図に示します。
<真性多血症と治療>
以下のデータは、順天堂大学における真性多血症の患者さんの瀉血検体を用いた内因性赤芽球コロニーの増殖試験の結果です。PPMX-T003を加えた細胞培養の実験で、赤芽球コロニーの形成が阻害されていることが判ります。これは、PPMX-T003の真性多血症治療薬としての可能性が、ヒトの検体を用いて検証された、重要な事例です。

(出所:第81回日本血液学会学術集会「抗TfR1抗体による真性多血症内因性赤芽球コロニーの形成阻害」)
2019年11月より真性多血症治療薬としての第Ⅰ相試験を開始し、2021年3月に健常人の第Ⅰ相試験は終了しました。現在患者さんの第Ⅰ相試験の準備中であります。
治験名日本人健康成人を対象としたPPMX-T003の二重盲検、ランダム化、プラセボ対照、単回持続静脈内投与による薬物動態及び安全性を評価する第Ⅰ相試験
治験フェーズ第Ⅰ相試験
対象健常人
実施国日本
評価項目安全性、薬物動態 (主要)
免疫原生、薬力学作用の探索的検討 (副次的)
状態終了

健常人の第Ⅰ相試験は、インフュージョンリアクション(抗体等の投与に伴う発熱等の反応のこと)の対策及び新型コロナウイルス感染拡大の影響により治験が中断したことにより計画より約4カ月遅れで終了しました。健常人の第Ⅰ相試験の、主要目的の安全性では、日本人健康成人男性へのPPMX-T003の投与量0.25mg/Kgまでの単回持続静脈内投与において、安全性が確認されたと考えております。また、以下のデータのようにPPMX-T003の投与により用量依存的に網状赤血球が減少し、ヘマトクリット値も低下しました。これは、PPMX-T003がトランスフェリン受容体を高発現している赤芽球に作用して、網状赤血球が低減したと考えられます。赤血球低下に伴い減少したヘマトクリット値は1か月間に渡り低下しその後回復しました。ヘマトクリット値は血液中の赤血球の割合で、真性多血症ではこの値が大きくなります。(網状赤血球とは、骨髄から末梢血に入ったばかりの幼若赤血球で、1日で成熟赤血球になります。骨髄における赤芽球造血を反映しています。)

真性多血症とは別に、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫等の血液がん及び固形がんの治療薬としての作用機構を明確化するため、名古屋大学、藤田医科大学、群馬大学等と共同で臨床効果に関する創薬研究を推進しております。
c.対象疾患
血液がん
d.ライセンスの状況
本書提出日現在、日本及びグローバルでのライセンスの提携先は決まっておりません。
③ PPMX-T004
a.特徴
PPMX-T004は、がん細胞表面に存在するカドヘリン3(CDH3)を標的とした開発中の治療薬です。CDH3は、細胞間接着蛋白質として機能すると考えられています。PPMX-T004は、遺伝子改変した抗体に薬物を標識した抗体薬剤複合体で、これと結合したがん細胞を標識した薬物で殺傷することができるため、患者さんの免疫機能の状態に関わらず、高い効果が期待できます。PPMX-T004では、固形がんの細胞表面に多く発現しているCDH3を標的とし、がんの細胞に対し高い内在性を有する抗体を用いています。
標的がPPMX-T002と同一であるため、その他の対象疾患もPPMX-T002と同種であることが想定されますが、放射線免疫療法(※33)とは異なり、施設を選ばない点でPPMX-T002との棲み分けが可能であると共に、大きな利便性を持つものと考えています。
b.開発状況
導出先との契約により開発状況は開示できません。
c.対象疾患
CDH3を発現する固形がん
d.ライセンスの状況
富士フイルム株式会社に導出済みです。
④ PPMX-T001
中外製薬株式会社 開発コード等:
「GC33」抗グリピカン3ヒト化モノクローナル抗体 一般名:codrituzumab
「ERY974」抗グリピカン3/CD3バイスペシフィック抗体(※34)
a.特徴
PPMX-T001は、遺伝子チップを用いたトランスクリプトーム解析により見出された、肝臓がんで特異的に発現が高いグリピカン3(GPC3)を標的としております。
LSBMの油谷浩幸教授を中心とするグループでは、DNAマイクロアレイ(※35)を用いてトランスクリプトーム解析を系統的に実施しました。この解析により、肝臓がん組織と正常組織の比較からがんに特異的に発現する遺伝子を捉えることに成功しております。その中の1つの分子がGPC3であり、GPC3は、細胞膜上に存在する約60kDaの糖蛋白質で、グリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)アンカーにより細胞膜に結合しています。トランスクリプトーム解析から、GPC3遺伝子が胎児期の肝臓と肝がん細胞において高発現していることが確認されました。エピトープの異なる複数の抗体を用いて、各種病理標本で組織染色を行った結果、GPC3は肝がん組織に発現している一方で、成人正常肝臓、肝炎及び肝硬変の組織には発現が認められなかったことから、肝臓がん治療薬としての可能性を見出しました。この技術を譲り受けた中外製薬株式会社が、独自に取得した抗体を治療薬として開発しております。
b.開発状況
この開発中の治療薬は、単剤は第Ⅰ相試験で患者さんでの有効性が確認されましたが、第Ⅱ相試験は、主要評価項目が未達となり、現在、試験は実施されておりません。一方、アテゾリズマブとの併用で第Ⅰ相試験を行い、患者さんでの有効性が確認されたことが学会発表されております。さらに、バイスペシフィック抗体 ERY974(抗GPC3-抗CD3)の米国及び欧州での第Ⅰ相試験が、2019年8月に終了し、国内での第Ⅰ相試験を実施中です。
c.対象疾患
肝臓がん
d.ライセンスの状況
2006年9月に、肝臓がんを適応として、中外製薬株式会社との間に抗GPC3抗体の特許を受ける権利等の譲渡に関する契約を締結しました。 本契約には、開発の全部を中止する場合は、事前に又は中止から一ヶ月以内に中外製薬株式会社から通知を受けることになっておりますが、その他の情報の入手については、規定されておらず、限定的になる可能性があります。
なお、当該契約の契約期間は、当該特許の存続期間満了日迄であり、この契約で定めている特許は、次のとおりです。「第2 事業の状況 2 事業等のリスク (3) パイプラインに関するリスク ① PPMX-T001について」をご参照ください。
権利者:中外製薬株式会社
出願番号:PCT/JP2002/006237
⑤ その他
当社は患者組織を利用することで取得した疾患特異的な標的候補を多数保有しております。これら標的群に対する抗体取得を順次進めており、Naked抗体(※36)、ARMED抗体等、多様なプラットフォームを用いた自社開発プログラムを推進中です。
<用語集>
用語説明
※1抗体抗原(免疫反応を引き起こす物質)の構造に応じて1対1の関係で特異的に結合する蛋白質。この特異的な結合力を利用して、がんや感染症、疾患を診断・治療する医薬品(分子標的薬)に応用されます。
※2シーズ医薬品の候補となる物質。
※3ハイブリドーマ法抗体を産生する細胞と不死化細胞を融合して、1種類の抗体を多量に産生する技術。免疫方法や細胞の調整といった手法が確立され、ファージディスプレイ法と比較して安価で簡便であることから、広く一般的に行われている。親和性の高い抗体が取得可能ですが、取得した抗体がヒト以外の動物由来のものであるため、医薬品として使用するためには抗体をヒト化する必要があります。また、ファージディスプレイ法と比較して複雑な構造の標的分子に対する抗体の作成が困難です。
※4親和性ある物質が特定の物質と選択的に結合しようとする性質、傾向。
※5ファージ細菌に感染するウイルスの総称。ファージに様々な遺伝子を組み込むことで細菌に人為的に特定の蛋白質を作らせることができます。
抗体ライブラリある特定の手段あるいは目的を以て構成された抗体あるいは抗体遺伝子の集合。
※6スクリーニング様々な指標で目的とする物質を選択する操作。
※7同定一般的に、ある対象が、どのような分子であるのか、何という分子であるのかを定めることです。
※8ファージディスプレイ法細菌に感染するウイルスであるファージに抗体分子を表出する技術。標的分子と反応させることで、特異的に結合する抗体クローンを見つけ出すことができます。ハイブリドーマ法と比較してヒト抗体ライブラリから直接ヒト抗体を取得できる利点がある一方、コストが高く、抗体ライブラリ作製に熟練が必要であることに加え、一般的には親和性の高い抗体の取得が困難です。
※9マウス抗体マウスに免疫して得られた抗体。
※10キメラ抗体遺伝子工学的手法によりマウス抗体の可変領域とヒト抗体の定常領域を連結したもの。
※11ヒト化抗体遺伝子工学を用いてマウスで作成した抗体の抗原結合部位をヒト由来の抗体分子に移植して作製された抗体分子で、配列的にキメラ抗体より、ヒト抗体に近いものです。
※12完全ヒト抗体蛋白質配列が全てヒト遺伝子に由来する抗体。他の生物種由来の配列を含まないため、より安全性が高いと考えられています。
※13抗体医薬品抗体の様々な機能を利用した医薬品。抗体はその構造の同一性から、製造技術の確立が進み、バイオ医薬品としての開発が盛んに行われています。
※14上市医薬品として承認され、実際に市販されること。
※15ADCAntibody Drug Conjugate(抗体薬物複合体)の略。強力な細胞傷害活性を持つ薬物が連結されている抗体。ADCは標的を介して細胞内部に取り込まれ、連結している薬物の効果で細胞を殺傷します。
※16IgG型抗体血液中に最も多く存在する抗体の一種。細菌や毒素と結合する能力が高く、血中にとどまる時間が長いという性質があります。
※17抗体配列抗体は蛋白質の一種であり、そのアミノ酸配列の並びのことを指す。
※18バイオマーカー生体内の生物学的変化を定量的に把握するため、血中蛋白質量等の生体情報を数値化・定量化した指標。疾患の有無や進行度合いの指標になります。
※19PTX3Pentraxin3の略。体内の炎症により産生される炎症性蛋白質の一つ。
ELISAELISAは、Enzyme Linked ImmunoSorbent Assay(酵素免疫測定法)の略。試料溶液中に含まれる目的物(一般的には蛋白質)を、これに特異的に結合する抗体で捕捉し、酵素反応に基づく発光、発色をシグナルとして検出することで目的物の濃度を計測する方法。
※20CROContract Research Organization(開発業務受託機関)の略。企業、医療機関、行政機関等の依頼により、医薬品、医療機器、食品(特定保健用健康食品)、化粧品等の臨床開発及び臨床試験(治験)に関わる業務を、受託、又は労働者派遣等で支援する機関のこと。
※21CMOContract Manufacturing Organization(医薬品製造受託機関)の略。製薬企業から医薬品(治験薬・市販薬を含む)の製造を受託します。
※22特異性抗体が特定の抗原にのみ結合して他とは結合しない性質。

用語説明
※23ヒトナイーブ抗体ライブラリ人のリンパ球由来抗体遺伝子をもとに構築された抗体配列の集合体。ナイーブとは未だ特性の抗原に対して刺激を受けていない状態。刺激をうけると特定の抗原に対して特異性と親和性を向上させていきます。
※24エピトープ抗体が標的とする物質の結合領域。
※25免疫寛容体の中で作られる抗体が自分の細胞を攻撃しないように自己抗原に対する抗体をあらかじめ排除する機構。抗体が作られる初期の段階で選別が行われます。
※26ラクダ抗体ラクダに由来する抗体。ヒトと異なり、H鎖のみの単鎖抗体が存在しますが、単鎖抗体は、分子量が小さい、物理的に安定であるなど、ヒト抗体とは異なる利点を持ちます。
※27アジュバント抗原と一緒に投与して、その効果を高めるために使用する物質。
※28プライマー遺伝子を増幅する際の起点として使用されるDNA断片。
※29トランスクリプトーム特定の状況下において細胞中に存在するmRNAの総体。
mRNA:Messenger RNA(伝令RNA)の略。蛋白質に翻訳される遺伝子情報を持つRNA(遺伝子の情報を伝える物質)のこと。
※30リバーストランスクリプトーム特定の状況下での発現産物の総体から発現産物を同定するトランスクリプトームから逆の過程を経ることから想起した造語。
※31Armed抗体放射性同位体や細胞傷害剤等を連結した抗体。連結した物質の種類により、例えばがん細胞への攻撃力を高めるなどが期待できます。
※32QOLQuality Of Lifeの略。日本語では「生活の質」「生命の質」と訳されます。患者さんが、人間らしく満足行く生活が送れているのかという尺度として捉えられます。
※33放射線免疫療法(RIT:Radio Immuno Therapy)放射線免疫療法と言います。放射性核種で標識した抗体を患者さんに投与し、これを腫瘍に到達させることで、腫瘍を殺傷する治療法のことを指します。
※34バイスペシフィック抗体2つの異なる抗原と結合できる抗体。
※35DNAマイクロアレイ細胞内の遺伝子発現量を測定するために、多数のDNA断片をガラス等の基板上に高密度に配列した分析器具。
※36Naked抗体何の修飾も施していない抗体です。