有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/03/12 15:00
【資料】
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【項目】
154項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社グループは、「信頼とともに」という経営理念の下、旧サイバートラスト㈱の認証技術と旧商号ミラクル・リナックス㈱のLinux/OSS技術を組み合わせ、ITインフラに関わる専門性・中立性の高い技術で、安心・安全な社会を実現します。
(2) 経営環境及び経営戦略
世界的に広がる新型コロナウイルス感染症の影響により、内外経済に対する先行きの不透明な状況が続くものと見込まれます。
このような経営環境の中で、当社グループは、「ヒト」「モノ」「コト」の正しさを証明し、デジタル社会においてさまざまなサービスの安心・安全な利用を支援するトラストサービスプロバイダーとして、日本のみならずアジア・欧米に展開するグローバル企業を目指し、具体的には以下の施策を展開してまいります。
①SSL/TLS証明書:SureServer
当社グループは、国内のEV SSL/TLS証明書(以下、EV 証明書)市場において枚数シェアでNo.1(Netcraft Ltd.社の「SSL Survey」グローバルでの調査データをもとに2020年10月に算出)となっております。EV証明書を含むSSL/TLS証明書の市場規模については、株式会社富士キメラ総研「2019ネットワークセキュリティビジネス調査総覧」では、堅調な拡大が見込まれる市場として位置付けられております。また当社グループでは、以下の要因により、今後は従来以上の成長が見込めると当社グループでは予測しております。
・Webサイト閲覧の安全性向上を目的に、Googleなどを中心に常時SSL化推進と警告表示強化
・通信プロトコルのバージョンアップ(HTTP/2)により、SSL化ページの表示速度高速化
・Webサイトの常時SSL化・HTTP/2の普及により、企業が導入するサーバー証明書数が増大
・証明書ライセンスと証明書管理のコストが上昇
このような中、当社グループはSureServerの基本戦略として、既存のDV(Domain Validation:ドメイン認証)/OV(Organization Validation:企業認証)が占めている市場に、SureServerを中心として最も信頼性の高いEV証明書を浸透させる施策を講じてまいります。
②デバイス証明書管理サービス:サイバートラスト デバイスID
デバイス認証市場で、当社グループが主要市場の再販売業者との提携を強化し、その販売実績も拡大している状況であること等と比較した競合先の販売推進の動向等から、現在の市場シェアは当社グループがほぼ独占している状態であると考えております。またデバイス認証市場規模については、以下の要因により、今後は従来以上の成長が見込めると当社グループでは予測しております。
・企業でのクラウド型サービスの利用増加に伴い、クラウドアクセス時の認証ニーズ増加
・セキュリティ強化を目的に、パスワードなどの“知識情報”と物理トークンなどの“所持情報”、指紋などの“生体情報”から二つ以上の要素を必要とする多要素認証の導入増加
さらに電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した2019年度の国内パソコン(ノートPC)出荷台数は、前年度比23.3%増の690万3000台であり、オフィスの外で働く「テレワーク」が普及していることなどを背景に、内訳ではノート型が29.8%増の524万7000台で2年連続前年度比増、薄型軽量で持ち運びのしやすいモバイルノートは6.2%増の165万6000台で3年連続前年度比増と大きく伸長しています。
当社グループは、このテレワークの普及などによるパソコン(ノートPC)出荷台数が今後も引き続き増加していくと予想しており、これがデバイス認証市場の大幅な成長につながっていくと考えております。このような中、当社グループはデバイス証明書管理サービス「サイバートラスト デバイスID」の基本戦略として、ネットワーク機器ベンダーやセキュリティツールベンダーと技術協業し、主要市場の再販売業者に対してさらなる優位性強化を図ります。
③本人確認・電子署名サービス:iTrust
「iTrust」は、当社グループが提供する本人確認・電子署名サービスのための認証基盤です。本人確認・電子署名サービスとは電子取引の信頼性を高めるための電子署名、eシール、タイムスタンプなどを含む包括的な電子認証サービスのことを指します。
マイナンバーカードに格納された電子証明書等を活用する公的個人認証サービスが総務大臣の認定を受けることを前提に民間事業者の利用が可能となり電子的な本人確認が可能となりました。また、従来、書面での手続きが必要とされていた手続きのオンライン化に関する検討・法整備が進む中で、ターゲット市場として以下の3つのセクターを設定し、各々のセクターに強みを持つパートナー企業と提携して、電子認証サービスを提供します。
セクターサービス対象業務
ファイナンシャルセクター銀行 口座開設・法人融資契約
保険 保険契約・控除証明書
証券 口座開設
クレジットカード申込み
銀行 住宅ローン契約
金融 金銭消費貸借契約
不動産 売買契約・賃貸契約
その他 民間企業間契約など
パブリックセクター自治体 ワンストップサービス
自治体 行政サービス
自治体 情報連携サービス
その他 本人確認
ニュービジネスセクターシェアサービス 新規登録
フィンテック 新規登録
仮想通貨取引所 口座開設
その他 民間企業間契約、本人確認

④組込みシステム向けソリューション:EM+PLS
日本国内の組込みソリューション市場は、ボードコンピューター(*1)や、それらを組み込んだコンポーネントを中心とするハードウエア関連市場と、ミドルウェアや開発ツールなどのソフトウエア関連市場及びアプリケーションや保守、コンサルティングなどのサービス関連市場で構成されていますが、当社グループは、どの市場も堅調に推移していると考えております。このような中、当社グループは、長期間使用できるIoT・組込み機器専用のLinuxと、ライフサイクルを通してIoT機器の真正性を担保するプラットフォーム、IoT機器の脆弱性を検査するツールをメニュー化し、IoT製品の継続的な開発と長期利用を支援するサービス「EM+PLS(イーエムプラス)」を提供しています。開発者を支援する国際団体Eclipse FoundationのIoT開発者調査(2020年版)によると、IoT機器で採用されるLinuxの採用傾向は43%でトップであるため、今後市場ではLinux採用がデファクトとなり、従来のRTOSから移行する組込み機器の脆弱性対策の機運が高まるものと予測しており、フォーカスセグメントとして日本企業に国際競争力があり、出荷台数が多い車載/FA(*2)/MFP(*3)をターゲットに、EM+PLSを中心に組込み機器のセキュアなIoT化及び高機能化を支援してまいります。
⑤IoT機器のライフサイクル管理:セキュア IoT プラットフォーム
IoT機器を製造・販売するにあたって、以下のような法規制の動きに注意し対応する必要があります。
・ハードウエア(IoT機器)のチップに鍵を入れる指針(総務省、アメリカ国土安全保障省)
IoT機器、デバイスの保護と完全性を強化するためにハードウエアの設計段階でチップに鍵を埋め込みセキュリティ実装することを米国国土安全保障省が「Strategic Principles for Securing the Internet of Things」で提唱しています。日本政府についても総務省が「IoTセキュリティ総合対策プログレスレポート 2018」で、IC チップ内に電子証明書を格納することに言及しています。
・契約不適合責任(瑕疵担保責任)の時効を10年に変更
民法改正により瑕疵担保、契約不適合責任の消滅時効期間が最長で引き渡しから10年に変更されました。これにより機器、デバイスのソフトウエアについても、引き渡しから10年間は適切なアップデートによって品質を担保する必要があります。
・法定リコール(道路運送車両法、消費生活用製品安全法など)
機器、デバイスの種類によっては法律によりリコールの義務を負います。
スマートホームやコネクテッドカーにスマート家電、そしてスマート工場、スマートインフラなど、IoT化は、わたしたちの暮らしや仕事に、新しい価値や豊かさをもたらします。その一方で、あらゆるモノがインターネットにつながる社会は、悪意のあるハッカーや犯罪組織などから、国境を越えて狙われる危険性もはらんでいます。こうした脅威を防ぎ、安全で信頼できるIoT機器やスマートデバイスを開発し、廃棄まで管理していくために、当社グループは高信頼の公開鍵基盤(PKI)技術を用いたセキュアIoTプラットフォーム(Secure IoT Platform)を提唱しています。当社グループは、PKIの認証局を20年以上運営する実績を有している点に優位性があるものと考えております。
このセキュアIoTプラットフォームのターゲット市場については、当社グループは以下のとおり考えており、これらの市場に向けた施策を展開してまいります。・1stターゲット:産業用途・コンシューマー
・2ndターゲット:自動車・医療・軍事/航空/宇宙
・3rdターゲット:通信・コンピューター
⑥IoT向け認証局
今後、5G(第5世代移動通信システム)による同時多数接続の実現により、スマートフォンを含むIoT機器の出荷台数は、英国の調査会社IHSマークイットが2019年7月に公開した「世界の分野別IoT機器出荷実績と予測」によると2025年には200億台、累計で800億台に達する見込みで、管理すべき機器の数は飛躍的に増加することが予想されます。
当社グループは、現行の証明書発行枚数の機能を拡張し、発行枚数:1,000万枚~2,000万枚、管理枚数:1億枚、平均発行枚数:100枚/秒、発行までの時間:1秒以下とするとともに、規模に応じてさらにスケール可能なIoT向け認証局サービスを開発しており、経済産業省の補助金事業を活用して、2020年11月より実際のIoT機器を利用した実証事業を実施し、その有効性を確認しました。これにより、IoT機器を対象とした場合においても、「モノ」がインターネットに接続される際の4大リスク、すなわち、盗聴、改ざん、なりすまし、事後否認を防ぎ、対象を正しく認証・特定することができる機能を提供することが可能となります。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、デジタル社会においてさまざまなサービスの安心・安全な利用を支援するトラストサービスプロバイダーを目指しています。認証・セキュリティサービス、OSSサービス、IoTサービスの3つの領域に注力し、トラストサービス事業の拡大を推進してまいります。
現時点におきましては、これら戦略の進捗として「売上高」及び事業のサービス化の進捗として本業の収益性を図る「営業利益及び営業利益率」を経営の最重要指標と考えております。
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループは主に以下の4つを対処すべき課題と考えております。
・新型コロナウイルスの感染拡大の影響に対する対策
・当社グループ事業を支える人材の獲得と育成
・合併会社と被合併会社の経営資源統合を通じたシナジー発揮
・事業機会をとらえた新規事業の立ち上げと育成
①新型コロナウイルスの感染拡大の影響に対する対策
新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響により、内外経済の先行きにつきましては、感染症の収束時期の見通しが立たず、厳しい状況が続くと見込まれ、感染症が内外経済をさらに下振れさせるリスクに十分注意する必要があります。
当社は、需要増の見込まれるテレワークに必要となるデバイス認証サービスに注力しつつ、その他の製品・サービスについても、顧客の需要の変化に対応した事業戦略、販売戦略の見直しを図ってまいります。
また、テレワークの導入など、継続的に安定した事業活動ができるよう役職員への感染拡大防止に向け最大限の配慮を行ってまいります。
②当社グループ事業を支える人材の獲得と育成
IT人材の需要が高まる中、当社の求める水準を満たす人材の確保が難しくなってきており、今後もこの傾向は続くものと考えています。
当社は、合併前より当社グループに多数在籍している独自性と高い技術力を有する技術者に加えて、合併により、新たな技術者も加わり、さまざまな分野で高い専門性を有する技術者を多数擁することとなりました。さらに、2020年5月にリネオソリューションズ株式会社が完全子会社となったことで、当社グループ従業員におけるオープンソースソフトウエアのエンジニアは100名の規模に至りました、また認証・セキュリティに関するエンジニアを40名擁しております(2021年2月28日現在)。今後、それぞれの専門性を発揮しつつ相互に刺激を与えあう環境をさらに整えていくことで、技術者の成長を促し、必要な人材の確保に当たってまいります。一方で、当社グループが属する情報サービス業界は、常に革新的な技術・サービスが求められ、既存製品の機能向上はもとより、市場の技術革新に速やかに対応しながら、より先進的な技術を創出する必要があります。そのためには、高度かつ専門的な知識・技術を有した人材の育成及び定着を図ることが重要と認識しております。
今後も、新規事業領域への展開を含めて当該領域技術・業界動向に精通した専門知識及びスキルを有した優秀な人材の育成を進めてまいります。
③合併会社と被合併会社の経営資源統合を通じたシナジー発揮
合併により、組織文化・風土、経営資源、意思決定方式が異なる企業が統合されることになり、またその統合対象は、当社及び当社グループを構成するすべての要素になることから、内部統制システムの再構築が必要であると認識しています。経営戦略、人事・評価制度、会計制度、予算・実績管理、意思決定及び決裁権限などの経営統合(マネジメントフレーム)に関する各種社内規程などの整備をするとともに、社内管理体制の強化を継続して進めてまいります。また、合併初年度は物理的にオフィスが離れておりましたが、2018年8月に本社移転し、オフィスを統合したことで経営資源(人材、技術、情報、業務インフラ、設備等)の有効活用、組織的一体感による組織基盤の強化が進んでおります。引き続き、経営効率化及び財務体質の強化を目指すとともに、社内管理体制については、四半期決算を中心とする会計制度や体制の充実、内部監査体制の整備などにより、強化を図ってまいります。
④事業機会をとらえた新規事業の立ち上げと育成
IoT化は、わたしたちの暮らしや仕事に、新しい価値や豊かさをもたらします。センサーの小型軽量化、低廉化が進み、すべてのモノがネットワークにつながるIoTの爆発的な普及が進んでおり、冷蔵庫やテレビといった家電、自動車、ロボット、スマートメーター等のモノの活用だけでなく、IoT機器で得られるデータを利活用した新たなビジネスやサービスが創出されつつあります。
2020年4月にIDC Japanは自社サイト内の公開記事で、国内IoT市場におけるユーザー支出額は2019年の実績(見込値)は7兆1,537億円であり、その後、2019年~2024年の年間平均成長率12.1%で成長し、2024年には12兆6,363億円に達すると発表しており、今後もIoT市場の成長が予測されています。他方、IoT機器が普及する一方で、IoT機器を狙ったサイバー攻撃は近年増加傾向にあります。センサーやウェブカメラなどのIoT機器は、機器の性能が限定されている、管理が行き届きにくい、ライフサイクルが長いなど、サイバー攻撃に狙われやすい特徴を持っています。こうした脅威を防ぎ、安全で信頼できる高品質のセキュリティソリューションの提供、組込みIoT機器の真正性を担保しセキュリティ脅威から守る共通プラットフォームの提供など、事業機会をとらえて当社の独自能力を発揮し、独自の価値を提供することで事業規模の拡大を図ってまいります。
(*1)ボードコンピューター
一枚の基板の上にCPU、メモリをはじめ様々な機能やインタフェースを搭載している小型のコンピューター
(*2)FA
Factory Automationの略で、コンピューター制御技術を用いて工場を自動化すること、または自動化に使われる機器のこと
(*3)MFP
Multi Function Peripheral/Product/Printerの略で、プリンター、複写機、スキャナー、ファクシミリなど複数の機能を一つの筐体(きょうたい)にまとめた機器の総称