有価証券届出書(新規公開時)

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2020/07/03 15:00
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【項目】
129項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は、「あらゆる産業において、ソフトウエア技術が生み出す新たな付加価値を通じて、お客様に安心と満足そして豊かさを提供すると共に、社員を大切にし、株主様に貢献する」ことを企業理念としております。この企業理念を基本とし、高度なソフトウエア技術力によりお客様の課題を解決し、お客様の製品や商品・インフラ開発を支援しております。また、社員全員が当社を愛し、自ら成長し続ける会社環境を提供し、社員一人ひとりが希望とやりがいが持てる会社を実現します。そして、地域社会と共に発展できる地域のコア企業としての役割を目指します。
(2) 経営戦略等
当社は、システム開発及びその関連サービスの単一セグメントですが、事業の構成を「相対的に安定したベースロード的な利益体質の事業基盤:ソリューションカテゴリー」と「半導体工場内システムの運用・保守を支援する安定分野:半導体カテゴリー」及び「高度なソフトウエア技術により新市場を創出する成長分野:先進技術ソリューションカテゴリー」の3つのカテゴリーによる構造としております。現在の事業環境下における、各カテゴリーの事業展開方針及び成長戦略は次のとおりです。
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①ソリューションカテゴリー
本カテゴリーにおけるサービスは、産業領域を特化せずあらゆる産業分野をターゲットとして展開するものであります。システム開発において、システムの要件定義から、設計、コーディング(注1)、テスト・検証及びシステム運用・保守までのIT開発全般にわたるバリューチェーンに対応した開発チームを用意する戦略を立てております。さらに、お客様のご要望に応じて、請負(開発・運用保守)及び派遣の両形態で技術及び人材を提供できる社内体制を整備しております。
このように、本カテゴリーは、大手企業とその関連会社を中心とした顧客戦略に基づき、事業領域を特化せず、開発バリューチェーン全体を網羅し、お客様の要求する技術及び人材提供モデルに柔軟に対応することを経営戦略としております。
②半導体カテゴリー
日本における半導体産業は1980年代から1990年代に比べ縮小しているものの、NAND Flashメモリ(注2)においては、世界トップレベルの製造量を維持していると判断しております(*1)。特にNAND Flashメモリ工場は、年に1工場の割合で増加しており、今後も継続的に建設されると予想しております。当社は、半導体工場を有する顧客との強固な関係を維持し、安定的に人員を提供する体制を整えられるよう努めております。
このように、本カテゴリーは、NAND Flashメモリ工場の今後の計画的な増加に対応することを経営戦略としております。
③先進技術ソリューションカテゴリー
本カテゴリーは、ネットワーク・画像認識・ハードウエア制御・メモリ高速化等最新の高度技術を駆使して、ソフトウエアの高機能化及び品質向上を実現するサービスを提供しております。現在はAIテクノロジー業務として論文調査、論文アルゴリズムの実装・評価、アノテーションサービス、メモリ高速化業務としてアルゴリズムレベルの最適化、ハードウエアレベルの最適化、画像認識ソフトウエア開発などを業務の中心としており、この分野での業容拡大を目指してまいります。これに加え、現在は収益化はしておりませんが、当社としての次世代AIプロセッサ(注3)用ソフトウエア技術を獲得し、他社との差異化を進めるために、以下の戦略に基づき展開してまいります。
従来のコンピュータアーキテクチャ(注4)上のソフトウエア技術では、他社との差異化は困難であります。このため、当社は、スピントロニクス技術(注5)(STT-MRAM等)搭載のAIプロセッサの基本技術を所有する国立大学法人東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター(センター長 遠藤哲郎教授。 以下、CIES)との間で、共同研究を行っております(詳細は、「5.研究開発活動の状況」をご参照ください。)。
当該共同研究の目的は、次世代メモリの信頼性確保に向けた研究開発、及び次世代半導体メモリのAIプロセッサ用アプリケーションソフトウエアの研究開発であります。研究成果として期待されるスピントロニクス技術(STT-MRAM等)を搭載した新たなコンピュータアーキテクチャ上でのソフトウエア技術(Firmware:FWやMiddleware:MW(注6)、アプリケーション)は、当社としての次世代AIプロセッサ用ソフトウエア技術となり得ると考えております。当社は、この技術をもって、お客様からソフトウエア開発業務を受託してまいります。
(3) 経営環境
①ソリューションカテゴリー
近年ソフトウエアは、組込み機器やコンピュータに代表されるハードウエアの進歩と共にその需要は増大してきました。さらに今後は、ITを中心にサービスや価値が再設計される時代に入ると認識しております。このため、AIや自動運転、ロボット等に搭載されるソフトウエアが、ハードウエアを決定する「ソフトウエア中心」の時代になるといわれ、益々ソフトウエアの需要が拡大すると予想しております。
国内ソフトウエア市場は、右肩上がりの成長を持続する反面(*2)、ソフトウエア開発を支えるIT人材の不足が予想されます(*3)。つまり、日本のソフトウエア市場は益々拡大を重ね、当社のようなソフトウエアを専門として事業展開している企業の需要が益々高まっていき、一方で、IT人材をいかに獲得するかがこれらの企業の大きな課題になると考えております。
②半導体カテゴリー
半導体市場は、需給バランスの影響により「半導体サイクル」といわれる好不況の大きな波が存在しますが、全体としてはプラスの成長を維持しております(*4)。国内の半導体市場は2020年で3.7兆円あり(*3)、当社調べによると、製品別半導体全市場のうち、約1/3をメモリデバイス(注7)が占め、DRAM(注8)とNAND Flash メモリがその市場をほぼ二分しております(*5)。特にNAND Flashメモリは、主にスマートフォン等の記憶デバイスとして採用されておりますが、近年のIoTによるデータ量の急激な増大に伴い今後も市場が拡大すると当社独自に予想しております。 NAND Flashメモリを製造しているメーカは、大きく3グループに分けられ、それぞれが市場の約1/3ずつを分け合う構造となっております(*6)。当社の得意先である「キオクシア(旧東芝メモリ)+WD(ウエスタンデジタル)」グループもそのひとつであり、全ての生産をキオクシアグループの国内工場で行っております。
③先進技術ソリューションカテゴリー
当社が今後注力する市場である、AI(人工知能:Artificial Intelligence)、ロボット、自動運転、IoT等の新技術は、今後の企業活動で最も重要な技術と見ており、事業の成長を担う市場としては妥当であると考えております。
これらのソフトウエア開発では、膨大なデータ量を必要とし、高性能なコンピュータが必要とされておりますが、従来のコンピュータ処理能力は、半導体の微細化(配線幅を細くすること)に応じて動作周波数を高めることでプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)性能を向上させてきました。その後は1つの集積回路(LSI:Large Scale Integrated Circuit)に集積するプロセッサの数を増やす「マルチコア(注9)化」で性能を高めてきましたが、2015年頃になるとマルチコア化にも限界が見えてきました。このような状況に対応するために、プロセッサを特定の処理向けに最適化する「ドメイン固有アーキテクチャ」という考え方が登場しました。このため、米アマゾン社や米マイクロソフト社、米グーグル社といった情報技術(IT)の巨大企業が、AIやクラウドコンピューティングに特化した専用チップの開発に動きました。しかし、AI の進化に求められるプロセッサの処理能力は、計算に使用するデータ量を指数関数的に増大させたため、専用チップ化の方法でも消費電力が高くなるといった問題が浮上し、根本的にプロセッサのアーキテクチャ(構造)を考え直さなければならない時代に入ってきたと見ております。このことから、蓄積されたデータを中心とする「データセントリック(注10)」という新たなコンピューティングシステムが提案されております。データセントリックにおいては、データのやり取りがスムーズに行われる新たなコンピューティングシステムと新たな半導体メモリが不可欠であると考えております。
(4) 目標とする経営指標
当社は、事業規模を表す売上高と本業の収益力を表す営業利益率を重視しております。安定した事業運営を行うと共に事業拡大、収益性向上を目指し、企業価値の継続的向上に努めてまいります。
(5) 対処すべき課題
①IT人材の確保
優秀な技術者の確保は、お客様のすべてのニーズをキャッチアップし会社を発展させる上で不可欠です。このため当社は、中途採用に加え継続的な新卒採用活動も強化し、優秀な技術者の確保に努めております。また、パートナー企業からの技術者の受け入れや地方工場へ派遣する場合の採用には、地方の教育機関と連携した就職支援を行っております。今後は大学とのインターンシップによる優秀な人材の確保を実現する予定であります。
②人材の育成
人材の育成に関しては、新卒入社時に数か月に及ぶ社内教育を実施し、その後もOJTを長期にわたり実施することで優秀な技術者の即戦力化を目指しております。
③高度ソフトウエア技術力の確保
今後AIや画像処理の分野において、他社との差異化を行うためには比類まれな能力の技術者がキーであります。当社は、既に博士号を取得している数名の技術者を中心に、その人的チャネルを駆使して人材確保に当たります。
④事業基盤の強化
a. 半導体NAND Flashメモリ工場:今後もネットワークサーバやスマートフォン需要の増大から国内に半導体メモリ工場が建設されると予測しております。生産ラインやITシステムの開発及び運用・保守業務の拡大を図り、安定的収益基盤の確保に努めてまいります。
b. 大手企業:今後事業成長が期待できる大手企業からの開発案件を安定して受注できるよう努めてまいります。
⑤事業領域及び顧客層の拡大
ソリューションカテゴリーにおいては、当社のシェアが相対的に低い輸送・物流、医療検査機器分野への顧客層の拡大が課題であります。半導体カテゴリーにおいては、安定的な拡大が見込まれるNAND Flashメモリ工場内での業務拡大が課題であります。先進技術ソリューションカテゴリーにおいては、高度なAIや画像処理、ネットワーク技術を強みとした顧客層の拡大が課題であると認識しております。
⑥品質向上と生産性向上
品質向上において最も重要なポイントは、ユーザ要求仕様の明確化であり、開発工程の初期段階にユーザ要求仕様を確定することを徹底すると共に、基本設計書・詳細設計書・テスト仕様書作成の徹底化を図ります。プログラム製造工程においては、機能の分割と機能を共有化するための定義を明確化し、機能ごとの作業分担により生産性の向上を目指しております。
さらには、優秀な技術者を雇用することで、品質及び生産性の向上を図るばかりではなく、ソフトウエア処理の高速性やプログラム不良件数のゼロ化等、信頼性の向上も同時に目指しております。
⑦内部管理体制の強化
当社の継続的な発展のために内部統制システムを整備し適切に運用することが重要であると考えております。財務報告の信頼性と業務の有効性及び効率性等を確保し、違法行為や不正等が行われることなく、組織が健全かつ有効・効率的に運営されるように内部管理体制の構築を図ってまいります。
用語解説
本項「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」等において使用しております用語の定義について以下に記します。
用語用語の定義
注1コーディングプログラミング言語を用いて、コンピュータが処理可能な形式のプログラム(ソースコード)を記述することをいう。
注2NAND FlashメモリNAND Flashメモリとは、Flashメモリ(電界効果トランジスタでホットエレクトロンを浮遊ゲートに注入してデータ記録を行う不揮発性メモリ)の構造・動作原理の一種で、最初に発明されたNOR型Flashメモリに次いで考案された方式である。NOR型Flashメモリと比べて回路規模が小さく、安価に大容量化できることが特徴である。従来のフロッピーディスクやハードディスク(HDD)に代わるPC用のUSBメモリやソリッドステートドライブ(SSD)、デジタルカメラ用のメモリカード、携帯音楽プレーヤー、携帯電話などの記憶装置として使用される。近年では、サーバ用HDDに比べ速度が速いことから、クラウドサーバの記憶装置として用いられている。
注3プロセッサコンピュータ本体のデータ処理装置のこと。ここでは演算装置と制御装置のことを指す。この本体は、中央処理装置(CPU)とも呼ばれている。
また、AI向けに最適化されたプロセッサのことをAIプロセッサという。
注4コンピュータアーキテクチャコンピュータシステムの設計方法、設計思想、構築されたシステムの構造などのことを意味する。入出力インタフェースを含むコンピュータシステムのハードウエア全体(周辺機器自体は含まない)の、プログラマから見たインタフェースの定義であり、具体的には使用できるレジスタの構成、命令セット、入出力(チャネルコントロールワード)などの構成である。
注5スピントロニクス技術固体中の電子が持つ電荷とスピンの両方を工学的に利用、応用する技術のこと。 スピンとエレクトロニクス(電子工学)から生まれた造語である。
HDD(ハードディスクドライブ)の大容量化や省電力化はもちろん、不揮発性(電源を常に入れておかなくてもデータを保持できる)メモリなどにも貢献できる、応用範囲の広さが特長の一つである。
注6Firmware:FW/Middleware:MWファームウエア「Firmware(FW)」とは、コンピュータなどに内蔵されるソフトウエアの一種で、本体内部の回路や装置などの基本的な制御を司る機能を持ったものをいう。
ミドルウエア「Middleware(MW)」とは、ソフトウエアの種類の一つで、オペレーティングシステム(OS)とアプリケーションソフトの中間に位置し、様々なソフトウエアから共通して利用される機能を提供するものをいう。
注7メモリデバイスコンピュータにおいて、プログラムやデータを記憶する装置のことをいう。DRAM、SRAM、NAND Flashメモリ等がある。
注8DRAMDynamic Random Access Memoryの略で、半導体メモリ(半導体記憶素子)の一つ。 読み出し/書き込みが自由に行えるRAMと呼ばれる半導体メモリの方式の一種であり、コンデンサーに電荷を蓄えて情報を記憶するタイプの半導体メモリのことをいう。
注9マルチコア1つのCPUパッケージ内に複数のマイクロプロセッサを搭載する技術のことをいう。近年のプロセッサは、処理速度を上げるために、ほとんどが2個、4個等のマルチコア化が進んでいる。
注10データセントリックデータの演算よりもデータの移動に時間や電力を使っている現在のシステムを、データの移動を最小限にし、データの近傍で演算する設計にすることで高速化や省電力化を図ろうというもの。

*1 下記の文献及び記事によれば、日本半導体産業の出荷額シェアは、1980年代に50%を維持しておりましたが、近年は十数%と低迷してしまいました。
・「日本半導体産業の再生はあるか」濱田初美(立命館大学) 産業学会研究年報第26号(2011) P55-P63
・「総合電機・半導体メーカの事業戦略の再構築に向けて」清水誠 日本政策投資銀行 調査第96号(2008年5月) P31
・「パナも撤退、「日の丸半導体」凋落 30年間で見る影なく惨敗」産経新聞2019年11月28日
https://www.sankei.com/west/news/191128/wst1911280025-n1.html
しかしながら、日本半導体産業の中でもNAND FlashメモリやCMOS Image Sensor、Power Device等、製品に特化すれば、日本のシェアも高く維持されております。特にNAND Flashメモリは、キオクシア+Western Digital社で世界シェア約30%以上を奪取し、サムスンに続く世界第2位の位置におります(「About the NAND Market」2020年2月18日 https://www.t4.ai/industry/nand-market-share)。

*2 経済産業省 特定サービス産業動態統計調査※1 によれば、受託ソフトウエア売上は、2017年の6兆7,905億円から、2019年の7兆2,427億円と約6.6%の伸びを示しています。また、受託ソフトウエアを含む国内情報サービス全体の市場は、みずほ銀行産業調査部「日本産業の中期見通し(2019年12月5日)」※2 によれば年率2%台の成長を維持し、2020年度は12.3兆円、2024年度は13.4兆円と予想され、今後も右肩上がりの成長を持続すると記述されています。
※1 経済産業省 特定サービス産業動態統計調査 2.情報サービス業
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result-2.html

※2 みずほ銀行産業調査部「日本産業の中期見通し(2019年12月5日)」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1063_15.pdf

*3 経済産業省「IT人材需給に関する調査(2019年3月)」※3 によれば、ソフトウエア開発を支えるIT人材の不足が予想されております。この報告書の試算結果は、今後のIT需要の伸びをそれぞれ低位(需要伸び率1%)、中位(需要伸び率2-5%)、高位(需要伸び率3-9%)の3段階でIT人材の不足を予想しています。これによると、2019年時点において、約26万人が不足していると言われ、2030年までに16万人から79万人のIT人材不足が予想されています。
※3 経済産業省「IT人材需給に関する調査」2019年3月
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf

*4 半導体市場は、需給バランスの影響により「半導体サイクル」といわれる好不況の大きな波が存在しますが、JEITA(電子情報技術産業協会)世界半導体市場統計(2020年春季半導体市場予測)※4 によれば、2020年は前年比+3.3%とプラス成長を予測しています。これはメモリ市況の回復による部分が大きいと調査資料は記述しています。また、2021年は前年比+6.2%と全体的に回復するものと予測しており、引き続きプラス成長を維持すると予想しています。
また、日本の半導体市場は、2020年に3.7兆円となると述べられています。
※4 JEITA(電子情報技術産業協会)世界半導体市場統計(2020年春季半導体市場予測について)
https://www.jeita.or.jp/japanese/stat/wsts/docs/20200609WSTS.pdf

*5 製品別世界のIC市場予測※5 から、2019年の市場全体の出荷額は約3,333億ドルであり、そのうちメモリは約1,064億ドルと市場のほぼ1/3をメモリが占めていることになります。さらにこのメモリ市場のDRAMとNANDの割合は、富士経済Webサイト※6 によると、50:50と二分されていることが分かります。
※5 JEITA(電子情報技術産業協会)世界半導体市場統計(2020年春季半導体市場予測について)
https://www.jeita.or.jp/japanese/stat/wsts/docs/20200609WSTS.pdf
※6 富士経済Webサイト
https://www.fuji-keizai.co.jp/market/detail.html?cid=17002&view_type=2

*6 「About the NAND Market」(2020年2月18日)によると、NAND Flashメモリーは、韓サムスン、東芝(現キオクシア)+Western Digital社陣営、米マイクロン陣営の3陣営が占めていることが分かります。
https://www.t4.ai/industry/nand-market-share