有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2020/07/10 15:00
【資料】
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【項目】
127項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は、「AIエンジニアリングで未来の社会を形にする」をミッションに掲げ、独自開発のAIアルゴリズムによる画像・動画解析と端末処理(エッジコンピューティング)技術で社会に貢献し、ビジネスインパクトを与える「AIサービス」を創出し、顧客の成長に貢献することを目指しております。
顧客から受託してサービスを提供するのではなく、顧客が属する業界や社会にある課題に応える新しいサービスを自ら発案し、サービスそのものを自社で作り上げ、顧客に提案する方法で、これまで誰も気が付かなかったAIエンジニアリングの活用場所を見出し、事業分野の拡大と需要創出を進めてまいります。
また、持続可能な社会を実現するために国連サミットにて採択されたSDGs(持続可能な開発目標)に則して、省資源・省エネルギーに基づくAI技術、AI技術による生産プロセスの効率性向上、AI技術による安心・快適なまちづくりへの貢献等に取り組むことにより、持続的な社会づくりに貢献し、企業価値を向上させていくことを目指しております。
(2) 目標とする経営指標
当社は、安定的な成長を図るため、成長性、収益性及び効率性を重視した経営が必要と認識しております。このため、当社では、売上高、営業利益及び売上高営業利益率を重要な指標としております。
(3) 経営戦略及び経営環境
① 事業領域に関する当社の見解
2005年頃から深層学習を用いない業務のデジタル化を支援するサービス展開が始まり、2012年に機械学習研究領域において、深層学習技術が生み出されました。以来、深層学習技術の活用は、様々な産業にて研究が行われております。深層学習技術についての実証実験が多数の大企業やスタートアップ企業間にて進んできた一方、実際の事業貢献や市場形成を果たしたサービスが創出されることはこれまで殆どなかったと当社は考えております。2017年にAIを搭載できるエッジデバイスが登場し、AIサービスが広がる素地が整いました。
インターネット産業においては、2000年頃に検索エンジンと広告事業の連動により、インターネット広告事業が初めて勃興し、同時に、世界を襲ったインターネットバブルとその崩壊により、優勝劣敗化が加速度的に進行し、技術力とビジネス力の双方を持ちえた企業のみが勝ち残りを遂げるに至っております。深層学習活用は現在、2000年以前のインターネット産業と同じく、黎明期にあると当社は考えております。深層学習活用においても、インターネットバブルと同様なことが起こり、飛躍的な成長を遂げるスタートアップが、世界で勃興しはじめていると当社は考えております。「人工知能が経営にもたらす『創造』と『破壊』」(EY総合研究所株式会社 2015年9月15日)によれば、卸売り・小売り・生活関連・広告・運輸・モビリティ分野でのAIサービスの市場規模は2020年の13兆円から2030年までに53兆円まで拡大すると予想されております。
こうした課題認識から、当社では、高度なAIエンジニアリング力と卓越したビジネス創出力の融合こそが、深層学習技術の飛躍的な拡大に必要不可欠であると考えております。当社は2018年の創業以来、すでにAIが活用されている事業分野の大企業からのニーズに基づく受託開発ではなく、自社にて顧客企業が認識していない潜在市場の掘り起こしを目指した事業開発を専業とし、独自に開発・構築したAIサービスを顧客企業に提供してまいりました。このような事業開発を推進した結果、当社の展開するAIサービスはファッション、サイネージ広告、さらにはモビリティを含むスマートシティへと業界を越えて拡大してまいりました。
特に中国、東南アジアでは、スマートシティへの注目が高まっております。スマートシティとは建物、地形、エネルギー、交通などのデータを横断的に分析して、エネルギー効率がよく、環境に配慮した、安全安心な都市づくりで、AI技術の活用が大きく期待される分野でもあります。"Smart Cities Market by Functional Area: Global Opportunity Analysis and Industry Forecast, 2018-2025"(Allied Market Research)によると、スマートシティの世界的な市場規模は2025年には2.4兆ドルになると見られています。画像認識AI分野では、特に成長が著しいアジア太平洋地域について、年率平均25.4%で成長すると予想されています。また、当社はスマートシティ分野でのサービス展開を加速させてまいります。また、今後も新しい事業分野を自ら創出し、AIエンジニアリングで様々な課題に取り組んでまいります。
当社のAIエンジニアリング事業の実社会での活用はスタートしたばかりです。加速的に当社技術の活用領域を拡大させたいと考えております。また、今後も継続的に新規事業を生み出す事業構築力と、それを即時に実際のサービスとして実装していくAIエンジニアリング力強化のため、人材採用や人材育成などに注力してまいりたいと考えております。
② 当社事業の優位性を追求した経営戦略
当社は、大企業からの受託開発を行わず、主体的なAI事業開発を専業としております。高度なAIサービスの開発・展開を目指すにあたって、以下の3つの優位性を最大限に発揮・強化する戦略を採用しております。
I. 新規事業を開発するビジネス開発力
当社の事業戦略部は、経験豊富なコンサルファーム出身者と、世界トップのインターネット企業でプロジェクトや営業を統括したメンバーにより構成されています。顧客の委託ニーズを伺う受け身の営業活動を行わないことで、主体的に付加価値を作りだす事業創出と事業展開のみに注力することが可能となっています。マッキンゼー・アンド・カンパニーにおいて、パートナー(共同経営者)としてグローバルでAI/IoTの活用や事業化をリードした経験を有する当社代表取締役社長に加え、同社において製造業や海外事業を豊富に経験した当社取締役COO、その他国内外を代表する企業で新規事業を統括したメンバーの豊富な経験を元に、事業構築を行っております。
同時に、当社事業戦略部のメンバーは、機械学習についての深い知識を保有しております。技術の仕組みを深く理解することで、深層学習で実現できる技術ポテンシャルを正確に把握し、当社研究開発部との密な連携を実現しております。
II. 豊富な独自AIライブラリとエッジコンピューティング力
当社の深層学習の開発にあたっては、汎用なオープンアルゴリズムを転用しておりません。独自の学習データにより独自の学習モデルを構築し、常に高い検出精度を実現しております。同時に、大規模なサーバー投資やネットワークへの負担、コストの肥大を伴わない、端末処理(エッジコンピューティング)による深層学習モデルを構築しております。
当社には、世界各国からAIエンジニアが集っております。国籍を限定せず、能力を重視した採用を進め、外国籍のエンジニアを多く採用してきた結果、英語で自由に開発活動ができる環境が構築されております。本邦の限られたAIエンジニア数を成長の律速要因とせず、博士号を保有するエンジニアや、国際学会での多数の論文発表経験を持つエンジニアを複数擁しております。
スイスの欧州原子核研究機構(CERN)で、ノーベル賞研究であるヒッグス粒子の発見に、共同研究者として貢献した当社取締役CTOを始めとし、優秀なエンジニアを引き付ける開発能力を有し、かつ、日々の業務において研鑽をしております。
機械学習の検知を有する事業戦略部メンバーと高い専門性を持つ研究開発部のエンジニアが協業することで、より実社会に求められる技術をスピード感をもって開発しております。本書提出日現在、7件の特許を取得しており、8件が出願中です。
III. 大企業とのアライアンス力
当社は、マッキンゼー・アンド・カンパニーでパートナー(共同経営者)を務め、国内外の多様な企業との法人営業経験を豊富に保有する当社の代表取締役が創業しております。当社は、AI企業が苦手とする営業活動を戦略的に行える体制を構築しております。事業創出にあたり、高度な法人営業力を基に、ソフトバンクのようなブルーチップ企業のオープンイノベーションを積極的に推進し、レベニューシェア注のスキームにて協働することで、AIエンジニアリング事業に不可欠なスピード力と資金力を得るに至っております。
(注)取引先により運用・販売されるサービスから得られる売上等収益の一定割合を、当社サービスの対価として収受すること。
(4) 対処すべき課題
① 開発体制の強化及び優秀な人材の確保
独自の深層学習技術のライブラリの開発や、深層学習モデルを低コスト活用できる端末処理(エッジコンピューティング)は当社の競争力の源泉の一つであり、継続的な強化が重要であるものと認識しております。今後も、国籍を問わずに卓越した能力を持つAIエンジニアの採用及び育成に努め、重点的に投資してまいります。
② 更なる新規事業の創出
当社のビジネスモデルは、特定のバーティカル(産業)に依存せず独立性・独自性が高く、既存の事業・サービスに限らず、まだAIの活用が始まっていない新たな産業分野においても適用可能であると考えております。当社はエッジコンピューティングによるAI解析の優位性を最大限に活用し、AIエッジプラットフォーマーとして、既存事業・サービスで培った独自の成功モデルから得た知見を取り入れた更なる新規事業を発掘し、早期の事業化により、当社の技術の活用の場を広げてまいります。
③ 内部管理体制の強化
当社は、一層の事業拡大を見込む成長段階にあり、事業の拡大・成長に応じた内部管理体制の強化が重要な課題であるものと認識しております。経営の公正性・透明性確保のためにコーポレート・ガバナンスを強化し、適切な内部統制システムの構築を図ってまいります。
④ 海外への事業進出
当社は海外への事業展開を進めており、海外企業向けに多様な販売チャネルを活用した営業活動を展開しております。その結果といたしまして、海外企業を最終顧客とする取引高が売上高全体に占める割合は2020年12月期第1四半期末時点で1割程度まで拡大しております。
当社が主力サービス分野の1つとして進めるスマートシティにおいては、成長著しい東南アジアの潮流を捉える必要性が高いとの認識のもと、同地域への事業拡大の拠点として2020年4月30日にシンガポール支店を登記いたしました。新型コロナウイルス感染拡大の影響が緩やかなマレーシアやタイでの事業展開を見据え、基盤整備を進めております。
今後も、特に東南アジア各国の規制や現地ニーズ等に合わせ、効率的かつ効果的な進出方法を検討し、推進していきたいと考えております。
用語集
用語用語の定義
オープンアルゴリズムソースコードへのアクセスが制限されていないアルコリズム
受託開発クライアントから仕事を受注し、システムやソフトウエアを開発すること
CERN欧州原子核研究機構。スイスのジュネーヴ郊外でフランスと国境地帯にある、世界最大規模の素粒子物理学の研究所。
ヒッグス粒子2012年7月、スイス・ジュネーヴ郊外の欧州原子核研究機構(CERN)における実験で、すべての物質に質量を与えるヒッグス粒子が発見された。理論が証明されたことにより、半世紀の時を経てノーベル賞授与が実現した。