有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/09/07 15:02
【資料】
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【項目】
170項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、「わたしたちは、たゆみない努力で健康を願うすべての人々に新たな価値を創造し、豊かな社会づくりに貢献」することを経営理念に掲げ、自社のモノづくりの強みを生かし、世界に広がる販路を活用することで、グローバルヘルスケアトップ企業の一角として世界中の健康を願う皆さまのお役に立ち続ける企業を目指しております。
当社子会社であるPHCは、2014年のKKR PHC Investment L.P.による資本参加を契機に、パナソニックグループの一子会社からカーブアウトし、以降、継続的に非中核事業の戦略的移管・譲渡による事業ポートフォリオの見直しを図ったほか、徹底的なコスト見直しによるマージンの改善に努めてまいりました。また、2016年には、当社グループの糖尿病ケア製品のグローバルな販売基盤の獲得を企図し、グローバルに販売網を持つBayer社の糖尿病ケア事業(現ADCHD及びその子会社)の買収を実施し、真のグローバル企業への成長に向けた経営基盤の確立に邁進してまいりました。
また、2017年3月にKKR PHC Investment L.P.からの株式譲渡により、三井物産株式会社(以下、「三井物産」)が新たに株主として加わり、三井物産の投資先との協業など事業成長の機会を広げていくとともに、2018年4月に社名をパナソニックヘルスケアホールディングス株式会社からPHCホールディングス株式会社に変更し、コーポレートブランドもPHCに変更しました。2019年6月には、サーモフィッシャーサイエンティフィックより病理事業を買収、当該部門を母体としたEprediaグループを設立し、ライフサイエンス領域(診断・ライフサイエンスドメイン)の強化を図りました。さらに、2019年8月には、三菱ケミカルホールディングスグループより臨床検査事業分野の大手であるLSIMを株式交換により完全子会社化し、臨床検査領域への事業拡大、ヘルスケアソリューションドメインの事業強化を図っております。この株式交換により、同じく三菱ケミカルホールディングスグループにおいてヘルスケア事業を展開する中核会社である株式会社生命科学インスティテュート(以下、「生命科学インスティテュート」)が当社の主要株主となりました。2021年3月には、既存株主(KKR PHC Investment L.P.及びパナソニック)からの株式譲渡並びに新株引受によりLCA 3 Moonshot LPを新たな株主として迎え、その知見や投資先との協業など更なる事業成長の機会を広げております。
これらの事業買収を通して、事業内容の拡大を図ってきたことから、当社グループの事業ドメインとして、「糖尿病マネジメント」、「ヘルスケアソリューション」、「診断・ライフサイエンス」、の3つを設定しました。そして、「グローバルの診断・ライフサイエンス、日本のヘルスケアサービスにおいて、ベストインクラスのプレシジョンとデジタルソリューションを提供するリーダーとなる」をビジョンとして設定し、3つのドメイン間でバランスのとれた収益構造を目指してまいります。
(2)経営環境
国内においては、新型コロナウイルス感染症の影響による景気の停滞があるものの、新たな生活様式の浸透とともに徐々に経済活動の回復が見られ、経済対策に盛り込まれた各施策が具体化・実行されることにより、民間投資、消費の喚起や生産性の向上につながり、雇用や所得環境の改善を伴う経済の安定化が期待されています。海外においても、変異株(デルタ株等)の拡大等、引き続き新型コロナウイルスによる影響があるものの、欧米地域ではワクチン接種が進んでいること等により、段階的に経済回復基調に戻りつつあります。中国など復調に向けた動きも力強さを増しており、ワクチン接種が更に進んだ場合、新型コロナウイルス影響後の新たな経済秩序の中で世界経済も全体としては、更なる回復が期待されるものと考えられます。
当社グループを取り巻くグローバルなヘルスケアビジネスにおける環境は、先進国で進行する少子高齢化と世界的な生活習慣病の増加やがん患者の増加、それらに対する様々な技術革新が行われています。その一方で各種医療基準・規制の強化に加え行政の医療費削減の動きが見られます。糖尿病マネジメントに関して、2015年には70億米ドル以上あったとされる血糖値測定(Blood Glucose Monitoring(以下、「BGM」))システム事業の市場規模は、先進国市場における保険償還額の見直しや持続血糖値測定器(Continuous Glucose Monitoring(以下、「CGM」))の普及拡大等により、2020年では60億米ドル超となり毎年4%弱の縮小傾向となっております。(IQVIAデータを基に当社にて算出)一方、新興国市場では糖尿病患者数の増加等により市場規模は成長しており、全世界の糖尿病患者は2019年に4億6,300万人(成人のうち11人に1人が糖尿病)から2030年に5億7,800万人、2045年に7億人へ増加すると推定されています(出所 IDF DIABETES ATLAS Ninth edition 2019)。ヘルスケアソリューションについては、日本の受託臨床検査市場では診療報酬改定を背景とした受託単価の下落影響はあるものの、それを上回る外部委託検査の需要があるのが近年の基本的な市場構造と考えております。競争環境は激化している中でも、医療及び健診需要の安定増加、各種感染症検査、個別化医療進展に伴うヒト遺伝子検査等もあり市場規模としては、2019年度までの約10年にわたり年率1~2%前後の微増で推移しています(出所 矢野経済研究所:2020年版 臨床検査センター経営総鑑)。日本における電子カルテの普及率は、一般診療所(無床)においては約4割、200床未満の小規模病院では、2~3割に留まっています。新規開業医はほぼ100%が電子カルテを導入していますが、既存開業医も今後、レセプトコンピュータ更新時に電子カルテの導入が進むことが予測されています。今後導入を検討する診療所や50床前後の小規模病院に対して「導入コストの削減」「システム運用・管理費用・人員の削減」「災害時対策」などを訴求点にクラウド型電子カルテが注目されており、導入が進む可能性があります(出所 矢野経済研究所:2020年版 医療情報システム(EMR・EHR)市場の将来展望)。また、診断・ライフサイエンスにおいては、病理市場は、がんの発病や検査の増加及び個別化医療の進展により、病理医によるがんの診断数が増加し、2017年から2019年の3年間で、1桁台半ばの成長を続けています(出所 MarketsandMarkets : Anatomic Pathology Market(2020))。また、デジタルパソロジーや人工知能(AI)を駆使した先進的な技術の活用も進んでいます。ライフサイエンス向け研究・医療支援機器関連の市場は、米国や欧州、中国などを中心に、再生医療・細胞治療に関する研究や臨床応用が活発ですが、細胞を用いた創薬についても積極的に進められており、近年、世界的に再生医療領域への投資が加速していることから、今後も世界市場の規模拡大が見込まれています。その様な環境の中、当社グループは、これまで培った高品質・高性能なモノづくりとデジタルソリューションによる顧客基点のイノベーションを強みとし、事業推進に取り組んでまいります。
(3)目標とする経営指標
当社グループは、「グローバルの診断・ライフサイエンス、日本のヘルスケアサービスにおいて、ベストインクラスのプレシジョンとデジタルソリューションを提供するリーダーとなる」をビジョンとして掲げ、グローバルヘルスケアトップ企業の一角を目指しております。それらの到達を具現化するためには事業規模を拡大し収益性を向上させることが経営上重要であると認識し、売上収益、営業利益、(調整後)EBITDA及び(調整後)親会社の所有者に帰属する当期利益を重要な経営指標として位置づけ、事業の進捗とそれらの充足状況を分析し経営課題に対処していく方針です。なお、(調整後)EBITDAについては、①営業利益をベースとした指標であり、事業の収益性を示す指標であること、②事業の収益性を評価する指標としてグローバルに活用されている指標であること、③キャッシュ創出力を示す指標の一つであり、成長に向けた投資余力を示す指標であることから、当社グループにおける重要な経営指標の一つとして位置付けております。(調整後)EBITDA及び(調整後)親会社の所有者に帰属する当期利益の算定方法については、「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」をご参照ください。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① グローバル規模での中長期の成長を支える社内体制の構築・強化
当社グループは、KKR PHC Investment L.P.による当社設立以降、2014年のPHCのパナソニックグループからのカーブアウト、2016年のBayer社の糖尿病ケア事業の買収、2019年のサーモフィッシャーサイエンティフィックからの病理事業の買収及び生命科学インスティテュート(三菱ケミカルホールディングスグループ)からのLSIMの買収を経て、事業基盤の強化、事業拡大を進めております。一方で、急激な拡大に伴い海外子会社、従業員数等も増大しているため、グローバルでのグループガバナンスの向上、内部統制に係る体制の強化、各国での法令順守の徹底に向けた社内体制の構築・強化に努めてまいります。
② 事業及び収益基盤の拡大
当社グループは、顧客ニーズや技術革新の変化・進展が目覚しいヘルスケア業界の中で、「グローバルの診断・ライフサイエンス、日本のヘルスケアサービスにおいて、ベストインクラスのプレシジョンとデジタルソリューションを提供するリーダーとなる」ことを目指し、「糖尿病マネジメント」、「ヘルスケアソリューション」、「診断・ライフサイエンス」の3つの事業ドメイン間でのバランスの取れた成長を図るために、常に新たな事業成長・収益基盤の拡大・確立の機会を探し求めております。
当社グループは、2021年6月に2021年度~2024年度の中期経営計画「Value Creation Plan」を公表しました。中期経営戦略として以下を掲げております。
糖尿病マネジメントドメインにおいては、先進国でのシェアの維持・拡大を図りつつ、新興国での成長に注力することで、先進国市場の縮小による影響を低減させてまいります。また、成長が見込まれるCGMをポートフォリオに加えることで、糖尿病診断分野における包括的な選択肢の提供による成長を図ります。世界的に生活習慣病が増加する中、「IDF Diabetes Atlas 9th Edition 2019」によれば、糖尿病患者数は今後も増加するとされ、2045年には新興国における糖尿病患者数が全世界の約80%を占めることが予想されております。また、BGM事業の市場環境は、世界的に縮小傾向が続いており、先進国市場においては価格圧力や限定的な保険償還に加えてCGMの普及拡大が進んでおります。一方、新興国市場では緩やかな成長が続いており、糖尿病マネジメントドメインにおいては新興国での販売拡大に向けた施策の展開を進めております。さらに、Senseonics Holdings, Inc.との協業を積極化することで、CGM製品の開発加速、デジタルソリューションによる革新的でより快適な糖尿病マネジメントサービスの開発・展開を推し進めており、世界中の糖尿病患者の皆様の生活の質の向上を図るだけでなく、医療従事者や保険支払者も含めたより統合的なソリューションを構築し、医療の効率化・低コスト化を通して、世界的な医療費抑制ニーズに貢献するべく事業展開を推進してまいります。
ヘルスケアソリューションドメインにおいては、日本における臨床検査、電子カルテをはじめとするヘルスケアITにおけるリーダー的ポジションを活用し、検査効率の向上や遠隔医療をはじめとした多様化するヘルスケアニーズに応えるべく、他社とのアライアンスを積極的に進めて、日本のヘルスケアサービスの基盤となる事業を展開してまいります。主にLSIM事業においては、臨床検査事業をはじめとする既存のビジネスモデルや製品を強化・拡大する一方、遺伝子検査や遺伝子解析をはじめとする先端技術の開発を推進することで、新たな成長機会の創出を図ります。またメディコム事業においては新規顧客基盤の開拓により既存の強固な事業基盤を堅持する一方で、新たな事業基盤を拡大しデジタルヘルス事業への転換を図ります。
診断・ライフサイエンスドメインにおいては、積極的に他社とのアライアンスを組むことで、革新的な組織診断の技術開発や細胞治療分野におけるコスト削減を目指した総合的なデジタルソリューションの構築を目指してまいります。主にバイオメディカ事業においては、ライフサイエンス領域を強化し、コールドチェーンや細胞培養等の新しい治療法に対応した高成長分野への転換を図ります。また、病理事業においては中核となる病理事業の成長を維持しつつ、免疫組織化学(IHC)やAI、デジタルパソロジー、分子診断等の分野に対する投資を推進することで、個別化医療におけるポジションの確立を図ります。がんは世界的に主な死因として挙げられており、患者数の増加に伴う検査件数の増加や細胞治療を含む個別化医療の進展により、病理医によるがん診断や組織診断の需要増加につながっています。病理事業の分野では、検査・診断の精度向上・効率向上に向けて、デジタルパソロジーや人工知能(AI)などを駆使した先進的な技術の活用も進んでいます。
上記のとおり、当社グループは自社による技術開発・新製品開発に努める一方で、現在の当社グループには無く今後の成長に必要不可欠な技術の獲得や将来性豊かな3ドメインの関連事業領域への参入に対しても、M&A等による非連続な成長も手段のひとつとして駆使する等、機を逸することのない事業展開に努めてまいります。
③ 借入金の返済について
当社の借入金は、過去に行ったM&A等により総資産の過半を占める水準となっておりますが、これまで銀行との借入契約に定める条件通りの返済を行ってきており、また、2021年6月末に行ったリファイナンスにより、今後5年間は均等返済を行う旨の契約内容となっております。同返済金額は今後見込まれるフリー・キャッシュ・フローにより十分に返済可能な水準であると考えておりますが、株式上場時の公募増資による調達資金により、一部繰り上げ返済を行うことで早期の財務体質強化を図り、事業の機動性を高めてまいります。なお、5年経過後の借入残高については、借換等の選択肢も含めて、今後引き続き金融機関と協議してまいります。
④ PHCグループとしての認知度の向上
当社グループは、2014年にパナソニックグループよりカーブアウトし、2018年4月にはグループのコーポレートブランドをPHCに変更しております。その後、新聞広告や空港・駅などでの交通広告も展開し、新社名・新ブランドの訴求に力を入れてまいりました。一方で、各事業はそれぞれに長い歴史を持ち、長年お客様に親しまれてきた事業・製品ブランドを有しております。今後は上場を機に、グループとしての認知度を更に高めるべく、各事業・製品ブランドの強化に努め、併せて様々な媒体を通じた広報活動を行うことで、投資家をはじめとするあらゆるステークホルダーの皆様に対してグローバルにPHCグループの認知度向上に努めてまいります。