有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/08/18 15:00
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【項目】
139項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1)経営環境
当社の経営を取り巻く環境のうち重要なテーマは大別して、生命保険業界の市場規模の変化、社会保険制度の変更に伴う新たな顧客のファイナンシャルプランニングの必要性の高まり、IT技術の進化に伴う新しいサービスの登場、保険代理店の業務管理体制強化の必要性の高まりの4点と考えます。
1点目として、生命保険業界の市場規模は、少子高齢化の影響により将来的に縮小傾向にあると予想されます。市場ニーズは、高齢化に伴う病気やケガ、介護への備え、老後生活資金準備などの必要性の増加を背景とした、いわゆる「長生きリスク」が増大していることにより、医療、年金、介護など生前給付型保険商品へのニーズが高まりつつあると言えます。一方、社会一般では少子高齢化が及ぼす社会保険制度への影響、とりわけ年金保険制度は受給年齢引き上げや定年延長議論などにおよび、すべての国民の生活に関わる課題となっております。
2点目として、老後生活必要資金と公的年金予想受給額の差額を補う資金の確保はできる限り早期から計画的に自力で行うことが必要となります。この課題対応は長期間を要するため、理想的には教育資金の貯蓄、住宅ローン利用の時期と重複する現役世代から始める必要が生じると考えますが、一生涯にわたる長期計画の作成と適切な商品選択は顧客個人の独力では困難な場合が多く、こうした社会保険制度の変更に伴う自助努力の必要性から新たな金融サービスニーズが生じると想定します。これらの対処、解決のために専門知識をもって顧客を支援するファイナンシャルプランナーが必要とされると考えます。
その他生活に及ぼす影響は、新型コロナウイルス禍のような不測の事態への対策、景気後退による就業継続の安定性懸念、万が一の失業状態・就業不能時に対する緊急予備資金の確保など複合的な課題が想定されます。これらの課題全体の対策として顧客ごとにカスタマイズした保険を活用したリスク回避や計画的な資金計画が必要と考えられます。
3点目として、金融とIT技術の親和性から顧客利便性を持った新たなデバイスや、アプリなどの登場が予想され、この流れはますます加速すると考えます。保険加入方法は、生命保険会社の営業社員、通信販売、乗合保険代理店の来店型保険ショップや訪問型代理店などと加入チャネルの複数化が進んでまいりました。営業社員に提案された保険商品を検討する従来のスタイルから、顧客自らが主体となり、複数の商品の中から意向に合った商品を選択するオーダーメイドスタイルが支持され、商品選択の方法の適切なアドバイスをする保険・金融知識を持った営業社員が求められるように変化いたしました。一方、金融業界ではフィンテックを活用した金融の新規プレイヤーの登場により資金決済の簡便化やデータの可視化が進み、顧客の利便性の向上を実現しつつあります。さらに、デバイス機能の発達は多量のデータの瞬時の取得を可能とすることから、今後の保険加入相談や金融商品選択の際の顧客対応の姿は、IT技術を活用した形態で進化するものと想定します。最近の新型コロナウイルス感染症対策として活用されたオンラインによる非対面面談の実現も保険募集におけるIT技術活用の一例と考えており、当社においては2020年5月のオンライン面談開始以降は面談総数が増加し、月平均で40%超がオンライン面談となっております。
4点目として、2016年の改正保険業法の施行に伴う代理店運営の負荷の増大とそれに伴う代理店数の減少があります。それまでは法令上の体制整備義務は主に保険会社に対して課されており、代理店等の体制整備は保険会社の教育・管理・指導の下で行う仕組となっておりました。現在は「保険募集人の体制整備に関するガイドライン」に則り、代理店が主体的に業務の規模・特性に応じた体制整備を行うことが義務付けられたものです。
結果として、中小規模代理店及び企業内代理店などを中心に、改正保険業法で求められる顧客管理体制や説明義務などを実践し、運営維持することが困難になっていることも代理店減少の一因と考えられます。当社においては改正保険業法の施行にいち早く対応して体制整備を進めたことにより、顧客に信頼して頂き、社員が安心して働くことのできる環境を整えることが出来ました。また、全国47都道府県の全てに拠点展開を行うことで、あらゆる地域への訪問が可能な営業基盤を構築いたしました。その波及効果として、廃業する代理店の顧客の受け皿として当社への契約移管の申出を頂くケースや、他代理店から当社への転職が増加いたしました。契約移管に関しては2021年2月から2022年5月までの期間に23社から23,495件の契約を移管頂いております。
以上の4つの重要テーマにおいて、当社の特長である全国拠点網に所属する約1,800名の営業社員とデジタルマーケティングに関する知見及びシステムの自社開発を活用しております。
また、経営者による現状の認識として、新型コロナウイルス感染症が経営環境に与える影響は当社においては決してマイナスではなく、強みを活かす機会と捉えております。上記の重要テーマの2点目でも述べている通り、顧客に対してこのような不足な事態への備えとしての保険を活用したリスク回避の提案や資金計画の相談の機会となると考えております。その他、3点目で述べておりますオンライン面談への対応は新型コロナウイルス感染拡大を契機とした生活スタイルの変化への対応によるものであり、当社においては顧客との面談機会の創出に繋がりました。これらのことから、今後の感染規模が更に拡大したとしても当社においてはマイナスの影響は生じないと考えております。
(2)経営方針
当社の経営理念は、「私たちは『本来あるべき保険業』を追求し、本気で取り組み、お客様の大切な人生を保険で守り続けます。」です。その経営理念を実現するための「本来あるべき保険営業の姿」とは、営業社員が顧客とご家族の一生涯を保障で守り、安心に満ちた豊かな人生の時間を顧客と共有することであると考え、商品ご加入の時から始まる一生涯の関係だと考えます。そのために、「営業社員の質の向上」が必要であり、当社は社員を「人としての魅力に溢れ、生涯を通じて顧客の人生を守ることができる高度な知識と技術を持った金融・保険のプロフェッショナル」に育成したいと考えております。創業来、私たちは顧客の保険相談のご希望を受け、全国47都道府県のあらゆる市区町村を訪問してまいりました。私たちはこれからも変わらずに「顧客の保険相談のお役に立つこと」に徹してまいります。
この経営理念のもと2022年11月期の経営方針として以下の3項目を掲げております。
・顧客本位の業務運営方針の実行
・社員の質の向上
・ガバナンスの強化
顧客本位の業務運営方針の取組みについて、2018年7月23日に当社ホームページにて公表しております。この方針に基づき、当社はFP相談サービスを受けた顧客にWeb満足度アンケートを実施し、顧客のご意見を収集しております。アンケート結果は営業社員別に集計し、年間を通じて好評価の多かった営業社員を「マナーマイスター」として表彰し自己研鑽の目標としております。
社内研修として、2019年から保険相談に関する説明義務の実行と顧客対応マナースキルの習得・向上を目的した「ロールプレイング大会」を実施しており全社員が顧客満足とは何かを考え、学び、業務品質レベルアップの機会としております。
さらに全社員に経営理念、コンプライアンス基本方針、顧客本位の業務運営方針等を記載した「CREDO」を配布し、社内浸透を図っております。
当社においては中期経営計画を3か年のローリング方式で策定しております。これは当社の主たる事業である生命保険業の業界を取り巻く環境が常に変化をしていることからであり、その変化への対応のためには適時に柔軟な経営判断が必要と考え、常に事業成長性を検討し、ビジネス機会の見究め・投資効果検証が必要と考えためであります。
2022年11月期を始めとする中期経営計画においては、上記の経営方針に則り、以下に掲げる経営戦略をもって計画を遂行してまいります。
(3)経営戦略
保険営業における重要な業務は顧客開拓であり、保険の加入相談の意向を持つ顧客(見込み顧客)を開拓し、集客することが業績に直結します。これに対して当社は、会社と営業社員の業務の分業体制という発想の下で、会社が顧客開拓を行い、営業社員は販売に専念する環境をビジネスモデルとして構築しました。この組織的な分業体制下で当社は見込み顧客数の量的確保と、顧客属性の選定を継続的に試行し、質の高い顧客マーケット創造を実現してまいりました。
近年の顧客の自助努力による資産形成のニーズに対して、当社は顧客の一生涯という時間軸でファイナンシャルプランニング相談を承り、顧客の課題について、保険をはじめとした金融商品の提案によるベストソリューションを提供する企業を目指しております。多くの顧客はリスクマネジメントに有効な保険選びと、保険だけではまかなえない資産形成、さらに老後生活のための計画的な資産の取崩しプランなどと複合的な課題に直面します。
その対策として当社は、保険と保険以外の金融商品やサービスの提案が可能で、顧客利益の最大化を図る販売体制の構築が必要であると考えております。
こうした背景から今後の当社の経営戦略は本業である保険代理業を主軸とした派生分野への進出と強化を想定しております。具体的テーマとしては投資信託商品の販売、住宅ローンのご紹介や取次サービス、相続対策に特化した専門部署の稼働と士業ネットワークとのアライアンス推進となります。その結果、当社は変化するファイナンシャルニーズにおいて複数の金融商品の検討や購入をワンストップで可能にすると共に、より高度な専門性を必要とする課題も対応可能な販売体制の構築を実現いたします。最初に保険によるリスクマネジメントや住宅ローン、教育資金の検討と準備、次に老後生活に向けた資産形成のステージで資金を増やし、最後に顧客が築いた財産の円滑な相続対策というように一生涯のファイナンシャルプランのすべてを当社で準備することが可能となります。一方、当社の保有保険契約は件数ベースで約98万件(2021年11月末時点)に及びます。既顧客のアフターフォローの更なる充実のために、現在、顧客データを活用した顧客アプローチスキームの構築を検討しております。IT技術を活用した金融サービスの利便性向上やインターネット商取引の拡大による購買様式の変化、当社のメイン顧客層は自ずとデジタルネイティブ世代に変化することを背景に次の戦略を計画しております。最初に顧客属性の明確化による購買嗜好の分析を通じた、顧客対応から「個客」対応へ。これは保険加入を検討する周期、支払保険料の多寡、家族構成、相談申し込み手段の選好傾向の分析により顧客にとって最も快適なサービスを試みるものです。このような顧客アプローチの適切な時期の推定や商品選択の仮説把握を目的とした顧客マーケティング戦略とデータプラットフォーム構築・情報のデータベース化を計画しております。次にスマートフォンアプリによる顧客コミュニケーションの刷新計画について、顧客アプローチは、従来から当社営業社員から行うことを基本としておりましたが、当アプリを使用して簡便・迅速に顧客が望むタイミングで面談予約可能な環境作りを図ります。顧客が自らファイナンシャルプランニングを体験できるサービスは現在、基本サービスの一部をリリースしております。これらのユーザーエクスペリエンス(UX)による既存顧客の潜在ニーズ発掘を実施して行きます。
既存顧客のアフターフォローは顧客本位の業務運営のメインコンセプトであり、その一環として新商品情報やサービスのご案内を提供する必要があると考えます。当社は「金融サービスの提供に関する法律」にある「金融サービス仲介業」のような金融商品の横断的な取扱いイメージを持ち、前出の顧客マーケティングとシステム開発による全顧客向けに複層的なサービスの提供を通じた事業領域の拡大を考えております。
これらのデジタル戦略を通じた顧客データベース活用による最適なアフターフォロー体制構築を進める中で、データ利活用の事業化は将来的に経営戦略の主たるテーマになると考えております。
また、前出の経営環境における4点の重要なテーマのうち、代理店数の減少と集約化の潮流を事業機会と認識し、顧客移管の受け皿、保険募集人の転職先企業として存在感を増大させます。当社は全国に拠点を持っていることや顧客のフォロー体制が充実していることを評価して頂いている代理店と継続して折衝を行っており、今後も案件を精査した上で顧客移管を引き受けていく方針であります。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的指標等
当社は事業拡大と企業価値の向上のために、売上高及び営業利益を重要な指標にしております。
(5)事業上及び財務上の対処すべき課題
①システムリスクへの課題意識と対応状況
顧客情報管理を自社サーバーにて行っており、情報への不正アクセスやデータの盗難など想定されるリスクに対するセキュリティ対策を実施しております。しかしながら、企業の極秘情報を保護する目的のセキュリティ網において巧妙で新たな手法による不正アクセス事例が生じており、完全な防御策は存在しないという事実があります。こうした事象への防御のために当社はセキュリティのアップデートと定期的なパトロールを実施して不正行為の脅威に対する予防策を講じております。また大規模災害発生時などの顧客情報の滅失リスクやデータ破壊、漏洩、システムダウンの防衛策としてセキュリティレベルが高く世界的に信頼性のあるアマゾンウェブサービス(AWS)を採用し、データ保管場所の分散と定期的なバックアップを実施しております。こうした包括的なリスクマネジメントの運用強化・適切性確保のために2019年11月にISMS認証(情報セキュリティマネジメントシステムの略で国際規格)を取得し、継続更新しております。当社は今後も引き続きシステムの安全性の確保と強化を継続してまいります。
②募集関連行為従事者の管理について
保険販売においては募集関連行為従事者が保険相談希望者を募り、その取得した情報を保険募集人等に提供し、保険募集人が保険販売を行う場合があり、当社はこれにより提供を受けた情報を利用して保険契約見込み顧客を得ております。利用上の注意点は、当該募集関連行為従事者において保険募集行為がないことや顧客誤認のない状態を担保することであります。
当社は適切な管理監督責任を果たすため、当該募集関連行為従事者との取引開始時には反社チェックを必ず行い、それに加えて、不適切な募集行為のないことを確認するためのチェックシートを2019年7月に新設し、業務品質部が運用しております。
チェックシートの項目は、
・保険募集や特別利益の提供に該当するような行為の禁止に関する規定がされていること
・法令違反、契約違反の場合及び是正指導に応じない場合における契約解除について規定されていること
・上記禁止事項が順守されているかのチェック及び結果の報告について規定されていることの三点です。
チェックシートを使用した初動調査はマーケット開拓の主管部署としてマーケット推進部やマーケティング室が行い、その内容を業務品質部が確認しております。具体的には、取引前審査を当社所定の手順で実施したのち、取引開始5ヶ月後、10ヶ月後にモニタリングを行い、基準を満たすことを契約の更新条件としております。
2020年11月期からは、内部監査部が業務品質部による当モニタリングシートの内容確認状況及び運用方法の適切性を判断し、監査の実施を以て、当該募集関連行為者の管理の適切性に加えて他に確認事項に疎漏がないことを監査しております。
③労働実態の把握と対応
適正な労働管理と職場環境の提供は、重要な経営課題であると認識しております。社員の健康面を配慮して有給休暇の完全取得を推奨し、社員に当取得残日数と期限の明示を行っております。また、残業時間が蓄積された社員(注)に対しては個別に上司面談及び希望による産業医面談を用意しております。このように当社社員の良好な健康状態と雇用管理における遵法の確保体制を構築しており、今後も継続して実施してまいります。
(注)上司面談と産業医との面談実施を行なう残業時間の基準は、単月80時間以上としております。また、80時間の前段階として3ヶ月累計150時間以上且つ単月45時間以上の場合は、上司面談を実施の上で本人及び上司記入の報告書を人事課へ提出し、人事課にて報告内容を確認した上で産業医面談の実施有無を判断するとしております。
④新規事業について
新規事業に関して当社の本業である保険代理業を基軸とした派生分野への展開と強化を図ってまいります。
2020年11月には金融商品仲介業(IFA/Independent Financial Advisor)の登録が完了いたしました。これにより顧客は当社サービスの利用を通じて生命保険・損害保険商品以外の金融商品の検討や購入がワンストップで可能になります。
コールセンター室は現在東京・札幌・大阪、沖縄に拠点があり、全国でのアウトバウンドコールオペレーターは2021年11月末時点で28人体制となりました。陣容として50名体制を計画しております。まずは、オペレーターの増員により運営体制構築とセンター長の研修によるオペレーターの技能のレベルアップを図る予定であります。
現状では売上に占める新規事業の割合は僅少となっており、今後も急激な事業拡大は見込んでおらず、金融サービスの一環として徐々に広げていくことを考えております。
⑤適切な保険募集について
保険募集においては顧客のニーズ喚起・意向把握・適切な商品の提案等が必要であり、これらが正しく行われることで顧客のニーズを満たした最適な保障の提供が実現すると考えております。そのため営業社員がこのような適切な保険募集を行うことが出来るように、保険業法等関連法令の理解と継続的な商品及び周辺知識のアップデートを目的とした研修を実施しております。
研修実施に際しては、各種法令等を含めたコンプライアンス研修は業務品質部、商品及び周辺知識は営業支援部が中心となり、継続的な研修を実施することで営業社員の理解を深めております。
当社は引き続き、教育体制の一層の充実を図り、営業社員が適切な保険募集を行うように指導してまいります。
⑥財務上の課題
当社は、自社ビル購入による金融機関からの借り入れはあるものの、その他の資金需要は自己資金及び営業キャッシュ・フローを源泉とした財務基盤によるため、優先的に対処すべき財務上の課題はありません。ただし、今後の成長戦略に基づく事業拡大に備え、内部留保の確保と営業キャッシュ・フローの改善等により財務体質を強化するとともに、株式市場からの必要な資金の獲得や、銀行からの融資等により多様な資金調達を図ってまいります。