有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/11/08 15:00
【資料】
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【項目】
155項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 基本方針
当社グループは、「誰もが」「いつでも」「何度でも」「気軽に」住み替えることができる未来を創造するために、「リアル(住まい)×テクノロジー」を通じて、不動産取引をより身近なものにすることを目指しています。
我々の理念は、今まで多くの人にとって一生に一度の買い物であると言われてきた住宅を、ライフスタイルの変化に応じて柔軟に住まいを変える、そのような存在に変えることで人々の様々な可能性を広げていきたい、という想いに基づいています。テクノロジーを活用し、我々の目指す未来を創造することで、住まいを通じたより豊かな社会の構築に貢献し、当社グループの企業価値を高めることにつながっていくものと確信しています。当社グループは今後、リアルとして積上げた実績と、最新のテクノロジーの力を掛け合わせることで、顧客の「売りたい」「買いたい」「建てたい」を喚起する有効情報を手軽に提供し、当社グループ自身が相手方となって取引を速やか且つ具体的に実現することで、顧客LTV(ライフ タイム バリュー)(※)を最大に引き上げていきます。不動産取引の現状を変えていくためには先端のテクノロジーを活用していくことが重要であるのと同時に、テクノロジーを適切に活用するためには不動産取引の実態(リアル)に精通していることが必要不可欠です。リアルとテクノロジー、そして2つの役割分担、掛け合わせ方、すべての高度化を目指します。
※ 顧客LTVとは、顧客生涯価値を意味し、ある顧客が特定の企業等と取引を開始してから終了するまでの間に当該企業等にどれだけ利益をもたらすかに関する指標です。
(2) 経営環境及び経営戦略
日本の住宅市場は、住宅ストックの状況・人口動態及び社会情勢の変化、資材及び人件費等の高騰、サステナビリティ意識の浸透などを背景に今後はマンションカテゴリーにとどまらず、戸建住宅カテゴリーにおいても中古住宅流通市場は大きく拡大するものと考えております。また、2016年に日本政府が発表した「日本再興戦略2016」のなかで、既存住宅流通・リフォーム市場の活性化の施策が盛り込まれ、その市場規模を2013年の11兆円から2025年には20兆円に拡大していくことが目標とされております。これには政府のデジタル推進も含まれており、「中古住宅流通×IT化」を国として強力に後押しすることが決定されております。そして、2021年の中古マンションの市場規模は2.3兆円(東日本不動産流通機構/レインズの成約価格)、このうち中古住宅買取再販事業の市場規模は6,300億円(リフォーム産業新聞「買取再販年間販売戸数ランキング2022年」のマンション販売戸数と東日本不動産流通機構/レインズの中古マンション首都圏成約物件価格から推計)でありました。このような市場環境を背景に当社グループは中古住宅再生事業を核としてKAITRY事業を運営しています。
なお、新型コロナウイルス感染症拡大については、当社グループが調達する資材や住宅設備の生産活動や物流に若干の遅れが生じる等軽微な影響はあったものの、経済的な悪影響への対策として政府を中心とした住宅取得支援策が積極的に打ち出されており、需要は堅調に推移しております。
また、当社グループが営むKAITRY事業は、主にプラットフォーム『KAITRY』で扱う中古物件の仕入・販売を成長の柱に据え、加えて将来の住み替え需要を取り込むため、住まいに関わる会員プログラムサービスを提供しております。当事業を通じて仕入・販売される住宅は都市部の中古マンションに加え、中古戸建住宅・地方新築戸建住宅も含まれており、各地域の住宅事情にあった住宅供給を行うことをコンセプトとし、日本全国における住宅供給をその事業領域としております。
今後は『KAITRY』ポータルサイトに実装する「建てたい」窓口も活用し多様な顧客ニーズに応えることに加え、戸建リノベーションの拡充や中古戸建住宅の買取再販の展開も進めてまいります。
また、KAITRY事業は、住まい・住み替えに関わる全てのプロセス、すなわち住宅購入・売却以外の住宅リフォーム・リノベーション、不動産賃貸等も事業の一部と捉えており、各顧客のライフサイクルやニーズにあった住まい・サービスを提供すること全体を一体の事業としています。
中長期的に、日本の住宅市場の中心は、都市部は中古マンション、地方は新築と中古戸建になると考えており、中古マンションカテゴリーは当社グループ会社である株式会社ホームネットの全国ネットワーク、戸建カテゴリーは現子会社に加えて更なるM&Aによるエリア拡大を図り、プラットフォーム『KAITRY』を通じて住宅流通を活発化させることにより、事業を大きく成長させることを展望しています。なお、これらの全国展開を地方創生と位置付け、各拠点の地元金融機関から潤沢な仕入資金を提供頂くことで、成長スピードを上げてまいります。
また、プラットフォーム『KAITRY』内に備わる仲介会社の業務効率化をサポートする情報提供機能「KAITRY PRO」(AI査定や仲介会社として媒介契約取得する武器となる顧客向け物件査定書作成等)を、システムを持たない中堅、中小仲介会社より月額使用料を得て提供していくSaaSモデルも展望しております。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループの経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標として売上高、EBITDA(但し先行費用としての広告宣伝費を除く)を重視しております。また、これらの経営指標に影響するプラットフォーム『KAITRY』における価格査定数、物件仕入数・販売数、取引不動産仲介会社営業員数をKPI(Key Performance Indicators)として重視しております。
当社グループは、リアル(住まい)における収益基盤を持っており、これにテクノロジーを掛け合わせて大きく成長させることを展望しております。これらのKPIをもとに、プラットフォーム『KAITRY』を更に充実させ、仲介会社との取引を拡張し、さらにiBuyer機能により仲介会社経由の中古住宅売買の2倍以上の市場規模が見込まれる住宅保有個人客からの直接買取りを進めます。
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループが優先的に対処すべき事業上及び財務上の対処すべき課題は、以下の項目と認識しております。
① デジタルトランスフォーメーション(DX)の促進
日本の不動産売買において、多くの手続きがオフラインかつ多くのプロセスを介在する業界環境により、煩雑・複雑・不確実・非効率な現状が残されており、DXへの対応が重要であると、当社は認識しております。当社グループではiBuyerプラットフォーム『KAITRY』を中心とした、仲介会社向けの営業支援、個人向けの不動産売買プラットフォームの提供、社内の営業支援をDX化の取り組みを通して行っており、その結果経済産業省が認定する「DX認定事業者」に選定されております。
今後、ワンストップでの不動産売買を実現するべくDX推進部門を設置するとともに、仲介会社向け営業支援効果における取引業者数の増加、個人向け不動産売買プラットフォームの提供効果における仕入戸数の増加、社内営業支援効果における一人当たり仕入戸数の増加に注力してまいります。
なお、DX化取組みの成果の1つとして、仲介会社の業務効率化をサポートする情報提供機能「KAITRY PRO」(AI査定や仲介会社として媒介契約取得する武器となる顧客向け物件査定書作成等)の仲介会社への直接提供の仕組みを早期に確立していきます。
② 『KAITRY』利用促進のための認知度向上
当社グループが事業を拡大し成長していくためには、『KAITRY』ポータルサイトの利用者数の確保(査定依頼や問い合わせを受けた利用者を新規会員として登録します)が重要であると考えており、そのために『KAITRY』の認知度向上が必要であると考えております。当社グループでは、効果的かつ効率的な新規会員の獲得を行うため、現在行っているオンラインによるターゲティング広告を中心とした手法のほか、TVコマーシャル等によって『KAITRY』の認知度向上を行ってまいります。
③ 価格査定の精度向上
当社グループでは物件を仕入れるための価格査定を現状年間約17,000件超実施しております。一方でビッグデータを用いたAI査定により導出される査定価格も参考にし、その乖離率等を分析し、有効に掛け合わせることで真に活用できる、当社グループが買い取り価格として提示できるAI価格査定を『KAITRY』ポータルサイトにて提供しております。今後大きな成長を期待できる個人顧客からの直接仕入れ、iBuyer機能を拡充していくために、価格査定の精度を更に向上してまいります。
④ 中古住宅再生における販売期間の短縮
当社グループは、リノベーション工事により再生した中古マンションが、当初計画どおりに販売が進まない場合、販売用不動産の在庫滞留期間の長期化による商品評価損の計上や運転資金としての有利子負債の増加による財務健全性の悪化に繋がる可能性があります。そのため、仕入から販売までの期間の長期化を未然に防ぐことが課題であると認識しております。この販売期間短縮のため、仕入からリノベーション完了までの工程の見える化、対象物件の早期販売を期待できる仲介会社営業担当のデータベース構築を行う、自社開発した物件管理システム「ホームネットシステム」を用いております。更に物件の特徴や販売開始後の反響や案内の推移から個別物件の販売難易度を評価する独自のAIスコアリングモデルの開発を進めております。当該AIスコアリングモデルを実装することで販売期間の短縮、延いては利益率の向上を図ってまいります。
⑤ 中古戸建AI査定機能の開発と買取再販の取組み
中古戸建住宅はマンションと比較して躯体部分の状態見極めが必要かつ重要であり、2021年11月末現在で当社グループにおけるAI査定はマンションに限定して実施しております。株式会社ファーストホーム、株式会社サンコーホームでこれまで引渡した物件棟数は約5,000棟(2021年11月末時点)あり、これらに利用した部材、詳細な設計図を保有しております。まずはこれら引渡し物件をAIで査定し、当社グループの引渡した中古戸建住宅の買取再販を進めることで、住まいの保有・住み替えの促進を具体的に進めてまいります。『KAITRY』ポータルサイトは様々な顧客ニーズに対応する売却オプションを提供しており、今後、広告宣伝を強化することで、『KAITRY』ポータルサイト経由の直接仕入比率が上がってくるものと想定されます。
⑥ 品質管理の拡充
当社グループでは、お客様が中古住宅を購入する際に抱く物件の品質に対する不安を解消し、安心して暮らせる住宅を提供することが最も大事なことであると認識しております。当社グループでは、内装工事の内容を部位別に明示した「アフターサービス規準」とその部位ごとに一定期間保証する「アフターサービス保証書」といった当社グループ独自の検査・保証を行うことでお客様の笑顔が絶えることのない「安心」「安全」な住まいを提供してまいります。
⑦ 内部管理体制の強化
当社グループは、コンプライアンス体制の充実を重要課題と位置づけ、内部牽制機能を強化して、不正やミスの起こらない組織作りに取り組んでおります。内部監査を担当する内部監査室、監査役及び監査法人との連携による監査体制の充実をはかり、社外監査役を登用して監査体制の強化をしております。
今後、金融商品取引法における内部統制に係る報告を実施するため内部管理体制の整備を推進し、コンプライアンス機能の強化、業務マニュアルの整備等を行うとともに、業務の効率性・有効性の改善を進め継続的な成長を持続するため、内部管理体制のさらなる強化を推進してまいります。
⑧ 人材の確保と育成
企業が成長する上では、継続的に優秀な人材を確保し、これを育成することが重要であると認識しております。社内教育制度の拡充により社員の資質向上をはかり、社員一人一人のレベルアップをはかるとともに、管理職層の育成を強化して事業拡大に伴う組織体制の整備を進めてまいります。
⑨ 財務体質及び資金調達力の強化
当社グループは借入金により物件仕入資金を調達しておりますが、市況の変化に左右されずに安定的な資金調達を行うために財務基盤の充実を日頃から意識して形成する必要があります。そのためには、常に当社グループのおかれている状況をデータ分析した上で、定期的に金融機関への業況説明を行い、相互理解を深めることで取引がより強固となり、資金調達が円滑に行われるとともに、資本政策の強化により財務体質を強化してまいります。