訂正有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/12/06 11:00
【資料】
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【項目】
152項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営環境
今後のわが国の保険業界では、少子高齢化、人口減少等を背景に生命保険市場、損害保険市場ともに長期的なスパンにおいては市場規模の縮小の影響は予想されるものの、2021年度の損害保険業界の市場規模は、2010年度において正味保険料ベースで約7兆円であったのに対し、約8.8兆円(※1)となっており、拡大トレンドを継続しています。また、生命保険の業界市場規模は、保険料等収入ベースで2021年度においても32.0兆円(※2)であり、引き続き30兆円を維持しており、損害保険と生命保険をあわせると約40兆円という大きな市場規模を有しております。損害保険の市場規模の拡大トレンドは、当面の間は、引き続き継続していくものと考えます。
また、保険業界における損害保険代理店数は年々統廃合の進展により減少しており、2001年度に342,191店実在していたのに対して2021年度においては160,463店となる一方、損害保険の募集従事者数の推移は、2001年に1,575,195人であったのに対して2021年度は2,003,511人となっております(※3)。この背景には、1996年の保険業法改正や金融ビッグバン構想の進展により、商品の自由化・複雑化、生損保相互参入などが実現し、保険代理店の販売力向上の必要性が高まったこと、また2005年以降発生した損害保険会社・生命保険会社の保険金不払い問題を受け、保険代理店において募集品質の向上の必要性が高まったこと、さらには、2016年の保険業法改正により保険代理店に対する体制整備義務等が導入されたことなどがあげられます。資本力や人員等のリソース不足の課題により、中小保険代理店は単独での事業運営が年々困難となっており、今後についても損害保険代理店の統廃合は継続することが予想されます。
このような経営環境の中で、当社は「事業承継ビジネス」を通じて、環境変化に対応できず存続が困難な保険代理店を積極的に受け入れることで、保有契約を一括して引き継ぐとともに、合流代理店(保険募集人)を当社のパートナー社員として雇用する等により、保有マーケットを拡大し、営業体制の拡充を図っております。特に当社は、事業承継を通じて雇用したパートナー社員に対して、当社の強みである代理店支援プラットフォームとして営業面、事務面においてきめ細やかなサポートを提供することで営業専念体制を構築しており、これにより損害保険、生命保険の販売推進を図っております。当社中期経営計画においても、引き続き事業承継ビジネスを推進していくことで更なる成長を図ってまいります。また、現状認識として、新型コロナウイルス感染症が経営環境、販売実績に与える影響としては、お客様との対面機会の減少、新規契約販売への一定の影響があるものの、損害保険においては更新契約が中心となるため、総じて影響は小さく、このような環境下においても売上は安定しております。また、新型コロナウイルス感染症の流行長期化が継続した場合であっても、当社はこれまでオンライン面談を中心にDX戦略を推進しており、オンライン面談の更なる充実を図っていくことで、むしろ当社の成長につなげていくことができるものと考えております。
(2)経営方針
当社グループは、「お客様の利益創出に最善を尽くす~Doing Our Best On Your Behalf~」を企業理念に掲げています。企業が売りたい商品やサービスを市場に提供するのではなく、お客様から求められる商品やサービスを創り出し、提供することで「あんしん」をお届けすることを使命としております。
中期経営方針としては、「保険業界における販売インフラの変革~日本全国のお客様が安心して保険に加入できる
インフラを構築する~」を掲げ、社会環境の変化に対応することが難しい代理店や後継者のいない代理店を統合し、保険会社と共に業界の再編を進めることを目指しています。
(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、継続的な成長と企業価値の向上を目標としており、主な経営指標として営業収益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益を採用するとともに、それらの経営指標と極めて相関性の高い指標として、取扱保険料を重視しております。
(4)中長期的な会社の経営戦略
①事業承継の推進
経営方針に掲げる「保険業界における販売インフラの変革」を推進するため、新規事業承継を最重要施策と位置づけています。
a.損害保険会社、生命保険会社との関係構築
(a)保険会社からの出資、人的交流の促進
(b)全国の保険会社との密な連携による事業承継推進、業務品質の向上
(c)損害保険各社、生命保険会社との協力体制の確立
b.合流代理店(パートナー社員)への支援体制強化
(a)営業サポートによる手厚い事務支援、営業推進
(b)盤石なサポート体制構築に向けた人財の採用・育成
(c)営業サポートとコア営業の連携による案件創出
c.拠点政策、収益強化
(a)1拠点当たりANP(※4)10億円を目指した大型化と新規出店
(b)大型化による事務効率、生産性の向上及び収益最大化を通じた高収益モデルの構築
(c)パートナー制度の充実と業務分担に応じた合理的な報酬割合の設定による収益性の向上
(d)M&Aを通じた代理店買収による更なる拠点の拡大
②販売戦略の推進
保有マーケットにおいて損害保険、生命保険のコンサルティング販売を推進します。
a.基本戦略
(a)早期更改の徹底による営業サイクルの変革及び標準化
(b)更新手続時の面談率向上と証券お預かり運動(保険契約内容の分析とアドバイス)の徹底(お客様の状況にあった生命保険、損害保険のご提案)
(c)自然災害など社会的課題(風水災・地震、自動運転の普及に伴う新たな形態の自動車事故等)への取組み強化
b.パートナーマーケット(※5)
(a)損害保険更改率の向上と生損保新規契約の増加による手数料収入の増加
(b)パートナーマーケット拡大に向けた生命保険案件創出のサポートと同行支援
(c)各種勉強会、E-Learning等の活用による教育の充実、コンプライアンス指導の強化
c.コア営業マーケット(※6)
(a)経営者層への法人向け商品の提案推進、取組みの強化
(b)生命保険分野での保障性商品販売の強化、変額・外貨建て商品の拡販
(c)異業種との業務提携等の促進(付加価値の向上)
③採用・人財育成の推進
当社グループは、経営基盤を安定的に維持するため、優秀な人財の確保や育成が重要であると認識しております。そのため、企業理念をベースとした計画的な採用戦略、早期育成の取組み、評価を継続し、多様な人財が活躍できる仕組み、風土の構築を推進します。
a.戦略を支える人財確保のための採用
(a)サポート体制構築に向けた人財の採用
(b)社内外の信頼できる人脈を介した、紹介・推薦による採用活動をはじめとする多様な採用戦略の構築
(c)新卒採用の強化
b.次世代リーダーの育成
(a)OJTを通じた業務経験の付与
(b)AFP(※7)登録推進によるFPコンサル人財の育成
(c)当社独自の育成プログラムによる教育
(d)若手社員を対象とした早期育成プログラムによる教育
(e)メンター制度を通じたフォローアップ
c.成長意欲の醸成を促す評価
(a)「仕事力」だけではなく「人間力」の評価
(b)月1度のレベルアップ面談による適切な評価、及びフィードバックの実施
④体制整備、コンプライアンスの強化
体制整備、コンプライアンスの強化に取り組むことで社会的信頼性を高めると同時に、全社員がルールを遵守するだけでなく自らお客様のために思考し行動する、お客様本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)を定着させることを目指します。
a.体制整備(PDCAサイクルの構築、改善の仕組みづくり)
(a)保険募集マニュアルに則った適正な募集活動の徹底
(b)部支店での月例点検による業務改善及び事務指標の向上
(c)保険募集人の出勤・活動管理、各種資格研修の受講及び管理の徹底
b.適正な募集活動の推進
(a)正しい募集プロセス(比較推奨・意向把握・情報提供等)の徹底
(b)個人情報管理の徹底
c.コンプライアンスの指導及び教育
(a)「お客様の声」の入力推進と事案の共有、再発防止と業務改善
(b)コンプライアンス通信による継続した研修、テストの実施
⑤システム戦略の推進とアライアンス
保険代理店事業の基幹システム「A-system」の機能強化として、保険契約者情報・被保険者情報の契約データベースを分析し、収益向上に繋げるマーケティング機能を実装・稼働させるとともに、インシュアテック企業とのアライアンスを通じたIT戦略を推進します。
a.インフラ基盤整備、情報セキュリティ強化
(a)報酬計算業務の機能を強化し、営業サポート業務の負荷軽減
(b)グループウェアの「スケジュール、メール、チャット」等と連携し、利便性向上
(c)募集プロセス(意向把握等)の管理機能を実装し、保険業法対応と業務効率化
(d)保険契約者・被保険者等管理機能やコンサルティング機能の活用によるアップセル・クロスセルの実現に向けた営業支援機能強化
b.代理店業務支援システム開発
⑥海外戦略の推進
世界最大の米国保険マーケットにおいても、日本国内同様保険ブローカーの高齢化が課題となっています。当社子会社のAgent America, Inc.は西海岸を中心に3つの拠点を構え、日本国内で確立している事業承継ビジネスモデルを展開しています。全米50州中35州で保険商品を取り扱える強みを活かし、今後は現3拠点の拡大及びさらなる拠点展開を目指します。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
①コンプライアンス推進及び内部統制の強化
当社は、お客様本位の業務運営方針(フィデューシャリー・デューティー)に則り、業務品質、募集品質の更なる向上を図るとともに、改正保険業法で求められる体制整備の強化に取り組んでまいります。さらに、コンプライアンスの徹底を経営の基本と位置づけ、「業務の有効性及び効率性」、「財務報告の信頼性」、「事業活動に関わる法令等の遵守」、「資産の保全」を目的に、透明で健全性の高い企業経営を目指し、内部統制の強化を図ります。
②継続的な人財の確保と育成
事業承継を通して事業が拡大していく上で、各拠点における人財の採用と育成は引続き重要課題です。人財採用につきましては、ブランディング強化を行うとともに、リファラル採用にも積極的に取り組み、当社のミッション、ビジョンに共感できる優秀な人財、特に将来の部支店のリーダーとなりうる営業人財、営業サポート人財の採用に注力いたします。
人財育成におきましては、社内研修制度「Agent Business School」にて目指すべき人財レベルを定め、全部署におけるスタンダードレベルの向上を図ります。また、財産管理を軸としたFPコンサルティングは、他社との差別化を図る上で必須のスキルであるため、「AFP資格支援制度」を制定し、AFP認定者をより一層輩出してまいります。
③システムリスクへの対応
当社は生産性向上の観点より当社基幹システムの改修によるレベルアップを通じて、データベース・マーケティングによる営業活動を推進することとしておりますが、当社が保有する顧客情報の保護のためにシステムの安全性の確保と強化は重要な課題です。当社は、世界的にセキュリティレベルに定評のあるアマゾンウェブサービス(AWS)を利用して顧客情報を管理しておりますが、不正アクセス等のサイバー攻撃が想定されるリスクは完全にゼロにすることはできないとの認識のもと、各種のセキュリティ対策を実施するとともに定期的な運用の見直しを行っております。
④事業承継マーケットの競争への対応
昨今、中小規模の保険代理店をめぐる統廃合の動きは加速しており、業界他社と、事業承継ビジネスにおいて競合するケースが一定程度発生しています。当社は、代理店支援プラットフォームとして強みである強力なサポート体制を構築して事業承継を展開しておりますが、競争環境において、業界他社を上回る成長を実現するために、代理店支援プラットフォームの更なる強化と魅力の向上に加え、企業ブランディングの強化に取り組んでまいります。
⑤財務上の課題
当社は、主として運転資金の充実化を目的とした金融機関から借り入れはあるものの、基本的に自己資金及び営業キャッシュ・フローによる安定的な財務基盤を確保しており、優先的に対処すべき財務上の課題はありません。ただし、今後の成長戦略の展開に伴い、内部留保の確保と営業キャッシュ・フローの改善等により財務体質を強化するとともに、株式市場からの必要な資金の確保と、金融機関からの融資等により多様な資金調達を図ってまいります。
※1 出典:「ファクトブック2021 日本の損害保険」(一般社団法人日本損害保険協会)
※2 出典:「2021年版 生命保険の動向」「2021年4月~2022年3月末日損益計算書」(一般社団法人生命保険協
会)
※3 出典:「2021年度(令和3年度)末の代理店統計について」(一般社団法人日本損害保険協会)
※4 ANP・・・Annualized New business Premiumの略で、年換算保険料のことを指します。
※5 パートナーマーケット・・・パートナー社員及び勤務型代理店が持つマーケットのことを指します。
※6 コア営業マーケット・・・コア営業社員が持つマーケットのことを指します。
※7 AFP・・・Affiliated Financial Plannerの略で、日本FP協会が認定するファイナンシャルプランナーの
国内民間資格のことを指します。