訂正有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/12/05 10:00
【資料】
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【項目】
150項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループのパーパス(Purpose)は「私たちは世界中の人が、対話に参加できる機会を創り出し、社会に貢献しています。」です。
コーチングとは、対話を通して、目標達成に向けた能力、リソース、可能性を最大化するプロセスです。
対話は、「互いの共通性」に焦点を当て安心感を醸成することを主目的とする会話とは異なり、「互いの違い」にフォーカスします。対話することで、それぞれが培ってきた経験や価値観をもとに情報交換し、お互いの違いを顕在化させていきながら、「物事に対する新たな洞察」を一緒につくりだしていきます。そのため、対話に参加している人は、違いによる緊張感や違和感を持つこともあるでしょう。しかし、「違い」に蓋をし、対話を避けてしまっては、組織において、行動やルーティンの変化は起こりにくくなり、その前進が阻害されてしまいます。組織のあらゆる場面で、一時的な躊躇や不快感を避けずに、変革に向けた対話を意図的に起こすことのできるリーダーを開発し、組織の未来に貢献をすること、それが当社グループの社会における存在意義です。
当該パーパス(Purpose)を実現し続けるために、当社グループは主力ビジネスであるシステミック・コーチングTMによる組織開発ビジネスにより、クライアント企業の組織変革を実現させるとともに、コーチング人材育成ビジネスにより、対話を起こすことのできるリーダーを開発し続けていきます。
(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループが重視している経営指標は、売上高の先行指標としての受注高、売上高、営業利益及びコーチ人数(委託コーチを除く。)であります。売上高及び営業利益を継続的に成長させるとともに、品質の高いサービスを提供するコーチ人数を確保することにより企業価値の向上を実現してまいります。なお、当社ではコーチ人数を当社の役員であるコーチ及び従業員であるコーチの人数と定義しております。
(3) 経営環境
① 市場の状況
COVID-19パンデミックは、世界的な経済活動の停滞を招き、リモートワークの普及によって、企業等の組織形態は大きく変容を迫られました。また当社グループのクライアント企業だけでなく、日系企業の経営環境は厳しさを増しております。
我が国における国内企業向け研修サービス市場は、2021年度年間5,210億円(注1)で新型コロナウイルス感染拡大の影響があった2020年度を除いては、ほぼ横ばいに推移しているものの、“2022年度に入り、4月からスタートする新人研修の実施タイミングに合わせて対面型の集合研修を再開する動きが活発化していること、オンラインを活用したコロナ禍対応型の研修スタイルとの相乗効果によりサービス需要の取り込みも高水準で推移していく方向にある(注1)”と考えております。
しかしながら、2018年9月に厚生労働省が公表した『平成30年版 労働経済の分析 働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について』によれば、我が国においては“GDP に占める企業の能力開発費の割合が、国際的にみて突出して低い水準にとどまっており(注2)”、本書提出日現在においても、人材開発への投資は欧米企業と比較しても遅れている状況であると当社は考えております。
このような環境の中、“経営陣においては、企業理念や存在意義(パーパス)、経営戦略を明確化した上で、経営戦略と連動した人材戦略を策定・実行すべきである。(注3)”とされており、人的資本への投資が今後さらに高まっていくものと考えております。
また、競争環境としては、近年1on1コーチングによる個人開発、コーチング学習及び研修、コーチとコーチング対象者のマッチングなど、コーチングに関連した事業を行う企業が増加してまいりました。しかしながら、大企業をはじめとする組織に対してサービスを提供することで、個人だけでなく組織全体の変革を目的としたコーチングを提供するためには、一定数以上のコーチの存在、国際コーチング連盟や一般財団法人生涯学習開発財団の認定資格を保有するコーチ育成及びコーチング品質維持の仕組み、コーチングに関するデータを管理しサービス提供による効果を測定するためのIT及び専門組織の存在が必要となるため、現時点においては大企業に対してコーチングサービスを提供できる企業は限定されております。
(注1)出典:株式会社矢野経済研究所.『2022 企業向け研修サービス市場の実態と展望』,2022年7月
(注2)出典:厚生労働省.『平成30年版 労働経済の分析 働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について』,2018年9月
(注3)出典:経済産業省.『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~』,2020年9月
② 競争優位性
文中の当社の強みに関する事項は、本書提出日現在において、当社が判断したものであります。
当社グループは、当社の前身である有限会社コーチ・トゥエンティワンが、1997年10月にコーチ・トレーニング・プログラムの提供を開始してから、コーチ人材を育成するとともに、定量的な実証を試みながら、多くのクライアント企業の組織変革の支援をしてまいりました。当社の強みは以下のとおりと認識しています。
a. 正社員としてのコーチとコーチ育成
当社は、116名(2022年10月末時点)のコーチを有しており、その大部分を正社員として雇用しております。また、コーチの多くは、国際コーチング連盟もしくは一般財団法人生涯学習開発財団の認定資格の保有者です。確かなコーチングスキルを持つコーチがチームとなって、システミック・コーチングTMを実現しています。
また当社では、コーチ育成に多面的に取り組んでいます。コーチングは、理論を理解するだけでなく、幅広い知識とコーチング対象者一人ひとりに合わせたコミュニケーション力を必要とします。そのため、当社は、20年以上蓄積したコーチングノウハウにより独自のコーチ育成プログラムを構築・活用しており、人材育成を行っております。
b.国際コーチング連盟及び国内外の教育分野との連携
当社の前身である有限会社コーチ・トゥエンティワンは、1997年10月よりコーチ・トレーニング・プログラム(現コーチ・エィ アカデミア)を提供しております。プログラムを開発するにあたり、米国から有識者を招くなど、コーチングに関する技能面だけでなく、背景にある価値観や理論を深く研究してまいりました。なお、当該プログラムは1999年10月に国際コーチング連盟の認定を受けております。
また、コーチングに関する書籍を発刊してきたほか、メールマガジン等のオウンドメディアを通じて、組織やチームを率いるリーダーに、コーチングをはじめ、リーダーシップやマネジメントに関する情報を提供しています。また、国内外の大学及び大学院の教育・研究分野と連携し、大学での講義やコーチング研究も行っております。
c. 自社開発のコーチング管理システムとコーチング研究所
あらゆるコーチングセッションは、統合された自社開発のシステムで運用・管理されています。コーチング対象者は、スケジュール、これまでの対話の記録、アセスメント結果等を確認できます。
当社組織内にあるコーチング研究所は、こうして蓄積してきた膨大なデータを活用し、コーチングの効果を定量的に分析する取り組みを続けています。
このようにコーチングそのものの品質だけでなく、オペレーショナルな仕組みと膨大なデータから得られる洞察を活用し、より効果的な組織開発を実現しています。
d. グローバルでのサービス展開
当社のクライアント企業には、グローバル展開を進めている企業も多く、当社は海外現地法人の組織開発プロジェクトも手がけてまいりました。当社は、現地法人を設立し、英語・中国語・タイ語にも対応した正社員のコーチを有しており、現地企業向けにもコーチングを提供しています。
(4) 経営戦略等
今後、さらなる成長のために、当社グループは、以下の3つのポイントを中心に事業展開を行います。
① システミック・コーチングTMの拡大
主力であるシステミック・コーチングTMによる組織開発ビジネスにおいては、ECを起点にして、DAIBE、DCD、3分間コーチ等各種サービスを提供することを通じて、クライアント企業組織の変革をより効果的に促すシステミック・コーチングTMを広げてまいります。
② サービス開発とそれを支えるIT投資・情報セキュリティ強化
当社のサービスは、コーチによる対話とともに、各種アセスメント等を通じた客観的データによるフィードバックやコーチングに関する理解を深めることを通じて、コーチング対象者はより深い気づきを得られ、自らの考え方や行動を変化させていくことが可能になります。これらを可能にする各種ITシステムの開発を各プログラムの成長ステージに合わせて、継続してまいります。また事業の根幹を支えるITシステムのセキュリティ強化への投資は最重要項目としています。
③ 事業のグローバル化
システミック・コーチングTMによる組織開発ビジネスについては、既存の海外拠点だけでなく、新規に拠点を設立することで海外進出した日系企業を中心に、グローバルでのサービス展開を強化してまいります。コーチング人材育成ビジネスについては、買収により当社グループとなった米国子会社であるCOACH U, INC.のブランド力、受講生ネットワークを活用してまいります。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社の優先的に対処すべき事業上の課題は以下のとおりです。なお、優先的に対処すべき財務上の課題については、無借金経営を行っていること、キャッシュ・フロー・手元流動性共に大きな問題はないため、該当事項はございません。
① コーチ人材の更なる採用
当社が開発し提供しているシステミック・コーチングTMでは、品質の高いコーチングを複数のコーチにより組成されるチームにより実施するため、当社の事業成長のためにはコーチ人材の拡大が必須となります。我が国においては、コーチングという分野が徐々に浸透し始めてきたものの、その知名度は未だ高いとは言えません。この度の上場により、当社及びコーチング自体の知名度を高めることが、コーチ人材の採用拡大に寄与するものと考えており、今後更なるコーチ人材の採用に力を入れてまいります。
② サービス品質向上を支えるIT開発・情報セキュリティ
システミック・コーチングTMでは、コーチによるコーチングだけでなく、各種アセスメント、客観的データに基づくデータ提供等を行うため、ITシステムの向上はサービス品質の向上に直結するものと考えております。当社では統一されたシステムによりサービス提供を行うとともに、数々のデータを蓄積してまいりましたが、IT技術は継続的に発展しており、当社サービスを支えるIT投資にも終わりはありません。
また、コーチングセッションでは、クライアント企業の機密情報、個人情報等、秘匿性の高い情報に触れる機会が多くなっております。昨今では、ランサムウェア等のサイバー攻撃技術が向上しており、当社も技術の進化に対応した情報セキュリティ投資を継続する必要があります。
この度の上場により調達する資金にて、これらのIT開発及び情報セキュリティへの更なる投資を進めてまいります。
③ グローバル展開の加速
当社のクライアント企業の多くは日本以外にも拠点を有するグローバル企業です。クライアント企業の組織開発を「点」ではなく「面」で展開するためには、当社自身がグローバルに拠点を持ち、現地の言語にも対応したコーチを有していく必要があります。当社は2022年10月末現在、日本以外に米国、タイ、中国の3か国に拠点を有しておりますが、未だクライアント企業のニーズには応えきれていないと考えております。今後更なるグローバル拠点の拡大を進めるため、この度の調達資金を活用してまいります。