有価証券報告書-第15期(令和2年1月1日-令和2年12月31日)

【提出】
2021/03/26 13:10
【資料】
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【項目】
170項目

対処すべき課題

①経営環境
2019年に発生した新型コロナウイルス感染症の影響による世界経済の急激かつ大規模な悪化に伴い、短期的にエネルギー需要が落ち込みましたが、中長期的には世界の中間層人口の拡大、新興国を中心とした経済成長等により、エネルギー需要は回復・増加するものと想定しております。石油・天然ガスの需要についても、世界経済の回復に伴い、緩やかに新型コロナウイルスの感染拡大以前の水準に戻ると考えられ、中長期的にも、世界的な人口増と経済成長から、基調としてはアジアを中心とする堅調な需要が見込まれると考えております。
日本では、引き続き、安定的なエネルギー供給確保とこのための石油・天然ガスの自主開発比率の向上が課題となっております。日本政府による2030年度の自主開発比率目標40%以上に対し、2019年度の実績は35%弱の水準となっており、足元では着実な増加がみられるものの、世界のエネルギー需要の伸びや地政学的なリスク等に鑑みれば、長期的かつ継続的な自主開発の拡大に向けた取組みが必要な状況です。
他方、2015年に採択されたパリ協定では世界共通の長期目標として、産業革命前からの平均気温上昇を2℃未満に抑え、さらに1.5℃に抑える努力をする目標が設定されました。また、EU、英国、日本等の主要国は2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする、いわゆる「ネットゼロ目標」を表明しております。新型コロナウイルス感染症の影響による経済・社会活動の停滞に伴う温室効果ガスの減少を契機に、経済回復と気候変動対応を同時に進める政策や、社会構造の省エネルギー化・クリーン化に向けた政策が展開されつつあります。こうしたネットゼロカーボン社会に向けた議論の進展により、石油・天然ガスの需要の下押し圧力が強まる可能性やネットゼロカーボン社会への対応の緊要性が増すものと考えております。加えて、再生可能エネルギーの需要は大幅に増加するものと見込んでおります。
②経営方針
当社は、長期的な社会・経済の展望に沿って、2018年5月に「ビジョン2040」及び「中期経営計画 2018‐2022」を策定しております。
2021年1月には、上述の経営環境認識に基づき、気候変動対応目標及びネットゼロカーボン社会に向けた当社の事業戦略をお示しした「今後の事業展開~2050ネットゼロカーボン社会に向けて~」を発表しました。
ネットゼロカーボン社会に向けた様々な変化は、当社にとってチャレンジの面がありますが、同時に大きなチャンスでもあると捉えております。今後、当社はこの「今後の事業展開」を主軸とし、以下の経営方針のもと、我が国及び世界のエネルギー需要に応えつつ、2050年ネットゼロカーボン社会の実現に向けたエネルギー構造の変革に積極的に取り組んでまいります。
1.エネルギーの安定供給
石油・天然ガス上流事業を引き続き基盤事業と位置づけ、事業の強靭化とクリーン化を進めることにより、エネルギーの安定供給と気候変動への責任ある対応という二つの社会的責任を果たしてまいります。
具体的には、投資・コスト及びポートフォリオの最適化により低油価耐性を強化します。さらに、既存油田周辺において探鉱・開発作業を実施し、既存生産施設に繋ぎ込むことで開発期間を短くし、早期の生産開始を目指すこと等によって、上流事業の強靭化を強力に推進します。
並行して、オーストラリアのイクシスLNGプロジェクトやインドネシアのアバディLNGプロジェクトの推進等により、よりクリーンなエネルギーである天然ガスに生産の主体をシフトする「ガスシフト」を進めます。また、省エネルギー及びエネルギーの効率化の徹底等により上流事業のクリーン化を図ることで、ネットゼロカーボン社会への移行に的確に対応してまいります。
既存事業については、操業の効率化、コスト削減、投資の最適化を図りつつ、コアエリアであるオーストラリア、インドネシア、アブダビ、日本を中心に取組みを強化します。
オーストラリアオペレータープロジェクトであるイクシスプロジェクトにおいて、当初の想定より早いペースで、ほぼ所期の生産量を継続できる状態になりました。今後も長期的・安定的な生産量の維持及び追加埋蔵量の確保に向けた取組みを強力に推進します。また、大規模LNGプロジェクトのオペレーターとして、技術・プロジェクトマネジメント面での知見・経験の蓄積、活用を図ります。
インドネシアオペレーターとして開発準備作業を実施しているアバディガス田において、LNG年産950万トン規模の陸上LNG方式による開発により、2020年代後半の生産開始を目指し、基本設計(FEED)作業の準備及びFEED作業を推進します。
アブダビアブダビ沖合の油田群及びアブダビ陸上のADCO鉱区において原油の生産を継続するとともに、下部ザクム油田のアセットリーダーとして、当社の人材・技術を同油田の開発・生産事業に重点的に投入し、同油田のオペレーター会社であるADNOC Offshore社と緊密に連携して、プロジェクトの最適化及び生産能力の増強に向けた作業に取り組みます。また、探鉱鉱区Block4では2021年4月頃に掘削作業の開始を予定しており、探鉱作業を着実に進めます。
日本国内新潟県の南長岡ガス田の安定生産、直江津LNG基地及び天然ガスパイプラインネットワークを通じたガスの安定供給を着実に継続します。さらに、北関東地域において一層安定的な天然ガス供給を確保するため、両毛ラインの複線化や新東京ラインの延伸を進めます。また、国内に操業フィールドを有するメリットを最大限に活かし、自社技術者を効率的に育成するとともに、新規技術の実証フィールドとして有効に活用し、更に当社技術力を強化します。

新規事業については、早期に生産開始が可能となるような探鉱機会を追求するなど案件を厳選し、低油価においても競争力のある事業への参入を目指します。
並行して、国内及び成長市場であるアジアにおけるグローバルガスバリューチェーンの拡大に向けた取組みを継続・強化します。さらに、カーボンニュートラルLNGの販売等を推進します。
これらの取組みにより、エネルギーの安定供給とネットゼロカーボン社会への対応を推し進め、経済・社会の発展に貢献してまいります。
2.ネットゼロカーボン社会に向けた目標と取組み
ネットゼロカーボン社会に向け、気候変動対応目標を定めるとともに、5つの事業を強力に推進します。
<気候変動対応目標>気候変動に関するパリ協定目標の実現に貢献すべく、2050年自社排出ネットゼロカーボン等を目指す気候変動対応目標を定めます。具体的な目標は、「2050年絶対量ネットゼロ(Scope1+Scope2)」「2030年原単位30%以上低減(Scope1+Scope2、2019年比)」「Scope3の低減」です※1。目標達成に向け、CO2地下貯留・活用(CCUS)や森林保全によるCO2吸収等に取り組み、上流事業全体のCO2低減を強力に推進していきます。
※1 Scope1~3の定義は以下のとおり。 Scope1:報告企業が所有又は管理する発生源からの直接排出量 Scope2:報告企業が購入し消費する電力、蒸気、熱及び冷却からの間接排出量 Scope3:報告企業のバリューチェーンで発生するその他すべての間接排出量
<5つの事業>1. 上流事業のCO2低減(CCUS推進)
石油・天然ガス開発企業として、CCUSの推進により上流事業のCO2低減に取り組み、よりクリーンなエネルギーを供給します。
・国内初のCCUS実証(新潟・頸城油田、1988年~)等を通じて蓄積した当社の技術的強みを発
揮し、国内及び豪州イクシスLNGプロジェクト等の海外操業地域において、上流事業で発
生するCO2を地下に圧入することで、CO2の安全・確実な貯留・活用を目指します。
・探鉱・開発・操業のあらゆる段階において、省エネルギーやエネルギー利用の効率化を徹
底するとともに、天然ガスシフト、カーボンニュートラルLNGの販売等を推進します。
2. 水素事業の展開
中長期的な水素社会の到来を視野に入れ、エネルギー生産・供給事業者として、水素事業への展開を図ります。
・天然ガスを水素とCO2に分離し、CO2を地下に圧入・貯留する又は資源として活用すること
で、天然ガスをカーボンフリーな水素として供給します。
・他の企業・団体と協力・連携した研究開発を推進するとともに、水素バリューチェーンを
構築します。また、水素バリューチェーン協議会のメンバーとして業界横断的に連携
し、社会実装プロジェクトの実現を通じ、早期に水素社会の構築を目指します。
・水素を国内に輸入する輸送手段として、アンモニア製造、水素液化の事業化等を検討しま
す。
・当社の開発・保有する海外天然ガスを活用したカーボンフリー水素事業につながる機会と
認識しています。
3. 再生可能エネルギーの強化と重点化
国内外において、石油・天然ガス開発での技術を応用した地熱発電事業や、海外現場で培った洋上浮体施設の建設・操業の経験を活かした洋上風力発電事業に対する取組みを加速します。
4. カーボンリサイクルの推進と新分野事業の開拓
当社事業とのシナジーを活かし、メタネーション※2や人工光合成※3等のカーボンリサイクルを推進し、早期事業化を目指します。
萌芽や成長が予想される新分野事業にスピード感を持って取り組みます。このため、社内リソースを最大限活用した社内ベンチャー等を推進するとともに研究開発型ベンチャー等との連携を推進します。
※2 再エネ電力を用いて、水を電気分解し水素を生産する。これと石炭火力発電所等から排出される高濃 度CO2や、当社の天然ガス生産時の随伴CO2を、CO2-メタネーションシステム(メタネーション触媒)に よってメタンに変換する。
※3 人工光合成パネルの表面に設置された光触媒を用いて、太陽光により水を酸素と水素に分解し、発生
した水素を燃料・原料などに利用する。
5. 森林保全の推進
森林保全によるCO2吸収を目的とした事業を推進し気候変動対応に取り組むとともに、貴重な生物多様性の保全や地域社会の生活基盤向上に貢献する優良なREDD+プロジェクト※4を支援していきます。
※4 森林管理による森林劣化防止や植林などによる炭素吸収の増加を図る取組み






なお、本項の記載中、将来に関する事項については、別途記載する場合を除いて本書提出日現在での当社グループの判断であり、今後の社会経済情勢等の諸状況により変更されることがあります。