有価証券報告書-第117期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)
文中の将来に関する事項は,当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
(1) シミズグループの経営方針
当社は,1887年に相談役としてお迎えした渋沢栄一翁の教えである道徳と経済の合一を旨とする「論語と算盤」を「社是」とし,この考え方を基に,「真摯な姿勢と絶えざる革新志向により,社会の期待を超える価値を創造し,持続可能な未来づくりに貢献する」ことを「経営理念」として定めた。
また,2019年5月に,2030年を見据えたシミズグループの長期ビジョン「SHIMZ VISION 2030」と,当面5年間の基本方針と重点戦略を取りまとめた「中期経営計画〈2019‐2023〉」を策定した。
「SHIMZ VISION 2030」
■目指す姿『スマート イノベーション カンパニー』
建設事業の枠を超えた不断の自己変革と挑戦,多様なパートナーとの共創を通じて,時代を先取りする価値を創造(スマート イノベーション)し,人々が豊かさと幸福を実感できる,持続可能な未来社会の実現に貢献する。
■シミズグループが社会に提供する価値
イノベーションを通じた価値の提供により,SDGsの達成に貢献する。
①安全・安心でレジリエント※1な社会の実現
地震や巨大台風,豪雨などの自然災害リスクが高まる中,生活と事業を災害から守ることが求められている。強靭な建物・インフラの構築を通じて,安全・安心でレジリエントな社会の実現に貢献していく。
・強靭な社会インフラの構築
・建物・インフラの長寿命化
・防災・減災技術の普及
・ecoBCP※2の普及
※1 レジリエント:強くしなやかで復元力がある
※2 ecoBCP:平常時の節電・省エネ(eco)対策と非常時の事業継続(BCP)
対策を両立する施設・まちづくり
②健康・快適に暮らせるインクルーシブ※な社会の実現
高齢化や人口減少,都市化などの急速な社会変化が進む中,誰もが安心して快適に暮らせる社会が求められている。人に優しい施設やまちづくりを通じて,健康・快適に暮らせるインクルーシブな社会の実現に貢献していく。
・ICTを活用したまちづくり
・ユニバーサルデザインの普及
・well-beingの提供
・人類の活躍フィールドの拡大(海洋,宇宙へ)
※ インクルーシブ:すべての人が社会の一員として参加できる
③地球環境に配慮したサステナブル※な社会の実現
地球温暖化や森林破壊,海洋汚染などが深刻化する中,次世代に豊かな地球を残すことが
求められている。環境負荷低減を目指す企業活動を通じて,地球環境に配慮したサステナブ
ルな社会の実現に貢献していく。
・再生可能エネルギーの普及
・省エネ・創エネ,ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)化の推進
・事業活動におけるCO2排出量削減
・自然環境と生物多様性の保全
※ サステナブル:地球環境を保全しつつ持続的発展が可能な
■ビジョンの達成に向けて
3つのイノベーションの融合により,新たな価値を創造するスマート イノベーション カンパ
ニーを目指す。
①事業構造のイノベーション
ビジネスモデルの多様化とグローバル展開の加速,及び,グループ経営力の向上
②技術のイノベーション
建設事業の一層の強化に向けた生産技術の革新と未来社会のメガトレンドに応える先端技術
の開発
③人財のイノベーション
多様な人財が活躍できる“働き方改革”の推進と社外人財との“共創”による「知」の集積
■目指す収益構造
スマート イノベーション カンパニーへの進化により,2030年度に連結経常利益2,000億円以上を目指す。
連結売上利益の構成は,事業別では,建設65%,非建設35%,地域別では,国内75%,海外25%を想定している。
「中期経営計画〈2019‐2023〉」
■中期経営計画の位置付け
企業価値の持続的成長を目指し,外部環境の変化に機敏に対応しつつ,利益水準を維持するとともに,この5年間を新たな収益基盤の確立に向けた先行投資期間として位置付けている。
■基本方針
建設事業の深耕・進化と,非建設事業の収益基盤確立及び成長を支える経営基盤の強化を図り,グローバル展開の加速とESG経営の推進により,シミズグループの企業価値向上を実現し,SDGsの達成に貢献する。
■経営数値目標(連結ベース)
建設事業での安定的な収益基盤を維持しつつ,非建設事業の着実な収益力向上により中長期的に収益構造を強化し,グループの持続的成長を実現する。
非建設事業の成長に資する投資を着実に実施しつつ,財務体質の健全性を維持する。
| (単位:億円) | |||||
| 中期経営方針2014 | 中期経営計画〈2019‐2023〉 | ||||
| 2018年度 目標 | 2018年度 実績 | 2023年度 目標 | 財務KPI | ||
| 総売上高 | 16,300 | 16,649 | 18,800 | ROE 10%以上 自己資本比率 40%以上 負債資本倍率 0.7倍以下 (D/Eレシオ) 配当性向 30%程度 | |
| 建設事業 | 14,900 | 15,046 | 15,500 | ||
| 非建設事業 | 1,400 | 1,603 | 3,300 | ||
| 売上利益 | 1,750 | 2,166 | 2,350 | ||
| 建設事業 | 1,560 | 1,968 | 1,850 | ||
| 非建設事業 | 190 | 198 | 500 | ||
| 経常利益 | 1,020 | 1,339 | 1,400 | ||
■資本政策
①政策保有株式の縮減
・政策保有株式の縮減を段階的に進め,資本の有効活用を図る。
・売却代金の一部を原資として自己株式を取得し,成長戦略の実現に向けた機動的な資本政策を実施する。
②株主還元の拡充
・長期的発展の礎となる財務体質の強化と安定配当(普通配当)の維持を基本方針としつつ,成長により稼得した利益を,連結配当性向30%を目安に還元する。
■投資計画
| 項目 | 投資額(5ヶ年) | |
| 生産性向上・研究開発投資 | 1,000億円 | ・建設生産システムの進化(ロボット等) ・研究開発拠点の拡充 ・デジタル関連投資 他 |
| 不動産開発事業 | 5,000億円 | ・国内開発事業・賃貸資産の拡充 ・海外事業の拡大(ASEAN・北米等)他 新規投資額 5,000億円 売却による回収 ▲1,000億円 NET投資額 4,000億円 |
| インフラ・再生可能エネルギー 新規事業(フロンティア事業他) | 1,300億円 | ・インフラ運営・BSP事業 ・再生可能エネルギー関連事業 ・宇宙・海洋・自然共生事業 ・次世代ベンチャー投資 他 |
| 人財関連 | 200億円 | ・高度プロフェッショナル人財 ・グローバル化・制度改革 他 |
| 5ヶ年投資額 合計 | 7,500億円 | |
■非財務KPI
| 主要KPI | 2023年度目標 | |
| 生産性向上 | 建設事業における生産性(2016年度比) 向上率 | 20%以上 |
| 環境(E) | 建設事業におけるCO2排出量(2017年度比)削減率※1 | 10%以上 |
| 社会(S) | 働きがい指標※2 | 4.0以上 |
| ガバナンス(G) | 重大な法令違反件数 | 0件 |
※1 当社エコロジー・ミッション2030‐2050活動に対応する目標
※2 当社従業員意識調査による指標(5段階評価の平均)
(2) シミズのSDGs・ESGへの取組み
■SDGsの達成に向けて
2015年9月に国連の「持続可能な開発サミット」において,人間,地球及び繁栄のための行動計画として「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された。
SDGsには,2030年までに地球規模で解決すべき17の目標が掲げられ,すべての国連加盟国に,目標達成に寄与することが求められている。
シミズグループでは,SDGsを社会的要請として受け身で捉えるのではなく,事業を通じて主体的にSDGsの達成に貢献していきたいと考えている。
■ESG経営の推進
シミズグループは,ESG経営を推進し,事業活動を通じた社会的責任を果たすことで,ステークホルダーからの信頼を高めるとともに,中長期的な企業価値向上と持続的な成長を目指す。
E(環境):持続可能な地球環境への貢献
・CO2削減の中長期目標「エコロジー・ミッション2030‐2050」の着実な推進
・生物多様性の保全・指標化に向けた取組み
・限りある地球資源の有効活用と廃棄物削減に向けた取組み
S(社会):すべてのステークホルダーとの「共生」
・自然災害に対し,サプライチェーンと一体のBCP対応で,顧客・社会へ“安全・安心”を提供
・お客様の期待を超える価値の提供による顧客満足の獲得
・人権尊重の徹底と「働き方改革」によるサプライチェーンを含む労働環境の整備
・良き企業市民として地域社会と共生し,社会課題の解決に貢献
G(ガバナンス):コンプライアンスの徹底とリスクマネジメントの強化
・社是「論語と算盤」に基づく企業倫理の浸透とコンプライアンスの徹底
・リスクマネジメントの徹底(投資リスク,地政学的リスク,自然災害リスク 等)
・公正で透明な企業活動の実践
・すべてのステークホルダーへの的確な情報開示と対話の促進によるガバナンスの向上
(3) 独占禁止法違反事件に対する再発防止策の実施状況について
当社は,1991年の「独占禁止法順守プログラム」の制定以来,「独占禁止法順守マニュアル」及び「入札に係る役員・従業員の行動規準」等を整備し,コンプライアンス・ホットライン(相談・通報制度)も設置した。更に定期的に全従業員にコンプライアンス研修を行うこととし,法務部が継続的に支店・事業部門を巡回することにより,制度の確実な実施を図る等,コンプライアンスの徹底に努めてきた。
それにもかかわらず発生した中央新幹線建設工事における独占禁止法違反事件(以下,本事案という。)を受け,上記のコンプライアンス徹底を図るための諸施策を見直し,追加の再発防止策を定め,実施してきた。当該再発防止策の実施状況は,以下のとおりである。
2018年3月に新たに追加した再発防止策と実施状況
①経営トップが率先して倫理意識の涵養とコンプライアンスの徹底を図る
あらゆる機会をとらえて,社長から役員・従業員に対してコンプライアンスの徹底を指示する
とともに,以下のとおり継続して教育・啓発に努めている。
a.経営幹部向け企業倫理研修
2018年4月以降4回実施・各回社長以下約300名の役員・幹部社員,延べ約1,200名が受講
・斯文会 石川忠久 理事長「論語に学ぶ」
・渋沢史料館 井上潤 館長「“論語と算盤”に学ぶ渋沢栄一の事業・経営理念」
・安岡定子氏「論語に学ぶ」
・一橋大学 村上政博 名誉教授「独占禁止法 - 国際標準の競争法へ」
b.全国の支店における企業倫理研修
・全国14支店で渋沢史料館 井上館長による講義とグループ討議を実施し,役職者を中心に約2,400名が受講
・弁護士による独占禁止法に関する研修・ヒアリングを土木部門の全役員に対して実施
c.営業部門を中心とした社長講話
社長によるコンプライアンス講話を全国で14回実施
d.社内報及び社内イントラネットによる啓発
社内報に「シリーズ論語と算盤」の連載を開始。企業倫理室長メッセージや企業倫理研修の講演録,渋沢栄一翁の意志を活動理念とされている団体の紹介等を掲載。社内イントラネットに,企業倫理ポータルサイトを新設し,企業倫理に関する資料・映像やコンプライアンス主要規程類を掲載
②コンプライアンス推進組織の強化等
a.企業倫理委員会:委員長を社長とし,メンバーに外部有識者(弁護士)を加え,全社のコン
プライアンス関連事項の審議を行い,2018年度は3回開催
b.企業倫理室:2018年4月に新設し,全社のコンプライアンスの徹底に係る施策を立案・推進
c.独占禁止法違反再発防止外部会議:
目 的 本事案の発生原因分析及び当社が2018年3月に立案・発表した再発防止策の妥当
性に関する客観的な評価
構 成 員 弁護士3名
経 過 ・2018年4月から7月にかけて資料の検討,関係者へのヒアリングを実施し,全
6回の集中討議を経て,報告書を作成
・同年7月末に報告書を受領。取締役会に報告
評価結果 ・「再発防止策は,原因分析を踏まえた適切な内容である」と,妥当性を評価
・会議において同有識者より出された様々な意見は,2018年7月の再発防止策の
改定に反映
③営業体制の刷新によるコンプライアンスの強化
従来,建築事業部門と土木事業部門のそれぞれに置かれていた営業部門について,2018年4月に営業総本部を新設し一元化。営業担当副社長が建築・土木の営業組織を一体的に統轄する体制とし,更にコンプライアンス担当役員を専任配置
2018年6月には営業総本部及び土木総本部内にコンプライアンス推進部を新設
④監査部を拡充し,全社土木入札案件の臨時監査を実施
約1,800案件を対象に臨時監査を実施 ⇒ 法令違反を疑われる事案はなし
⑤行動規準の改定
行動規準の改定について,独占禁止法違反再発防止外部会議からの意見も反映し,2018年6月の企業倫理委員会,取締役会付議を経て,同年7月から運用を開始した。
行動規準の主な改定点
a.通報義務の明確化
他の役員・従業員から違反の指示を受けた場合及び他の役員・従業員による違反に気付いた場合の通報義務等について明確化
b.同業他社との接触に関するルールの明確・厳格化
同業他社は競争者であり,受注調整は勿論のこと,世間の疑惑を招きかねない接触は行わない
c.違反者に対する処分の強化
懲戒処分の対象を広げることを含め,懲戒処分を厳格化
⑥特定プロジェクトに対するコンプライアンスチェックの強化
a.リスクの高い案件の抽出と指定
企業倫理室,営業総本部及び法務部が,難易度が高い等の理由で競争者が限定される,公益性が高い又は発注方式が特殊である等の事情を総合的に考慮し,競争制限行為を誘引するリスクが高いと判断する案件を特定(建築・土木合わせて70案件程度が指定され,毎月案件の進捗に従い見直しを実施)
b.上記aの指定案件に関し,企業倫理室,法務部,外部弁護士等により,担当の営業役員,部署長,担当者等を対象にヒアリングチェックを実施(2019年4月までに累計約260案件を実施)
⑦2019年度以降の取組み
・2018年度に改定された行動規準をはじめとする再発防止策の実施状況につき,この1年間の独占禁止法をめぐる外部環境の変化を踏まえた更なる改善・補充の必要性を確認するため,2019年4月に専門弁護士による評価を行った結果,「現時点で必要かつ可能な諸施策をほぼ網羅するもので十分に評価に値する」との結論を得た。この評価は今後も定期的に行う。
・倫理意識の涵養とコンプライアンスの徹底には施策の継続が不可欠であると考えており,「独占禁止法」や「論語と算盤」に係る講演やeラーニングを含む教育施策の拡充も行いながら,2019年度以降も再発防止策を引き続き実施する。