有価証券報告書-第185期(2023/01/01-2023/12/31)
経営理念・長期経営計画に基づき、当社は気候変動や人的資本等のサステナビリティに関連する課題について、リスク低減のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、CSV経営を積極的・能動的に推進することで、中長期的な企業価値の向上とサステナビリティ課題の解決の両立を目指しています。当社はサステナビリティ課題全般およびテーマごとに、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の観点から考え方を整理し、取り組みを強化しています。
(1)サステナビリティ課題全般
(2)テーマ別
当社グループは、気候変動に対するレジリエンスを高め、適切かつ継続的に自然資本を利用し、循環型社会の構築に貢献するために、緩和や適応などの移行戦略を推進しています。当社は気候変動・自然資本・人的資本など、様々なサステナビリティ課題が社会と企業に与えるリスクと機会や戦略のレジリエンスを評価し、幅広いステークホルダーへ情報開示を行っています。
[気候変動・自然資本への対応]
気候変動問題はグローバル社会の最重要課題の1つであると同時に、農産物と水を原料とし「自然の恵み」を享受して事業を行うキリングループにとって重要な経営課題です。この認識の元、キリングループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2017年に公表した提言に準拠し、2018年からいち早くシナリオ分析とその開示を実施しています。2022年には、世界に先駆けて自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のフレームワークβ版のLEAPアプローチによる開示を行い、2023年にはTCFDとTNFDの両フレームワークに基づいて気候変動情報と自然資本情報を統合的に開示しました。気候変動や自然資本などの環境課題に対して統合的(holistic)にアプローチすることで、キリングループのレジリエンスを高め、脱炭素とネイチャー・ポジティブをリードしていきます。
※1:2021年10月に公開された「 TCFD 指標、目標、移行計画に関するガイダンス」および「TCFDの提言の実施(2021年版)」を指します。
※2:2022年末実績です。
※3:各年度のScope3算定には産総研 IDEA Ver2.3、Ver.3.1を使用しています。
リスク・機会の事業インパクト評価と対応戦略
2017年以降、継続的に気候変動のシナリオ分析を行うことで、気候変動によるリスクと機会の把握レベルと戦略を向上してきました。2023年は、自然資本や容器包装のインパクト評価を依存性や影響なども考慮して試算し、統合的に開示しています。
財務影響の分析
※4:価格変動予測データ分布の中央の50パーセンタイル幅で評価しています。
※5:GHG排出量削減を行わなかった場合で評価しています。
※6:価格変動予測データ分布の中央の50パーセンタイル幅で評価しています。
※7:現地コーヒー農園からのヒアリングより試算しています。
2022年~2023年、TCFD新ガイダンスが求めるアセットに対する気候変動の影響分析を実施しました。事業売却・自然災害などによる影響は小さいと評価しています。
※8:目標達成可能性は若干容易になる方向ではあるものの、必要な投資・費用に大きな影響はないと判断しています。
※9:自然災害モデルAIR洪水シミュレーションでの算出結果です。自然災害によるエクスポージャーも小さいと考えていますが、今後事業所の現地調査等を行い付保の可否についても検討していきます。
※10:気候変動に伴う法規制または社会的な情勢を主要因として耐用年数に達さず更新せざるを得なくなる可能性は低いと判断しています。参考としてキリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンのボイラー、および物流グループ会社所有のトラックの残存簿価の合計値を提示しています。
移行計画
気候変動の緩和に対するロードマップを策定し、グループ経営戦略会議で審議・決議して2022年1月より運用を開始しています。自然資本については、生態系保全に加えて「自然に根差した社会課題の解決策」として気候変動の緩和策や適応策を含めたロードマップの策定を検討しています。ペットボトルに関しては、2027年の国内再生樹脂使用比率50%に向けたロードマップを策定して運用を開始しています。
投資計画
2030年までは損益中立を原則とし、省エネ効果で得られたコストメリットで投資による減価償却費や再生可能エネルギー電力調達の増加分を相殺します。GHG排出量削減を主目的とした環境投資の指標としてNPV(Net Present Value)を使用し、投資判断枠組みにはICP(Internal Carbon Pricing:$63/tCO2e)を導入しています。再生PET樹脂の調達及び工場におけるヒートポンプシステム導入への支出を資金使途とするグリーンボンド(期間:2020年~2024年、100億円)に続き、2023年1月には、当社がScope1とScope2の温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けて推進する省エネ、および再生可能エネルギー関連のプロジェクトに充当する国内食品企業初のトランジション・リンク・ローンによる資金調達(期間:2022年~2042年、500億円)を実行しました。本ローンについては、経済産業省による令和4年度温暖化対策促進事業費補助金及び産業競争力強化法に基づく成果連動型利子補給制度(カーボンニュートラル実現に向けたトランジション推進のための金融支援)が適用されます。2022年には、省エネルギーに44億円、再生エネルギーの拡大に14億円を充当しています(エネルギー転換への充当はありません)。また、2023年には、省エネルギーに51億円、再生エネルギーの拡大に20億円を充当しています(エネルギー転換への充当はありません)。
気候変動対応ロードマップの投資予定※12
(単位:億円)
※12:2019-2021年中計は実績。2022~2030年はトランジション・リンク・ローン策定時の想定であり、今後修正される可能性があります。
※13:再生可能エネルギー使用拡大には再生可能エネルギー電力調達に関わる全ての投資額を含めております。
[人的資本への対応]
人財戦略を取りまく環境は社内外で大きく変化しており、キリングループの人財戦略も大きな転換期を迎えています。生活環境の変化や個人の価値観の多様化もあいまって、働き方をはじめ労働市場環境は劇的に変化し、また、キリングループにおいては事業ポートフォリオの転換によって、経営戦略実行に求められる人財も変化しています。
キリングループでは、「人財」を価値創造・競争優位の源泉とあらためて位置づけ、その価値を最大限引き出すことで、KV2027の実現と、グループの持続的成長・価値向上を実現していきます。
(1)サステナビリティ課題全般
項目 | 内容 |
ガバナンス | 当社はサステナビリティに関する重要事項について、グループ経営戦略会議及び取締役会で審議・決議しています。また、当社はCSV経営を推進していくため、キリンホールディングス社長を委員長としてグループCSV委員会を年3回実施し、CSVの方針・戦略および取り組み計画策定のための討議や計画実行状況のモニタリングを行っています。その内容を取締役会に報告し、議論の結果をグループ全体戦略に反映させています。 グループCSV委員会開催報告 https://www.kirinholdings.com/jp/impact/csv_management/promotion_impact/#link-1648082512 環境・健康・従業員という3つのテーマで設定したグループ非財務目標を、当社の取締役(社外取締役を除く)及び執行役員の業績評価に反映させています。それらについては、1[経営方針、経営環境及び対処すべき課題等](2)中長期的な経営戦略と目標とする経営指標 に記載しています。 グループCSV委員会の討議を踏まえ決定されたCSVの方針・戦略の実効性を高めるため、キリンホールディングス各部門および主要事業会社企画部門の実務担当者で構成されるCSV担当者会議を設置し、情報共有と意見交換を行っています。(図1参照) グループCSV委員会の傘下には、グループ横断の会議体である、CSV戦略担当役員を議長とするグループ環境会議、人事総務戦略担当役員を議長とするグループ ビジネスと人権会議/グループ健康経営推進会議を設定し、サステナビリティに関する個別課題への対応を促進しています。(図2参照) サステナビリティ課題別会議開催報告 https://www.kirinholdings.com/jp/impact/csv_management/promotion_impact_sustainability/ |
(図1)![]() (図2) ![]() |
戦略 | ①グループ・マテリアリティ・マトリックス 当社は社会とともに持続的に存続・発展していくうえでの重要課題をグループ・マテリアリティ・マトリックス(GMM)に整理しています。GMMを元に経営理念を社会的存在意義に翻訳した指針としてCSVパーパスを策定し、その実現に向けてCSV経営を推進することで社会課題を解決するとともに経済的価値も創出することを目指しています。詳細は、1[経営方針、経営環境及び対処すべき課題等](1)経営の基本方針 に記載をしています。 ②マテリアリティ選定プロセス マテリアリティは「経営諸課題の抽出」、「社内評価の実施」、「ステークホルダー・エンゲージメントの実施」、「マテリアリティの決定」の4つのプロセスで選定しています。各プロセスの詳細については以下の通りです。 経営課題の抽出においては、ISO26000、GRI、SASBなどの報告ガイドライン、FTSE、MSCI、Sustainalytics等の評価項目、SDGsのターゲット等をベースに、課題を洗い出しました。 社内評価の実施においては、NGO・NPOのレポートやメディア情報等の社会課題に関する客観的情報に基づき社会課題の事業活動への影響と事業活動による社会への影響について、グループ経営戦略会議での意見交換を実施しました。 ステークホルダー・エンゲージメントにおいては、社内評価結果を元に、投資家・NGO・NPO・従業員(労働組合)から意見を得ました。 マテリアリティの決定においては、ステークホルダーの意見を反映した結果について、グループCSV委員会での意見交換を実施したうえで、取締役会で決議しました。 ③課題別の対応 サステナビリティ全般への考え方や取り組みを受けて、環境・ビジネスと人権・健康経営については課題別の会議体を通じて社会と当社のリスクと機会を評価し、方針や戦略・計画を議論しています。各会議体の開催報告は幅広いステークホルダーへ積極的に情報開示を行っています。 |
リスク管理 | 当社はグループCSV委員会及びその傘下会議体において、サステナビリティ課題のリスクと機会について議論しています。またサステナビリティ課題を含む事業へのリスクについて、四半期ごとに開催するグループリスク・コンプライアンス委員会で検討・モニタリングを実施しています。リスク管理の詳細は、3[事業等のリスク] に記載をしています。 その他、個別のテーマについては、それぞれのリスクに対してシナリオを設定して分析・評価することで重要リスクを抽出・検討する新しいアプローチを導入・運用しています。気候変動・自然資本に関するリスク管理については、(2)テーマ別内の[気候変動・自然資本への対応] に記載をしています。 |
指標と目標 | サステナビリティに関する重要課題に対する目標は、グループ非財務指標として当社の経営計画に織り込まれています。具体的には、1[経営方針、経営環境及び対処すべき課題等](2)中長期的な経営戦略と目標とする経営指標 に記載しています。 また、CSVパーパスを実現するために、当社および主要子会社が取り組むべき課題に対するアクションプランとして、各社はCSVコミットメントを設定しています。それらを経営計画に組み込み、その進捗を各社経営層の業績評価に反映させています。 CSVコミットメント https://www.kirinholdings.com/jp/impact/csv_management/commitment/ |
(2)テーマ別
当社グループは、気候変動に対するレジリエンスを高め、適切かつ継続的に自然資本を利用し、循環型社会の構築に貢献するために、緩和や適応などの移行戦略を推進しています。当社は気候変動・自然資本・人的資本など、様々なサステナビリティ課題が社会と企業に与えるリスクと機会や戦略のレジリエンスを評価し、幅広いステークホルダーへ情報開示を行っています。
[気候変動・自然資本への対応]
気候変動問題はグローバル社会の最重要課題の1つであると同時に、農産物と水を原料とし「自然の恵み」を享受して事業を行うキリングループにとって重要な経営課題です。この認識の元、キリングループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2017年に公表した提言に準拠し、2018年からいち早くシナリオ分析とその開示を実施しています。2022年には、世界に先駆けて自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のフレームワークβ版のLEAPアプローチによる開示を行い、2023年にはTCFDとTNFDの両フレームワークに基づいて気候変動情報と自然資本情報を統合的に開示しました。気候変動や自然資本などの環境課題に対して統合的(holistic)にアプローチすることで、キリングループのレジリエンスを高め、脱炭素とネイチャー・ポジティブをリードしていきます。
ガバナンス | 内容 | □取締役会は環境関連課題全体の基本方針、中長期戦略、年度計画、環境を含む重要な非財務目標とKPIを審議・決議し、非財務目標の進捗モニタリングを通して気候変動や自然資本・循環型社会などのグループ環境業務の執行を四半期ごとに監督します。 グループリスク・コンプライアンス委員会事務局から、事業会社が評価・特定したリスクと機会の報告を受け、月次で監視し、特定された重要リスクやマテリアリティについて決議します。以上により、環境マネジメントの有効性を監督しています。 □気候関連課題や自然資本など環境関連課題の重要な目標設定や改定、投資計画はグループ経営戦略会議で審議・決議します。2022年からは、グループCSV委員会の下にCSV戦略担当役員を議長、関係役員および部門長を委員としたグループ環境会議を置き、環境課題別に設定したロードマップの進捗状況のモニタリングや方針・戦略・計画に対する意見交換を行うことで体制を強化しています。議論した内容は必要に応じてグループCSV委員会および取締役会に対して付議・報告します。 ※グループCSV委員会、および環境課題の役員報酬への反映については、(1)サステナビリティ課題全般に記載しています。 |
進捗 | □グループCSV委員会の開催回数を増やしています。(年1回→年3回)。 □グループCSV委員会の下にグループ環境会議(年2回)を新規に設置しています。 (以上、2022年) |
戦略 | 内容 | 気候変動による温暖化や降雨量の変化、自然災害が、重要な原料である農産物や水に大きな影響を与える一方で、自然資本の保全・回復が「自然に根差した社会課題の解決策」として気候変動の緩和策や適応策になることを理解し、研究・技術開発力およびエンジニアリング力を活用して環境課題の解決に向けて統合的にアプローチしています。 □気候変動では、TCFDのシナリオ分析をインプットとして2020年に改訂した「キリングループ環境ビジョン2050」で、2050年のネットゼロ目標を設定しました。SBT1.5℃目標の設定、RE100への加盟(以上、2020年)により中間目標にブレイクダウンし、自社主体の削減に加えて、取引先の削減を促進します。 □自然資本では、場所固有・依存性を考慮し、「持続可能な生物資源利用行動計画」の下、TNFDが提唱するLEAPアプローチを活用しながら、持続可能な原料農産物の調達と水資源の利用を図るとともに、気候変動問題の緩和策としても活用し、事業のレジリエンスを向上させます。 □容器包装では、2027年の日本でのペットボトルのリサイクル樹脂使用率50%目標達成と持続可能な容器包装の開発により、プラスチックが循環する社会構築に貢献するとともに、Scope3でのGHG削減、自然環境への影響低減を目指します。 □気候変動・自然資本等の環境課題への統合的アプローチの推進とルールメイキングへの貢献を目的として、以下に参画・活動しています。 ・Alliance To End Plastic Waste(2021年に加盟) ・SBTs for Natureのコーポレートエンゲージメントプログラム(2021年に国内医薬品・食品業界初として参加) ・TNFDシナリオ分析のパイロットテスト(2021年からThe TNFD Forumに参加。2022年にパイロットテストに参加。2023年にTNFD Adopter登録) |
進捗 | □TCFD新ガイダンス※1に完全準拠したシナリオ分析の中でアセットのリスクと機会を分析・評価する等、気候変動による財務インパクト把握の精緻化(2022年~)を行うとともに、自然資本の依存度・影響度・リスクと機会を把握するための評価を実施して、気候変動と自然資本の財務インパクトを統合的に開示しました(2023年)。 □気候変動の緩和策として、2030年までのGHG排出量削減ロードマップを策定(2023年)し、グループ会社の削減目標・行程を確定して実行を開始しています。主な取り組みは以下の通りです。 ・大規模太陽光発電をPPA方式(横浜工場除く)でキリンビール全工場(2021年)、協和キリン宇部工場・メルシャン藤沢工場(2023年)に設置。協和キリン高崎工場およびライオン豪州およびニュージランドの全拠点(2023年)、シャトー・メルシャンの全ワイナリー(2022年)、キリンビール全工場・全営業拠点(2024年)での調達電力再生可能エネルギー比率100%を達成。 ・食品企業として世界で初めてSBTネットゼロの認定を取得(2022年)。 ・その他、低GHG排出の原料農産物や資材の調達検討、ペットボトルの再生樹脂使用比率の増加等のバリューチェーン全体のGHG排出量削減を推進中。主要なサプライヤーへのアンケートから把握した各社の削減計画と削減進捗状況をもとに削減施策を協同検討する等、エンゲージメントを重視して削減を計画(2023年)。 □適応策として、スリランカの紅茶農園での持続可能な農園認証の取得支援、水ストレスを考慮した適切な節水を継続しています。 □気候変動の事業機会では、オーストラリアで初のカーボンニュートラルなアルコールフリービール「XXXX Zero」(2022年)を発売しました。免疫機能の機能性表示食品を外部パートナー企業と連携してラインアップを拡大し、デング熱・新型コロナウイルスなど気候変動の影響でリスクが拡大すると言われている感染症対応研究も継続しています 。 □自然資本では、気候変動の緩和・適応に寄与する再生型農業の知見獲得と推進を目的として、スリランカでレインフォレスト・アライアンスと共同で「リジェネラティブ・ティー・スコアカード」の開発を開始しています。椀子ヴィンヤードは、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で新しい世界目標として採択された「30by30」の目標達成に向けた環境省の自然共生サイトに正式認定(2023年)されました。アメリカコロラド州のニュー・ベルジャン・ブルワリーでTNFDと共同で実施したシナリオ分析結果はTNFDフレームワークβ版「ディスカッションペーパー」で紹介され、2023年9月に開示されたTNFD正式版の中でもオーストラリアでの水資源への対応が事例紹介されました。 |
リスク管理 | 内容 | □グループリスク・コンプライアンス委員会を設置し、気候変動や自然資本、法規制などの環境関連リスクと機会を、他のサステナビリティ関連を含めたリスクマネジメントの中で統括し、リスク管理の基本方針を審議します。 ※リスク管理の詳細は、3[事業等のリスク]に記載しています。 |
進捗 | □危機事象個々に対するアプローチ方法を見直し、経営資源の喪失にスポットを当てて対策を検討する「オールハザード型BCP」に移行(2021年以降)しています。 □シナリオ分析では各種の研究論文、Aqueductなどの科学的根拠に基づいたリスク評価ツールを活用しています。2023年からは、TNFDが推奨するENCORE、IBATといったツールの活用も開始しています。 |
指標と目標 | 気候変動に関連する目標 |
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自然資本に関連する目標 |
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容器包装に関連する目標 |
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※1:2021年10月に公開された「 TCFD 指標、目標、移行計画に関するガイダンス」および「TCFDの提言の実施(2021年版)」を指します。
※2:2022年末実績です。
※3:各年度のScope3算定には産総研 IDEA Ver2.3、Ver.3.1を使用しています。
リスク・機会の事業インパクト評価と対応戦略
2017年以降、継続的に気候変動のシナリオ分析を行うことで、気候変動によるリスクと機会の把握レベルと戦略を向上してきました。2023年は、自然資本や容器包装のインパクト評価を依存性や影響なども考慮して試算し、統合的に開示しています。
財務影響の分析
事業リスク/社会課題 | 財務インパクト | 対応 | |
物理的リスク | 農産物の収量減 | 2℃シナリオ:約11億円~約30億円 4℃シナリオ:約32億円~約104億円 (2050年)※4 | ・大麦に依存しない醸造技術 ・植物大量増殖技術 ・持続可能な農園認証取得支援 |
洪水による操業停止 | 約10億円 (200年災害、国内20カ所合計) | ・洪水の知見共有 ・洪水への設備対応 | |
渇水による操業停止 | 約0.3億円~約6億円 | ・渇水の知見共有 ・節水技術開発・展開 | |
ペットボトルのマイナスの影響 | 約11億円 | ・メカニカルリサイクルの拡大 ・ケミカルリサイクルの製造技術確立 | |
移行リスク | カーボンプライシングによるエネルギー財務インパクト | 2℃シナリオ:約77億円 4℃シナリオ:約12億円 (2030年)※5 | ・GHG排出量削減の実現 ・損益中立でのエネルギー転換 |
カーボンプライシングによる農産物財務インパクト | 2℃シナリオ:約9億円~約21億円 4℃シナリオ:約40億円~約76億円 (2050年)※6 | ・植物大量増殖技術 ・持続可能な農園認証取得支援 | |
持続可能な農園認証の農園からの認証品の調達 | 約0.6億円 | ・持続可能な農園認証取得支援 ・持続可能な原材料の調達 | |
事業機会 | 健康な人の免疫機能の維持 | 免疫健康サプリメント市場: 28,961.4Mn米ドル(2030年) | ・ヘルスサイエンス領域での貢献 |
熱中症の予防 | 熱中症対策飲料市場:940~1,880億円(2100年、4℃シナリオ) | ・熱中症対策飲料での貢献 | |
フードウェイスト削減 | 約9億円 | ・製品廃棄の削減 | |
ベトナムコーヒー農園での化学肥料、農薬削減による財務インパクト | 約1.1億円※7 | ・エンゲージメントの強化 |
※4:価格変動予測データ分布の中央の50パーセンタイル幅で評価しています。
※5:GHG排出量削減を行わなかった場合で評価しています。
※6:価格変動予測データ分布の中央の50パーセンタイル幅で評価しています。
※7:現地コーヒー農園からのヒアリングより試算しています。
2022年~2023年、TCFD新ガイダンスが求めるアセットに対する気候変動の影響分析を実施しました。事業売却・自然災害などによる影響は小さいと評価しています。
分析項目 | 影響 | |
買収、売却、方針による影響 (BT1.5℃目標を達成するために必要な2030年までのGHG排出削減量) | Lion-Dairy & Drinks・ミャンマー事業売却前 | 515千tCO2e |
同売却後※8 | 463千tCO2e | |
リスクに晒されている資産 | 国内事業所20カ所の200年災害によるエクスポージャー※9 | 約10億円 |
関連設備残存簿価※10 | 約11億円 |
※8:目標達成可能性は若干容易になる方向ではあるものの、必要な投資・費用に大きな影響はないと判断しています。
※9:自然災害モデルAIR洪水シミュレーションでの算出結果です。自然災害によるエクスポージャーも小さいと考えていますが、今後事業所の現地調査等を行い付保の可否についても検討していきます。
※10:気候変動に伴う法規制または社会的な情勢を主要因として耐用年数に達さず更新せざるを得なくなる可能性は低いと判断しています。参考としてキリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンのボイラー、および物流グループ会社所有のトラックの残存簿価の合計値を提示しています。
移行計画
気候変動の緩和に対するロードマップを策定し、グループ経営戦略会議で審議・決議して2022年1月より運用を開始しています。自然資本については、生態系保全に加えて「自然に根差した社会課題の解決策」として気候変動の緩和策や適応策を含めたロードマップの策定を検討しています。ペットボトルに関しては、2027年の国内再生樹脂使用比率50%に向けたロードマップを策定して運用を開始しています。
Scope1 とScope2の排出量削減 | □省エネルギー推進、再生可能エネルギー拡大、エネルギー転換の3つが主要テーマ。 □2030年までは、省エネルギーの推進と再生可能エネルギー比率の拡大が中心。 □2030年以降は、蒸気製造工程の燃焼燃料を化石燃料から水素などへ転換を想定。 □新たな再生可能エネルギー電源を世の中に作り出し増やしていく「追加性」と、環境負荷や人権の観点でエネルギー利用の「倫理性」を重視。 事業会社別GHG排出量削減実績および予定※11(単位:千tCO2e)
※11:2019年~2021年は実績。2024年以降は、2022年にロードマップを策定した時点での想定値であり、今後順次見直す可能性があります。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
Scope3の排出量削減 | □GHGプロトコルで定めたカテゴリーのうち、約60%を占めるカテゴリー1(原料・資材の製造)、次に排出割合の大きいカテゴリー4(輸送)、カテゴリー9(販売)を重点取組領域に設定。 □「取引先の削減促進」では、主要なサプライヤーへのアンケートから把握した各社の削減計画と定量および定性の進捗状況を元に、エンゲージメントを重視して削減を計画。GHG排出量の少ない原料・資材への切り替えを進めつつ、更なるGHG削減策についての情報をサプライヤーに提供する等、サプライチェーン一体となって推進。 □「自社主体の削減」では、自社で容器包装の開発を行う研究所を持つ強みを活かし、容器包装の軽量化、ペットボトルの樹脂使用率向上を推進。 |
投資計画
2030年までは損益中立を原則とし、省エネ効果で得られたコストメリットで投資による減価償却費や再生可能エネルギー電力調達の増加分を相殺します。GHG排出量削減を主目的とした環境投資の指標としてNPV(Net Present Value)を使用し、投資判断枠組みにはICP(Internal Carbon Pricing:$63/tCO2e)を導入しています。再生PET樹脂の調達及び工場におけるヒートポンプシステム導入への支出を資金使途とするグリーンボンド(期間:2020年~2024年、100億円)に続き、2023年1月には、当社がScope1とScope2の温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けて推進する省エネ、および再生可能エネルギー関連のプロジェクトに充当する国内食品企業初のトランジション・リンク・ローンによる資金調達(期間:2022年~2042年、500億円)を実行しました。本ローンについては、経済産業省による令和4年度温暖化対策促進事業費補助金及び産業競争力強化法に基づく成果連動型利子補給制度(カーボンニュートラル実現に向けたトランジション推進のための金融支援)が適用されます。2022年には、省エネルギーに44億円、再生エネルギーの拡大に14億円を充当しています(エネルギー転換への充当はありません)。また、2023年には、省エネルギーに51億円、再生エネルギーの拡大に20億円を充当しています(エネルギー転換への充当はありません)。
気候変動対応ロードマップの投資予定※12
(単位:億円)
2019-2021年中計 | 2022-2024年中計 | 2025-2027年中計 | 2028-2030年中計 | |
省エネルギー投資・施策 | 15 | 74 | 104 | 48 |
再生可能エネルギー使用拡大※13 | 15 | 150 | 237 | 362 |
エネルギー転換 | 0 | 0 | 9 | 12 |
合計 | 30 | 224 | 350 | 422 |
※12:2019-2021年中計は実績。2022~2030年はトランジション・リンク・ローン策定時の想定であり、今後修正される可能性があります。
※13:再生可能エネルギー使用拡大には再生可能エネルギー電力調達に関わる全ての投資額を含めております。
[人的資本への対応]
人財戦略を取りまく環境は社内外で大きく変化しており、キリングループの人財戦略も大きな転換期を迎えています。生活環境の変化や個人の価値観の多様化もあいまって、働き方をはじめ労働市場環境は劇的に変化し、また、キリングループにおいては事業ポートフォリオの転換によって、経営戦略実行に求められる人財も変化しています。
キリングループでは、「人財」を価値創造・競争優位の源泉とあらためて位置づけ、その価値を最大限引き出すことで、KV2027の実現と、グループの持続的成長・価値向上を実現していきます。
項目 | 内容 |
戦略 | 1.人財戦略のありたい姿 キリングループでは、「人財」を価値創造、競争優位の源泉と位置付け、人財に投資していくことで、「人財が育ち、人財で勝つ会社」を目指します。 キリングループでは、経営戦略が人財戦略の方向性を規定すると同時に、人財のケイパビリティが経営戦略を策定する上での重要な要素となり、経営戦略の可能性を広げると考えています。競争力の源泉である人財に対し、マーケティング、R&D、ICTといった専門性を高め、食領域からヘルスサイエンス領域・医領域にわたるユニークな事業ポートフォリオを通じて多様な事業経験を積むことで、専門性と多様性を備えた人財を育成していきます。 また、外部人財や障害者の採用、女性の活躍推進など、多様性を受容する組織風土の醸成と成長意欲のある人財の成長を支援する環境を整備することで、一人一人のチャレンジする意欲を高め、イノベーションにつながる機会を増やしていきます。 ![]() ![]() 2.グループ経営課題から見る人財戦略の課題認識 人財戦略では、短期的には、事業ポートフォリオ転換に向けて組織能力を強化するとともに戦略の実行度を高め、中長期的には、専門性・多様性を兼ね備えた人財輩出によって、将来にわたる企業価値を高めていきます。そのために、現時点で5つの課題を認識しています。 ① 事業ポートフォリオ転換に伴う、組織能力の強化(ヘルスサイエンス・新規事業 等) ② 将来を見据え、先が見えない時代にこそ求められる、専門性・多様性の人財マネジメント ③ 挑戦する人財とそれを支える風土づくり=高度な戦略を実現する戦略実行力 ④ 労働市場や個人の価値観の変化に対応した、働きがいの創出 ⑤ 人的資本への注目を契機とした、ステークホルダーとの対話による戦略進化 |
3.人財戦略の全体像 人財戦略実行のキーとなるのは、「専門性」と「多様性」です。VUCA時代において、イノベーションを創発し続けるには、人財と組織の両面の「専門性」と「多様性」を高めていく必要があり、そこでは、個人の「成長意欲」と、多様な人財によるコラボレーション・「共創」の視点が重要です。 人財においては、キリングループが大切にしている「グループ理念・パーパス」への共感を通じ、グループへの貢献と自らの成長につながるWillを基にした自律的なキャリア形成を促進することで、主体的な学び・挑戦といった「成長意欲」を喚起し、専門性を高めることにつなげていきます。そして、専門性を軸とした事業を超えた出向や、高度で広範囲な課題に挑戦する機会などを通じて、多様な視点・価値観に磨きをかけ、人財力の強化を組織としての能力向上につなげていきます。 さらに、組織においては食領域からヘルスサイエンス領域・医領域まで幅広くグローバル展開しているユニークな事業ポートフォリオを生かして、事業を超えた専門性と多様性のある人財の流動性を高め、多様な人財によるコラボレーション・「共創」機会を増やすことで、個人・チームを超えた組織としての専門性と多様性を高め、イノベーションが創発し続ける組織能力の獲得と組織風土の醸成を目指します。 このように、専門性と多様性をキーとし、自律的に学び・挑戦を続ける個人の「成長意欲」と、多様な人財によるコラボレーション・「共創」を高めることでイノベーションの創発へつなげていくストーリーを、今後「キリングループらしいチャレンジ創出」に向けた取り組みに反映していきます。 |
![]() 人財戦略の重点取り組み
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《取り組み事例》 ■グループ理念浸透・グループ一体感醸成 キリングループが目指すグループ理念・価値観を体現した取り組みを表彰する「キリングループ・アワード」を毎年開催しています。2023年からは、よりグループ一体感の醸成を図るため、従業員を主役とした内容へと位置づけを刷新しました(応募数98件、当日オンライン視聴1,200アクセス)。従業員同士が、表彰案件の事例に共感・共鳴し合う場とすることで、国や地域・事業を越えたグループシナジーの発揮へとつなげていきます。 ■越境学習を通じた個と組織の多様性 越境学習では、『個の自律的なキャリア形成』に加え、『個と組織の多様性』を狙いとしています。自社内の経験や価値観にとどまらず、社外・人とのつながりを通じて新たな視点や価値観が得られ、また、さまざまな価値観をもつ人財を受け入れることで、組織の多様性受容にもつなげています。2019年に「留職プログラム制度」をスタート、2020年には「副業」を解禁し、同時に外部からの副業受け入れも開始しました(グループ内副業件数:174件※)。2021年以降、企業間で相互に副業に取り組む「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」に参画。また、2022年8月に設立された「人的資本経営コンソーシアム」にも参画し、経済産業省・金融庁の支援の下、日本企業の持続的価値向上に向けて「人的資本経営」を推進していきます。 ※2020年7月〜2023年12月 許可数(キリンホールディングス、キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンの4社勤務者) | |
4.人事の基本理念 人財戦略の基盤となるのが「人事の基本理念」です。人財戦略は大きな転換期を迎えていますが、グループ人事の基本理念である「人間性の尊重」は変わりません。人間のもつ無限の可能性を大事にするという考え方は、キリンビールの醸造フィロソフィーである「生への畏敬」にも通じます。無限の可能性をもって、従業員一人一人が新たな価値創造に向かって挑戦し、生き生きと働くことで、仕事を通じて成長し、発展し続ける環境を提供していきます。 ![]() |
指標と 目標 | キリングループは、KV2027において非財務指標の一つに「従業員」(従業員エンゲージメント、多様性向上達成度、休業災害度数率)を設定し、役員報酬とも連動しております。また、人的資本に関する情報開示およびステークホルダーとの対話強化にも取り組んでいきます。
2023年12月31日時点 (注)1 女性経営職比率およびキャリア採用比率は、集計対象をキリンホールディングス原籍者としています。 人的資本開示指標 ![]() ![]() ![]() |