有価証券報告書-第187期(2025/01/01-2025/12/31)
有報資料
文中の将来に関する事項は、当年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1) 経営の基本方針
キリングループは、2019年に策定した長期ビジョン「キリングループ・ビジョン2027(以下、KV2027)」のもと、サステナビリティや健康意識の高まり、酒類への規制リスクや若年層のアルコール離れ、デジタルの進化等、変化する経営環境に対応しながら、ヘルスサイエンス事業の立ち上げと育成をはじめとした事業構造の変革に取り組んできました。
KV2027の最終年度が近づく中、10年後の2035年を見据えた新たな長期ビジョンを策定し、酒類、ヘルスサイエンス・飲料、医薬から成る事業ポートフォリオにより、さらなる企業価値向上を目指します。
近年はAIの進化や人財不足、消費意識の多様化等、環境変化が加速しています。こうした変化に柔軟に対応しながら、グループ全体で、世界の生活者の行動変容を促し、新たな生活習慣を生み出すことで、心と身体の健康の未来を創造していきます。こうしたイノベーションを次々と生み出す組織能力を更に高め、挑戦する人財と組織文化を持つグローバル企業グループとしてCSV(Creating Shared Value)を実践し、「酒類事業を営むキリングループとしての責任」を前提に、「健康」「コミュニティ」「環境」の3領域で価値を創出し、「こころ豊かな社会」の実現に貢献します。

キリングループでは、グループ共通の行動指針「KIRIN WAY」をグローバルに浸透させていきます。当社グループが大切にしてきた共通の価値観を継承するとともに、全従業員が行動指針に基づいて日々の業務に取り組み、変革を推進する組織文化の更なる進化を図ります。また、挑戦を後押しする評価制度を国内に導入し人財育成を強化するとともに、将来の成長に向けて部署や国を超えた配置を進め、共創と挑戦を促す風土を育んでいきます。

持続的成長のための経営諸課題「グループ・マテリアリティ・マトリックス:GMM」
キリングループは、社会とともに、持続的に存続・発展していく上での重要テーマを事業へのインパクトとステークホルダーへのインパクトの2つの観点から評価し、「持続的成長のための経営諸課題(グループ・マテリアリティ・マトリックス:GMM)」に整理しています。GMMは時間の経過とともに変化していくものであり、グループ計画策定プロセスの起点となることから、毎年更新の必要性を判断しています。本年度も、社内外環境変化を踏まえ、10年先を見据えてキリングループが社会とともに持続的に存続・発展していくうえでの重要課題を再整理しました。2026年以降に向けて、ステークホルダーへのアンケートや、キリングループの役員による意見交換などを通じてグループの事業へのインパクトを再評価し、GMMを更新しました。これにより、社会的要請への適合度をより高めています。

※各象限内の重要性に差異はありません。
「キリングループCSVパーパス」
GMMに基づき、当社は「酒類事業を営むキリングループとしての責任」を果たすことを前提に、「健康」「コミュニティ」「環境」の4つの領域の課題解決を目指しており、これを「CSVパーパス」と定めるとともに企業経営の土台として「企業としての普遍的な責務」を明記しています。加えて、4つの領域の課題解決に向けた具体的なアクションプランをCSVコミットメントとして、成果指標を会社別により具体化して目標値を設定し、グループ各社の取り組みに繋げています。
また、長期経営構想を踏まえ、全ての事業領域で「健康」価値創出を特に志向することから「健康」をCSVパーパスの中心に据えるとともに、こころ豊かな社会の実現のためには、体の健康だけでなく、心の健康も重要になるため、「健康」のステートメントを「生活者のこころとからだの健康に貢献する。」に変更いたしました。

価値創造モデル/CSV経営の概念
CSV経営のベースの考え方である「社会課題の解決を通じて、社会的価値と経済的価値を創出すること」を持続的に推進していく仕組みとして、当社は価値創造モデルを策定しています。イノベーションを次々と生み出すための組織能力(INPUT)を基盤として、社会課題の解決に事業活動(BUSINESS)を通じて取り組むことで、価値(OUTPUT/OUTCOME)を創出しCSVパーパスを実現しています。特に人的資本や自然資本などの非財務資本の強化は、社会と共に自然の恵みを利用しながら事業を行う当社にとって、継続的な価値の創造につながります。
事業を通じて、当社は社会的価値と経済的価値を同時に生み出し、それらを組織能力などの経営基盤に再投資することで、持続的に資本と価値を成長させることを目指しています。

このCSV経営を推進していくことがどのように企業価値の向上に繋がっているかを図示すると以下のようになります。

社会課題の解決を通じた事業活動(Business)は経済的価値を生み、フリー・キャッシュフローを増加させると共に、事業リスクを低減することにつながるため、資本コストを下げ、企業価値の向上に寄与します。
他方、これらの活動から社会的価値を創出し、その価値がお客様のニーズを充足することで、弊社の製品・サービスに対するWillingness to Payが高まり、長期的にはフリー・キャッシュフローの増加にも影響すると考えられます。さらに、社会的価値が創出され高い水準になることで、従業員エンゲージメントの上昇や採用での優位性などにも影響することが考えられ、価値創造モデルにおけるINPUTの基盤である人的資本の強化に繋がります。その結果、企業の成長率にもポジティブな影響を及ぼすと当社は認識しています。
(参考)
・持続的な成長のための経営諸課題(グループ・マテリアリティ・マトリックス)
URL https://www.kirinholdings.com/jp/impact/materiality/
・キリングループ CSVパーパス
URL https://www.kirinholdings.com/jp/purpose/csv_purpose/
・キリングループ CSVコミットメント
URL https://www.kirinholdings.com/jp/impact/csv_management/commitment/
・価値創造モデル
URL https://www.kirinholdings.com/jp/purpose/model/
(2) 中長期的な経営戦略と目標とする経営指標
2028年に向けた計画
キリングループは、長期の持続的成長を目指して将来の環境変化や地政学リスクなどを踏まえた事業ポートフォリオ変革に取り組んできました。これからも成長し、キャッシュサイクルを回すことで企業価値を上げていきます。具体的には、既存事業の効率性を高めて安定したキャッシュを創出し、それを成長事業への投資に回すことで、グループ全体で成長を続ける好循環を回していきます。酒類、ヘルスサイエンス・飲料、医薬の各事業でキャッシュ創出力を高め、1桁台後半%のEPS成長を継続します。同時に、業界平均として相対的にマルチプルの高いヘルスサイエンス事業のキリングループ内での構成比を高めることでPER向上を目指します。このEPSとPERの掛け算によって企業価値を持続的に成長させていきます。
2028年に向けた各セグメントのEPS成長を牽引するのはヘルスサイエンス・飲料事業です。ヘルスサイエンス・飲料事業の利益成長により、2028年のEPS構成比を全体の約25%まで高めるとともに、酒類事業・医薬事業についても着実なEPS成長を図ります。展開エリア別のEPS構成比についても、ヘルスサイエンス事業のEPSを成長させることで、アジア・パシフィックの構成比を2028年には約30%まで高めていきます。
(基本方針)
不確実性や地政学リスクも考慮しながら事業ポートフォリオを展開し、2035年に目指す姿の実現に向けて、酒類、ヘルスサイエンス・飲料、医薬の各事業で成長を実現していきます。
(優先課題)
① 各事業の注力分野での価値創造
② 人財、R&D、デジタル及びマーケティングへの投資強化
(重要成果指標)
2028年に向けた財務指標については、EPSの成長による株主価値向上を目指すとともに、引き続きROICを採用し、継続的に資本コストを超える水準を目指していきます。
また、重要成果指標(財務目標・非財務目標)及び単年度連結事業利益目標の達成度を役員報酬に連動させることにより、株主・投資家との中長期的な価値共有を促進しています。(なお、役員報酬に関する詳細は、「第4 提出会社の状況 4.コーポレート・ガバナンスの状況等 (4) 役員の報酬等」をご参照ください。)
[財務目標※1]
※1 財務指標の達成度評価にあたっては、在外子会社等の財務諸表項目の換算における各年度の為替変動による影響等を除く。
※2 ROIC=利払前税引後利益/(有利子負債の期首期末平均+資本合計の期首期末平均)
[非財務目標]

(財務方針)
キャッシュ・フロー最大化に向けてオーガニック成長による利益創出を目指します。2028年に向けて創出する営業キャッシュ・フローの総額は約8,400億円を想定しています。配当金については、DOE(連結株主資本配当率)5%を目安とし、原則として1株あたり配当単価は累進配当を実施いたします。配当金額はグループ総額で約2,400億円を予定しています。設備投資に関しては、総額で約4,400億円を予定しており、長期視点で優先順位を決定し、安全・品質や環境のために必要な設備投資を適切に実施した上で総額のコントロールをします。また、価値創造の源泉となる人財、R&D、ICT及びマーケティングへの投資も強化して企業価値向上につなげます。
安定配当を維持しながら、財務健全性を確保するために、有利子負債の返済を実施していきます。今後、M&A投資を実行する際の資金は事業売却などによって賄いますが、不足する場合には2~3年以内に財務健全性を戻せることが見込める限りにおいては、一時的にグロスDEレシオが1倍を超えることを許容します。最適な事業ポートフォリオのための事業の見直しについては継続して議論をしていきます。
株主還元については、基本的には配当で行うものの、投資機会や事業売却等で創出されるキャッシュバランスを考慮しながら、自己株式取得の実施を機動的に判断します。
なお、保有アセットからの営業キャッシュ・フローの積み上がりによって自己資本が過大になる場合や事業売却によるキャッシュ・インがある場合で、次の成長投資のタイミングと時間のずれがある場合には、自己株式取得を検討します。この方針のもと、2026年2月5日付で発表したFour Roses Distillery, LLCの売却に伴うキャッシュ・インを活用して、追加の株主還元として800億円を上限とした自己株式取得を実施します。
(非財務方針)
長期の持続的成長を目指して、非財務への取り組みも引き続き強化します。「イノベーションを次々と生み出す組織能力」の強化を目指し、グループ全体でAIとの共創を推進していくことに加え、キリングループの強みであるマーケティング力・技術力をさらに強固なものとします。基盤となる人財強化も継続し、KIRIN WAYを体現する人財によって戦略の実行度を高めていきます。また、ステークホルダーからの期待を踏まえ、経済的価値につながる非財務目標を設定し、価値創造モデルのInput~Business~Outputを強化することでより大きなOutcomeの創出を目指しています。非財務の戦略的な取り組みを通じて、当社はCSV経営を推進し、社会のサステナビリティ課題の解決にも貢献していきます。
(3) 会社の対処すべき課題
キリングループを取り巻く経営環境は、健康志向の高まり、酒類規制やアルコール離れ、AI等デジタル技術の進化、労働力不足等、急速に変化しています。更に、気候変動や地政学リスクの高まりにより経済の先行きは不透明です。当社グループは、迅速かつ柔軟に変化に対応する経営体制を継続しながら、CSV先進企業として、事業を通じた社会課題の解決により企業価値向上を目指します。新たに策定した2035年の長期ビジョン「人と技術の力でイノベーションを起こし続けるCSV先進企業として世界をもっと元気にしている」姿を実現するため、2026年は「変革の起点」として、イノベーションを次々と生み出す組織づくりを加速します。人財への投資を強化するとともに、グループ共通の価値観・行動指針である「KIRIN WAY」をグローバルに浸透させることで、組織の一体感と変革力を高めていきます。
組織能力の強化により、酒類、飲料・ヘルスサイエンス、医薬の各事業が自律的に成長し、かつ事業の掛け合わせによるシナジーを最大化することを目指します。特に、ヘルスサイエンス事業のアジア・パシフィックを中心とした成長を加速し、グループの第3の柱として収益性を高めます。
事業の稼ぐ力を高めるとともに、株主利益の更なる向上のため引き続き当期利益を重視した経営を進め、「EPS」及び「ROIC」の財務目標達成を目指します。非財務目標については、新たに「R&D(研究開発)」「デジタル」を加え、各項目の達成を通じて持続的成長を実現します。
① 酒類事業
お酒に対するお客様の価値観が多様化する中、キリンビール㈱は、CSVパーパスの「酒類事業を営むキリングループとしての責任」を基盤に、お酒の未来を創造し、人と社会につながるよろこびを創出することに注力していきます。
2026年は、ビール類酒税一本化が予定されており、ビールやRTDを中心とした成長カテゴリーへの集中的な投資を推進することにより、市場を上回る成長を目指します。ビールでは、主力となる「一番搾り」「キリンビール 晴れ風」ブランドの強化に加え、好調の「キリングッドエール」を育成し、エコノミー領域では「本麒麟」を中心に投資し、基盤強化と高収益化を実現します。RTD分野では「キリン 氷結Ⓡ」のブランド力向上に加え、新たな価値創造にも取り組みます。
健康志向や多様なライフスタイルに応える商品群では、ノンアルコールカテゴリーの商品ラインアップ拡充や、既存の機能系ブランドの強化を中心に、技術力を活かした価値創造により新たな事業の柱の確立を目指します。クラフトビールでは、「スプリングバレーブルワリー」ブランドから少量限定商品「ブリュワーズライン」を2025年11月に発売し、今後も新たな限定商品の展開を計画しています。また、地域ブルワリーや行政と連携し、クラフトビールを軸としたまちづくりや文化醸成を横浜市を皮切りに展開していく予定です。デジタルやリアルでのファン化施策も拡大することで、クラフト市場全体の成長にも貢献していきます。
LION PTY LTDは、2025年10月より豪州とニュージーランドの事業を統合し、オセアニアに注力した新たな経営体制のもと、市場を上回る成長と収益性向上を一体的に推進します。両国市場を横断したナレッジの共有やコスト効率化を図りつつ、価格マネジメントと好調な「Hahn(ハーン)」や「Stone & Wood(ストーン&ウッド)」ブランド強化により、競争優位性を高めます。また、オーストラリアとニュージーランドで展開する「Hyoketsu(ヒョウケツ)」等の販売拡大にも取り組みます。
北米のNew Belgium Brewing Company, Inc.は、「Voodoo Ranger(ブードゥー・レンジャー)」の拡大に加え、現地製造販売を開始した「一番搾り」の北米での販売も拡大します。
② 飲料事業
国内飲料市場の厳しい競争環境が続く中、キリンビバレッジ㈱では、「お客様の毎日に、おいしい健康を。」をパーパスに掲げ、ヘルスサイエンス飲料拡大に注力します。子供向けプラズマ乳酸菌入り飲料「キリンつよいぞ!ムテキッズ」の全国発売をはじめ、プラズマ乳酸菌を中心とした「免疫ケア」飲料のラインアップ拡充により幅広い世代への健康価値提案を推進します。
また、需要が高まる無糖茶に対応して「午後の紅茶」の無糖シリーズを一層強化していきます。4月には特定保健用食品「キリンヘルシアうまみ緑茶」の全面リニューアルも予定し、市場拡大を目指します。
北米のCoca-Cola Beverages Northeast, Inc.では、好調な炭酸飲料を主軸に、引き続き、市場環境にあわせた価格戦略と売り場づくりによる売上増加を目指します。輸入関税影響による原材料費増加も想定されますが、オペレーション効率化と費用管理を一層推進し高い収益性を維持します。
③ 医薬事業
協和キリン㈱は日本発のグローバル・スペシャリティファーマとして、病気と向き合う人々に笑顔をもたらす“Life-changing(ライフチェンジング)”な価値創出に向けた取り組みを加速していきます。
引き続き、注力する疾患領域の製品である「Crysvita(クリースビータ)※1」や「Poteligeo(ポテリジオ)※2」の成長による利益拡大を目指します。「ziftomenib(米国製品名:KOMZIFTI)※3」の開発推進及び販売開始に向けた取り組みを着実に進めるとともに、パイプラインを更に強化していきます。
※1 主に遺伝的な原因で骨の成長・代謝に障害をきたす希少な疾患の治療薬です。
※2 特定の血液がんの治療薬です。
※3 急性白血病の治療を目的とする開発品です。
④ ヘルスサイエンス事業
キリングループは、アジア・パシフィック最大級のヘルスサイエンスカンパニーを目指し、グループ各社の強みを結集して持続的な成長と社会課題の解決に取り組んでいきます。㈱ファンケル、Blackmores Limited等グループ各社が、それぞれの強みを活かしながら成長を加速させ、シナジーを創出します。また、各国・地域の市場環境や健康課題を的確に捉え、自社の経営資源を最適に活用し、現地に根差した柔軟な戦略を展開していきます。
㈱ファンケルは国内のスキンケアをはじめとした化粧品事業、サプリメント事業において、中長期的視点に基づいたブランド力強化を進めます。全チャネルで統合したお客様データとデジタル技術の強みを活用し、一人ひとりに合わせたご提案やサービスを通じて、顧客体験価値の向上を目指します。海外では、2026年中に、東南アジア・中国においてサプリメント・スキンケアを当社グループで全ての販売・マーケティングができる体制を整備し、Blackmores Limitedとの協業によるブランド育成と事業拡大に取り組みます。
Blackmores Limitedは、豪州・ニュージーランドでの「Blackmores(ブラックモアズ)」及び薬剤師等により販売される「BioCeuticals(バイオシューティカルズ)」の成長加速に取り組みます。市場成長率とブランド認知率の高い東南アジアでのマーケティング投資を継続するほか、中国では、ECを含む販売チャネルの強化と更なるブランド浸透を通じて収益拡大を目指します。
プラズマ乳酸菌事業では、高付加価値商品の拡充に加え、国内外での展開エリアやチャネルの拡大、新商品の上市を加速しています。Blackmores Limitedの販路を活用し、2025年の台湾に続き、豪州や東南アジア各国へのプラズマ乳酸菌サプリメントの展開を目指します。また、㈱ファンケルとの販売基盤の一体化により、事業の効率化と収益性向上を目指します。
キリングループは、今後もユニークな事業ポートフォリオ経営と確かな戦略実行力で、持続的な成長と企業価値向上に取り組みます。従業員一人ひとりがイノベーションに挑戦し続けることで、世界のCSV先進企業として更なる飛躍を目指します。
(1) 経営の基本方針
キリングループは、2019年に策定した長期ビジョン「キリングループ・ビジョン2027(以下、KV2027)」のもと、サステナビリティや健康意識の高まり、酒類への規制リスクや若年層のアルコール離れ、デジタルの進化等、変化する経営環境に対応しながら、ヘルスサイエンス事業の立ち上げと育成をはじめとした事業構造の変革に取り組んできました。
KV2027の最終年度が近づく中、10年後の2035年を見据えた新たな長期ビジョンを策定し、酒類、ヘルスサイエンス・飲料、医薬から成る事業ポートフォリオにより、さらなる企業価値向上を目指します。
近年はAIの進化や人財不足、消費意識の多様化等、環境変化が加速しています。こうした変化に柔軟に対応しながら、グループ全体で、世界の生活者の行動変容を促し、新たな生活習慣を生み出すことで、心と身体の健康の未来を創造していきます。こうしたイノベーションを次々と生み出す組織能力を更に高め、挑戦する人財と組織文化を持つグローバル企業グループとしてCSV(Creating Shared Value)を実践し、「酒類事業を営むキリングループとしての責任」を前提に、「健康」「コミュニティ」「環境」の3領域で価値を創出し、「こころ豊かな社会」の実現に貢献します。

キリングループでは、グループ共通の行動指針「KIRIN WAY」をグローバルに浸透させていきます。当社グループが大切にしてきた共通の価値観を継承するとともに、全従業員が行動指針に基づいて日々の業務に取り組み、変革を推進する組織文化の更なる進化を図ります。また、挑戦を後押しする評価制度を国内に導入し人財育成を強化するとともに、将来の成長に向けて部署や国を超えた配置を進め、共創と挑戦を促す風土を育んでいきます。

持続的成長のための経営諸課題「グループ・マテリアリティ・マトリックス:GMM」
キリングループは、社会とともに、持続的に存続・発展していく上での重要テーマを事業へのインパクトとステークホルダーへのインパクトの2つの観点から評価し、「持続的成長のための経営諸課題(グループ・マテリアリティ・マトリックス:GMM)」に整理しています。GMMは時間の経過とともに変化していくものであり、グループ計画策定プロセスの起点となることから、毎年更新の必要性を判断しています。本年度も、社内外環境変化を踏まえ、10年先を見据えてキリングループが社会とともに持続的に存続・発展していくうえでの重要課題を再整理しました。2026年以降に向けて、ステークホルダーへのアンケートや、キリングループの役員による意見交換などを通じてグループの事業へのインパクトを再評価し、GMMを更新しました。これにより、社会的要請への適合度をより高めています。

※各象限内の重要性に差異はありません。
「キリングループCSVパーパス」
GMMに基づき、当社は「酒類事業を営むキリングループとしての責任」を果たすことを前提に、「健康」「コミュニティ」「環境」の4つの領域の課題解決を目指しており、これを「CSVパーパス」と定めるとともに企業経営の土台として「企業としての普遍的な責務」を明記しています。加えて、4つの領域の課題解決に向けた具体的なアクションプランをCSVコミットメントとして、成果指標を会社別により具体化して目標値を設定し、グループ各社の取り組みに繋げています。
また、長期経営構想を踏まえ、全ての事業領域で「健康」価値創出を特に志向することから「健康」をCSVパーパスの中心に据えるとともに、こころ豊かな社会の実現のためには、体の健康だけでなく、心の健康も重要になるため、「健康」のステートメントを「生活者のこころとからだの健康に貢献する。」に変更いたしました。

価値創造モデル/CSV経営の概念
CSV経営のベースの考え方である「社会課題の解決を通じて、社会的価値と経済的価値を創出すること」を持続的に推進していく仕組みとして、当社は価値創造モデルを策定しています。イノベーションを次々と生み出すための組織能力(INPUT)を基盤として、社会課題の解決に事業活動(BUSINESS)を通じて取り組むことで、価値(OUTPUT/OUTCOME)を創出しCSVパーパスを実現しています。特に人的資本や自然資本などの非財務資本の強化は、社会と共に自然の恵みを利用しながら事業を行う当社にとって、継続的な価値の創造につながります。
事業を通じて、当社は社会的価値と経済的価値を同時に生み出し、それらを組織能力などの経営基盤に再投資することで、持続的に資本と価値を成長させることを目指しています。

このCSV経営を推進していくことがどのように企業価値の向上に繋がっているかを図示すると以下のようになります。

社会課題の解決を通じた事業活動(Business)は経済的価値を生み、フリー・キャッシュフローを増加させると共に、事業リスクを低減することにつながるため、資本コストを下げ、企業価値の向上に寄与します。
他方、これらの活動から社会的価値を創出し、その価値がお客様のニーズを充足することで、弊社の製品・サービスに対するWillingness to Payが高まり、長期的にはフリー・キャッシュフローの増加にも影響すると考えられます。さらに、社会的価値が創出され高い水準になることで、従業員エンゲージメントの上昇や採用での優位性などにも影響することが考えられ、価値創造モデルにおけるINPUTの基盤である人的資本の強化に繋がります。その結果、企業の成長率にもポジティブな影響を及ぼすと当社は認識しています。
(参考)
・持続的な成長のための経営諸課題(グループ・マテリアリティ・マトリックス)
URL https://www.kirinholdings.com/jp/impact/materiality/
・キリングループ CSVパーパス
URL https://www.kirinholdings.com/jp/purpose/csv_purpose/
・キリングループ CSVコミットメント
URL https://www.kirinholdings.com/jp/impact/csv_management/commitment/
・価値創造モデル
URL https://www.kirinholdings.com/jp/purpose/model/
(2) 中長期的な経営戦略と目標とする経営指標
2028年に向けた計画
キリングループは、長期の持続的成長を目指して将来の環境変化や地政学リスクなどを踏まえた事業ポートフォリオ変革に取り組んできました。これからも成長し、キャッシュサイクルを回すことで企業価値を上げていきます。具体的には、既存事業の効率性を高めて安定したキャッシュを創出し、それを成長事業への投資に回すことで、グループ全体で成長を続ける好循環を回していきます。酒類、ヘルスサイエンス・飲料、医薬の各事業でキャッシュ創出力を高め、1桁台後半%のEPS成長を継続します。同時に、業界平均として相対的にマルチプルの高いヘルスサイエンス事業のキリングループ内での構成比を高めることでPER向上を目指します。このEPSとPERの掛け算によって企業価値を持続的に成長させていきます。
2028年に向けた各セグメントのEPS成長を牽引するのはヘルスサイエンス・飲料事業です。ヘルスサイエンス・飲料事業の利益成長により、2028年のEPS構成比を全体の約25%まで高めるとともに、酒類事業・医薬事業についても着実なEPS成長を図ります。展開エリア別のEPS構成比についても、ヘルスサイエンス事業のEPSを成長させることで、アジア・パシフィックの構成比を2028年には約30%まで高めていきます。
(基本方針)
不確実性や地政学リスクも考慮しながら事業ポートフォリオを展開し、2035年に目指す姿の実現に向けて、酒類、ヘルスサイエンス・飲料、医薬の各事業で成長を実現していきます。
(優先課題)
① 各事業の注力分野での価値創造
② 人財、R&D、デジタル及びマーケティングへの投資強化
(重要成果指標)
2028年に向けた財務指標については、EPSの成長による株主価値向上を目指すとともに、引き続きROICを採用し、継続的に資本コストを超える水準を目指していきます。
また、重要成果指標(財務目標・非財務目標)及び単年度連結事業利益目標の達成度を役員報酬に連動させることにより、株主・投資家との中長期的な価値共有を促進しています。(なお、役員報酬に関する詳細は、「第4 提出会社の状況 4.コーポレート・ガバナンスの状況等 (4) 役員の報酬等」をご参照ください。)
[財務目標※1]
| 2026年計画 | 2028年目標 | 長期目標 | |
| ・ROIC※2 | 7.7% | 8.0%以上 | 10%以上 |
| ・EPS | 193円 | 3年CAGR +一桁後半% (6%以上) | CAGR +一桁後半% |
※1 財務指標の達成度評価にあたっては、在外子会社等の財務諸表項目の換算における各年度の為替変動による影響等を除く。
※2 ROIC=利払前税引後利益/(有利子負債の期首期末平均+資本合計の期首期末平均)
[非財務目標]

(財務方針)
キャッシュ・フロー最大化に向けてオーガニック成長による利益創出を目指します。2028年に向けて創出する営業キャッシュ・フローの総額は約8,400億円を想定しています。配当金については、DOE(連結株主資本配当率)5%を目安とし、原則として1株あたり配当単価は累進配当を実施いたします。配当金額はグループ総額で約2,400億円を予定しています。設備投資に関しては、総額で約4,400億円を予定しており、長期視点で優先順位を決定し、安全・品質や環境のために必要な設備投資を適切に実施した上で総額のコントロールをします。また、価値創造の源泉となる人財、R&D、ICT及びマーケティングへの投資も強化して企業価値向上につなげます。
安定配当を維持しながら、財務健全性を確保するために、有利子負債の返済を実施していきます。今後、M&A投資を実行する際の資金は事業売却などによって賄いますが、不足する場合には2~3年以内に財務健全性を戻せることが見込める限りにおいては、一時的にグロスDEレシオが1倍を超えることを許容します。最適な事業ポートフォリオのための事業の見直しについては継続して議論をしていきます。
株主還元については、基本的には配当で行うものの、投資機会や事業売却等で創出されるキャッシュバランスを考慮しながら、自己株式取得の実施を機動的に判断します。
なお、保有アセットからの営業キャッシュ・フローの積み上がりによって自己資本が過大になる場合や事業売却によるキャッシュ・インがある場合で、次の成長投資のタイミングと時間のずれがある場合には、自己株式取得を検討します。この方針のもと、2026年2月5日付で発表したFour Roses Distillery, LLCの売却に伴うキャッシュ・インを活用して、追加の株主還元として800億円を上限とした自己株式取得を実施します。
(非財務方針)
長期の持続的成長を目指して、非財務への取り組みも引き続き強化します。「イノベーションを次々と生み出す組織能力」の強化を目指し、グループ全体でAIとの共創を推進していくことに加え、キリングループの強みであるマーケティング力・技術力をさらに強固なものとします。基盤となる人財強化も継続し、KIRIN WAYを体現する人財によって戦略の実行度を高めていきます。また、ステークホルダーからの期待を踏まえ、経済的価値につながる非財務目標を設定し、価値創造モデルのInput~Business~Outputを強化することでより大きなOutcomeの創出を目指しています。非財務の戦略的な取り組みを通じて、当社はCSV経営を推進し、社会のサステナビリティ課題の解決にも貢献していきます。
(3) 会社の対処すべき課題
キリングループを取り巻く経営環境は、健康志向の高まり、酒類規制やアルコール離れ、AI等デジタル技術の進化、労働力不足等、急速に変化しています。更に、気候変動や地政学リスクの高まりにより経済の先行きは不透明です。当社グループは、迅速かつ柔軟に変化に対応する経営体制を継続しながら、CSV先進企業として、事業を通じた社会課題の解決により企業価値向上を目指します。新たに策定した2035年の長期ビジョン「人と技術の力でイノベーションを起こし続けるCSV先進企業として世界をもっと元気にしている」姿を実現するため、2026年は「変革の起点」として、イノベーションを次々と生み出す組織づくりを加速します。人財への投資を強化するとともに、グループ共通の価値観・行動指針である「KIRIN WAY」をグローバルに浸透させることで、組織の一体感と変革力を高めていきます。
組織能力の強化により、酒類、飲料・ヘルスサイエンス、医薬の各事業が自律的に成長し、かつ事業の掛け合わせによるシナジーを最大化することを目指します。特に、ヘルスサイエンス事業のアジア・パシフィックを中心とした成長を加速し、グループの第3の柱として収益性を高めます。
事業の稼ぐ力を高めるとともに、株主利益の更なる向上のため引き続き当期利益を重視した経営を進め、「EPS」及び「ROIC」の財務目標達成を目指します。非財務目標については、新たに「R&D(研究開発)」「デジタル」を加え、各項目の達成を通じて持続的成長を実現します。
① 酒類事業
お酒に対するお客様の価値観が多様化する中、キリンビール㈱は、CSVパーパスの「酒類事業を営むキリングループとしての責任」を基盤に、お酒の未来を創造し、人と社会につながるよろこびを創出することに注力していきます。
2026年は、ビール類酒税一本化が予定されており、ビールやRTDを中心とした成長カテゴリーへの集中的な投資を推進することにより、市場を上回る成長を目指します。ビールでは、主力となる「一番搾り」「キリンビール 晴れ風」ブランドの強化に加え、好調の「キリングッドエール」を育成し、エコノミー領域では「本麒麟」を中心に投資し、基盤強化と高収益化を実現します。RTD分野では「キリン 氷結Ⓡ」のブランド力向上に加え、新たな価値創造にも取り組みます。
健康志向や多様なライフスタイルに応える商品群では、ノンアルコールカテゴリーの商品ラインアップ拡充や、既存の機能系ブランドの強化を中心に、技術力を活かした価値創造により新たな事業の柱の確立を目指します。クラフトビールでは、「スプリングバレーブルワリー」ブランドから少量限定商品「ブリュワーズライン」を2025年11月に発売し、今後も新たな限定商品の展開を計画しています。また、地域ブルワリーや行政と連携し、クラフトビールを軸としたまちづくりや文化醸成を横浜市を皮切りに展開していく予定です。デジタルやリアルでのファン化施策も拡大することで、クラフト市場全体の成長にも貢献していきます。
LION PTY LTDは、2025年10月より豪州とニュージーランドの事業を統合し、オセアニアに注力した新たな経営体制のもと、市場を上回る成長と収益性向上を一体的に推進します。両国市場を横断したナレッジの共有やコスト効率化を図りつつ、価格マネジメントと好調な「Hahn(ハーン)」や「Stone & Wood(ストーン&ウッド)」ブランド強化により、競争優位性を高めます。また、オーストラリアとニュージーランドで展開する「Hyoketsu(ヒョウケツ)」等の販売拡大にも取り組みます。
北米のNew Belgium Brewing Company, Inc.は、「Voodoo Ranger(ブードゥー・レンジャー)」の拡大に加え、現地製造販売を開始した「一番搾り」の北米での販売も拡大します。
② 飲料事業
国内飲料市場の厳しい競争環境が続く中、キリンビバレッジ㈱では、「お客様の毎日に、おいしい健康を。」をパーパスに掲げ、ヘルスサイエンス飲料拡大に注力します。子供向けプラズマ乳酸菌入り飲料「キリンつよいぞ!ムテキッズ」の全国発売をはじめ、プラズマ乳酸菌を中心とした「免疫ケア」飲料のラインアップ拡充により幅広い世代への健康価値提案を推進します。
また、需要が高まる無糖茶に対応して「午後の紅茶」の無糖シリーズを一層強化していきます。4月には特定保健用食品「キリンヘルシアうまみ緑茶」の全面リニューアルも予定し、市場拡大を目指します。
北米のCoca-Cola Beverages Northeast, Inc.では、好調な炭酸飲料を主軸に、引き続き、市場環境にあわせた価格戦略と売り場づくりによる売上増加を目指します。輸入関税影響による原材料費増加も想定されますが、オペレーション効率化と費用管理を一層推進し高い収益性を維持します。
③ 医薬事業
協和キリン㈱は日本発のグローバル・スペシャリティファーマとして、病気と向き合う人々に笑顔をもたらす“Life-changing(ライフチェンジング)”な価値創出に向けた取り組みを加速していきます。
引き続き、注力する疾患領域の製品である「Crysvita(クリースビータ)※1」や「Poteligeo(ポテリジオ)※2」の成長による利益拡大を目指します。「ziftomenib(米国製品名:KOMZIFTI)※3」の開発推進及び販売開始に向けた取り組みを着実に進めるとともに、パイプラインを更に強化していきます。
※1 主に遺伝的な原因で骨の成長・代謝に障害をきたす希少な疾患の治療薬です。
※2 特定の血液がんの治療薬です。
※3 急性白血病の治療を目的とする開発品です。
④ ヘルスサイエンス事業
キリングループは、アジア・パシフィック最大級のヘルスサイエンスカンパニーを目指し、グループ各社の強みを結集して持続的な成長と社会課題の解決に取り組んでいきます。㈱ファンケル、Blackmores Limited等グループ各社が、それぞれの強みを活かしながら成長を加速させ、シナジーを創出します。また、各国・地域の市場環境や健康課題を的確に捉え、自社の経営資源を最適に活用し、現地に根差した柔軟な戦略を展開していきます。
㈱ファンケルは国内のスキンケアをはじめとした化粧品事業、サプリメント事業において、中長期的視点に基づいたブランド力強化を進めます。全チャネルで統合したお客様データとデジタル技術の強みを活用し、一人ひとりに合わせたご提案やサービスを通じて、顧客体験価値の向上を目指します。海外では、2026年中に、東南アジア・中国においてサプリメント・スキンケアを当社グループで全ての販売・マーケティングができる体制を整備し、Blackmores Limitedとの協業によるブランド育成と事業拡大に取り組みます。
Blackmores Limitedは、豪州・ニュージーランドでの「Blackmores(ブラックモアズ)」及び薬剤師等により販売される「BioCeuticals(バイオシューティカルズ)」の成長加速に取り組みます。市場成長率とブランド認知率の高い東南アジアでのマーケティング投資を継続するほか、中国では、ECを含む販売チャネルの強化と更なるブランド浸透を通じて収益拡大を目指します。
プラズマ乳酸菌事業では、高付加価値商品の拡充に加え、国内外での展開エリアやチャネルの拡大、新商品の上市を加速しています。Blackmores Limitedの販路を活用し、2025年の台湾に続き、豪州や東南アジア各国へのプラズマ乳酸菌サプリメントの展開を目指します。また、㈱ファンケルとの販売基盤の一体化により、事業の効率化と収益性向上を目指します。
キリングループは、今後もユニークな事業ポートフォリオ経営と確かな戦略実行力で、持続的な成長と企業価値向上に取り組みます。従業員一人ひとりがイノベーションに挑戦し続けることで、世界のCSV先進企業として更なる飛躍を目指します。