有価証券報告書-第181期(平成31年1月1日-令和1年12月31日)

【提出】
2020/03/27 15:32
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【項目】
88項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1)経営の基本方針
当社は2019年度に、2027年に向けた新たなキリングループ長期経営構想である「キリングループ・ビジョン2027」(略称:KV2027)と、KV2027の実現に向けた最初の3カ年計画として「キリングループ2019年-2021年中期経営計画」(略称:2019年中計)を策定しました。また、KV2027の実現に向けた長期非財務目標として、社会と価値を共創し持続的に成長するための指針「キリングループCSVパーパス」(略称:CSVパーパス)を策定しました。
長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」
キリングループは、グループ経営理念及びグループ共通の価値観である“One Kirin”Values のもと、食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となることを目指します。

食から医にわたる領域における価値創造に向けては、既存事業領域である「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)に加え、キリングループならではの強みを生かした「ヘルスサイエンス領域」を立ち上げました。「ヘルスサイエンス領域」では、キリングループ創業以来の基幹技術である発酵・バイオ技術に磨きをかけ、これまで培ってきた組織能力や資産を生かし、キリングループの次世代の成長の柱となる事業を育成していきます。また、社会課題をグループの成長機会に変えるために、イノベーションを実現する組織能力をより強化し、持続的な成長を可能にする事業ポートフォリオを構築していきます。

長期非財務目標「キリングループCSVパーパス」
社会課題については、「酒類メーカーとしての責任」に取り組むことを前提に、CSV重点課題「健康」「地域社会・コミュニティ」「環境」に一層高いレベルで取り組みます。
CSVパーパスは、CSV重点課題の取り組みを進めた後の「2027年目指す姿」を明らかにするために策定しています。さらに、CSVパーパスを実現するために、各事業での中長期アクションプランを定めた「キリングループCSVコミットメント」における成果指標を定量化し、目標値を設定しています。
CSV重点課題CSVパーパス
酒類メーカーとしての責任全ての事業展開国で、アルコールの有害摂取根絶に向けた取り組みを着実に進展させる。(Zero Harmful Drinking)
健康健康な人を増やし、疾病に至る人を減らし、治療に関わる人に貢献する。
地域社会・コミュニティお客様が家族や仲間と過ごす機会を増やすとともに、サプライチェーンに関わるコミュニティを発展させる。
環境ポジティブインパクトで持続可能な地球環境を次世代につなぐ。


(参考)キリングループCSVコミットメント
URL https://www.kirinholdings.co.jp/csv/commitment/

(2)中長期的な経営戦略と目標とする経営指標
キリングループ2019年-2021年中期経営計画
2019年からの中期経営計画では、資産効率に応じた資源配分を徹底し、既存事業のキャッシュ創出力をさらに高めます。創出したキャッシュは、既存事業成長のための投資に優先的に振り向けると共に、株主還元の一層の充実を図り、企業価値を最大化します。
また、食領域・医領域の既存事業領域に加え、既存事業の強みを生かした「ヘルスサイエンス領域」を立ち上げ、育成を進め、キリングループの持続的な成長につなげます。
(基本方針)
「再生」からステージを上げ、「新たな成長を目指した、キリングループの基盤づくり」を行う。
株主還元の更なる充実を図り、企業価値を最大化する。
(重点課題)
長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」実現に向けた第1ステージの3ヵ年として、成長に向けた3つの戦略を実行します。
①成長の基盤 既存事業の利益成長
食領域:収益力の更なる強化 医領域:飛躍的成長の実現
②将来の成長機会 「ヘルスサイエンス領域」の立ち上げ・育成
③成長の原動力 イノベーションを実現する組織能力の強化


(重要成果指標)
2019年中計の財務指標について、平準化EPS成長による株主価値向上を目指すと共に、成長投資を優先的に実施する3ヵ年の財務指標として新たにROICを採用しています。また、社会・環境、お客様、従業員との共有価値実現に向けて、非財務目標を設定しました。
1.財務目標※1
・平準化EPS※2年平均成長率5%以上
・ROIC※32021年度10%以上

※1 財務指標の達成度評価にあたっては、在外子会社等の財務諸表項目の換算における各年度の為替変動による影響等を除く。
※2 平準化EPS=平準化当期利益/期中平均株式数
平準化当期利益=親会社の所有者に帰属する当期利益±税金等調整後その他の営業収益・費用等
※3 ROIC=利払前税引後利益/(有利子負債の期首期末平均+資本合計の期首期末平均)
2.非財務目標
・キリングループCSVコミットメント
・企業ブランド価値※42021年度2,200百万米ドル以上
・従業員エンゲージメント2021年度72%以上

※4 企業価値ブランド評価にあたっては、インターブランドジャパン社「ブランドランキング」におけるKIRINブランド価値評価を使用。
(財務方針)
既存事業の成長により創出した営業キャッシュフローは、安定的な配当と規律ある成長投資を実施した上で、追加的株主還元への機動的なアロケーションも検討し、企業価値の最大化を図ります。
・メリハリのある設備投資
維持・更新目的の投資は抑制し、資産効率と市場魅力度の高い案件に積極的かつ優先的に投資
・株主還元の充実
平準化EPSに対する連結配当性向の引き上げ(2019年より30%以上から40%以上に)及び追加的株主還元の機動的な実施検討
・規律ある成長投資
資本コストを踏まえたNPVとROICを基準とする投資判断
・無形資産投資
イノベーションを実現する組織能力強化に向けた「ブランド」「研究開発」「情報化」及び「人材・組織」への継続投資
(コーポレートガバナンス)
重要成果指標(財務目標・非財務目標)及び単年度連結事業利益目標の達成度を役員報酬に連動させることにより、株主・投資家との中長期的な価値共有を促進しています。
[業績評価指標]
・年次賞与連結事業利益※5、個人業績評価※6
・信託型株式報酬※7平準化EPS、ROIC 、非財務評価※8

※5 売上収益から売上原価並びに販売費及び一般管理費を控除した、事業の経常的な業績を測る利益指標です。
※6 個人業績評価は、取締役会長及び取締役社長以外の取締役に適用されます。
※7 業績評価期間の翌年に業績目標の達成に応じたポイントを付与し、原則として、業績評価期間の開始から3年が経過した後の一定の時期に付与されたポイントに相当する数の株式が交付されます。
※8 非財務評価は、CSVコミットメントの進捗及び達成状況の評価とし、4つの重点課題(「酒類メーカーとしての責任」、「健康」、「地域社会・コミュニティ」、「環境」)に応じた取組みを総合的に評価したものです。
(3)会社の対処すべき課題
キリングループを取り巻く環境をグローバルで見ると、「食領域」では嗜好の多様化や価格の二極化が進み、「医領域」では薬価引き下げや後発品の浸透が進んでいます。また、少子化や高齢化に起因する人口構成の構造的問題に始まり、WHO(世界保健機関)によるアルコール規制に向けた動き、肥満防止のための砂糖税の導入、超高齢社会における医療費負担の増加抑制に向けた薬価低減傾向等、キリングループの各事業を取り巻く環境は、年々厳しくなっています。気候変動や海洋プラスチック等の地球規模での環境問題や人権尊重に対する取り組み等、社会が抱える課題も山積しています。
キリングループは、これらの課題解決を事業の成長機会として捉え、社会とともに歩むことで、持続的な成長を実現したいと考えています。そして、2019年中計の達成とKV2027の実現に向けて、2020年も既存事業の収益力を強化し、新規事業の立ち上げと育成に注力します。
また、各事業が持続的に成長し競争力を強化していくために、実効性のあるCSV戦略を推進します。“酒類メーカーとしての責任”への対応や、CSV重点課題のうち“健康”に対する取り組みを前進させるために、「ヘルスサイエンス領域」を育成します。“環境”については、自然と社会全体に対して今まで以上に貢献するために、生物資源、水資源、容器包装、気候変動を4つのテーマとする「長期環境ビジョン」を改定し、ポジティブインパクト※1を創出します。社内外のステークホルダーとのCSVに関するコミュニケーションを強化し、価値を共創するとともに、CSV経営への共感を高めていきます。
※1 自社で完結する取り組みの枠を超え、取り組みそのものとその波及範囲を社会全体へと拡大し、これからの世代を担う若者をはじめとする社会とともに未来を築いていくという考え方です。
① 既存事業の利益成長
既存事業である「食領域」と「医領域」では、強みを活かせる領域や主要ブランドへの集中戦略等により、持続的な成長を目指します。同時に、外部環境変化に耐え得る収益基盤も構築していきます。さらに、キリングループ独自の研究開発力やマーケティング力、戦略的な投資を組み合わせて、お客様の潜在的なニーズにお応えする新たな価値を提供し、事業領域の拡大を図ります。
「食領域」:収益力の更なる強化
国内酒類市場を見ると、ビール類市場が縮小する一方でRTD市場の拡大が進み、2020年10月には酒税改正※2が予定されています。キリンビール㈱は、市場環境変化に対応し同質化競争から抜け出すため、“10年後も残るブランド”づくりを進めます。具体的には、主力ブランドに投資を集中したマーケティング活動と、営業現場と本社部門の協働により、「キリン一番搾り生ビール」や「本麒麟」等の主力ブランドを育成します。将来の成長に向けた種まきとして、クラフトビール拡大に向けた活動の強化や、お客様のニーズを先取りしたイノベーティブな商品やサービスの開発も進めます。原材料費や物流費の上昇も予想されるため、全社最適の視点で生産・物流体制を構築し、SCMコストの低減を目指します。
メルシャン㈱では、間口拡大によるワイン市場の活性化と収益構造改革を進めます。「シャトー・メルシャン」は日本でもまれな3つのワイナリーにおけるお客様との接点を生かして、日本ワインの代表ブランドとしての地位を確立します。
※2 ビール類(ビール・発泡酒・新ジャンル)の酒税一本化、日本酒・ワイン・RTDの酒税一本化を目的に、2020年・2023年・2026年の3回にわけて、段階的に酒税改正が行われる予定です。
国内飲料市場の成長は横ばいとなり、健康や環境への配慮が求められています。こうした中でキリンビバレッジ㈱は、“CSVの実践を軸とした成長による利益創出”を目指しています。基盤ブランドの「キリン 午後の紅茶」と「キリン 生茶」に投資を集中し、より強固なブランド体系を構築します。さらに、成長を続ける健康領域の強化を継続します。無糖・低糖飲料や、キリングループの独自素材「プラズマ乳酸菌※3」等の素材を配合した商品や機能性表示食品の拡大に注力します。また、事業が長期にわたり持続的に成長するには、SCM体制の再構築とプラスチック廃棄物問題への取り組みを中心とする環境対策の強化が継続的な課題です。生産拠点と連携した物流新拠点の立ち上げや、ペットボトルのリサイクル体制づくりを進め、課題に機敏に対処します。
※3 キリングループが学会や学術論文の発表を通して研究を進めている乳酸菌です。体の免疫の仕組みにおいて司令塔の役割を果たすプラズマサイトイド樹状細胞を直接活性化させることから名づけました。
オセアニア市場では、お客様の嗜好の変化や近年の競争激化、容器保証金制度等の規制強化によるコストアップへの対応が課題です。ライオン社では、お客様が求める商品をより徹底して見つめ直し、ブランド成長の実現を目指します。業務の効率化やデジタル技術の活用等によるコスト構造改革を進め、ブランド育成に向けた投資や豪州でのERP※4システム導入等に伴う費用増加の影響を最小化します。さらに、ライオン社が中核となりキリングループ全体でクラフトビール戦略をグローバルに推進することで新たな成長軸を確立し、持続的な成長を目指します。
※4 Enterprise Resources Planning(企業資源計画)の略です。販売、生産、人事、経理等の基幹情報を統合することで経営の効率化を図る概念及びそのシステムを指します。
ミャンマー市場では、新たなプレーヤーの市場参入により競争環境が厳しさを増しています。ミャンマー・ブルワリー社では、主力商品「ミャンマービール」と成長著しいエコノミーカテゴリーの「アンダマン ゴールド」を軸に、強みであるSCM機能の活用や先進のマーケティング手法の導入等により、変化に柔軟に対応し急成長する需要を取り込みます。
米国北東部を拠点とするコーク・ノースイースト社では、炭酸飲料を中心とした単価改善、業務効率化やコスト削減を推し進め、収益性を高めていきます。事業エリア統合後の一体感醸成に向けた取り組みも継続します。
「医領域」:飛躍的な成長の実現
国内での薬価改定や後発品上市によるリスクが課題です。これらを低減するため、協和キリン㈱では、グローバル戦略3品である「Crysvita」、「Poteligeo」、「Nourianz」を成長の柱として販売を拡大します。これらの製品に続く次期グローバル製品候補やパイプラインの開発も推進します。医薬品のグローバル安定供給体制をより強化して運用します。「One Kyowa Kirin」体制の定着と、「グローバル・スペシャリティファーマ」にふさわしい企業文化の醸成を進めていきます。
②「ヘルスサイエンス事業」の立ち上げと育成
日本では、既に少子高齢化が進み長寿社会が到来していますが、将来的にはこうした社会変動に伴う医療費の抑制と健康寿命の延伸が、日本のみならず多くの国において大きな社会課題になると考えています。キリングループは、創業以来の基幹技術である発酵・バイオテクノロジーに磨きをかけ、既存の「食領域」と「医領域」で培った有形・無形の経営資源を活用し、キリンならではの方法で社会課題の解決に取り組むことで、このような社会課題に対応するソリューションを提供できると考えています。特に、CSV重点課題の“健康”に関する社会課題は、「食から医にわたる領域」での重要な事業機会となります。この分野を新たな成長軸として育成することは、キリングループの持続的な成長に大きく貢献すると考えています。
まず、既存事業モデルの成長と拡大に向けて、キリングループ各社と㈱ファンケルとの商品開発やインフラの相互活用等を具体的に進めます。お客様の不安や課題を解消することで、キリングループと㈱ファンケル双方の企業価値を高めます。キリングループの資産である高機能アミノ酸、免疫、脳の働き、腸内環境に関する機能性素材を活用し、“健康”を軸に“お客様の未充足ニーズ”に応える商品やサービスも展開していきます。
新規事業の創出に向けては、個別化ヘルスケア※5領域への事業展開を開始します。㈱ファンケルは2020年2月から開始したオーダーメイドサプリメント「パーソナルワン」の事業を軌道に乗せます。さらに、腸内環境と生活習慣病の分野で、米国の持分法適用会社であるソーン社を基軸としたプラットフォーム事業の確立に挑戦します。
※5 個々人の悩みに合わせたオーダーメイドによる商品やサービスを提供することで、健康課題を解決する方法を個別に提供することです。
③イノベーションを実現する組織能力の強化
2020年は、グループ横断で取り組む重点テーマを定め、各事業を支える組織能力を獲得するために重点的に投資します。特に、イノベーションを実現する経営基盤の一層の強化に向けて、デジタルトランスフォーメーション(DX)※6の推進と、多様な価値観と専門性を持つ人材の確保・人材が活躍できる組織風土づくりを並行して進めます。長期的かつ持続的な成長のカギとなる組織能力の課題に対しては、グループ横断で取り組む重点テーマを設定し取り組みます。
急速に進展するICT※7を駆使し経営の効率化と競争力の強化を図るために、既存事業と新規事業を問わず全事業領域でDXを活用することで、コスト削減やバリューアップを実現し、ビジネスモデルの変革を進めます。また、ERPシステムを国内酒類・飲料事業に導入することにより、業務の標準化や労働生産性の向上を実現するとともに、積極的に情報を活用して攻めの経営を加速します。
さらに、価値創造やイノベーションの実現には多様性が欠かせないとの考えから、多様な人材や価値観を受容する組織風土の醸成に注力します。グループ経営人材を輩出する仕組みを構築し、人材育成を強化する人材マネジメントにも取り組みます。豊富な知見や専門性を持つ社外人材の登用を進めることにより、組織能力を強化します。
※6 進化したデジタル技術を浸透させることで、人々の生活をより良く変革することです。
※7 Information and Communication Technology(情報通信技術)の略です。情報・通信に関する技術の総称で、従来から使われている「IT(Information Technology)」に代わる言葉として使われています。
最後に、キリングループでは、協和発酵バイオ㈱防府工場の不適切な製造体制の判明を真摯に受け止めています。2020年1月に行われたグループ調査委員会の報告に基づき、協和キリン㈱と協和発酵バイオ㈱における品質保証体制の再構築にグループをあげて取り組み、組織風土も抜本的に改善し、透明性と健全性の向上を図っていきます。