有価証券報告書-第180期(平成30年1月1日-平成30年12月31日)

【提出】
2019/03/28 15:20
【資料】
PDFをみる
【項目】
57項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1)経営の基本方針
当社は2019年度に、2027年に向けた新たなキリングループ長期経営構想である「キリングループ・ビジョン2027」(略称:KV2027)と、KV2027の実現に向けた最初の3カ年計画として「キリングループ2019年-2021年中期経営計画」(略称:2019年中計)を策定しました。また、KV2027の実現に向けた長期非財務目標として、社会と価値を共創し持続的に成長するための指針「キリングループCSVパーパス」(略称:CSVパーパス)を新たに策定しました。
長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」
キリングループは、グループ経営理念及びグループ共通の価値観である“One Kirin”Values のもと、食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となることを目指します。

食から医にわたる領域における価値創造に向けては、既存事業領域である「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)に加え、2つの中間領域において「医と食をつなぐ事業」を立ち上げます。「医と食をつなぐ事業」では、これまでキリングループが培ってきた組織能力や資産を生かし、キリングループの次世代の成長の柱となる事業を育成していきます。また、社会課題をグループの成長機会に変えるために、イノベーションを実現する組織能力をより強化し、持続的な成長を可能にする事業ポートフォリオを構築していきます。

長期非財務目標「キリングループCSVパーパス」
社会課題については、「酒類メーカーとしての責任」に取り組むことを前提に、CSV重点課題「健康」「地域社会・コミュニティ」「環境」に一層高いレベルで取り組みます。
CSVパーパスは、CSV重点課題の取り組みを進めた後の「2027年目指す姿」を明らかにするために策定しました。さらに、CSVパーパスを実現するために、各事業での中長期アクションプランを定めた「キリングループCSVコミットメント」における成果指標を定量化し、目標値を設定しました。
CSV重点課題CSVパーパス
酒類メーカーとしての責任全ての事業展開国で、アルコールの有害摂取根絶に向けた取り組みを着実に進展させる(Zero Harmful Drinking)
健康健康な人を増やし、疾病に至る人を減らし、治療に関わる人に貢献する
地域社会・コミュニティお客様が家族や仲間と過ごす機会を増やすとともに、サプライチェーンに関わるコミュニティを発展させる
環境2050年までに資源循環100%社会の実現を目指す


(参考)
キリングループCSVコミットメント
URL https://www.kirinholdings.co.jp/csv/commitment/

(2)中長期的な経営戦略と目標とする経営指標
キリングループ2019年-2021年中期経営計画
2019年からの中期経営計画では、資産効率に応じた資源配分を徹底し、既存事業のキャッシュ創出力をさらに高めます。創出したキャッシュは、既存事業成長のための投資に優先的に振り向けると共に、株主還元の一層の充実を図り、企業価値を最大化します。
また、既存事業領域(食領域・医領域)の中間に、複数の「医と食をつなぐ事業」を立ち上げ、育成を進め、キリングループの持続的な成長につなげます。
(基本方針)
「再生」からステージを上げ、「新たな成長を目指した、キリングループの基盤づくり」を行う。
株主還元の更なる充実を図り、企業価値を最大化する。
(重点課題)
長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」実現に向けた第1ステージの3ヵ年として、成長に向けた3つの戦略を実行します。
①成長の基盤 既存事業の利益成長
食領域:収益力の更なる強化 医領域:飛躍的成長の実現
②将来の成長機会 「医と食をつなぐ事業」の立ち上げ・育成
③成長の原動力 イノベーションを実現する組織能力の強化

(重要成果指標)
2019年中計の財務指標について、平準化EPS成長による株主価値向上を目指すと共に、成長投資を優先的に実施する3か年の財務指標として新たにROICを採用します。また、社会・環境、お客様、従業員との共有価値実現に向けて、新たに非財務目標を設定します。
1.財務目標※1
・平準化EPS※2年平均成長率5%以上
・ROIC※32021年度10%以上

※1 財務指標の達成度評価にあたっては、在外子会社等の財務諸表項目の換算における各年度の為替変動による影響等を除く。
※2 平準化EPS=平準化当期利益/期中平均株式数
平準化当期利益=親会社の所有者に帰属する当期利益±税金等調整後その他の営業収益・費用等
※3 ROIC=利払前税引後利益/(有利子負債の期首期末平均+資本合計の期首期末平均)
2.非財務目標
・キリングループCSVコミットメント
・企業ブランド価値※42021年度2,200百万米ドル以上
・従業員エンゲージメント2021年度72%以上

※4 企業価値ブランド評価にあたっては、インターブランドジャパン社「ブランドランキング」におけるKIRINブランド価値評価を使用。
(財務方針)
既存事業の成長により創出した営業キャッシュフローは、安定的な配当と規律ある成長投資を実施した上で、追加的株主還元への機動的なアロケーションも検討し、企業価値の最大化を図ります。
・メリハリのある設備投資
維持・更新目的の投資は抑制し、資産効率と市場魅力度の高い案件に積極的かつ優先的に投資
・株主還元の充実
平準化EPSに対する連結配当性向の引き上げ(30%以上から40%以上)及び追加的株主還元の機動的な実施検討
・規律ある成長投資
資本コストを踏まえたNPVとROICを基準とする投資判断
・無形資産投資
イノベーションを実現する組織能力強化に向けた「ブランド」「研究開発」「情報化」及び「人材・組織」への継続投資
(コーポレートガバナンス)
重要成果指標(財務目標)及び単年度連結事業利益目標の達成度を役員報酬に連動させることにより、株主・投資家との中長期的な価値共有を促進しています。
[業績評価指標]
・年次賞与連結事業利益※5
・譲渡制限付株式報酬※6平準化EPS、ROIC

※5 売上収益から売上原価並びに販売費及び一般管理費を控除した、事業の経常的な業績を測る利益指標です。
※6 譲渡制限期間は原則3年とする。
(3)会社の対処すべき課題
2016年中計では、重要課題として「ビール事業の収益基盤強化」、「低収益事業の再生・再編」、「医薬・バイオケミカル事業の飛躍的成長」に取り組み、基本方針として掲げた“構造改革による、キリングループの再生”を達成しました。
一方、キリングループを取り巻く経営環境に目を向けると、様々な社会課題がグローバル化しており、深刻さが増してきています。国内における少子高齢化による様々な影響や医療費の問題のほか、世界では糖分やアルコールに対する厳しい規制も現実味を帯びてきました。不透明、不確実、かつ不安定な時代の中で会社を持続的に成長させていくためには、社会的価値と経済的価値を創出し、社会とともに歩んでいくことが求められます。
こうした環境変化に鑑み、キリングループは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」(略称:KV2027)とKV2027の実現に向けた最初の3か年計画として「キリングループ2019年-2021年中期経営計画」(略称:2019年中計)を策定しました。あわせて、経営理念を改定し、新たにコーポレートスローガンを制定することで、事業を通じた社会への貢献をより明確に打ち出しました。
KV2027において、キリングループは「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」ことを目指します。「グループCSVコミットメント」に基づき、CSV重点課題である“健康”、“地域社会・コミュニティへの貢献”、“環境”、“酒類メーカーとしての責任”の解決に、より一層高いレベルで取り組みます。
今回策定したKV2027 では、これまでの「酒類」、「飲料」、「医薬・バイオケミカル」の既存領域を「食領域」と「医領域」に再設定し、この2つの中間に「医と食をつなぐ領域」を新たに立ち上げます。「食領域」は主に酒類事業と飲料事業を指し、収益力をさらに強化するほか、お客様の心に強く残るブランドの育成に力を入れていきます。「医領域」では、協和発酵キリン㈱を中心に、医薬事業の飛躍的な成長を図り「グローバル・スペシャリティファーマ」の実現を目指します。新しく立ち上げる「医と食をつなぐ領域」については、これまでキリングループが培ってきた組織能力や資産を生かして事業の創造・拡大を図り、健康に対するお客様のニーズに応え、こころ豊かな社会に貢献していきます。また、イノベーションの実現に必要な組織能力の強化に向けて「お客様主語のマーケティング力」、「確かな価値を生む技術力」、「価値創造を加速するICT※1」、「多様な人材と挑戦する風土」の改革を進めます。
2019年中計では、①イノベーションを実現する組織能力の強化、②既存事業の利益成長、③「医と食をつなぐ事業」の立ち上げ・育成を3本の成長シナリオとして、KV2027の実現に向けた新たな礎を作り上げます。さらに、3か年にわたり、総額1兆円以上を既存領域への成長投資と持続的成長に向けた戦略的投資に振り分け、事業の成長をより確かなものにするとともに、株主還元をさらに充実させて株主価値を最大化します。
なお、上記を踏まえ、2019年度より事業セグメントを「国内ビール・スピリッツ事業」、「国内飲料事業」、「オセアニア綜合飲料事業」、「医薬・バイオケミカル事業」と改めます。
また、当社は、協和発酵キリン㈱の完全子会社である協和発酵バイオ㈱の株式の95%取得を、2019年2月の取締役会で決議しました。この株式取得は、当社が「医と食をつなぐ領域」での事業創造・拡大を進めるにあたり、さらなる協業の可能性について協和発酵キリン㈱と協議・検討を進めた結果、協和発酵バイオ㈱を当社の直接の子会社とすることが、グループシナジーを創出すると共に、協和発酵キリン㈱及び協和発酵バイオ㈱の企業価値の最大化につながると判断したことに拠ります。
※1 Information and Communication Technologyの略(情報通信技術)の略です。情報・通信に関する技術の総称で、従来から使われている「IT(Information Technology)」に代わる言葉として使われています。
⦅国内ビール・スピリッツ事業⦆
キリンビール㈱では、「キリン一番搾り生ビール」、「本麒麟」、「淡麗グリーンラベル」をリニューアルし、「キリン のどごし<生>」のコミュニケーションを強化するなど、主力ブランドへの集中投資を行います。さらに、クラフトビール※2では、「Tap Marché(タップ・マルシェ)」※3の展開店舗数を拡大し、体験の場を広げることにより市場の魅力化を図るとともに、日本産ホップ生産の継続に向けた活動を支援します。また、酒税法改正や消費税増税、嗜好の多様化による市場の変化に対応すべく、RTD※4の「キリン 氷結」「キリン・ザ・ストロング」やノンアルコール・ビールテイスト飲料の「キリン 零ICHI(ゼロイチ)」を中心にブランド力の強化を図ります。
※2 造り手の顔が見えてそのこだわりが感じられ味の違いや個性を楽しめるビールです。
※3 当社が開発した1台で数種類のビールの提供が可能な小型のディスペンサーを設置することにより、多様なクラフトビールを楽しんでいただくための仕組みです。
※4 栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料で、Ready to Drinkの略です。
⦅国内飲料事業⦆
キリンビバレッジ㈱では、成長による利益創出のステージを継続し、「キリン 午後の紅茶」、「キリン 生茶」、「キリン ファイア」の基盤ブランドを中心に成長を図ります。また、健康領域の商品展開やグローバル展開等、新たな取り組みを行うほか、持続可能な仕組みづくりに向けて調達・生産・物流等サプライチェーンの強化を進めます。
⦅オセアニア綜合飲料事業⦆
ライオン社は、飲料事業の株式を第三者に譲渡する検討をしており、今後はビールを中心とした酒類事業を展開することになります。ライオン酒類事業では、主力ブランドへの集中投資を引き続き行うことで、成長カテゴリーでのブランド強化を図ります。また、将来の利益成長に向けて、今後拡大が見込めるクラフトビールの展開をさらに加速し今後の柱の1つとして育成していきます。
⦅医薬・バイオケミカル事業⦆
協和発酵キリン㈱の医薬事業では、グローバルで順調に進捗する「Crysvita」※5、「POTELIGEO」※6を収益の柱として販売を拡大するとともに、KW-6002(日本製品名「ノウリアスト」)を着実に海外で上市し、「グローバル・スペシャリティファーマ」※7へのさらなる飛躍を実現します。また、7月には社名を協和キリン㈱に変更し、新たなグローバル組織体制「One Kyowa Kirin」への移行を推進することで、これら3品の次に続く医薬品のグローバルでの上市と新薬候補の充実を目指します。
バイオケミカル事業では、グローバルな品質保証体制や安定した生産基盤を確立するとともに、素材の機能性を重視した健康食品の新製品開発に取り組みます。
※5 主に遺伝的な原因で骨の成長・維持に障害をきたす希少な疾患である、X染色体連鎖性低リン血症の治療薬です。X染色体連鎖性低リン血症は、くる病又は骨軟化症の症状を呈する希少な疾患です。
※6 特定の血液がんの治療薬として国内では製品名「ポテリジオ」として販売されています。
※7 「世界を舞台に、強みのある疾患カテゴリー(がん、腎、免疫疾患を中心とした領域)に集中して活躍する製薬会社」を意味しております。
⦅その他⦆
メルシャン㈱では、カテゴリーごとに注力ブランドの選択と集中をさらに進めてブランドの強化を図り、成長性・収益性の高い商品ポートフォリオの構築に取り組みます。「シャトー・メルシャン」については、“3つのワイナリー”を拠点としたCSV活動を強化し、ワイン・ブドウづくりを支える産地・地域の活性化に貢献していきます。
ミャンマー・ブルワリー社では、“CSV経営の実現”“卓越したマーケティング”“卓越したマネジメントシステム”に注力した組織能力向上に取り組みます。ミャンマー市場における競合環境や市場環境の変化に対応すべく、「ミャンマービール」、「アンダマン ゴールド」を中心に、販促活動や投資のメリハリをつけることで市場でのプレゼンスを高めていきます。
CCNNE社※8では、製造拠点の再編を行うなど、今後の収益力向上のため継続して抜本的な構造改革を行っていきます。
※8 米国北東部で清涼飲料の製造販売事業を展開する当社の完全子会社である、ザ コカ・コーラ ボトリングカンパニー オブ ノーザン ニューイングランド社の略称です。