有価証券報告書-第181期(平成31年1月1日-令和1年12月31日)

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2020/03/27 15:32
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事業等のリスク

キリングループの戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項を以下に記載しています。また、必ずしも重要な影響を及ぼすリスク要因に該当しない事項についても投資家に対する積極的な情報開示の観点から記載しています。なお、以下に記載したリスクはキリングループの全てのリスクを網羅したものではなく、記載以外のリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。
キリングループでは、戦略・事業遂行上でのリスクや重大なクライシスに転ずる可能性のあるリスクを「グループリスク・コンプライアンス委員会」にて把握・検討し、グループ重要リスクとして整理しています。さらに、戦略リスクを適切に管理・統制すると共に、クライシスに転ずるリスクの顕在化を可能な限り防止し、クライシスに転化した場合はその影響を最小限に留めるなど、各種のリスクマネジメント体制を整備し、リスクの低減や適切な管理に努めております。しかしながら、リスクが顕在化した場合には、キリングループの経営成績や財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
なお、本文中における将来に関する事項は2019年12月31日現在において当社が判断した内容に基づきます。
(1) 各事業領域におけるリスク
① 食領域に関するリスク
食領域では、主に、人口動態・市場・嗜好の変化など事業環境変化への対応のリスク、競争環境激化のリスク、法令等の改正による影響などのリスクがあります。
今後の酒類事業・飲料事業は、国内では人口減少により長期的に総需要の縮小が見込まれる中、嗜好の多様化や価格の二極化が進んでおり、RTDを含む低価格帯カテゴリーが伸長する一方、クラフトビール等の高価格帯カテゴリーや無糖飲料・機能性飲料等の健康志向の商品の需要が拡大していくことが予測されます。海外では、国や地域によって事業環境は異なり、人口増加による総需要拡大や新たな飲用人口の拡大に伴う低価格帯カテゴリーの成長が今後も見込まれる新興国市場がある一方、先進国市場や発展段階の進んだ新興国市場においては、日本と同様に、高価格帯カテゴリーの伸長や健康志向の商品への需要が見込まれます。こうした市場環境やお客様の嗜好の変化への対応が遅れ、競争優位な商品やサービスの提供ができずに売上や利益が減少する可能性があります。
国内の酒類事業(キリンビール㈱)においては、2020年の酒税改定に伴い、販売価格の変動や競合他社の動向等により、予想を超えて酒類市場のカテゴリーの構成の変化が起きたり、RTDの競争激化により、販売計画を達成できない可能性があります。
海外の酒類事業(ライオン社)は、当該地域におけるビール需要の継続的な減少や競合との競争激化による利益の減少、またライオン社が戦略的に展開する海外クラフトビールにおいて、グローバル大手酒類メーカーを中心に、高価格帯市場での競争力を高めようとする動きが加速しており、戦略に沿った展開が進まない可能性があります。
国内の飲料事業(キリンビバレッジ㈱)においては、競争環境における基盤ブランド商品の販売量の減少により、売上や損益への影響が発生する可能性があります。
② 医領域に関するリスク
医薬事業(協和キリン㈱)では、主に研究開発に関するリスク、副作用に関するリスク、知的財産権に関するリスク、特許権満了に関するリスク、海外事業展開に関するリスク、安定供給に関するリスク、製品品質に関するリスク等があります。
研究開発では、大学や医療機関、ベンチャー企業と一体となったオープンイノベーションによる新薬の研究開発を行うなど、新薬創出型の製薬企業として魅力ある開発パイプラインの構築を目指していますが、長期間にわたる新薬の開発過程において、期待通りの有効性が認められない場合や安全性等の理由により研究開発を断念する場合があります。開発段階においては厳しい安全性の評価を行っておりますが、市販後に新たに予期していない副作用が見つかった場合は、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
知的財産権については厳しく管理しておりますが、知的財産権が侵害された場合や第三者の知的財産権を侵害し訴訟を提起された場合には、製品の売上収益又は技術収入の減少、製品の製造・販売等の差し止めや損害賠償金や和解金の支払い等が発生する可能性があります。新薬の発明は特許権で一定期間保護されますが、特許権が満了し他社の後発品が参入した場合、自社製品の売上収益が減少する可能性があります。医薬事業における主力製品の一つである腎性貧血治療剤ネスプの物質特許が満了し、新製品の売り上げでカバーできない場合には、売上収益が減少する可能性があります。
グローバルマネジメント体制による事業のグローバル展開を進めていますが、グローバル体制の構築が計画通りに進まない場合、新規上市国での薬価が想定より大幅に下回る場合、上市準備が遅延し事業エリア拡大が遅れる場合、予定通り市場に浸透しない場合には、経営目標の達成が困難になる可能性があります。グローバル展開のために、強固な生産体制の構築を進めていますが、製造施設・物流施設において技術上又は法規制上の問題、原材料及び燃料の供給停止、予想を上回る製品の需要増等により、製品の安定供給に影響を及ぼす可能性があります。また、医薬品製造には厳格な製造・品質管理基準(GMP基準)が求められており、GMP上の重大な問題や製品の安全性や品質に懸念が生じた場合は製造停止や製品回収が発生する可能性があります。
③ 「ヘルスサイエンス領域」に関するリスク
ヘルスサイエンス事業では、社会課題の解決に独自の商品やサービスを提供できないリスク、新しい領域での組織能力が不足し付加価値を高められないリスク、新規投資先とのシナジーが創出できないリスク等があります。
この領域では、疾患の発病予防や進行抑制による健康の維持や生活の質の向上、社会保障費抑制などの課題に対し、医と食の両面で強みを持ち、発酵・バイオの基盤技術を活用したキリンならではの取り組みを行ってまいりますが、新規性のある素材等の研究開発の遅れや効果的な商品・サービスが提供できない場合には、期待される社会課題解決への貢献が充分に行えない可能性があります。
「ヘルスサイエンス事業」は新規の事業領域であり、優位性のあるビジネスモデルや適切な組織・ガバナンス体制を構築できない場合、技術開発が想定通りに進まない場合、想定を超えて法令・規制等の影響を受ける場合などには、事業推進が計画通りに進まない可能性があります。
また、「ヘルスサイエンス事業」の立ち上げと育成に向けては事業・資本提携、オープンイノベーションを意識したベンチャー企業への投資なども想定していますが、事前調査や評価プロセスにおいて潜在的なリスクを発見できない場合、キリングループが提携先の経営・事業・資産等に対して十分なコントロールが行えない場合には、想定したシナジーを創出できない可能性があります。
これらのリスクが顕在化した場合には、ヘルスサイエンス事業が計画通り成長しない可能性があります。
(2) 各事業領域共通のリスク
① 「事業領域の維持・拡大」に関するリスク
キリングループでは、マネジメントシステムでの定期的な事業モニタリングなど市場や事業環境の変化への対応を行っておりますが、適切な経営資源の投入や配分が行われなかったり遅れたりした場合、最適なサプライチェーンを維持できない場合などには、ビジネスモデルの陳腐化や事業の競争優位性が低下し、キリングループの事業領域の維持又は拡大が困難になる可能性があります。
商品やサービスの需要の変化、情報技術の発達やサプライチェーンの変化等を背景に、異分野・異業種の事業者がキリングループの事業領域に参入し、新たな競争事業者となる可能性があります。競争事業者が画期的なビジネスモデルや商品・サービスに基づき事業を展開した場合やサプライヤーや取引先等も含めサプライチェーン全体で適切な対応ができない場合などには、事業遂行上の影響を受けたり競争優位性が低下する可能性があり、また、当該事業領域のグループ会社や出資先企業の収益性の悪化等により、資産やのれん等の減損損失が生じる可能性があります。
② 「情報技術」に関するリスク
キリングループでは、経営基盤の再構築と高度化、グループ会社間での業務の効率化による生産性向上を目指し、標準化された情報システム(ERP)の導入を進めていますが、想定通りに進まない場合は、運用開始時期の遅延や開発費用の増加などが発生する可能性があります。
また、デジタルトランスフォーメーションを推進し、これまで以上に深いお客様理解から得られるインサイトを具現化した商品・サービスの提供、業務プロセス課題の改善・解決や業務品質向上を目指していますが、計画通りに進捗しない場合には競争力のある価値創造を実現できない可能性があります。
情報システムについては、コンピュータウィルスの感染や不正アクセスによる情報の消失、データの改ざん、個人情報や会社の重要機密情報の漏洩、さらには地震等自然災害の発生により、情報システムの停止又は一時的な混乱、事業への影響が発生する可能性があります。
③ 「人材確保・育成」に関するリスク
キリングループは、事業の遂行やイノベーションを実現するには人材が重要であるとして、グループ経営を推進する人材の確保・育成に向けて、組織風土の変革や人材マネジメントの仕組み化に取り組んでおります。また、多様な価値観・専門性を持った人材が集い、多様性を尊重し価値創造を実現するための組織能力向上を目指しています。しかしながら、雇用情勢の変化などによりグループ経営を推進する人材や事業活動に必要な高い専門性を持った人材、環境変化に対応し業務を遂行できる人材などを十分に確保・育成できない場合は、競争優位性のある組織能力が実現しない可能性があります。
④ 「製品の安全性」に関するリスク
キリングループでは、品質方針に基づきお客様への安全・安心な商品・サービスの提供を何よりも優先し、グループの自社工場で製造する製品や製造委託工場・輸入品等について品質保証システムを整備し、品質保証システムの有効性の監査を実施する等、品質保証に最大限の努力を払っています。しかしながら、品質保証の取り組みの範囲を超えて、予期し得ない品質問題等が発生した場合には、製品の製造中止や市場からの回収又は損害賠償請求などにより、多額の費用の発生や事業活動の制限がなされる可能性があります。
⑤ 「コンプライアンス」に関するリスク
キリングループは事業の遂行にあたって、国内においては、酒税法、食品衛生法、薬機法、独占禁止法、労働安全衛生法、環境諸法令等の法的規制の適用を受けています。また、事業を展開する各国においては、当該国の法的規制の適用を受けています。
これらに対し、キリングループでは、コンプライアンスを「法令、社内外の諸規則・ルール及び社会規範を遵守し、法的責任と社会が求める倫理的な責任を果たすことにより、予期せぬ損失や信用の失墜を防止し、ステークホルダーのキリングループに対する信頼を維持向上させること」と定義し、リスクのマネジメントサイクルや従業員啓発の研修を通じたコンプライアンスの推進により、従業員の法令違反や社会規範に反した行為等の発生可能性を低減するよう努めています。また、贈収賄防止をはかり、不当な金銭・贈答・接待及びその他の利益の提供又は受領を禁じています。しかしながら、これらの法令等に違反した場合や社会的要請に反した行動等により、法令による処罰・訴訟の提起・社会的制裁を受けたりお客様からの信頼を失ったりする可能性があります。
なお、医薬品は法令等により医薬品製造業者は厳格な製造・品質保証が課されておりますが、昨年、当社子会社において医薬品製造方法等に関する法令違反が発生し、当局から業務停止命令・業務改善命令を受ける事案が発生いたしました。その概要は「対処すべき課題」に記載いたしました。現在、業務改善命令に沿って法令や手順を遵守する取り組みを進めておりますが、製造・出荷体制が遅れる場合には、製品の供給に影響を及ぼす可能性があります。
⑥ 「災害・事故・サプライチェーン・イベント」に関するリスク
地震・天候不順・冷夏・干ばつ・台風・集中豪雨・森林火災などの大規模自然災害、新型インフルエンザなどの感染症によるパンデミック、大規模停電やその他の災害・事故等の影響により、事業所等の閉鎖や事業活動を停止する可能性があります。
サプライチェーンにおいては、災害・事故等による影響の他、国内ではトラックのドライバーが不足する等、サプライチェーン全般を通じて人材確保が困難になっており、サプライチェーンの分断が起きる可能性があります。キリングループでは、需給予測精度の向上や物流能力を強化しリスクの低減を進めていますが、想定よりも大きな影響を受ける場合には、調達・製造・輸送コスト等の上昇や販売の機会損失等が発生する可能性があります。
また、今年度は東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、期間中のサプライチェーンや業務に混乱が生じないよう対策を行ってまいります。
⑦ 「環境課題」に関するリスク
環境課題については、今年「長期環境ビジョン」を改定し、気候変動に起因する災害や海洋プラスチック問題など、自然環境に対する社会からの懸念や企業に対する期待の高まりに応えるべく、より高い目標を設定し取り組みを進めています。
海洋プラスチックによる海洋汚染に関する国際的な関心の高まりや廃プラスチックの流通構造変化等により、PETボトルをはじめとするプラスチック容器の問題がクローズアップされています。キリングループでこれらの問題に適切な対応をすべく取り進めておりますが、対処が遅れたり解決できない場合には、飲料事業を中心にグループの事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、地球温暖化に対する世界の関心や気候変動のリスク情報を企業の財務情報として開示する要請が高まっています。キリングループは、温室効果ガス排出量を2030年までに2015年比で30%削減する中期削減目標を掲げ、「Science Based Targets(SBT)イニシアチブ」の承認の取得や「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同の表明を行うと共に、削減に向けた様々な活動を行っています。今後、キリングループが事業展開する各国において大型炭素税などのカーボンプライシングが導入された場合、温室効果ガス削減の進捗度合いによっては事業活動に大きな影響を及ぼす可能性があります。
さらに、キリングループが事業を行う国内外における活動拠点の各種汚染等、渇水などによる水資源の不足、森林破壊等の環境破壊を伴う調達の影響などにより、商品の製造の停止や企業ブランド価値が棄損する可能性があります。
⑧ 「人権」に関するリスク
キリングループでは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に準拠した「キリングループ人権方針」を2018年に策定し、人権尊重を推進する取り組みを強化しています。人身取引を含む奴隷労働や強制労働、児童労働を認めない他、人種、民族、国籍、社会的身分、門地、性別、障害の有無、健康状態、思想・信条、性的指向・性自認及び職種や雇用形態の違い等に基づくあらゆる差別の禁止等を求めています。一方、ミャンマーをはじめとする新興国市場での事業運営は非常に複雑な課題であるため、キリングループ自身の理解を深めつつ、透明性やガバナンスの向上といった仕組みの改善に向けた不断の努力が必要であると認識しており、それこそが新興国でキリングループが事業を行う上での重要な役割だと考えています。また同時に、ミャンマーでの人権影響評価実施等、事業を行う上でのリスク管理強化も進めています。しかしながら万一、キリングループが人権問題を発生させた場合や人権上の問題のある調達を行った場合には、当該国又はグローバルでの事業活動に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。
キリングループは、全てのビジネスパートナーに対して「キリングループ人権方針」の支持を期待し、サプライヤーに対してはこの方針を遵守いただけるよう努めてまいります。
⑨ 「各国の政策」又は「業界固有の状況」に関するリスク
キリングループが事業活動を行う国・地域は広範であり、特に新興国における法令・規制等の変化、テロ・戦争やその他の要因による政治・経済・社会的混乱、文化や慣習の違いに起因するトラブル発生等が予想されますが、こうしたカントリーリスクが顕在化する場合、キリングループの事業活動が制限されたり一時的な業務停止などの悪影響を及ぼす可能性があります。
アルコールの負の影響に関して、WHOは世界的な規模での酒類販売に関する将来的な規制に向けた議論をしています。キリングループは、酒類を製造・販売する企業グループとして、社会的責任を果たすために、広告・宣伝活動にあたっては厳しい自主基準に基づき自ら規制を行っている他、全ての酒類事業展開国においてアルコールの有害摂取の根絶に向けた取り組みを進展させています。しかしながら、キリングループの予想を大きく上回る規制強化が行われた場合、アルコールへの社会的受容が急激に縮小し酒類の消費が減少する可能性や企業ブランドの価値が低下するおそれがあります。
また、酒類事業では、海外での法規制の緩和に伴い、キリングループの事業活動を展開する国や地域で嗜好用大麻が解禁され、アルコール飲料の代替となる場合には、酒類事業の事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
飲料事業では、肥満や生活習慣病の低減のため、WHOは各国に糖類の利用低減と加糖飲料への課税を要請しており、砂糖税の導入又は導入を検討している国があります。各国での糖類規制や税制による影響、また消費者の意識の変化などにより、加糖飲料の社会的受容が急激に縮小し消費が減少する可能性があります。
医薬事業では、国内では、超高齢社会を迎え公定薬価制度による薬価の引き下げに加え、ジェネリック医薬品の使用促進等による医療制度改革が進められています。海外においても、医療費抑制への圧力は高まっています。このような各国の薬事行政の規制により様々な影響を受ける可能性があります。また、各国での医療財政の大幅な悪化に伴い、想定外の薬価改定や社会保障制度の変更等が発生する場合には、医薬品市場の縮小や医薬品開発の進捗の遅延、製品の上市が困難になる場合などがあります。
⑩ 「財務」や「税務」に関するリスク
キリングループの事業資金は、主に金融機関からの借入、コマーシャル・ペーパーや社債の発行等により調達しています。このため、金融市場の不安定化・金利上昇、また格付機関によるキリングループの信用格付けの引き下げの事態が生じた場合等には、資金調達の制約を受け、資金調達コストが増加する可能性、あるいは全くできない状況に直面する可能性があります。
キリングループの原材料及び商品の一部は、海外から調達していることから、予測の範囲を超える急激な市況変動や為替変動があった場合、また海外の子会社及び持分法適用会社の経営成績は外貨ベースで作成されており、円換算時の為替レートにより円換算後の価値が変動するため、キリングループの業績・財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
税務においては、キリングループは、世界各国で適用される税法を遵守する方針に沿って事業活動を行っていますが、各国における租税制度の改正、税務行政の変更や税務申告における税務当局との見解の相違等により、追加での税負担が生じたり、社会的信用が低下する可能性があります。
上記以外にも、キリングループや商品・サービスに関するレピュテーションに関するリスク、退職給付債務等に関するリスクなど様々なリスクがあります。これらのリスクの存在を認識した上で、発生の回避・速やかな対応に努めてまいります。