有価証券報告書-第183期(令和3年1月1日-令和3年12月31日)

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2022/03/30 15:22
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132項目

研究開発活動

当社グループでは、食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となることを目指しています。食から医にわたる領域での価値創造に向けては、既存事業の「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)に加え、2つの中間領域にあたる「ヘルスサイエンス事業」の立ち上げにつながるイノベーションの創造に取り組んでいます。当社グループの研究開発活動は、キリンホールディングス㈱R&D本部の3研究所及び各事業会社の研究所で行っています。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は696億円です。セグメントごとの主な研究開発成果は以下の通りで、キリンホールディングス㈱R&D本部の研究開発費は<全社(共通)>に含まれています。
<国内ビール・スピリッツ事業>国内ビール・スピリッツ事業は、キリンビール㈱が中心となり原料の選定から最終商品まで開発を一貫して行っています。
フラッグシップブランド「キリン一番搾り生ビール(以下、一番搾り)」をさらにおいしく進化させ、2月にリニューアルしました。今回のリニューアルでは、さらに“一番おいしいビール”を目指し、製造工程を見直しました。「麦のうまみ」をより感じやすくするために仕込条件を最適化したほか、「澄んだ味わい」を引き出すために発酵条件を最適化し、飲みやすく飲み飽きない、当社が目指す“理想のビールのおいしさ”を実現しました。
クラフトビールの新商品である「SPRING VALLEY 豊潤<496>」の缶商品を3月に新発売しました。キリンビール㈱は、クラフトビールを通じて日本のビールのおいしさの選択幅を広げ、ビール市場の魅力化につなげることを目指しています。2014年以降、各ブルワリーや飲食店などにおけるクラフトビールの接点拡大を経て、クラフトビールニーズが大きく拡大しております。今回発売する「SPRING VALLEY 豊潤<496>」は、家庭でクラフトビールを楽しんでいただきたいという思いから、缶商品で展開しました。「SPRING VALLEY 豊潤<496>」は、数字の完全数を名前に冠した「496」をベースに誕生した商品です。コンセプトや味のバランスなどはそのままに、豊潤ながらも後味が綺麗で、飲み飽きない味わいを実現しました。
ノンアルコール・ビールテイスト飲料の機能性表示食品「キリン カラダFREE(キリン カラダフリー)」を3月にリニューアルしました。10年以上かけて開発したビールの原材料でもあるホップから生まれた「熟成ホップエキス」を使用しています。熟成させたホップの苦味成分である「熟成ホップ由来苦味酸」に体脂肪を低減させる効果があり、「お腹まわりの脂肪を減らす」という機能性と、毎日飲み続けられるような爽快な味わいでお客様から高く評価されてきました。今回のリニューアルでは、原材料の配合を見直し、さらにゴクゴク飲める爽快なおいしさと、すっきりとした後味を実現しました。
「つくりたてのおいしさをお客様にお届けしたい」という思いから生まれた会員制 生ビールサービス「キリン ホームタップ」を21年春より全国に本格展開しました。会員の自宅にビールを月2回定期配送して、専用のビールサーバーで楽しんでいただきます。定番ビールには「キリン一番搾り生ビール」最上位ブランドの「一番搾り プレミアム」を採用し、酸素の透過を防ぐ独自のコーティングを施したペットボトルに詰めてお届けしています。ビールサーバーは保冷機能を有しており、クリーミーな泡付けが簡易にできることなど、本格的な生ビール体験のために徹底的にこだわったサービス設計が特長です。「つくりたてのおいしさをお届けする」ことや「ビールサーバーから注ぐ楽しさ」など新たなビール飲用体験のご提供を通じて、ビールの魅力化・ビール市場の活性化に貢献していきます。
当事業に係る研究開発費は9億円です。
<国内飲料事業>国内飲料事業は、キリンビバレッジ㈱が中心となり原料の選定から最終商品まで開発を一貫して行っています。
キリンの独自素材「Lactococcus lactis strain Plasma(以下、「プラズマ乳酸菌」)」を配合した「健康な人の免疫機能の維持をサポート」する機能性表示食品「キリン 午後の紅茶 ミルクティープラス」と「キリン 生茶 ライフプラス 免疫アシスト」を、10月に新発売しました。紅茶と緑茶で免疫機能をうたった機能性表示食品は、日本初となります。近年、免疫に対する関心が高まる一方、免疫への関心はあるものの、約70%※1の方が食品やサプリメントの摂取など積極的な行動ができておらず、免疫対策への意識も低いことが分かりました。今回、そういった方々の潜在需要を掘り起こすとともに、日本に“免疫ケア※2”の習慣を広く浸透させるため、お客様の認知が高く日常的にご愛飲いただいている「午後の紅茶」と「生茶」の2つの基盤ブランドから「プラズマ乳酸菌」を配合した新商品を発売しました。
キリンホールディングス㈱の独自素材「βラクトリン(ベータラクトリン)」を配合した、加齢に伴って低下する“記憶力を維持する”ことをサポートする機能性表示食品「キリン βラクトリン」を5月に新発売しました。「βラクトリン」は、キリンホールディングスの脳科学の研究において、協和キリン㈱、小岩井乳業㈱との連携の成果として発見された、加齢に伴って低下する記憶力の維持に役立つ乳由来の機能性食品素材です。乳製品を習慣的に摂取することが記憶力などの認知機能の維持に役立つ疫学調査※3に注目し、乳由来「βラクトリン」の脳認知機能維持作用を世界で初めて※4発見しました。カマンベールチーズなどの乳製品に含まれる有効成分「βラクトリン」を発見し、キリンの発酵技術に関する知見により、少量で手軽に効率よく摂れる素材が見出しました。
㈱ファンケル共同開発したフレーバーウォーター「キリン×ファンケル デイリーアミノウォーター」を4月に新発売しました。長年人々の健康や美容に向き合ってきた㈱ファンケルと、おいしくて安全・安心な飲料を提供するキリンビバレッジが、お互いの強みを生かし、新発想の商品を開発しました。昨今の情勢から、昨年の調査では「健康」や「リスクに備えること」の大切さを再認識した方が7割以上にのぼる※5など、お客様の意識や行動に変化が起こっています。ファンケルの「体内効率設計」※6に基づいて、活力のイメージがある2つのアミノ酸「アルギニン」と「シトルリン」に加え、「クエン酸」、「ビタミンC」を配合しています。さらに、キリンビバレッジ㈱の飲料開発技術により、すっきりと爽やかな味わいの飲料が誕生しました。お客様にとって体調管理がより重要になるなか、体内で常に使われていくアミノ酸や水分を毎日こまめに補給するという新しい健康習慣を提案しました。
当事業に係る研究開発費は9億円です。
※1 2021年5月当社調べ(n=10,000)
※2 生活習慣は規則正しく、バランスの良い食事、十分な睡眠と適度な運動が基本です。
※3 Ozawa M, et al. Am J Clin Nutr. 2013, (5):1076-82
※4 ホエイプロテイン由来のペプチドとしてヒトの記憶力(手がかりをもとに思い出す力)を維持することを世界で初めて発見/Pubmed及び 医学中央雑誌Webに掲載された論文情報に基づく(2021年2月28日現在 ナレッジワイヤ調べ)
※5 出典 2020年 電通 「意識・行動変化」調査
※6 個々の成分の持続性や吸収性はもちろん、互いの機能を高め合う配合バランスなどを研究した、ファンケル独自の成分設計の考え方
<オセアニア酒類事業>オセアニア酒類事業では、LION Pty Ltdで、オーストラリアおよびニュージーランドの市場環境の変化に応じた商品中味や容器開発を、キリンホールディングス(株)の持つ技術を活用しながら取り組みました。
当事業に係る研究開発費は0億円です。
<医薬事業>協和発酵キリン㈱グループは、研究開発活動へ資源を継続的かつ積極的に投入しています。多様なモダリティを駆使して画期的新薬を生み出すプラットフォームを築く技術軸と、これまで培った疾患サイエンスを活かしつつ有効な治療法のない疾患に"only-one value drug"を提供し続ける疾患軸の両方を進化させ、競合優位性の高いパイプラインを構築し、Life-changingな価値をもつ新薬をグローバルに展開することを目指しています。
主な後期開発品の各疾患領域における進捗は、次のとおりです。
腎領域
RTA402
・1月に日本において常染色体優性多発性嚢胞腎を対象とした第Ⅲ相試験を開始しました。
・7月に日本においてアルポート症候群を対象とした承認申請を行いました。
KHK7791
・4月に日本において血液透析および腹膜透析施行中の高リン血症を対象とした第Ⅲ相試験を開始しました。
がん領域
KW-0761(日本製品名:ポテリジオ、欧米製品名:Poteligeo)
・6月に中国において菌状息肉腫およびセザリー症候群を適応症とした承認申請を行いました。
KRN125(日本製品名:ジーラスタ)
・3月に日本において同種末梢血幹細胞移植のための造血幹細胞の末梢血中への動員を適応症とした承認事項一部変更承認申請を行いました。
・8月に日本においてがん化学療法による発熱性好中球減少症の発症抑制を適応症とした自動投与デバイスの承認申請を行いました。
・9月に日本において自家末梢血幹細胞移植のための造血幹細胞の末梢血中への動員を対象とした第Ⅱ相試験を開始しました。
ME-401
・6月に第Ⅱ相国際共同試験において、辺縁帯リンパ腫を対象とした追加群の試験を開始しました。
・8月に再発または難治性の濾胞性リンパ腫および辺縁帯リンパ腫症例を対象としたリツキシマブとの併用療法の第Ⅲ相国際共同試験を開始しました。
免疫・アレルギー疾患領域
KHK4083/AMG451
・6月にアムジェン社とアトピー性皮膚炎等を対象とした共同開発・販売に関する契約を締結しました。
KHK4827(日本製品名:ルミセフ)
・12月に日本において全身性強皮症を予定適応症とした承認事項一部変更承認申請を行いました。
その他
KRN23(日本製品名:クリースビータ、欧米製品名:Crysvita)
・1月に欧州において腫瘍性骨軟化症を適応症とした生物学的製剤承認一部変更申請が受理されました(2020年12月申請)
・1月に中国においてX染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症を適応症として承認されました。
・3月に中国において腫瘍性骨軟化症を適応症として承認されました。
AMG531(日本製品名:ロミプレート)
・8月に韓国において免疫抑制療法に不応又は免疫抑制療法が適用とならない再生不良性貧血を適応症として承認されました。
当事業に係る研究開発費は574億円です。
<その他・全社(共通)>メルシャン㈱は、キリンホールディングス㈱飲料未来研究所と連携しながらワインの研究・技術開発並びに商品開発を実施しています。
ワイン販売量世界No.1ブランド「フランジア」(赤、白、ダークレッド各種容器)の中味を6月にリニューアルしました。「フランジア」は、2008年よりメルシャン藤沢工場(神奈川県藤沢市)にて国内ボトリングを開始し、“フレッシュ&フルーティ”な味わいで、自由なスタイルで気取らずに楽しめるワインとしてお客様に好評いただいています。今回のリニューアルでは、現行のフランジアワインと当社が世界各国から選び抜いたブドウ果汁を国内で醸造したワインとブレンドすることで、「フランジア」の特長である「フレッシュ&フルーティ」な味わいをさらに向上させました。
シャトー・メルシャンは「適地・適品種」の考えのもと、ワイン用ブドウ栽培に適した産地を確保・育成し、その地にふさわしい品種の栽培に取り組んできました。2021年4月にイギリス・ロンドンにて開催された「インターナショナル・ワイン・チャレンジ 2021」にて、「シャトー・メルシャン 笛吹甲州グリ・ド・グリ2019」が日本ワインで唯一となる金賞を受賞しました。「オレンジワイン」カテゴリーにおいて、「オレンジワイン」の世界的な産地として有名なジョージア以外の産地で金賞を受賞するのは、同コンクール史上初の快挙となりました。「シャトー・メルシャン」として、同コンクールにて銀賞6品、銅賞5品とあわせ、計12商品が受賞しました。日本を代表するワイナリーとして、高品質な日本ワインを造り、国内外への情報発信をしていくことで、ブランドの認知拡大を図るとともに、日本ワイン産業の発展に貢献します。
メルシャン㈱八代工場は、焼酎粕を家畜飼料として活用する取組みが評価され、10月に「循環型社会形成推進功労者環境大臣表彰」を受賞しました。2015年より焼酎粕の一部を熊本県内の養豚業者に給餌飼料として提供を開始し、2015年~2020年の6年間で7,158トンの焼酎粕を家畜飼料として利用いただきました。本取り組みを通じ、八代工場からのCO2排出量は222トン低減され、養豚農家の飼料コストも低減されました。東京大学、キリンホールディングス㈱キリン中央研究所との共同研究により、世界で初めて焼酎粕が豚のストレスを低減し、肉質を向上させることも2019年に確認しました。焼酎粕の有効活用に新たな可能性を広げ、循環型社会の形成に貢献していることを評価いただきました。
協和発酵バイオ㈱は、「シチコリン」や「ヒトミルクオリゴ糖」をはじめとする、高収益型のプロダクトパイプラインを多数持つグローバル・スペシャリティ発酵メーカーを目指し、長年培ってきた最先端の発酵技術の研究開発に引き続き注力しています。
「シチコリン」については、協和発酵バイオ山口事業所での設備増設工事を開始しました。グローバルな安定供給体制を整えることにより、加齢に伴う脳機能低下予防、集中力やパフォーマンスの向上といったニーズに応えます。
協和発酵バイオ㈱が世界で初めて工業レベルでの生産システムを構築した「ヒトミルクオリゴ糖」については、THAI KYOWA BIOTECHNOLOGIES CO., LTD.での製造設備の新設工事を開始しました。「ヒトミルクオリゴ糖」には新生児の脳の発育を促し、免疫システムの発達に作用するほか、感染への抵抗力を高める働きや、抗炎症の機能があります。また、善玉ビフィズス菌を増やし、腸内環境を改善する効果が報告されています。製造体制構築後に、協和発酵バイオは「ヒトミルクオリゴ糖」の他社への外販を進めるとともに、自社及びグループでの商品開発でも活用していき、「健康」に関する社会課題の解決に貢献します。
キリンホールディングス㈱は、㈱ファンケルと2019年の資本業務提携を契機にさまざまな共同研究を進めています。キリンホールディングス㈱の独自素材である「14-デヒドロエルゴステロール」を含有する白麹菌抽出物を配合した美容液の連用試験を実施したところ、角層中の「アルギナーゼ1」※1量を増加するとともに、幅広い肌老化兆候が改善したことを確認しました。白麹菌抽出物がエイジング世代の肌悩みに対し有効であり、㈱ファンケルの化粧品に配合されました。また、「熟成ホップエキス」については、角質の主な成分であるケラチン膨潤効果、皮脂の酸化防止効果を確認し、角栓のできる要因である角質と皮脂の両方にアプローチすることが明らかになりました。「熟成ホップエキス」は毛穴の状態改善に有効であり、㈱ファンケルの化粧品に配合されました。
また、ヘルスサイエンス事業の重点領域である「脳機能」について、脳の健康サポートを日常で習慣化する食以外のソリューション提供に向けた研究開発も、異業種の企業・自治体・大学・研究機関などと連携しながら進めています。「笑う門には福来る」と言われるように、古くから、ユーモアや「笑い」は脳や心に良い影響があると考えられていますが、科学的な検証は十分に実施されていませんでした。そこで、吉本興業㈱、静岡県浜松市、学校法人近畿大学と連携し、「笑い」が脳や心の健康に及ぼす効果を検証したところ、「笑い」が脳血流の増加を促し、集中力を向上させることや、ストレス反応を改善することを、臨床研究で確認しました。本研究成果を活用し、「脳の健康」をサポートする毎日気軽に続けやすい新サービスの開発を目指していきます。
その他の事業及び全社(共通)に係る研究開発費は104億円です。
※1 たんぱく質の一種で、シミの原因となる活性酸素の発生を抑え、メラニン産生が起こらないようにバランスを調整し、シミを防ぐ力がある酵素。肌表面に多く局在する。身体の炎症時に増加し、正常化させる機能を持つ。ファンケルでは、長年研究を行い、① 紫外線による皮膚の赤み増加を抑制、②メラニン刺激因子やコラーゲン分解酵素を抑制、③酸化によるバリア機能の低下や炎症の拡大を抑制、④糖化物によるダメージや老化抑制、の四つの働きについて解明している。