有価証券報告書-第179期(平成29年1月1日-平成29年12月31日)

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2018/03/29 15:12
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61項目

研究開発活動

当社グループでは、社会課題への取組みとお客様への期待に応える価値創造を実現するために、発酵・バイオをはじめとする多様な技術と、お客様のニーズを商品やサービスに反映させるリサーチ・マーケティング力を融合させ、技術力の強化を図っています。当社グループの研究開発活動は、キリン㈱R&D本部の6研究所及び各事業会社の研究所で行っています。これらが連携し、「食と健康」の領域で独自の価値と最上の品質を持つ商品やサービスの開発、及びそのベースとなる技術の研究・開発を推進しています。また、有望な技術の開発・応用・実用化を可能にするためにグループ内外のオープンイノベーションを積極的に推進しています。
2017年度の主な研究開発成果は以下の通りです。飲料の開発に関しては、緑茶や紅茶の味や香りなどを維持しながら茶中のカフェインを選択的に吸着除去する当社独自の「カフェインクリア製法」について、8月28日の日本食品科学工学会第64回大会において「日本食品科学工学会
技術賞」を受賞しました。また、環境に配慮したパッケージ開発の一環として、ユニバーサル製缶㈱と共同で国産最軽量※1となるアルミ缶を開発し、公益社団法人日本包装技術協会が主催する「第41回木下賞」の改善合理化部門にて受賞しました。昨年の「国内最軽量ペットボトル」に続き、2年連続の同賞受賞となります。また、アジア包装連盟主催の「アジアスター2016コンテスト」において、「キリン生茶」525mlペットボトルと「キリンウイスキー富士山麓ブレンデッド18年」ボトルびんが「アジアスター賞」を受賞しました。「キリンウイスキー富士山麓ブレンデッド18年」ボトルびんについては、「ワールドスター2017コンテスト」において、「ワールドスター賞」も受賞しました。
当年度におけるグループ全体の研究開発費は590億円です。セグメントごとの状況は、次のとおりです。
※1 350ml缶では14.6gから13.8gへ約5%軽量化、500ml缶も18.1gから16.8gへ約7%軽量化した。
(日本綜合飲料事業)
(1) 国内酒類事業
キリンビール㈱は、2016年に引き続き、“地元の誇りを美味しさに変えて”をスローガンに、地域で暮らすお客様と一緒になって、地域の魅力を発掘しながらつくりだした特別な一番搾り『47都道府県の一番搾り』を発売しました。47都道府県別ごとの特性を生かした商品開発やお客様の郷土愛を効果的にマーケティングに活かし多くの支持を獲得した点や、開発・販売・プロモーションが一体となってダイナミックに地域活動を展開した点などを評価いただき、日本マーケティング協会が主催する「第9回日本マーケティング大賞」において、大賞を受賞しました。
「ビールの魅力化」の取り組みの一環として「キリン一番搾り生ビール」の味覚とパッケージデザインを7月にリニューアルしました。「一番搾り製法」で引き出した麦本来のうまみをアップさせ、日本のお客様の繊細な味覚を満足させる、さらに“おいしいビール”に進化しました。当社は、2026年の酒税一本化を見据え、2020年を中期ゴール、2017年を再成長元年と位置づけ、「キリン一番搾り生ビール」の“おいしさ”を徹底的に追求し、中長期的な再成長を図っていきます。
新しいクラフトビールの楽しみ方を提案する「Tap Marché (タップ・マルシェ)」を4月より地域限定で展開しました。「Tap Marché」は「Marché (市場)」のように、個性豊かで多様なクラフトビールと多くのお客様が出会い、気軽に楽しんでいただく「場」を実現することで、新たな文化の創造を目指します。複数のクラフトビールの提供に適したサイズの3L小型ペットボトルの容器と、取扱いが簡便で1台で4種類のクラフトビールの提供が可能な小型ディスペンサーを新たに開発しました。
“ビール工場つくりたての鮮度とおいしさをそのままの状態でお届けする”をテーマに、工場から直接ご家庭に商品をお届けして専用のビールサーバーを楽しんでいただくサービスとして、「KIRIN Home Tap」を6月より展開しました。当社独自技術により、ビール工場でしか味わうことができなかったつくりたてのビールを、鮮度を保ったままペットボトルに詰めてご家庭までお届けします。食卓と食卓を囲む時間を特別なものにしていくとともに、ビールカテゴリーの魅力化を図っていきます。
ノンアルコール・ビールテイスト飲料カテゴリーにおいて、「一番搾り製法」を採用し、麦のうまみを丁寧に引き出した美味しさを実現した、当社初のノンアルコール・ビールテイスト飲料「キリン零ICHI (ゼロイチ)」を4月に発売しました。2009年に当社が世界で初めてアルコール0.00%のノンアルコール・ビールテイスト飲料「キリンフリー」を発売以来、多くのお客様にノンアルコール飲料をご支持いただいています。一方で当社調査によると同飲料ユーザーの4人に1人は現状のノンアルコール飲料の商品に不満をもっており、特に味覚への不満が多いことが分かりました。また、「ビールに近い味」、「本格感」、「麦の味や香り」が感じられる商品への期待が高いこともうかがえます。当社は、そのような期待に着目し、麦汁ろ過工程において「キリン一番搾り生ビール」で採用している「一番搾り製法」を今回新たにノンアルコール飲料に持ち込むことで、よりビールに近い味わいを目指しました。
RTD市場においては、世界で愛され、親しまれているお酒を「氷結®」流にアレンジした新商品として「キリン旅する氷結®」シリーズを3月に発売しました。世界各地の人々がその土地で飲んでいるお酒やスタイルを氷結®ストレート果汁でおいしく飲みやすくアレンジしたライト感覚で楽しめる「キリン旅する氷結® マンマレモチーノ/アップルオレンジサングリア/カリビアンモヒート」を同時発売しました。「キリン旅する氷結®」シリーズ投入に加え、「ストロング」シリーズの好調、「氷結®」ブランドのイメージ向上を受け、出荷数7年連続増加、年間販売数量過去最高を達成しました。
洋酒市場では、「キリンウイスキー富士山麓 Signature Blend(シグニチャーブレンド)」を新発売しました。ウィスキー業界の国際的アワード「アイコンズ・オブ・ウィスキー2017」において、「マスターディスティラー/マスターブレンダー・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、本年の“世界最優秀”のブレンダーに輝いた、当社マスターブレンダーの田中城太が手がけ、複層的で奥深く、円熟した味わいに仕上げました。
メルシャン㈱はキリン㈱ワイン技術研究所と連携しながら、ワインの研究・技術開発並びに商品開発を実施しています。山梨県勝沼市に位置するワイナリー「シャトー・メルシャン」とワイン技術研究所が協働することでワインの品質向上に努めた結果、「シャトー・メルシャン桔梗ヶ原メルロー2012」が、レベルの高い国際ワインコンクールである「チャレンジ・インターナショナル・デュ・ヴァン(フランス・ボルドー)」にて金賞を受賞、また、「シャトー・メルシャン北信シャルドネ千曲川右岸収穫2015」が、「レ・シタデル・デュ・ヴァン(フランス・ボルドー)」にて金賞及び日本ワイン特別賞を受賞しました。お客様と一緒に日本のワインの魅力を発見し、魅力を広げていくことを目的に、「Tasting Nippon」プロジェクトを始動し、その最初の取り組みとして、「シャトー・メルシャン・クラブ」を9月に開設しました。「Tasting Nippon」プロジェクトは、日本ワインが、生産国である日本において、もっと愛され、もっと親しまれることを目指し、ワイン単体でなく、日本ならではの伝統や洗練された食と文化と共に楽しんでいただくことをテーマとして、「シャトー・メルシャン」を通じて、日本の素晴らしさを体験していただく取り組みです。これからの日本ワインの発展にむけて、お客様と一緒に、歩んでいきます。
健康と美容を気遣うお客様にお楽しみいただく「ボン・ルージュベリーリッチ赤」を9月に発売しました。一般に年齢を重ねるにつれ、自分や家族の健康への関心が高まる傾向があります。また、当社調べによると、ワインは健康に関心がある方に興味が持たれやすい傾向にあり、「健康に良い」というイメージからワインを購入・飲用される方が一定数存在します。中でも、40代の女性は、健康だけでなく、美容に関する関心が高く、赤ワインに対して、「果実感のある味わい」、「まろやかな味わい」を好むことも分かりました。さらに、ベリー類は他の果汁に比べて健康や美容に良さそうなイメージがあることも分かりました。これら背景から、天然ポリフェノール1.5倍(当社比)を含み、ポリフェノールの一種であるエラグ酸※2を含む3つのベリー(ラズベリー、クランベリー、ブラックベリー)をブレンドした「ボン・ルージュベリーリッチ赤」を開発しました。
国産梅を100%使用し、「豊潤たね熟製法※3」で生み出された原酒を用いた「まっこい梅酒」のパッケージと中身を刷新し、2月下旬より順次発売しました。フルーティーな香味をそのままに、熟した梅の風味を強化しコクを高めました。今後も“素材の香味特徴を最大限に引き出す”という思想のもと、オリジナリティに溢れ、お客様にとって魅力のある研究・技術開発並びに商品開発を引き続き推進していきます。
※2 ザクロ、イチゴ、ラズベリーなどの果実やナッツ類など、植物中に広く存在するポリフェノールの一種。
※3 梅酒の美味しさの秘密である「梅のたね」だけを浸漬し、たね由来のうまみを引き出し、甘い香りと豊潤な味わいを産み出す製法のこと。

(2) 国内飲料事業
国内飲料事業では、キリンビバレッジ㈱が中心となり原料の選定から最終商品まで開発を一貫して行っています。
紅茶飲料No.1ブランド「キリン午後の紅茶」の年間販売数量が昨年に続き、2年連続で5,000万ケースを突破し、過去最高を更新しました。「午後の紅茶」は1986年に日本初のペットボトル入り紅茶として発売以来30年間以上、日本の紅茶飲料市場をけん引しています。基盤商品である「午後の紅茶ストレートティー/ミルクティー/レモンティー」の好調に加え、「午後の紅茶おいしい無糖」が新たな基盤商品として定着し、大人層を中心とした新たな顧客を獲得しました。さらにホット専用商品も大幅に増加しています。8月にはディンブラ茶葉の華やかな香りが楽しめる、カフェインゼロ※4のストレートティーとして、「キリン午後の紅茶ストレートティーデカフェ」を発売しました。本商品の発売により、“紅茶は飲みたいけれど、カフェインを控えたい”と日常的に思っている方はもちろん、お客様が紅茶飲料を選ぶ際の選択肢を広げることで飲用シーンの拡大に貢献していきます。
スタイリッシュなパッケージと、コクと余韻がしっかりと味わえる味覚が高い評価をいただいている「キリン生茶」について、3月に味覚をブラッシュアップし、微粉砕した“かぶせ茶”をより丁寧に仕上げることで、さらにまろやかでコクのある味わいを実現しました。3月には300mlペットボトルを新たにラインアップに加え、5月にはペットボトル入り緑茶飲料として唯一※5のカフェインゼロの「キリン生茶デカフェ」を発売しました。
新たに「キリンサプリ」シリーズを発売し、日常の数値で表しにくい健康の様々な悩みにこたえる商品ラインナップを揃え、機能性表示食品だからこそ実現できる分かりやすい機能性訴求と毎日飲みたいおいしさで、手軽に取り入れやすい健康習慣を提案しました。ストレスを軽減する機能性表示食品「キリンサプリレモン」を2月、疲労を軽減する「キリンサプリブラッドオレンジ」を7月、快眠をサポートする「キリンサプリヨーグルトテイスト」を7月、プラズマ乳酸菌を配合した「キリンまもるチカラのサプリすっきりヨーグルトテイスト」を11月に発売しました。
また、キリン独自素材“プラズマ乳酸菌”を配合した新ブランド「iMUSE(イミューズ)」をスタートすることを9月に発表しました。キリングループ一体で推進しているCSVにおいて、重点課題の一つである「健康」への取り組みを強化します。「iMUSE(イミューズ)」とは、「i(私)」の中にあるチカラを「MUSE(女神)」が呼び覚まし、いつまでも強く輝いた人生をサポートする、キリングループ共同で立ち上げた新ブランドです。2018年1月発売の「iMUSE レモンと乳酸菌」は、仕事中の水分補給の際にプラズマ乳酸菌を摂れる「乳酸菌ニアウォーター」です。
今後も、キリンの強みである“ていねいなものづくり”や“品質へのこだわり”を強化し、お客様にとって、うれしい驚きをもった魅力的な商品開発を行っていきます。
※4 0.001g(100ml当たり)未満を0gと表記。
※5 100ml当たりカフェイン含有量0.001g未満のPET容器詰め緑茶飲料として唯一、2014年2月SVPジャパン調べ。
当事業に係る研究開発費は97億円です。
(オセアニア綜合飲料事業)
オセアニア綜合飲料事業では、LION PTY LTDで、オーストラリア及びニュージーランドの市場環境の変化に応じた商品開発を、キリン㈱の持つ技術を活用しながら取り組みました。
当事業に係る研究開発費は3億円です。
(医薬・バイオケミカル事業)
(1) 医薬事業
協和発酵キリン㈱では、抗体技術を核にした最先端のバイオテクノロジーを駆使し、腎、がん、免疫・アレルギー、中枢神経の各カテゴリーを研究開発の中心に据え、資源を効率的に投入することにより、新たな医療価値の創造と創薬の更なるスピードアップを目指しています。
当年度における主な後期開発品の開発状況は次のとおりです。

腎カテゴリー
・ 日本においてカルシウム受容体作動薬KHK7580(一般名:エボカルセト)の維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症を効能・効果とする承認申請を4月に行いました。また、副甲状腺癌及び副甲状腺摘出術不能又は術後再発の原発性副甲状腺機能亢進症における高カルシウム血症を対象とした第Ⅲ相臨床試験を10月に開始しました。
・ 日本においてRTA402(一般名:バルドキソロンメチル)の2型糖尿病を合併する慢性腎臓病を対象とした第Ⅱ相臨床試験を9月に終了しました。
・ 中国において持続型赤血球造血刺激因子製剤KRN321(日本製品名「ネスプ」)の透析施行中の腎性貧血を効能・効果とする承認再申請の準備中です。
がんカテゴリー
・ 日本においてソラフェニブ治療歴を有するc-Met高発現の切除不能肝細胞癌を対象として開発を進めていたc-Met阻害剤ARQ197(一般名:チバンチニブ)の開発を中止しました。
・ 抗CCR4ヒト化抗体KW-0761(日本製品名「ポテリジオ」)は、全身治療歴を有する成人の皮膚T細胞性リンパ腫を適応症とする承認申請が欧州において10月に、全身治療歴を有する皮膚T細胞性リンパ腫を適応症とする承認申請が米国において11月にそれぞれ受理されました。また、日本において、再発又は難治性の皮膚T細胞性リンパ腫を対象とした効能効果及び用法用量に関する承認事項一部変更承認申請を11月に行いました。
免疫・アレルギーカテゴリー
・ 抗IL-5受容体ヒト化抗体KHK4563(一般名:ベンラリズマブ)は、日本において気管支喘息を適応症とした承認申請を、本剤の権利の導出先であるアストラゼネカ社が2月に行いました。また、同社が実施している国際共同試験計画の一環として、気管支喘息を対象とした第Ⅲ相臨床試験を日本及び韓国において、慢性閉塞性肺疾患を対象とした第Ⅲ相臨床試験を日本において、それぞれ実施中です。
・ 抗IL-17受容体A完全ヒト抗体KHK4827(日本製品名「ルミセフ」)は、体軸性脊椎関節炎を対象とした第Ⅲ相臨床試験を日本、韓国等において4月に開始しました。また、乾癬を対象とした第Ⅲ相臨床試験を韓国において実施中です。さらに、日本において在宅自己注射の対象薬剤として9月に適用されました。
・ 日本においてゼリア新薬工業㈱との共同開発である潰瘍性大腸炎治療剤「アサコール」の用法・用量追加の承認を5月に取得しました。
中枢神経カテゴリー
・ アデノシンA2A受容体拮抗剤KW-6002(日本製品名「ノウリアスト」)の米国におけるパーキンソン病を対象とした再申請について、2018年中の実施に向けて準備中です。
・ 日本において、抗CCR4ヒト化抗体KW-0761(日本製品名「ポテリジオ」)の、HTLV-1関連脊髄症を対象とした第Ⅲ相臨床試験を6月に開始しました。
その他
・ 抗線維芽細胞増殖因子23完全ヒト抗体KRN23(一般名:ブロスマブ)は、欧州において小児X染色体遺伝性低リン血症を適応症とした承認を申請中です(2016年12月申請受理)。また、米国において成人・小児X染色体遺伝性低リン血症を適応症とした承認申請が10月に受理されました。さらに、成人X染色体遺伝性低リン血症を対象とした国際共同第Ⅲ相臨床試験を北米、欧州、日本及び韓国において、小児X染色体遺伝性低リン血症を対象とした国際共同第Ⅲ相臨床試験を北米、欧州、オーストラリア、日本及び韓国において、それぞれ実施中です。加えて、腫瘍性骨軟化症又は表皮母斑症候群を対象とした第Ⅱ相臨床試験を米国、日本及び韓国において実施中です。
・ 中国においてトロンボポエチン受容体作動薬AMG531(日本製品名「ロミプレート」)の慢性特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病を対象とした第Ⅲ相臨床試験を実施中です。また、日本及び韓国において再生不良性貧血を対象とした第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験を実施中です。
・ 日本において遺伝子組換えアンチトロンビン製剤(日本製品名「アコアラン」)の新規含量規格である「アコアラン静注用1800」の製造販売承認を9月に取得しました。

(2) バイオケミカル事業
・ 各種アミノ酸に加え、核酸やペプチドといった高付加価値製品の省資源・高効率な発酵生産プロセスの研究開発に引き続き注力しています。
・ 国内外の大学研究機関との共同研究を通して得られた機能性や安全性データに基づき、アミノ酸等、発酵生産物の栄養生理機能探索や用途開発を行い、製品の付加価値を高めています。
・ 素材開発に関する知見を活かし、キリングループ共同で立ち上げた新ブランド「iMUSE(イミューズ)」に使われているプラズマ乳酸菌の素材としての新たな開発研究を開始しました。
・ 高品質アミノ酸と培養技術に関する知見を活かし、再生医療向けの細胞培養培地に関する研究を行っています。
当事業に係る研究開発費は489億円です。