有価証券報告書-第149期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/29 13:33
【資料】
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【項目】
149項目
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社の経営理念は、次のとおりです。
1.企業価値の追求と、その最大化を通じた人々・社会・経済の発展への貢献
2.「おいしさ・健康・美」の追求をコアコンセプトとする創造性、発展性ある事業への飽くなき探求
3.社会の一員としての責任ある行動の徹底
ステークホルダーの皆様へお約束するコンセプトとして、「コアプロミス」を次のとおり定めています。
日清オイリオグループは、健康的で幸福な「美しい生活」(Well-being)を提案・創造いたします。そのため
に私たちは、無限の可能性をもつ植物資源と、最高の技術によって、あなたにとって、あったらいいなと思う
商品・サービスを市場に先駆けて創り続け、社会に貢献することを約束いたします。
また、今般策定した「日清オイリオグループビジョン2030」において「2030年に目指す姿」を次のとおり定めまし
た。
私たちは、“植物のチカラ®”と“油脂をさらに究めた強み”で、食の新たな機能を生み出すプラットフォーム
の役割を担います。そして多様な価値を創造し、“生きるエネルギー”をすべての人にお届けする企業グルー
プになります。
当社グループは、従来以上に事業活動による価値創造を通じて社会の持続可能性に貢献してまいります。

(2) 中長期的な会社の経営戦略並びに優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
<前中期経営計画の振り返り>前中期経営計画「OilliO Value Up 2020」では、グローバリゼーション、テクノロジー、マーケティングを基調とし、「事業構造改革を継承しつつ、より成長路線に軸足を移す」を基本方針に事業を展開しました。最終年度である2020年度は、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けましたが、2019年度には、前中期経営計画で目標として掲げていた営業利益130億円(2019年度実績131億円)を達成するなど着実に収益力をつけ、成長路線へ舵を切りました。
成長戦略については、ホームユース領域における売上利益成長率の目標を年平均3%に対し年平均12.4%の実績をあげ、かけるオイルなど油脂の新しい使い方やおいしさの提案で市場の拡大をけん引するなど大きな成果をあげることができました。業務用、加工用領域では、ニーズ協働発掘型営業の実践とユーザーサポート機能の発揮によりグループの総力を結集した戦略を展開し、年平均2%を目標とした売上利益成長率については年平均4.8%の実績となりました。また、マーケティング強化によるMCTの認知率については4年間で16%アップの40.3%(当社調べ)となり、目標とした50%には届きませんでしたが、一定の成果があったものと考えています。一方で、海外売上高成長率やヘルスサイエンス領域の売上高成長率は目標に達せず、新中期経営計画での課題として引き続き取り組んでまいります。
基盤強化については、コストダウンに継続的に取り組み、4年間で20億円の目標に対し、30億円のコストダウンを達成しました。また、エネルギーネットワークの構築および運用による温室効果ガスの大幅削減、調達基本方針とパーム油調達方針の制定と実践、環境目標2030制定、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同など、ESGを重視した経営を進めました。

<「日清オイリオグループビジョン2030」>昨今、地球規模では環境問題などの社会課題が累積しており、国内では急速な少子化と高齢化、本格的な人口減少など、既に大きな変化が始まっています。これにコロナ禍が拍車をかけており、まさにこうした不確実性の高まり、そしてこれらも反映した世界的な消費・生活行動の変容や一層の多様化の進展など、従来のビジネスのやり方やモノの考え方が大きく変化しています。さらに、企業市民として、今まで以上に持続可能な社会「サステナビリティ」に貢献していくことが求められています。
このようななか、当社グループは、社会課題の解決を通じた、多様な共有価値の創造(CSV)を成長のドライバーとするとの考えのもと、将来にわたって持続的に成長し、持続可能な社会の実現に貢献するため、長期的な視点で「2030年に目指す姿」と「戦略の指針」を示すことを目的に「日清オイリオグループビジョン2030」を策定しました。
日清オイリオグループビジョン2030の概要

“植物のチカラ®”を価値創造の原点として私たちが生み出す商品・サービスを「生きるエネルギー」と定義し、2030年に向けて当社は、「生きるエネルギー」をすべての人にお届けする企業グループになることを目指します。
〇生きるエネルギー
生きるために必要な根源的なエネルギー
おいしい食事で人を元気にするエネルギー
栄養機能で人を健康にするエネルギー
美を演出し活力を与えるエネルギー
油脂と相乗効果を発揮する素材・技術・事業から生み出されるエネルギー
また、「生きるエネルギー」をすべての人にお届けするためには、油脂を素材として提供するだけでなく、当社グループが持つ強みを活かして他の食品メーカーや素材メーカーなどと一緒に価値を共創することが非常に重要であると考えています。生活を支えるあらゆるチャネルでお客さまとの接点を持っている強みにより、社会課題解決のためのプラットフォームの役割を担うことで可能になると考えております。
<共有価値を生み出す「6つの重点領域」>共有価値を生み出す領域として、「すべての人の健康」「おいしさ、美のある豊かな生活」「地球環境」「食のバリューチェーンへの貢献」「信頼でつながるサプライチェーン」「人材マネジメント」の6つを重点領域と定め、当社グループの強みを活かし、事業活動を通じて社会課題に対するソリューションを提供してまいります。

<基本方針>「日清オイリオグループビジョン2030」の基本方針は、次のとおりです。
「これまでより『もっとお客さまの近く』でビジネスを展開する」
もっとお客さまの近くでビジネスを展開するための核となる戦略は以下の3点となります。
・マーケティング ~ 環境変化・機会を捉えるマーケティングを実践
・テクノロジー ~ マーケティング戦略を支えるためのテクノロジーを活用・追求
・グローバリゼーション ~ 事業の展開エリアを拡大するグローバリゼーション
<新たな事業戦略単位>価値創造を実現する新たな事業戦略単位を「油脂」「加工食品・素材」「ファインケミカル」に変更いたします。「油脂」事業は、油脂・油糧に加工油脂も含め、コアコンピタンスの油脂をさらに磨き、グループ全体の推進エンジンとします。また、チョコレート用油脂を中心とするスペシャリティファットにおいて世界でトップレベルの企業グループ入りを果たすことを目指します。「加工食品・素材」事業は、アプリケーション技術や食品の開発力を磨き、食品としてのおいしさや健康において共感を生む価値を創造してまいります。また、当社グループが持つチョコレート、調味料、大豆などの食品素材やMCT(中鎖脂肪酸)を中心とする機能素材を体系化し、食の潮流の変化を捉えて、市場ニーズに迅速に応えていきます。これらの取組みにより油脂の価値を高める好循環サイクルを作ってまいります。「ファインケミカル事業」は、エステル合成技術の優位性を活かし化粧品油剤のリーディングカンパニーとなり世界での存在感を強めるとともに、環境・衛生に関するビジネスにおいて、植物資源を活用した新たな価値の創出に挑戦してまいります。
3つの戦略領域で当社グループの強みにさらに磨きをかけ、食の新たな機能を生み出すプラットフォームの役割を担うことで新たな価値創造を実現してまいります。


(注)各報告セグメントの主な製品を新たな事業戦略単位は次のとおりとなります。
○2020年度までの事業区分と主要製品
事 業 区 分主 要 製 品
油脂・油糧および加工食品ホームユース(食用油、ドレッシング)、業務用食用油、加工用油脂、油粕、食品大豆、ウェルネス食品(MCT高エネルギー食品、高齢者・介護食品)、大豆たん白、豆腐類
加工油脂パーム加工品、チョコレート用油脂、マーガリン、ショートニング、チョコレート関連製品
ファインケミカル化粧品・トイレタリー原料、化学品、MCT、レシチン、
トコフェロール、洗剤、殺菌洗浄剤、界面活性剤

○2021年度からの事業区分(大分類、中分類)と主要製品
大分類中分類主 要 製 品
油脂油脂・油糧ホームユース(食用油)、業務用食用油、加工用油脂、油粕、パーム加工品、チョコレート用油脂、マーガリン、ショートニング
加工油脂
加工食品・素材チョコレートチョコレート関連製品
調味料ホームユース(ドレッシング)
機能素材・食品ウェルネス食品(MCT高エネルギー食品、高齢者・介護食品)、MCT、レシチン、トコフェロール
大豆素材・食品食品大豆、大豆たん白、豆腐類
ファインケミカルファインケミカル化粧品・トイレタリー原料、化学品
環境・衛生植物性工業油、洗剤、殺菌洗浄剤、界面活性剤


<実現するための3つの軸>「日清オイリオグループビジョン2030」を実現するための成長シナリオについては、「売上拡大」「収益性向上」「基盤強化」の3つを軸に事業を展開してまいります。そのために10年間で2,000億円の成長に向けた資金を投入します。

「売上拡大」について、B to Cにおいては油脂の価値向上の仕掛けで国内家庭用市場の拡張を、B to Bにおいてはグループ全体で国内、グローバル市場でのソリューション力を高めることを、B to B to Cにおいてはマーケットを起点に共創での新たな価値の創造をそれぞれ目指します。海外においては、東南アジア・中国、欧州、北米をターゲットに、フードサービス、チョコレート・製菓・製パン、化粧品、健康・栄養機能の各分野に注力してまいります。
「収益性向上」については、将来コスト、社会的コストも反映した販売価格形成や、製品ポートフォリオ改革、さらなるコスト構造改革、サプライチェーン効率化に徹底して取り組んでまいります。また、積極的な投資により収益力を強化する一方で資産の有効活用と圧縮、最適な資本構成の追求を通じてROEを向上したいと考えています。
「基盤強化」については、「持続性」と「競争優位」のための人材、研究開発、生産基盤、環境、デジタルにおける変革および価値創造を実現するためのガバナンス体制の構築を行ってまいります。
特に、人材戦略としては、成長に向けた積極的な人材投資により、事業の飛躍的な拡大につなげる組織能力を強化・開発してまいります。また、従業員の心身の健康、働きがい、生産性の向上を目的として、経営トップが最高責任者となり健康経営を強力に進めてまいります。
研究開発は、「技術開発」と「商品開発」を両輪に、各重点領域における商品・サービスの価値を創造してまいります。
生産構造の変革としては、例えば名古屋工場についてはICT技術を活用したスマートファクトリー、堺工場については再生可能エネルギー100%を実現するサステナビリティセンターに着手するなど、次世代型生産構造へ変革してまいります。
地球環境への取組みとして、当社グループの環境方針のもと、環境目標2030を策定いたしました。地球環境を次世代に引き継ぐために未来を見据えて挑戦します。2021年3月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同を表明しました。今後も、環境・気候変動への対応を経営の重要テーマとして、事業活動での環境負荷を最小限にする取組みと環境問題の解決に資するビジネス領域の構築を進め、TCFDの提言に基づいた情報開示を積極的に行ってまいります。
<2021年度~2024年度 中期経営計画「Value Up +」>「日清オイリオグループビジョン2030」で目指す姿に向けた最初の4年間(2021年度から2024年度まで)を対象とした中期経営計画「Value Up +」を策定しました。
「Value Up +」の基本方針を「もっとお客さまの近くで、多様な価値を創造し続ける企業グループに変革する」とします。
「Value Up +」では、2020年度までの中期経営計画「OilliO Value Up 2020」における基本方針であるマーケティング、テクノロジー、グローバリゼーションの追求に加え、CSVを成長ドライバーに据え、これまで以上に成長路線を加速してまいります。
中期経営計画「Value Up +」の位置づけ

<目標とする経営指標>「日清オイリオグループビジョン2030」では、2030年に目指す事業規模を、売上高5,000億円、営業利益300億円、ROE8%以上としています。そのうえで2021年度から2024年度までの4ヵ年の中期経営計画「Value Up +」においては、2024年度の経営目標を売上高4,000億円、営業利益170億円、ROE8%、営業キャッシュフロー700億円(4年間累計)としています。また、2021年度の経営目標を売上高3,600億円、営業利益115億円、ROE5.2%としています。

※中期経営計画「Value Up +」の経営目標は、現時点で入手可能な情報や、合理的と判断した一定の前提に基づいて策定した計画・目標であり、潜在的なリスクや不確実性などを含んでいることから、その達成や将来の業績を保証するものではありません。また実際の業績等も当中期経営計画とは大きく異なる結果となる可能性がありますので、当中期経営計画のみに依拠して投資判断を下すことはお控え下さい。
厳しい経営環境ではありますが、「日清オイリオグループビジョン2030」で目指す姿の実現に向けた取組みにより、将来にわたる持続的な成長と企業価値の向上を目指してまいります。
(3) 経営環境
2021年度から事業戦略単位を変更し、「油脂」「加工食品・素材」「ファインケミカル」の3事業で事業を推進しております。
[油脂事業]
(油脂・油糧)
国内の油脂事業においては、主要原料相場、為替相場、物流費、資材費、エネルギーコスト、将来コスト・社会的コスト等を踏まえたうえで適正な販売価格を設定し、人々の暮らしや食品産業を支えるための安定供給が求められています。ホームユースの国内市場規模は当社推計によると直近で拡大基調にあり、新型コロナウイルス感染症による内食需要増の要因もありましたが、2020年度は年間で1,668億円(前年度対比108%)と推定されます。カテゴリー別の市場規模ではキャノーラ油が438億円と最も大きく、次いで近年、市場拡大を牽引してきたオリーブオイルが431億円でほぼ肩を並べています。ごま油が368億円(前年度対比124%)と急拡大しており、伸長率ではこめ油が高い伸びを示しております。また、アマニ油の市場規模は2年連続で100億円超となっており、市場のなかでますます存在感を高めています。キャノーラ油のほか、当社は、オリーブオイル、アマニ油などの市場で高いシェアを有しており、「かけるオイル」などの油脂の新しい使い方や油脂の栄養・健康機能を積極的に提案・紹介するなどして需要を喚起し、市場の拡大を牽引しています。
業務用および加工用では、レストランなどの外食、コンビニエンスストア・量販店などの中食、製菓・製パンや加工食品業界などに向けた販売を行っております。競争の激しい市場環境ではありますが、ユーザーとのニーズ協働発掘型営業によるソリューション提案で需要を創造し、収益の獲得、拡大につなげております。
ミールについては、国内の需給などの影響もありますが、国内の販売価格が国際価格と連動する傾向にあります。
中長期的には、国内の人口減少による油脂消費量の減少が見込まれることもあり、一層の合理化、効率化が必要と考えております。また、脂質栄養の知見を活かした幅広い商品の開発や情報発信により、油脂を通じた価値創造を推進してまいります。
(加工油脂)
パーム油を活用したチョコレート用油脂を中心とするスペシャリティファットをグローバルに販売するマレーシアのIntercontinental Specialty Fats Sdn. Bhd.(以下、ISF社)と日本国内での製菓・製パン向けにショートニングやマーガリンなどを製造販売する事業から構成されます。ISF社はパーム油の分別・精製における高度な技術を有しており、欧州などの高い品質基準を要求する顧客を中心に付加価値品の拡販に努めています。2020年度はISF社における付加価値品の売上は減少しましたが、今後も、スペシャリティファット、中でもチョコレート用の油脂の需要は増加すると考えております。
[加工食品・素材事業]
チョコレート関連事業、ドレッシングなどの調味料、MCTを中心とした機能素材・食品、大豆素材・食品から構成されます。
チョコレートについては、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、厳しい販売環境にありますが、中長期的にはアジアの中間所得層の増加などにより、市場の拡大を見込んでいます。
調味料においては、おいしさの追求やアマニ油などの健康訴求油脂への関心高まりなどを背景とした、油脂の機能を活かした商品開発および販売を展開してまいります。
機能素材・食品においてはMCTの認知率が40.3%(当社調べ)まで上昇しており、脂肪燃焼やフレイル対策など、健康機能の高さを引き続き啓発し、B to B to Cマーケティングによる売上拡大を目指してまいります。
大豆素材・食品においてはプラントベースドフードの市場拡大も見据え、大豆たんぱくの供給にとどまらず、油脂の活用による食感、おいしさなどのソリューションを提供してまいります。
[ファインケミカル事業]
化粧品用の原料である油剤を主力商品としており、多くの国内化粧品メーカーや、欧米の大手化粧品メーカーと長期にわたり取引を行っております。新型コロナウイルス感染症の影響で一時的な需要減少があるものの、世界の化粧品市場は、中長期的にはアジアを中心に中間所得層の拡大が見込まれるエリアでの成長を見込み、横浜磯子事業場内に建設した新工場で増強した供給力も活用し拡販に取り組んでまいります。
環境・衛生においては食の環境を中心とする衛生管理事業や植物資源を活用して環境に好影響を与える商品・サービスの開発を進めてまいります。
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行が長期化しています。依然、収束の時期は見えず、消費動向への影響は先行きが見通しづらい状況にあります。当社グループへの影響といたしましては、外食業・観光業向けの業務用油脂、加工油脂、チョコレート製品等の販売回復には一定の時間を要するものの、ワクチン供給の拡大等にあわせて緩やかに回復してくるものと想定しております。一方で、内食需要の高まりによるホームユース製品の増加については、その伸び率が鈍化してくるものと想定しております。また、大豆、菜種、パーム油の原料相場は、中国をはじめとした旺盛な需要による需給ひっ迫やバイオ燃料需要等を背景に価格が高騰し、原料調達環境は極めて厳しい状況にあります。原料コストに見合った適正価格での販売を最優先事項として取り組んでまいります。