有価証券報告書-第97期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/26 11:16
【資料】
PDFをみる
【項目】
162項目

研究開発活動


当社グループは「『社会』、『生命』、『環境』に貢献する。」という基本理念に基づき、無機化学、有機化学の各分野における新製品の開発や生産技術の向上に取り組むとともに、世界的な関心が高まる環境、エネルギー、バイオ、IT、食料等の各領域において、無機、有機の垣根にこだわることなく、新規事業の探索にも取り組んでおります。当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、9,150百万円となりました。
セグメントごとの研究開発は、次のとおりであります。
(無機化学事業)
酸化チタン顔料については、塩素法と硫酸法の2つの製造プロセスを自社で有する特徴を活かし、塗料、インキ、プラスチックなどの各分野で市場ニーズに対応した高付加価値銘柄や顧客の厳しい要求に応えるカスタマイズ銘柄などの開発に注力して取り組んでおります。特に塗料分野においては、平滑な表面で底艶を抑制することができる新たな艶消し用酸化チタンを製品化するとともに、黒色などの濃色系でも高い艶消し効果を発揮できる透明タイプの開発も進め、建材内外装や工業分野を始めとする多方面での艶消しニーズに対応しております。
機能材料については、次世代のコア事業としての盤石な地位を確立すべく、酸化チタン応用製品の一層のスペシャリティー化と新規分野の開拓に注力して取り組んでおります。電子材料分野では、電気自動車や第5世代通信(5G)用に需要が期待される次世代積層セラミックコンデンサー(MLCC)用の高純度酸化チタンの開発を継続しており、MLCC用チタン酸バリウムの原料として、優れた分散性がユーザーから評価されております。また、環境・省エネルギー問題に対応する素材として、耐候性の優れた黒色系遮熱材料が多方面で評価され、建築用途からスポーツ分野など、黒色でかつ赤外線反射が求められる分野での需要増を見越した量産体制が整いつつあります。この他、意匠性材料、導電性材料及び光触媒材料など、独自技術によるユニークな製品開発と市場開発を推進しております。
新しい無機事業の創出を目的として有機分野と無機分野の融合を図り、新しい価値を創生した商品の研究開発にも取り組んでおります。当社有機化学部門とのコラボレーションの他、大学との共同研究や社外技術の導入などオープンイノベーションへの取り組みも積極的に進めており、あらゆる場面で成長に繋がる研究開発活動を行っております。
当事業における研究開発費は、1,468百万円となりました。
(有機化学事業)
農薬については、自社開発原体を中心に新規製剤や新規混合剤の開発の他、農薬登録国や適用作物の拡大などに向けた研究開発に注力して取り組んでおります。
近年開発した新規剤では、うどんこ病に卓効を持つ殺菌剤ピリオフェノンが各国で農薬登録を取得後、上市が進んでいる他、菌核・灰色かび病など広いスペクトラムを持つ殺菌剤イソフェタミドは、2015年のカナダ、米国での上市を皮切りに、2018年には日本、欧州でも販売を開始、さらに中南米、大洋州での商業化を進めております。また、チョウ・蛾類を初め広いスペクトラムを持つ殺虫剤シクラニリプロールは、2017年に韓国、2018年には日本、米国、カナダでも販売を開始し、現在はアジア及び中南米を中心に開発を進めております。安全性に優れるトウモロコシ用除草剤トルピラレートは、国内では2017年より、米国、アルゼンチンでは2018年から販売を開始しており、さらにカナダ、韓国、フィリピンでも販売開始に向け準備を進めております。水稲用除草剤ランコトリオンは、2019年2月に国内で登録認可され、更に混合剤の登録も順調に取得しており、2021年より本格的に販売を開始する予定であります。
さらに、国内の食の安全・安心指向の高まりや、抵抗性発達のために有効な既存化学農薬が不足しているなどの市場ニーズに対応するため、微生物殺菌剤、接触型忌避剤、及び天敵昆虫等の製品群の開発にも注力しております。特に2種の天敵昆虫類については、農家の利便性に配慮した簡易型組立資材(バンカーシート)を付帯した製品を開発、農食事業26070Cで実用化技術を確立し、2016年からバンカーシートと組み合わせた3製品をJA全農の全国組織を通じて販売しております。また、2019年より食品添加物を有効成分とするコナジラミ忌避剤ベミデタッチを販売開始しました。近未来の植物防疫の姿を見据えると、これらと安全性の高い当社の化学農薬群を組み合わせて、当社独自のIPMプログラムを確立するとともに、従来の化学農薬コンセプト・分野とは異なる場面でも、当社全製品の普及拡大を目指してまいります。
当社の農薬事業は、自社での創生・開発をベースとしておりますが、環境変化の激しい昨今、他社開発剤の導入や他社との共同開発にも積極的に取り組んでおり、2010年以降海外企業から導入した水稲除草剤を国内で開発・上市したほか、2015年には海外企業が発明した新規の非選択性除草剤を全世界で共同開発する契約を締結し、第一優先国である米国、カナダ、ブラジル、オーストラリア、アルゼンチンで登録申請を済ませており、更に東南アジア、中南米等でも開発、登録作業を開始しております。なお、審査期間の短いスリランカでは登録を取得、2019年より販売を開始しております。
農薬以外では、ライフサイエンス事業(医薬・医療機器関連)についても、特色ある商品開発を進めております。当社の有機化学コア技術に基づくCF3ピリジン化合物(医薬用中間体)を、医薬原薬「セビメリン塩酸塩」に続く製造受託事業の柱と位置づけ、新たな受託生産につなげるべく、普及活動に取り組んでおります。
バイオ研究者向けの研究用試薬「ゲノムワン」(遺伝子機能解析用HVJ-Eベクターキット並びに関連製品)については、国内外で販売を行っており、利用者の要請にも対応して、より高い機能開発に取り組んでおります。HVJ-Eについては、新規バイオ抗がん剤としての開発にも取り組んでおり、大阪大学医学部附属病院と連携して、医師主導治験により臨床開発を進めております。悪性黒色腫(メラノーマ)、悪性胸膜中皮腫(中皮腫)及び前立腺がん対象の第Ⅰ相試験においてヒトでの安全性が確認されました。2018年12月よりメラノーマ対象(免疫チェックポイント阻害剤との併用)及び中皮腫対象(標準療法;シスプラチン+アリムタとの併用)の第Ⅱ相試験が始まり、併用での安全性が確認されました。現在、有効性主体の評価を進めております。前立腺がんについても、引き続き科学技術振興機構(JST)の産学共同実用化開発事業として非臨床試験や臨床開発を推進してまいります。
また、長年にわたる農薬、医薬創製の研究・開発で培った技術とシーズ化合物を活かし、動物薬の研究開発に取り組んでおり、第一弾としてIKV-741(フザプラジブナトリウム)がイヌ膵炎急性期用抗炎症剤『ブレンダZ』として共同開発先の日本全薬工業(株)から発売されております。また、本薬剤は米国でも開発を進めており、2020年度に臨床試験実施、2021年度に商業化を目指しております。さらに、皮膚系疾患や駆虫系の薬剤において、後続するパイプラインの整備を推進中であります。
当事業における研究開発費は、7,562百万円となりました。
なお、当連結会計年度におけるセグメントに帰属しない全社共通の研究開発費の金額は119百万円となりました。