有価証券報告書-第24期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

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2021/06/25 15:15
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対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題
当社グループは、「地球環境との調和の中で、材料・物質の革新と創出を通して高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もって広く社会に貢献する」ことを企業グループ理念として掲げ、経済軸、環境軸、社会軸が結びついた社会課題解決への取り組みにより、事業活動を通じた社会貢献を目指しております。
2025年度を見据えた長期経営計画では、「環境と調和した共生社会」、「健康・安心な長寿社会」及び「地域と調和した産業基盤」の実現を当社グループが貢献すべき社会課題と捉え、「モビリティ」、「ヘルスケア」、「フード&パッケージング」、「次世代事業/新事業開発」及び「基盤素材」の5つの事業領域において、より良い未来社会の実現に向けて取り組んでまいりました。
しかしながら、昨今、当社を取り巻く社会環境も大きく変化していることから、今般、2030年を見据えて長期経営計画を見直すこととしました。
今般の長期経営計画見直しにあたっては、15〜20年先に当社が目指すべき企業グループ像を改定し、「化学の力で社会課題を解決し、多様な価値の創造を通して持続的に成長し続ける企業グループ」と定義致しました。目指すべき企業グループ像に向けた通過点となる2030年においては、大きく変容して行く社会環境や課題に正面から対峙し、当社が取り組む変革を踏まえた新成長戦略を実現する姿を描き、以下を当社グループにおける2030年のありたい姿と定義致しました。
「未来が変わる。化学が変える。Chemistry for Sustainable World
変化をリードし、サステナブルな未来に貢献する
グローバル・ソリューション・パートナー」
これに伴い、当社が追求する3軸経営、2025年長期経営計画経営目標の実現を通じて、2030年度に達成すべき長期経営計画経営目標を次のとおりとしました。今一度当社グループの存在意義である「社会課題の解決」に立ち返り、加速する環境変化の中で生まれる様々な社会課題に対し、多様な価値を創造できる「化学の力」で、その解決策を持続的に提供する企業体を目指し、全社一丸となって実現に取り組んでまいります。
2025年度長期経営目標2030年度長期経営目標
コア営業利益2,000億円2,500億円
親会社の所有者に
帰属する当期利益
1,100億円1,400億円
ROIC8.0%以上8.0%以上
Net D/E0.8以下0.8以下
ROE10%以上10%以上
Blue Value®売上比率30%以上40%以上
Rose Value®売上比率30%以上40%以上
GHG排出削減25.4%減
(05年度比30年度)
40%減
(13年度比)
積極的な
経営資源の投入
成長投資
10年間で1兆円
うち戦略投資
4,000億円
成長投資
1.8兆円
うち戦略投資
9,000億円
自力成長投資
9,000億円

(注)Blue Value®とRose Value®とは、三井化学グループが事業活動を通じて環境・社会に貢献する製品・サービスの価値を独自の指標を用いて見える化し、その価値をステークホルダーと共有できるようにしたもの。環境への貢献価値、QOL向上への貢献価値を有する場合、Blue Value®製品、Rose Value®製品として認定しています。
また、中期ベースの経営計画に関しては、毎年向こう3ヵ年の事業計画の見直しを行うというローリング方式を採用しています。社会環境の変化が急速かつ大きくなる中で、長期的な視野を持ちつつ、経営の環境適応性を高め、戦略推進を加速してまいります。
このような経営ビジョン及び経営計画のもと、2021年度において、当社は、次のように経営環境を認識し、重点課題に取り組んでまいります。
<経営環境>2021年度の世界経済は、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行の影響が続くとみられます。経済対策やワクチンの普及により景気の持ち直しの動きが継続することが期待されるものの、感染再拡大の恐れがあります。
日本経済においては、世界的な景気の持ち直しの動きにより、製造業を中心とした回復基調が継続することが期待されるものの、国内の新型コロナウイルス感染症の流行状況によっては、活動制限が実施される恐れもあります。
化学工業界においても、景気の持ち直しの動きに伴う需要拡大が見込まれるとともに、海外市況も堅調に推移することが見込まれますが、原料や化学製品の市況の変動に留意すべき状況が継続することが見込まれます。
<重点課題>(経済軸)
・安全・安定運転及び成長3領域の利益拡大に向けた案件の拡充。特に、ICT、ヘルスケア領域での積極投資の実施
・既存事業・製品の維持・強化のための研究開発の継続及び新事業育成、新製品創出への必要な資源投入の拡充
・基盤素材事業のダウンフロー強化・拡大や再構築の推進等、ボラティリティ低減に向けた変革の推進
・IoT、AI等の先進技術活用によるデジタルトランスフォーメーションの推進、事業基盤の強化
・中長期での資本効率性向上のためのROICを意識した戦略策定や事業運営の推進
(社会・環境軸)
・「安全はすべてに優先する」を形骸化させず、企業文化として定着させるための安全活動の実行
・品質リスクの特定及び深層原因に踏み込んだ対策実行
・コンプライアンスリスクの徹底的な洗い出し及び対策実行によるグループ・グローバルにおけるコンプライアンス強化
・Blue Value®/Rose Value® 製品・サービスの創出・拡大
・気候変動・プラスチック問題等、SDGs等に示されるグローバルでのESG諸課題に対する、事業機会/リスクの両面を意識した事業活動の遂行
<新型コロナウイルス感染症の影響への対応>当社は、昨年に引き続き新型コロナウイルス感染症による影響の長期化を見据えて、需要動向の見極めや、原料調達・製品出荷などのサプライチェーンの確保を行いつつ、在庫や売掛債権・買掛債務管理の徹底、不要・不急な支出の抑制、借入枠の増大や手元資金の確保など、キャッシュ・フローに注視した対応に、注力してまいります。
また、当社は、社員及び関係者の感染リスク低減のための必要な措置(テレワーク勤務や時差出勤等)を講じ、会社の機能維持及び工場の安全・安定運転の確保に努めております。
さらに、当社は、新型コロナウイルス感染症の流行による旺盛なマスク需要拡大に応えるため、子会社のサンレックス工業株式会社において、マスク用ノーズクランプ向けの形状保持プラスチック線材「テクノロート®」の生産設備増設を行いました。これにより、当社グループのマスク用ノーズクランプ生産能力はマスクに換算すると年産30億枚相当となります。今後も拡大するマスク需要に応えて、更なる生産設備の増設も検討致します。
これに先立ち当社では、医療従事者支援のため、医療用ガウンの原料である不織布について、月産1,000万枚分以上の生産体制を確立しておりますが、引き続き、事業継続及び社会貢献の両面から、新型コロナウイルス感染症への対応を継続してまいります。
このような情勢のもと、2021年度の当社グループの業績は、下表のとおりとなることを予想しております。
なお、新型コロナウイルスの流行については未だ終息の兆候が見えないものの、2021年度においては製造業を中心とした景気の持ち直しの動きに伴う需要拡大が見込まれると共に、海外市況も堅調に推移すると見込んでおります。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響を完全に見通すことは困難であるため、流行の状況によっては2021年度の業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。
2021年度連結業績予想2020年度連結業績
売上収益(億円)14,00012,117
コア営業利益(億円)1,150851
営業利益(億円)1,130781
親会社の所有者に帰属する当期利益(億円)790579

※当社は2020年度より国際財務報告基準(IFRS)を適用しております。コア営業利益は、営業利益から非経常的な要因(事業撤退や縮小から生じる損失等)により発生した損益を除いて算出しております。
足下では、新型コロナウイルス感染症による影響を受けておりますが、感染拡大防止に向けて化学産業が果たすべき貢献、そして、その役割の重要性は益々広く認識されています。
今後はポスト・コロナ社会における「新しい生活様式」の定着、需要構造、サプライチェーンの変化など、世の中のあり方が大きく変わっていくことが考えられますが、このような変化の時にこそ、化学の総合力、既成概念に捉われない前向きな思考と実行力で、当社グループの新たなステージを築き上げてまいります。
(2) 事業領域ごとの環境分析及び戦略
① モビリティ
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行拡大に伴い自動車生産台数は一時的に大きく減少しましたが、2021年度はコロナ以前の水準並に回復することが予想されております。また、世界的な環境保護意識の高まりや社会的責任への対応要請を背景に電動化を含む環境負荷低減の重要性が急激に高まっており、一層の軽量化やリサイクル材料・バイオ材料の活用などモビリティ分野の素材産業にも影響を及ぼし始めています。さらに、移動空間としてのクルマの使い方の変化なども相まって、快適性の向上や電装化といった多様化した新たなニーズも生み出されています。一方で足下では半導体の供給不足等も懸念されており、これらは期待される自動車需要・生産の回復に対する潜在的なリスクとなり得ます。当社では、自動車を中心としたあらゆる種類の人・モノの移動手段を「モビリティ」と定義しています。このモビリティ領域において世界経済の回復と変容の過程を機会として捉えながら、多様化するニーズに対応したソリューションの提供と個々の事業の競争力強化を通じて持続的な成長を実現していきます。
(主要製品)
エラストマー、機能性コンパウンド、機能性ポリマー(ICT関連用途中心)、ポリプロピレン・コンパウンド、ソリューション事業等において、モビリティにおける軽量化、燃費向上、電動化、自動化等のためのソリューションを提供しています。
自動車のバンパーに用いられるポリプロピレン・コンパウンドは、世界シェア2位、アジアシェア1位を誇っています。独自の配合レシピや原料に遡り樹脂そのものを設計する技術を強みとして保有しており、顧客の高い評価を得ています。
(強み)
・幅広い材料ラインアップ
・高い技術力と品質
・顧客基盤
・技術サービス
・バリューチェーンを通じたトータルソリューション提案力
(基本戦略)
・多様化するニーズに対応したソリューションの提供
・個々の事業環境に応じた競争力の強化
・モビリティ分野における環境負荷低減への取組みも織り込んだ事業成長の実現
②ヘルスケア
先進国の少子・高齢化や新興国の経済成長に加え、足下の新型コロナウイルス感染症拡大への対策など、「健康」への関心が増大しています。顧客価値も多様化し、個々人の志向やニーズが高まり、また、ライフスタイルに応じたケアが求められるようになってきています。当社は、生活の質(QOL)向上に資する製品・サービスをケミカルイノベーションにより創出・提供し、当社グループの新たな成長基盤を確立していきます。
(主要製品)
ビジョンケア材料、不織布、歯科材料、パーソナルケア材料を事業展開しています。
低屈折率から高屈折率まで、幅広く展開しているメガネレンズ用材料は、当社グループにて、世界シェア45%を占めています。また、当社グループの技術を駆使して開発した柔らかく伸縮性に優れた不織布は、「快適性・フィット性」といった高機能化が求められるプレミアム紙おむつのニーズを捉え高い評価を得ています。
(強み)
ビジョンケア材料
・幅広い製品ラインアップ
不織布
・原料樹脂から加工まで一貫した技術力
歯科材料
・グローバルでのブランド力
・素材から歯科材料までの研究開発力
(基本戦略)
・成長需要の着実な獲得による既存事業の拡大
・QOL向上に資する新製品・新事業の開発加速
・M&A・提携による事業基盤の拡大・強化
(個別戦略)
ビジョンケア材料
・新製品の上市・育成によるさらなる事業拡大
不織布
・顧客との戦略連携によるフル生産・フル販売
歯科材料
・デジタル化を支援・推進する製品投入による事業拡大
③フード&パッケージング
人口の増加や気候変動など地球規模の深刻な課題に対し、農産物の安定生産・収量向上やフードロス・廃棄削減が求められています。加えて、プラスチック問題など循環型社会への対応が今や喫緊の課題となっています。当社は、顧客起点型イノベーションを通じて、農業・食品・パッケージングに関わる製品とサービスを提供し、会社・組織の枠を超えた情報・技術・顧客関係の最大活用により、当社グループの持続的な成長を牽引します。
(主要製品)
農業化学品、コーティング・機能材、機能性フィルム・シートを事業展開しています。半導体製造において、シリコンウェハ研削時の表面保護テープとして用いられるイクロステープ®は、世界シェア1位です。主要競合メーカーの中で唯一の樹脂製造・加工メーカーであり、樹脂設計・製膜加工技術に強みを有しています。
(強み)
・幅広い製品ラインアップ
・独自性の高い研究開発と生産技術
・アジアを中心とする海外展開
・迅速なレスポンスを通じて培ってきた顧客基盤
(基本戦略)
・高付加価値製品へのシフトによる事業ポートフォリオ強化
・海外成長市場の取り込みによる事業拡大
・社内外との連携を通じた新製品・新事業の創出と環境ニーズへの対応
(個別戦略)
農業化学品
・アジア、南米市場の成長取り込み
・農薬周辺領域(防疫分野)の強化
コーティング・機能材
・アジア市場の成長取り込み
・環境対応製品のグローバル展開
・高機能品の実需化加速
機能性フィルム・シート
・製品ポートフォリオ転換による事業基盤強化
・ICT分野におけるシェア維持・拡大
④基盤素材
石化・基礎化学品を中心とする基盤素材事業は、自動車、住宅、家電、インフラ、食品包装をはじめ、様々な分野に素材提供を行っています。特徴のある技術と付加価値製品群の拡大、さらなるコスト競争力強化により、アジアで存在感を示し、安定した収益を確保し、当社グループの基盤事業を目指します。
事業再構築の着実な実行により、収益構造は改善しています。一方、基礎原料エチレンについては、さらなる競争力強化を図りつつ、エボリュー®に代表される高付加価値系ポリマーの拡販を通じ稼働の安定、採算性向上を進めています。事業を取り巻く環境は不透明で変化は大きいものの、徹底した合理化を推進し、差別化製品の拡充や地産地消化による高稼働率維持など、さらなる事業の深化を図り、市況・需給等の変動を受け難い、安定した収益基盤を築き上げていきます。
(主要製品)
エチレン、プロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、触媒、フェノール類、高純度テレフタル酸、ペット樹脂、ポリウレタン材料、工業薬品等において、事業展開しています。
当社のナフサクラッカーにおいて、ナフサを熱分解してエチレン、プロピレン等の基礎原料を生産し、さらに付加価値を高めた様々な製品を生産しています。海外の専門機関から、当社のナフサクラッカーは、アジアの新規大型クラッカーと比較して遜色なく、高いエネルギー効率を有しているとの評価を得ており、これが基盤素材以外の高付加価値製品群も含めた誘導品における競争力の源泉となっております。
(強み)
・世界トップクラスの競争力を有するナフサクラッカー
・メタロセンをはじめとするポリオレフィン触媒技術
・特長ある差別化製品や誘導品
・高機能ポリオールをベースとしたウレタンシステムハウス事業のグローバル展開
(基本戦略)
・当社グループの基盤となる事業の強化、収益の維持拡大
・特長ある付加価値誘導品の拡大、ニッチ製品の拡大と利益率向上
・事業再構築の完遂と更なるコスト競争力強化、ボラティリティ低減
・プラスチック循環、バイオ原料活用等の社会課題への積極的な対応
(個別戦略)
石化原料・ライセンス
・クラッカー競争力のさらなる強化と触媒・ライセンス事業拡大
・生産バランス、物流を含めたさらなる石化事業深化
基礎化学品
・徹底的な合理化・地産地消・誘導品の強化による安定収益の確保
・AI・IoT等の高度生産技術の積極的な適用
ポリオレフィン
・ポリオレフィン触媒技術を活用した付加価値分野の拡大
・国内顧客との長期的信頼関係の構築
・モビリティ事業領域との連携強化
ポリウレタン
・高機能材料を活用した高度な配合設計技術によるグローバル展開
・バイオマスウレタンなど環境対応製品の拡充