有価証券報告書-第49期(2023/04/01-2024/03/31)

【提出】
2024/06/26 14:07
【資料】
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【項目】
158項目

対処すべき課題

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)企業理念
当社は「医薬品を通して人々の健康に貢献する」を企業理念としています。
この企業理念のもと、遺伝子・タンパク・細胞を軸とした研究とモノづくりを続け、画期的な新薬と基盤技術を創出し、希少疾患の患者さんとその家族に貢献することを、重要なミッションとしております。その実践にあたっては、社員一人ひとりが患者さんとその家族のことを第一に考え、以下のコアバリュー(価値観)に則り挑戦を続けております。
コアバリュー(価値観)
信頼:私たちは、法令遵守はもとより、高い倫理観をもって行動することにより、全てのステークホルダーから信頼される会社を築きます。
自信:私たちは、世界へ通用する医薬品提供を目標に、独自の視点で研究・開発を進め、自信をもって品質の高い製品と情報を提供します。
信念:私たちは、基本理念のもと、“自ら考え、自ら行動する”を信念として、更なる企業成長を目指します。
基本経営方針
以下に提唱する経営方針は3つのコアバリューをもとに、より具体的に企業のあり方を示したものです。
1.顧客満足を念頭に置いた経営
顧客に対し、常に高品質の製品、正確な情報およびきめ細かなサービスを提供し、顧客満足を高めます。
2.法令・社内規則を遵守する社会的良識に基づいた経営
円滑に企業活動を行うために、コーポレート・ガバナンスに基づくコンプライアンスを推進し、内部統制システムの確立を図ります。その為の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(「医薬品医療機器等法」)、会社法、独占禁止法などの関係法令および、業界内の規約・ガイドライン等を遵守します。
3.世界に通用する医薬品開発を目指した経営
希少疾病分野での研究を基盤に、未来への更なる発展を目指して、世界に通用する治療薬の研究・開発に、独自の視点も盛り込みながら、積極的に取り組みます。
4.職場環境への配慮を忘れない経営
製薬企業として信頼性の高い商品提供のために、各事業所の安全かつ働きやすい環境づくりを徹底します。
5.自ら考え、自ら行動する人材を育成する経営
「自ら考え、自ら行動する」ため、部署間の連携を基盤に、明確な目的意識と責任感を持つ仕事のプロの育成を目指します。
6.経営効率を高め、JCRファーマの長所を最大限にのばせる経営
競争の激しい医薬品市場でビジネスを展開する為、市場を見極める視点を忘れずに経営の基本となる「人・物・経費」の効率化を図ります。また、社内連携をより強化することで、JCRファーマだからこそ取り組める個性ある事業を展開していきます。
(2)経営戦略等
1.ありたい姿
患者さんの数が限られている希少疾病には、未だ有効な治療薬がない疾患が多くあります。当社は創業以来培ってきた独自の「研究開発力」と「モノづくり力」を結集し、患者数が極めて少ない疾患であっても、患者さんとそのご家族のために、「JCRでなければできないこと」を追求することを掲げております。
2.成長戦略
当社は、国内製品売上、製品ポートフォリオ導出によるライセンス収入、プラットフォーム技術導出によるライセンス収入の3つの柱でグローバルに成長してまいります。独自の血液脳関門通過技術の更なる応用可能性の追求、次なる革新的なプラットフォーム技術の創出、生産技術の向上のため、得られた収益は人的資本・人的資源を含む研究開発と生産能力拡充に積極的に投資いたします。これにより、持続的な成長と「ありたい姿」の実現を目指してまいります。
3.事業活動
2023年度には、主力製品である遺伝子組換え天然型ヒト成長ホルモン製剤「グロウジェクト®」の売上が大幅に伸長し、日本国内の成長ホルモン市場においてトップシェアを実現しております。さらに2023年4月から、住友ファーマ株式会社と遺伝子組換えムコ多糖症 II 型治療剤「イズカーゴ®」における日本国内の共同プロモーションを開始し、売上が伸長いたしました。その結果、国内既存製品からの収益のみで、研究開発費と販管費を賄える安定した収益構造を実現しております。研究開発においては、最も注力しているライソゾーム病領域で、17を超える開発品の創製に取り組んでおります。2023年10月に、血液脳関門通過型ムコ多糖症IIIA型治療酵素製剤(開発番号:JR-441)のグローバル臨床第I/II相試験を開始いたしました。またグローバル臨床第III相試験が進んでいるJR-141においては、被験者数登録を加速するため、投資を拡大しております。積極的な研究開発活動の結果、研究開発費は前期比24億3千万円(27.6%)増加し112億3千万円となりました。
4.2023-27年度中期経営計画「Reach Beyond, Together」の進捗
当社は、2023年5月に、5ヵ年中期経営計画「Reach Beyond, Together」を公表しております。本計画は、過去の中期経営計画である「飛躍」と「変革」において見出した強みをさらに強化し、創業以来培ってきた独自の「研究開発力」と「モノづくり力」を結集させ、「JCRでなければできないこと」を通じた事業価値の最大化を目指すものであります。グローバル化の実現という第二の創業期に、新たなステージに移行するための5つの取り組みを設定しております。
「革新的な基盤技術の創製」
当社は、血液脳関門(Blood Brain Barrier)を通過して薬剤を脳内に届ける独自技術J-Brain Cargo®を確立し、世界で初めて血液脳関門通過を実証した遺伝子組換えムコ多糖症II型治療剤イズカーゴ®を2021年に日本で上市いたしました。J-Brain Cargo®には豊富なバリエーションがあり、脳内に届けたい薬剤の特性に合わせた最適な分子を設計することで、薬剤が脳内でより効率的に作用するバイオ医薬品を創製することができます。さらに、J-Brain Cargo®を一つの技術基盤とし、これを様々なモダリティ(タンパク質、核酸、遺伝子・細胞治療薬、抗体等)に適用する検討を進めております。J-Brain Cargo®適用のアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた遺伝子治療薬では、武田薬品工業株式会社との共同研究は2023年12月に終了したものの、病態モデルマウスにおいて良好な薬効が示されたことから、遺伝子治療領域での適用可能性を確認しております。
当社は、この独自技術でのアライアンスを積極的に進めております。2023年3月には神経変性疾患を対象として新薬候補物質のタンパク質にJ-Brain Cargo®を適用した研究開発を、同年12月には希少疾病を対象に核酸医薬品の創製を目的として、アレクシオン社とライセンス契約を締結いたしました。研究が順調に進捗し、2024年3月に神経変性疾患治療薬のファーストマイルストーンを達成しております。また、2023年5月には、てんかんを対象としてアンジェリーニファーマとライセンス契約を締結いたしました。さらに、J-Brain Cargo®の開発で培った経験・ノウハウを応用して、脳以外の臓器への輸送システムの開発にも挑戦しております。本年度においては、ムコ多糖症II型でJ-Brain Cargo®を適用した薬剤が血液網膜関門を通過し、網膜への局在と疾患原因物質が減少したことを確認し、これにより視覚障害の改善を期待しうることがモデルマウスを用いた研究により示されました。ムコ多糖症I型では、J-Brain Cargo®を適用した薬剤が、疾患特異的な骨の形態学的変化を抑制しうることを、同じくモデルマウスを用いた研究により示しております。既に確立された技術に基づく製品開発と、次世代モダリティや新規ターゲットへの輸送システムを組み合わせた革新的な基盤技術を創製し、他社とのアライアンスの実現により、これまでにない新たな新薬開発に挑戦してまいります。
「グローバル基準の生産能力発揮」
「グローバル品質保証体制の質・量的拡大」
当社が創業以来培った高品質かつ高効率なバイオ医薬品の製造能力は、研究開発と並ぶ強みであります。当社では、15年以上のシングルユース技術を用いた製造経験を有し、個々の社員が高いスキルを備え、研究段階から製品までの統合された品質管理体制を敷いております。近年ではグローバル基準を満たした治験薬を製造し、JR-141、JR-171、JR-441の海外臨床試験を実施しております。今後もグローバル試験が見込まれる製品が相次ぐため、当社の高品質・高効率生産の強みを活かし、生産能力の拡大および効率性の向上に努めてまいります。
また、当社は将来的なグローバル市場への供給能力拡大のため、自社工場新設のための設備投資、海外CMOへの投資を積極的に行った結果、現在、原薬製造では8基の2,000ℓバイオリアクターを有し、さらにMycenax社(台湾)の同様施設も活用予定であります。処方・無菌充填・包装といった製造工程については、高まる需要に対応すべく海外CMOを活用するとともに、2027年度の稼働を目指して新製剤工場の建設準備を進めております。また、グローバル流通管理のための拠点をルクセンブルク大公国に2022年に設立しております。
「希少疾病開発品目の早期上市」
当社は、ライソゾーム病をはじめとする希少疾病の領域での研究開発に長年取り組んでおり、「患者中心」の原則のもと全社一丸となって、患者さん、医師、規制当局との連携を深めてまいりました。そうした活動が実り、2021年には、J-Brain Cargo®を適用した遺伝子組換えムコ多糖症II型治療薬「イズカーゴ®」を世界に先駆けて本邦で実用化いたしました。現在、この活動を日本から世界へと広げるため、同治療薬(開発番号:JR-141)のグローバル臨床第III相試験を実施中であります。また、2020年にはムコ多糖症I型治療薬(開発番号:JR-171)のグローバル臨床第I/II相試験を、2023年にはムコ多糖症IIIA型治療薬(開発番号:JR-441)のグローバル臨床第I/II相試験を順次開始しております。ムコ多糖症IIIB型治療薬(開発番号:JR-446)についても、2024年度の臨床入りを目指し順調に準備を進めております。
2023年度から2027年度までの5年間で、合計5品目のライソゾーム病治療薬の臨床試験開始を目指しており、今後も着実に歩みを進めてまいります。
「成長を支える人材育成」
研究開発の進捗やグローバル展開、および生産能力の増強のため、社員数は増加を続け、2024年3月末時点で934名となりました(前年同期比55名の増加)。グローバル化という第二の創業期を牽引する次世代リーダーを育成するため、「人材管理」「貢献度の評価」「貢献度に応じた処遇」「人材開発」を軸とした人材戦略を構築中であります。各現場の社員を直接のメンバーとしてプロジェクトを結成し、人材戦略の基盤検討を行いました。また、外部講師だけでなく役員自らも講義を行う「JCRアカデミー」を開講しております。ここでグローバルな業務に必要なマインドやスキルを体系的に学んだ卒業生は、自部署や会社組織全体への課題の提起や海外展開の推進など、多方面で力を発揮しております。また、海外でも専門性の高い人材の採用を積極的に進めており、グローバル臨床開発を加速させるための体制をさらに強化してまいります。