有価証券報告書-第14期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

【提出】
2019/06/17 15:32
【資料】
PDFをみる
【項目】
98項目

対処すべき課題

当社グループにおける経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は次のとおりであります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結会社)が判断したものであります。
(1) 2025年ビジョン
当社グループは、「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」となることを2025年ビジョンとして掲げております。
具体的には、2025年にがん事業を中心とするスペシャルティ領域(注1)が中核事業となっており、各国市場に適合したリージョナルバリュー製品(注2)を豊富に持ち、SOC(注3)を変革する先進的な製品・パイプラインが充実し、同時に効率的な経営による高い株主価値を実現した姿を目指しております。
(注)1.スペシャルティ領域:病院・専門医で主に処方される医薬品。
2.リージョナルバリュー製品:各国・各地域の事業戦略に適合した製品。
3.SOC:スタンダードオブケアの略。現在の医学では最善とされ、広く用いられている治療法。
(2) 第4期中期経営計画
2025年ビジョンに向けた転換を図るための計画として、第4期中期経営計画を策定し、6つの戦略目標を中心に持続的成長基盤の確立に取り組んでおります。
[第4期中期経営計画の6つの戦略目標]
・エドキサバンの成長
・日本No.1カンパニーとして成長
・米国事業の拡大
・がん事業の立上げ・確立
・SOCを変革する先進的医薬品の継続的創出
・利益創出力の強化

6つの戦略目標の進捗及び課題、キャッシュの創出と成長投資等への配分、株主還元方針の詳細は次のとおりであります。
① 6つの戦略目標
(ⅰ) エドキサバンの成長
収益を支える主力品として、抗凝固剤エドキサバンの成長へ向けた取組みを進めております。優れた製品力と質の高い営業力によって日本ではNo.1製品に育成し、欧州やアジア地域においても主要国での承認・上市を完了し、市場シェアを順調に拡大させてきました。
今後は、臨床試験や使用実態下のデータを創出する活動により得られたエビデンスを情報発信することにより、有効性及び安全性の認知を図って参ります。さらに、中国での上市を成功させ、製品価値の最大化を目指します。
(ⅱ) 日本No.1カンパニーとして成長
当社グループの地域別売上収益の柱として日本は重要な市場です。イノベーティブ医薬品(注4)事業の強みを活かし、そこにワクチン事業、ジェネリック医薬品事業、OTC医薬品関連事業の3つの事業を加え、予防、セルフメディケーション、治療までの様々な社会的ニーズ、医療ニーズへ的確に対応することにより、名実ともに日本No.1カンパニーとして成長することを目指しております。
主力のイノベーティブ医薬品事業は、これまで順調に成長してきましたが、薬価制度の抜本改革により市場環境は厳しさを増してきております。
今後は、質の高い営業力を活かし、自社開発の疼痛治療剤タリージェ、高血圧症治療剤ミネブロ等の新製品を育成するとともに、積極的に導入活動を行うことにより、厳しい市場環境を乗り越えていきます。
(注)4.イノベーティブ医薬品:特許等による独占販売期間が保護されている医療用医薬品。
(ⅲ) 米国事業の拡大
グローバル企業を目指す当社グループにとって、世界最大の医薬品市場である米国は重要な市場であります。第一三共Inc.による疼痛領域での事業拡大と、アメリカン・リージェントInc.による鉄欠乏性貧血治療剤インジェクタファーとジェネリック注射剤の成長を柱とした事業の拡大を目指しておりました。
疼痛領域での事業拡大は、疼痛治療薬の開発失敗等により、当初目標の達成が困難な状態であります。一方、鉄欠乏性貧血治療剤インジェクタファー及びジェネリック注射剤は順調に成長しております。
今後は、がんの事業体制を早期に構築し、FLT3阻害剤キザルチニブ、CSF-1R/KIT/FLT3阻害剤ペキシダルチニブ等の新製品上市による事業の立上げ、拡大を目指して参ります。
(ⅳ) がん事業の立上げ・確立
後期開発品の上市によるがん事業の立上げ、初期開発品の着実な開発推進、外部資源の獲得による製品・開発品の充実を図るための様々な取り組みを進めております。
今後は、キザルチニブ、ペキシダルチニブの新製品上市に加え、DS-8201の早期上市を実現し、グローバルでの事業体制の構築を進めて参ります。また、DS-8201、U3-1402、DS-1062等、ADCフランチャイズの価値を、提携を含めたあらゆる取り組みを通じて最大化して参ります。
(ⅴ) SOCを変革する先進的新薬の継続的創出
疾患のターゲットとして、がんを重点領域と定め、それ以外の領域では、希少疾患、免疫疾患を中心として、パートナリング(注5)、オープンイノベーション(注6)、トランスレーショナルリサーチ(注7)を利用してSOCを変革する先進的新薬創出を目指しております。
これまで、がん治療ウィルス、核酸医薬、細胞治療等、新しいモダリティの医薬品の研究開発が順調に進んでおります。
今後も、2025年ビジョンの先を見据え、様々な企業やアカデミア等と提携し、自社研究所の枠を超えた創薬の可能性を探って参ります。
(注)5.パートナリング:企業、大学、研究機関等が互いの強みを活かすことで新たな価値を生み出すための連携。
6.オープンイノベーション:外部の開発力やアイデアを活用することで自社の課題を解決し、革新的で新しい価値を生み出す手法。
7.トランスレーショナルリサーチ:前臨床における基礎的な研究成果を臨床現場での検証を通じて新規の医薬品や医療技術として実用化に繋げたり、臨床現場で確認した有効性・安全性を新たな基礎研究に応用する橋渡し研究過程。
(ⅵ) 利益創出力の強化
グローバルレベルでの研究開発・生産・営業における体制の最適化及び調達機能の強化を進めております。
今後も、グループ全体にわたるコスト削減・効率化を行い、研究開発費、売上原価、販管費の見直しを進め、利益創出力のさらなる強化を図って参ります。
② キャッシュの創出と成長投資等への配分
第4期中期経営計画期間中は、成長投資を優先するとともに、株主還元も充実していく方針であります。
利益創出力の強化により研究開発費控除前のフリー・キャッシュ・フローを増加させるとともに、政策保有株式や不動産を含む資産のスリム化により、キャッシュの創出を進めて参ります。
成長投資である研究開発投資をがん領域に傾斜配分するとともに、事業開発投資についてもがん事業強化に最大限活用して参ります。
③ 株主還元方針
第4期中期経営計画期間中は、総還元性向(注8)を期間中100%以上、配当金は普通配当を年間70円以上とする方針であります。配当は安定的に行い、自己株式取得を機動的に実施して参ります。
(注)8.総還元性向:(配当金の総額+自己株式の取得総額)/親会社の所有者に帰属する当期利益
④ 計数目標の見直し
2018年10月、DS-8201をはじめとするがん領域の新製品開発が順調に進む中、がん事業の成長を加速させるため、当初の計数目標を見直しました。
がん事業に投資を増強・集中することで、当初の2025年度売上収益目標3,000億円を上回る5,000億円に育てることを目指すことといたしました。
当初の2020年度目標(売上収益1兆1,000億円、営業利益1,650億円、ROE8%以上)は2年遅れの2022年度の実現を目指すことといたしました。
株主還元については、総還元性向100%以上とする当初の方針を2022年度まで維持することといたしました。
[2022年度の計数目標]
・売上収益:1兆1,000億円
・営業利益:1,650億円
・ROE:8%以上
・後期開発パイプライン価値向上:ピーク時の期待売上収益合計 5,000億円以上
[がん事業の売上収益目標]
・2022年度:1,500億円
・2025年度:5,000億円
[株主還元方針]
・総還元性向:2016年度から2022年度まで7年間で100%以上
(注)計数目標には、アストラゼネカ社とのDS-8201に関する戦略提携の影響は含めておりません。

(3) DS-8201の戦略提携
2019年3月、当社独自のADC技術を使って創製されたDS-8201の価値最大化を図るため、がん領域のグローバル事業において豊富な経験とリソースを持つアストラゼネカ社と本剤に関するグローバルな開発及び商業化契約を締結いたしました。
本契約の下、当社は13.5億米ドルの契約一時金を受け取ります。また、すべての開発及び販売マイルストーン等が達成された場合、受領対価の総額は最大69億米ドルとなります。
日本を除く全世界における損益を両社で折半いたします。売上収益は、日米欧等においては第一三共が計上し、中国、オーストラリア、カナダ等においてはアストラゼネカ社が計上いたします。
[提携の概要]
・提携先:アストラゼネカ社(本社:英国ケンブリッジ)
・提携の内容:DS-8201に関する共同開発・販売
・開発:乳がん、胃がん、非小細胞肺がん及び大腸がんを含むHER2発現がんの単剤療法及び併用療法を共同開発し、開発費用を両社で折半
・販売:[日本を除く地域]両社が共同販促し、損益を折半
[日本] 当社が単独販売し、アストラゼネカ社にロイヤリティを支払
・地域別の売上収益計上:[当社] 日本、米国、当社が拠点を有する欧州及びその他地域の複数国
[アストラゼネカ社]中国、オーストラリア、カナダ、ロシア及びその他地域
・製造及び製品供給:当社が製品を製造、供給
・受領対価:最大で総額69億ドル
契約一時金 13.5億ドル
開発マイルストーン等 38.0億ドル(最大)
販売マイルストーン 17.5億ドル(最大)

今後は、開発及び商業化を加速することで、本剤をより早く、より多くの患者さんに届けることを目指します。具体的には、現在開発中のがん種・適応症について欧米での市場浸透の加速と日米欧以外での早期上市を実現し、今後開発を行うがん種・適応症については開発計画の前倒しに加え、がん種、適応症のさらなる追加の可能性を追求いたします。
また、同社との戦略提携を通じて、グローバル市場での自社のがん事業体制の構築を加速いたします。
さらに、DS-8201へ集中していた研究開発費と人的リソースを他のADCプロジェクトへも配分し、パイプラインの価値を向上させて参ります。