有価証券報告書-第13期(平成29年4月1日-平成30年3月31日)

【提出】
2018/06/18 14:51
【資料】
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【項目】
65項目

対処すべき課題

当社グループにおける経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は次のとおりであります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結会社)が判断したものであります。
(1) 2025年ビジョン
当社グループは、「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」となることを2025年ビジョンとして掲げております。
具体的には、2025年にがん事業を中心とするスペシャルティ領域(注1)が中核事業となっており、各国市場に適合したリージョナルバリュー製品(注2)を豊富に持ち、SOC(注3)を変革する先進的な製品・パイプラインが充実し、同時に効率的な経営による高い株主価値を実現した姿を目指しております。
(注)1.スペシャルティ領域:病院・専門医で主に処方される医薬品。
2.リージョナルバリュー製品:各国・各地域の事業戦略に適合した製品。
3.SOC:スタンダードオブケアの略。現在の医学では最善とされ、広く用いられている治療法。
(2) 第4期中期経営計画
2016年度から2020年度までの第4期中期経営計画を2025年ビジョンに向けた転換を実現するための5カ年計画と位置付け、高血圧症治療剤オルメサルタンのパテントクリフ(注4)の克服とその後の持続的成長基盤の確立という2つの経営課題に取り組んでおります。
2020年度の定量目標としては、売上収益1兆1,000億円、営業利益1,650億円、ROE 8%以上を目指しております。また、2020年度時点で、5年以内に市場投入し、かつピーク時売上収益1,000億円以上を期待できる後期開発品を3~5品目保有することを目指しております。
持続的成長基盤を確立するために掲げた6つの戦略目標と、目標達成に向けた2017年度の主な取り組み課題と実績は、次のとおりであります。
(注)4.パテントクリフ(特許の崖):特許満了による売上と利益の減少。
① 戦略目標
(ⅰ) エドキサバンの成長
グローバルな上市戦略の着実な展開、確立された製品特性の継続的訴求、製品力強化を目的とした新規エビデンスの創出を進めて参ります。日本では製品力と質の高い営業力によってNo.1製品に育成し、欧州では提携会社との協業も利用し、欧州全域で本格的に展開を図り、エドキサバンの成長を加速し、2020年度の売上収益1,200億円以上の主力品に育てて参ります。
[2017年度の主な取り組み課題と実績]
・日本で口腔内崩壊錠(製品名:リクシアナOD錠)を新発売いたしました。
・日本、ドイツ及び韓国で売上収益と市場シェアを大幅に拡大いたしました。
・欧州、アジア及び中南米で上市・承認国を拡大いたしました。
・新規の無作為化比較試験、ENVISAGE-TAVI AF試験を開始いたしました。さらに、米国血液学会でHokusai-VTE CANCER試験の結果を発表いたしました。

(ⅱ) 日本No.1カンパニーとして成長
日本No.1カンパニーとして、イノベーティブ医薬品事業の強みを活かし、そこにワクチン事業、ジェネリック医薬品事業、OTC医薬品関連事業の3つの事業を加え、予防、セルフメディケーション、治療までの様々な社会的ニーズ、医療ニーズへ的確に対応することにより、名実ともにNo.1カンパニーとして成長することを目指して参ります。
[2017年度の主な取り組み課題と実績]
・主力6製品(ネキシウム、メマリー、プラリア、ランマーク、エフィエント及びテネリア)の売上収益を拡大いたしました。
・プラリアの関節リウマチに伴う骨びらんの進行抑制の効能・効果追加の承認を取得いたしました。
・2型糖尿病治療用配合剤カナリア、高血圧症治療剤オルメサルタンOD錠を含む複数のオーソライズド・ジェネリック製品を新発売いたしました。
・高血圧症治療剤エサキセレノン及び神経障害性疼痛治療剤ミロガバリンの製造販売承認申請を実施いたしました。
・医療現場からのMR評価No.1(6年連続)を獲得いたしました。

(ⅲ) 米国事業の拡大
第一三共Inc.では、疼痛領域での事業拡大を図り、2020年度の売上収益1,000億円以上を目指して参ります。
ルイトポルド・ファーマシューティカルズInc.では、鉄注射剤のインジェクタファーとジェネリック注射剤を伸長させ、2020年度の売上収益1,500億円を目指して参ります。
[2017年度の主な取り組み課題と実績]
<第一三共Inc.>・乱用防止特性を備えたオピオイド鎮痛薬モルファボンド(モルヒネ徐放性製剤)を新発売するともに、ロキシボンド(オキシコドン速放性製剤)の商業化を決定いたしました。
・疼痛領域での事業拡大の中核品目と位置付けていた制吐剤配合麻薬性鎮痛剤CL-108の開発を中止いたしました。また、ミロガバリンの線維筋痛症患者を対象とした臨床試験において、主要評価項目が未達となったことを受け、同適応症での製造販売承認申請を断念いたしました。
<ルイトポルド・ファーマシューティカルズInc.>・インジェクタファーの売上収益と鉄注射剤市場シェアを拡大いたしました。

(ⅳ) がん事業の立上げ・確立
後期開発品の上市によってがん事業を立上げ、初期開発品の着実な開発推進、外部資源の獲得による製品・開発品の充実を図り、売上収益を2020年度400億円以上、2025年度3,000億円規模の事業に育てて参ります。
[2017年度の主な取り組み課題と実績]
・DS-8201が米国食品医薬品局(以下「FDA」という。)から再発・転移性乳がん治療を対象とした画期的治療薬(Breakthrough Therapy)の指定制度(注5)の対象品目と認定されました。また、厚生労働省から再発・進行性胃がん治療を対象とした先駆け審査指定制度(注6)の対象品目と認定されました。
・DS-8201の良好な臨床試験結果を獲得し、欧米の臨床腫瘍学会等で発表いたしました。
・抗体薬物複合体(注7)(以下「ADC」という。)フランチャイズについて複数の新規臨床試験を開始いたしました。(乳がん・胃がん・大腸がん患者を対象としたDS-8201のフェーズ2試験及び非小細胞肺がん患者を対象としたU3-1402とDS-1062のフェーズ1試験の開始)
・ADCの製造設備投資を推進し、生産体制の拡充を図りました。
・ADC及び急性骨髄性白血病(以下「AML」という。)フランチャイズの戦略的提携活動を推進いたしました。(併用療法に関する他社との研究開発提携の開始等)

(注)5.画期的治療薬の指定制度:重篤な疾患を対象に、既存の治療薬よりも高い治療効果を示す可能性のある薬剤について米国での開発と審査を促進し、患者さんにより早く新薬を届けるために定められた制度。
6.先駆け審査指定制度:世界に先駆けて日本での革新的医薬品等の早期実用化を促すため、臨床試験や承認手続を優先して受けられる制度。
7.抗体薬物複合体:抗体医薬と薬物(低分子医薬)を適切なリンカーを介して結合させた医薬群で、がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体医薬を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつ、がん細胞への攻撃力を高めた薬剤。
(ⅴ) SOCを変革する先進的新薬の継続的創出
疾患のターゲットとして、がんを重点領域と定め、疼痛、中枢神経系疾患、心不全・腎障害、希少疾患を次世代領域と位置付け、研究組織をバイオベンチャーモデル(注8)へ転換するとともに、パートナリング(注9)、オープンイノベーション(注10)、トランスレーショナルリサーチ(注11)を利用してSOCを変革する先進的新薬創出を目指して参ります。また、核酸医薬や細胞治療等先進的技術の治療応用実現を進めて参ります。
(注)8.バイオベンチャーモデル:バイオベンチャー会社のように、外部との提携を積極的に活用し、自由な発想により研究テーマを進め、自ら意思決定を行い、より効率的な投資で限られた時間内に成果を出す事業形態。
9.パートナリング:企業、大学、研究機関等が互いの強みを活かすことで新たな価値を生み出すための連携。
10.オープンイノベーション:外部の開発力やアイデアを活用することで自社の課題を解決し、革新的で新しい価値を生み出す手法。
11.トランスレーショナルリサーチ:前臨床における基礎的な研究成果を臨床現場での検証を通じて新規の医薬品や医療技術として実用化に繋げたり、臨床現場で確認した有効性・安全性を新たな基礎研究に応用する橋渡し研究過程。
[2017年度の主な取り組み課題と実績]
・心不全治療薬iPS細胞由来心筋シートの販売オプション権を取得いたしました。
・がん治療用ウイルスG47Δ(DS-1647)が厚生労働省からの希少疾病用再生医療等製品の指定を獲得いたしました。
・デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療剤DS-5141が先駆け審査指定を獲得いたしました。

(ⅵ) 利益創出力の強化
利益創出力の強化として2015年度までに実施した取り組みに加え、今回の中期経営計画期間中に、グローバルレベルでの生産体制の最適化及び調達機能の強化を進めて参ります。同時にグループ全体に亘る大幅なコスト削減・効率化を行い、売上原価、販売費及び一般管理費、研究開発費の見直しを進め、利益創出力の強化を図って参ります。
[2017年度の主な取り組み課題と実績]
・米国の営業体制再編を決定いたしました。(第一三共Inc.の人員削減の決定)
・国内の研究開発体制再編を推進いたしました。(2018年4月1日付でアスビオファーマ㈱を吸収合併)

② キャッシュの創出と成長投資等への配分
第4期中期経営計画期間中は、成長投資を優先しつつ、株主還元も充実していく方針であります。
2015年度末における手元流動性約7,000億円に、今後研究開発費控除前のフリー・キャッシュ・フローと資産スリム化によって生みだすキャッシュを加えた約2兆2,000億円が5カ年計画の原資となります。成長投資として研究開発に9,000億円、事業開発に5,000億円、残りを株主還元、設備投資、運転資金に充当する考えであります。
[2017年度の主な取り組み課題と実績]
・政策保有株式を売却し、144億円のキャッシュを創出いたしました。
・がん領域への優先的な研究開発投資を行い、がん事業の立上げ・確立の加速化を推進いたしました。

③ 株主還元方針
株主還元策としては、総還元性向(注12)を期間中100%以上、配当金は普通配当を年間70円以上とする方針であります。配当は安定的に行い、自己株式取得を機動的に実施して参ります。
(注)12.総還元性向:(配当金の総額+自己株式の取得総額)/親会社の所有者に帰属する当期利益
[2017年度の実績]
・1株当たり35円の中間配当を実施いたしました。期末配当35円と合計で1株当たり年間70円の配当といたしました。
・約1,573万株の自己株式を約500億円で取得いたしました。