訂正有価証券報告書-第15期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/26 16:06
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【項目】
97項目

対処すべき課題

当社グループにおける経営方針、経営環境及び優先的に対処すべき課題等は次のとおりであります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結会社)が判断したものであります。
(1) 2025年ビジョン
当社グループは、「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」となることを2025年ビジョンとして掲げております。
具体的には、2025年にがんを中心とするスペシャルティ領域(注1)が中核事業となっており、各国市場に適合したリージョナルバリュー製品(注2)を豊富に持ち、SOC(注3)を変革する先進的な製品・パイプラインが充実し、同時に効率的な経営による高い株主価値を実現した姿を目指しております。
(注)1.スペシャルティ領域:病院・専門医で主に処方される医薬品。
2.リージョナルバリュー製品:各国・各地域の事業戦略に適合した製品。
3.SOC:スタンダードオブケアの略。現在の医学では最善とされ、広く用いられている治療法。
(2) 第4期中期経営計画
2025年ビジョンに向けた転換を図るための計画として、第4期中期経営計画を策定し、その中で6つの戦略目標を設定して持続的成長基盤の確立に取り組んでおります。
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6つの戦略目標への取組み状況、キャッシュの創出と成長投資等への配分、株主還元方針の詳細は次のとおりであります。
① 6つの戦略目標
(ⅰ) がん事業の立上げ・確立
2019年度に新たに設定した研究開発戦略「3 and Alpha」のもと、3つのADC(DS-8201、DS-1062、U3-1402)(注4)に研究開発資源を集中投入して、各々の製品価値の最大化を目指しております。また、3つのADC以外の開発品の着実な開発推進、外部資源の獲得による製品・開発品の充実を図るための様々な取り組みも併せて進めております。
がん領域における初のグローバル製品であり、今後のがん事業の礎となるトラスツズマブ デルクステカン(DS-8201、日米製品名:エンハーツ)の市場への浸透と適応症の拡大が最重点課題であります。また、続くグローバル製品であるDS-1062及びU3-1402について、開発及び商業化戦略を具体的に策定した上で速やかに開発を進めることも重要な課題であります。
抗悪性腫瘍剤エンハーツ(DS-8201)は既に米国で販売を開始し、日本で承認を取得しております。引き続き、パートナーであるアストラゼネカ社との共同開発・共同販促活動を通じて、計画に沿った開発の推進、正しい製品情報の提供、安定的な製品の供給などによる製品価値の最大化を図ります。また、エンハーツ(DS-8201)の最大化と併せて、自社のがん事業体制構築も加速化して参ります。DS-1062及びU3-1402については、現在進行中のフェーズ1試験の結果を踏まえて、製品価値最大化のために必要な資源も見極めながら開発及び商業化戦略を具体化いたします。3つのADCの製品価値をあらゆる取り組みを通じて最大化して参ります。
(注)4.ADC(Antibody Drug Conjugateの略):抗体薬物複合体。抗体医薬と薬物(低分子医薬)を適切なリンカーを介して結合させた医薬品で、がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体医薬を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつ、がん細胞への攻撃力を高めた薬剤。
(ⅱ) 米国事業の拡大
グローバル企業を目指す当社グループにとり、世界最大の医薬品市場である米国におけるさらなる成長は極めて重要であります。
米国子会社第一三共Inc.においては、事業の中核のがん領域への転換、そして本年1月に上市した抗悪性腫瘍剤エンハーツ(DS-8201)及び2019年8月に上市した腱滑膜巨細胞腫治療剤TURALIOの市場浸透加速を通じた事業拡大が重要課題であります。
米国子会社アメリカン・リージェントInc.においては、収益の柱である鉄欠乏性貧血治療剤インジェクタファー、及び事業の中核であるジェネリック注射剤の成長を通じた事業拡大が重要課題であります。
今後はアストラゼネカ社とのエンハーツ(DS-8201)の共同販促活動の最適化による市場浸透、そして第一三共Inc.とアメリカン・リージェントInc.の共同活動の最適化によるインジェクタファーの収益拡大を図り、米国事業の成長を目指します。
(ⅲ)日本No.1カンパニーとして成長
当社グループの地域別売上収益の柱として、日本は重要な市場であります。イノベーティブ医薬品(注5)事業の強みを活かし、そこにワクチン事業、ジェネリック医薬品事業、OTC医薬品関連事業の3つの事業を加え、予防、セルフメディケーション、治療までの様々な社会的ニーズ、医療ニーズへ的確に対応することにより、名実ともに日本No.1カンパニーとして成長することを目指しております。
主力のイノベーティブ医薬品事業は、これまで順調に成長してきましたが、薬価制度の抜本改革により市場環境は厳しさを増してきております。その中でも、日本における当社の強みを活かしながら成長して、No.1カンパニーの座を維持していくことが重要な課題であります。
今後は、質の高い営業力を活かし、自社開発した疼痛治療剤タリージェ及び高血圧症治療剤ミネブロの主力品への育成を図ります。また、日本における強みの全てを活かして抗悪性腫瘍剤エンハーツ(DS-8201)の市場導入を成功させ、2019年度に上市した急性骨髄性白血病治療剤ヴァンフリタと共に、日本におけるがん事業体制の構築を図ります。同時に、積極的な導入活動を通じて外部資源も活用しながら厳しい市場環境を乗り越え、No.1カンパニーの座を維持して参ります。
(注)5.イノベーティブ医薬品:特許等による独占販売期間が保護されている医療用医薬品。
(ⅳ) エドキサバンの成長
当社グループの収益を支える主力品として、抗凝固剤エドキサバンの成長維持へ向けた様々な取組みを進めております。優れた製品力と質の高い営業力によって日本では市場シェアNo.1を維持し、欧州やアジア地域においても、発売国における市場シェアのさらなる拡大を目指しております。
日本においては、薬価引下げの影響を乗り越え、当社グループの主力品として、市場シェアをさらに拡大しながらNo.1を維持することが重要課題であります。また、当社欧州事業の中核製品として、欧州での市場シェアのさらなる拡大と、2019年8月に上市した、当社アジア事業の重点国である中国における市場浸透も重要課題であります。
今後も、臨床試験や実臨床下のデータを創出する活動により得られたエビデンスを効果的に発信し、エドキサバンによる抗凝固療法についてさらなる安心感を抱いていただけるよう努めて参ります。日本においては、特に高齢の患者さんにとって飲みやすいと高い評価を得ているOD錠(口腔内崩壊錠)を強みとしたプロモーションも展開して、成長維持を図ります。
0102010_002.png(ⅴ) SOCを変革する先進的新薬の継続的創出
研究開発においては「3 and Alpha」戦略のもと、持続的成長の実現に向けて、SOCを変革する製品群(Alpha)の創薬を目指しております。
持続的成長の実現に向けて、疾患領域にこだわらず、当社のサイエンスやテクノロジーの優位性を活かせる疾患の治療薬創製を継続することが重要な課題であります。
自社創薬研究だけではなく、パートナリングの積極的な活用や、新規モダリティ(注6)の技術研究等も実施して創薬力強化を図っていきます。併せて、これまでの低分子やDS-8201等のADCに加え、次世代ADC、核酸医薬、がん治療ウイルス、細胞治療(iPS細胞含む)、遺伝子治療、バイスペシフィック抗体(注7)などのさまざまなモダリティの研究も進めて、持続的成長に寄与する治療薬の創製を目指します。
(注)6.新規モダリティ:ADC、核酸医薬、治療用ウイルス、細胞治療等の新規治療手段
7.バイスペシフィック抗体:抗体1分子中の2つの抗原結合部位に、異なる種類の抗原が結合でき
る抗体
(ⅵ) 利益創出力の強化
グローバルレベルで生産・営業・研究開発など各機能における体制の最適化や調達機能の改善を進めて利益創出力の強化を図り、経営目標であるROE8%以上の達成を目指しております。
経費については、がん領域への戦略投資が拡大するものの、売上原価、販管費の圧縮及び研究開発費の最適化を進めて利益創出力を強化することが重要な課題であります。
今後も、当社グループ全体において徹底的なコスト効率化を図ることで、利益創出力のさらなる強化を図って参ります。
② キャッシュの創出と成長投資等への配分
第4期中期経営計画期間中は、成長投資を優先するとともに、株主還元も充実していく方針であります。
利益創出力の強化により研究開発費控除前のフリー・キャッシュ・フローを増加させるとともに、政策保有株式や不動産を含む資産のスリム化により、キャッシュの創出を進めて参ります。
成長投資である研究開発費については、DS-8201、DS-1062、U3-1402の3つのADCプロジェクトを中心に、2018年度から2022年度(5年間)の合計で1兆1,000億円規模の投資を行う計画であります。また、ADCプロジェクトの治験薬・製品の需要増に備え、2020年度から2022年度(3年間)の合計で新規に1,000億円以上の生産に係る設備投資を行う計画であります。事業開発投資についても、がん事業強化に最大限活用して参ります。
③ 株主還元方針
2016年度から2022年度(7年間)で、総還元性向(注8)を期間中100%以上、配当金は普通配当を年間70円以上とする方針であります。配当は安定的に行い、自己株式取得を機動的に実施して参ります。
2020年度は、株式分割前ベース(注9)で普通配当を年間81円、実質11円の増配といたします。今後も、株主還元の充実に努めて参ります。
(注)8.総還元性向:(配当金の総額+自己株式の取得総額)/親会社の所有者に帰属する当期利益
9.株式分割前ベース:当社は、2020年4月27日開催の取締役会において「2020年10月1日を効力発生日として、普通株式1株を3株に分割する」ことを決議しております。
0102010_003.png④ 計数目標
2022年度の計数目標として、売上収益1兆1,000億円、営業利益1,650億円、ROE8%以上を目指しております。
がん事業への投資を強化することで、2025年度のがん事業売上収益目標は5,000億円以上を目指しております。
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