有価証券報告書-第100期(2024/04/01-2025/03/31)

【提出】
2025/06/24 15:01
【資料】
PDFをみる
【項目】
143項目
(経営方針)
日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献することを企業理念に掲げて事業を行っています。
<日本製鉄グループ企業理念>基本理念
日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献します。
経営理念
1.信用・信頼を大切にするグループであり続けます。
2.社会に役立つ製品・サービスを提供し、お客様とともに発展します。
3.常に世界最高の技術とものづくりの力を追求します。
4.変化を先取りし、自らの変革に努め、さらなる進歩を目指して挑戦します。
5.人を育て活かし、活力溢れるグループを築きます。
(経営環境)
中長期的な環境変化については、次のとおり想定しています。
世界の鉄鋼需要については、インドも含めたアジア地域を中心に確実な成長が見込まれます。また、カーボンニュートラルに向けた新規ニーズを含め高級鋼の需要は拡大が見込まれます。一方で、国内の鉄鋼需要については、人口減少・高齢化や需要家の海外現地生産拡大等に伴い引き続き減少していくことが想定されます。また、製造業における地産地消・自国産化の傾向が、グローバルに繋がっていた市場の分断を進展させると考えられます。さらに、世界の鉄鋼生産量の5割強を占める中国における需要の頭打ち等により、海外市場における競争が一層激化することが想定されます。
世界的に気候変動に関する問題意識が高まるなか、カーボンニュートラルの実現は官民を挙げた総力戦となり、他国に先駆けたカーボンニュートラルスチールの製造技術の確立が、今後の鉄鋼業界における競争力、収益力、ブランド力を決める鍵となると考えています。
2025年度については、世界鉄鋼需要は、中国経済の低迷等を背景に一段と厳しさを増しており、製品・原料価格ともに大幅下落している足元の外部環境は極めて厳しい状況にあります。また、米国関税政策の動向が現時点では見通せないなか、国内外の多方面のお客様に製品・サービスを提供している当社への間接影響が甚大となる可能性があります。
(経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題)
当社グループは、製鉄事業を中核として、鉄づくりを通じて培った技術をもとに、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションの4つのセグメントで事業を推進しています。製鉄セグメントは、当社グループの連結売上収益の約9割を占めています。
当社は、2020年度に断行した抜本的コスト改善による損益分岐点の大幅な引下げに加え、紐付き価格の是正、一貫能力絞込みによる注文選択の効果、海外グループ会社の収益力の向上等により、外部環境に関わらず高水準の事業利益を確保し得る収益構造の構築に取り組んできました。2025年度については、先述した状況下でも、今後、さらなる収益改善施策の実行により利益最大化を図っていきます。
2021年3月に策定した「日本製鉄グループ中長期経営計画」の概要と進捗は次のとおりです。
<日本製鉄グループ中長期経営計画(2021年3月5日公表)の概要と進捗>当社は、「総合力世界No.1 の鉄鋼メーカー」を目指し、日本製鉄グループ中長期経営計画を定め、その4つの柱である「国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化」、「海外事業の深化・拡充に向けた、グローバル戦略の推進」、「カーボンニュートラルへの挑戦」及び「デジタルトランスフォーメーション戦略の推進」の実現に向け、諸施策に着実に取り組んでいます。
1.国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化
「戦略商品への積極投資による注文構成の高度化」、「技術力を確実に収益に結びつけるための設備新鋭化」、「商品と設備の取捨選択による生産体制のスリム化・効率化」を基本方針として、国内製鉄事業の最適生産体制を構築するとともに、競合他社を凌駕するコスト競争力の再構築と適正マージンの確保による収益基盤の強化を推進しています。
ベース操業実力の着実な向上を継続するなかで、生産設備構造対策のロードマップに沿って鹿島第3高炉を含む鉄源1系列等を休止するとともに、注文構成の高度化を推進し、生産能力と固定費規模の適正化を図っています。さらに、本体及びグループを含めた国内製鉄事業のさらなる競争力強化を目的として、当社グループの国内電縫鋼管事業再編、当社による日鉄ステンレス㈱の吸収合併、山陽特殊製鋼㈱の完全子会社化に向けた公開買付けを実施しました。原料事業においては、カーボンニュートラル鉄鋼生産プロセスに必要不可欠な製鉄用原料炭や高品位鉄鉱石の確保、及び原料権益投資を通じた外部環境に左右されにくい連結収益構造の強化を目指しています。この取組みの一環として、豪州Blackwater 炭鉱の権益の20%を取得するとともに、カナダKami 鉄鉱石鉱山の権益の30%取得、新規鉱区の開発・操業を行う合弁会社の設立について関係者と基本合意しました。商社・流通分野では、日鉄物産㈱と当社・グループ会社の連携を強化し、シナジーの追求を図っています。具体的には、カーボンニュートラル原料調達・出資、一貫サプライチェーン強化・最適化、成長分野への拡販等の取組みを推進しています。
2.海外事業の深化・拡充に向けた、グローバル戦略の推進
世界の鋼材消費は、2025年さらに2030年に向けて引き続き緩やかな成長が見込まれています。当社は、規模及び成長率が世界的に見ても大きいインド・アジアを中心に事業を展開しており、マーケットの規模や成長を当社の利益成長につなげ得るポジションにあります。
このような環境のもと、需要の伸びが確実に期待できる地域において、当社の技術力・商品力を活かせる分野で、需要地での一貫生産体制を拡大し、現地需要を確実に捕捉することで、日本製鉄グループとして、「グローバル粗鋼1億トン体制」を目指しています。
なかでも、将来的な市場の拡大及び自国産化のさらなる進展が見込まれるインド市場においては、ArcelorMittal Nippon Steel India Limitedの既存拠点であるハジラ製鉄所にて、現在、能力拡張を進めています。加えて、今後の新たな一貫製鉄所の建設等、さらなる能力拡張に向けた投資も検討しており、こうした取組みを通じて市場におけるプレゼンスの向上を図っていきます。また、最大の高級鋼需要国であり、当社が長年培ってきた技術力・商品力を活かすことができる米国市場においては、当社米国子会社とUnited States Steel Corporation(以下、USスチール)の合併(以下、本合併)に取り組んできました。2024年4月に開催されたUSスチールの臨時株主総会で承認を得て、米国以外の規制当局からの承認も取得しましたが、2025年1月にバイデン前大統領が本合併を阻止する禁止命令を下したため、当社とUS スチールは、同大統領が不適切な政治的理由によりかかる禁止命令を下したとして、当該禁止命令の無効化及びCFIUSの再審査を求めて訴訟を提起するとともに、米政権との協議を続けてきました。その後、同年6月13日に、トランプ現大統領が国家安全保障協定(以下、NSA)の締結を条件に本合併を承認する旨の大統領令を発し、同日、当社とUSスチールは米国政府とNSAを締結したことから、本合併の実行に必要なすべての規制当局からの承認取得が完了し、同年6月18日、本合併が成立しました。これにより、インドとホームマーケットであるASEANに米国を加えた3つの重要拠点を確保することになり、当社のグローバル粗鋼生産能力は8,600万トンに達する見通しです。当社は、グローバル粗鋼1億トン体制の実現を目指し、今後も主要な海外市場における一貫生産体制の拡大を通じた、収益力の向上に取り組んでいきます。
3.カーボンニュートラルへの挑戦
脱炭素社会に向けた取組みにおいて欧米・中国・韓国との開発競争に打ち勝ち、引き続き世界の鉄鋼業をリードするべく、「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を掲げ、経営の最重要課題として諸対策を検討・実行しています。
東日本製鉄所君津地区における小型試験炉でのSuper COURSE50開発試験において、世界で初めてCO2排出量43%削減を実現し、開発目標を前倒しで達成しました。また、波崎研究開発センター「Hydreams」では小型試験電炉が完成し、2024年12月より大型電炉での高級鋼製造技術開発に向けた試験を開始しました。このように、カーボンニュートラル実現に向けた「高炉水素還元」、「水素による還元鉄製造」及び「大型電炉での高級鋼製造」の3つの革新技術の開発が着実に進展しています。また、当社はカーボンニュートラルの実現を通じて、2つの価値をお客様に提供しています。1つ目は「鉄鋼製造プロセスにおけるCO2排出量を削減したと認定される鉄鋼製品~『NSCarbolex® Neutral』」、2つ目は「社会におけるCO2排出量削減に寄与する高機能製品・ソリューション技術~『NSCarbolex® Solution』」です。これらの価値の提供を通じて、お客様の脱炭素ニーズに応え、国際競争を支えていきます。これらの取組みに対し、脱炭素化における鉄鋼業の役割の重要性が再認識され、グリーンイノベーション基金の鉄鋼業への配分が大幅に拡大されたことを受け、当社としても開発・実機化を加速し、前倒しを行うこととしています。なお、当社のCO2排出量削減目標及び気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の枠組み等に基づく気候変動リスク情報については、統合報告書2024にて開示しています(https://www.nipponsteel.com/ir/library/annual_report.html)。さらに、当社のカーボンニュートラル施策の推進状況やGXスチール市場の形成についてご理解いただくこと等を目的としたGX 説明会と、実際のGX 研究開発設備をご覧いただく見学会を開催しました。説明会・見学会には、機関投資家、金融機関、アナリスト、環境保護団体及びメディアより多くの方々にご参加いただきました(https://www.nipponsteel.com/ir/library/pdf/20250313_100.pdf)。
4.デジタルトランスフォーメーション戦略の推進
デジタルトランスフォーメーション戦略に5年間で1,000億円以上を投入し、鉄鋼業におけるデジタル先進企業を目指しています。
当期の具体的な取組みの一例として、原料の海上輸送における配船管理において、リアルタイムな運行情報の取得を可能にするシステムを構築し、日々の運行情報を管理できるようになったことに加え、複雑かつ無数にある配船パターンから最適な輸送計画を策定するアルゴリズムを開発・運用し、輸送効率の大幅な向上を実現しました。さらに、東日本製鉄所君津地区で本格運用を開始した、製鋼工程における生産計画を高速立案する出鋼スケジューリングシステムについては、現在、各製鉄所へ順次導入を進め、全社での生産計画の効率化・高度化を推進しています。そのほか、現場に設置した無線IoTセンサのデータを一元管理可能な無線IoTセンサ活用プラットフォーム(NS-IoT)を全社の製銑工程に整備しました。これらのIoT及びAIを活用した操業・設備保全の遠隔管理、予兆監視、自動化並びに実績管理・一貫生産計画の一元化・迅速化等の各DX施策にも引き続き取り組んでいます。
(経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等)
「日本製鉄グループ中長期経営計画」の収益・財務体質目標等については、本報告書「第一部 企業情報 第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載しています。
(注) 上記(経営環境)と(経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題)の記載には、本有価証券報告書提出日時点の将来に関する前提・見通し・計画に基づく予測や目標が含まれている。これらはその発表又は公表の時点において当社が適切と考える情報や分析、一定の前提等に基づき策定したものであり、かかる見積りに固有の限界があることに加え、実際の業績は、今後様々な要因によって大きく異なる結果となる可能性がある。かかる要因については、後記「3 事業等のリスク」を参照されたい。