有価証券報告書-第182期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/24 15:53
【資料】
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【項目】
94項目

研究開発活動

NECグループは、ICTを活用して社会インフラを高度化する「社会ソリューション事業」に注力することにより、人が豊かに生きる安全・安心・公平・効率な社会の実現を目指しています。その実現に向けて中央研究所は、社会ソリューション事業の軸となる既存事業を発展させる技術や、社会に新たな価値を提供しうる将来事業向けの先進的な技術を創出し、かかる技術の事業化を加速することで、NECグループの持続的な発展を支えていきます。
具体的には、ビッグデータの解析により新たな価値を創造する「データサイエンス」の技術領域と、これを効率的かつセキュアに支える「ICTプラットフォーム」の技術領域を中心に研究開発を推進しています。
「データサイエンス」の技術領域では、長年にわたる技術の蓄積と事業実績、世界トップレベルの性能を持つAI(人工知能)の技術群や、IoT(Internet of Things)基盤技術を活用し、実世界の見える化をはかることで従来よりも広く深い情報の収集・分析を行い、複雑化・不確実化する社会システムの将来を予測することによって、社会システム全体のデジタルトランスフォーメーションに貢献していきます。
「ICTプラットフォーム」の技術領域では、コンピューティングやネットワーキング、セキュリティの分野において、デジタルトランスフォーメーションの深化に対応するユニークな技術を発展させることにより、即時性・遠隔性・堅牢性とダイナミズムを実現するための研究開発を進めています。
また、グローバルに研究成果を創出するため、北米、欧州、シンガポール、中国、インドにも研究開発拠点を設置し、それぞれの地の利を生かした研究開発を推進しています。また、顧客や世界最先端の技術を有する研究パートナーとのオープンイノベーションを通じて、より大きな社会価値を創出することに挑戦しています。
なお、NECグループは、「2020中期経営計画」のもと、「実行力の改革」に向けて事業開発力の強化に取り組んでおり、競争力のある技術の収益化を進めています。
NECグループの当連結会計年度における主な研究開発活動の成果は、次のとおりです。
(エンタープライズ事業)
生産状況の変動を想定し生産プロセスの最適化を支援するAI技術を実証
製造現場では、新たに生産プロセスを稼働させるにあたり、生産設備の処理速度や生産計画に変動が生じた場合における生産の停滞・遅延などの生産プロセスへの影響について事前に検証を繰り返すことで、生産プロセスの最適化をはかっています。しかし、多品種混流生産プロセスでは多数の変動要因を組み合わせたパターンがほぼ無限に存在することから、その変動パターンを探索するための時間の増加や想定すべきパターンに漏れが生じるなどの課題がありました。
当社と国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という。)は、このような課題に対応するため、シミュレータを活用することによってあらゆるパターンを想定する「希少事象発見技術」を強化し、AIが学習しながら繰り返すシミュレーションにおいて、発見したいパターンの中でも特に起こりやすいパターンを集中的に探索することで、探索時間の短縮を可能にしました。当社は㈱神戸製鋼所と共同して、同社が開発した生産シミュレータにおいて、本技術を用いた多品種混流生産プロセスの検証を行った結果、専門家でも想定しにくい変動要因の組み合わせを効率よく発見することができ、1週間程度かかる専門家の評価が1日程度まで削減できることを実証しました。
当社、産総研および㈱神戸製鋼所は、今後も共同研究を継続し、生産プロセスの専門家とともに、設備計画や生産計画の立案を支援するAIとシミュレーションの融合技術の研究開発と産業への応用に貢献していきます。
(グローバル事業)
歩きながらでも虹彩認証を可能にする技術を開発
当社の虹彩認証技術は、2018年に行われた米国国立標準技術研究所(NIST)における精度評価テストで第1位を獲得するなど、非常に高い認証精度を有しています。従来、虹彩認証においては、認識すべき虹彩が非常に小さく、個人ごとに異なる虹彩の微小な模様を捉える必要があることから、利用者がカメラの正面の決められた位置に静止し、目の位置をカメラに合わせなければなりませんでした。
当社は、通常の歩行速度で歩く人の虹彩を高精細に撮像するために目の位置を正確に推定する技術、および認証時に撮像された大量の画像から虹彩認証に適した画像のみを高速に抽出する画像解析技術を開発し、これらを組み合わせることにより、利用者が認証ゲート等で立ち止まることなく、歩行している間に、利用者の虹彩撮像から本人認証まで完了することを可能としました。これらの技術を応用することで、空港、スタジアム、コンサート会場などの大規模施設におけるセキュリティゲートや電車・バスなどの改札ゲートにおいても、利用者を静止させることなく虹彩認証による本人確認を行うことが可能となり、セキュリティ強化や利便性向上をはかることができます。
当社は、本技術を2021年度中に実用化することを目指します。
当連結会計年度におけるNECグループ全体の研究開発費は、109,787百万円であり、セグメントごとの内訳は、次のとおりです。
社会公共事業4,799百万円
社会基盤事業11,595百万円
エンタープライズ事業4,615百万円
ネットワークサービス事業20,327百万円
システムプラットフォーム事業21,141百万円
グローバル事業17,671百万円
その他29,639百万円