有価証券報告書-第126期(2024/04/01-2025/03/31)

【提出】
2025/06/23 16:13
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【項目】
195項目
b. 戦略
自然関連課題
2010年に日産は、国連大学とともに自社の活動がバリューチェーン全体の生態系に与える影響と依存を評価し、その研究成果を報告書「Ecosystem Services and the Automotive Sector」として発表した。これは2001~2005年に国連が主導した「ミレニアム生態系評価」に基づく「企業のための生態系サービス評価」の手法を用いたものである。この評価を通じて、自動車メーカーが優先的に対応すべき3つの重点領域「エネルギーの調達」「材料資源の調達」「水資源の利用」を特定した。さらに2013年には水に関するインパクト評価を実施し、資源調達段階での水資源の利用が、日産の事業活動での水使用量の20倍以上に上ることが試算された。これらの評価結果はマテリアリティの判断にも反映されており、「ニッサン・グリーンプログラム(NGP)」の方針や戦略、具体的なアクションに落とし込まれている。
また、日産はTNFD(*)の提言に賛同し、TNFDフォーラムに参画している。2024年度からは、TNFDの提言に基づいた開示の準備を進めており、TNFDに基づいた開示とその拡大計画についてグローバル環境委員会で役員の了承を得、2025年1月にはTNFDアダプターに登録を行った。そして、TNFDが推奨するLEAP(**)分析に基づき、バリューチェーンにおける包括的な自然関連課題を認識、評価するための分析を実施した。その結果、自然への依存や影響の大きい領域はNGPで重要課題として網羅していることが確認された。また、LEAPの手法に沿って直接操業の詳細な分析を行った結果、事業と関連の高いリスクや機会への対策はNGPの資源や水に関する活動や目標が網羅していることが確認された。日産は事業に関連の深い分野(気候変動、資源、大気品質と水)から気候変動や生物多様性を含む自然関連課題に取り組み、NGPの目標の達成に向け活動を推進していく。また、LEAPの詳細分析をバリューチェーンに拡大し、特にリスクが高い上流での依存や影響、リスクや機会の特定をし、具体的な対策の検討を行っていく。
* TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures
** LEAP: TNFDが推奨する自然課題へのプロセス、自然との接点、自然との依存関係、インパクト、リスク、機会など、自然関連課題の評価のための統合的なアプローチ。スコーピングを経て、Locate(発見する)、Evaluate(診断する)、Assess(評価する)、Prepare(準備する)のステップを踏む。
気候変動シナリオ分析を用いた2050年社会への戦略強化
NGPは中期目標の達成を通じて成果を収めてきたが、気候変動による異常気象の脅威は一段と高まっている。
そこで、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)の4℃と2℃シナリオ、及び気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)の1.5℃特別報告書に基づき、2050年までの気候変動がもたらすさまざまな機会とリスクを検討した。特に自動車セクターにおけるリスク要因を定義し、シナリオごとのリスク振れ幅を確認。また、世界170以上に及ぶ市場を前提とした。さらにお客さまや市場の受容性変化、自動車に関わる規制の強化、クリーンエネルギーへの移行を因子として考慮し、日産の事業活動や商品、サービスについて、気候変動がもたらす機会とリスクに対する戦略のレジリエンス性を以下の4つのステップで検討した。
検討のステップ
・過去のマテリアリティの評価や、文献調査などで気候変動によって自動車セクターに決定的な影響を与え得るリスク要因を調査し、人口・経済・地政学、気候変動政策、技術などの区分でメインドライバーを定義
・メインドライバーは物理的リスクと移行リスクに分類され、それぞれがトレードオフの関係にあることを考慮し、地球の平均気温の上昇を1.5℃、2℃、4℃と3種類のシナリオで検討し、2℃シナリオを基準とした場合のリスク振れ幅を確認
・自動車セクターへの影響度合いとその時間軸をもとに、メインドライバーから影響力の高い項目をスクリーニング
・シナリオごとの変化、状態、影響を整理し、戦略強化に必要な要素を定性評価に基づいて導出
想定した気候変動シナリオ
・1.5℃シナリオ:急激な緩和策が要求されるが、長期的には持続可能な社会に移行する。
参照:IEA NZEシナリオ(*)、IPCC 1.5℃特別報告書
・4℃シナリオ:気候変動被害が深刻かつ大規模化し、適応に追われながら緩和策が強制される。
参照:IPCC RCP 8.5(**)、IPCC SSP 3(***)
* 2050年までにネットゼロ排出を達成するための道筋を示したシナリオ (NZE: Net Zero Emissions Scenario)
** 代表的濃度経路(RCP: Representative Concentration Pathways)
*** 共通社会経済経路(SSP: Shared Socio-Economic Pathways)
想定したシナリオと関連する機会とリスク
想定シナリオ影響領域拡大する気候変動が事業活動に与える機会とリスク
1.5℃政策と法規制さらなるクルマの燃費や排出ガス規制の強化へ対応し、電動パワートレイン技術の開発や生産コストへ影響を与える可能性
炭素税の拡大によるエネルギーコストの負担増加と、対策としての省エネルギー設備への投資拡大
技術変化車載電池などのEV関連技術や、自動運転技術の拡大など次世代自動車技術の採用によるコスト影響
需要拡大により、車載電池材料である希少金属のサプライチェーン影響やその安定化のためのコスト増加
市場変化消費者の意識変化による、公共交通機関や自転車の選択や、モビリティサービスへの移行による新車販売台数減少の可能性
機会EVのエネルギー充放電力技術であるV2X(Vehicle to Everything)による電力マネジメント機会の提供拡大とEV価値の再認識(特にV2G(Vehicle to Grid)において)
4℃異常気象大雨、渇水など異常気象によるサプライチェーンへの影響と生産拠点の操業への影響と、損害保険料や空調エネルギーの費用の増加
機会防災・減災対策として、EVバッテリーを使用した緊急電源確保のニーズが増大

検証の結果、日産の電動化技術は、2℃以外のシナリオにおいてもリスクに対応可能で、さらに機会を創出するポテンシャルがあり、企業としてのレジリエンス性があると認識した。これらの技術の具現化に向けた取り組みのさらなる加速と、リスク対応のためにはサプライチェーンとの連携が重要である。とくにゼロ・エミッション車の拡大は、脱炭素社会への移行だけでなく、電力や減災・防災における社会のレジリエンス性に貢献する。電気自動車の性能向上と、環境の持続可能性を確保するにはさらなる開発を伴うが、最終的には社会価値創造とビジネスの両立を可能にすると捉えている。
しかし、社会全体の気候変動対策が遅れた場合、さまざまな移行リスク、物理的リスク及び財務インパクトが生じる可能性がある。炭素税の影響評価を試みたところ、2030年時点のGHG排出量削減により、Scope 1&2で炭素税の影響を約100億円抑えることができると試算された。
財務インパクト評価のシナリオ選定背景
二酸化炭素排出に対する価格付けが進み、炭素税を導入する国・地域が拡大している。国・地域により、課税の水準や対象となる業種も異なるが、企業に対する影響が大きいため、この分析では炭素税による財務インパクトを対象とする。
算定式と試算額の評価、前提条件
試算では、日産の炭素税予測の基礎としてIEAレポートなどを参照している。2030年時点のGHG排出量の炭素税を、次の条件で算出した。
①2018年時点の企業活動が継続された場合
②NGPによる環境課題への取り組みが促進され、単年度での炭素税の影響を抑えた場合

TCFDへの賛同
2030年度でのありたい姿を具体化し、投資家をはじめとするステークホルダーの皆さまにより分かりやすく的確に伝えることが重要だと考え、日産はTCFD(*)の提言を支持し、その推奨枠組みに沿った情報開示に努めていく。また、シナリオ分析手法の精度向上とリスク量の正確な把握についても継続して取り組む。
* TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures
中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム(NGP)」
日産は、環境理念である「人とクルマと自然の共生」を実現するため、中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム(NGP)」を2002年に発表し、環境への依存と影響を自然が吸収できる範囲に抑えるという究極のゴール達成に向けて取り組みを続けてきた。2023年度には第五世代に当たる2030年度を見据えた「NGP2030」をスタートした。将来に向けた技術の進化と社会連携の方向性を明確にし、サプライチェーン、パートナーと目標を共有し、ともに環境対応と社会的価値の創出を目指していく。
「NGP2030」の取り組むべき重要課題とチャレンジ
日産は環境マテリアリティ評価に基づき、「気候変動」「資源への依存」「大気品質と水」を重要課題に設定した。また、ステークホルダーエンゲージメントを通じてそのニーズを把握し、環境課題に関わる「事業基盤の強化」と新たな価値創出に努めている。「気候変動」の脱炭素の推進にあたっては、バリューチェーンへの影響を把握し、負の影響を極力抑えた公平な移行(just transition)を考慮した活動を意識している。
取り組みの指標や進捗は、クルマづくりに携わる開発・生産部門のほか、セールス・サービス部門を含む企業全体での、ビジネス基盤強化と社会価値の創出に取り組んだ成果としてサステナビリティデータブック等を通じて毎年開示している。また、後述の「d.指標と目標」においても主要項目について開示している。

CO2排出量の削減に向けた日産の取り組み
日産は、CO2排出量の削減や電動化技術の実用化の実績に加え、2050年までに事業活動を含むクルマのライフサイクル全体(*)におけるカーボンニュートラルを実現する新たな目標を2021年1月に発表した。企業活動では、自社及びクルマの原材料の調達、輸送に関わるサプライヤーとともに省エネ活動やクリーンなエネルギーへの転換を進め、CO2削減に取り組む。製品については、多様な顧客ニーズと各市場における電動化のスピードに対応した、バランスの取れた電動車ポートフォリオの構築を進め、電動車の拡充とイノベーションを推進する。また、ライフサイクルのあらゆる段階におけるCO2を削減するため、グリーン材やリサイクル材の採用、使用済み車両のリサイクルや再利用にも取り組む。
* クルマのライフサイクルには、原材料の採掘から、生産、クルマの使用、使用済み自動車のリサイクルや再利用までを含む
カーボンニュートラルロードマップ(生産工場での事例)
日産では生産工場においてもカーボンニュートラルを目標とした活動を推進している。
達成に向けた取り組みを着実に推進するため、2021年10月、生産工場において2050年までにカーボンニュートラルを実現するロードマップを発表した。
~2030年:まず工場のエネルギーを削減しながら革新的な生産技術導入や電化を推進し、さらに再生可能エネルギーの導入や代替エネルギーの適用拡大を進める。
2030~2050年:2050年に向けては、ガスや蒸気などさまざまな動力形態で運営されている工場設備の全面電化を実施。同時に、使用電力については、再生可能エネルギーと代替燃料を用いた燃料電池で自家発電した電力を全面適用することで、生産工場におけるカーボンニュートラルを実現していく。

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