有価証券報告書-第27期(2025/05/01-2026/04/30)
当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(1)経営方針・経営戦略等
当社は「味覚とサービスを通して都会生活に安全で楽しい食の場を提供する」という経営理念のもと、「あったら楽しい」「手の届く贅沢」を営業コンセプトとしております。「東京圏ベストロケーション」「女性ターゲット」「ライトフード・自社生産」という戦略に基づき、すべて直営店での店舗展開をしながら営業活動を行っており、また3つの生産拠点で製造するパスタソース・ドレッシング・珈琲豆・ケーキ・焼き菓子など自社製品のインターネット販売、催事販売も行っております。
(2)経営環境及び対処すべき課題等
① 食材価格の変動と原価管理体制の高度化
わが国の経済情勢は、長きにわたるデフレ均衡から「インフレ均衡」への歴史的な転換点にあります。人件費や物流費の上昇に伴うコストプッシュ型に加え、気候変動、中東情勢の緊迫化や米国の関税政策などが重なり、地政学的リスクに左右される不安定性が再び表面化しております。特に当社が主力とする珈琲豆、小麦粉、乳製品、卵といった基礎原材料は、国際市況の影響をダイレクトに受け、特定の材料で突発的なコスト上昇が発生しやすい環境が続いております。
このような原材料の不安定性に対し、当社では従来の基幹システムに登録されていた食材原価・レシピ・メニューのマスタデータがレガシー化し、現場実態との乖離が原価管理精度の低下を招いていたことを課題と認識し、2025年度に全社的な基幹システムの刷新を実施いたしました。
新システムでは、各レシピ単位での理論原価を日々の発注単価ベースでリアルタイムに更新・可視化する体制を構築し、仕入れ食材のマスタデータと売上データを紐づけることで、メニューごとの収益性分析が可能となりました。これにより、オーバーポーション、オーダーミス、在庫管理に起因する食品ロスの発見と是正を迅速に行える環境が整っております。また、気候変動や為替変動による特定の原材料価格の急騰に対し、迅速にレシピの改訂やメニューラインアップの見直しを行うことが可能となりました。特に、自社食品工場(ソース、パスタ、ドレッシング製造)においては、原材料の歩留まりや加工工程におけるエネルギーコストを精緻に算出・反映させることで、製造原価の透明性を高めております。
また、メニュー戦略においては、単純な価格転嫁に留まらず、高付加価値商品の開発に注力しております。戸塚カミサリーで製造するオリジナルソースやドレッシングを活用した季節限定メニュー、深川コンフェクショナリーで製造する高付加価値スイーツ、さらにダッキーダックグループのケーキスタジオによる季節限定スイーツは、いずれもお客様から高い評価を頂戴しており、平均客単価の前年比向上に寄与しております。今後もメニューエンジニアリングの高度化により、食材原価率と顧客満足度の両立を図り、サプライヤーとのパートナーシップ強化を通じた調達ロットの最適化、需給予測と相場分析を連動させた契約交渉・在庫戦略の精緻化を推進し、調達リスクの低減とコストの安定化に取り組んでまいります。
② 人的資本経営の推進と一都三県ドミナントを活かした労働力最適化
外食産業における人手不足は、一時的な需給のミスマッチではなく、生産年齢人口の減少に伴う構造的な課題として固定化しております。2026年現在、東京都の最低賃金は1,226円に到達し、神奈川県を含む首都圏全域で高い賃金上昇圧力が継続しております。当社は、この「労働コストの増大」を単なるコスト要因として捉えるのではなく、人的資本への投資を通じて生産性を向上させ、持続的な競争優位性を構築する好機と定義します。
この方針のもと、2025年度より着手した人事システムのリプレースを完了いたしました。新たなシステムでは、労務管理、給与計算、勤怠管理、人事考課を一元化しております。各社員の経験、スキルを可視化することで、個々の適性に合わせた最適な人員配置と、実力に応じた公正な評価・処遇を直結させ、自社研修センターが社員・アルバイトスタッフ双方のスキル評価を一元管理する体制を構築いたします。業務量・業績評価の可視化と公正な評価・処遇をリンクさせることで、離職率の低下と定着率の向上を実現してまいります。
また、当社の強みである「一都三県に絞り込んだドミナント展開」を最大限に活用し、アルバイトスタッフを含めたシフト管理システムを刷新し、支援体制の構築を継続強化します。これまでは店舗単位で完結していた人繰りを、東京圏の緊密な鉄道網を活かした「エリア横断型」へと進化させます。各店舗の繁閑差や急な欠員情報を全社共通のプラットフォームで共有し、近隣店舗間での「相互応援」をスムーズに行える体制を強化し、サービス品質を維持するとともに、会社全体としての「人時売上高」の最適化を図ります。
働き方改革への対応としては、時間外労働の削減、有給休暇取得率の向上を推進するとともに、育児・介護と仕事の両立支援制度、フォロー体制の拡充、家族手当や奨学金返済支援制度の整備など、福利厚生制度の充実を図っています。さらに、全従業員を対象とする体系的な研修制度を整備し、専任トレーナーによるオペレーションと接客技術の標準化を進めることで、スキルアップを通じたキャリアパスの明確化と「やりがい・成長実感」の醸成を図ります。年次で行う全社的なアンケート調査の分析結果をもとに、従業員エンゲージメント向上のための双方向コミュニケーションの仕組みをさらに強化し、働きがいのある職場づくりを推進してまいります。
③ 消費の二極化とブランド「体験価値」の深化
消費者マインドは「インフレに対する耐性」と「生活防衛意識」が複雑に交錯する、感度の高い状態にあります。外食全体の売上高は客単価主導で上昇しているものの、客数の伸びは鈍化しており、単純な値上げは客離れを招くリスクをはらんでおります。特に当社が運営する椿屋珈琲グループのような高価格帯喫茶店においては、消費者がその「価格に見合う、あるいはそれ以上の体験価値」を享受できているかどうかが、選別の分水嶺となります。
この課題に対し、当社では「ブランドストーリー」の再構築に取り組んでおります。味の追求に留まらず、自社ロースターによる焙煎から、サイフォニストの技術による抽出、そして深川コンフェクショナリーやケーキスタジオ、戸塚カミサリーから直送されるフレッシュな食材に至るまで、その「背景にある物語」を顧客に伝える施策を強化しております。具体的には、サイフォンコンテストで優勝した社員による、コーヒー豆の産地直接仕入れ、特製ブレンドコーヒーの開発など、フェアトレードによる「スペシャルティコーヒー」のストーリー化や、季節ごとの演出など、ブランド体験の付加価値を高めることで、客単価において前年比103.8%という成果を達成いたしました。
一方、イタリアンダイニングDONAやこてがえし・ぱすたかんといった業態においても、二極化する消費ニーズへの対応を進めております。「日常の中のちょっとした贅沢」を求める層に対し、自社工場の強みを活かした高品質なオリジナルソースやドレッシングを用いた限定メニューを投入する一方、来店頻度を維持するためのエントリー価格帯の設計にもデータに基づいた配慮を行っております。一都三県という限られたエリア内で109店舗が持つ多角的なブランドポートフォリオを活用し、取り込む客層、消費シーンの幅を広げる戦略です。
椿屋珈琲グループアプリの有効会員数は22万人を超えました。LINE等のデジタルプラットフォームも活用し、顧客嗜好に応じた訴求を強化しております。実店舗におけるホスピタリティと、デジタルによる利便性・お得感を融合させることで、ロイヤルカスタマーの囲い込みを加速させております。今後も「体験価値」の提供を通じてブランドを昇華させ、インフレ下においても選ばれ続ける「オンリーワン」の立場を盤石なものにしてまいります。
④ 直営店の生産性向上・多業態ドミナント展開における出店戦略の高度化
一都三県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に特化した109店舗を直営にて展開する当社のビジネスモデルは、高いブランドコントロールとサービス品質を確保できる利点がある一方、人件費・賃料・光熱費等の固定費比率が高く、経済環境の変動に対する柔軟性が問われる経営形態でもあります。特に、2025年以降の最低賃金の継続的な引上げ、都市部における不動産賃料の上昇傾向、さらにはエネルギーコストの高止まりにより、店舗運営の固定費負担は増加基調にあり、既存店の生産性向上は継続的かつ喫緊の課題であります。
当社では、直営店舗ごとのP/L管理に加え、業態別・エリア別の生産性指標(人時売上高、FL比率、坪効率等)を可視化・分析する体制を強化しております。高収益店の運営モデルを横展開する「ベストプラクティス手法」を導入し、現場のノウハウを全社で共有するとともに、低収益店に対しては業態転換や営業時間の見直しなど改善策を講じております。
セントラルキッチンの活用による店舗調理工数の削減も、生産性向上の重要な柱であります。当社では、メニューで使用する食材の約半分をセントラルキッチン(戸塚カミサリー・深川コンフェクショナリー・珈琲ロースター)で集中的に加工製造し、店舗の調理負担を軽減しております。特にイタリアンダイニングDONAにおいては、完成度の高いソースやドレッシング・半焼性ピッツァ・グラタンの集中・加工製造により、店内作業の大幅な削減とスタッフ一人あたりの生産性向上を実現しました。戸塚カミサリーにおいては急速冷凍設備の導入等により製造過程の滞留コストを圧縮し、物流コストの抑制を達成しております。
出店戦略における「東京圏への集中」は、ブランド認知の浸透、物流コストの極小化、そして人的資源の機動的な配置において、優位性を生み出しております。一方、店舗の8割が出店する商業施設における定期借家契約の満了や賃料上昇、さらには人流の変容といったリスクも常態化しております。当社では、更新のない定期借家契約の期限を「業態ブラッシュアップ」のチャンスととらえ、デベロッパーへの大規模改装や新業態の提案による長期契約の獲得に努めてまいります。加えて、普通借家契約を条件とした路面ビルへの出店も強化し、多角的なブランドの中から、その立地に最適な業態への転換を判断する機動性を確保します。一都三県内での支配力をさらに高めつつ、経済変動に強い「強靭な店舗ポートフォリオ」への刷新を加速させてまいります。
⑤ DX推進によるデータドリブン経営の確立
当社では、前述の基幹システム刷新(原価管理)および人事システムのリプレース(労務・給与・勤怠・考課)に加え、シフト管理システムの全社統合を推進してまいりました。これらの取り組みは個別のオペレーション改善にとどまらず、経営情報基盤の再構築として全社的なDX推進の中核をなすものであります。
原価・売上・人件費・勤怠といった経営上の重要データが統合的に収集・分析可能な環境が整いつつあり、データに基づく意思決定を全社的に実践する「データドリブン経営」の形成が着実に進展しております。
店舗オペレーションの領域では、全店に自動釣銭機、EPARK等の予約管理システム、QRコードによるモバイルオーダーシステム(インバウンド対応を含む)、インカム、キッチンディスプレイ等を配備し、オーダー処理の効率化と顧客体験の向上を並行して推進しております。さらに当期は、店舗スタッフの業務プロセスの標準化と事務作業の低減を課題に掲げ、シフト作成等の管理業務負担の軽減に取り組んでおります。
当社は「生産性向上パッケージ」を策定し、業態や店舗の運営状況に応じた省人力設備の導入を随時実施する方針としております。外食産業全体においてDXの推進は人手不足対応と収益改善の両面から不可避の潮流となっており、配膳ロボット、セルフレジ、AIを活用した需要予測や自動発注システム等、テクノロジーを活用した省力化投資は今後さらに加速するものと見込まれます。当社といたしましても、現場での実効性を検証しながら段階的に導入を進め、QSC(クオリティ・サービス・クリンリネス)の維持・向上と省力化の両立を図ってまいります。
データドリブン経営の確立を通じて、店舗別・業態別・エリア別の経営指標をリアルタイムに把握できる体制を目指しており、日次・週次のデータ分析に基づく迅速なメニュー改廃、価格改定、人員配置の最適化を可能とすることで、変化の激しい経営環境への即応力を高めてまいります。これらDX投資は短期的にはコスト負担を伴いますが、中長期的には全社の生産性を向上させ、持続的な企業価値の増大に資するものと確信しております。
⑥ ESG経営の実践と持続可能な循環型社会への貢献による企業価値の向上
外食企業が社会から求められる役割は、食事の提供という機能を超え、環境負荷の低減や社会課題の解決への主体的な寄与へと拡大しております。当社は、一都三県という人口密集地に根ざした企業として、その社会的責任を果たすことが、中長期的な企業価値、ひいては株主利益の最大化に直結すると確信しております。
環境面(Environment)においては、自社工場および全店舗を対象とした「食品ロス削減」を最重要課題に掲げております。自社食品工場での製造工程において、仕入れ先でのカット野菜活用や野菜端材の堆肥・飼料化を進める一方、製造過程で排出される廃油(1.8トン)を航空機用再生燃料(SAF)としてリサイクルする取り組みを定着させております。また、店舗段階では、刷新された基幹システムによる需給予測精度の向上により、廃棄ロスを抜本的に削減しております。
社会面(Social)においては、人的資本経営と軌を一にし、多様な人材がその能力を最大限に発揮できる環境整備を推進しております。育児・介護と仕事の両立支援制度の拡充や、有給休暇取得率60%の達成、さらには従業員とその家族に対する家族手当や教育支援制度の強化を実施いたしました。また地域社会との協働を通じた「店舗のコミュニティ価値」の向上に努めております。
ガバナンス面(Governance)においては、全店直営モデルの透明性を活かし、コンプライアンス意識の醸成とリスク管理体制の強化を図っております。刷新されたデータ基盤を活用し、適正な労務管理や取引の透明性を常時モニタリングする体制を構築しております。
今後も持続可能な成長と社会的責任を両立させる「サステナビリティ経営」を深化させ、すべてのステークホルダーの皆様から信頼される企業グループを目指してまいります。
(1)経営方針・経営戦略等
当社は「味覚とサービスを通して都会生活に安全で楽しい食の場を提供する」という経営理念のもと、「あったら楽しい」「手の届く贅沢」を営業コンセプトとしております。「東京圏ベストロケーション」「女性ターゲット」「ライトフード・自社生産」という戦略に基づき、すべて直営店での店舗展開をしながら営業活動を行っており、また3つの生産拠点で製造するパスタソース・ドレッシング・珈琲豆・ケーキ・焼き菓子など自社製品のインターネット販売、催事販売も行っております。
(2)経営環境及び対処すべき課題等
① 食材価格の変動と原価管理体制の高度化
わが国の経済情勢は、長きにわたるデフレ均衡から「インフレ均衡」への歴史的な転換点にあります。人件費や物流費の上昇に伴うコストプッシュ型に加え、気候変動、中東情勢の緊迫化や米国の関税政策などが重なり、地政学的リスクに左右される不安定性が再び表面化しております。特に当社が主力とする珈琲豆、小麦粉、乳製品、卵といった基礎原材料は、国際市況の影響をダイレクトに受け、特定の材料で突発的なコスト上昇が発生しやすい環境が続いております。
このような原材料の不安定性に対し、当社では従来の基幹システムに登録されていた食材原価・レシピ・メニューのマスタデータがレガシー化し、現場実態との乖離が原価管理精度の低下を招いていたことを課題と認識し、2025年度に全社的な基幹システムの刷新を実施いたしました。
新システムでは、各レシピ単位での理論原価を日々の発注単価ベースでリアルタイムに更新・可視化する体制を構築し、仕入れ食材のマスタデータと売上データを紐づけることで、メニューごとの収益性分析が可能となりました。これにより、オーバーポーション、オーダーミス、在庫管理に起因する食品ロスの発見と是正を迅速に行える環境が整っております。また、気候変動や為替変動による特定の原材料価格の急騰に対し、迅速にレシピの改訂やメニューラインアップの見直しを行うことが可能となりました。特に、自社食品工場(ソース、パスタ、ドレッシング製造)においては、原材料の歩留まりや加工工程におけるエネルギーコストを精緻に算出・反映させることで、製造原価の透明性を高めております。
また、メニュー戦略においては、単純な価格転嫁に留まらず、高付加価値商品の開発に注力しております。戸塚カミサリーで製造するオリジナルソースやドレッシングを活用した季節限定メニュー、深川コンフェクショナリーで製造する高付加価値スイーツ、さらにダッキーダックグループのケーキスタジオによる季節限定スイーツは、いずれもお客様から高い評価を頂戴しており、平均客単価の前年比向上に寄与しております。今後もメニューエンジニアリングの高度化により、食材原価率と顧客満足度の両立を図り、サプライヤーとのパートナーシップ強化を通じた調達ロットの最適化、需給予測と相場分析を連動させた契約交渉・在庫戦略の精緻化を推進し、調達リスクの低減とコストの安定化に取り組んでまいります。
| 項目 | 課題 | 目標 | 経営上のインパクト |
| 原価データ | 月次・手動 (タイムラグ大) | 日次・自動 (リアルタイム) | 変動への即時対応力向上 |
| 理論原価精度 | 現場の実態と乖離 (±3.0%) | 誤差±0.5%以内へ収束 | 粗利額の確実な確保 |
| メニュー改定 | 年1回の大規模改定に限定 | 月次の機動的な調整 | 収益機会の最大化 |
| 在庫ロスの把握 | 月末棚卸まで不明 | リアルタイムの ロス可視化 | 食品廃棄の抑制 |
② 人的資本経営の推進と一都三県ドミナントを活かした労働力最適化
外食産業における人手不足は、一時的な需給のミスマッチではなく、生産年齢人口の減少に伴う構造的な課題として固定化しております。2026年現在、東京都の最低賃金は1,226円に到達し、神奈川県を含む首都圏全域で高い賃金上昇圧力が継続しております。当社は、この「労働コストの増大」を単なるコスト要因として捉えるのではなく、人的資本への投資を通じて生産性を向上させ、持続的な競争優位性を構築する好機と定義します。
この方針のもと、2025年度より着手した人事システムのリプレースを完了いたしました。新たなシステムでは、労務管理、給与計算、勤怠管理、人事考課を一元化しております。各社員の経験、スキルを可視化することで、個々の適性に合わせた最適な人員配置と、実力に応じた公正な評価・処遇を直結させ、自社研修センターが社員・アルバイトスタッフ双方のスキル評価を一元管理する体制を構築いたします。業務量・業績評価の可視化と公正な評価・処遇をリンクさせることで、離職率の低下と定着率の向上を実現してまいります。
また、当社の強みである「一都三県に絞り込んだドミナント展開」を最大限に活用し、アルバイトスタッフを含めたシフト管理システムを刷新し、支援体制の構築を継続強化します。これまでは店舗単位で完結していた人繰りを、東京圏の緊密な鉄道網を活かした「エリア横断型」へと進化させます。各店舗の繁閑差や急な欠員情報を全社共通のプラットフォームで共有し、近隣店舗間での「相互応援」をスムーズに行える体制を強化し、サービス品質を維持するとともに、会社全体としての「人時売上高」の最適化を図ります。
働き方改革への対応としては、時間外労働の削減、有給休暇取得率の向上を推進するとともに、育児・介護と仕事の両立支援制度、フォロー体制の拡充、家族手当や奨学金返済支援制度の整備など、福利厚生制度の充実を図っています。さらに、全従業員を対象とする体系的な研修制度を整備し、専任トレーナーによるオペレーションと接客技術の標準化を進めることで、スキルアップを通じたキャリアパスの明確化と「やりがい・成長実感」の醸成を図ります。年次で行う全社的なアンケート調査の分析結果をもとに、従業員エンゲージメント向上のための双方向コミュニケーションの仕組みをさらに強化し、働きがいのある職場づくりを推進してまいります。
| 労働力確保 | 実績 | 目標・予測 | 施策のポイント |
| 東京都最低賃金 | 1,226円 | 1,300円超 | 高付加価値メニューによる価格転嫁 |
| 正社員離職率 | 21.0% | 15.0%以下 | タレントマネジメントによる適正配置 |
| エリア内相互応援比率 | 2.1% | 15.0%以上 | 刷新したシフト管理システムの活用 |
| 年間取得休日数(平均) | 119日 | 123日 | 生産性向上による休日確保 |
③ 消費の二極化とブランド「体験価値」の深化
消費者マインドは「インフレに対する耐性」と「生活防衛意識」が複雑に交錯する、感度の高い状態にあります。外食全体の売上高は客単価主導で上昇しているものの、客数の伸びは鈍化しており、単純な値上げは客離れを招くリスクをはらんでおります。特に当社が運営する椿屋珈琲グループのような高価格帯喫茶店においては、消費者がその「価格に見合う、あるいはそれ以上の体験価値」を享受できているかどうかが、選別の分水嶺となります。
この課題に対し、当社では「ブランドストーリー」の再構築に取り組んでおります。味の追求に留まらず、自社ロースターによる焙煎から、サイフォニストの技術による抽出、そして深川コンフェクショナリーやケーキスタジオ、戸塚カミサリーから直送されるフレッシュな食材に至るまで、その「背景にある物語」を顧客に伝える施策を強化しております。具体的には、サイフォンコンテストで優勝した社員による、コーヒー豆の産地直接仕入れ、特製ブレンドコーヒーの開発など、フェアトレードによる「スペシャルティコーヒー」のストーリー化や、季節ごとの演出など、ブランド体験の付加価値を高めることで、客単価において前年比103.8%という成果を達成いたしました。
一方、イタリアンダイニングDONAやこてがえし・ぱすたかんといった業態においても、二極化する消費ニーズへの対応を進めております。「日常の中のちょっとした贅沢」を求める層に対し、自社工場の強みを活かした高品質なオリジナルソースやドレッシングを用いた限定メニューを投入する一方、来店頻度を維持するためのエントリー価格帯の設計にもデータに基づいた配慮を行っております。一都三県という限られたエリア内で109店舗が持つ多角的なブランドポートフォリオを活用し、取り込む客層、消費シーンの幅を広げる戦略です。
椿屋珈琲グループアプリの有効会員数は22万人を超えました。LINE等のデジタルプラットフォームも活用し、顧客嗜好に応じた訴求を強化しております。実店舗におけるホスピタリティと、デジタルによる利便性・お得感を融合させることで、ロイヤルカスタマーの囲い込みを加速させております。今後も「体験価値」の提供を通じてブランドを昇華させ、インフレ下においても選ばれ続ける「オンリーワン」の立場を盤石なものにしてまいります。
| ブランド戦略 | 施策 | 効果 | 状況 |
| 商品のストーリー化 | 生産地・製造背景の 開示 | 納得感のある高単価設定 | 平均客単価103.8%達成 |
| 空間価値の更新 | 定期的な改装と演出 | 満足度と再来店率の向上 | 顧客満足度スコアの改善 |
| デジタル連携 | ポイントアプリの活用 | 顧客価値の増大 | 会員数22万人突破 |
| サービスレベル | 研修プログラムの刷新 | 高度なブランド体験 | 接客、サイフォン大会に おける好成績 |
④ 直営店の生産性向上・多業態ドミナント展開における出店戦略の高度化
一都三県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に特化した109店舗を直営にて展開する当社のビジネスモデルは、高いブランドコントロールとサービス品質を確保できる利点がある一方、人件費・賃料・光熱費等の固定費比率が高く、経済環境の変動に対する柔軟性が問われる経営形態でもあります。特に、2025年以降の最低賃金の継続的な引上げ、都市部における不動産賃料の上昇傾向、さらにはエネルギーコストの高止まりにより、店舗運営の固定費負担は増加基調にあり、既存店の生産性向上は継続的かつ喫緊の課題であります。
当社では、直営店舗ごとのP/L管理に加え、業態別・エリア別の生産性指標(人時売上高、FL比率、坪効率等)を可視化・分析する体制を強化しております。高収益店の運営モデルを横展開する「ベストプラクティス手法」を導入し、現場のノウハウを全社で共有するとともに、低収益店に対しては業態転換や営業時間の見直しなど改善策を講じております。
セントラルキッチンの活用による店舗調理工数の削減も、生産性向上の重要な柱であります。当社では、メニューで使用する食材の約半分をセントラルキッチン(戸塚カミサリー・深川コンフェクショナリー・珈琲ロースター)で集中的に加工製造し、店舗の調理負担を軽減しております。特にイタリアンダイニングDONAにおいては、完成度の高いソースやドレッシング・半焼性ピッツァ・グラタンの集中・加工製造により、店内作業の大幅な削減とスタッフ一人あたりの生産性向上を実現しました。戸塚カミサリーにおいては急速冷凍設備の導入等により製造過程の滞留コストを圧縮し、物流コストの抑制を達成しております。
出店戦略における「東京圏への集中」は、ブランド認知の浸透、物流コストの極小化、そして人的資源の機動的な配置において、優位性を生み出しております。一方、店舗の8割が出店する商業施設における定期借家契約の満了や賃料上昇、さらには人流の変容といったリスクも常態化しております。当社では、更新のない定期借家契約の期限を「業態ブラッシュアップ」のチャンスととらえ、デベロッパーへの大規模改装や新業態の提案による長期契約の獲得に努めてまいります。加えて、普通借家契約を条件とした路面ビルへの出店も強化し、多角的なブランドの中から、その立地に最適な業態への転換を判断する機動性を確保します。一都三県内での支配力をさらに高めつつ、経済変動に強い「強靭な店舗ポートフォリオ」への刷新を加速させてまいります。
| 出店戦略 | 従来の考え方 | 新指針 | 期待される成果 |
| 立地戦略 | 商業施設主導 | 路面・ビルインを含む 多角的立地 | 退店リスクの分散と安定収益 |
| 契約形態 | 定期借家中心 | 普通借家比率の向上 | 長期的なブランド拠点確保 |
| 物流との連動 | 店舗単体での判断 | セントラルキッチンからの 配送ルート最適化 | 物流コストの相対的削減 |
| 業態転換 | 現状維持を優先 | データに基づく迅速な再定義 | エリア内収益の最大化 |
⑤ DX推進によるデータドリブン経営の確立
当社では、前述の基幹システム刷新(原価管理)および人事システムのリプレース(労務・給与・勤怠・考課)に加え、シフト管理システムの全社統合を推進してまいりました。これらの取り組みは個別のオペレーション改善にとどまらず、経営情報基盤の再構築として全社的なDX推進の中核をなすものであります。
原価・売上・人件費・勤怠といった経営上の重要データが統合的に収集・分析可能な環境が整いつつあり、データに基づく意思決定を全社的に実践する「データドリブン経営」の形成が着実に進展しております。
店舗オペレーションの領域では、全店に自動釣銭機、EPARK等の予約管理システム、QRコードによるモバイルオーダーシステム(インバウンド対応を含む)、インカム、キッチンディスプレイ等を配備し、オーダー処理の効率化と顧客体験の向上を並行して推進しております。さらに当期は、店舗スタッフの業務プロセスの標準化と事務作業の低減を課題に掲げ、シフト作成等の管理業務負担の軽減に取り組んでおります。
当社は「生産性向上パッケージ」を策定し、業態や店舗の運営状況に応じた省人力設備の導入を随時実施する方針としております。外食産業全体においてDXの推進は人手不足対応と収益改善の両面から不可避の潮流となっており、配膳ロボット、セルフレジ、AIを活用した需要予測や自動発注システム等、テクノロジーを活用した省力化投資は今後さらに加速するものと見込まれます。当社といたしましても、現場での実効性を検証しながら段階的に導入を進め、QSC(クオリティ・サービス・クリンリネス)の維持・向上と省力化の両立を図ってまいります。
データドリブン経営の確立を通じて、店舗別・業態別・エリア別の経営指標をリアルタイムに把握できる体制を目指しており、日次・週次のデータ分析に基づく迅速なメニュー改廃、価格改定、人員配置の最適化を可能とすることで、変化の激しい経営環境への即応力を高めてまいります。これらDX投資は短期的にはコスト負担を伴いますが、中長期的には全社の生産性を向上させ、持続的な企業価値の増大に資するものと確信しております。
| DX施策 | 内容・取り組み事例 | 削減・向上目標 | 成果 |
| 工場加工の集中化 | ソース・パスタ・ケーキ製造 | 店内作業30%削減 | 実績として20〜30%削減 |
| テーブルオーダー | インバウンド・多言語 対応 | オーダーミスのゼロ化 | 単価向上に寄与 調理ミス・廃棄の低減 |
| 基幹システム刷新 | 理論原価と実費の同期 | 原価率の2%抑制 | 経営データ基盤の確立 |
| 例:急速冷凍設備 | 戸塚カミサリーへの導入 | 在庫滞留コストの圧縮 | 製造リードタイムの短縮 |
⑥ ESG経営の実践と持続可能な循環型社会への貢献による企業価値の向上
外食企業が社会から求められる役割は、食事の提供という機能を超え、環境負荷の低減や社会課題の解決への主体的な寄与へと拡大しております。当社は、一都三県という人口密集地に根ざした企業として、その社会的責任を果たすことが、中長期的な企業価値、ひいては株主利益の最大化に直結すると確信しております。
環境面(Environment)においては、自社工場および全店舗を対象とした「食品ロス削減」を最重要課題に掲げております。自社食品工場での製造工程において、仕入れ先でのカット野菜活用や野菜端材の堆肥・飼料化を進める一方、製造過程で排出される廃油(1.8トン)を航空機用再生燃料(SAF)としてリサイクルする取り組みを定着させております。また、店舗段階では、刷新された基幹システムによる需給予測精度の向上により、廃棄ロスを抜本的に削減しております。
社会面(Social)においては、人的資本経営と軌を一にし、多様な人材がその能力を最大限に発揮できる環境整備を推進しております。育児・介護と仕事の両立支援制度の拡充や、有給休暇取得率60%の達成、さらには従業員とその家族に対する家族手当や教育支援制度の強化を実施いたしました。また地域社会との協働を通じた「店舗のコミュニティ価値」の向上に努めております。
ガバナンス面(Governance)においては、全店直営モデルの透明性を活かし、コンプライアンス意識の醸成とリスク管理体制の強化を図っております。刷新されたデータ基盤を活用し、適正な労務管理や取引の透明性を常時モニタリングする体制を構築しております。
今後も持続可能な成長と社会的責任を両立させる「サステナビリティ経営」を深化させ、すべてのステークホルダーの皆様から信頼される企業グループを目指してまいります。
| ESGカテゴリー | 具体的な取り組み | 目標値 |
| 環境 (E) | 廃食用油のSAFリサイクル | 年間1トン以上の供給 |
| 環境 (E) | 食品ロス | ロス率1%以下の維持 |
| 社会 (S) | 有給休暇取得率 | 70%以上の定着 |
| 社会 (S) | 従業員エンゲージメント(eNPS) | スコアの前年比10%向上 |
| 統治 (G) | 内部統制とデータモニタリング | 重大な違反ゼロの継続 |