有価証券報告書-第63期(令和3年4月1日-令和4年3月31日)

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2022/06/24 15:16
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138項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものである。
(1) 経営の基本方針
当社グループは、経営理念である「広く未来をみつめ 人と自然を大切にし 良質なサービスを通じて 豊かな社会づくりに貢献します」のもと、高度化・多様化・広範化しているグローバルサプライチェーンにおいて、お客様・株主・従業員などあらゆるステークホルダーから、最も選ばれるソリューションプロバイダとなることを経営ビジョンとして掲げ、さまざまな『協創』を通じた課題の解決と『価値』の創出に取り組み、持続的な成長を実現していく。なお、経営理念、経営ビジョンの具現化に向け、当社グループのあり方と進むべき道を「HB Way」として体系化している。
HB Way日立物流グループのあり方と進むべき道を示したものであり、「経営理念」、「経営ビジョン」、「行動指針」、「成功要件」から構成される。
経営理念「日立物流グループは 広く未来をみつめ 人と自然を大切にし 良質なサービスを通じて 豊かな社会づくりに貢献します」
経営ビジョン
(長期的にめざす姿)
「グローバルサプライチェーンにおいて最も選ばれるソリューションプロバイダ」
行動指針経営理念、経営ビジョンを具現化するために、日立物流グループで働く一人ひとりがとるべき行動の指針を定めたもの。
・コンプライアンス:基本と正道を大切にしよう
・カスタマーフォーカス:お客様に価値を届けよう
・イノベーション&エクセレンス:革新と卓越性を協創しよう
・ダイバーシティ&インクルージョン:多様性を活かし共に成長しよう
・サステナビリティ:地球の未来を考え行動しよう
成功要件「現場力」×「見える化」
・3つの追求:安全・品質・生産性
・3つのこだわり:細部・顕在化・スピードにこだわる
・3つの信条:顧客志向・チームワーク・チャレンジ精神

(2) 中長期的な経営戦略について
当社グループは、2022年度から2024年度(自2022年4月1日 至2025年3月31日)を対象とした中期経営計画を策定・公表し、企業価値の向上をめざしている。
[経営環境]
当社グループを取り巻く環境は、世界的な新型コロナウイルス感染症拡大による影響は回復傾向にあるものの、変異株による感染症再拡大や、米中対立・ロシアのウクライナ侵攻による地政学的リスク、世界的なインフレ率
上昇に加え、従来からの気候変動、自然災害等の影響により、依然として不透明な状況が続いている。 このような状況下、当社グループにおいては、日本国内の少子高齢化を背景とした労働力不足、新型コロナウイ
ルス感染症の拡大、地政学的リスクの顕在化、気候変動、業界の垣根を超えた競争激化等の直面する経営環境の変
化に対し、グローバルサプライチェーンの維持・強靭化のため、IoT(*1)・AI(人工知能)(*2)・ロボティクス(*3)、DX(デジタル・トランスフォーメーション)によるイノベーションで課題解決を図り、持続可能な社会の実現に取り
組んでいくことが求められている。
(*1) IoTとは、モノのインターネット(Internet of Things)の略称であり、身の回りのものがインターネットにつながる仕組みのこ
とを意味する。
(*2) AIとは、人工知能(Artificial Intelligence)の略称である。
(*3) ロボティクスとは、ロボットの設計・製作・制御を行う「ロボット工学」を意味する。
[基本方針]
当社グループは、ブランドスローガン「未知に挑む。」とビジネスコンセプト「LOGISTEED」を掲げ、「HB
Way」と「LOGISTEED」の一体化で、経済価値のみならず社会価値・環境価値を創り上げる。
2022年度から2024年度(自2022年4月1日 至2025年3月31日)を対象とした中期経営計画(LOGISTEED2024)では、 事業の盤石化とグローバル展開を進め、めざすべき「アジア圏3PLリーディングカンパニー」に向けた重点施策を
「DX・LT(Logistics Technology)・現場力でグローバルなサプライチェーン戦略パートナーへ」をスローガンに実 行する。
そして、その先にある「経営ビジョン(グローバルサプライチェーンにおいて最も選ばれるソリューションプロバ イダ)」をめざす。
『LOGISTEED』:LOGISTICSと、Exceed、Proceed、Succeed、そしてSpeedを融合した言葉であり、
ロジスティクスを超えてビジネスを新しい領域に導いていく意思が込められている。


[重点施策]
スローガン:DX・LT・現場力でグローバルなサプライチェーン戦略パートナーへ
① 海外事業の強化・拡大(アジア圏3PLリーディングカンパニーへ) <主に国際物流>ⅰ.重点エリアへの投資
・北米:シェアードミルクラン(*4)・幹線輸送ビジネスの拡大、工場向け一気通貫ロジスティクスの提供
・欧州:インターモーダル(*5)事業の広域化、欧州成長エリア・市場での事業拡大
・中国:自動化・省人化による安全・品質・生産性の更なる向上、高付加価値物流サービスの強化
・アジア:インド・タイ・インドネシア・マレーシア他での投資・事業拡大、コールドチェーンの展開、
地域・域内ネットワークの強化
ⅱ.M&A (フォワーディング、輸送事業)
(*4) ミルクランとは、1台のトラックで複数サプライヤーの拠点を巡回して生産部品等の集荷を行い、生産工場に一括納品する輸
送方式を意味する。
(*5) インターモーダルとは、トラック・船・鉄道等の異なる輸送モード(輸送機関)を複数組み合わせた複合一貫輸送を意味する。
幹線輸送部分に鉄道や船を組み入れることで環境負荷の低減が期待できる。
② 新たな付加価値による事業領域の拡張(LOGISTEEDの加速) <全社共通>ⅰ.サプライチェーンの課題解決、DX(*6)による可視化と最適化の提案
ⅱ.製造と物流の境界領域における新サービスの拡大、VAS(Value Added Services)(*7)の展開
(*6) 当社は、経済産業省が主催する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」において、「DX銘柄2022」に選定され
ている。
(*7) VASとは、顧客への調達支援や製造支援を含む高付加価値サービスを意味する。
③ スマートロジスティクス(*8)の進化 <全社共通>ⅰ.システムと機械が連動した自動化・省力化、DXによる労働環境の向上
ⅱ.三温度帯倉庫(*9)や危険物倉庫などの倉庫機能強化・充実化
ⅲ.SSCV(輸送デジタルプラットフォーム)(*10)の活用による輸送事業強靭化とドライバー不足(2024年
問題(*11))・脱炭素化への対応
(*8) スマートロジスティクスとは、お客様の多様な物流ニーズにワンストップでお応えし、ロジスティクスのスマート化を実現
するソリューションを意味する。
(*9) 三温度帯倉庫とは、常温・冷蔵・冷凍機能を備えた倉庫を意味する。
(*10)SSCVとは、「Smart & Safety Connected Vehicle」の略であり、「持続可能な輸送サービス」と「事故ゼロ社会の実現」をめ
ざして開発・提供する輸送デジタルプラットフォームであり、「SSCV-Safety」(安全運行管理)、「SSCV-Smart」(受発注管
理、配車管理、運行管理)及び「SSCV-Vehicle」(車両管理の最適化、故障予兆・予防整備)の3つのソリューションで構成さ
れている。
(*11)2024年問題とは、働き方改革関連法によって2024年4月に自動車運転業務に対して、時間外労働時間の年間960時間の上限規制
が適用されることに伴い、発生するドライバー不足を含む諸問題を意味する。
④ ESG経営(*12)の基盤強化 <全社共通>ⅰ.災害対策・リスクマネジメントの遂行 ⅱ.脱炭素活動の加速
ⅲ.高度かつ持続的な安全・品質活動
ⅳ.VC(Value Change & Creation)活動(*13)の継続・拡大
ⅴ.DX・LT・グローバル展開のための人財強化
(*12)ESG経営とは、持続可能な社会の実現と企業価値の向上に向け、環境・社会・ガバナンスと企業倫理を意識した行動を意味する。
(*13)VC(Value change & Creation)活動とは、会社・組織・従業員間で方針の目的・プロセス・ゴールの情報共有を図り、1人ひとり
が「わたくしごと」として改善し続ける組織となるための取り組みをいう。
[参考]注力分野、SDGsの位置づけ
中期経営計画(LOGISTEED2024)の策定にあたり、サステナビリティをめぐる課題への対応は、重要な経営
課題であるとの認識のもと、重要課題(マテリアリティ)の見直しを行った。また、重要課題に事業活動を
通じて対応すべく、3つの注力分野と注力分野を支える基盤に分類している。注力分野におけるSDGs(持続
可能な開発目標)の位置づけは以下の通りである。

なお、今後、HTSK株式会社(注)による当社の普通株式(以下「当社株式」という。)に対する公開買付け(以
下「本公開買付け」という。)が予定されている。本公開買付け及びその後に予定される一連の手続きを経て、同社は当社株式全てを取得することを企図している。これにより、当社株式は上場廃止となる予定である。本
取引後、当社は新しいパートナーとともに、これまで以上の意思決定のスピードアップや、投資資金の獲得、また外部知見の導入を行い、当社の競争力と収益力を伸張させ、新成長により企業価値の向上をめざす。
(注) HTSK株式会社は、当社の株券等を取得及び所有し、本公開買付け成立後に、当社の事業活動を支配及び管理
することを主たる事業として2022年4月21日に設立された株式会社であり、その発行済株式の全てを2022年
4月21日に設立された株式会社であるHTSKホールディングス株式会社(以下「公開買付者親会社」という。)
が所有している。また、米国デラウェア州設立の投資顧問会社であるKohlberg Kravis Roberts & Co. L.P.
によって間接的に保有・運営されている、カナダ国オンタリオ州法に基づき2022年4月25日に設立されたリ
ミテッド・パートナーシップであるHTSK Investment L.P.が、公開買付者親会社の発行済株式の全てを所有
している。
[参考]当社グループがめざす姿

[参考]気候変動への取り組み:TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)に基づく情報開示
気候変動への対応方針
当社グループの経営理念は「広く未来をみつめ 人と自然を大切にし 良質なサービスを通じて 豊かな社会 づくりに貢献します」であり、気候変動対応についても、経営の最重要課題と捉えている。当社グループは、 国際社会の共通目標であるSDGs、パリ協定及び日本政府目標等、国の内外で求められるCO₂排出量削減の取り 組みの重要性を深く認識している。そのため、TCFD提言への賛同を2021年9月に表明するとともに、その提 言内容に基づき、気候変動対応を推進している。
■ガバナンス
取締役会は、気候変動への取り組みの最高責任者である執行役社長を通じて、当社グループ経営の最重要事項
である経営戦略、事業計画等に含まれる気候変動への取り組みについて指導・監督を行っている。また、CO₂排
出量削減のための目標設定、省エネ投資等の具体的な気候変動対応の施策、予算の配分等の決定を監督してい
る。
担当執行役は、気候変動に関する経営課題への取り組みの進捗状況について、年1回または必要に応じて取締
役会へ報告している。
本社経営戦略本部サステナビリティ推進部は、サステナビリティ戦略運営の最高責任者である執行役専務(経営
戦略本部長)の監督のもとに環境経営全般の実務を統括している。当該執行役専務(経営戦略本部長)を含む当社
グループの各環境責任者で構成される環境推進会議を半期に1回の頻度で開催し、エネルギー使用量、CO₂排出
量実績及び目標の達成状況等の気候変動対応に関する施策の達成状況の確認、必要な是正策等の決定、今後の
施策案の議論を行っている。環境推進会議での決定事項を踏まえ、当該執行役専務(経営戦略本部長)承認のもと
に、半期に1回または必要に応じて、気候変動対応施策の取り組み状況、今後の戦略案等を執行役会に報告また
は提案している。
会議体/部署役割
取締役会・気候変動に関する経営課題への取り組みに関する指導・監督
・削減目標・施策・予算の承認
執行役・気候変動に関する経営課題への取り組み状況の把握、取締役会への報告
環境推進会議・気候変動関連施策の達成状況の確認、是正策の決定、施策案の議論
サステナビリティ推進部・環境経営全般の実務の統括
・サステナビリティ推進委員会の開催、同委員会での決定事項を踏まえた
執行役会への報告・提案

■リスク管理
当社グループでは、識別された全ての経営リスクを踏まえ、マテリアリティを選定している。本社経営戦略 本部サステナビリティ推進部において、マテリアリティの一つである気候変動対応に適合するリスクと機会を 選定し、この中で財務影響が大きい項目を重大なリスクと機会として特定している。特定されたリスクと機会 は、同部を責任部署として、執行役会の承認と取締役会の監督のもと、その対応方法を気候変動対応関連の各 計画に織り込むとともに、その実施を管理している。
■指標と目標
・中長期CO₂排出量削減目標
当社グループでは、気候変動のリスクと機会に対応するため、2021年7月にCO₂排出量削減の中長期
目標を見直している。

*1 スコープの定義
スコープ1: 自社施設、車両等からエネルギー(燃料等)の使用に伴い、直接排出したCO₂(例:自社の車両から排出されるCO₂)
スコープ2: 自社施設でのエネルギーの使用に伴い排出したCO₂のうち、排出場所が他者施設のCO₂(例:電気の使用により発
電所から排出されたCO₂)
スコープ3: スコープ1・2以外のサプライチェーンによる間接排出(例:外注委託輸送や従業員の出張等、全15カテゴリ)
*2 カーボンネットゼロ:温室効果ガスのひとつである二酸化炭素(CO₂)の排出量から、吸収量・除去量を差し引いた合計をゼロにす
ること。

*1 スコープ1及びスコープ2の合計 対象範囲:日立物流、国内グループ会社
*2 提出日時点
*3 2013年度比
*4 中計期間における投資額及び費用額の合計規模
*5 2030年度までの平均削減率
■戦略
当社グループでは、中長期の事業活動に影響を与えると想定される気候関連リスク・機会を、シナリオ分析を
活用して特定・評価するとともに、レジリエンスの評価及び対応策の検討を行っている。
(1)シナリオ分析プロセス
当社グループでは、下記の手順に従ってシナリオ分析を実施している。パリ協定の目標が達成されるシナ
リオ(2℃未満シナリオ)、及び新たな政策は実行されず公表済みの各国政策が達成されることを前提とした
シナリオ(4℃シナリオ)を設定し、キーパラメータの推移等の情報をもとに、特定した気候関連リスク・機
会に関する財務影響を評価している。

* 参照シナリオ:
2℃未満シナリオ:IEA Sustainable Development Scenario/IPCC RCP2.6
4℃シナリオ:IEA Stated Policies Scenario/IPCC RCP8.5
(2)気候関連リスク・機会と財務影響評価
当社にとって重要な気候関連リスク・機会として特定した9種類の項目について、シナリオ分析を用いて
潜在的な財務影響を定量的・定性的に評価した。また、現状の対応策のレジリエンス及び未来の施策につ
いて検討した。当社グループでは、特に財務影響の大きいリスクの軽減及び機会獲得に向けて対応策
を検討・実行しており、十分なレジリエンスを有していることを確認している。
区分種類想定されるリスク・機会事業への影響と対応策
移行
リスク
政策・
法規制
・気候変動に関する税負担
(例:炭素税、燃料税)の増大やCO₂排出量に関する規制強化・導入によるコスト増加リスク
影響 :カーボンプライシングに伴うコスト増の影響が
生じる(2℃未満シナリオ>4℃シナリオ)
対応策:脱炭素に向けた計画的な環境戦略の策定と実施
(①再生可能エネルギーの導入②非化石燃料車
両(電気自動車/燃料電池車他)の導入③グリ
ーン電力の調達④ICP(社内炭素価格)の導入
技術・環境技術の導入遅延・失敗によるCO₂排出量削減コストの増加及び顧客の流出リスク影響 :再生可能エネルギーや低炭素車導入の遅れによ
る中長期的なコスト増または収益減の影響が
生じる(2℃未満シナリオ>4℃シナリオ)
対応策:脱炭素に向けた先進技術の導入(①再生可能エ
ネルギーの導入②非化石燃料車両の導入③倉
庫作業のDX化・IoT化)
市場・低炭素またはカーボンニュートラルな輸送を重視する顧客への対応不足による顧客流出リスク影響 :気候変動への取り組みを重視する顧客(SBT認定
顧客など)への収益減の影響が生じる(2℃未
満シナリオ>4℃シナリオ)
対応策:物流サービスにおける脱炭素施策の推進とステ
ークホルダーへの情報開示の強化
評判・気候変動への取り組み・情報開示が不十分なことによる企業評価の低下リスク
物理
リスク
急性・異常気象による風水害等の激甚化による物流業務の停滞リスク影響 :風水害等による修理費用や原状回復費用増大の
影響が生じる(2℃未満シナリオ<4℃シナ
リオ)
対応策:風水害等ハザードリスクに対するBCP対策強
化(①拠点の分散化②太陽光発電・蓄電池等の
設置 ③低リスク地域への移転等)
慢性・平均気温の上昇による労働環境の悪化が起因し、人財確保が困難となるリスク影響 : 職場環境の整備費用の増大の影響が生じる
(2℃未満シナリオ<4℃シナリオ)
対応策:人に優しい物流オペレーションの推進(①自動
化・省力化・無人化の推進②快適な労働環境
の提供)
機会資源
効率性
・環境技術の進展による車両のエネルギー消費量の改善とCO₂排出量の削減機会
・スマートロジスティクスや共同物流サービスによる効率的な物流オペレーションの導入機会
影響 :物流サービスの効率化によるエネルギーコスト
減の影響が生じる(2℃未満シナリオ>4℃シ
ナリオ)
対応策 :脱炭素施策の推進によるエネルギーコストの削
減(①省エネ施策の推進②再生可能エネルギー
導入③非化石燃料車両の導入④モーダルシフト
推進)
製品・
サービス
・事業活動を多様化することに伴う機会影響 :事業活動の多様化による売上増の影響が生じる
(2℃未満シナリオ>4℃シナリオ)
対応策 :当社独自のスマートロジスティクスによる物流
サービスの提供(①スマートウエアハウス
②SCDOS③SSCV)
レジリエンス・エネルギーの多様化に伴う機会影響 :太陽光発電設備導入によるコスト減の影響が生
じる(2℃未満シナリオ>4℃シナリオ)
対応策 :再生可能エネルギー導入による電力調達コスト
の削減及び非常時の電源確保