有価証券報告書-第21期(平成28年4月1日-平成29年3月31日)

【提出】
2017/06/29 11:03
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111項目

業績等の概要

(1) 業績
当社は1996年の創業時に、MVNO事業モデルという新たな通信事業の在り方を考案し、以来一貫して自ら実践してまいりました。この間、約21年に及ぶ歴史においては、2度大きな転換点があり、現在は2度目の転換点の真只中にあります。
一つ目の転換点は、2007年の総務大臣裁定です。それまでのMVNO事業は、当社を含む数社がPHS網で試行していましたが、この大臣裁定によって携帯網との相互接続が正式に認められ、本来の意味でのMVNO事業が世界で初めて実現しました。これにより、MVNO事業は、一過性の事業形態ではなく長期的に継続しうる新たな事業として認知され、参入事業者が急増し、2016年12月末のMVNO事業者数は668に達しました。このような背景において、当社は、2015年6月に東京証券取引所市場第一部への市場変更を果たしました。
二つ目の転換点は、2016年5月に施行された改正電気通信事業法及び関連法令によるMVNO規制緩和です。
2007年の総務大臣裁定では、携帯網との相互接続が認められたものの、MVNO事業者が提供することのできる通信サービスには制約があり、極めて限定的なものとなっていました。
そのような環境では価格以外に差別化の要素がなく、MVNO事業は、携帯事業者より低価格で同様の通信サービスを提供するものとなってしまいました。確かに、携帯事業者の寡占化により携帯料金が高止まりしている現状において、MVNOが低価格の料金プランを提供することは、政府及び総務省が推進する政策とも合致し、重要な役割を果たしています。
しかしながら、当社が創業時から提唱しているMVNOの在り方は、携帯事業者ではできない通信サービス、または、携帯事業者ができるとしてもやりたくない通信サービスを提供することで、通信サービスに新たな可能性を切り拓くことです。そのためには、MVNO自身が企画・開発した新たな通信サービスを提供することのできる仕組みが必要です。当社は2007年以降、長期にわたってこの考え方を主張してきましたが、それがようやく実を結んだのが2016年5月の規制緩和なのです。
当社は、この第2の転換点を迎えることが明らかとなった2016年1月22日に、新事業戦略を策定し、公表しました。当社は、規制緩和によって実現可能となる新たな通信サービスの開発・提供能力を強化するとともに、当社が直接顧客に販売するのではなく、パートナー企業に通信サービスを提供する、黒子としての役割に徹する方針です。当社は、イネイブラー事業者として、格安SIM事業を展開するパートナー企業には格安SIMを、企業向けソリューション事業を展開するパートナー企業にはソリューション・プラットフォームを提供しますが、いずれにおいても競争力を維持し、自ら主導した規制緩和を最大限に活用して成長していく戦略です。
当社は、新事業戦略の初年度である当期において、新たな通信サービスの開発・提供能力の強化及びパートナー開拓に集中し、その進捗状況は以下のとおりです。
(日本事業)
当社は新事業戦略に基づき、2つの課題にチャレンジしました。一つはパートナー企業が格安SIMを拡販するために不可欠であるソフトバンク網との相互接続、もう一つはパートナー企業の開拓です。
2007年の総務大臣裁定は、NTTドコモと当社との相互接続にかかるもので、その結果、NTTドコモのネットワークが開放され、多くのMVNO事業者が参入しました。
これを契機に、NTTドコモのお客様の中ではMVNO普及率が拡大していきますが、ソフトバンクのお客様には選択肢となるMVNOが存在しない状況が続いていました。そこで当社は、特に日本で普及しているiPhoneユーザが最も多いと推定されるソフトバンクとの相互接続を申し入れました。
当初は、2016年6月末までにソフトバンク網によるMVNOサービスを提供する予定でしたが、ソフトバンクのSIMロックがかかったiPhone等では利用できないという制約が判明したため、同サービスの提供開始は、この問題が解決するまで延期せざるを得ない状況となりました。当社が2016年9月29日に総務省に接続協定に関する命令を申立てたところ、同年12月8日、総務省はソフトバンクによる制約は電気通信事業法上の理由がないとの判断を示し、2017年1月27日、電気通信事業紛争処理委員会も同様の判断を示しました。これを受け、2017年1月31日、ソフトバンクと当社との間で相互接続協定を締結し、同年3月22日にソフトバンク網によるMVNOサービスの提供を開始することができました。
もう一つの課題であるパートナー企業の開拓では、現在及び近い将来において当社の売上の過半を占める格安SIM事業のパートナー企業開拓を最優先で進めました。その結果、格安SIM事業者の大手である株式会社U-NEXTと2016年8月10日に基本合意し、同年11月7日に協業の合意を行いました。これにより、当社はイネイブラー事業者としてU-NEXTに格安SIMを提供し、U-NEXTが販売及びサポートを担当する体制を構築しました。U-NEXTは、2017年1月17日に、家電量販店トップのヤマダ電機とMVNO事業を行う合弁会社の設立を発表するなど、格安SIMの販売を積極的に推進しており、当社は、U-NEXTのイネイブラーとしての役割を果たすことで、格安SIM市場におけるシェア獲得に取り組んでまいります。
また、公共機関や企業向けのソリューション事業を手掛ける企業とのパートナーシップの構築についても、並行して進めています。2016年11月には、60年を超える歴史と20,000社の顧客基盤を有するシステムインテグレーターである大興電子通信株式会社と協業を開始し、企業向けの無線専用線を中心に販売を推進しています。当社は、ソフトバンクとの相互接続により、デュアル・ネットワークという、他事業者との比較において最大のエリアカバレッジを持つ無線ネットワークを提供することができるため、従来、有線回線で提供されていた拠点間ネットワークを無線に置き換える提案を積極的に進めています。
以上のとおり、新事業戦略における2つの課題は当期において大きく進展しましたが、ソフトバンクとの相互接続の実現が期初計画より大幅に遅れたことから、前年度対比で大幅な減収となりました。
(海外事業)
米国におけるMVNO事業は、専らATM向けの無線専用線サービスを中心に展開していますが、これをさらに周辺分野に広げるため、店舗内金庫のキャッシュ管理分野において、パートナー企業の開拓を進めています。当期においては顕著な成果には至らなかったものの、ATM分野で築いた実績を元に、大手パートナー企業との提携を進めており、今後の進展が期待できる領域です。
また、当社が2006年に買収したセキュリティ技術会社であるArxceo社が持つセキュリティの特許技術は、そのソフトウェアサイズが非常に小さいことから、IoT分野での活用が期待されています。
さらに、当社が2016年4月に設立した欧州子会社は、2017年1月16日に欧州の通信事業者であるBICS S.A.との間で、当社が独自のSIMとHLR/HSS交換機等のコアネットワークを有する、いわゆるフルMVNOになる形で相互接続することで基本合意を締結しました。
当社は、日本で規制緩和が実現した場合に提供する技術及びサービスを予め海外で実施することで多くのノウハウを蓄積し、技術面及び事業面で引き続きMVNO業界のリーダーシップを発揮していくことを目指しています。
以上により、当期は、新事業戦略における取組みに大きな成果が認められたものの、未だ業績には反映されていない状況であり、売上高は2,659百万円(前年比35.3%減)、営業損失は1,701百万円(前年から295百万円の改善)、経常損失は1,650百万円(前年から343百万円の改善)、親会社株主に帰属する当期純損失は2,198百万円(前年は2,158百万円の損失)となりました。
(2) キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の期末残高は1,058百万円となり、前連結会計年度末に比べ444百万円減少しました。
当連結会計年度末における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは425百万円の支出(前連結会計年度末は1,206百万円の支出)となりました。これは主に税金等調整前当期純損失2,028百万円を計上した一方、減価償却費298百万円、訴訟和解金346百万円、売上債権の減少609百万円によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは427百万円の支出(前連結会計年度末は1,547百万円の支出)となりました。これは主に固定資産の取得によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは426百万円の収入(前連結会計年度末は22百万円の収入)となりました。これは主に株式の発行による収入によるものです。