有価証券報告書-第13期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/07/30 14:09
【資料】
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【項目】
145項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1) 経営方針
動画配信サービスや静止衛星の技術革新、低軌道衛星による新たなビジネスの台頭など、当社グループを取り巻く競争環境が大きく変わりつつある中、この変化をチャンスととらえ、加速するデジタル社会の進展とあらゆる空間におけるビジネスフィールドの拡張を見据え、当社グループの果たすべき役割を定めたグループミッションを掲げています。
Space for your Smile不安が「安心」にかわる社会へ
不便が「快適」にかわる生活へ
好きが「大好き」にかわる人生へ
Space for your Smileには、私たちの目指す世界が描かれています。宇宙も、空も、海も、陸も、家族が集うリビングも、ひとりの自由な場所も、これらすべてのSpaceが笑顔で満たされるように。日常のちょっとした幸せから、まだ見ぬ未来の幸せまで、ひとりひとりの明日がよりよい日になっていく、そんな世界を創りつづけます。
このミッションを実現し、企業価値の増大を図ってまいります。
(2) 経営環境
当社グループを取り巻く経営環境は、スマートフォンを核とした巨大ネット系企業による侵食と、IoTの進展、AIなどの技術の進化により、通信・放送・宇宙分野を含む様々な領域で新たなプレーヤー、新たなサービスが誕生し、既存事業領域での競争がより激化しております。
メディア事業においては、既存の有料放送市場が成熟し、定額制または無料のインターネット動画配信サービスとの顧客獲得競争やスポーツを中心としたコンテンツの獲得競争が激化しております。
宇宙事業においては、船舶・航空機向けの移動体衛星通信や携帯キャリア向けバックホール回線の需要が拡大する一方で、グローバルマーケットにおいて海外衛星オペレーターとの厳しい価格競争に直面しております。
さらに、新型コロナウイルス感染拡大により、メディア事業においては、自宅で過ごす時間が増えることによるテレビ視聴時間増大が見込まれる一方、各種シーズンスポーツの開催期間短縮や音楽ライブの中止・延期等で、視聴料関連収入の減少が見込まれます。宇宙事業においては、主に航空機の減便等により、移動体向けに提供している衛星回線利用の減少が見込まれます。
(3) 経営戦略
このような経営環境の中、引き続き各事業の収支構造の改善及び事業領域の拡大を図り、M&Aや事業提携にも積極的に取り組むとともに、働き方の変革による生産性の向上を図ってまいります。
メディア事業においては、以下の事業変革を推進してまいります。
① 事業構造の改革、及び、サービスの拡充・差別化
2020年1月に組織改編を行い、従来、コンテンツ調達/制作・プロモーション・お客様対応等で機能別になっていた組織を、コンテンツジャンル毎の事業別組織に変更いたしました。これにより、コンテンツに主軸を置いたマーケティング活動を展開することでサービスの拡充・差別化を行い、有料放送だけに頼らない新たな収益源を確立してまいります。また、光ファイバー網を利用した地上波、BS、110度CS放送の再送信サービスは、引き続きサービス提供地域を拡大し、堅固な収益基盤を構築してまいります。
② 新規事業の推進
当社顧客基盤を活用した生活提案型サービスを提供するLIFE事業などの新規事業を推進する一方で、現行0TTサービスを発展させた新たなビジネスモデルの確立を目指します。また、新規事業の推進においては、各パートナー企業との連携を深めてまいります。
宇宙事業においては、変化する顧客ニーズに応え続ける先進の宇宙事業ソリューションサービス企業を目指します。具体的な取り組みは以下のとおりです。
① 既存事業の収益確保・拡大
2018年度から2019年度にかけて投入した新規3衛星を中心に、航空機・船舶・携帯電話基地局向けバックホールなどの拡大する需要に対応し、基礎収益力を高めてまいります。また、大容量化、抗たん性強化を図っている官公庁等のニーズにも応えてまいります。
② 新規事業の収益拡大と新たなマーケットの開拓
地球観測、ビジネスインテリジェンス等のデータインテリジェンス事業の収益拡大や、静止衛星以外の新規通信インフラ事業の立ち上げにより、中長期的な成長を目指します。また、マーケット拡大のための軌道権益確保やM&Aを積極的に推進してまいります。
(4) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
2020年度の連結業績目標は以下のとおりです。
営業収益 1,400億円
営業利益 120億円
経常利益 125億円
親会社株主に帰属する当期純利益 80億円
EBITDA 380億円
(注)EBITDAは、親会社株主に帰属する当期純利益、法人税等合計、支払利息、減価償却費、のれん償却額の合計として算定しております。
(5) 対処すべき課題
メディア事業及び宇宙事業において、衛星を軸とした国内の既存市場が成熟期を迎えていることを認識しております。また、今般の新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、メディア事業においては、プロ野球等のスポーツコンテンツの開幕遅延や音楽ライブの中止・延期等で、累計加入件数が通期にわたり減少し、視聴料関連収入が減少する見込みであり、宇宙事業においては、主に航空機の減便等により、移動体向けに提供している衛星回線利用が影響を受ける見込みです。しかしながら、そのような状況下においても、各事業について収支構造の改善及び事業領域の拡大を図り、M&Aや事業提携にも積極的に取り組んでまいります。
<メディア事業>① 事業構造改革による収益性の改善
既存の有料放送市場が成熟し、資金力の豊富な国内外のインターネット動画配信サービスが次々と台頭し、コンテンツ獲得及び顧客獲得の両面で競争が激化している中、従来の延長線上にある各種施策だけでは加入者数の減少を免れない状況にあります。このような競争環境下において、有料多チャンネル放送にかかるコスト構造の見直しを進めるとともに、コンテンツ獲得においても「選択と集中」を行い、収益確保を図ってまいります。
② サービスの拡充と差別化
有料、無料を問わず数多くの放送サービス・動画配信サービスがある中で、当社グループのサービスを選択していただくためには、魅力的かつ差別化されたコンテンツがあることに加え、様々なコンテンツジャンル毎にファンの嗜好に合わせたきめ細かいマーケティングを実践し、放送コンテンツに拘らない商品・サービスを提供することが重要となってまいります。
テレビ1台分の料金で3台まで追加料金なしで50チャンネルが見放題となる「スカパー!基本プラン」は、加入件数の増加に寄与しております。また、2020年4月末から期間中にスカパー!新規加入と同時に基本プランをご契約いただいたお客様は加入翌月視聴料が「無料」となるキャンペーンを実施しております。在宅の機会が増えている状況において、家庭内の複数の部屋で視聴できる環境を増やし、視聴人数・視聴時間の増加及び満足度の向上を図り、解約抑止と加入者数の増加につなげるべく、快適で便利な視聴環境の提供を引き続き検討、実行してまいります。
「スカパー!オンデマンド」では2020年もプロ野球公式戦全12球団の配信を実現し、プロ野球セットアプリも提供する等、プロ野球ファンの皆様にご満足いただけるよう利便性の向上に努めております。引き続き、様々なコンテンツジャンルにおいて、ファンの皆様の期待に応えられるよう、サービスの拡充に取り組んでまいります。
ご家庭内のインターネットブロードバンドサービスの中心となっている光ファイバー上においても、地上波やBS/110度CS同時再放送サービスを提供しており、その世帯数は2020年3月末時点において233万世帯に達するまで成長してまいりました。2019年9月からはBS/110度CSの左旋円偏波にて提供しているすべての4K及び8Kチャンネルの提供を開始しており、今後も再送信サービスの提供エリアの順次拡大に合わせて収益の拡大を図ってまいります。
以上の展開を着実に推進することにより、様々なサービスの拡充及び差別化による加入基盤の維持・拡大を図ってまいります。
③ 新たな収益の獲得
既存事業による収益に加え、新たな収益源を育てることも課題と認識しております。
海外での放送及び配信事業に取り組むとともに、自主運営チャンネル内の広告営業、プロ野球ソフトバンクホークスの主催試合の放映権販売によるケーブルテレビ局からの収益確保に取り組んでまいります。また、「スカパー!」の顧客基盤も生かした、放送サービス以外のサービス提供等、増大する未来の生活時間に向けて、より豊かな時間をお客様に提供する新たな取り組みを推進してまいります。
<宇宙事業>④ 既存事業の強化
持続的な成長のためには、衛星サービスの優位な領域における新規顧客の開拓が必要不可欠と考えております。以下に示す各分野での取り組みを強化することで、既存事業の強化を図ってまいります。
ⅰ)国内衛星ビジネス
JCSAT-17(軌道位置:東経136度)については2020年2月に打ち上げに成功し、移動体通信の既存顧客との長期契約に基づき、2020年4月からサービス提供を開始いたします。引き続き安定した衛星運用を継続してまいります。また、5G(第5世代移動通信システム)の普及に伴う更なる衛星通信利用機会の拡大を目指し、携帯キャリアを中心とした通信事業者に向けた取り組みを強化してまいります。
ⅱ)宇宙・防衛ビジネス
内閣府により策定された「宇宙基本計画工程表」などに基づき、宇宙利用サービスへの参入や、防衛分野を含む政府主導のプロジェクトへの参画、政府系衛星に向けた運用サービスの提供など、ビジネスの拡大を目指してまいります。また、既存の衛星通信分野に限らず、観測・監視などの分野における新たなサービスの提供も検討してまいります。
ⅲ)グローバル・モバイルビジネス
経済環境変化の影響はあるものの、アジア・オセアニア地域や、北米及びロシア地域での営業展開を引き続き進めてまいります。これらの地域における厳しい価格競争に勝ち抜くため、2020年1月より、当社グループ2機目のハイスループット衛星(従来よりも伝送容量を大幅に拡張した衛星。以下「HTS」)となるJCSAT-18(軌道位置:東経150度、軌道上名称:JCSAT-1C)のサービス提供を開始しております。2018年9月に打ち上げた当社グループ初のHTSであるHorizons 3eとあわせて、船舶・航空機でのインターネットや、安全保障、バックホールでの利用等の需要に対応すべく、販売活動を強化してまいります。また、衛星カバレッジの拡大や、通信容量の増強に向けた海外事業者との連携やM&Aについても検討し、ビジネスの拡大を目指してまいります。
⑤ 新たな技術の活用や事業領域拡大への取り組み
低軌道衛星分野については、2019年度に新たに追加した2つの地上局拠点 (沖縄ネットワーク管制センター、及び、北海道ネットワーク管制センター)を活用し、データ受配信等の地上局サービスの拡大を目指してまいります。これらの低軌道衛星等のインフラから得られるビッグデータ等の活用により、高度な情報を提供するスペースインテリジェンスビジネスも事業拡大に向け取り組み強化を行ってまいります。また、光中継衛星や量子暗号通信をはじめとした新たな技術の利活用の検討を進め、通信事業の領域拡大を目指してまいります。
<その他>⑥ コーポレート・ガバナンスの強化
当社グループは、放送と通信という公共性の高い事業、かつ消費者向けサービスを展開する企業グループとして、事業及び消費者保護関連の各種法令・ガイドライン等の法令遵守の徹底を図り、一層信頼される企業グループを目指してまいります。
当社の連結子会社である株式会社エンルートは、過年度において公的資金を不適切に受給していたこと及び消防用耐火型ドローン開発のプレスリリースについて当時の実証実験では性能面の確認・検証が十分ではなかったことが当事業年度において判明したことから、既に受給した助成金等の公的資金の一部返還等を行うとともに、当該プレスリリースの取下げを行いました。当社グループは、かかる事実を厳粛に受け止め、各種再発防止策を検討・実施いたしました。今後も引き続き再発防止に向けてグループ一丸となって取り組んでまいります。