訂正有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2018/12/13 13:00
【資料】
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【項目】
108項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社グループは「教育を科学する」をキーワードに、ラーニングサイエンスとEdTechを活用して次世代教育を実現する日本発のEdTechカンパニーを目指しております。
(2) 経営環境
国内教育市場は少子化の進行で大学受験者数が減少しているものの、英語教育は低年齢化し、平成20年度からスタートしている小学5、6年生を対象とした小学校の英語教育は、平成23年度に小学5年生から必修となり、さらに平成32年には小学3年生からの必修化、小学5年生からの教科化が実施される予定です。
また、平成32年から始まる大学入試制度改革において、文部科学省により英語試験は民間の資格・検定試験を活用して4技能を評価する方針が決定され、能力測定及び学習の両面においてICT化が不可欠となるなど、今後の市場の動きは当社グループにとって大きな事業機会となると考えております。
さらに、海外教育市場は、アジアの人口増加及び経済発展による市場が拡大する一方、最大市場である米国において教育のIT化が進む等大きな変革及び成長が進展しております。当社グループはこれを事業機会と捉え、アジア及び米国の拠点開設を積極的に行って事業拡大を図ります。
(3) 経営戦略等
当社グループは、これからを見据え、飛躍的な事業規模の拡大と安定した収益の確保を目指し、平成29年度から平成31年度を対象年度とする中長期経営計画を策定いたしました。当該計画における当社グループの基本戦略は、次のとおりであります。
① 英語試験の4技能化による事業機会をとらえる商品開発
② テスト準備のためのラーニングツールの拡充
③ 各種テストの実施、インフラの領域拡大、顧客開拓
④ 次世代の教育ソリューションのコアとなるEdTech投資
(4) 事業上及び財務上の対処すべき課題
当社グループは、教育分野における能力測定技術・コンピュータやインターネットを用いたテスト及び教育ツールの研究に注力し、特に語学を中心として「CASEC」、「TEAP CBT」に代表される試験サービスを提供し、項目応答理論を用いた正確な能力測定技術を強みとすることで他社と差別化してまいりました。
当社グループでは、今後の業容拡大及び経営基盤の強化のため、以下の課題に取り組んでまいります。
① ソフトウエア投資の拡大
当社グループが今後も継続的な成長を果たしていくためには、当社グループが開発したIRTを実装したCBTシステムや大規模試験の利用が可能な記述式答案の採点システムが、今後も市場での優位性を確保するために必要であることから製品機能の強化が不可欠であると認識しております。
また、当社グループの提供するラーニングツールは携帯端末等向けのアプリを介して提供されることが主流となりつつありますが、快適なラーニング環境を提供するためのアプリ開発のために必要な資源と時間は確実に増大しつつあります。
当社グループは、時代の要請により変化する市場と今後も加速するテクノロジーの進歩に素早く対応できるための更なる製品機能の強化やオプション機能の開発等の実施により、製品機能を充実させ、競合他社との差別化を図ってまいります。
② コンテンツ開発の強化
当社グループが展開するテスト商品及びラーニング商品は、時代の変化による問題の陳腐化を避けるため、継続的に新たなテスト問題の作成やラーニングのためのコンテンツ制作を行うことが不可欠です。質の高いコンテンツ開発を担当する経験豊富な人材の供給は限られています。当社グループは、塾市場も含めた市場参加者との連携や海外での人材確保などを通じて、経験豊富な質の高い人材にアクセスし、優良な学習コンテンツのライブラリーの開発・提供を進めて商品の競争力を高めてまいります。
③ 海外拠点におけるソフトウエア開発・コンテンツ開発・採点業務の推進による生産性と収益性の向上
第一に、当社グループは、現在、ソフトウエア開発について自社の海外の開発拠点であるインドのプネにおいて開発エンジニア約25名体制で取り組んでいますが、この開発体制の増員及び強化を図ります。また、中国の無錫拠点において、中国市場向けソフトウエアの開発について開発エンジニア約15名体制で取り組んでいますが、この増員及び強化を図ります。当社グループはこれらの体制の増員及び強化を通じて安価で質の高い海外の開発リソースを確保し、ソフトウエア開発のみならずシステム運営業務の海外移転を積極的に推進いたします。これにより、当社グループは、更なる原価及び研究開発費の低減を図り、グループ全体のシステム開発及び運営の生産性の向上を目指してまいります。
第二に、英語関連コンテンツ開発及び採点業務について、2020年度を目処にEdutech Lab, Inc.への完全移管を目指して移管プロジェクトを推進中です。当社グループは、主要サービスである英語関連サービスの更なる品質向上のために、テスト理論や英語教育分野の修士・博士課程修了者を中心に高度な訓練を受けた人材を確保してまいります。本書提出日現在、Edutech Lab, Inc.は約10人の専門家集団とその下に約60人コントラクターと契約し英語コンテンツの開発業務を行なっておりますが、事業の拡大に伴いグローバルなサプライチェーンを拡充し更なる生産性向上を実現してまいります。
第三に、当社グループは、英語以外の教科コンテンツ開発は各市場での開発、即ちローカライゼーションをより一層促進し、各事業の拡大に伴い各国の指導要領、個別特殊事情にきめ細かく対応する体制の構築を実現したいと考えております。
④ 株式会社旺文社との業務提携に基づく「スタディギア」ブランドでの多教科プラットフォームの提供等の教育メディアサービスの拡大
当社グループは、株式会社旺文社による資本参加を受けて同社との小中学生対象サービスに関する共同事業を開始いたしました。本事業は、当社グループが英検受験者をはじめ英語学習者に広く提供している英検公式オンライン学習アプリ「スタディギア for EIKEN」を通じて獲得した会員基盤(平成30年9月30日現在約196万人)に対し、英語を含む5教科について、学習する際の“つまずき”をなくすための学習解説動画及びドリル学習を小中学生に無償提供するサービスです。本サービスは、主にアプリ及びコンテンツ開発のための先行投資を必要とする一方、主な収益源として、株式会社旺文社等の教育コンテンツを保有するパートナーからのプラットフォーム利用料、広告収入、月額課金収入(プレミアム会員費)、有料コンテンツ販売を予定しております。本事業の収益化のためには、着実に個人及び法人ユーザーを獲得し、「スタディギア」のメディアとしての価値を高めていくことのみならず、更なる教育コンテンツパートナーとの連携強化が重要であると認識しております。当社グループは、的確なマーケティング戦略及び営業戦略を通じて本事業の収益化を図ってまいります。
⑤ 株式会社NTTドコモとの業務提携に基づく新規事業の収益化
当社グループは、株式会社NTTドコモと資本参加を含む業務提携を開始いたしました。当社グループは、これまで蓄積してきた英語学習に関する学習コンテンツ、能力アセスメントのノウハウを活用し、株式会社NTTドコモが開発・運営する英語4技能トレーニングのための学習サービス「English 4skills」に英語4技能学習コンテンツやAI自動採点技術を搭載したレベルチェックテスト等を提供いたします。当社グループは株式会社NTTドコモの営業戦略、マーケティング戦略を通じ本事業の収益化を支援してまいります。
⑥ AI手書き文字認識技術「Deep Read」の早期の事業応用とAI技術の活用領域の拡大
各種学力調査は、「知識・技能」を中心に問う手法から「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」を総合的に評価する手法へと移行しつつあり、記述式の出題が増加する傾向にある一方、これに伴う採点費用も増加しています。当社グループは、大規模な学力調査における記述式解答の採点効率化の観点から、ディープラーニングに基づくAI技術を用いた高精度な手書き文字認識技術「Deep Read」を開発してまいりました。当社グループは、早期に「Deep Read」を事業応用し、記述式解答の採点プロセスのイノベーションを実現することで競合他社との差別化を図る方針です。また、この文字認識技術は教育IT分野のみならずOCR(光学的文字認識)関連市場など他分野にも応用可能な技術と考えており、他分野への技術転用を積極的に進め当社グループのビジネスの拡大を図ってまいります。このため、当社グループは、平成30年4月に米国ボストンにDoubleYard, Inc. を設立し、優秀なAI人材の確保と研究開発活動を積極的に進めております。事業展開に関しましては、日本市場のみならず中国、インド市場を含む他市場での同時展開を視野に活動を開始しており、その結果、外資系大手金融機関、大手新聞社、大手BPO会社、政府関連機関、大学等との協業プロジェクトを受注しております。将来の大規模な受注に向けての準備として、現在は、年内の稼働開始を目標にAPI環境の整備等の準備を進めています。本サービスの提供形態として、サーバーの利用量に応じたクラウドサービス型従量課金モデルとオンプレミス型システムソリューション提供・運営モデルの2つを予定しています。
ディープラーニングを活用した技術及びサービスの開発手法は、他の分野へ応用することが比較的に容易であることから、当社グループは、手書き文字認識技術の開発で培ったAIを活用した開発力を他の分野に展開して当社グループ全体の商品及びサービスの競争力を高めていく方針です。当社グループがAIの活用を進める予定の領域として、自然言語処理(英語:Natural Language Processing、略称:NLP)とアダプティブエンジン(個人適応型学習管理システム)を考えております。これらの開発により、当社グループの全セグメントにおいて商品及びサービスの競争力の向上及び利益率の拡大を図ることができると考えております。
当社グループの開発する手書き文字認識技術、NLP等のAI技術の活用領域については、当社グループの従来の事業領域である文教市場のみならず、他の産業においても導入することで生産性の向上に資する可能性があると考えております。当社グループとしては、積極的に他の産業のパートナーとの協業を追求し、応用領域のみならず他産業への応用拡大を図りたいと考えております。
⑦ 海外事業の早期収益化
海外事業の課題として、当社グループが現在営んでいる以下の事業の早期黒字化と事業拡大を図るとともに、香港、シンガポール、米国法人において早期にロイヤリティ収入、キャピタルゲイン収入及び販売代理店収入の実現を図ります。
a) 中国自習室事業
約2年間のシステム及びコンテンツの開発準備期間を経て、当社グループは、平成29年夏より、新しい指導コンセプトである反転授業(Flipped Classroom)(注)を基本に、家庭学習と個人学習履歴のデータ分析をベースとしたコーチング型小学生向け個別指導学習塾事業を算数及び国語の二教科を始めとして展開中です。江蘇省無錫と湖南省長沙において直営校を運営し、またその他地域は地域代理店契約の締結等の事業提携を同時に推進しており、平成30年9月30日現在、華北、華東、中原及び華南省へ事業展開を進め、中国全国の展開都市数は47都市、運営する教室数は95、有料生徒登録数は約4,700人となっております。教材はオンラインと紙媒体の双方で提供しております。事業収入は直営店運営収入、加盟校登録料及び加盟校への教材とシステム提供によるロイヤリティ収入があります。今後の経営課題としては、早期の単年度黒字化及び中学生事業の展開を含めた更なる事業拡大、上海教材開発拠点及び無錫システム開発拠点の拡充、内部管理の体制強化、AI機能備えたアダプティブエンジン(個人適応型学習管理システム)の既存システムへの搭載による個人学習履歴データの解析の精度向上等があげられます。
(注)ブレンド型学習の形態のひとつで、生徒たちは新たな学習内容を、通常は自宅でビデオ授業を視聴して予習し、教室では講義は行わず、逆に従来であれば宿題とされていた課題について、教師が個々の生徒に合わせた指導を与え、また、生徒が他の生徒と協働しながら取り組む形態の授業をいう。
b) インド Kyoshi 事業
当社グループは、平成28年度に開始した中・高生対象の学習塾向けの単元テスト提供事業を再構築し、平成29年度より小中高生を対象とした紙媒体での理系4科目のアチーブメントテスト及び単元テストの提供を開始しております。平成29年に小・中・高校に全国規模で直接営業網を持つSmartclass Educational Services社との排他的販売パートナー契約を締結し、平成29年度10月から平成30年2月までの5ヶ月間の累計で約1万2,000テストを販売し実施いたしました。当社グループとしては早期に市場シェアの拡大を図りたいと考えております。今後の経営課題としては、早期の単年度黒字化、インドのプネのテスト開発拠点の強化及びバンガロール物流拠点の全国規模でのロジスティクスセンター化、項目応答理論を使った新テストの市場投入があげられ、将来的にはCBTテストの展開も視野に事業を展開する計画です。
c) 米国内を中心としたEdTechベンチャー企業等への投資事業
米国Edutech Lab, Inc.の子会社として、平成30年4月にEduLab Capital Management Company, LLCを米国ボストンに設立し、世界最大のEdTech市場である米国を中心に、中国、東南アジア、インド、日本のアーリステージのEdTechベンチャー企業への投資加速を目的に活動を開始しました。過去数年、米国のGSV Acceleration Fund I、Fresco Capital Education Venture Fund I及びLearnLaunch Accelerator IIへのLP(Limited Liability Partner )投資を含め、当社グループは、米国で6社、東南アジアで2社、イスラエルで2社のEdTechベンチャーへの直接投資を行いましたが、急速に変化・成長する世界のEdTech市場の動向にタイムリーに呼応するために、上記の通り別組織での投資事業展開を決定した次第です。今後は、EduLab グループの経営リソースを最大限活用した形で他のEdTechベンチャー投資ファンドとの差別化を図り、単なるキャピタルゲイン収入の追求のみならず、CodeMonkeyの中国での販売を一例とする投資先の商材の他地域での展開等により収益確保も目指していきます。
⑧ 内部管理体制及びコーポレート・ガバナンスの強化
当社グループの更なる事業の拡大、継続的な成長のためには、内部管理体制及びコーポレート・ガバナンスの更なる強化が重要な課題であると認識しております。当社は、監査役と内部監査の連携、定期的な内部監査の実施、経営陣や従業員に対する研修の実施等を通じて、内部管理体制の一層の強化に取り組んでいく方針です。
⑨ ネットワークシステムの強化
当社グループの提供する事業は、テストやラーニングツールの配信・提供をするにあたり、コンピュータ・システムを結ぶ通信ネットワークに依存しています。自然災害や事故等により通信ネットワークが切断された場合には、当社グループの事業に重大な影響を及ぼす可能性があります。このため、当社グループではセキュリティ対策やシステムの安定性確保に取り組み、海外でのインフラの二重化やバックアップ体制の構築などを通じて当社グループのサービス提供に支障が出るリスクを低減するための措置を充実していきます。
⑩ 人材の確保と育成
当社グループは日本市場のみならず海外市場での事業の拡大を見据え、研究開発、事業開発、営業・マーケティング、内部管理のすべての面において、海外オペレーションにも対応可能な優秀な人材の確保、採用、育成が重要な課題であると認識しております。特に、専門性の高いAIエンジニア、項目応答理論等のテスト理論の専門家、教育コンテンツ開発の専門家等を各海外拠点で積極的に採用してまいります。また、事業開発、ベンチャー投資分野においても専門性の高い人材の採用を積極的に進める予定です。新たに採用した人員に対しては充実した研修を実施するなど人材の育成に取り組んでおり、今後も採用と並行して新入社員への研修・教育制度を整備することで優秀な人材の確保・育成に取り組む方針です。