有価証券報告書-第17期(平成30年3月1日-平成31年2月28日)

【提出】
2019/05/30 13:45
【資料】
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【項目】
102項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社グループは「価値ある道具(ツール)を世界中の多くの人が使えるようにすること」を企業使命としております。
本当に「価値ある道具(ツール)」を使い活用することで、新しい働き方や組織の生産性を向上させることができ、時間や場所の制約も緩和し、組織に俊敏さをもたらすことができます。
この企業使命を実現するために、自分たちの技術・知識・ノウハウを最高に発揮し、お客様の価値向上と社会の発展に貢献する企業を目指してまいります。
(2) 中長期的な経営戦略等
当社グループの事業ドメインを「価値ある道具(ツール)の提供」と定義し、この事業ドメインを突き詰めていきます。
この事業ドメインを広義に解釈すると、大手ソフトウェアベンダーや技術系商社、そしてオープンソース(注1)など多くのプレイヤーが存在します。
これらのプレイヤーと同じ価値をお客様へ提供しても当社グループの存在価値が薄れるという考えより、国内では以下の差別化戦略を取っております。
・他プレイヤーが提供できない価値
海外で評価の高い道具(ツール)を輸入し国内向けに販売する場合、取扱製品は同様であるため、差別化しにくい状況となります。
しかし、海外で評価が高いということは、その理由があるはずであり、その理由の本質を理解し、顧客が抱える課題をどれだけ解決できるか、また、課題解決を実現するために必要な要素技術に関する知識、難しいことを分かりやすく伝える力などを付加することで他プレイヤーが提供できない価値をお客様へ提供します。
・既存顧客向け価値
当社の顧客は大企業が中心となっておりますが、当社のこれまでの戦略として、最初は一部署等の小規模組織に導入を促し、当該部署等での成功体験を足掛かりとして、他の部署等での導入や全社的な標準ツールとしての採用等の横展開を進めてまいりました。大企業においては、ひとたびプロジェクト管理ツールを導入すると、当該ツール上で数千規模のプロジェクトが管理されることとなるため、簡単にはリプレイスすることができず、継続率が高いという傾向があります。
今後においても、当社グループの豊富な技術力や導入実績、ノウハウを背景として、大企業を中心に既存顧客の更なる開拓に取り組んでまいります。
・潜在顧客向け価値
まだ国内には存在しないが必要とされている潜在的な道具(ツール)を必要とする潜在顧客がいます。
当社グループは潜在顧客をターゲットとして海外から道具(ツール)を探し出し国内へ提供します。
もし海外にも存在しない場合は潜在的な道具(ツール)を自ら開発することも検討します。
当社グループでは海外展開も実施しており、日本を除いた全ての国を市場としたグローバル市場に対し以下の戦略を取っております。
・Atlassianエコシステムなど慣れた市場から攻める
日本を除いたグローバル市場では国内市場とは異なる営業戦略や商品戦略が必要です。つまり対象とする市場に対する知識、ノウハウが無いと全く戦えません。
幸いなことに当社グループはアジアパシフィック地域(注2)においてAtlassian社製品のトップセールスを2年(2015年度「アジアパシフィック売上第1位」、2016年度「Top new business APAC」)連続で達成したため、Atlassian社に関連する市場(以下、Atlassianエコシステムと記載する)に詳しく、Atlassianエコシステムではリックソフトという名前が良く知られています。この有利な状況を利用し、Atlassianエコシステムから自社開発ソフトウェア製品(ツール)を海外展開する戦略をとってまいります。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
「価値ある道具(ツール)」はお客様が対価を支払っても欲しいものと考えます。
したがって、ツールであるソフトウェアに係るライセンス販売、ツールの環境構築、カスタマイズ、運用支援等のSI、ツールの稼働環境を提供するクラウドサービス、ツールのアドオン製品を提供するソフトウェア開発等から構成される「売上高」を重要な指標と位置付けております。
そして、「ツールソリューション事業」の拡大を推進し、継続的な成長及び企業価値の向上を実現していく上で利益を確保することは重要であり、「営業利益」及び「経常利益」を重要な指標と考えております。
(4) 経営環境
昨今のデジタルトランスフォーメーション(注3)の流れの中で、製造業、金融・保険業、そして卸売・小売業など多くの業種にAI(注4)、IoT(注5)、AR/VR(注6)という新技術の波が押し寄せております。この流れの中で、このような新技術のソフトウェア開発においては、従来のウォーターフォール型開発(ソフトウェア開発にあたり、要件定義、設計、実装、テスト、リリースまでのサイクルを一回で行う開発手法。サイクルは一年以上に及ぶケースが多い。)から、アジャイル型開発(要件定義、設計、実装、テストのサイクルを短く設定し、市場環境の変化を受けて要件定義を柔軟に変更する前提で順次開発する手法。サイクルは通常2週間程度。)へと、ソフトウェア開発手法のトレンドが変化しつつあります。ウォーターフォール型開発においては、開発開始から開発完了までの作業工程を最初に確定できるため、要件定義が変わらない前提においては効率的な開発が可能となりますが、新技術の開発という領域においては、ライバル製品の出現等、市場環境の変化のスピードが速いため、ウォーターフォール型開発では開発したソフトウェアの競争力が損なわれる恐れがあります。これに対応する開発手法がアジャイル開発であり、敢えてサイクルを短く設定することによって市場環境に応じた臨機応変な開発を可能とするものであります。また、短いサイクルで臨機応変に開発を進めていくアジャイル開発が更に発展した概念として、開発チームだけではなく運用チームまで巻き込んで組織的にPDCAサイクルを回していくDevOpsという概念も近年広がっております。
当社グループが主に取り扱うAtlassian社製品は、アジャイル開発やDevOpsを支える管理ツールであります。調査会社Gartner(注7)のレポートでは、Atlassian社製品はアジャイル開発ツールとして、「LEADERS」の中の1社として位置づけられております(出典:Gartner, Magic Quadrant for Enterprise Agile Planning Tools, : Keith Mann et al., 23 April 2018)。
また、日本国内における先進的なツール導入は海外に対して遅れており、Gartnerの調査(Gartner, Hype Cycle for Application Development and Delivery, 2018, Keith Mann, Rob Dunie, 09 August 2018、ガートナー「日本におけるアプリケーション開発のハイプ・サイクル:2018年」, Harutoshi Katayama, 25 September 2018)を基に推察すると、日本におけるエンタープライズ(注8)規模のアジャイル開発の浸透(注9)は、海外と比較して5年程度のタイムラグがあるものと推察され、アジャイル開発が国内に浸透していく流れの中で、国内における今後のAtlassian社のソフトウェア導入も今後進展していくものと認識しております。また、別の調査では、国内DevOps市場は2017年から2022年にかけて年平均20.8%成長と高い成長が見込まれております(出典:IDC Japan ニュースリリース2018年2月20日)。
(5) 事業上及び財務上の対処すべき課題
当社グループが対処すべき課題は以下のとおりです。
・国内向けに必要な技術者の確保
Atlassian社のソフトウェア導入支援において、当社グループが顧客から一定の評価を得ている根源的な価値は技術力にあるものと認識しております。当社グループのライセンス売上高のうち、当社グループによる導入時のカスタマイズまたは運用時のサポートサービスを利用する顧客が大半に上り、単純にライセンスのみを購入する顧客は限定的です。大半の顧客が当社グループの技術力やノウハウを活用し、Atlassian社のソフトウェアを利用しています。
一方、IT業界では慢性的な人材不足が続いており、優秀な技術者を確保することは非常に難しくなっています。
当社グループの経営戦略として、「価値ある道具(ツール)」の本質を理解し、顧客が抱える課題を解決できるようなソリューションを提案できる優秀な技術者が必要ですが、計画通りに獲得できない課題があります。現在は、技術者募集の工夫や育成により対処しています。
また、クラウドサービスの売上高は、2018年2月期112,002千円、2019年2月期177,166千円と順調に拡大を続けております。クラウドサービスの拡大はストック収益基盤の強化に寄与するだけでなく、当社グループのクラウドサービスを利用する顧客が広がることにより、顧客の環境に応じた個別の対応が不要になることから、技術者が一つのSI案件の環境構築等に要する時間を削減でき、技術者が対応できる案件数の増加が見込まれます。技術者採用や育成に加え、効率性を改善することにより対処する方針です。
・ソフトウェア開発者の確保
グローバル向けのソフトウェア開発では、Atlassian製品のノウハウがあり、UI/UXに優れたアプリを開発できるソフトウェア開発者が国内には少ないため、海外子会社 Ricksoft, Inc.でも採用する計画を立てています。
・Atlassianへの依存
当社グループの成長は「Atlassian製品」の市場の拡大に対し、大きく依存しております。しかし「Atlassian製品」への過度な依存は望ましくないため、中長期的には「Atlassian製品」以外のツール提供(Alfresco、Tableau等)の比率を高めていく必要があると考えております。
・グローバルな事業展開
2016年12月、米国に子会社を設立しグローバルな事業展開の礎を築きました。2018年2月期のソフトウェア開発売上高88,640千円の内訳は、国内企業に対する売上高が41,203千円、海外企業に対する売上高が47,436千円でありましたが、2019年2月期のソフトウェア開発売上高147,133千円の内訳は、国内企業に対する売上高が54,616千円、海外企業に対する売上高が92,517千円に成長しており、国内外ともに成長している中、海外企業に対する売上高の方がより高い成長を示しております。Atlassian社のソフトウェアは海外が先行して導入が進んでいるため、海外市場に対する「価値ある道具(ツール)」の自社開発拡大は、当社グループの価値向上に貢献し重要であると考えております。これらを達成するため、製品開発ならびにマーケティングとサポートのグローバル体制を強化し海外展開を加速させていく方針であります。
注1.オープンソース
ソフトウェアのソースコード(プログラミング言語で書かれた文字)を公開して自由に改良・再配布ができるようにしたソフトウェアのこと。
注2.アジアパシフィック地域
アジアから太平洋にかけての地域である。その範囲は曖昧だが、おおよそ、東北アジア・東南アジア・南アジアとオセアニアを合わせた地域を表すことが多い。また、Atlassianが定義した地域として他にはAMER(アメリカ)とEMEA(ヨーロッパ)がある。
注3.デジタルトランスフォーメーション
2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念で、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」。IoT、AI(人工知能)、ビッグデータ・アナリティクス(解析)など、デジタル技術を活用することで、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通じて価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。
注4.AI
人工知能(artificial intelligence)。人工的にコンピューター上などで人間と同様の知能を実現させようという試み、あるいはそのための一連の基礎技術を指す。
注5.IoT
モノのインターネット(Internet of Things)。センサーやデバイスといった「モノ」がインターネットを通じてクラウドやサーバーに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組み。
注6.AR/VR
ARとは「拡張現実感」「Augmented Reality(オーグメンテッドリアリティ)」のことで、周囲を取り巻く現実環境に、情報を付加・削除・強調・減衰させることによって、人から見た現実世界を拡張するものと定義されている。
VRとは「Virtual Reality(バーチャルリアリティ)」のことで、「表面上は現実ではないけれど、その本質的な部分では現実」という意味で、実体験に限りなく近い体験を得ることができる。
注7.Gartner
ガートナーは、ガートナー・リサーチの発行物に掲載された特定のベンダー、製品またはサービスを推奨するものではありません。また、最高のレーティング又はその他の評価を得たベンダーのみを選択するように助言するものではありません。ガートナー・リサーチの発行物は、ガートナー・リサーチの見解を表したものであり、事実を表現したものではありません。ガートナーは、明示または黙示を問わず、本リサーチの商品性や特定目的への適合性を含め、一切の保証を行うものではありません。
注8.エンタープライズ
大企業や公的機関などの比較的規模の大きな法人のこと。
注9.エンタープライズ規模のアジャイル開発の浸透
Gartner, Hype Cycle for Application Development and Delivery, 2018, Keith Mann, Rob Dunie, 09 August 2018
ガートナー「日本におけるアプリケーション開発のハイプ・サイクル:2018年」, Harutoshi Katayama, 25 September 2018
「エンタプライズ規模のアジャイル開発」につき、日本版は「黎明期の終盤」、海外版は「幻滅期の終わり」に位置づけ