有価証券届出書(新規公開時)

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2019/08/15 15:00
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88項目

事業等のリスク

当社の事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。また、必ずしもそのようなリスク要因に該当しない事項につきましても、投資者の投資判断上重要であると考えられる事項につきましては、投資者に対する積極的な情報開示の観点から以下のとおり記載しております。
当社はこれらのリスクの発生可能性を十分に認識したうえで、発生の回避及び発生した場合の迅速な対応に努める方針です。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであり、将来において発生の可能性のあるすべてのリスクを網羅するものではありません。
(1)ビジネスチャットツールにかかる需要動向について
働き方改革や労働生産人口減少に伴う企業の業務効率化に対する社会的要請等により、ビジネスコミュニケーションの効率化に対するニーズは急速に高まっているものと当社は認識しております。また、効率的なビジネスコミュニケーション手段として、その機動性等からチャットツールは有効であると考えております。
近年、チャットツールの導入企業は増加傾向にあると認識しておりますが、現時点における導入率は限定的であり、その潜在的需要は大きいものと考えております。
しかしながら、将来において経済情勢や景気動向の悪化等により、企業のITシステム投資、とりわけビジネスコミュニケーションへの投資の低迷が生じた場合には、市場拡大が当社の想定を下回る可能性があり、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(2)競合について
当社が事業を展開するビジネスコミュニケーション市場においては、各種ハードウェア・ソフトウェア及びサービスを提供する企業が多数参入しており、近年においては、クラウドサービス形態により関連サービスを提供する企業も増加しているものと認識しております。当該領域においてビジネスチャットツールを提供する企業も複数存在しており、これら企業との間で競合が生じております。また、一般にインターネット上で提供されるクラウドサービスは参入障壁が低いものと認識しております。
当社は、ユーザビリティや汎用性の高さ、強固なセキュリティ機能等を追求することにより、他社との差別化を図っており、今後も継続的にユーザー・インターフェースの改善や企業ニーズに応じた機能強化を実施していくことにより、サービスの競争力の維持向上に努めていく方針であります。
なお、当社は、競合企業の参入や拡大については、ビジネスチャットツール全体の認知度向上に繋がるものと考えられ、当社事業にとっても一定のメリットがあるものと考えておりますが、過度な価格競争等を含む競合の激化が生じた場合や、当社における十分な差別化が困難となり競争力が低下した場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(3)技術革新及び顧客需要の変化への対応について
当社が属するインターネット業界においては、市場及び顧客ニーズ、技術の変化が非常に速く、それに基づく新サービスの投入が相次いで生じております。
当社は、このような変化に迅速にキャッチアップすべく、最新の技術動向や企業ニーズ等を注視し、これら情報の収集やノウハウの習得、サービス開発に積極的に取り組んでおります。しかしながら、新技術や顧客需要の変化への対応が困難となる又は対応に遅れが生じる場合には、当社サービスの競争力が低下し、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(4)法的規制について
当社事業において、Chatwork事業については、主として「電気通信事業法」及び関連法令等の規制を受けており、届出電気通信事業者としての届出を実施しており、ユーザーの通信の媒介にかかる通信の秘密の遵守等が義務付けられております。なお、当該届出について有効期限の定めはございません。また、セキュリティ事業については、主として通信販売事業者として特定商取引法及び関連法令等の規制を受けております。また、当社は「Chatwork」サービスを、日本語を含め6か国語にて展開しており、海外各国に登録ユーザーを有しております。
当社事業は、比較的新しいビジネス領域であるため、国内外において今後新たな法令等が成立することで追加の規制を受ける可能性があります。現時点では特段認識しているものはありませんが、今後既存の規制への抵触あるいは何等かの新たな規制による当社事業運営への影響が生じる場合は、当社の事業展開、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
なお、近年、海外においては、EU加盟諸国における一般データ保護規則(GDPR)やベトナムにおけるサイバーセキュリティ法等の制定・施行等、各地域における個人情報やデータ保護にかかる規制強化が広く推進されており、これら動向により今後における当社の海外展開について制約を受ける可能性があります。
(5)特定事業への依存について
当社は「Chatwork事業」を主力事業と位置付けており、今後も当該事業を主軸とした事業展開に注力していく方針であることから、当社の事業成長は当該事業に依存しているものと認識しております。
当社は、上記「(1)ビジネスチャットツールにかかる需要動向について」に記載の通り、今後も継続した市場拡大を想定しておりますが、事業環境の変化や当社サービスの競争力低下が生じた場合、ビジネスチャット以外のビジネスコミュニケーションツールが普及する場合等には、当社事業における依存度が高いが故に、当社の経営成績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。
(6)フリーミアムにおける課金プランへの移行について
Chatwork事業におけるユーザー獲得は、フリーミアムによるものが多くを占めており、課金ユーザーの獲得においても、フリープランによるユーザー獲得から有料プランへの転換を促す手法が一定の割合を占めております。
フリープランにおいては利用可能なストレージ容量やグループチャット数の制限を設定しており、ユーザー企業における本格的な導入及び利用に際しては、当該制限の解消やユーザー管理機能等の必要性から一定割合にて有料プランへの移行が発生するものと想定しております。
しかしながら、将来において、ユーザー利用がフリープランの範囲で完結する様なライトユーザーの割合が増加した場合、結果的に有料プランの拡大に結び付かず、当社の事業成長が想定通りに進展しない可能性があります。
(7)提携先との関係について
当社は、「4 経営上の重要な契約等」に記載のとおり、KDDI株式会社に対してChatworkをOEM提供しております。同社との関係は良好であり、現時点において特段の懸念事項は生じておりませんが、今後において同社の販売戦略等の変更が生じた場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社は販売体制の強化を目的として、2018年12月期より販売代理店による営業活動を開始しており、現時点においては代理店開拓及びその立ち上げに注力しております。今後において、各販売代理店企業の事業展開等により今後の事業展開が当社の想定通りに進展しない可能性があり、その場合においても、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(8)マーケティング費用について
Chatwork事業においては、顧客獲得等を目的として、Web広告(リスティング広告)の出稿や働き方改革等をテーマとしたイベントへの出展費用等の広告宣伝活動を実施しております。現状においては、当社サービスについて一定の導入ニーズが生じていると考えられること及び事業ステージに応じた効率的なマーケティングが実現出来ていることから、マーケティング費用の大幅な増加は生じておりません。
しかしながら、当社サービスの集客力の低下や広告単価の上昇等が生じた場合には、事業展開に必要となる新たなマーケティング費用が増加する可能性があり、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
なお、現時点においては、新規ユーザー獲得のための一定のマーケティング費用を継続的に投下すること以外に大幅な費用拡大等は計画しておりませんが、将来におけるマーケットの急速な拡大に伴う当社のシェア獲得や競合他社のマーケティング戦略等への対抗等の必要性が生じた場合には、多額の支出を伴うマーケティング戦略等を実施する可能性があり、その様な状況が生じた場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(9)Chatwork事業におけるサービス領域の拡大について
Chatwork事業については、チャットツール利用にかかる付加価値向上等を目的として、広告サービス及びプラットフォームサービスを展開しております。当社においては、これらサービス拡大は、「Chatwork」のビジネスインフラとしての地位確立及び当社収益基盤の多様化に寄与するものと考えており、今後もプラットフォームサービスの拡充を含めて新たな事業領域におけるサービス展開を検討していく方針であります。
しかしながら、新たな事業領域やサービス展開にかかる追加的支出の発生や新規サービスにおいて収益獲得が進展しない場合、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(10)サービス価格について
当社事業においては、顧客ニーズを踏まえた適正なサービス価格設定に努めておりますが、自社サービスの機能強化や競合対応等を目的として、サービスにかかる価格改定を行う場合があります。
今後において、価格改定については顧客及び競合状況等を慎重に判断した上で実施していく方針でありますが、当社価格戦略と顧客ニーズにミスマッチが生じた場合には顧客獲得等に影響が生じる可能性があり、当社の経営成
績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(11)セキュリティ事業について
当社のセキュリティ事業は、Chatwork事業への経営資源の集中を図るため、経営資源の投入を抑制する形で事業を運営しており、2018年12月期においては当該セグメントについて売上高及び利益について減少が生じております。また、今後についても、当社として積極的に事業拡大を図る方針は有しておらず、事業縮小が継続する可能性があります。
なお、セキュリティ事業については、セキュリティ対策ソフト市場における競合や当社取扱製品の競争力の動向、メーカー又は日本総代理店の販売戦略の変更等の外部要因によって、当社事業展開に影響を及ぼす可能性があり、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(12)特定の人物への依存について
当社の代表取締役兼社長執行役員CEO兼CTOである山本正喜は、創業者かつ最高技術責任者として、当社の経営戦略の構築や実行及び技術的判断やプロダクトの開発において重要な役割を担っております。
こうした状況を踏まえ当社では、特定の人物に依存しない体制を構築すべく執行役員制度を導入し各部門責任者への権限委譲を随時推進する等により組織体制の強化を図り、安定的な経営体制の構築に努めております。
しかしながら、成長段階である現状において何らかの理由により、当人が当社の業務を継続することが困難となった場合は、当社の事業運営に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(13)小規模組織であることについて
当社の人員は、2018年12月末現在において91名にとどまっており、小規模な組織であると認識しております。当社は今後の事業規模の拡大に応じて人材の確保及び育成を進めるとともに、業務執行体制の強化を図る方針であります。
しかしながら、一般的にインターネット業界では人材の流動性が高く、特に足許ではITエンジニアに対して業界内の各社が獲得競争を行っている状況であると認識しております。こうした環境から、今後人材が機動的に確保できない場合、又は急な従業員の減少等があった場合には、当社の事業運営及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社は今後の事業拡大に対応するため、内部管理体制についても一層の充実を図っていく方針でありますが、事業の急速な拡大等により、事業規模に適した内部管理体制の構築に遅れが生じた場合には、適切な業務運営が困難となり、当社の事業運営に影響を及ぼす可能性があります。
(14)情報セキュリティについて
当社事業においては、サービス利用にかかるコミュニケーション等において、ユーザー企業等にかかる個人情報や機密情報が含まれており、これら情報にかかるデータ等を大量に取り扱っております。
当社は、役職員に対する個人情報取扱いにおける研修の実施、システム上のセキュリティ対策やアクセス権限管理の徹底に加え、情報セキュリティマネジメントシステム「ISO 27001」、「ISO27017」及び「ISO 27018」の認証を取得し、当該公的認証に準拠した規程・マニュアルの整備・運用を行うことで、情報管理体制の強化に努めております。
なお、当社では、2019年7月以降、第三者からのパスワードリストアタック攻撃(※)を受けたことから、ユーザーに対する二段階認証設定の喚起及び不正アクセスと見受けられる通信機器からのアクセスの遮断等の対策を講じることで、情報の漏洩防止にかかる一層の強化を図っております。
しかしながら、このような対策をとっているものの、万が一、外部からの不正アクセス、システム運用における人的過失、その他想定外の事態の発生により個人情報等が社外に流出した場合、当社の社会的信用の失墜又は損害賠償請求の発生等により、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
※パスワードリストアタック攻撃とは、外部の攻撃者が独自に入手した何らかのシステムに係るユーザーIDとパスワード対応リストを用いて、様々なITサービスへの侵入を試みる行為を指します。
(15)システムトラブルについて
当社事業は、そのサービス特性からサービス及びシステムについて高い安全性及び安定性が求められております。当社サービスは、インターネットを介してサービスを提供する形態であり、自然災害、火災等の事故、外部委託事業者における障害発生により、通信トラブルが生じた場合、継続したサービス提供等に支障が生じる可能性があります。
また、当社システムにおいて、ソフトウェア又はシステム機器等の瑕疵・欠陥等によるトラブル発生した場合、コンピュータウィルスやハッカーの侵入等によりシステム障害が生じた場合、サイトへの急激なアクセス増加や予測不可能な様々な要因によってコンピューターシステムがダウンした場合にも、同様のリスクがあります。
当社においては、顧客へのサービス提供が妨げられるようなシステム障害を回避すべく、定期的なバックアップ、システムの多重化等により未然防止策を実施しております。しかしながら、当該対応にも拘らず、何らかのトラブル等に起因して大規模なシステムトラブルが発生し復旧遅延が生じた場合、サービス継続に支障が生じた場合には、当社システム及びサービスに対する信頼性の低下やクレーム発生その他の要因により、当社の事業展開、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
なお、当社サービスのうちエンタープライズプラン及びKDDI Chatworkについては、サービス品質保証(SLA)を設定しており、サービスにかかるサーバー稼働率が設定された水準を下回った場合、利用料の一部を返還することとしており、障害等によって稼働率が低下しユーザー企業から返還申請が生じた場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(16)知的財産権管理について
当社では提供サービスの商標権等必要な知的財産権については登録を行い、また提供サービスの他社の知的財産権の侵害可能性についても弁理士等専門家を介して適宜確認をしております。当社はこれまで、特許権、商標権、意匠権等の知的財産権に関しては、他社の知的財産権を侵害したとして損害賠償や使用差止めの請求を受けたことはなく、知的財産権の侵害を行っていないものと認識しております。しかしながら、当社の事業に関連する知的財産権について、第三者における、当社が認識しない知的財産権が存在した場合、又は新たな特許等が成立した場合、当該第三者より知的財産権の侵害を理由とした損害賠償や使用差止め等の請求が行われることにより、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(17)過年度における継続的な損失計上について
当社は、過年度において、Chatwork事業にかかる継続的な事業成長を図るため、積極的な人材採用とシステム開発を実施しており、「第二部 企業情報 第1 企業の概況 1主要な経営指標等の推移」に記載のとおり、2014年12月期(第11期)から最近事業年度である2018年12月期(第15期)において、継続的な売上高拡大が図られたものの、先行的な費用負担により、利益面では損失計上が継続しておりました。
足許の2019年12月期(第16期)第2四半期累計期間においては、課金ユーザーの拡大等により、経常利益56,602千円及び四半期純利益46,407千円を計上し、黒字転換を実現しております。
当社主力事業であるChatwork事業は、サブスクリプション型課金モデルの特徴から、課金ユーザーのストック拡大により今後も継続的な利益計上が可能であると考えておりますが、ユーザー獲得や組織規模拡大のための費用負担が拡大した場合には、継続した利益計上が実現出来ない可能性があります。
(18)ソフトウェアの資産計上の可能性について
当社では、現時点において、ソフトウェア開発に係るコストを全額費用として計上しております。しかしながら、当社業績が継続的に拡大し黒字転換を実現したことを踏まえ、「研究開発費に係る会計基準」に従って資産計上することが適切であると判断した場合には、当該コストを資産として計上する可能性があります。その場合には、当該費用が減少する一方で、資産計上額及びそれに伴う減価償却費が増加し、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(19)税務上の繰越欠損金について
当社は税務上の繰越欠損金を有しており、期限内にこれら繰越欠損金の繰越控除を受ける予定であります。しかしながら、当社の業績が順調に推移することで繰越欠損金を上回る課税所得が発生した場合には、所定の税率に基づく法人税等の納税負担が発生するため、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(20)配当政策について
当社は、設立以来配当を実施した実績はありませんが、株主に対する利益還元を重要な経営課題として認識しており、剰余金の配当については、内部留保とのバランスを考慮して適切な配当を実施していくことを基本方針としております。
しかしながら、当社は現在、成長過程にあると認識していることから、内部留保の充実を図り、収益力強化や事業基盤整備のための投資に充当することにより、なお一層の事業拡大を目指すことが、将来において安定的かつ継続的な利益還元に繋がると考えているため、今後の配当実施の可能性及びその時期等については未定であります。
(21)ベンチャーキャピタル及びベンチャーキャピタルが組成した投資事業組合による株式売却リスクについて
本書提出日現在における当社の発行済株式総数は36,000,000株であり、このうち7,800,000株(所有割合21.7%)をベンチャーキャピタル及びベンチャーキャピタルが組成した投資事業組合(以下、「ベンチャーキャピタル等」という。)が所有しております。当社の株式公開後において、当社株式の株価推移によっては、ベンチャーキャピタル等が所有する株式の全部又は一部を売却する可能性が考えられ、その場合、株式市場における当社株式の需給バランスが短期的に悪化し、当社株式の株価形成に影響を及ぼす可能性があります。
(22)ストックオプションの顕在化リスクについて
当社では、当社の役職員(元役職員を含む)に対して、インセンティブを目的として新株予約権を付与しており、本書提出日現在における発行済株式総数に対する潜在株式の割合は11.1%となっております。また、今後もインセンティブプランとしてのストックオプション制度を継続していく方針であります。
これら新株予約権が行使された場合には、当社の株式が発行され、既存株主が有する株式の価値及び議決権が希薄化する可能性があります。