有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2019/08/15 15:00
【資料】
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【項目】
88項目

対処すべき課題


文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1)経営方針・経営戦略等
当社は「働くをもっと楽しく、創造的に」というミッションのもと、ITを通じて「すべての人に、一歩先の働き方」を提供するというビジョンとして掲げております。当社では「自然体で成果を出す」「いつも心にユーモアを」「オープンマインドでいこう」「ユーザーに笑顔を」「自分ごとで行動する」という5つのバリューを共通の価値観として大切にしながら、ITを活用し、仕事の効率化や新しく創造的な働き方を実現する製品やサービスの開発・提供に取り組んでおります。
こうした経営方針のもと、現在は主力サービスであるビジネスチャットツール「Chatwork」の普及とこれに関連するサービスの提供により、国内企業を中心とした顧客企業の働き方改革の実現や労働生産性の向上に貢献してまいる所存です。具体的な販売普及戦略としては、フリーミアムで獲得した無料ユーザーの課金化並びにアップセル等様々な施策による単価向上を促すようなサービス品質の向上及び連携サービスの充実、販売体制としての直販部隊の営業人員強化並びに提携代理店の拡充による販売網の拡充を事業戦略の柱として考えております。
(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社主力事業であるChatwork事業の収益の源泉は課金IDからの利用料となります。そのため、当社経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標は、課金ID数であると考えております。当該ID数の成長やその他付加サービスの拡大及び単価向上施策を推進することで、足許の事業計画対象期間(2019年12月期~2021年12月期)における今後のChatwork事業の年間売上高成長率について、最近事業年度2018年12月期における実績成長率(50%超)と同程度の水準を目指していきたいと考えております。
(3)経営環境
国内経済環境としては、生産年齢人口減少に伴う労働力不足が問題視される一方で、政府主導により時間外労働時間の上限引き下げ等の労働法規の改正といった働き方改革が推進される中、労働生産性の向上に向けたソリューションへの期待が高まっているものと認識しております。伊藤忠テクノソリューションズ株式会社が2017年2月に実施した「大手企業のビジネスチャットツール導入実態調査」 によると、チャットツール導入企業の導入理由としては「スピーディーなコミュニケーションができる」23.6%、「会議時間の短縮が期待できる」15.7%、「複数人での情報共有が容易になる(他部署間でのコミュニケーション活性化等)」13.9%(複数回答あり)と回答されていることから、チャットツールの導入によるコミュニケーションの効率化への期待は高いものと認識しております。こうした環境を踏まえると、当社の「Chatwork」の認知度拡大に伴い当サービスへの需要は拡大していくものと期待しております。
(4)事業上及び財務上の対処すべき課題
上記の経営方針・経営目標等を推進する上で、当社として捉えている対処すべき主要課題は以下のとおりです。
① ユーザビリティの更なる向上
当社の主要サービス「Chatwork」が今後も継続的な成長を果たしていくためには、より幅広い業種・業態の顧客に支持されると共に、継続的に選ばれる必要があると考えております。そのためには、当該サービスの優位性となっているユーザビリティの維持向上が不可欠であると認識しております。今後とも顧客のニーズの変化を迅速に把握し、継続的なユーザー・インターフェースの改善やタスク管理ツールの機能強化や絵文字等の拡充といった製品機能強化により、競合他社との差別化を図ってまいります。
② 顧客基盤の拡大
労働生産性向上に対する社会的要請の高まりに伴い、ビジネスチャットツールは国内企業において導入に対する期待が急速に高まっているものと認識しております。一方で、総務省の2018年「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」によると、国内におけるビジネスチャトツールの導入率は23.6%であり、欧米における各国の導入率(50%~60%台)と比較して低い状況にあり、現状の普及率を鑑みると、依然として潜在市場は広大であると認識しております。株式会社富士キメラ総研公表の「ソフトウェアビジネス新市場 2018年版」によると、国内ビジネスチャット市場は2017年度の62億円から2022年度には230億円にまで拡大するものと見込まれております。
現時点では、Web広告や口コミに基づくフリーミアムからの利用者の増加と、利用拡大に伴う課金ID化が当社成長の中心となっておりますが、今後更なる顧客基盤拡大のため、営業人員の増強や販売代理店の新規開拓といった積極的な販売網の拡充を行ってまいる所存です。また、既に展開している士業や介護、建設等の業種ごとの人脈やネットワークを活用した営業アプローチの推進を、他業種へも拡大してまいります。
また、ビジネスチャットツールは世界的に利用が普及しつつあります。当社では、「Chatwork」にかかる日本語を含む6か国語への多言語対応を行っており、日本国外において30万強の登録ユーザーを有しております。現在は、将来におけるサービス普及が期待されるアジア地域、特にベトナム及び台湾にて、日系企業の子会社・駐在所を中心としたターゲット顧客に対する営業活動及び将来の収益獲得の布石としてフリープランによる顧客獲得等を中心としたテストマーケティングを実施しております。今後において、各地域における外部環境やサービスにかかる認知向上等の状況を考慮しつつ、営業体制の拡充を含めた営業展開や更なる地域展開を検討してまいる所存であります。
③ マーケティング活動
当社の主力サービスである「Chatwork」はBtoBを主眼においたビジネスコミュニケーションツールであるため、単純な知名度向上を狙ったマス向け広告等のマーケティング実行は、事業ステージに見合わなければ有効には働かないものと考えております。
現在においては、ビジネスインフラとしての地位確立のためにも、実体のある利用者の拡大が重要なステージであると考えておりますので、利用ニーズのある企業等に対して適切なサービス紹介や競合対比での強みの訴求を行い、導入・利用を通じてその利便性を実感して頂いた上で企業内や口コミ経由で拡大していくことが、コストコントロールの観点からも適切なマーケティング戦略であると考えております。そのため、今後においても大幅な費用拡大は想定しておらず、適切な販促活動を行ってまいる所存です。なお将来においては、外部環境や競合、当社サービスの成長段階に応じて、当サービスのインフラ化の観点から適時適切にマス向け等の大きなマーケティング費用の投入を行う可能性もあります。
なお、当社は現在、兵庫県神戸市の谷上本店におけるコワーキングスペース「.me」の運営(「谷上プロジェクト」※1)を通じて、当該施設を活用したコミュニティ・マーケティング(※2)を推進しております。当該施設は、神戸市の協力のもと、ふるさと納税型クラウドファンディングにて調達した資金により設置しております。当該施設の運営については、一定の費用が発生するものでありますが、今後もコストコントロールを強化するとともに費用対効果を考慮しつつ、運営を継続していく方針であります。
※1 谷上プロジェクトとは、当社が神戸市北区谷上で運営するコワーキングスペース「.me」を中心とした取組みです。本プロジェクトを通じた企業家の育成と、当該企業家にChatworkを利用してもらうことで、当社サービスの知名度の向上と普及を図っております。
※2 コミュニティマーケティングとは、共通の理念や関心を有する団体(コミュニティ)を構築し、当該コミュニティに対して、あるいは当該コミュニティを起点として幅広く販促活動を行うことを指します。
④サービスの付加価値向上
当社が競争優位性を確保しながら持続的に成長するためには、前述のユーザビリティ向上に加えて、サービスの提供する付加価値を高め、高い継続率を確保することが重要であると認識しております。当社は、付加価値向上のため、経営資源サポート領域やデータ活用といったプラットフォームサービスにおける新たな提供サービスの開発・展開を推進し、「Chatwork」のビジネスインフラとしての価値向上に努めるとともに、収益基盤を強化してまいります。
⑤セキュリティの継続的な向上
当社の提供するビジネスチャットツールは、ビジネスコミュニケーションの根幹となるインフラ機能であるため、継続利用の前提としてセキュリティの確保は必要不可欠であります。当社では、自社による監視体制のみならず、外部業者による脆弱性の確認を継続的に実施し、必要な対策をとることでセキュリティの向上に努めております。当該対策には終わりはないと認識しており、今後も継続してセキュリティ向上に向けた対応を行ってまいります。
⑥優秀な人材の確保と育成
当社が持続的に成長するためには、優秀な人材を数多く確保・育成することが重要であると認識しております。特にサービス利便性及び機能の向上のためには、優秀なエンジニアの継続的な採用が課題であると認識しております。
当社は、従業員の多様な働き方を推進し採用力を高めるとともに、既存人材の能力及び技術の向上のため、教育・研修体制の充実化を進めていく方針であります。
⑦内部管理体制の強化
当社の提供する「Chatwork」サービスは、顧客ビジネスのインフラとなり得る機能であり、当該サービスの普及・利用にあたっては顧客企業よりインフラ提供会社である当社への信頼が獲得できるかが重要な点であると考えております。そのため当社では個人情報管理体制をはじめ、アクセス制限等のシステム統制、当社自身の内部統制体制の強化等を継続して検討・推進していくことで、より一層のコーポレート・ガバナンスの充実を図り、顧客からの信頼を獲得できるよう努めてまいります。