有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/09/30 15:00
【資料】
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【項目】
128項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、世の中の物理鍵とそれに伴う様々な制約から人々を解放し、扉で分断されたあらゆる場所や空間に人々が自由にアクセスできるキーレス社会の実現を目指しております。その実現を通じて、誰もが利用する鍵や扉を起点とした様々なサービスや価値を提供することで事業拡大を目指しております。
具体的な経営方針は以下の通りであります。
① 社会インフラとしてのキーレス社会の創出を通じた価値提供
近年、日本ではキャッシュレス社会が大きく進展しております。このキャッシュレスの仕組みは、スマートフォンやICカードなどの個人を証明する支払用ハードウェア、POSやカードリーダーなどのキャッシュレス決済受入のための認証ハードウェアインフラ、そしてそれらハードウェア機器やインフラのためのソフトウェアや決済トランザクションを支える認証システム等によって構成されており、従来の非デジタルな手段としての現金を置き換えております。
当社グループでは、この急速に進展したキャッシュレス社会と同様の産業構造を持ち、ユーザーのさらなる利便性や価値実現をもたらすキーレス社会が今後急速に進展すると考えております。実際に、社会インフラとしてのキーレス社会は、キャッシュレス社会と同様に、スマートフォンやICカードなどの鍵を開閉する個人を証明するハードウェア、スマートロックやカードリーダーなどの鍵に付帯する認証ハードウェアインフラ、そしてそれらハードウェア機器やインフラを支えるソフトウェアや認証のためのシステムによって構成されており、従来の非デジタルな手段としての物理鍵を置き換えております。
当社グループでは、キャッシュレス社会が急速に立ち上がったように、新たな社会インフラとして、誰もが利用する鍵や扉を起点としたキーレス社会を新たに創出し、セキュリティや生産性、利便性の向上に加え、ビジネスや日常におけるさらなる価値を提供することで、ハードウェア及びソフトウェア、そしてクラウド上のアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」をトータルで提供する社会インフラの企業としてのポジションを確立、拡大していく方針であります。これにより、セキュリティや生産性の向上だけに留まらない、IoTにより取得するビッグデータの利活用やアクセス認証基盤を通じた利便性や生産性の向上などの新たな価値を提供することで、企業や個人ユーザー、ひいては社会に貢献し、企業価値の拡大と事業成長を実現できると考えております。
② 認証インフラによるキーレスの適用領域の拡大
現在、当社グループはこの世界の実現に向けて、オフィス領域を中心に事業活動を行っております。そして直近では、美和ロックとの合弁会社を通じて、新たに住宅領域への事業領域の拡大を目指しております。
前述の通り、当社グループでは社会インフラとしてのキーレス社会を実現するためのハードウェアインフラ及び認証基盤を有しており、今後は、このオフィス領域で培った実績をベースに、住宅領域にもインフラとなるハードウェア機器及びソフトウェアを広く提案し、導入を拡大することで、リカーリングビジネスによる売上の拡大を目指しております。
また、当社グループの推進するキーレス社会は、あらゆる場所に存在する扉での認証を起点としているため汎用性が高いと考えており、今後はオフィス領域や住宅領域に加えて、医療機関や行政施設などの非商業施設、そしてホテルなどの宿泊施設やレジャー施設などの商業施設、さらには自動車や交通機関など扉の存在するあらゆる場所へとその対象を拡大していく計画であります。さらに、扉を起点に展開されるインフラを拡大していくことで、その認証を担うアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」のプラットフォームとしての価値も同時に向上すると考えております。この認証プラットフォームとしての価値の向上により、将来的には当社グループだけでなく外部のサービス提供事業者も共通認証プラットフォームとして利用できるサービス提供モデルを目指しております。
これらの取り組みによって、サブスクリプションモデルによるARRの増加を目指しております。
③ ユーザーへの提供価値を継続的に強化するビジネスの好循環モデル
当社グループのさらなる事業成長のための源泉は、アクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」であります。この認証基盤を中核とした既存のAkerun事業の拡大を通じて、認証のためのエッジ端末の導入の増加、ユーザー数のさらなる増加、1ユーザーあたりの利用可能な扉の増加により事業拡大を図る考えであります。さらに、Flywheel効果(注)として、このAkerun事業の拡大をベースにユーザー体験の向上や新規事業を含めた周辺領域へのサービス展開などのシナジーによるユーザーへの提供価値を向上させることで、成長のための好循環モデルを推進していく考えであります。
前述の通り、広範なユーザーを擁するアクセス認証基盤は、すでに社会インフラ、ひいてはキーレス社会の実現に向けたインフラとして一定レベルの規模を有していると考えており、今後もAkerun事業及び新規事業を通じてさらにこの規模を拡大し、事業成長を果たしていく考えであります。
(注) Flywheel効果とは、機械設備の用語として回転エネルギーを効率的に蓄え、持続的に回転が維持されるように設計された機械装置のことを指す「Flywheel」が転じて、企業における効率的かつ持続的な事業成長をもたらす仕組みやビジネスモデルのことであります。
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(2)当社グループの取り組む市場の規模
当社グループの事業が対象とする市場は、セキュリティ関連市場及び個人認証・アクセス管理型セキュリティソリューション市場であります。当社グループは、オフィス領域におけるこれら市場の市場規模(SAM)(注1)を4.5兆円(注2)と推計しております。また、これに住宅領域における市場を加えた市場規模(TAM)(注3)を6.4兆円(注4)と推計しております。これらは巨大な市場規模を有しておりますが、オフィス領域及び住宅領域における事業を両輪に、物理的な扉や錠前のセキュリティ及び認証のプラットフォーム化による社会インフラとしての地位拡大により、さらなる顧客基盤の拡大と事業成長を図る考えであります。
さらに、前述の通り、当社グループのAkerun事業におけるオフィス領域、住宅領域それぞれの特徴やサービスの強みに加え、アクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」によりもたらされるFlywheel効果(注5)により、これら市場からの需要に応えていく考えであります。そして、今後はセキュリティや認証だけにとどまらず、プラットフォーム上に蓄積されたビッグデータを活用したユーザー体験の向上や新規事業を含めた周辺領域へのサービス展開などのシナジーによる提供価値の向上を図ることで、キーレス社会の実現と当社グループの提供するサービスのプラットフォーム化による顧客需要の獲得と顧客基盤の拡大、そして事業成長を加速していく考えであります。
(注)1.SAMとは、Serviceable Available Marketの略で、特定のサービスや製品によりアプローチ可能な顧客セグメントの市場規模を示すものであります。
2.2,100万ドア × 1.8万円/月 × 12か月 = 4.5兆円。オフィスの入退室用ドアについて、非常灯の設置が義務付けられていることからドア数 ≒ 非常灯数と推定。300万個 (パナソニック社の資料より年間市場規模 ) × 7年 (リプレイスメントサイクル) ≒ 2,100万個を算出。現在のAkerun入退室管理システムの費用は1.8 万円/月。(出典・参考:2020年9月15日 建設通信新聞「建築物の非常用照明メンテ強化/パナソニック・ライフソリューションズ社(300万個)」、2012年7月 日本ロック工業会「錠の耐用年数についてのガイドライン(7年)」)
3.TAMとは、Total Addressable Marketの略で、特定のサービスや製品によりアプローチ可能な最大の市場規模を示すものであります。
4.(注2)のSAMに加えて、全国の総住宅数 6,240万 × 2,500円 × 12ヶ月 = 1.9兆円を加算。(出典・参考:2018年総務省「住宅・土地統計調査」。現在の家庭向けスマートロックの費用(2,500 円/月)。
(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループの優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題は以下の通りであります。
① さらなる新規ユーザーの獲得
当社グループの事業の基盤となる認証基盤「Akerun Access Intelligence」のユーザー数の増加が経営方針における最重要課題であると考えております。中核事業であるAkerun事業の各サービスは、既存の扉に後付け可能という特徴から、国内の企業や住宅における導入余地は非常に大きいものと考えております。
今後も営業体制の増員、販売チャネルの新規開拓と拡大、そして技術開発を通じたサービス自体の価値のさらなる向上などを通じて新規導入や追加導入を促進することで、それに伴うユーザー数の拡大を図ってまいります。
② 技術開発力の継続的な向上
認証基盤「Akerun Access Intelligence」を中心として、技術開発は当社グループの市場競争力の強化と持続的成長に欠かせないものであると認識しております。引き続き優秀な技術者の採用・育成を積極的に推進するとともに、開発体制への投資を通じた強化・拡充により、IoTや認証、クラウドなどに関する先端技術を取り入れるなど、ハードウェア、組込み、アプリケーション、Webなどの各開発分野のさらなる技術力及び開発力の強化に取り組む計画であります。
③ 利益及びキャッシュ・フローの創出
当社グループは、中長期的な利益及びキャッシュ・フローの創出を目指しておりますが、事業拡大のための先行投資を積極的に進めており、第7期事業年度(自 2020年1月1日 至 2020年12月31日)は営業損失を計上しております。
当社グループの収益の中心であるHESaaSビジネスは、サブスクリプションモデルで顧客にサービスを提供し、継続して利用されることで収益が積み上がるストック型の収益モデルである一方で、顧客獲得費用や開発費用が先行して計上される特徴があり、短期的には赤字が先行することが一般的であります。
当社グループでは、事業の拡大によりストック収益を順調に積み上げることで、先行投資として計上される費用を回収しており、今後も、当社グループの提供するサービスを通じて、中長期的な利益及びキャッシュ・フローの最大化に努めてまいります。
④ 営業のマルチチャネル化を通じた販売の拡大
さらなる事業成長に向けて、中核事業であるAkerun事業における各サービスのより一層の導入促進とそれに伴うユーザー数の増加が、当社グループの市場競争力の強化に必要であると考えております。この課題に対して、採用活動などを通じた営業組織の増員に加え、より広範な営業網を構築するための販売パートナーの新規開拓や関係性強化を通じて潜在ユーザーへの提案機会の増加を図る専任営業チーム、大規模企業向けの専任営業チームの育成・強化を積極的に進めてまいります。
⑤ サービス提供価値のさらなる向上と新規サービスの提供
当社グループが提供するサービスのさらなる導入促進とユーザー基盤の拡大、そして既存顧客の満足度の向上のために、従来から提供する入退室管理や勤怠管理にとどまらない、提供価値のさらなる向上と新規サービスの提供が必要であると認識しております。
当社グループでは、開発体制の強化・拡充を通じた新規サービスの開発に加え、外部のパートナー企業との技術連携によるサービス拡充を積極的に進めることで、ユーザーへの扉を起点としたさらなる提供価値の向上を図ってまいります。また、「Akerun来訪管理システム」、合弁会社を通じたAkerun事業の住宅領域への進出に加え、さらなる新規事業の開発を検討・推進してまいります。
⑥ 情報セキュリティ体制の強化
当社グループの提供するサービスでは、認証に用いる個人情報などの機密情報を取り扱っております。この情報資産を保護するため、当社グループでは情報セキュリティ基本方針を策定し、専任のセキュリティ担当者を設置しております。さらに、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)に関する国際規格「JIS Q 27001:2014(ISO/IEC 27001:2013)」の認証を本社及び大阪オフィス、福岡オフィスの各拠点で取得しております。また、技術開発にあたっては社内に専任の品質保証エンジニアを配置し、さらに外部のセキュリティ診断なども実施することで、システムとしての安全性と堅牢性の向上を図っております。これらの取り組みにより、情報管理体制を強化するとともに、従業員への継続的な情報セキュリティ教育を実施することで、情報セキュリティ体制を強化してまいります。
⑦ ガバナンスの強化
当社グループは鍵や認証というセキュリティに関する事業を行う企業として、ユーザーや市場からの信頼が必要不可欠であると考えております。情報管理、財務、IT、その他の社内制度などを含めた内部統制の継続的な策定、強化、改善を実施することで信頼を獲得し、企業価値のさらなる向上に取り組んでまいります。
⑧ 優秀な人材の採用と育成
当社グループの将来にわたる持続的成長に向けて、優秀な人材の採用と育成が欠かせないものと認識しております。特に、サービスの開発や継続的な改善によるサービス価値の強化を担うエンジニアの獲得と、さらなるサービス導入促進のための営業人員の確保が不可欠であると考えております。当社グループでは、優秀な人材の獲得に向けて今後も積極的な採用活動を実施するとともに、人材の育成と維持のための社内トレーニング体制の強化や企業文化の醸成などの施策を推進してまいります。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、中長期的に安定した売上収益を拡大させることが重要であると考えております。そのため、当社は達成状況を判断するための経営上の指標としてARR(Annual Recurring Revenue:毎年繰り返し得られる年次経常収益)を採用しております。