有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/05/26 15:00
【資料】
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【項目】
149項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、「Redesigning The Future Life」というビジョンのもと、データとテクノロジーの力によって、マーケティングを変革し、人々の生活をより良いものに、より充実したものにすることを目指して事業を展開しております。スマートフォン等の個人携帯デバイスの進化や、IoT(Internet of Things)などによるセンシングデバイス(注1)の日常生活への浸透、5Gを始めとした通信インフラの劇的な能力の向上によって、人々の生活のデジタル化は急速に進んでおります。そのようなデジタル社会の到来によって、消費者の消費購買行動は常に変化・多様化しており、マーケティング施策においてもその変化に対応する様々なソリューションが日々新しく生み出され、急速に発展し続けております。これら多様化し分断されている各種マーケティング施策を、様々なデータとAIによる独自の分析基盤によって集約・統合することで、多様な消費行動やその変化を常に把握し、的確に企業の製品・サービスの情報を消費者に届け、人々の生活をより良いものに、より充実したものにすることが当社グループの使命であると考えております。
また、デジタルマーケティングの世界は、インターネットの誕生をきっかけに、様々な環境変化を経て進化してまいりました。特にその進化の過程において消費者の行動データをマーケティングに活用する動きが活発化しております。一方で、昨今、それらのデータ活用における消費者のプライバシー保護が社会問題化しております。当社グループでは創業来、独自に開発したテクノロジーによって、さまざまなデジタルマーケティングの環境変化に対応してまいりました。健全なデータ活用によるプライバシーの保護という社会問題に対しても、当社の積み上げたテクノロジーアセットを活用することで適切に対応し、様々な産業にデータドリブンなソリューションを提供したいと考えております。
(注)1.センシングデバイス:スマートフォンのGPSによる位置情報計測や、スマートウォッチなどによるラ
イフログの計測など、IoT(Internet of Things)と呼ばれるインターネットに接続された様々なデ
バイス及び、そのデバイスに内蔵される計測装置。
(2)経営戦略
当社グループは、データプラットフォーム事業として、(1)データソリューションサービス、(2)海外コンサルティングサービス、(3)デジタルサイネージサービスの3つのサービスによって事業展開しております。経営戦略の策定においては、3つのサービスに対して、労働集約的なビジネスモデルである「コンサルティング」と、プロダクト販売による収穫逓増型のビジネスモデルある「データプロダクト」の二つに分類し、収益性の分析を行うことで、経営戦略上注力すべきサービスを定めております。
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これらビジネスモデル毎の売上総利益率は「コンサルティング」が約20%程度なのに対して、「データプロダクト」は約40%の高い水準を維持しております。(2021年10月~2022年3月の平均実績)。「コンサルティング」は、労働集約型の広告代理店型ビジネスモデルであるため、人的リソースが豊富な競合他社の大手広告代理店との競争環境の中では、売上高の拡大や収益性の向上が相対的に困難であるのに対し、「データプロダクト」は当社の強みであるデータと分析力を生かし、業界業種に特化した多種多様なプロダクト展開によって、収穫逓増型の高い収益性のビジネスモデルを構築しております。このような収益性の違いから、当社は「データプロダクト」に属するサービスの拡大に注力しております。「データプロダクト」の2021年9月期における、グループ連結売上高に占める割合は31%(36.7億円:前年比18%増)となっており、2022年9月期 第2四半期累計期間における、グループ連結売上総利益に占める「データプロダクト」の割合は52%まで拡大しております。
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以上から、当社グループでは、特に「データプロダクト」のビジネスモデルに属するデータソリューションサービスの「UNIVERSE」へ注力しており、当該領域のプロダクト開発や人的リソースへの投資を積極的に行うことで、データプラットフォーム事業全体の拡大を目指してまいります。
(3)経営上目標とする客観的な指標
当社グループの継続的な企業価値向上を達成するために、経営指標としては売上高、営業利益の成長を重視しております。データプラットフォーム事業の普及・拡大による売上高の拡大と、データとAI技術を活用したサービス性能や効率性の向上によって、高収益な事業を展開していく方針です。
経営指標を達成する為に「(2)経営戦略」に記載の二つのビジネスモデルにおける、データプロダクトの「UNIVERSE」の売上高拡大に注力しており、特にその売上高を構成する要素として、UNIVERSEの「稼働アカウント数(発注件数)」を重視しております。「UNIVERSE」を利用する企業は、一般的に当該企業が提供する製品ブランドやサービス毎に広告宣伝費を設定しているケースが多いため、単一企業であっても製品ブランドやサービス毎に複数のアカウントを開設・利用いたします。アカウント開設後、実際に製品のマーケティングを行う月ごとに発注申し込みを行うことで、当該アカウントによる広告配信が可能になります。この際の月ごとの発注~利用の件数を「稼働アカウント数(発注件数)」として経営指標を達成する為に重視する指標としております。
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また、当社サービスの「UNIVERSE」は、消費行動データを蓄積・分析することで、様々な業界業種に特化したマーケティングプロダクトを提供しております。外部企業から提供される消費行動データの拡大によって、新たな業界業種へ向けたプロダクトを開発することで、取引企業数の拡大を実現してまいりました。
そのような背景から、データ契約数の拡大により新たな業界業種に特化したプロダクト開発を推進することで、取引企業数の拡大を行いながら、同時にその企業内の取引ブランド数の横展開を戦略的に実現していくことで、アカウント数の拡大を図ってまいります。
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また、UNIVERSEにおいて業界業種に特化したプロダクト以外にも、従来型の広告プロダクトとして、行動ターゲティングと呼ばれる、予め用意されたユーザー毎の趣味嗜好のカテゴリを選択し、広告配信を行うプロダクトや、リターゲティングと呼ばれる、広告主サイトへの再来訪を促す広告配信手法を用いたプロダクトも提供しております。これらの従来型広告プロダクトを含めた、UNIVERSE全体の稼働アカウント数(下図:全稼働アカウント数)と、そのうち「Pantry」、「Circus」、「IGNITION」等の業界業種に特化したプロダクトにおける稼働アカウント数(下図:業界業種プロダクト稼働アカウント数)の推移は、以下の通りです。
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(4)経営環境
・当社グループのターゲットとする市場
当社グループが対象とする主要なマーケットとしては、インターネット広告市場になります。インターネット
広告の市場規模は、2021年が2兆7,052億円となり、前年比121.4%の成長となっております。また、インターネ
ット広告市場の推計が開始された1996年以来、初めてマスコミ四媒体広告費(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ広告
費)の2兆4,538億円を上回り、継続的に高い成長をしております。(出典:株式会社電通「2021年日本の広告
費」)
当社グループにおいては、インターネット広告市場の中でも、特に「運用型ディスプレイ広告市場(注1)」
が中期的なターゲット市場と判断しております。運用型ディスプレイ広告の市場規模は2021年に6,059億円となり、前年比134.1%の成長となっております。(出典:株式会社電通「2021年日本の広告費」)加えて、マスコミ四媒体広告費(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ広告費)においてもデジタルマーケティングへのシフトが進んでおり、当社では、今後5年で2,640億円程度の規模になると予測しております。(注2)
また、屋外広告、交通広告、POP広告(注3)、折り込みチラシ、ダイレクトメールなどの、プロモーションメディアと呼ばれる広告市場は、2021年で1兆6,408億円の規模(出典:株式会社電通「2021年日本の広告費」)となっておりますが、この領域も今後デジタル化が進行していくと判断しております。その中でも特に、屋外広告、交通広告、POP広告などが当社のデジタルサイネージサービスにおけるターゲット市場と考えておりその規模は、2021年で5,659億円となっております。
以上を総計し、1兆4,358億円が当社グループのターゲット市場であると考えております。
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・当社のポジショニング
当社グループは、広告・マーケティング市場における様々な事業を展開しておりますが、当社はその市場に
おける企業の中でも、様々な消費購買データを活用した、プロダクト化による事業展開に特徴があると考えて
おります。
専門人材の人的リソースによって、個々の企業の課題を解決する労働集約型の事業モデルに対して、当社
は、それらの課題解決に向けたソリューションを自社のシステム開発によってプロダクト化することで、収穫
逓増型のビジネスモデルを実現しております。
また、消費者の生活のデジタル化に伴って、広告・マーケティング領域においても、マスコミ四媒体(新
聞、雑誌、ラジオ、テレビ広告)などをはじめとする、旧来型の広告モデルのデジタル化が進んでおります。
特にデータを活用した、データドリブンなソリューションを開発することで、旧来型のマーケティングプロダ
クトでは実現が難しかった、消費者一人一人に適したマーケティング製品の提供を実現しております。
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・新型コロナウイルス感染症の影響に関して
当社グループが事業を展開する広告市場においては、新型コロナウイルス感染症の拡大に起因する経済活動の停滞から、企業の広告出稿の出し控えの影響によって、提供するサービス毎に、一定の影響を及ぼす可能性があります。
データソリューションサービスにおいては、2020年4月に発令された初めての緊急事態宣言直後は、広告出稿の出し控えによって業績への影響が発生いたしましたが、2021年下半期にかけて新型コロナウイルス感染症の影響は緩和されつつあり、業績影響は減少傾向にあります。新型コロナウイルス感染症による広告出稿の出し控えの影響は、物理的移動を伴う、旅行業やイベント関連の広告などが直接的に影響を受ける一方で、各種インターネットサービスや、ゲーム関連などの広告出稿は増加する傾向にあり、様々な業界業種へのサービス提供を継続することで、新型コロナウイルス感染症の影響を最小限に止めるよう努めてまいります。
デジタルサイネージサービスにおいては、特にタクシー内に設置したデジタルサイネージの広告需要が新型コロナウイルス感染症の影響により減少し、業績への影響が発生しておりました。2021年後半にかけて、新型コロナウイルス感染症下の生活様式が確立されてきており、事業に及ぼす影響は減少傾向にあります。また、ドラッグストアやスーパーマーケット等はコロナ禍においても人流減少が比較的少ないため、このような場所でのサイネージ広告の展開を加速することで、新型コロナウイルス感染症による影響を最小限に止めるよう努めてまいります。
海外コンサルティングサービスにおいては、売上の多くを占める台湾事業において、新型コロナウイルス感染症の影響を受けつつも、コロナ禍でも影響を受けにくい業種の取引社数の増加や、取引単価の向上によって、前年度比で業績が大きく改善しております。一方で、中国、ベトナムでの事業が、新型コロナウイルスの影響を受け業績が低迷しております。これら、新型コロナウイルス感染症によって業績影響を受けやすい収益基盤の脆弱な海外拠点に関しては、売却による撤退を検討しております。
(注)1.運用型ディスプレイ広告:インターネット広告の中でも、バナー(画像)型の広告で、広告を配信し
ながら広告効果に応じて配信設定や条件などを変更することで、広告効果を最大化させる運用が可能な
広告手法
2.電通発表の『日本の広告費』におけるマスコミ四媒体の新型コロナウイルスの影響を受けていない2017
年~2019年の平均成長率をもとに、向こう5年間でデジタル化される市場規模を独自に算定
3.POP広告:小売店舗の店頭や商品棚などに設置された製品広告
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 自社サービスの継続的な強化
当社グループのデータプラットフォーム事業における各種サービスは、自社開発による当社グループでしか提供できない独自の価値創造に注力してまいりました。特に顧客企業の業界業種に特化したサービス展開を重視しており、業界・業種ごとに最適な消費行動データの拡充、特化したAIによるデータ分析モデルの構築、様々なデータ活用手段の開発など、顧客企業の業界・業種毎に最適なサービスを提供できるよう努めております。今後も継続的なサービスの拡大を実現するために、それぞれの業界・業種の課題を的確に把握し、消費行動に対する深い洞察と仮説設計を行い、AIによる特化した分析モデルの構築につなげ、最適なマーケティングソリューションを開発し続けることで、競争力の強化と企業価値向上に努めてまいります。
② 新サービス等の継続的な事業創出
当社グループのデータプラットフォーム事業においては、業界・業種に特化したサービス開発を推進していくことを事業戦略の中心に据えておりますが、より多くの顧客企業のマーケティングニーズに応え、事業を拡大していく上では、常に新しい業界・業種のサービス開発を行っていく必要があると考えております。また、人々の生活のデジタル化が促進し、インターネットがより身近になっていく環境において、時代に即した新しいデータの獲得手法の開発と、スマートフォンやPCに限らず、新しいデバイスを活用した情報伝達手法の開発も重要であると考えております。絶えず消費者の生活の変化、行動の変化を捉え、新しい事業・サービスの創出に努めてまいります。
③ プライバシー保護に配慮したデータの利活用
当社グループでは、データソリューションサービスを中心に、外部の提携企業から消費者の行動データの提供をうけ、独自の分析を行うことで様々なサービス提供を行っております。データの受領や利活用にあたっては、プライバシーに配慮した細心の注意を払って取り組む必要があると考えております。インターネット上のプライバシー保護にあたっては、継続的に様々な議論が行われており、その動向は将来に渡って変化していく状態にあります。当社グループとしては、「個人情報の保護に関する法律」に基づく規制を初めとして、諸外国の関連法制の動向把握を積極的に行っていくことで、その変化に迅速に対応してまいります。また、そのような規制に基づいた、社内のデータ利活用における規律の強化、社員教育の徹底、プライバシー・バイ・デザインによるシステム設計を推進することで、プライバシー保護を前提としたサービス開発を推進してまいります。
④ 3rdPartyCookieの規制に向けた対応
当社グループでは、データソリューションサービスにおいて、外部の提携企業から消費者の行動データの提供をうける際に、WEBブラウザの3rdPartyCookieという技術を活用しております。現在、各WEBブラウザ提供企業において、プライバシー保護の目的の元、この3rdPartyCookieの利用を規制する動きがあります。具体的には、Google社が提供するChromeブラウザにおいて、2023年末に利用を停止する旨が公表されています。一方で、Google社からは、当社のような広告事業を行っている企業向けに、従来のビジネスモデルを継続する為の、代替技術が提供される予定です。すでに代替技術の技術仕様は公開されており、当社としては、その代替技術への対応を現在進めております。また、3rdPartyCookieに依存しない、新しいデータ活用技術や、広告配信技術の開発や提供も開始しております。当社のようなインターネット広告に関連する事業を行っている企業は、全世界で等しく同様の影響を受けるため、いち早く対応することで市場における優位性が獲得できると見込んでおります。
⑤ アドフラウド、ブランドセーフティへの対策
デジタル広告市場の急速な拡大に伴って、近年はアドフラウド(広告不正)問題や、不適切なメディアへの広告掲載による、企業のブランド毀損問題など、デジタル広告特有の問題が指摘されています。当社グループにおいては、そのような諸問題に真摯に向き合い、迅速かつ、継続的に適切な対策を講じる事で、安心安全なデジタルマーケティングサービスの実現を目指してまいります。
⑥ 人材の獲得及び、育成による生産性の向上
当社グループは、更なる事業拡大を実現していく上で、優秀な人材の採用と、継続的な人材育成および、組織への長期的な定着が必要不可欠であると考えております。引き続き、中途入社・新卒入社合わせて、積極的な採用活動による優秀な人材確保を推進してまいります。また、従業員の心理的安全性を重視した社内コミュニケーションの制度設計、教育制度の充実、個々人の能力開発の強化に取り組み、高い生産性を発揮できる組織体制の構築に努めてまいります。
⑦ 内部管理体制の強化
当社グループの更なる企業価値向上や事業拡大を実現する上で、各種業務プロセスの効率化や、適切なリスク管理を行うために、業容の拡大に応じて内部管理体制の強化が必要であると考えております。継続的な採用活動による管理部門の組織力強化を推進し、コーポレート・ガバナンスの充実に努めてまいります。