有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/11/21 15:00
【資料】
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【項目】
157項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)会社の経営方針・経営戦略等
当社グループは、「わたしたちは、MROを中心とする包括的な商品とサービスを提供することを通じ、サプライヤー、そしてパートナーとともに、お客様の価値の創造と間接コストの削減を実現し、日本の産業の変革と再活性化に貢献します」を基本理念として掲げております。
当社グループの対象市場は、多品種・少量かつ一件あたりが少額という特徴を持っており、当社グループの主要顧客である大企業グループにとって、①内部統制上の適切な購買管理と、②商品選定から、購買、支払までに至る購買プロセスコストや人手の削減、および③購買単価の低減は大きな課題となっています。一方、当社グループでは、MRO、FMの調達に特化したITシステムとサプライヤーの全国ネットワークを持ち、顧客グループからサプライヤーまでを含む多数当事者間のITシステムを相互接続するシステム運用能力を持つことから、多品種・少量・少額市場において、全ての取引当事者のDX(Digital Transformation)化を支援することができます。当社グループでは、このIT技術と事業の仕組みを用いて、多品種・少量・少額市場における「規模の経済」と「DX」を実現することを通じ、日本の産業界全体の効率化を実現するとともに、当社グループ自体の業績を向上させることを目指してまいります。
また、「私たちが大切にすること」という企業グループ共有の価値観については、
・新しい価値の創造に向けた強い情熱
・変革を実現するための機動性と柔軟性
・全ての業務における卓越性と誠実性のたゆまぬ追求
・仕事を通じた一人ひとりの成長と幸福の実現
の4点を掲げております。
当社グループの基本理念および私たちが大切にするものは、2006年に制定したものですが、現在もその経営の基本理念および企業グループとしての価値観に関する変更はありません。なお、英語版では以下の構成および文章となっています。
[Our Mission]
Revolutionize and revitalize Japan's industrial and commercial businesses through the creation of value and savings for customers with suppliers and partners as a comprehensive source of solutions for effectively managing MRO-related products and services.
[Our Values]
Passion for results that create value
Agility and execution that focuses on best outcomes
Excellence and honesty in all operations
Achievement of growth and fulfillment in both professional and personal lives
(2)経営環境
MROの物販市場における近年の大きな変化は、個人および中小事業者向けのBtoC(個人向け)型オンライン販売の急速な普及です。株式会社MonotaROや株式会社ミスミグループ本社および株式会社大塚商会などの電子商取引のプラットフォームベンダーが、従来、MRO商品販売の担い手であった機械卸商社などのシェアを奪い、売上を伸ばしています。これは、個人および中小事業者向け市場において、それまでオンラインでMRO商品を買える適切な仕組みがなかったためと考えられます。一方、日本の大企業グループでは、以前より企業グループ毎に独自のITシステムを活用しており、また、それぞれ異なる社内ルールでMRO商品の購買を行っております。
このような事業環境の下で、当社グループは、大企業グループの既存のITシステムと共存、あるいは一部機能を置き換えることが可能な電子購買プラットフォームを提供していることから、大企業グループ向けのMRO物販市場で、一定の地位を占めています。しかしながら、2021年の大企業向けMRO物販の市場規模は約1兆円(注)であると推計しているのに対して現状の当社グループのシェアは数%にとどまることから、需要開拓の余地は極めて大きいと考えております。特に、当社グループのお客様の中心である大企業グループの連結内部統制強化へのニーズは年々高まっており、多品種・少量・少額品に対する購買プロセスを子会社、関係会社を含む連結グループ会社全体でシステムの管理下に置くことができるという当社グループのITシステムと仕組みへの関心が自ずと高まると考えております。
FM事業の顧客である国内の商業施設市場は、新型コロナウイルス感染症の影響で大きな影響を受け、2020年から2021年前半までは、それまでインバウンド需要に支えられてきた宿泊施設や都市部の小型店舗を中心に、新規の投資案件が激減しました。しかしながら、2021年後半から、その事業環境を逆に生かすテイクアウト店舗の開店・改装や、売れ筋商品の変化に対応した郊外店舗の売り場改装案件が増加し、新たなビジネスチャンスが生まれてきています。また、2022年後半に入ると、諸物価の高騰に対応したコストダウンの要請が強まる一方、インバウンド需要対応の投資案件が復活し始めるなど、市場の状況は半年から年の単位で大きく変化しており、その変化に即応し、機敏に新たな需要を取り込んでいく努力が重要となっています。
(注)株式会社東京証券取引所による調査レポート「2022年3月期決算短信集計結果」において、市場第一部の売上高又は営業収益の合計額(ただし、売上高又は営業収益におけるMRO商品の購入高の占める割合が小さく、購入額を推計することが難しい卸売業、銀行業、証券、商品先物取引業、保険業、その他金融業を除く)である約507兆円の0.2%を当社グループの市場として推計しております。なお0.2%については、当社グループMRO事業の売上高上位10社(当社グループのシステムの利用率が低い顧客を除いた順位)における最近連結会計年度の連結売上高(各社有価証券報告書より)と当社グループの当該顧客グループ向け売上高の割合より算出しております。なお、一定の前提及び外部資料に基づき推計しているため、実際の市場規模と異なる可能性があります。
(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループの経営上の目標は、当社グループが提供するITシステムと仕組みを通じて、日本の産業界全体の効率化とDXを進めることを通じて、当社グループ自体も収益を上げることであり、その目標達成状況を計る指標は、当社グループのサービスの普及度を測れる連結売上高と当社グループの連結営業利益額となります。なお、MRO事業においては大手企業グループとの新規契約の獲得が大切ですが、契約時から本格的な売上計上時までの間のITシステム開発や相互接続に要するリードタイムが1~2年に及ぶケースが多いため、単年度の経営管理指標としては新規契約数を用いておりません。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループが優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題は以下の項目と認識しております。
①知名度および顧客からの信頼度の向上
当社グループの新規顧客獲得の上での最大の障害は、当社グループの知名度と顧客からの信頼度の低さです。当社グループは、MRO商品購買の担当者には一定の知名度を得ておりますが、その他では一般的に知名度は低く、顧客である大企業グループの購買部門が、当社グループに購買に係る重要な機能を一括して委ねようとした場合に、顧客グループ内での当社グループの知名度の低さが、信頼度の低さへとつながり、当社グループのサービスの採用過程での障害となる例があります。
また、当社グループの知名度が低いために、顧客グループのシステム切り替え時に、新規参入の機会を逃す例もあります。当社グループの知名度が高ければ、顧客グループのシステム切り替え時に、当社グループへの問い合わせ等から当社グループが商談の存在を知る可能性が高まりますが、知名度が低ければ、結果として当社グループが商談の存在に気付かず、その段階でビジネスチャンスを失うこととなります。
この知名度および信頼度の低さについては、当社グループが継続的に高品質のサービスの提供することを通じて、潜在顧客を含めた顧客からの信頼度向上に努めるほか、当社グループのサービス展開に関するプロモーション活動の強化にも努め、顧客側の認知度向上を図ってまいります。
②IT人材、およびコンサルティング人材の中途採用での獲得
当社グループの新規顧客開拓の速度が遅い理由の一つは、顧客企業グループのニーズを的確に捉えた提案を行い、かつ、その提案を顧客グループのITシステムと当社グループの提供するITプラットフォームとの連携により実現するIT設計のスキルのある人材が不足していることです。具体的にはITおよびコンサルティングスキルを持つ人材の不足が原因ですが、顧客が当社グループに期待する提案は、かなり高難度なものとなることが多いため、それができる人材の獲得は容易ではありません。
優秀な新卒社員の新卒段階での定期採用と、積極的な教育を進めてはおりますが、高スキルのIT、コンサルティング人材を育成するためにはかなりの年月を要するため、急速な顧客の拡大を進めるためには、優秀な人材の中途採用が必須となります。当社グループは中途採用については経験豊富ですが、優秀な人材の獲得には当社グループ自体の魅力を更に高める必要があり、当社グループがコンプライアンスや財務基盤において不安がないことに加え、成長企業であることを、対外的に、幅広く、かつタイムリーに示していくことが不可欠と考えています。
③新規顧客の獲得
当社グループと取引を開始した顧客の解約率は非常に低く、当社グループの売上拡大の鍵は新規顧客の開拓につきます。しかしながら、当社グループの中心顧客層である大企業グループが当社グループのシステムの導入を検討する機会は、顧客側で稼働中のITシステムの更新時期にほぼ限定されます。大企業グループの潜在市場規模は大きいものの、個々の顧客の市場に参入可能な時期は、一般的なITシステム更新の周期である5~6年に一回と限定されており、そのシステム更新時期を把握してタイムリーに提案を行い、採用されることが当社グループの事業拡大の要件です。
FM事業においては、必ずしもITシステムの更新がサービス切り替えの要件になる訳ではありませんが、他の理由によって、同様にサービス切り替えの機会が提供される時期は限定されます。他の理由とは、既存のサービス提供者が何らかの理由によって顧客の信頼を失いつつある状態や、顧客が当該サービスを受けるための社内の仕組みを変更しようとしている時期であり、不定期でのチャンス到来となります。そのチャンスをタイムリーに捉えなければ、従来のサービス提供者が優先して継続業者となるため、継続的な顧客との接触による情報収集と、タイムリーかつ説得力のある提案が必須となります。個別の環境変化は顧客やビジネス形態のポートフォリオによって吸収しつつ、商業店舗チェーンの開店・改装工事の「材工分離」(資材供給と施工を別の業者が行う形態)による資材供給集約化の効果である管理の一元化と調達コストの低減や、全国をカバーする修繕業者のネットワークによる均一なサービス提供と管理の一元化を訴求し、新たなビジネスチャンスを獲得してまいります。また、FM事業の分野では、業界全体でITシステムの活用は極めて限定的で、人手によるサービス提供が主流です。当社グループは、ITシステムへの深い理解と経験を競争力の源泉としておりますので、将来的には、FM事業においても、クラウドサービスやIoT技術の活用により、業務の効率化と顧客のニーズ獲得、深耕を進めて行く方針です。
当社グループはこれらの課題を解決し、従来以上に新規顧客の開拓に注力して、売上の拡大およびそれに伴う営業利益の拡大を目指してまいります。
④財務体力の改善
当社グループのバランスシートにおいては、休前日を除き、売上債権と棚卸資産残高の合計額と買掛債務がほぼバランスしており、帳簿上の運転資金は債権債務相殺でゼロとなっています(休前日のみ買掛債務が売上債権を上回ります)。しかしながら、月末日の支払の大部分は前日までに送金明細を銀行に指示する総合振込の振込予約を用いて支払うため、実際には月商の半分程度の自己資金を、月末日の前夜迄に銀行の普通預金口座に置くことが必要になります。
一方、当社グループの株主資本の大部分はITシステムのソフトウエア(無形固定資産)の取得に使われています。本来は、累積利益により生み出された資金で、休前日分を含めて運転資金は足りるはずなのですが、当社グループでは、いわゆる内部留保の大部分が当社グループの事業を支えるITシステムへの投資に充当されているため、銀行借入が必要な状況が継続しています。
今回の公募増資資金により、このITシステム投資の原資が得られ、資金問題は成長の制約条件ではなくなる予定です。また、将来は、システム投資の水準が一定額で頭打ちになり、減価償却費と新規投資額がバランスする結果、投資資金の問題は解決する見込みです。ただし、将来の不測事態に備え、金融機関からの一定額の借入は、資金コストを見ながら継続する予定です。その分、総資産効率(ROA)が悪化しますが、金利コストが極めて低い状態が継続すれば、自己資本利益率(ROE)への影響は少ないと考えております。
⑤コンプライアンスの遵守、および適時適切な情報開示
当社グループは、会社設立後、早い段階からコンプライアンス遵守の管理体制を構築してきたほか、適時適切な情報開示を行うため、上場企業の開示業務の経験者を採用しております。しかしながら、開示基準やコンプライアンスの遵守項目は日進月歩で進化しており、その変化に着実に追従して、正確な手続と開示を漏れなく行うことは高難度な業務です。当社グループでは、この点につき、今後、更に経験、知見を深めるとともに、専門家の的確なアドバイスを随時取得することにより、迅速かつ誤謬のない適切な開示に努めてまいります。