有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/10/27 15:00
【資料】
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【項目】
134項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
「細胞から希望をつくる」
「細胞のみから成る立体的な組織・臓器を患者さまへお届けする」
当社は、「革新的な三次元細胞積層技術の実用化を通じて医療の飛躍的な進歩に貢献する」という企業理念のもと、2010年の創業以来、「細胞だけで」立体的な組織・臓器を作製し、再生医療・創薬分野をはじめとする再生・細胞医療分野において、社会貢献することを企業使命として事業を進めてまいりました。
当社は、当社独自の人工の足場材料を用いることなく細胞のみで立体的な組織・臓器を作製することを可能とする三次元細胞積層技術(基盤技術)及びこの基盤技術を搭載した細胞版の3Dプリンタ(バイオ3Dプリンタ)を用いて作製した立体的な組織・臓器を「細胞製品」として実用化し、患者さまにお届けするとともに、将来的には、当社の事業拡大を通じて、日本発の本技術をグローバルに展開し、再生・細胞医療分野での中心的存在になることを目指しております。
(2) 中長期的な経営戦略及び経営環境
中期経営計画における事業戦略として、バイオ3Dプリンタの普及により「ベース収益の確保」と「シーズ育成環境」を実現し、研究用組織(創薬/再生医療研究用途等)で「細胞製品の実用化」を実現する段階を経て、中長期的に「再生医療等製品の承認取得」を目指し、再生医療ベンチャーとしての事業価値最大化を図ることとしております。
事業計画の基本方針及び当社事業を取り巻く経営環境は以下となります。
1. 再生医療等製品の上市(開発パイプラインの事業化)
2. 開発会社としての細胞製品の実用化に向けた研究開発体制及び上場会社としての経営管理体制の強化
3. 上市・上場後の飛躍的成長へ向けた開発パイプラインの拡充及びグローバル展開
① 再生医療領域
開発パートナー企業とともに、複数パイプラインの臨床開発を進め、再生医療等製品の承認取得を実現し、長期的ドライバとしての事業確立を目指します。
② 創薬支援領域
開発パートナー企業とともに、創薬支援分野において肝臓構造体の毒性評価モデルの事業化を実現し、中期的ドライバとしての事業確立を目指します。
2019年以降には、CAR導入細胞が相次いで承認される等、再生医療等製品市場は急速に拡大をし、また、2018年にはそれまで有効な治療法の存在しなかった脊髄損傷を対象とした製品が承認されるなど、再生医療によりこれまで存在しなかった新たな市場領域が生み出されました。こうした動きは今後iPS細胞技術並びに2020年にノーベル賞を受賞した「クリスパー・キャス9」といったゲノム編集技術と合わせて新しい細胞を用いた再生医療等製品の登場によりますます加速していくと考えられます。
「2020年度再生医療・遺伝子治療の市場調査業務」の最終報告書(アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社が国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)からの委託調査)では、国内の市場規模は2020年時点の250億円から2040年時点の1.1兆円規模まで拡大し、今後20年で40倍以上の規模に成長すると見込まれております。
領域別でみても、筋骨格領域、神経領域をはじめとして、様々な領域において急速に市場が拡大すると予想されています。
筋骨格領域に関しては、現在対象疾患から除外されている変形性膝関節症を対象とする再生医療等製品が上市することにより、適応となる患者数が大幅に増えるため、市場が拡大すると想定されます。
神経領域の疾患に関しては、脊髄損傷に対する再生医療等製品が承認されたことで、今後は、神経系にかかる治療法の普及とともに市場が大きく拡大していくことが予想されています。
これ以外にも、直近で角膜疾患を対象とした製品上市が続いている眼領域に加え、肝臓や腎臓が掌る内分泌・代謝の領域、心血管・血液領域、泌尿生殖器、消化器、昨今の新型コロナウイルス感染症のような感染症や呼吸器に関する領域などいずれの領域も、新たな製品が上市されることで再生医療の新たな治療領域として市場の拡大がより一層進んでいくことが予想されています。
一方、これらの再生医療等製品は細胞治療に分類されるものが主体であり、細胞懸濁液を静脈注射をする治療法になっています。今後は、より形状が複雑な製品として、二次元のシート状組織や三次元の立体組織を移植する製品群の開発が進行することが予測されております。
現在の再生医療領域がおかれている状況下にあって、移植待機患者数の増加等の社会的課題に対して、3D細胞製品のような社会的意義の大きい新たな再生医療等製品の誕生により、臓器移植の新たな選択肢としての再生医療が実現することへの期待が高まっている状況にあります。
③ デバイス領域
開発パートナー企業とともに、バイオ3Dプリンタによる基盤技術の普及を進めるとともに、再生医療領域において必要となる基盤技術の応用や新技術開発を継続し、基盤技術のグローバル・スタンダード化を目指します。
再生医療周辺産業においても、2015年から2030年までCAGR+23%での成長が予測されており、装置類や消耗品類、製造受託などのサービス類が市場をけん引すると見込まれております。また、再生医療に使用する目的以外にも、新薬開発や研究用の組織としての製造受託等の各種受託の需要も見込まれており、特に、創薬分野では三次元培養によって作製した細胞や3D細胞製品を用いて、生体内により近い環境下での、肝炎、肝臓病、がんなどに関する研究が行われています。
今後、再生医療の産業化・市場拡大が進み、神経、骨、血管などの各種組織・臓器を立体的に作製するニーズが増加することに伴って、再生医療周辺産業の市場もさらに拡大すると見込まれております。
バイオ3Dプリンタ(装置以外の各種消耗品も含む)市場では、大学や研究機関での技術導入に加え、今後は企業での導入が進むと予想されております。特に製薬会社の創薬・スクリーニングでは細胞の使用量が多くなるため、プリンタの需要が高まるとみられます。
さらに、立体的にヒトの皮膚を培養し化粧品のサンプルテストへの応用、医師の手術用練習ツールとしての人工臓器の作製などの様々な領域への技術応用が拡大しており、今後は、医薬における研究以外の様々な分野での需要拡大も予想されます。
(3) 目標とする経営指標等
当社は、細胞のみで作製された細胞塊(スフェロイド)を三次元積層するという、独自の基盤技術を活用して製造する細胞製品を活用した新たな再生医療市場の開拓及び確立を目指し、積極的にシーズ開発及び研究開発等の先行投資を行っている段階であり、2021年12月期においては黒字化を達成したものの、安定して利益を計上するに至っておりません。
このため、現時点において当社は、現預金残高水準(キャッシュポジション)を経営指標等としております。具体的には、今後、経済・金融環境の変化に備えて十分な手元流動性を確保し、中長期的な財務基盤の拡充をはかり、再生医療等製品の事業化(上市)に向けた開発を一切止めることなく達成するための経営指標等として、安定した資金力(キャッシュポジション)の確保・維持することを重視しております。具体的には、多様な資金確保手段を講じ安定的な現預金残高水準を確保・維持することに加え、中長期的には、開発パートナーからの契約一時金やマイルストン収入等、開発を進める細胞製品の承認取得、上市に伴うロイヤリティ収入等の実現により経営指標等の達成を目指してまいります。
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社は、①細胞製品の実用化・商業化、②経営基盤の強化及び③その他の課題の解決に向けて、以下の取り組みを進めております。
① 細胞製品開発の実用化・商業化
(a) 開発パイプラインの実用化
当社が、再生医療ベンチャーとして中長期的な企業成長と事業価値の最大化を図るためには、再生医療等製品の承認取得をはじめとして、当社独自の基盤技術から生み出される3D細胞製品の開発を着実に進め、継続的に開発パイプラインの価値を拡大・発展させていく必要があります。
当社では、早期の再生医療等製品の承認取得を目指し、当社が中心となってパイプライン開発を推し進め、高度な開発力・技術力等の専門性を有する複数の事業会社との間で構築した強固かつ効率的な共同開発体制に基づき開発を進めるとともに、将来の細胞製品の実用化・商業化を見据え、事業会社とのパートナリングを通じた製造販売体制を強化しております。
また、当社の再生医療等製品の商業化及び将来の安定的・継続的な収益構造の構築に向けて、さらなるパートナリングの強化によるバリューチェーン構築及び再生医療等製品のコスト低減に資する製造体制の整備を進めております。
さらに、当社の製品優位性に基づき将来の再生・細胞医療市場を牽引していくことを視野に入れ、原料の安定供給、製造、販売といった各機能についても、パートナー企業との戦略的な提携等を通じて、再生医療等製品の安定供給、マーケティング、顧客となる医療機関へのネットワーク、販路構築等の拡大に対処すべく体制強化に努めております。
加えて、現在の主要パイプラインに続く次世代の研究開発シーズの探索も重要であり、さらなる開発パイプラインの拡充を目指して、引き続き大学や研究機関との共同研究及び自社独自の研究開発についても促進しております。
(b) 基盤技術普及
当社では、将来の持続的な企業成長のため、再生・細胞医療領域における基盤技術のポジション確立及び次世代のパイプライン(研究開発シーズ)の普及・探索の拡大のため、事業活動とともに、バイオ3Dプリンタ等のデバイスを通じた基盤技術普及を着実に遂行していく必要があります。
そのため、当社は、バイオ3Dプリンタ「Regenova®」及び「S-PIKE®」について販売提携パートナーとともに、学会や展示会等での普及活動を進めベース収益の確保を進めるとともに、ユーザーの研究開発を支援し、ユーザーの論文投稿等今後の研究開発促進に繋がるフォローアップ活動についても継続してまいります。
また、バイオ3Dプリンタのグローバル展開を通じた基盤技術のさらなる普及拡大を通じて、当社の3D細胞製品開発のみならず、再生・細胞医療分野における様々な研究開発の促進及び新たなシーズの開拓の促進を目指してまいります。
② 経営基盤の強化
(a) 組織体制の強化
当社の製品開発の源泉は、開発会社としての研究開発力・技術開発力にあり、当社が再生医療等製品の承認取得へ向けたパイプライン開発や独自の3D細胞製品開発に必要となる技術革新を着実に実行していくためには、当社の基盤技術を習得した人材の確保及び人材の育成を中心とした組織体制を強化する必要があります。
そのため、研究者・技術者がそれぞれの専門性や能力を最大限に発揮できる組織体制を構築し、組織的な開発力・技術力の向上を図るとともに、開発や事業の進展に合わせ柔軟に組織体制の見直しを行い、組織体制の効率化を進めてまいります。
さらに、臨床開発に専門性を有する研究者・技術者の育成を中心とした開発組織体制を強化するとともに、企業の事業継続性を維持・向上していくため、高度な専門性を有する優秀な人材の確保及び将来の企業成長を牽引していく中核的人材の育成にも努めてまいります。
(b) コーポレート・ガバナンスの強化
当社では、経営会議制度及び執行役員制度を導入し、機動的かつ効率的な会社運営を促進するとともに、社内規程の整備・運用や、内部監査・内部統制システムの構築・運用を着実に進めることにより、社内の経営管理体制を強化しております。
当社の取締役会においては、様々な分野につき高度な専門性を有する社外取締役及び社外監査役が参加し、慎重かつ闊達な議論を行うことにより、経営の重要な意思決定及び業務執行の監督が十分に機能するとともに、取締役会に参加する執行役員が取締役会の意思決定に基づく業務執行を迅速に行う機能を担っております。
また、経営会議においては、経営幹部が各々の職掌にとらわれることなく、会社経営全般の視点及び多角的な視点から詳細な審議を行うことにより、代表取締役の機動的な経営判断を補佐しています。
さらに、当社は、全てのステークホルダーの皆様のご期待に応え、当社の持続的成長及び企業価値の向上を目指すべく、コンプライアンス及びコーポレート・ガバナンスの継続的強化・改善を経営上の最優先事項として掲げ、全社的に取り組んでおります。具体的には、コンプライアンス・リスク委員会を設置・運営しており、会社の事業遂行に関わる様々なリスクの分析・評価及びリスクに対する予防策・発生した場合の対応策を検討するとともに、恒常的なコンプライアンス遵守の体制構築・運用についても討議しております。
今後も、これらの仕組みを通じて経営者の業務執行に対する適宜適切な牽制を図ることにより、コーポレート・ガバナンスを強化してまいります。
(c) 財務基盤の強化
当社は、研究開発型ベンチャー企業であり、製品・サービスの販売及び技術ライセンス等の知的財産権の事業化により収益を安定的に確保できるようになるまでは、研究開発に対する多額の先行投資による継続的な営業損失と、営業キャッシュ・フローのマイナスを計上することになることから、将来の持続的な企業成長のため、収益の多様化や安定化を図り、財務基盤を強化する必要があります。
当社では、これまで、独立行政法人科学技術振興機構(JST)、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)及び東京都等の行政からの研究開発・技術開発に対する支援を得るなど効果的な開発資金の獲得及び開発投資により、様々な研究開発や技術開発を進めてまいりました。
また、当社では、効率的で安定した運転資金を確保するため、大手金融機関からの融資枠の供与や政府系金融機関からの長期借入を通じて対外信用力を強化する等、間接金融による財務状況の安定性強化に努めてまいりました。
今後も、細胞製品上市による安定的な収益実現まで、細胞製品及びデバイス関連の売上を伸ばす一方、研究開発費を中心とした事業活動資金を継続的に外部より調達し、予算管理の徹底を通じてコスト抑制を図るとともに、株式市場からの調達などを含めた資金調達手法の多様化を図ることで、事業活動に必要な資金の安定的かつ機動的な調達を通じて財務基盤の強化を目指してまいります。
③ その他の課題
現在、臨床開発段階にある再生・細胞医療分野における複数の主要パイプライン(細胞製品の開発シーズ)に加え、次世代のパイプライン(研究開発シーズ)の育成及び探索開発が進捗しており、当社ではパイプライン開発の着実な実行とさらなる開発体制強化へ向け、臨床開発への投入を主とした研究開発者・技術者の人員拡充及び施設整備・設備投資等を計画しております。