有価証券報告書-第18期(2023/01/01-2023/12/31)
②戦略
(a)気候関連のリスク及び機会
2023年末における気候変動関連リスクの評価対象、発生時期見込及び対策の状況
移行リスク
物理的リスク
2023年末における気候変動関連機会の評価対象、発生時期見込及び戦略と進捗状況
(b)気候変動リスクの財務的評価
当社は以下2つの手法で気候変動リスクの財務的評価に取り組んでいます。
一つ目は、インターナルカーボンプライスによる当社の各プロジェクトの経済性評価を実施しています。これは、世界では既に150以上の国・地域が2050年ネットゼロ宣言を行っており、今後更なる気候変動関連政策強化に伴い、各国においてカーボンプライス導入が進むと推測されるためです。当社ではIEA-STEPSのカーボンプライスを参考にインターナルカーボンプライスを毎年レビューしています。2023年からは、IEA WEOのカーボンプライス見通しを反映の上、所在国にカーボンプライス制度が存在し、政策コスト見通しを参照できる場合は当該コスト見通しを参照しています。カーボンプライス制度が存在しない場合は、2022年公表のIEA-STEPSのEU価格(2030年US$90/tCO2e、2040年US$98/tCO2e、2050年US$113/tCO2e)に連動した変動価格を参照しました。なお、2024年は、2023年公表のIEA-STEPSのEU価格に連動した値を採用しています。
二つ目は、当社の事業ポートフォリオの財務的評価です。IEA-APS及びIEA-NZEの油価とカーボンプライスが、当社ポートフォリオに与える市場リスクの財務的評価です。IEA WEOのIEA-APS及びIEA-NZEが提示している油価とカーボンプライスの推移を、プロジェクトのNPV計算に適用し、ベースケース適用のNPVからの変化率を、当社の事業ポートフォリオに対する影響として算出します。前提の置き方など難しい点があるものの当社の事業ポートフォリオの財務的評価の一つの手法として実施しています。引き続き事業環境の変化を織り込みながら、本手法の運用基準の深化及び当社の事業ポートフォリオの競争力向上に努めていきます。
(c)当社の低炭素社会シナリオ
2050年までの低炭素社会に向けたエネルギー需給などの事業環境の見通しについて、当社はIEA-STEPS、IEA-APS及びIEA-NZE、日本エネルギー経済研究所のレファレンスシナリオ及び技術進展シナリオを参照し、長期的な将来のエネルギー需要や顧客動向等の事業環境分析を行っております。当社は、これらのシナリオを活用し長期的な経営戦略として2022年2月に「INPEX Vision @2022」を策定しました。今後もシナリオのレビューを用いながら事業環境の変化をいち早く把握し、社会の動向に合わせ経営戦略・経営計画の見直しを行っていきます。
(d)当社が参照している主要なシナリオ
国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook(WEO)
・公表政策シナリオ(IEA-STEPS)
・発表済み誓約シナリオ(IEA-APS)
・2050年ネットゼロ排出シナリオ(IEA-NZE)
日本エネルギー経済研究所
・レファレンスシナリオ
・技術進展シナリオ
(a)気候関連のリスク及び機会
2023年末における気候変動関連リスクの評価対象、発生時期見込及び対策の状況
移行リスク
リスク区分 | リスクの評価対象 | 発生時期 見込 | 対策の状況 | |
政策・法規制 (Scope1排出量関連) | 当社グループが事業を操業する国・地域が気候変動対策を強化し、カーボンプライシング制度やメタン排出管理規制等の環境関連法令、規則及び基準の予想より早い導入・強化によりコストが増加するリスク | 短期 | 中期 | ・カーボンプライス政策動向など、外部環境の継続的なモニタリング |
・インターナルカーボンプライスを適用した経済性評価をベースケースとして実施。インターナルカーボンプライスは、国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook(WEO)の公表政策シナリオ(IEA-STEPS)のEU価格又は各国のカーボンプライス見通しを基に継続的に見直し | ||||
・排出量削減の取り組みとして、プロジェクト操業におけるクリーンエネルギーの導入や排出低減策の実施 | ||||
・メタン排出原単位0.1%を維持するための管理 | ||||
・OGMP2.0に加盟し、Non-Operation部分も含めたMRV(Measurement, Reporting and Verification )を強化 | ||||
・関連するステークホルダーとのエンゲージメント | ||||
技術及び市場 (石油ガス需要・価格の低下) | ・低炭素関連技術が加速度的に進展し、再生可能エネルギー・EV・電池等のコスト低下、あるいは市場の低炭素エネルギー選好により、石油ガスの需要低減または価格低下が進行するリスク ・顧客が排出原単位の低いガス/LNGを嗜好するリスク | 中期 | 長期 | ・技術・市場動向のモニタリング |
・IEA WEOの発表済み誓約シナリオ(IEA-APS)を主要シナリオとして財務的評価を実施。2050年ネットゼロ排出シナリオ(IEA-NZE)にも留意 | ||||
・操業の低炭素化・低コスト化の追求 | ||||
・ネットゼロ5分野への取組みの加速 | ||||
レピュテーション (Scope1,2排出量関連) | ・2030年以降のScope1,2における絶対排出量目標を求められるリスク ・2050年ネットゼロに向けた移行計画が不十分だとみられるリスク | 短期 | 長期 | ・2050年ネットゼロ、2030年排出量原単位30%以上低減目標の設定。更なる目標の検討 |
・2030年頃にCCSによるCO2圧入量年間250万トン以上達成を目標とし、技術開発・事業化を推進 | ||||
・メタン排出原単位(メタン排出量÷天然ガス生産量)を現状の低いレベル(約0.1%)で維持 | ||||
・2030年までに通常操業時ゼロフレア | ||||
・事業ポートフォリオ見直し | ||||
・国際機関や金融市場及びクレジット市場の動向モニタリング | ||||
レピュテーション (Scope3排出量関連) | Scope3削減目標の設定を求められるリスク | 短期 | 中期 | ・Scope3排出量の低減に向けたステークホルダーとのエンゲージメント |
・販売先の排出量削減に向けた取り組みの検討 | ||||
・カーボンニュートラルLNGの販売 | ||||
資金調達 | 投資家や金融機関から当社グループの事業内容やGHG排出量削減に向けた取り組み及び情報開示が不十分とみなされ、資金調達に悪影響を及ぼすリスク | 短期 | 中期 | ・プロジェクトのGHG排出量削減に向けた取組みの推進 |
・TCFD提言に沿った情報開示の推進 | ||||
・投資家や金融機関との対話・エンゲージメントの実施 | ||||
・資金調達先の多様化に向けた検討 |
物理的リスク
リスク区分 | リスクの評価対象 | 発生時期 見込 | 対策の状況 | |
急性 | 熱帯低気圧や洪水等の極端な気象現象が、操業施設に悪影響を及ぼすリスク | 短期 | 中期 | ・定期的に急性物理的リスク評価を実施 ・適切な計画、修繕、操業、訓練、外部情報活用等による自然災害への備え |
慢性 | 長期的な平均気温上昇、降雨パターンの変化、海面上昇等が操業施設に悪影響を及ぼすリスク | 中期 | 長期 | ・定期的に慢性物理的リスク評価を実施 ・沿海部の施設における対海面上昇対策の実施 |
2023年末における気候変動関連機会の評価対象、発生時期見込及び戦略と進捗状況
機会区分 | 機会の評価対象 | 発生時期 見込 | 戦略と進捗状況 | |
資源の効率に関する機会 | 生産プロセスでのエネルギー効率改善 | 短期 | •豪州イクシスLNGプロジェクトにおける生産時の燃料ガス・フレア削減イニシアチブ、ガス漏洩検知・修理(LDAR)プログラム等を通じた低炭素化操業を推進 | |
エネルギー源に関する機会 | 再生可能エネルギー電源の生産プロセスでの活用 | 短期 | 中期 | •イクシスLNGプロジェクトにおけるバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)及び小規模太陽光発電設備の導入 |
中期 | 長期 | •イクシスLNGプロジェクトにおけるオンサイトコンバインドサイクル発電プラントから再生可能エネルギー由来系統電力への切り替えに係る検討推進 | ||
長期 | •ウィスティング油田開発計画で陸上水力発電による給電の可能性を追求 | |||
製品及びサービスに関する機会 | CCUSの推進 | 中期 | •南阿賀鉱場でのCO2EOR実証試験において、圧入試験を実施し、次のフェーズへの移行を検討 | |
•インドネシア・タングーLNGプロジェクトでのCCUS事業開発検討 | ||||
•既存の豪州Darwin LNG及び東チモール共和国海域Bayu Undanガスコンデンセート田の施設及びパイプラインを活用したCCS事業の検討 | ||||
長期 | •PETROS社との共同協力協定を通じたマレーシアでのCCS事業可能性の調査を継続 | |||
•独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構による令和5年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」委託事業において、当社が関与する「首都圏CCS事業」と「日本海側東北地方CCS事業」が採択され事業可能性の調査を実施中 | ||||
•豪州ボナパルト海域CCS鉱区での震探・掘削作業に向けた評価・準備作業中 | ||||
•インドネシア・アバディLNGプロジェクトで将来的なCCS事業(第3者由来のCO2受け入れ)の可能性を検討 | ||||
水素事業の展開 | 中期 | •新潟県柏崎市での水素・アンモニア製造実証事業について、地上設備の敷地造成工事とCO2圧入・生産・観測井掘削に向け、地上プラント工事着工(2023年7月)、2025年中に運転開始予定 | ||
•アブダビにおけるクリーンアンモニア事業への参画機会を追求中 | ||||
•エア・リキード グループ、LSB Industries社及びVopak Moda Houston社と共同で、米国テキサス州ヒューストン港における大規模低炭素アンモニア事業のPre-FEEDを開始 | ||||
•Green Hydrogen International社と共同で、米国テキサス州南部におけるグリーン水素事業の共同スタディ契約を締結 |
機会区分 | 機会の評価対象 | 発生時期 見込 | 戦略と進捗状況 | |
製品及びサービスに関する機会 | 水素事業の展開 | 長期 | •川崎重工、岩谷産業が共同出資する日本水素エネルギー会社(JSE)に資本参加し、国際液化水素サプライチェーンの構築に向けた日豪間での実証事業に参画 | |
再生可能エネルギー事業の拡大 | 短期 | 地熱:インドネシア・ムアララボ地熱発電プロジェクトの追加開発 | ||
中期 | 風力:長崎県五島沖洋上風力の建設推進 | |||
地熱:秋田県小安地熱プロジェクトの建設推進 | ||||
カーボンリサイクルの推進 | 中期 | •メタネーション技術開発事業として2026年中の運転開始を目指し、プラント設備工事を実施 | ||
長期 | •アブダビにて、Masdarとe-methane製造事業の実現に向けた共同調査契約を締結 | |||
•アブダビにて、Masdar・三菱ケミカルグループとグリーン水素由来のポリプロピレン製造を含むカーボンリサイクルケミカル製造事業の実現に向けた共同調査契約を締結 | ||||
•人工光合成の研究開発を推進 | ||||
新分野事業の開拓 | 中期 | •インドネシアにおけるバイオメタン供給事業に関する詳細検討の開始 | ||
中期 | 長期 | •ドローン活用、メタン直接分解、CO2回収、蓄電池関連事業などの検討 | ||
•CO2と水を原料にグリーンなギ酸を製造する技術を開発する米国企業「OCOchem」に対し出資 | ||||
長期 | •フュージョンエネルギー(核融合反応によって放出されるエネルギー)の早期実現を目指す、京都フュージョニアリング株式会社に対し出資 | |||
カーボンニュートラル商品の販売促進 | 短期 | •カーボンニュートラル商品販売 | ||
森林保全の推進 | 短期 | •オーストラリア・ニュージーランド銀行及びカンタス航空との豪州でのカーボンファーミング及びバイオマス燃料事業について、2023年8月に植林を開始 | ||
市場に関する機会 | エネルギー供給の多様化 | 中期 | •再生可能資源由来燃料であるリニューアブルディーゼル(低炭素軽油:RD)の国内提供 | |
よりクリーンな天然ガスの開発 | 中期 | •イクシスLNGプロジェクトでのCCS導入、生産能力引上げ、拡張も視野に入れた検討推進 | ||
•インドネシア・アバディLNGプロジェクトでのCCSの導入を含め事業推進 |
(b)気候変動リスクの財務的評価
当社は以下2つの手法で気候変動リスクの財務的評価に取り組んでいます。
一つ目は、インターナルカーボンプライスによる当社の各プロジェクトの経済性評価を実施しています。これは、世界では既に150以上の国・地域が2050年ネットゼロ宣言を行っており、今後更なる気候変動関連政策強化に伴い、各国においてカーボンプライス導入が進むと推測されるためです。当社ではIEA-STEPSのカーボンプライスを参考にインターナルカーボンプライスを毎年レビューしています。2023年からは、IEA WEOのカーボンプライス見通しを反映の上、所在国にカーボンプライス制度が存在し、政策コスト見通しを参照できる場合は当該コスト見通しを参照しています。カーボンプライス制度が存在しない場合は、2022年公表のIEA-STEPSのEU価格(2030年US$90/tCO2e、2040年US$98/tCO2e、2050年US$113/tCO2e)に連動した変動価格を参照しました。なお、2024年は、2023年公表のIEA-STEPSのEU価格に連動した値を採用しています。
二つ目は、当社の事業ポートフォリオの財務的評価です。IEA-APS及びIEA-NZEの油価とカーボンプライスが、当社ポートフォリオに与える市場リスクの財務的評価です。IEA WEOのIEA-APS及びIEA-NZEが提示している油価とカーボンプライスの推移を、プロジェクトのNPV計算に適用し、ベースケース適用のNPVからの変化率を、当社の事業ポートフォリオに対する影響として算出します。前提の置き方など難しい点があるものの当社の事業ポートフォリオの財務的評価の一つの手法として実施しています。引き続き事業環境の変化を織り込みながら、本手法の運用基準の深化及び当社の事業ポートフォリオの競争力向上に努めていきます。
インターナルカーボンプライスによる プロジェクトの経済性評価 | 各種シナリオによる ポートフォリオの財務的影響評価 | |
評価手法 | カーボンプライス政策が、プロジェクトの経済性に与える影響を評価 | 下記シナリオによる油価及びカーボンプライスによる影響を評価 |
● IEA-APS | ||
● IEA-NZE | ||
指標 | インターナルカーボンプライス適用によるIRR (ベースケース) | 上記指標価格適用によるNPV変化率(感応度分析) |
取組み状況 | 2021年度よりベースケース化 | 2018年より実施しており、2022年度よりIEA-NZEシナリオを追加 |
(c)当社の低炭素社会シナリオ
2050年までの低炭素社会に向けたエネルギー需給などの事業環境の見通しについて、当社はIEA-STEPS、IEA-APS及びIEA-NZE、日本エネルギー経済研究所のレファレンスシナリオ及び技術進展シナリオを参照し、長期的な将来のエネルギー需要や顧客動向等の事業環境分析を行っております。当社は、これらのシナリオを活用し長期的な経営戦略として2022年2月に「INPEX Vision @2022」を策定しました。今後もシナリオのレビューを用いながら事業環境の変化をいち早く把握し、社会の動向に合わせ経営戦略・経営計画の見直しを行っていきます。
(d)当社が参照している主要なシナリオ
国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook(WEO)
・公表政策シナリオ(IEA-STEPS)
・発表済み誓約シナリオ(IEA-APS)
・2050年ネットゼロ排出シナリオ(IEA-NZE)
日本エネルギー経済研究所
・レファレンスシナリオ
・技術進展シナリオ