有価証券報告書-第83期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/26 13:12
【資料】
PDFをみる
【項目】
153項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
(1) 経営方針
熊谷組グループビジョンのもと、持続的成長と企業価値向上を目指しており、現在は2017年11月に定めた中長期経営方針に基づき、2018年3月に策定した中期経営計画を着実に実行している。
■熊谷組グループビジョン〈熊谷組グループが目指す企業像〉
「高める、つくる、そして、支える。」
独自の現場力(優れた技術力を豊かな人間力で活かす現場力)を高め、独自の価値であるしあわせ品質(建造物の外形的・機能的な品質に加え、そこに集う人、そこを使う人が満足し続けられる品質)をつくり、時代を超えてお客様と社会を支え続ける。
■中長期経営方針〈5~10年先を見据えた経営の方針〉
良質な建設サービスを市場に提供し続けるために、建設業に内在する構造的課題を克服し、建設市場の質的・量的変化に柔軟に対応できる企業体質へとさらに変化していく。そして長期的な成長を実現し、かつ持続可能な社会の形成に貢献していくために、ESGの視点を取り入れた経営を強化していく。
■中期経営計画〈今後3年間の戦略と数値目標〉
中長期経営方針に基づき、①建設工事請負事業の維持・拡大、②新たな事業の創出、③他社との戦略的連携を戦略の柱とし、数値目標や投資計画、ESG課題への取組み、住友林業株式会社との協業取組みを定めた計画を実行する。
0102010_001.png
(2) 経営環境、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
現下の建設市場は、激甚化する自然災害に備えた防災・減災対策事業や高度経済成長期に整備された社会インフラの老朽化対策事業の拡大に加え、全国における新幹線整備やIR構想及び大阪万博開催に伴う関連投資など、中期的には一定の需要が見込まれる環境にある。
一方、建設業界の構造的課題として、建設技術者・技能労働者の減少と高齢化が進んでおり、将来的に人口減少による国内建設需要の縮小や財政制約などにより公共投資が抑制されることから建設市場は新設が減少し、維持更新やPPP(Public Private Partnership)/PFI(Private Finance Initiative)/コンセッションが増加するなど質的・量的に変化していくことが予想される。さらに経済のグローバル化の進展と同時に、地球温暖化、資源の枯渇など様々な課題も地球規模で認識されるようになり、企業活動の土台となる地球そのものの有限性が意識される時代において、企業価値の長期的・持続的な向上が求められている。
なお、当社連結子会社の株式会社ガイアートは、全国におけるアスファルト合材の販売価格に関する独占禁止法違反の疑いで、2017年2月に公正取引委員会の立入検査を受け、以降、同委員会による調査に全面的に協力してきたが、2019年7月に同委員会より、独占禁止法に基づく排除措置命令及び課徴金納付命令を受けた。このような事態に至ったことは誠に遺憾であり、株主の皆様、お取引先をはじめ関係各位に多大なご迷惑とご心配をおかけしたことを深くお詫び申し上げる。
当該命令を受け、同社では、独占禁止法の遵守についての行動指針の改定及び社内周知の徹底や独占禁止法遵守のための監査体制の強化などの再発防止策を策定・実行しているが、当社グループとしてもこの度の事態を厳粛かつ真摯に受け止め、当社グループ役職員一同、今後とも法令遵守をあらためて徹底し、皆様からの早期の信頼回復に努めていく所存である。
(3) 経営戦略
建設市場の質的・量的変化に柔軟に対応し、良質な建設サービスを提供し続け、ESGの視点を取り入れた経営を強化して長期的な成長を実現し、かつ持続可能な社会の形成に貢献するため、当社グループは2017年11月に、5年後の連結売上高5,000億円・連結営業利益500億円を目指した中長期経営方針を定めるとともに、本方針に基づき、2018年3月に『熊谷組グループ 中期経営計画(2018~2020年度)~成長への挑戦~』を策定した。
0102010_002.png
戦略①:建設工事請負事業の維持・拡大
提案力を強化して受注を拡大し、技術開発を推進して生産性を高め、中核事業である建設工事請負事業で収益力を維持・向上する。
提案力強化・受注拡大の取組み
(注力する分野など)
生産性向上の取組み
(コスト低減・省人化など)
国内土木事業■ 老朽化した高速道路などのインフラ大更新分野
■ 風力・バイオマス・水力・地熱などの再生可能エネルギー分野
■ 激甚化する自然災害に備えた防災・減災対策分野
■ 森林保全に役立つ土木工事活用分野
■ ICT・AIの活用
■ 現場力・技術力の強化
国内建築事業■ インバウンド需要の拡大を取り込んだ宿泊施設分野
■ 高齢化社会に対応する医療・福祉施設分野
■ 生産効率が高い生産・商業・流通施設分野
■ 中大規模木造建築分野
■ 集合住宅一棟まるごとリノベーション分野
■ BIM・ITの活用
■ プレキャスト化の推進
■ 現場力・技術力の強化
海外事業■ 既存海外拠点(台湾・ミャンマー・インド等)における営業ネットワークの強化
■ グローバル人財の確保とプロジェクトマネージャーの増強
■ 現地企業とのパートナー関係を構築し、安定した生産体制を確保
■ インフラ整備分野、リノベーション分野
技術開発■ 社会的ニーズに対応する技術開発(災害対応技術、老朽構造物更新・劣化予測技術、軽量・高強度新材料 等)
■ 循環型社会に対応する技術開発(再生可能エネルギー技術、中大規模木造建築技術、ZEB技術 等)
■ 生産性・安全性の向上に資する技術開発(ロボット技術、コスト低減技術、工期短縮技術 等)
人財開発■ 施工体制増強のための人員確保、海外事業や不動産事業などの新事業分野に精通する人員確保
■ ダイバーシティを推進し、多様な人財が能力を最大限に発揮できる職場環境と人事制度の整備
■ 人財育成体系の整備による社員のスキルアップ(OJTの強化・集合研修の充実・自己啓発の支援)

戦略②:新たな事業の創出
グループが保有する技術・経験・ノウハウを活用するとともに、効果的な出資・投資を行い、建設工事請負事業以外の新たな収益源を創出する。
国内海外
事業主体(注)としての取組み■ 再生可能エネルギー事業
■ PPP/PFI/コンセッション事業
■ 都市再生・再開発事業
■ 本社ビル建替起点の周辺一体開発事業
■ 森林資源活用事業
■ 高級集合住宅開発事業
■ 高級高齢者施設事業
■ 再生可能エネルギー事業
■ MOM事業
技術開発商品の販売■ インフラ大更新市場での橋梁部材販売事業
■ 交通事故防止に資する道路用舗装材(FFP)販売事業
■ 無人化施工技術を応用した特許商品化事業
■ 鉄骨建方治具(エースアップ)リース事業
■ 在宅自立歩行支援器(フローラ・テンダー)販売事業
■ 鉄骨建方治具(エースアップ)リース事業
■ 上記のほか、国内技術開発商品の海外展開

(注) 施設保有/管理や不動産開発等、出資を伴う事業参画(施工含む)。
戦略③:他社との戦略的連携
グループ連携による成長に加え、グループの枠を超えた協業を推進し、シナジー創出によるさらなる成長を目指す。協業先として住友林業株式会社、再生可能エネルギー事業者、設計会社、専門工事会社、海外事業パートナー等を想定している。
事業分野必要とする経営資源
建設工事請負事業■ インフラ大更新事業■ 橋梁設計技術
■ PC製造技術
■ 補修・補強技術
新たな事業国内■ 再生可能エネルギー事業
■ 中大規模木造建築事業
■ 本社ビル建替起点の周辺一体開発事業
■ 森林資源活用事業
■ 企画・開発・運営ノウハウ
■ 耐火技術、木造設計・施工技術
■ 木化・緑化技術
■ 森林資源活用モデル構築ノウハウ
海外■ 海外建設事業
■ 高級集合住宅開発事業
■ 高級高齢者施設事業
■ 再生可能エネルギー事業
■ 海外事業(CM・施工)ノウハウ
■ 企画・開発・運営ノウハウ

本計画期間中(2018~2020年度)に目指す4つの指標
・連結売上高 4,600億円
・連結営業利益 330億円 ※投資利益・受取配当金を含む
・ROE 12%
・配当性向 30%
(4) ESG課題への取組み
熊谷組グループビジョンのもと、事業活動を通じて社会課題解決に貢献し、持続的成長による企業価値向上を目指していくため、2019年4月に「ESG取組方針」を策定し、CO2排出抑制、再生可能エネルギー事業、都市再生事業、人財育成、ステークホルダーとの関係強化などに全社を挙げて取り組んでいる。
「ESG取組方針」
■当社は、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の視点から解決すべき重要課題(マテリアリティ)を特定し、持続可能な事業活動を追求していく。
■当社は、グループが保有する技術・経験・ノウハウを活用して新たな価値を創造し、SDGsに代表される社会課題の解決に貢献する事業活動を展開していく。
■当社は、事業活動を通じてステークホルダーとのコミュニケーションによる信頼関係の構築に努め、企業価値の向上を目指していく。
ESG課題
0102010_003.png
(5) 新型コロナウイルス感染症の影響について
① 経営環境について
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により海外経済が急速に収縮するなか、政府から発令された新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を受けて、個人消費は外出自粛や移動制限により停滞し、企業収益もインバウンド需要の消失や経済活動の抑制により大幅な悪化が避けられない状況となった。2020年5月25日をもって緊急事態宣言が全都道府県で解除されたものの、景気の見通しは極めて不透明な状況にある。
建設業界においては、民間企業による建設投資は経営環境の悪化により減少が予想されるが、公共投資は、気候変動による災害リスクの増大やインフラ老朽化対策などへの集中投資の必要性から2020年度当初予算に前年度とほぼ同水準の公共事業関係費が織り込まれており一定の水準は維持されると思われる。また、新型コロナウイルス感染症拡大の緊急経済対策として補正予算に計上されている国内投資促進事業費補助金2,200億円については、民間設備投資を一定程度下支えすると考えられる。
このような状況下において、新型コロナウイルス感染症拡大が当社グループに与える影響について「マイナス影響」と「プラス影響」に大別して認識している。
マイナス影響
・景気後退に伴う民間企業の設備投資の減少
・インバウンド需要縮小に伴う宿泊施設等の新設減少
・官庁工事における公告・入札の延期
・追加設計変更交渉等の難航
・海外工事減少に伴う国内競争の激化
・工事中断に伴う工程遅延
・部材の納入遅れによる工程遅延
・発注者、施工協力業者の倒産リスクの増加
・感染症対策に伴うコストの増加 等
プラス影響
・景気下支え策としての公共工事の増加
・デフレーションによる工事コストの低下
・医療、倉庫・流通施設の増設、移転
・海外における生産拠点の日本回帰や再編に伴う工場等の増設、移転
・生活・社会インフラの整備
・テレワーク増加に伴う通信インフラの整備
・行動様式の変容に合わせたリニューアル工事の増加
・集約型から分散型オフィスへのシフト
・M&Aの進展
・再開発事業に係る不動産購入コストの低下 等
受注環境・価格競争が厳しさを増していくと予想されるなか、新型コロナウイルス感染症の業績への影響について、2008年のリーマンショック時と同程度に民間工事の受注高が落ち込むことを想定しており、連結売上高・連結営業利益に影響を与えることを見込んでいる。
② 対応策について
2020年2月22日に危機管理委員会を事務局とした新型コロナウイルス対策本部を発足させ、全ての事業所で朝夕の検温、マスク着用、手洗いの徹底、時差出勤及び在宅勤務の実施、不要不急の出張の制限、不特定多数の人が集まるイベントの開催・参加の延期・中止の検討といった予防措置をとった。
政府から緊急事態宣言が発令された2020年4月7日にはより迅速な対応を可能とするため社長を対策本部の長とする体制へ移行したうえ、対象地域の内勤者に対して在宅勤務を原則とする交代勤務制を推奨するなど感染リスクの最小化に努めた。
2020年4月17日に緊急事態宣言の対象区域が全都道府県に拡大されたことを受けて、当社グループの社員及び協力会社などの関係者の生命・身体の安全を最優先する方針のもと、お客様と協議のうえ、施工中の一部工事を一時中断する措置をとり、全国の内勤者について当初の対象地域の対応と同様の措置をとった。
2020年5月7日にお客様から工事中断の要請がある工事を除いて感染防止策を強化・徹底する事を前提に工事を再開し、2020年5月25日の緊急事態宣言の解除後は中断していた全ての工事を再開させた。また、緊急事態宣言解除後も感染拡大防止に向けた対策を継続している。