有価証券報告書-第179期(令和3年1月1日-令和3年12月31日)

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2022/03/30 16:00
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172項目

研究開発活動

当社グループでは、“環境・エネルギー”を軸とし、「モビリティ」、「インフラストラクチャー&セーフティー」、「ライフ&ヘルスケア」に関わる3つの分野を戦略的事業領域に定め、これらの分野において高性能・高品質かつ競争力のある製品・技術の開発に力を注いでいます。そのために、グループ横断的な研究開発活動を行っており、無線・通信、マイクロデバイス、ブレーキ、化学品といった、多岐にわたる保有技術を融合してイノベーションを創出し、持続可能な社会へ資する新たなバリューを提供していきます。
当連結会計年度の研究開発費は23,719百万円であり、主な研究開発とその成果は次のとおりです。
(1)無線・通信
無線・通信事業では、自然災害に対する防災減災、道路管理の効率化等社会の安全と社会基盤の高度化に貢献すること、遠隔操船、自律航行、交通の運航管理等のモビリティの高度化に貢献すること及びライフ&ヘルスケアの高度化へ貢献することを目的に、無線技術、通信技術、センシング技術の高度化及びAI、IoT等を用いたデジタル変革技術を中心とした研究開発に取り組んできました。
社会の安全と社会基盤の高度化に関しては、県防災移動系回線制御装置の高機能化、衛星通信システムの高機能化と大容量化、防災用戸別受信機の高機能化、雨量の精度向上を目的とした次世代型気象レーダ、河川堤防の越水・破堤検知を目的としたAI搭載の河川管理システム等の社会の安全に関連する研究開発を行いました。社会基盤の高度化では道路の維持管理の効率化を目的として、路面の損傷度合をAIで自動判断するクラウド型路面劣化診断システム等の研究開発を行いました。また、スタンドアロン(SA)構成のローカル5Gの無線局を自社の事業所に設置し、地域の活性化、産業の効率化のソリューションに役立つアプリケーションとシステムの研究開発を進めています。
モビリティの高度化に関しては、日本無線グループでは、公益財団法人日本財団(以下、日本財団)が実施する無人運航船プロジェクトMEGURI2040に参加し、船舶情報と陸上情報を基に遠隔での無人運航の達成を補完するフリート支援システムの開発を行いました。また、航海の安全を支援する船舶周囲の情報統合認識技術、船舶の衝突を回避するための避航ルート生成技術等の研究開発も進めています。空のモビリティとしては、10kgクラスの小型無人航空機(ドローン)に搭載可能な小型化、低消費電力化されたレーダを国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の助成により開発しました。また、NEDOの委託のもと、このレーダを搭載した小型無人航空機と有人ヘリコプタとの自律的な衝突回避試験を実運用速度域である相対速度200km/hで実施し、世界で初めて成功しました。これは小型無人航空機を社会実装するための目途立てとして、大きな前進となるものです。また、JRCモビリティ㈱では、工事現場や農場、倉庫内の作業車両等に搭載する周辺監視装置を開発しています。高性能なミリ波レーダとカメラの独自信号処理によるセンサフュージョンで、人物や構造物を精度高く識別することが可能です。当連結会計年度は、量産化を見据えた客先実証試験を進めました。また、AI処理による人物判定・動線追跡・衝突予測も視野に入れて開発を推進しています。
ライフ&ヘルスケアの高度化に関しては、センサ及び無線技術を活用したポータブル超音波診断装置(コンベックス)や要介護者見守りシステムを開発しました。
当セグメントに係る研究開発費は6,196百万円です。
(2)マイクロデバイス
新日本無線グループは、電子デバイス製品やマイクロ波製品等の企画、設計から生産技術まで総合的な研究開発を行っています。主力の「電子デバイス製品」では、各種デバイスの実用化に向けた開発等に注力しています。車載市場向けでは自動運転(ADAS)や環境配慮に向けた製品開発を進めており、産業機器市場向けでは各種センサと信号処理を含んだモジュール製品の開発を進めています。通信デバイス市場向けでは、5G、Wi-Fi、IoTなどに対応した製品開発等に取り組み5G基地局向け製品やWiFi6E向け製品を市場投入しました。また、脱炭素社会に向けた次世代半導体パワーデバイス、ニューノーマル時代に向けたMEMSマイクセンサ、非接触スイッチを実現するタッチレスセンサの開発を完了し市場投入しました。「マイクロ波製品」では、マイクロ波帯からミリ波帯までの衛星通信、センサ、高出力電子管等幅広い分野で開発・製造を行っています。
リコー電子デバイス㈱では、民生(IoT含む)、車載、産機市場に向けてCMOSアナログ技術をコアコンピタンスとした小型、低消費、高効率、高精度、高信頼性の製品開発を進めています。
民生、産機市場向けには、複雑な配線引き回しが必要なく、置くだけ簡単・コンパクトな基板設計が可能となるインダクタ内蔵・降圧DC/DCモジュール「RM590シリーズ」を発売しました。また、アモルファスシリコン太陽電池や色素増感太陽電池などあらゆる1セル太陽電池からの蓄電を可能とした光発電素子に特化した蓄電用の昇圧DC/DCコンバータ「R1810シリーズ」を発売しました。
モバイル機器向けには業界トップクラスの超高精度充電・放電過電流保護/超高精度過充電電圧保護を有する1セルリチウムイオン電池向け保護IC「R5617シリーズ」など多数の製品をリリースしました。
車載市場向けには48Vマイルドハイブリッドシステムや商用車の24Vバッテリー、マイクロモビリティの動力源であるリチウムイオン電池など高電圧からマイコン・SoC・センサ等のデバイスの電源電圧に直接降圧が可能な「R1260シリーズ」を発売しました。また高耐圧且つ優れた電磁ノイズ耐性(EMS、ノイズイミュニティ)を有するレギュレータIC「R1526シリーズ」を発売しました。
なお、2022年1月に新日本無線㈱とリコー電子デバイス㈱が経営統合し、日清紡マイクロデバイス㈱としてスタートして双方のリソースを活用しながら、研究開発面でのシナジー創出を図ります。
当セグメントに係る研究開発費は7,404百万円です。
(3)ブレーキ
ブレーキ事業では、コスト競争力のある差別化商品の提供と技術力の強化を目標に掲げ、自動車用摩擦材の開発に取り組んでいます。重要保安部品としての高い信頼性を堅持し、銅規制等に対応した環境負荷物質を低減する製品の開発では、①xEVとなり静粛性が高まる新世代車への適合における音・振動の抑制、②効きの安定性、③摩耗粉塵の排出を抑制する優れた摩耗特性等、お客様ニーズへの対応に重点をおいて活動しています。開発した材質は、お客様にご好評を頂いており、国内外の数多くの車両プログラムへの適用が決まり、量産化が進捗しています。
更に、将来の社会・技術動向の調査より開発ロードマップを策定し、これからの材料づくりに必要となる各種要素技術の研究を進めています。また、シミュレーションやデータ駆動型研究開発という新たなPDCAサイクルを開発に取り入れる事によって、更なる製品の性能向上や効率化を図って行きます。加えて、日清紡グループ内のコラボレーションによりMEMSマイクロフォンを活用した新たな品質管理手法、車両の自動化を見据えた足廻りのセンシングに関する研究を推進しています。TMDグループでは、デジタル技術を活用した補修部品の新たな販売・サービスビジネスを開始し、展開を進めています。
当セグメントに係る研究開発費は7,315百万円です。
(4)精密機器
成形品事業では、空調機器用ファンや自動車部品をはじめ、住宅設備や医療向けなど広い分野に向けた製品の機能性や金型技術の向上に加え、持続可能な社会に向けたインフラ分野向け製品の開発など、新たな事業創出に向けた活動に取り組んでいます。この他、IMPC™(※)技術を保有するエレファンテック㈱と車載向け立体配線成形部品の共同開発についての基本合意に基づき、主に自動車向け配線一体型成形部品の量産に向けた新製品開発を進め、さらに家電・医療・住設分野等への用途展開を図ります。※IMPC™(In-Mold Printed Circuit:立体配線成形技術)
精密部品事業では、次世代の自動車用EBSに用いられる新規バルブブロックの加工・検査技術の検討、設備導入、立上げを行っており、低コスト化を実現するための高精度加工、高品質の開発に取り組んでいます。
当セグメントに係る研究開発費は117百万円です。
(5)化学品
化学品事業では、地球環境問題の解決に貢献する技術・製品の研究開発に取り組んでいます。
燃料電池事業では、燃料電池車の本格普及に向け、車載用燃料電池に使用されるカーボンセパレータの新規生産方法や性能向上を重点に活動しています。新規生産方法を用いたセパレータは、お客様よりご好評を頂いており、量産化に向け開発を進めています。
機能化学品事業では、環境配慮型製品の普及や脱炭素社会に貢献することを目的とし、高反応で可使時間の長い水性架橋剤や加工時のガス発生を抑制した安全性の高い樹脂改質剤などの開発を進めています。また、近年注目されているマイクロプラスチックによる海洋汚染の拡大防止に向けて、海洋環境で生分解性プラスチックの分解を促進する添加剤の開発に取り組んでいます。
断熱事業では、地球環境に優しい低温暖化係数発泡剤への切替推進と安全安心をテーマに不燃ノンフロンウレタンフォームの開発と実用化、きれいな水を守るための高性能水処理担体の開発を進めています。
カーボン事業では、データセンター関連など持続的な成長が見込まれる半導体市場において、高性能な先端半導体の製造装置及び製造プロセスで要求される性能を満たすことを目的にカーボン製品の開発を進めています。
当セグメントに係る研究開発費は328百万円です。
(6)繊維
繊維事業では、「サステナブルな繊維事業への転換」を目指し、環境・健康社会への貢献を重点取り組み事項として掲げ、その実現に向けてグループ内外と幅広く連携し、研究開発を進めています。
当連結会計年度は、ノーアイロンシャツに代表される「アポロコット」シリーズの商品構成を拡充し、新たにストレッチ性能を付与した新商品を開発・販売しました。さらに、環境配慮型次世代アポロコットに向けて、防汚加工、冷感加工、ノンホルマリン加工などの商品開発に取り組んでいます。また、安心・安全を提供できる抗菌防臭加工、防汚加工、抗ウイルス加工など健康快適商品群の充実を図りました。
当社グループ内に無線・通信セグメント及びマイクロデバイスセグメントがある強みを生かしたスマートテキスタイルの開発を進めており、当連結会計年度は、当社グループ会社であるニッシントーア・岩尾㈱と連携を図り、ヒーターを組み込んだヒーターウェアを開発しました。
さらに、「サーキュラーエコノミー」の実現に向けて、廃棄するシャツを回収・再繊維化して新たなシャツに生まれ変わらせる「シャツ再生プロジェクト」を、信州大学と共同でスタートしました。
当セグメントに係る研究開発費は659百万円です。
(7)全社共通
グループ内の研究開発は、各事業セグメントを超えた連携によるシナジーにより、環境・エネルギーカンパニーとして地球環境問題・社会課題の解決に貢献する新たな事業の創出に取り組んでいます。
・水素社会実現のための取組み
レアメタルを使用しない燃料電池用触媒や水素生成用触媒などの部材開発に加え、超音波技術を活用した水素ガスセンサの開発、更には燃料電池活用のためのシステム開発に取り組んでいます。
燃料電池用触媒はユーザーでの評価を進めながら、更なる改良を進めています。水素ガスセンサは水素ガス漏れ検知器「MoLeTELL®」の試験販売に加え、水素が使われる機器における専用モジュールの開発を進めています。
・地球環境問題への取組み
マイクロプラスチックによる海洋汚染の拡大防止に向けて、海洋生分解性プラスチックの開発に取り組んでいます。特に、プラスチック微粒子代替材料として、天然高分子を用いた微粒子の開発を進め、ユーザーでの評価を進めながら更なる改良を進めています。
・安心・安全への取組み
高速通信技術を活用した大容量のデータを瞬時に確実に伝送するミリ波通信システムや、センサ及び通信技術を活用した見守り機器・システムなどの開発、更にはこれらシステムを活用したデータ活用ビジネスといったサービスへの取り組みを強化し、安心・安全な社会の実現を目指しています。
全社共通に係る研究開発費は1,697百万円です。