有価証券報告書-第179期(令和3年1月1日-令和3年12月31日)

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2022/03/30 16:00
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172項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
(1) 経営方針・経営戦略等
当社グループは、企業理念を以下のとおり定めています。
・挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。
また、企業理念を実現するために提供する価値・姿勢を、VALUEで定めています。
(VALUE)
・わたしたちは、地球環境にやさしい製品やサービスを提供し、すべての人びとにとって安心・安全な社会を誠実に実現します。
・わたしたちは、新たな価値を創造し、お客様に感動と満足を提供します。
・わたしたちは、企業価値を高め、株主の皆さまの期待に応えます。
・わたしたちは、従業員が誇りを持っていきいきと働き、果敢に挑戦できる企業文化を大切にします。
当社グループは、グループ経営・グローバル経営における多様性の中での団結を図り、企業理念「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」の具現化をとおして、サステナブルな社会の実現に貢献していきます。
「環境・エネルギーカンパニー」グループとして、地球環境保護や代替エネルギーに寄与する製品・システムの提供等に積極的に取り組むとともに、「企業の本質は人間集団であり事業は借り物」と捉え、事業ポートフォリオの変革を着実に進めています。また、「モノ」づくりの強みをベースに「コト」「サービス」の視点を高め、DXによる新たな社会課題へのソリューションを提供する業容へと変化し、超スマート社会の実現を目指しています。
当社グループは主力であるモビリティ分野の拡充に加え、インフラストラクチャー&セーフティー分野、ライフ&ヘルスケア分野への製品・サービスを提供するこれら「戦略的事業領域」に経営資源を集中させ、無線・通信技術、電子デバイス技術、ケミカル技術等を融合させ、グループ横断的に事業を拡大していきます。
自動車向けには、銅レス・銅フリー摩擦材の開発・拡販によりグローバル市場をリードしつつ、カーボンセパレータなど燃料電池車用部材の事業化を加速させています。また、自動運転技術のキーとなるデバイスの供給やセンサの開発を進め、自動車と交通インフラとの通信ネットワーク構築をはじめ、船舶自動航行や衛星通信・航空機・ドローンの管制制御に必要なレーダ、センサ、デバイスの開発も進めています。気候変動に対するソリューションとして安心・安全な社会インフラの提供やメディカル分野でも無線・通信技術、電子デバイス技術などを中心に横断的な取り組みを進め、更には、開発されたシステム・プラットフォームによって収集されたデータを活用するサービスビジネス創出にも取り組んでいます。
現在、当社グループではサステナビリティ・ガバナンスに注力しカーボンニュートラルを目指す中、TCFDへの取り組みをスタートさせています。また、新型コロナウイルス感染症によってもたらされるパラダイムシフトに柔軟かつ積極的に対応して参ります。
以上のような事業活動を通じて、当社グループでは、ROE12%達成を来る2025年に実現させる目標と定め、収益力の持続的向上に取り組んでいます。
(2) 事業別の経営戦略及び経営環境並びに対処すべき課題
①無線・通信事業
無線・通信事業では、現業の成長戦略の見直しと、低収益事業の見極めと見切り、高収益事業への挑戦などの事業ポートフォリオ改革を促進することで、売上規模の拡大と収益性の向上の両面を重視した経営へのシフトを図っていきます。
・マリンシステム
マリンシステム事業では、グローバル成長戦略として引き続き商船分野における収益力の向上を図るために、収益性の高いアフターマーケットにおけるLCMビジネスの拡大に努め、機器換装および修理工事向けの受注増を図ります。中小型船分野では、特に河川市場向け商品・販売・サービスの強化に努め、ALPHATRON MARINE社が得意とする欧州市場への販路を活用しシェア拡大を図ります。また、デジタル分野の取り組みとしては、自動運航機能やデジタル化対応機器によるSmart Shipの実現に向けて、船陸間ネットワークを活用した船舶内情報共有サービス「Smart Ship Viewer」や船舶運航の核となる運航支援装置「J-Marine NeCST」等の機能拡張を進め、船舶運航の効率化や安全航行に貢献する安全運航支援サービスの拡大を目指します。また洋上風力発電の統合管理システムなど、海洋システムビジネスの開拓にも取り組んでいきます。マリンシステム事業では、安定収益体質への変革を実現するために、デジタル手法による業務効率化を進め、営業力およびサービス力を強化することで利益創出を目指します。
・ソリューション・特機
ソリューション・特機事業では、官公庁、民需、海外の各事業分野で既存事業における需要の確実な取り込みと収益力の強化を図りながら、アライアンスやM&Aによる隣接分野への進出を通じて、事業領域の拡大を図っていきます。さらにICT(※)/IoTを活用したデジタルビジネスの確立にも注力していきます。官公庁関連では引き続き「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」や「流域治水プロジェクト」への取り組みで収益の維持拡大を図ります。また、統合管制支援や運行管理支援などの航空監視分野への進出で事業領域の拡大を図ります。デジタルビジネス分野では、2D地図データから3D空間データを自動生成してインターネットサービスへ展開するなどの新たな取り組みにも挑戦します。また業務プロセスの再構築を通じて効率化を図り、収益力強化と事業拡大に向けたリソースを創出していきます。
※ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)
・ICT・メカトロニクス
ICT・メカトロニクス事業では、収益力の向上に向けてSDGs・社会的課題解決型事業の推進と自主開発の強化、グループシナジーによる事業拡大を目指しながら、新領域への進出を通じて高収益体質への転換を図ります。ICT事業では、デジタルビジネス創出の基盤を確立するため、IoT・AI関連の成長分野で事業領域拡大を図ります。コンポーネント事業では、車載用電源部品の提供を通じて脱炭素社会の実現に必要とされる事業体となることを目指します。メカトロニクス事業では、ものづくりのDX化・省人化・自働化ニーズを反映し産業機器の事業領域拡大を推進します。
・医用機器
医用機器事業では、引き続き事業体制の転換による収益力向上に注力します。マーケティングの強化と販売ルートの確立を通じて、付加価値の高い携帯型超音波事業の拡大と、保有技術である無線技術を医用機器に応用した医用のワイヤレス化に注力し、予防・予後分野、診断・治療支援分野への参入・伸長を図ります。既存の分析装置や血管内超音波事業を基盤とし、新規参入分野でのデジタルビジネス創出により当事業の拡大・伸長を図ります。
・5G/LTEへの取り組み
国内では、IoT基盤など用いたデータ活用を通じて価値創造を図る事業の拡大が見込まれており、ローカル5G無線局免許の発行件数も増加しています。2021年6月にローカル5G無線局免許を取得した日本無線㈱は、実証実験やデモンストレーションを通じてビジネスパートナーとの協業を深め、顧客価値創出に寄与できるソリューションの提供と、日本無線㈱の強みを活かしたローカル5G製品の開発に注力し、高収益な事業基盤の確立へとつなげます。
海外では、欧米を中心にプライベートLTEを広く展開しています。システムを一体化したLTE-BOXの高度化や、無線周波数などのローカル環境へのカスタマイズ、顧客ニーズを実現するアプリケーションの拡充・多様化など、日本無線㈱の強みを活かしたシステムソリューションを提供してビジネスをより一層拡大していきます。
②マイクロデバイス事業
2022年1月に発足した日清紡マイクロデバイス㈱では、「競争優位な電子デバイス事業の推進」と「マイクロ波事業の拡大と利益創出」をテーマに、旧・新日本無線㈱と旧・リコー電子デバイス㈱とが保有する技術を融合させ、競争優位な標準品をベースビジネスとして強化しながら、信号処理製品や高付加価値なパワーモジュール製品の展開を図ります。また、ハードに加えソフトの質も高めることで、新しいソリューションビジネスを創出し、お客様から期待されるアナログソリューションプロバイダを目指します。
・電子デバイス製品
電子デバイス製品は、SP(Signal Processing:信号処理)とEM(Energy Management:電源制御)に注力していきます。SPはオペアンプおよびIoTなどで市場が拡大するセンサ製品群を含む信号処理系ICで、マイクロ波センサとの融合も図りながら、これまでの単体IC提供からモジュール、さらにはソリューションの提供を目指します。EMはあらゆるデバイスに必要で、低消費化などの高精度化要求が高まる電源制御系ICで、PMIC、IPMといった高付加価値なパワーモジュール製品の展開を目指します。注力市場としては、車載向け、産業機器向け、民生向けを主なターゲットとし、車載および産業機器向けでは顧客志向で高機能なASIC/ASSP製品の企画・開発を強化していきます。民生向けはタッチレスセンサなど、コロナ禍の社会変化に即した製品や、これまで手がけていない分野(たとえば美容機器など)での製品企画・開発を加速していきます。そして、車載向けおよび産業機器向け製品の比率を拡大することで、安定的な事業ポートフォリオの確立を図ります。
さらなる収益性の改善に向けて、生産面では外注委託コストの低減をさらに推し進めます。ウエハプロセス(前工程)は、やしろ事業所(兵庫県)で0.18umCDMOSの微細化・高耐圧プロセスを量産化し、外部に生産委託している新製品の一部内製化を図ります。アセンブリプロセス(後工程)は、やしろ事業所で生産した製品のテストとアセンブリを、佐賀県とタイの生産子会社で内製化を進め、同時に、安価な海外OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)の活用拡大を図ります。また、自社製品のEOL(End Of Life)が完了するSAWフィルタは、自社生産の中止を検討していきます。材料面では、後工程に使用する金ワイヤの銅ワイヤへの置き換えを進めます。サプライヤーが減少するリードフレームは、韓国製、中国製の品質を評価した上で、採用基準を満たした製品は複数社で購買化を進めます。
営業面では、クロスセルなどの統合シナジーを発揮しながら、新規案件や顧客ニーズを落とし込んだ製品企画・開発を通じて、顧客認知度・満足度のさらなる向上を図ります。また確定受注生産の運用で生販整合体制を強化し、棚卸資産を圧縮し適正在庫の維持に努めます。
・マイクロ波製品
マイクロ波製品の電子管・レーダコンポーネントは、現在も継続する需要増に対応しながら、生産の効率化を図ることで利益率の改善を図ります。また、ライナック用電子管・電子銃についての販売も強化していきます。
衛星通信コンポーネントは、引き続き部品調達が難しい中で、好調なVSAT(小型地球局)システムの端末側対応送信機・受信機の安定生産に努めていきます。同時に、既存製品のモデルチェンジと高付加価値が期待できる基地局向けの高出力送信機の開発や、新規市場の開拓も進めていきます。
マイクロ波センサ製品群は、2022年にはミリ波帯(60GHz)製品を市場投入し、電子デバイスのパッケージ技術・モジュール化技術との融合や、他のセンサと組み合わせた複合センサ技術および信号処理により、必要なデータを安定して出力するスマートセンサ技術の進化を加速させます。また、センサを用いたシステムの設計・開発に対応した技術力も高め、お客様からの幅広い要求に対応していきます。
衛星通信コンポーネントとセンサ製品はセンサ部品供給不足の影響がより厳しくなることが予想されるため、市場拡大を見据えた部材調達戦略で安定生産に努めながら、タイの生産子会社を活用して価格競争力を強化し、幅広い顧客の獲得と生産増への対応を進めます。
③ブレーキ事業
・市場環境と事業戦略
昨年顕在化した半導体供給不足やコロナ禍の猛威によるサプライチェーンの混乱は2022年に入っても続いており、各地でメーカーが操業停止に陥る事態が頻発しています。しかし、自動車の需要が消失したわけではなく、今後想定される反動需要に伴い、日清紡ブレーキ㈱の組み付け製品の売上増も見込まれます。また、米国をはじめ各国市場で受注を拡大した当社の高性能な銅フリー材製品については、今後本格的な生産の立ち上げが進む予定であり、すでに多くのラインナップが世界的に売れ筋の車種向けに採用されていることと合わせて、大きな成長機会を捕捉していきます。
一方で、TMDグループのアフターマーケット事業は戦略的な生産体制の強化により、さらなるシェア向上を図ります。事業再生計画も順調に進捗しており、ドイツのEssen工場に組付け製品の生産を統合することにより効率的な生産が可能となり収益改善につながっています。今後も、ルーマニア工場の活用などを通じた最適地生産を進めることで、さらなるコスト競争力の強化を進めていきます。
なお、昨年来の鋼材等をはじめとした原材料費の高騰に対しては、その影響緩和策として、販売価格への転嫁を進めています。TMDグループの展開するアフターマーケット向け製品を皮切りに、粘り強い交渉を進めています。
・電動化や自動運転の普及に向けて
電動化や自動運転に関連した次世代車両・ブレーキの企画は、完成車メーカー各社において進捗しています。HV、EVなどの電動車では制動時に電気駆動システムを活用したエネルギー回収が行われ、従来の機械式ブレーキによる摩擦材の摩耗が減少し、長期的には補給部品の需要減少が想定されます。一方で、組み付け品は長期間の使用に耐える耐久性や電子的に制御される回生ブレーキとの協調による安定した制動力の実現、さらに車両静粛性の高まりへの対応として、制動時のノイズ・振動抑制に優れた高品質な製品が求められています。当社グループにおいては、今後の自動車の使われ方による摩擦材への要求の変化を見据え、電子制御ブレーキと親和性の高い製品の研究開発に注力していきます。また、持続可能な社会への積極的な取り組みを行うべく温室効果ガス削減に対する各方面の技術開発を推進し適用していきます。さらに、将来的なモビリティ社会に向け、グループ企業と連携した車両足回りのセンシングについての研究も開始しました。お客様から信頼されるパートナーとして当社グループの価値を訴求していきます。そして、これら製品開発への取り組みでは、これまでの多くの経験と知識を有効に利活用できデータ駆動型システムへの変革、高度化した分析手法とCAE解析を合わせた事象のデジタル化表現の推進等、より効率的に的確な提案を可能とするプロセスを構築していきます。一方、製造工程では、ICTを活用した生産管理、設備稼働状況の見える化や設備予知・予兆保全、さらには製造や検査データのAI分析による品質管理、RPAを活用した業務の効率化の検討を加速していきます。
・カイゼン活動
世界中の各拠点で展開しているカイゼン活動は、経営の基盤として、コロナ禍にあってもそれぞれの地域やレベルに合わせて積極的に活動しており、設備の自動化や画像検査で、採算性や品質の向上といった成果を上げつつあります。グループを超えた相互コミュニケーションや知見の共有を目的に定期的に開催しているカイゼン活動発表会は、コロナ禍でもオンラインで実施し、カイゼン文化を絶やさないよう工夫しています。
④精密機器事業
精密機器事業においては、精密部品や自動車向けヘッドランプ用レンズ、また医療向け成形品など、今後さらなる需要増が期待できる製品について、各工場での生産体制の充実を図っていきます。同時に、不採算拠点・製品の見極めを通じて、生産拠点の集約など事業再構築を進め、より一層事業基盤の強化を図っています。
・事業/製品の見極めと見切り
日清紡メカトロニクス㈱の成形品事業および南部化成㈱は、国内およびアジア(タイ、中国、インド、フィリピン、インドネシア)に生産拠点を有しています。グローバルでの各種需要を効率的に取り込み収益拡大につなげていくために、生産体制の最適化を図っています。成形品事業部では、原価管理の徹底により不採算製品の抽出と原価低減活動を強化しており、顧客への適正な価格提案へとつなげ収益力の改善を進めています。
南部化成グループでは、生産を終了したインドネシア子会社に続き、中国・広州の子会社についても生産移管の方向で事業の整理を進めているほか、九州南部化成㈱でも、主要顧客の内製化方針や自動車向けヘッドランプのLED化に伴う蒸着仕様部品の需要減少などの環境変化に対応して、生産体制の見直しを図っています。今後も、南部化成グループでは、継続して不採算事業の見極めと見切りを実施することで、経営資源を付加価値の高い事業に振り向け、収益性の向上につなげていきます。
・精密部品事業の事業拡大施策
精密部品事業では、2022年以降も顧客からの需要増が見込まれる自動車向けEBS用バルブブロックについて、生産を集約した日清紡大陸精密機械(揚州)有限公司での操業率向上を図りながら、自動車向けEBS用バルブブロックの生産・販売に注力していきます。また、インドにおいては二輪車、四輪車の市場が拡大すると見込まれており、インド政府の国策“Make in India”(現地調達化生産の推進施策)に沿う形で、CONTINENTAL社との合弁会社設立を2022年内に予定しており、2023年からの量産開始に向けて準備を進めていきます。
・成形品事業の事業拡大施策
日清紡メカトロニクス㈱の成形品事業部では、家電、事務機器向けファンの新規引き合いが増加する中で、提案力を強化し新規受注につなげていきます。防汚ファンや小型冷却用ファンといった高付加価値商品の新規開発を進め、上市に向けた活動を継続していきます。
NISSHINBO MECHATRONICS (THAILAND) LTD.では、生産工程の自動化・省人化を通じて既存製品の価格競争力を高め、高付加価値ファンの開発・上市を通じてさらなる受注拡大を図り、コロナ禍前の売上・収益水準への回復を図ります。日清紡精密機器(上海)有限公司では、引き続きEcoクロス®・Ecoブレードターボ®の受注拡大を図るとともに、モーターメーカーとの共同開発等を通じて、高付加価値ファンの開発・上市で商品を差別化し、さらなる収益力向上を図ります。また中国顧客向けに南部化成㈱から生産移管した自動車向けヘッドランプ用レンズについても、品質管理体制の強化を進めながら生産を拡大し、さらなる受注拡大を図ります。NISSHINBO MECHATRONICS INDIA PRIVATE LIMITEDにおいては、インドでのエアコン市場の拡大が見込まれる中、必要な設備投資を行いながら需要を取り込みシェア拡大へとつなげます。
南部化成グループでは、自動車分野において収益性の高いレンズ分野への集中を進め、高付加価値商品であるPES(非球面体)レンズの新規受注と拡販施策を推し進めます。
さらに医療分野の拡大も期待しています。2021年9月に南部化成㈱のメディカル事業を行う吉田事業所をグループ会社の藤枝事業所内に移転・開設し、稼働を開始しています。生産設備・生産能力の増強や、自動化・省人化などによる生産効率の向上を通じて、さらなる受注拡大に向けた活動を進めていきます。
⑤化学品事業
・燃料電池セパレータの開発加速
カーボンニュートラルを実現する技術として注目を集める水素・燃料電池は、各種の非常用電源、常用電源といった定置用の需要が拡大しており、当社グループのカーボンセパレータにもグローバルで旺盛な引き合いがあります。燃料電池自動車の中でも特にバス・トラック向けは世界中で開発が行われており、これまで複数の有力メーカーと車載用燃料電池カーボンセパレータの開発を進めてきた当社グループでは、旺盛なバス・トラック向けの試作品需要に応えて商業化を進めていきます。また、2021年11月に日清紡ケミカル㈱は自動車部品工場としての必要資格「IATF16949」を取得し、今後さらなる製品開発と生産性・良品率の向上を進めることで事業拡大を図っていきます。
・環境課題解決に寄与するカルボジライトの拡販
海洋マイクロプラスチック問題や地球温暖化、揮発性有機化合物(VOC)による大気汚染等の環境課題を前に、グローバルで環境意識が高まる中、生分解性樹脂や水性塗料の利用促進が求められています。カルボジライト製品は、これら課題解決に資する生分解性プラスチックの普及や、塗料・コーティング剤の水性化、電子材料の高性能化に欠かせない素材として需要が拡大しており、当社では環境配慮型製品を主たるターゲットに製品開発と販路拡大を加速しています。特に、環境・エネルギー市場の成長が著しいカルボジライトの未開拓地域で、販売を加速していきます。国内および欧米諸国では、カルボジライトの性能の高度化要求が高まっており、ニーズに応える高付加価値製品を開発し市場投入することで販路拡大につなげます。
・断熱製品の差別化・高付加価値化に向けて
断熱製品では、断熱分野の中核製品である土木原液と硬質ブロックの維持拡大と、難燃性能の高い製品の市場投入を通じて、さらなる事業拡大に取り組みます。防振分野では、鉄道防振材を非フォームの柱に育てるべく、軌道保守メンテナンス周期の延伸を可能にする製品の受注拡大とともに、海外大型物件の受注にも取り組みます。水処理分野では、日本ブランドと高い技術開発力を武器とした差別化戦略を中国市場で推進すると同時に、国内では市場ニーズに適合した新製品開発で、新規に民間排水分野での受注と浄化槽市場への展開を図ります。
加えて、インフラ構造物の安全策に資する展開として、断熱にこだわらない新規開発を通じて新たな高付加価値製品を育て、事業領域の拡大も図ります。世界的に原料調達が困難な状況下、製品の安定供給を重視し、代替製品の開発も継続していきます。
・長期的な成長が見込めるガラス状カーボン製品
ガラス状カーボン製品の主要用途である半導体市場では、今後も市況の増減はあるものの、CASEやメガバースの浸透により、長期的な成長が期待されます。ファブレスメーカーやファウンドリーの躍進、中国の内製化など、主要プレーヤーの変化も見られる中で、当社は技術開発と生産設備の供給で重要な役割を担う半導体製造装置メーカーやコンポーネントメーカーとの協業を強化しています。特に、半導体の設備投資を牽引する先端半導体セグメントに注力し、材料の高度化への要求に応え、微細化プロセスの量産を支えるキーマテリアルを提供することで事業成長を図ります。今後も旺盛な需要が見込まれるガラス状カーボン製品の生産能力の増強と、先端半導体の微細化に対応する新製品開発を進めていきます。
⑥繊維事業
・市場環境と事業戦略
衣料品消費と直結した繊維事業は、コロナ禍での外出自粛やテレワークの普及といった生活様式・消費行動の変化の影響を大きく受けましたが、衣料品のオンライン販売やビジネススタイルのカジュアル化に対応したサービス・商品、ならびに天然素材を中心としたSDGsを具現化する環境商品には大きなビジネスチャンスがあります。また、世界の人口は依然増加を続けており、ことアジアにおいては経済成長も著しいことから、世界の繊維製品市場はさらなる拡大が予想されます。
そうした市場環境の中、繊維事業では、「サステナブルな繊維事業への転換」を強力に推進します。環境・健康・快適を軸とした高機能性商品の開発にリソースを集中すると同時に、環境に配慮した物づくりを強みにグローバルビジネスの拡大を早期に実現し、事業収益力の再構築を図ります。
・事業収益力の再構築
市場ニーズを先取りし環境・健康・快適商品を積極的に市場投入することで、トップシェアの維持・拡大を目指します。また、次世代商品の開発と原材料を含めた製造コストダウンにより収益力の再構築を図っていきます。特にシャツ分野においては、省電力に貢献するノーアイロンシャツ「アポロコットシャツ」に新たな機能性を付与した次世代型商品を早期開発・市場投入することでシェア拡大を図っていきます。
・市場変化に対応した事業変革
東京シャツ㈱においては、実店舗の再編を進め、DXの推進を通じてOMOビジネス主体の収益構造へと事業変革を図ります。また、「脱中国」やアジアにおけるリスク分散の動きを好機と捉え、インドネシア一貫素材の優位性を活かしたグローバルビジネスの拡大を、スピード感をもって進めていきます。
・「環境」・「健康」領域でのサステナブルな繊維事業の展開
環境・健康・快適商品を軸としたサステナブル商品群の開発・展開を推し進めるとともに、物づくりの環境対応として石炭燃料からの脱却を図り、CO2排出量や水使用量の削減に積極的に取り組み、環境規制に対応した環境配慮型工場への転換を図ります。
また、化粧品雑貨用不織布ならびにレッグウエア用スパンデックス糸やエラストマー事業の原料のエコ化やリサイクル化を推進するとともに、「シャツ再生プロジェクト」などのサーキュラエコノミー型事業へも挑戦していきます。
・「環境」をテーマとした新規事業領域の開拓
新しい環境事業として、「シャツ再生プロジェクト」、「セルロースナノファイバー活用プロジェクト」に取り組んでいます。
「シャツ再生プロジェクト」は、信州大学との共同研究で、着用しなくなった綿製シャツを回収・裁断し、コットンを溶解・再生繊維化することで、新たなシャツに生まれ変わらせるプロジェクトです。2021年より実用化に向けた研究開発を本格化させ、2023年の試験生産を目指しています。
次世代環境商品として進めている「セルロースナノファイバー活用プロジェクト」は、製造工程から発生する裁断くずや落綿などの廃棄物をナノファイバー化し、再凝縮してさまざまな用途に活用するプロジェクトです。現在開発中のセルロースナノファイバーをスクラブ剤に使用した石鹸は、海洋マイクロプラスチック問題の解決に貢献することを目指しています。
⑦不動産事業
2022年は、土地やオフィスビル・商業施設用建物の賃貸による安定した賃貸事業と、土地販売などの分譲事業の継続により、前連結会計年度に引き続き高収益を確保する見込みです。
当社の不動産事業は、当社グループの経営計画達成に向けた資金創出を担う役割を継続しつつ、グループ全体の不動産の有効活用を推進しています。下記のプロジェクトを中心に、今後も継続的、安定的な収益の確保ができるものと見込んでいます。
美合事業所跡地(愛知県)の再開発は、引き続き全357区画の戸建ておよび医療・福祉施設用地の販売を実施します。
西新井社宅(東京都)の賃貸マンションに建て替える事業は、第1期(50戸)が竣工し賃貸を開始しており、第2期(149戸)は2024年より賃貸を開始する計画です。
能登川工場跡地(滋賀県)では、129戸のマンションの建築を開始しており、2023年の販売を予定しています。
新規案件では、浜松工場跡地(静岡県)の商業施設用地を2022年および2023年に販売する計画を進めています。
(3)ESG、SDGsの取組み
当社グループは、企業理念「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」の具現化を通して、グループ経営、グローバル経営の深化を図り、多様性の中での団結を進め企業価値の向上を目指しています。これはSDGsの考え方と軌を一にするものです。
(日清紡ホールディングス統合報告書https://www.nisshinbo.co.jp/ir/library/annual_report.html)

当社グループの事業が社会とともに持続的に成長するために取り組むべき課題を明確にすることを目的として、マテリアリティ(重要課題)を次の通り特定しています。
〇グローバル・コンプライアンス
〇環境・エネルギー分野の貢献
〇安心・安全な社会づくり
2018年度から第4期中期CSR目標を掲げ、活動を展開してまいりました。2022年度からは、新たに第5期中期CSR目標を掲げ、数値で把握可能な項目についてはKPIを用いて活動しています。
マテリアリティに基づく活動内容は以下のとおりです。なお、詳細な活動内容および目標の達成状況につきましては、当社グループの統合報告書およびホームページにて積極的な開示に努めています。
(日清紡ホールディングスHP https://www.nisshinbo.co.jp/index.html)

(4)気候変動への取り組み
気候変動は、国・地域を超えて地球規模の課題となっており、温室効果ガスの削減は世界共通の長期目標となっています。当社グループは気候変動を重要な経営課題の一つと認識し、気候変動による事業機会の取り込みおよびリスクへの適切な対応を行うことが重要であると考えています。
1990年代以降、人類共通の課題として地球温暖化による環境問題が顕在化するなか、当社グループは、「環境・エネルギーカンパニー」グループとして、安全で安心な暮らしに貢献するという事業方針を掲げ、超スマート社会の実現に向けて、事業ポートフォリオの改革に注力してきました。そして、今後も事業ポートフォリオの継続的な改革に挑戦し、地球環境保護に資する事業を推進し、人類最大かつ最優先で解決を図るべき環境問題に取り組んでいきます。その一環として、当連結会計年度より、当社グループではTCFD(金融安定理事会(FSB)により設置された気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に準じた気候変動シナリオ分析を開始しました。
当社グループでは、この気候変動シナリオ分析をとおして、気候変動が将来、当社グループに及ぼすリスクや機会を導き出し、事業戦略の策定に活かすことで、より柔軟で堅牢な戦略を立案し、将来のリスクに対するレジリエンスを高めていきます。
シナリオ分析については、当社グループは事業が多岐にわたるため、まずは無線・通信事業におけるソリューション事業、ブレーキ事業、化学品事業について分析を実施しました。2050年における温暖化進行・脱炭素シナリオ双方を採用し、それぞれのシナリオで移行リスクおよび物理的リスクと事業機会を特定し、特定されたリスクや事業機会への対応策を検討しました。
2022年度以降も、気候変動問題の解決を中長期ビジョンにおける重要課題としてとらえ、他事業におけるシナリオ分析を行い、当社グループのリスクと事業機会を把握し、具体的な取り組みを進め、脱炭素社会の実現に貢献していきます。