有価証券報告書-第140期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/22 16:05
【資料】
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【項目】
134項目
以下の記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
(1) 東レ理念
東レグループは、1926年の創業以来、「企業は社会の公器であり、その事業を通じて社会に貢献する」との経営思想の下、社会から尊敬される企業体として存在することを目指してきました。
1955年にはこの考え方を初めて明文化した「社是」を制定し、創立60周年を迎えた1986年には現在の「企業理念」を最上位とする経営理念体系を整備しました。この経営理念は一部改定しながら受け継がれており、2020年5月に「東レ理念」として創業以来の考え方を改めて体系化しております。
「東レ理念」は、従来の経営理念である「企業理念」「経営基本方針」「企業行動指針」に加え、企業理念を具現化するための企業姿勢を端的に示した「コーポレートスローガン」、東レグループが将来に向けて進む方向性を示した「ビジョン」、これらの考え方の基礎となる創業以来受け継いできた価値観・経営観などの「企業文化」、「経営者の信条」から構成されております。

当社は企業理念の具現化において、社会の中で、お客様、社員、株主など数多くのステークホルダーによって支えられていることを認識し、それぞれに対して責任を果たし、広く社会に貢献していきます。
(企業理念)わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します
(経営基本方針)お客様のために新しい価値と高い品質の製品とサービスを
社員のために働きがいと公正な機会を
株主のために誠実で信頼に応える経営を
社会のために社会の一員として責任を果たし相互信頼と連携を

(2) 東レグループ サステナビリティ・ビジョン(ビジョン)
人口増加、高齢化、気候変動、水不足、資源の枯渇など世界が直面する「発展」と「持続可能性」の両立をめぐる地球規模の課題に対し、革新技術・先端材料の提供によって、本質的なソリューションを提供していくことが東レグループの使命と考えます。「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」は、「2050年に向け東レグループが目指す世界」、その実現に向けた「東レグループが取り組む4つの課題」及び「2030年度に向けた数値目標(KPI)」を定めております。
(2050年に向け東レグループが目指す世界)

* 1.地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決に貢献する事業
2.医療の充実と健康長寿、公衆衛生の普及促進、人の安全に貢献する事業
(3) 長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030”
東レグループの長期戦略は、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」に示す「2050年に向け東レグループが目指す世界」の実現に向けて、そのマイルストーンとしての「2030年度に向けた数値目標」の達成を目指します。今後の事業環境は、人口分布・環境問題・技術イノベーションなどで大きな変化が想定され、産業構造や社会システムの変化により事業機会が創出される一方で、これまで存在した事業が縮小するリスクもあります。私たちは産業の潮流の変化を的確に捉えて、「ビジネスモデルの変革」を進めながら「持続的かつ健全な成長」を実現することを目標としております。
(4) 中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022”
中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022”では、“TORAY VISION 2030”に示す「持続的かつ健全な成長」の実現に向け、「積極的な投資による事業拡大」という基本戦略を維持しつつ、成長戦略を可能にする事業構造改革や財務構造強化を両輪で推進することで、東レグループ全体で中長期に創出する価値を最大化していきます。
“プロジェクト AP-G 2022”では、「成長分野でのグローバルな拡大」「競争力強化」「経営基盤強化」を基本戦略として掲げ、地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決に貢献するグリーンイノベーション(GR)事業及び医療の充実と健康長寿、公衆衛生の普及促進、人の安全に貢献するライフイノベーション(LI)事業の拡大に取り組んでおります。また、財務健全性を確保するために、従来よりも利益、キャッシュ・フロー、資産効率性のバランスに配慮した事業運営を行うほか、新たな成長軌道を描くために、低成長・低収益事業の事業構造改革を推進しております。
これらの基本戦略とともに、新事業の創出、デジタル活用による経営の高度化などに取り組み、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」で示す「2050年に向け東レグループが目指す世界」の実現を目指します。

“プロジェクト AP-G 2022”での各セグメント戦略と取り組み
① 繊維事業
繊維需要は、人口増加、生活の質の向上、新興国における消費拡大に伴い、拡大することを想定しております。また衣料用途のみならず、工業、土木、農業、ライフサイエンスといったあらゆる用途で進化しております。
当社グループは、(a) 技術開発力と多彩な素材群、(b) サプライチェーンへの対応力、(c) グローバルな事業展開を強みの3軸とし、これらを自在に組み合わせてあらゆるソリューションを提供できる世界で唯一の「3次元事業展開」が特徴であり、“プロジェクト AP-G 2022”では「成長地域・成長分野でのグローバル事業拡大」「サステナビリティ対応による事業拡大」「ビジネスモデルの高度化」を成長ドライバーとし、「グローバル展開」「素材開発」「バリュー・チェーン」のそれぞれを重層的に強化していきます。具体的には、不織布・人工皮革、エアバッグの各事業と、衣料用繊維におけるファイバー・テキスタイル・縫製品一貫型事業の強化等に取り組み、差別化戦略による持続的成長を目指します。
② 機能化成品事業
(樹脂・ケミカル事業)
輸送/移動革命・自動車産業の変革のほか、デジタル革命・第5世代移動システム(5G)への移行、サステナブル社会の本格化、人口増加/少子高齢化社会など、産業構造に変化があることを想定し、それらの成長領域に向けて、市場が求める製品を先行的に投入することが重要となります。
樹脂事業は、多くの自動車用部品や民生用途に採用されておりますが、材料供給に留まらず、設計・加工法まで含めたトータルソリューションを提供することでお客様とともに社会問題を解決するパートナーとしてバリュー・チェーンを築いており、次世代自動車・次世代通信といった成長領域での開発を進めて事業拡大を図ります。また、サステナブル社会への対応として環境対応(リサイクル)材料の事業規模を拡大するとともに、ケミカルリサイクルの技術開発を推進し、リサイクルの高度化なども進めていきます。
ケミカル事業は、3Dプリンターの造形素材に最適なPPS微粒子を自動車、航空・宇宙用途等へ適用を進めるほか、人口増加による農作物需要の増加に対して、ラクタムやPPS原料の副生品を肥料・農薬原料として提供し、農業の発展を支えます。
(フィルム事業)
自動車のxEV台数の拡大や自動化の進化により、車載用途需要が拡大するほか、5G、IoTなど情報・インターフェースの進化により、回路材料で更なる高精細化が求められると想定しております。また、世界的に環境規制の強化が進み、廃プラ削減・リサイクルへの要請が強まることから、「成長分野での高付加価値品拡大」「新製品・新用途の開発・創出」を方針とします。
具体的には、「成長分野での高付加価値品拡大」においては、世界シェアNo.1のポリエステルフィルムでMLCC (積層セラミックコンデンサ)離型用途のグローバル供給体制を強化するほか、バッテリーセパレータフィルムにおいて欧州での設備増強による事業拡大を図ります。また「新製品・新用途の開発・創出」においては、ナノ積層フィルム PICASUS®の特性(様々な波長の光を選択的に反射することが可能)を活かして用途を拡大するほか、サステナビリティの強化として離型用途フィルムの回収システムを構築していきます。
(電子情報材料事業)
半導体、電子部品、メモリ市場が、5Gの本格化により、データセンターやワイヤレス通信、車載、モバイル向けで順調に拡大するほか、二次電池やメディカル用途など、IoTの社会基盤への浸透により、市場は堅調な成長を見せると想定しております。
高度なコア技術をベースにお客様との強い信頼関係のもとで将来ニーズを先取り、早期採用を実現する「First One」、強固な参入障壁を構築する「Only One」、業界標準化を実現する「Number One」、を「The One」戦略として実践し、有機EL関連材料や、5Gを支える半導体・実装・電子部品用高機能材料における市場拡大を着実に取り込み、事業の成長につなげていきます。
③ 炭素繊維複合材料事業
航空用途でのボーイング787の生産機数変更などコロナ禍が大きな変動要因となっておりますが、モビリティ革命や新エネルギーの拡大、環境ニーズにより、風力発電翼や燃料電池車用途(水素タンクや電極基材)、UAM (Urban Air Mobility)といった新しい事業機会が期待でき、2022年頃には再度成長軌道に戻り、2030年にかけて拡大すると想定しております。
当社グループは50年におよぶ研究開発、データ蓄積に加えて、世界最高性能を有するレギュラートウ、最強のコスト競争力を有するラージトウをグローバルに提案・供給できる事業体制を擁し、世界の有力企業との信頼関係を築いております。“プロジェクト AP-G 2022”においては、風力発電翼向けの生産設備の増強を加速し、水素タンク・電極基材で有力自動車メーカーとの共同開発を推進する一方、航空用途設備余力の用途転換や徹底的なコスト削減にも取り組んでいきます。
④ 環境・エンジニアリング事業
水処理事業では、人口の急速な増加などにより、自然の浄化作用だけでは「水量」と「水質」の確保が世界的に困難なことから、高品質・高速処理・省エネプロセスの膜処理技術が21世紀の必須技術となっております。当社グループが有する水処理分離膜のうち、海水淡水化・飲料水製造に用いられるRO膜(逆浸透膜)、及び下排水再利用などに用いられるUF膜(限外ろ過)において高い市場成長を想定しております。
“プロジェクト AP-G 2022”においては、RO膜の生産能力を1.6倍(2019年度比)に高めるとともに、提案力や技術サービスなどの非価格競争力とコスト体質の徹底強化を継続し、グローバルシェアNo.1の獲得を目指します。UF膜はプラント全体の設備費を10%削減できる新製品「New Tips」を戦略商品として中国、ASEANを中心に連携を強化し、事業拡大につなげます。
エンジニアリング事業では、ライフサイエンス分野や半導体分野の成長を想定し、プラント事業・エレクトロニクス機器事業において拡大を図ります。
⑤ ライフサイエンス事業
LI事業の中核となるライフサイエンス事業では、医薬事業において既存製品の海外展開や適応拡大、医療機器事業において「HotBalloon™」の改良品上市や透析機器高付加価値品の国内外拡販を実施するとともに、徹底的なコストダウンを行って事業基盤の強化を図ります。
(5) 事業環境変化への対応
新型コロナウイルスの感染拡大を機に、事業環境が大きく変化しておりますが、地球環境問題や、エネルギー問題、健康長寿、新興国の人口増加など、世界が直面している大きな課題に変わりはなく、それら課題に、素材メーカーとして取り組んでいくという当社の姿勢も変わりません。“TORAY VISION 2030”で目指す「持続的かつ健全な成長」の実現に向けた事業方針の下、GR事業及びLI事業を推進します。
中長期的には、新型コロナウイルスが収束した後の事業環境変化を想定したうえで、高齢化、環境問題、技術イノベーション、コスト競争力を有する新興国企業の技術力の向上といった変化へ対応することが重要な課題と考えております。
(6) サステナビリティへの取り組み
当社グループは「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」において、2050年に温室効果ガスの排出と吸収のバランスのとれた世界などを目指すことを掲げており、地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決を通じて社会に貢献することを目指しております。
原料のリサイクル推進やバイオ化、再生エネルギーの活用や水資源の再利用のほか、電解質膜、電極基材などの水電解・水素圧縮や燃料電池向け材料の開発、製造及び販売を通じて、カーボンニュートラルを可能とする水素製造(水電解)、水素インフラ(圧縮・貯蔵)及び水素利用(燃料電池)技術の発展に貢献し、循環型社会の実現を目指します。
新規事業創出・拡大を目指す「FTプロジェクト(Future TORAY-2020sプロジェクト)」においては、次の成長ステージを担う大型テーマにリソースを重点的に投入しており、水素・燃料電池関連材料、バイオマス活用製品・プロセス技術、環境対応印刷ソリューションなどのテーマのほか、CO2やバイオガス、水素などを分離するためのガス分離膜の構造を支える支持層に利用可能な多孔質炭素繊維の用途開発などを進めていきます。