有価証券報告書-第116期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/07/15 11:28
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110項目

事業等のリスク

(1)当社のリスクマネジメント体制
当社は、当社グループの事業活動に関する諸種のリスク管理を所管するリスクマネジメント委員会を設置し、リスクマネジメント委員会規則に従い、取締役会で指名された執行役が以下のリスク管理体制の構築と運用にあたっております。
当社グループの事業活動に関する事業リスク及びオペレーションリスクについては、執行役の職務分掌に基づき各執行役が、それぞれの担当職務ごとに管理することとし、リスクマネジメント委員会はそれを支援しております。また、リスクマネジメント委員会は、グループ経営上重要なリスクの抽出・評価・見直しの実施、対応策の策定、管理状況の確認を定期的に行っております。
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(2)当社のリスクマネジメント体制の運用状況
当社は、リスクマネジメント委員会を定期的(年2回)及び必要に応じて臨時に開催しております。この委員会では、企業活動に関して抽出されたリスクとその対応策を策定するとともに、リスクマネジメントシステムが有効に機能しているかどうかの検証・評価を行っております。2019年度は、同委員会を2回開催し、2018年度から引き続き、主に米中貿易摩擦に端を発したグローバルでの保護主義的な潮流に対し、事業に影響度の高い地域・国に適用される制裁や新たな法規制等の定期的なモニタリングを実施しました。
また、リスクマネジメント委員会の協議内容は定期的に監査委員会に報告され、特に経営上・事業上重要なリスクに関しては取締役会に報告、協議されております。
さまざまなリスクによって発生するクライシスに対しては、迅速・適切に対応するためにクライシス発生時の報告ルールを設け、執行役や当社子会社役員等に周知しております。その報告ルールに沿って、世界各地で発生した災害事故、その他のクライシスに関する情報を危機管理担当執行役が集中管理しております。特に、新型コロナウイルス感染症につきましては、2020年1月よりCEOを最高責任者とする危機管理臨時体制を立ち上げ、対応策(BCP)策定と実行推進を行っております。
(3)事業等のリスク
当社グループの財政状態、経営成績績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を与える可能性がある主要なリスクとして、以下で記載しておりますが、これらのリスクは必ずしも全てのリスクを網羅したものではなく、想定していないリスクや重要性が低いと考えられる他のリスクの影響を将来的に受ける可能性もあります。
また、当社は、リスクを「組織の収益や損失に影響を与える不確実性」と捉えております。リスクを単にマイナスの側面からだけではなく、「機会」としてのプラスの側面からも捉えたうえで、リスクマネジメントを「リスクのマイナス影響を抑えつつ、リターンの最大化を追求する活動」と位置づけております。
記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において入手可能な情報等に基づいて、当社グループが判断したものであります。また「新型コロナウイルス感染症の影響」に関する事項については、本記載項目の最後にセグメントごとにまとめて記載をしております。なお、当該事項のうち将来に関する記載事項は2020年5月末現在において当社グループが判断したものであります。
①経済環境に関するリスク
1)経済動向・市場環境
発生可能性:高発生する可能性のある時期:1年以内影響度:大
●リスク
当社グループは、複合機やデジタル印刷システム、ヘルスケア用機器製品、産業用光学システム製品・部材やディスプレイ材料及び関連サービス等を世界中のお客様に向けて提供しております。これらの事業の売上及び損益は各国の景気動向や事業環境に大きく影響を受けます。
欧州では前連結会計年度後半から引続き経済低迷が継続し、英国のEU離脱は2020年1月に決定したものの英国とEUでの交渉が続くことから先行きの不透明感は継続し、また、米国による保護主義政策の流れ、米中の覇権争いに起因する貿易摩擦による追加関税の実施、ハイテク冷戦の影響、中東を中心とした地政学的要因や中国・新興国の経済成長の停滞などが引き続き懸念されます。
各国市場の景気後退は顧客の投資抑制や経費削減、消費低迷を引き起こし、結果として当社の予想を超えた在庫増加や競争激化に伴う販売価格下落、新規設置数減少等、将来にわたり当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社は、2月以降の新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に伴い、特に欧米でのロックダウンにより機器の設置やサービス提供、新規受注などの販売活動が制約を受け、2019年度の業績に大きな影響が出る結果となりました。なお、同項目については、④「新型コロナウイルス感染症に関するリスク」に詳細を記載しております。

2)為替レートの変動
発生可能性:高発生する可能性のある時期:特定時期なし影響度:中
●リスク
当社グループは、高い海外売上高比率が示すようにグローバルに事業活動を展開しており、為替レート変動の影響を大きく受ける状況にあります。ユーロにつきましては、為替レートの1円の変動が営業利益に与える影響は約6億円になり、直接損益に影響を与える状況となっております。他の主要通貨においても、円高の状況は当社グループの業績に悪影響を及ぼし、円安は好影響を与えることになります。また、外貨建ての取引から生じる当社の資産及び負債の円貨額や海外子会社の外貨建財務諸表から発生する在外営業活動体の換算差額も変動する恐れがあります。
●対応
為替レート変動の影響を軽減するため、米ドル、ユーロ等の主要通貨では為替予約を中心としたヘッジを行っております。また、米ドルにつきましては、米ドル建ての調達と米ドル建ての販売地域における売上を相殺することにより影響を軽減しております。

②事業活動に関するリスク
1)オフィス事業 プリント環境の変化に関連するリスク
発生可能性:高発生する可能性のある時期:1年以内影響度:大
●リスク
先進国を中心としたオフィスにおいては、紙に代わる情報共有の手段としてタブレット端末やスマートフォン等のデジタル機器の普及加速に加えて、ワークスタイルの変化により、オフィスにおける紙への出力機会が徐々に減少するリスクがあります。それに加えて、新型コロナウイルス感染拡大によるテレワークの普及が、このリスクの顕在化を加速させることも懸念されます。こうしたお客様の変化に対応ができない場合、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
●対応・機会
当社グループでは先進国オフィスでの出力機会の減少リスクに対処するために、以前より、オフィス事業のお客様に対して出力以外にもマネージドITサービスや、情報の管理・編集を支援するコンテンツマネジメントサービスを提供することで、お客様のワークフロー改善に資する価値の提供に取り組んでおります。また、中国・インドをはじめとするまだ成長余力のある国・地域においては、引き続きカラー複合機の設置拡大に取り組んでおります。これらの活動を通じてオフィスでの出力減少による収益減少を最小化する取組みを展開しております。
さらに、中堅・中小規模のオフィス事業のお客様を主なターゲットとして、新プラットフォームとなる「Workplace Hub(ワークプレイス ハブ)」や種々のアプリケーションソフトを通じて、お客様の業務の効率化や意思決定を支援する新たな価値の提供にも取り組んでおります。この新プラットフォームを通じた価値提供は当社独自のものであり、オフィス顧客の拡大にもつながります。
以上のようなオフィスにおける出力減少のリスクに対するオフィス事業としての対応に加えて、当社グループとしてオフィス事業と並ぶ収益の柱を構築していくために、バイオヘルスケア、産業用光学システム、産業印刷、画像IoT分野への積極的な投資を展開しております。
「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)中長期での成長に向けて ②デジタルによる顧客価値創出」にも関連事項を記載しております。

2)各国・各地域の規制
発生可能性:高発生する可能性のある時期:1年以内影響度:中
●リスク
当社グループの事業活動の多くの部分は、北米、欧州及びアジア諸国といった日本の国外で行われており、その国や地域固有の法制、規制や承認手続きの影響を受けております。米国と中国の貿易摩擦に端を発する相互関税の引き上げ、技術輸出規制などの経済措置の動向には常に十分な注意を払っておりますが、将来、各国の政府や国際的枠組による規制、例えば税制、輸出入規制、通貨規制、個人情報保護規制、デジタル関税、その他各種規則等が新規に導入されたり、変更されたりした場合には、これらに対応するための費用が発生したり、事業活動に支障をきたす可能性があります。また、このような予期しない事態に対応できない場合、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
特に、当社グループのヘルスケア事業、バイオヘルスケア分野では、事業活動を行っている各国の様々な医療制度や許認可の手続きの影響を受けております。医療制度改革等によって、予測できない大規模な医療行政の方針変更が行われ、その環境変化に速やかに対応できない場合、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
●対応・機会
各国・地域の法律・規制の動向には、常に十分な注意を払い、情報の収集に努めております。各エリアの法務担当者と連携し、海外各地域の実情を把握し、必要に応じ外部の弁護士、コンサルタント等、専門機関の協力を得て対応を行っております。また、新制度導入や制度改定による市場参入要件の新設・変更に迅速に対応することで、当社にとって販売機会創出の可能性があります。特に、環境法規制への対応、セキュリティに関する規制への対応は、当社が強みとする環境経営やITサービス・ソリューションに追い風になるものと認識し、対応を進めております。
ヘルスケア事業・バイオヘルスケア分野では、各国医療政策の情報収集、専門学会等との連携により対応を行なっております。プラス面では、医療政策による先端技術の導入は新たな市場創出につながり、近年では、AIを用いた画像診断、遠隔医療、遺伝子検査等への期待が高まっております。


3)次世代技術変化
発生可能性:中発生する可能性のある時期:3年以内影響度:中
●リスク
今後、当社グループが展開すべき新たな事業分野においては、他社に先んじた技術革新が重要な競争優位の源泉となっており、常に革新的な技術開発に挑戦し、そのための研究開発投資及び設備投資も積極的に行っておりますが、競合他社が先行して類似技術や代替技術を出してくる可能性もあります。
また、IoT、AIに代表されるデジタル技術の普及に伴いデータの活用領域が拡大することで、様々な産業分野、ビジネスモデルに変化がもたらされることが想定されます。これらの変化に対応できない場合、将来にわたり市場でのポジションを喪失する等、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
●対応・機会
当社グループの材料・光学・微細加工・画像の4分野のコア技術を高度化・融合化するとともにIoT、AI技術と組み合わせることで、当社独自のデータの源泉となる「見えないものを見える化する技術」をさらに発展させ、オフィス、ヘルスケア、産業用材料・機器事業のデジタルトランスフォーメーションを顧客と連携して進めてまいります。例えばオフィス事業においては、顧客とともに販売と開発が一体となって顕在化していない顧客ニーズを抽出し、デジタル技術を駆使して短期間での開発、検証を繰り返すことで、働き方改革、テレワーク等を支援するサービスを提供する体制を構築してまいります。
また、自前主義に陥らず、当社の技術戦略やコア技術資産を外部に積極的に発信し、大学、研究機関、スタートアップ等の幅広いパートナーとのオープンイノベーションを推進することでエコシステムをリードする、あるいは一員として協力するなど様々な形で社会に貢献する技術開発を加速してまいります。

4)新製品への移行
発生可能性:低発生する可能性のある時期:3年以内影響度:大
●リスク
当社グループが事業展開する分野は、ハードウエア・ソフトウエアの急速な技術的進歩による製品・サービスに求められる機能の汎用化が早く、製品ライフサイクル期間内であっても性能・サービスの内容・機能の改善が求められる事業分野です。このため、顧客・市場ニーズに対応するため常に革新的な技術開発に挑戦し、多くのリソースを投入し研究開発を行っておりますが、新製品・新サービスへの移行は多くのリスクが内在しております。開発または生産の遅延、量産初期段階での品質問題、製造原価の変動、新製品導入に伴う現行製品への販売影響等、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、競合他社から当社新製品・新サービスと類似製品・サービスが先行投入されるなど競合他社の新製品・新サービス市場導入時期により当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
●対応・機会
当社グループでは、新製品・新サービスへの移行・展開において、開発初期段階から量産に至るまでの各ステップで、試作品、量産前製品、量産品それぞれに対する製品仕様、要求品質、製造コスト、環境対応を中心とした検証とゲート管理を徹底し、最大限の取組みを行っております。特に新製品への切り替え時期におきましては、開発・生産・品質保証の各部門が一体となった管理体制を敷き、お客様に不利益が生じないことを第一に、その後のサービスを含め顧客価値を高める活動を行っております。
また、各事業分野において顧客価値を継続的に高め、競合に対して競争力のある新製品・新サービスの計画的な市場導入を進めております。市場変化の激しい状況下を考え、常に市場動向を観察・分析しタイムリーな計画変更を実施してまいります。例えば、オフィス事業では、複合機を中心に顧客のワークフローの改善につながるソリューションを、プロフェッショナルプリント事業では、ジャンルトップとなる競争力の高い商材・サービスを提供してまいります。

5)他社との協業、企業買収等について
発生可能性:中発生する可能性のある時期:特定時期なし影響度:中
●リスク
当社グループは、事業競争力の強化あるいは効率化の観点から、資本提携・企業買収等、他社との協業を進めております。
企業買収等に伴い、のれん及び無形資産を計上しており、定期的に減損テストを実施しております。事業環境の変化に伴い、買収対象会社に係る将来キャッシュ・フローの低下が見込まれた場合等には、減損損失を認識する可能性があり、当社グループの経営成績及び財政状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
●対応
企業買収に際しては、投資評価の審議を行い当社との戦略的適合性、計画の蓋然性、投資額の妥当性、リスク対応等の観点から投資評価を行った上で、投資の可否を見極めております。また、投資実施後においては、定期的な投資レビューにより、投資時点の計画からの変化に対しても、迅速に対策を講じるようにしております。

6)調達・生産等
発生可能性:中発生する可能性のある時期:1年以内影響度:中
●リスク
当社グループは、特定の製品、部品や材料、及びエネルギーを世界中の複数のサプライヤーから調達する方針を取っております。それらのサプライヤーに不測の事態が発生した場合、当社グループの生産及び供給能力に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループの生産活動において使用する鉄やアルミニウム等の金属製品、原油を原料とする石油化学製品、レアアース等の希少天然資源等の原材料価格、及びエネルギー価格の高騰が業績に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループの主力事業であるオフィス事業、プロフェッショナルプリント事業及び産業用材料・機器事業では、コスト競争力強化と市場への迅速な製品供給のために海外での生産活動を継続しており、重要な活動拠点のひとつに中国があります。中国におきましては経済発展とともに法制面改革やインフラ整備等も進んでおりますが、法的な変化、労務政策の難しさ、人件費の上昇、人民元の切上げ、輸出入規制や税制、環境規制の変更等予測困難な事態が発生する可能性があります。主力事業の生産活動の一部を中国で行っている当社グループにとって、これらのリスクに対処できない場合は、当社グループの業績及び成長戦略に悪影響を及ぼす可能性があります。
●対応
当社グループでは、主力調達地域である日本、中国、ベトナム、マレーシアにその活動に特化した部門を設置し、調達に関わる各地域の規制、制限、変化などの情報を収集することで、その対応の迅速化を図っております。また、サプライヤーでの品質、生産性向上を含めたコストの競争力を高めるためのコラボレーション活動を推進しております。具体的には、品質改善活動をサプライヤーと協業して行うこと、また、当社が保有する生産工程の自動化などの生産技術をサプライヤーに導入することで、生産性の向上と品質、コストの競争力を高めております。さらに主要原材料、電子部品に対し集中的な調達を行い、市況、市場、業界変動の中でも品質、供給、コスト競争力を維持する活動を行っております。
また、生産に関するリスク対応及び事業環境の変化に対する柔軟性を向上させるため、日本、中国、マレーシアにおいて製品組立の生産拠点を展開しており、特に近年様々な面で高まりを見せる中国のカントリーリスクへの対応として、生産規模の大きい主力製品を中心に中国外生産の比率を高めている状況にあります。また主力事業であるオフィス事業、プロフェッショナルプリント事業の消耗品における部品生産及び印刷用トナーの充填を行う拠点として、欧州、北米にも自社生産拠点を展開し消費地生産による需要変動への柔軟性を確保しております。
これら活動に加え、不測の事態による部品供給難に対応するため、BCP管理体制を開発・品質保証・調達・生産連携で整えております。サプライヤーの材料調達状況、生産稼働状況、出荷などの物流状況を迅速に把握するため各サプライヤー間の連絡網を整備し、部品供給課題が顕在化した場合は代替品の評価、検証から生産投入に至る一連の活動を、開発、生産、品質保証で最優先に対応しております。これらにより事業への影響の抑制を図っております。

7)製造物・品質責任
発生可能性:低発生する可能性のある時期:特定時期なし影響度:中
●リスク
当社グループは、国内外のグループ会社や生産委託先にて厳格な品質保証体制を構築し、お客様に対して高い性能と信頼性を備えた製品及びサービスを提供しております。万が一、当社グループの製品あるいはサービスに欠陥が発生した場合、その欠陥に起因した損害に対して当社グループは賠償責任を負う可能性があり、またその欠陥に対して多大な対策費用が発生する可能性があります。さらに当該問題により、企業ブランドや製品ブランドが毀損され経営成績に悪影響が及ぼす可能性があります。
●対応・機会
重大品質問題を起こさない仕組み・取組みとして、グループ全体の品質に関する責任と権限を担う執行役を議長とする「品質保証責任者会議」を設置し、品質マネジメントを統括しております。同会議は、原則として四半期ごとに開催され、品質計画の推進、進捗確認とともに、品質保証に関する情報共有、検討を行います。さらに各事業では、品質課題についてPDCAサイクルを徹底することで継続的な品質向上に取り組んでおります。
製品品質に関わる問題が発生した場合、24時間以内に全世界グループ統一の「市場品質速報データベース」に情報を登録することが義務づけられており、登録された情報は即座に品質担当執行役と事業責任者へ伝達され、関連部門で共有、必要な対策・情報開示が迅速に行えるようになっております。また、過去に発生した品質問題に対し、原因の解析、対策の実施及び技術・評価基準への反映を行い、再発防止に努めております。その結果、過去5年間、重大事故の発生はありません。また、法的基準よりも厳しい独自の製品安全基準を設けて、製品のさまざまな箇所について詳細に規定し確認を行っております。これらの施策をより確実に実施するために、設計・開発、生産技術、調達、品質保証などに携わる技術系従業員を対象とした「製品安全教育」をグループ全体で展開し、品質マインドの定着に努めております。
また、デジタル社会の進展や当社IoTサービス関連事業の拡大に伴い、セキュリティ事故のリスクも増大してくると考えております。製品セキュリティ事故発生時の対応と脆弱性への対策・予防として、製品の脆弱性に関する情報を全社で一元管理し必要な対応を推進するとともに、社外の公的機関等と連携するための全社共通組織として「KONICA MINOLTA PSIRT(注1)」を2017年12月に立ち上げ、活動を開始しました。2019年5月には、92か国約500のCSIRT(注2)・PSIRTチームが所属する国際フォーラムである“FIRST”(注3)に加盟し、企業間での情報連携やセキュリティ貢献が可能な体制を整えております。
(注1)KONICA MINOLTA PSIRT (Product Security Incident Response Team)、当社の製品脆弱性対応チーム
(注2)CSIRT(Computer Security Incident Response Team)セキュリティ事故対応チーム
(注3)FIRST(Forum of Incident Response and Security Teams)

③その他のリスク
1)大地震・自然災害・感染症等
発生可能性:中発生する可能性のある時期:特定時期なし影響度:大
●リスク
当社グループは、研究開発・調達・生産・販売等の拠点を世界各国に置き、グローバルに事業活動を展開しております。地震、火災、気候変動に伴う大規模な台風、洪水、森林火災等の災害、新型コロナウイルスや新型インフルエンザのような大規模な感染症の発生、また戦争、テロ行為、サイバー攻撃等が起こった場合、当社グループの設備等が被害を受け、一時的に操業が停止し生産及び出荷の遅れにより、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
特に、首都直下、南海トラフ等における巨大地震の発生においては、その影響度を検討して策定した「コンティンジェンシープラン」においても、被害想定を超えた規模で発生する可能性があり得ると考えられます。当社グループは、防災対策や事業継続マネジメントを今後も継続して推進してまいりますが、このような事態が発生した場合、機能停止、設備の損壊、電力・水・ガス等の供給停止、公共交通機関や通信手段の停止、サプライチェーンへの被害等により、お客様へのサービスの提供や製品出荷等の停止など、当社グループの事業活動の継続に影響を及ぼす可能性があります。
●対応
当社グループは災害や、感染症の発生また戦争、テロ行為、サイバー攻撃等があった場合の情報を危機管理担当執行役が集中管理し、従業員の安全を最優先として適切な対応をとる体制を構築しております。その中でも巨大地震をはじめとした災害に対しては防災中期計画に基づき、予防・減災対策、応急対策・初動対応、復旧・復興対策の観点でハード・ソフト両面からの対応実践力の向上を図っております。具体的には建物の耐震対策、通信・データ関連の主要サーバーの海外設置、安否確認システム・緊急時情報データベース等ITによる被災時情報共有基盤の整備等を進めています。大規模災害時には国内に有する約300のグループ拠点について緊急時の情報ネットワークを構築し、必要な支援や対策を実施できる体制を構築しております。さらに、事業拠点で従業員が災害時に自律的行動をとれるよう、定期的に実践的な防災訓練を実施しております。
また、当社グループでは、事業を継続し、企業としての社会的責任を遂行するとともに、お客様が必要とする製品やサービスを安定的に供給するために「コンティンジェンシープラン」を策定し、主要消耗品の生産拠点の分散化によるリスクの低減、調達リスクの高い品目については代替手段の検討、在庫の確保等、対応策の有効性の確認と改善を図っております。地域においては、各拠点の自治体と連携し、自然災害時の避難場所の提供等、地域貢献にも努めております。


2)環境規制・気候変動
発生可能性:中発生する可能性のある時期:特定時期なし影響度:中
●リスク
当社グループは、大気汚染、水質汚濁、有害物質の除去、廃棄物処理、製品リサイクル、土壌・地下水汚染等に関する様々な環境法及び規制の適用を受けており、それらの遵守のために必要な経営資源を投入しておりますが、現在及び過去の生産活動に関わる環境責任に伴う費用負担や賠償責任が発生する可能性があります。加えて、温室効果ガス排出規制、エネルギー効率規制、欧州サーキュラーエコノミー(循環型経済)に関する規制、炭素税等新規・追加の環境関連の法規制が将来さらに厳格化した場合には、遵法のための追加的義務及び費用が発生する恐れがあり、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、気候変動をはじめとした地球環境問題の進行は、その緩和及び適応の局面において将来にわたり当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。一方、その課題の解決に貢献できれば好影響を及ぼす可能性があります。
●対応・機会
当社グループでは、2050年までに自社の製品ライフサイクルにおけるCO2排出量を80%削減するとともに、その排出量を上回る社会・お客様でのCO2排出量削減を生み出し、「カーボンマイナス」を実現することを目指しております。2019年度には、製品ライフサイクルにおけるCO2排出量は約99万トンで52%削減まで到達しております。
また、気候関連の機会については、多様な働き方を支えるコネクテッドワークプレイス、デジタルトランスフォーメーション(DX)による介護現場ソリューション、印刷工程のオンデマンド生産プロセスなどを通じ、本格的なペーパーレス、オフィスレス(ユビキタス)社会への働き方変革、エネルギー使用やCO2排出量が少ない製造プロセス変革を提供してまいります。また異常気象等への備えとしての画像IoT・センシングソリューション、遺伝子・画像診断等の技術を活用したヘルスケアソリューションなど、社会課題の解決に直結した事業を強化しております。人為的なCO2排出の主要因となる化石燃料に依存しない再生可能エネルギー社会へいち早く適合し事業運営することが、持続的に成長できる企業の必須要件であるとの考えから、再生可能エネルギー100%での事業運営を目指す国際リーダーイニシアチブ「RE100」に加盟しております。2050年までに自社の事業活動で使用する電力の調達を100%再生可能エネルギーにする目標を設定しております。2019年度には再生可能エネルギー比率を5.3%まで高めました。
当社グループは、気候変動をリスクとしてだけではなく機会としても捉え、事業活動を通じて気候変動に関する社会課題を解決していくことを目指します。また、気候変動による事業影響、機会及びその影響の評価に取り組んでいく姿勢を明確にするため、金融安定理事会が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」の提言に賛同しており、継続的に気候変動の影響の評価及びその情報の開示に取り組んでまいります。
「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)中長期での成長に向けて ③地球環境への貢献」に関連事項を記載しております。

3)知的財産権
発生可能性:低発生する可能性のある時期:特定時期なし影響度:小
●リスク
当社グループは、製品開発の中で多くの技術あるいはノウハウを蓄積し、それらを保護するための知的財産権の取得に努めております。しかしながら、一部の地域・国では、知的財産権を保護する制度が不十分な場合があり、第三者が当社グループの知的財産権を使用して類似製品を製造、販売することを防止できない可能性があります。
また、当社グループでは他社の権利を侵害しないように製品の開発を進めておりますが、見解の相違等により他社の知的財産権を侵害しているとされ、当社グループが技術を使用できない可能性や多額の損害賠償責任を負う可能性があります。さらに、現在当社グループがライセンスを受けている第三者の知的財産権の使用が将来差し止められる、あるいは不当な条件に変更される可能性があります。
●対応・機会
当社グループは、技術等を保護する知的財産権(例えば特許権)を適切に取得・執行することが困難な国・地域において、商標権等に基づいて、行政機関と協力し模倣品の押収や輸入差し止めを行う、運営業者と連携し電子商取引(EC)サイトからの出店差し止めを行うなど、様々な方法により類似製品の流通阻止に努めております。
また、他社の知的財産権に関しては、製品開発の各フェーズにおいて入念な調査・確認を実施し、他社の知的財産権を侵害していないことを商品化の要件としております。また、万一見解の相違等により他社から知的財産権の侵害を指摘された場合やライセンス条件の変更等に備え、非侵害の主張やライセンス条件等の交渉・訴訟対応を行うための専門人財を社内知的財産部門に配置するとともに、経験豊富な国内外の弁護士と連携し、事案の内容に応じて適切に対応する体制を整えております。
これらのリスク管理に加え、当社グループの事業、製品、サービス等により提供される顧客価値の源泉となる独自のビジネスモデル、技術、データ等の知的財産について、特許権等の知的財産権の取得、不正競争防止法によるノウハウ・データの保護要件を満たす管理等、その特性に応じた適切な保護・活用を行うことにより、当社グループの持続的な競争優位性の維持、成長のドライバーとしております。

4)人財確保
発生可能性:中発生する可能性のある時期:3年以内影響度:中
●リスク
当社グループの新規事業を中心とした将来的な成長には、優秀な人財の継続的な獲得が欠かせないと認識しております。特に、IoT、AIに代表されるデジタル技術の普及に伴うデータの活用領域が拡大することによる様々なビジネスモデルの変化に対応するためには、IoT人財の強化が必要となります。計画どおりに人財の強化が進まない場合は、当社グループの目指すソリューションビジネスへの転換に影響を及ぼす可能性があります。
●対応・機会
当社グループでは、IoT人財の育成・獲得を重要戦略と位置づけ重点的に施策を進めております。人財育成では、スキル認定の仕組みにより技術系人財のジョブ・スキルマッチングを進めるとともに海外開発拠点や共同研究機関との連携での育成プログラムによるグローバルレベルで計画的な育成を行っております。人財獲得では、長期インターンシップや大学との連携強化を行い、IoT分野の優秀な学生を当社に惹きつけております。2019年には大阪梅田に「Innovation Garden OSAKA Front」を新設し、2020年10月には高槻に「Innovation Garden OSAKA Center」の新設を予定しており、画像IoT開発の本格的な拠点展開をはかり関西地区での人財獲得強化を進めております。
また、New Normal(新常態)における働き方としてテレワークを積極的に展開するなど、ワークライフバランスを支える各種制度を整備し、多様な働き方に対応できる仕組みを強化しております。

5)情報セキュリティ
発生可能性:中発生する可能性のある時期:特定時期なし影響度:大
●リスク
当社グループは、様々な事業活動を通じて、お客様や取引先の個人情報あるいは機密情報を入手することがあります。これらの情報管理につきましては、サイバー攻撃等による不正アクセスや改ざん、データの破壊、紛失、漏洩等が不測の事情により発生する可能性があります。また、技術、契約、人事等に関する当社グループの機密情報が第三者に漏えい、不正使用された場合も、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
●対応・機会
情報管理について、適切な技術対策や社内管理体制の整備、従業員への教育等の対策を講じております。
また、サイバーインシデントに対応する組織としてCSIRTを全グループで運用し、セキュリティインシデントを想定した訓練を実施しております。さらに、製品・サービスに関して開発・設計・製造・販売・保守の全てのフェーズにおいて委託先を含めてサプライチェーン全体を一貫したセキュリティポリシーにてリスク管理を行うための包括的セキュリティマネジメント体制を2020年度より発足いたします。これらを通してセキュリティの強化に努めてまいります。
新型コロナウイルスの影響によるテレワーク者増加に合わせて、よりセキュリティに配慮した勤務環境を提供する必要があり、外部からの不正アクセス防止のため、暗号化通信によるセキュアなネットワーク環境の提供と、会社指定デバイス以外からのネットワーク接続を制限しております。
また、当社グループはお客様のセキュリティ対策強化の支援にも注力しております。IT管理サービスとしてネットワークやアプリケーションの脆弱性の監視・管理サービス、リスクアセスメントを行うとともに、複合機からの情報漏洩を防止するためのデータの暗号化、パスワード設定やログ管理の機能、設定状況の監視と通知サービスを行う「bizhub(ビズハブ)SECURE」をグローバルに展開しております。新製品の「bizhub i-SERIES」には、社内ネットワークへのウイルス拡散を防止するため、すべての文書・FAXデータのウイルスをチェックする機能を搭載しております。オフィス内のITシステムを統合管理する「Workplace Hub」には、Sophos社のファイアウォール機能が搭載されており、ネットワークのリスクや脅威の検知と排除、情報漏洩に対応しております。

④新型コロナウイルス感染症に関するリスク
1)新型コロナウイルス感染拡大の影響
発生可能性:高発生する可能性のある時期:1年以内影響度:大
当社グループは、グローバルな事業を展開しており、売上高における日本以外の地域の構成比は、80%以上を占めます。そうした事業環境下において、2020年1月下旬から顕在化した新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、各国政府によるロックダウン(都市封鎖)や活動自粛要請などにより、中国・アジア地域ではサプライチェーンや生産活動に混乱をきたし、当社グループにおいても一部の工場で一時的に操業停止や減産などの対応を、欧米地域では当社の顧客企業の事業活動が停滞し大きく需要が減少したため、当社の販売活動の停滞を余儀なくされました。新型コロナウイルスによる感染症の影響は、感染の規模や収束の時期について、5月末現在において入手可能な情報等に基づいて、当社グループが判断し一定の想定をしておりますが、その想定は不確実性があるため、業績に与える影響を具体的に予想することが困難であります。
一方、新型コロナウイルス感染症と闘いながら経済活動を再開していく過程においては、医療従事者への一層の支援が必要とされるとともに人々の価値観や働き方にも変化が生じると想定されます。胸部X線のAI診断支援、遠隔診断支援や「Workplace Hub」を活用した多拠点連携による働き方改革支援、自社実践から得られたテレワークのノウハウ提供等は、これらの社会課題の解決を通じ事業機会拡大も想定されます。
以下、セグメントごとに、リスク(マイナス側面)と機会(プラス側面)の両面からご説明します。
●リスク・機会
(オフィス事業・プロフェッショナルプリント事業)
顧客企業のテレワークや事業活動の制限により、製品購入判断や設置の遅延、商談機会の制約や長期化、印刷量の減少が想定され、当社の経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
一方、テレワークなどの新しい働き方を支援する当社のITサービス・ソリューションや「Workplace Hub」は、主要顧客である中堅・中小企業や官公庁に強固な情報セキュリティを確立しながら、遠隔での協働を実現するソリューションとして販売機会の拡大の可能性が想定されます。
(ヘルスケア事業・バイオヘルスケア分野)
病院における一般患者や被検者の減少、当社グループからの病院や製薬企業への訪問が制約されることなどにより、販売の一時的な減少が想定されます。
一方、新型コロナウイルス感染症の収束後には、これらの需要は戻ってくるものと見ており、加えて感染症対応も含めた持続可能な医療環境を支援する遠隔画像診断システム、X線動態解析とAI読影支援システム、医療画像管理と施設間連携をサポートする「infomity(インフォミティ)」、遠隔診療やカウンセリングシステム、従業員健康管理プログラムなどの販売機会の拡大可能性が想定されます。
なお、2020年4月に、米国政府からの要請を受け、検査ラボとRNA検査技術を活用し、企業・医療関係者からのPCR・抗体検査を受託しました。創薬支援においては新型コロナウイルス治療薬の研究を支援するべく取り組んでおります。
(産業用材料・機器事業)
顧客企業のFPD(フラットパネルディスプレイ)製造ライン増設の遅延や最終製品の需要増減の影響が想定されます。
一方、新しい働き方の広がりに伴って、需要の拡大が期待されるノートPCやタブレット、スマートフォンなどの中小型ディスプレイ用の部材販売や、顧客製造ラインの検査工程の自動化による省人化を支援する当社グループ独自のソリューションなどの販売機会の拡大可能性が想定されます。
画像IoTの分野においては、AI解析によるサーマルカメラの体表温度測定ソリューションの需要が高まり、販売機会が拡大しております。
(調達・生産)
新型コロナウイルス感染拡大は、当社のサプライヤーの企業活動にも影響を与えており、サプライヤーの事業継続コストによる調達品目の価格高騰、もしくは事業継続が困難と判断された場合の代替品調達に伴う追加費用の発生などが生じる可能性があります。
●対応
当社では、2020年1月よりCEOを最高責任者とする危機管理臨時体制を立上げ、対応策(BCP)策定と実行推進を行いました。新型コロナウイルス感染拡大に対し、各国政府・地域の法令・指導に従い、グループで働く人々とその家族、お客様、お取引先様を始めとする全てのステークホルダーの皆様の健康と安全確保を最優先に考え、感染拡大を防止するとともに、社会やお客様への製品・サービスの提供に支障が生じないよう、生産・物流を含めたサプライチェーン網の維持等にも最大限の努力を続けております。特に、生産では以前より自社生産のデジタル化(DX化)に取組み、その効果をサプライヤーにも展開することで生産性の向上と品質、コストの競争力強化を進めております。
日本国内では、従業員に対し以前から推進している在宅のテレワークを引き続き推進し、従業員の高いパフォーマンス発揮のため、きめ細かなITサポートを拡充しております。
また、従業員が新型コロナウイルスに「感染しない・うつさない」ための行動ガイドラインを作成し、オフィスにおける具体的な取組み(30分単位の室内換気、少人数定員の座席配置、小まめな手洗いや勤務中のマスク着用等)を徹底しました。さらには、在宅のテレワークを続けることで生じる従業員間の意思疎通や生活リズムの変化などの従業員のメンタルリスクに対して、相談窓口の設置などのメンタルケアを行っております。グローバル各拠点でも、上記のとおり各国政府など行政の要請に基づき、適切に対応しております。