有価証券報告書-第116期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

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2020/07/15 11:28
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110項目

対処すべき課題

(1)当社の経営理念
当社は経営理念「新しい価値の創造」の下、画像の入出力、画像処理を中核とする独自技術でイノベーションを生み出し、世界中のお客様の「みたい」という欲求に応えてきました。顧客企業の業務プロセスに潜むムダやミスのリスク、印刷や製造の現場における熟練した職人の勘やひらめきへの依存、健康な生活や安定した社会を脅かす疾病の微かな兆候や遺伝子変異、社会インフラの老朽化など潜在的なリスク、これらを見える形で示し、当社ならではの価値の提供によって顧客や社会の課題を解決する企業を目指してまいりました。
(2)中期経営計画「SHINKA 2019」の振り返り
当社は中期経営計画「SHINKA 2019」において「課題提起型デジタルカンパニー」を目指す姿として、ビジネス社会・人間社会の進化のために新たな価値を創出し続ける企業への変革を推進してきました。現在の収益を支える基盤事業においては、グローバルなコスト構造改革と顧客価値を起点とした差異化を進めてきました。一方で、成長・新規事業は、収益貢献を狙い、立ち上げを加速してまいりました。
①外部環境
デジタルを活用した働き方の改革や行政手続の電子化が進むことにより、欧米の先進国でプリントボリュームの成長が鈍化してきたことは想定どおりでした。中期的には為替の円高傾向の持続など経済環境は厳しくなると想定をしていましたが、2018年度後半からはその想定以上に米中の貿易摩擦が激化し、中国経済の成長が減速したことが欧州経済の停滞を招き、世界的に企業の設備投資に対する意欲が低下しました。これにより、オフィス用複合機、デジタル印刷機、医療機器の販売では商談の長期化などの影響が生じ、特に高価格帯の製品ほどその影響が顕著となりました。
一方、デジタル化やAIの普及は、オフィスにおける働き方、産業界の勢力図や業種・業態のビジネスの現場に大きな変化を及ぼしました。ヘルスケア業界では医療機関における画像診断や患者のケアのワークフローに大きな変化が生じました。印刷産業の現場における業務プロセスにも影響を与え、中国やインド、ASEANなどではデジタル印刷の市場が拡大しました。デジタル化はスマートフォンやタブレットでの情報の入手や業務処理などビジネスシーン、ワークフローを大きく変えていますが、ライフシーンにおいてもディスプレイ製品の多様化や自動車の自動運転や安全運転支援技術の進化などの大きな変化をもたらしました。
当期末には新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に伴い、当社の営業活動や受注済製品の設置などが大きな制約を受けました。特に2020年3月には欧米でロックダウンが始まったことで、この期間が最需要期となるオフィス、プロフェッショナルプリント、ヘルスケアの販売に大きな影響を与えました。
②事業面の振り返り
オフィス事業では上記のような外部環境の悪化に加えて、米中貿易摩擦に起因する中国生産製品に対する追加関税の影響を受けました。内部要因では、7年ぶりにプラットフォームを刷新した新製品の立上げにあたり、関税対策の意図も込めマレーシアの生産拠点で量産を開始しましたが、量産の初期に設計面での課題や製造工程における問題の解決に時間を要し、検査工程を増やすなどの対策を行なったため、狙いとした製造原価の達成に遅れが生じました。
プロフェッショナルプリント事業では、プロダクションプリント分野は成長国の市場は拡大したものの、先進国の商業印刷領域でのデジタル化は想定より進行が遅れた上、競合企業の新製品の投入も続き、競争環境が厳しくなりました。そうした環境下で当社は独自の差別化で競争優位の確保に努め、ミッド及びライトレンジのカラー市場ではジャンルトップのポジションを維持し、当期末には大量印刷需要の獲得を狙いとした最上位機種を発売しました。成長領域と位置付けている産業印刷分野では先行費用をかけて製品ラインアップと販売体制を強化し、着実に売上げを拡大しました。
産業用材料・機器事業では、ディスプレイの大画面化、多様化が進みました。フラットパネルディスプレイのパネルの生産では韓国から中国メーカーへのシフトが進むとともに、スマートフォンでは中国の新興メーカーが台頭しました。当社は機能材料分野では、ディスプレイの大画面化、パネルメーカーの変化を想定した高付加価値製品へのシフトが奏功し、競争優位を確立しました。また当期後半には新樹脂の顧客認定も進み、顧客ニーズへの対応力向上による更なる高付加価値化の道筋をつけました。計測機器ではモバイル製品及びメーカーの多様化で、ディスプレイの色計測での事業基盤を強化しました。また成長分野と位置付けている外観計測の事業化も進展しました。
新規事業では、バイオヘルスケア分野において2017年度に大型買収を実施、米国を中心として事業を始動させました。買収の決め手となった技術力の高さは想定どおりであった反面、遺伝子診断サービスの保険収載やその審査に関する保険会社との交渉力など課題も顕在化しましたが、当社グループの総合力を生かして支援した結果、当期は遺伝子診断サービスがけん引して大きく売上げを伸ばし、成長軌道に乗りつつあります。一方、オフィス事業で培った顧客基盤を活かして新たなサービスのプラットフォームの確立を目指しているワークプレイスハブでは、狙いとした中堅・中小企業を中心として、その提供価値は想定通りに受け入れられましたが、基本ソフトウェアのバージョンアップと北米での販売体制の構築に遅れが生じ、顧客数の拡大による売上げの伸長は想定に対して大幅に未達となりました。
このように、基盤事業においては、想定どおりに進んだ事業は収益性を向上できたものの、それ以外の事業では狙いとした利益創出を実現するには至っておらず、今後の課題と認識しております。また、成長・新規事業については、顧客価値の検証、ビジネスモデルの構築は進み、戦略の方向性が間違っていないことは確信できました。一方で、顧客数、売上高をスケールアップさせる力が不十分で、全社の収益に貢献できるレベルまでには至っておらず、今後更なるトップライン伸長の加速を進めます。計数面では、当初目標に掲げていた営業利益・ROEの水準から乖離する結果となりました。その結果を真摯に受け止め、個々の事業の推進力を高めるとともに、全社としての事業ポートフォリオ及び経営管理の在り方を抜本的に見直します。
③非財務面での振り返り
地球環境問題、特に温暖化など気候変動によるリスクへの意識は、この3年間で世界的な広がりを見せています。当社が掲げてきたカーボンマイナスへの取組みは、顧客企業、サプライヤーのみならず、他業界の企業にも賛同が広がり、日本の産業界全体で環境ノウハウを共有する構想が具現化しました。
人財面においては、多様性の推進に対する社会的な要請が高まる中、当社では女性や外国人の登用に加えて、顧客の業務を理解する力を持つために人的シフトを進めました。外部から専門人財を採用し、画像IoT人財は国内外で500名まで増やし、デジタルトランスフォーメーションを成長に生かす人的基盤の整備が進捗しました。
(3)中長期での成長に向けて
①長期視点での持続的な企業価値向上
当社は、2030年、さらにその先を見据えた長期的視点にもとづき、そこからバックキャストする形で「今何を成すべきか」を明確にしております。「人間社会にとっての新しい価値提供(社会価値)」と「事業の成長(経済価値)」を一体化させ、持続的な企業価値向上を実現していきます。
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これから2030年に向けては、人と人、人と社会がつながり、相互に支えあうことによって、自律的により良い社会を創っていこうという価値観が広がっていくものと予測しています。さらに、直近の新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、その価値観はますます重要なものになってくるものと考えます。そのような社会の中で、当社は、創業以来培ってきた「見えないものを見える化」する技術を活かして、さまざまな業種・業態のビジネスの現場で働く「プロフェッショナル」が直面する課題を解決して、その潜在力や創造力を引き出すことにより、より多くの人々が生きがいを感じる社会づくりに貢献していきます。このような、B (Business) to B (Business) to P (Professional) for P (Person)のアプローチは、今後、中長期での成長に向けて更に強化していく当社の重要な戦略となります。
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②デジタルによる顧客価値創出
4つのコア技術(材料・光学・微細加工・画像)をベースに、ヒトの目には見えないものを含む様々な物事を感知・入力し、デジタル変換・意味付けすることで、活用できる情報に変えます(見えないものの見える化)。この情報に様々な解析を加えることで判断や行動につながる顧客価値を創出します。
機器、つまりモノを中心に、その機能や性能の価値訴求をしていた時代には値段やコストパフォーマンスなど購買意思決定者を対象とする価値観に応えることが重要でした。しかしながら、機器がネットワークやインターネットにつながり、ワークフローに組み入れられるようになると、様々な業種のビジネスの現場のプロフェッショナルの方々はネットワーク型のサービスを使いこなし、業務において非連続に生産性をあげることにこだわります。生産性を飛躍的に向上することができれば、プロフェッショナルの方々はより本質的で創造的な業務、すなわち人間として働きがいのある業務に時間を使うことが可能になります。顧客企業のユーザーの方々の生活の質も高まりますし、医療や介護業界では高齢者や患者の生活の質が高まり、豊かな生活を楽しむことが可能になります。このような形で、デジタルの力を活用し、人間中心の社会の実現を目指してまいります。
また、機器がネットワークにつながりワークフローがデジタル化することで、現場の業務改善から顧客のデータを集積することができます。そうすることにより学習経験による継続的な改善が可能になります。顧客の経費の削減だけではなく、現場の改善により売上や利益を増やし、ブランド力が上がる成果を導くことができれば、当社は顧客にとってなくてはならない存在として認められ、長期的な関係を構築することができます。そうした関係性を継続的に維持、強化するために、フロー型のビジネスモデルから、リカーリング型のビジネスモデルへの転換を進め、顧客の生涯価値の最大化を目指します。
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オフィス領域では、中堅・中小企業のお客様の業務プロセスにおける非効率やリスクを見える化し、働く人の生産性・創造性・意思決定支援に貢献します。デジタル印刷領域では、品質状況・稼働状況及び印刷の価値を見える化し、産業の需要変動で生じるロスや地球環境への負荷を低減します。ヘルスケア領域では、健常に見える人に忍び寄る疾病のリスクを見える化することで、早期発見・早期診断を実現し、個々人の健康な生活と医療費削減に貢献します。産業領域では、お客様の製品や社会インフラにおける不具合や経年劣化の予兆を見える化し、安全・安心で心豊かな社会を創出します。
③地球環境への貢献
持続可能な社会の実現に向けて、当社では環境課題の解決に向けた取り組みを強力に推進しています。2009年に発表した長期環境ビジョン「エコビジョン2050(注1)」を進化させ、新たなコミットメントとして「カーボンマイナス(注2)」を設定しました。気候変動問題を単なる脅威として捉えるだけではなく、地球に生きる人々の豊かさを向上させ、新たな事業を創出する機会と捉えます。
顧客に対しては、テキスタイルなどのオンデマンド印刷によるお客様工程の効率化、オフィスでのテレワークなどの働き方改革を支援するソリューション提供によりエネルギー削減や紙の削減につながります。大型のデータセンターを使わないエッジ型IoTソリューションを提供することでデータを効率的に利用することができ、エネルギー負荷を抑えることができます。一方、当社の事業活動においては、生産時に熱や電力を使う事業や、原材料の調達などサプライチェーンにおいて、気候変動による分断やコストアップのリスクもあります。自社生産工程やサプライチェーンでのエネルギー削減と原価低減につながる活動を進めていきます。
当社は全ての事業を通じてCO2排出量の削減、資源の有効活用、エネルギー使用量の削減を行うとともに、お客様・サプライヤー様を含めたサプライチェーン全体でのCO2排出量を加速度的に削減し、カーボンマイナスを実現していきます。
(注1)2050年までに自社の製品のライフサイクル全体におけるCO2排出量を2005年度比で80%削減する(取締役会で承認)。
(注2)社会・お客様とともに、自社の製品ライフサイクルの排出量を上回るCO2排出量削減を生み出す。
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④人財力の強化
持続可能な社会の実現に向けては、当社一社のみではなく、当社と当社のお客様、パートナー等のステークホルダーが一丸となった取組みを進め、価値を創出しながら課題解決を進めることが重要と捉えています。そのような取組みを推進するにあたり、最も重要となるのが、個々の「人財」の力です。当社は、様々な価値観、世界観を持った個々の人財が輝き、個々の「違い」を力に変えながらイノベーションを創出していくことを目指しています。働き方改革、ダイバーシティ推進、健康経営の推進といった「個が輝く」人財力強化を進めるとともに、オープンR&Dの推進や、顧客の現場に密接した事業創造を進めるイノベーション創出の「型」といった仕組みを構築することで、社会的価値につながる事業創出に取り組み、社会から必要とされ、支持されながら社会とともに進化し続ける企業を目指してまいります。
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(4)翌連結会計年度の重点取組み
当連結会計年度は、2月以降の新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、生産・販売活動に大きな制約が加わりました。この影響は翌連結会計年度の第1四半期には更に拡大し、その後も予断を許さない状況が続くと想定されます。企業活動の存続を揺るがす危機として捉える一方で、世の中が変化する大きな転換点としても捉え、自らのあり方を見つめ直す契機とします。すなわち、「環境変化に耐えうる強靭な事業構造の構築(守り)」を進めつつ、「厳選しながらの成長投資(攻め)」を継続することで、持続的な企業価値向上の礎としてまいります。そのような観点で、翌連結会計年度の重点方針として、以下の5点に取り組みます。
① 収益改善施策の継続と強化:「当連結会計年度に実施した構造改革の成果の創出」及び「原価低減の継続」によるコスト競争力を強化。「競争力のある新製品投入」及び「新型コロナウイルス感染症がもたらす変化への対応(直近の社会課題解決及び中長期的な機会獲得)」によりアップサイドを目指す。
② 手元流動性の確保:資金面での不安を感じることなく、事業に集中できる態勢の整備にむけ、資金手当を実施。徹底した在庫削減と設備投資抑制。
③ 固定費の削減:デジタル技術を活用した非対面販売やサービス提供へのシフトを加速。顧客起点での業務プロセスのデジタル革新。働き方を抜本的に見直し、そのために最適化された人員の配置。
④ 資本生産性の向上:KM-ROIC及び投下資本収益管理(注3)による事業別資本効率管理強化。設備投資の抑制、M&Aなどの投融資は過去の投資の成果出しを最優先しつつ、将来の成長に対して必要不可欠な案件に絞り込んで実行。
⑤ 組織体制の変革:変化を機会として捉え、自律的、機動的に行動する組織体制を確立。ボトムアップで社会価値創造を実践する風土、人財の育成。
(注3)KM-ROIC:投下資本収益率。事業利益を投下資本で除した比率。事業活動のために投下した資本を使って、どれだけ事業利益を生み出したかを示す指標。
投下資本収益:事業利益から投下資本コストを控除した金額。どれだけ投下資本コストを上回る価値を創造したかを示す指標。
KM-ROICと投下資本収益の最大化により、ROE及びROICの向上を図ります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。