有価証券報告書-第83期(2023/01/01-2023/12/31)

【提出】
2024/03/29 10:40
【資料】
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【項目】
143項目
① 戦略
イ リスク・機会の特定
短期中期長期(注1)に想定される、当社グループが直面する気候変動関連のリスクと機会は以下の通りです。
■ 移行リスク(注2)
リスクの種類重要度(注3)
●政策・法規制リスク
・炭素税の課税、再エネ価格の上昇、化石燃料の利用減少がエネルギー価格を押し上げることによる、原資材調達コスト、製造コストの上昇
・エネルギーコスト、製造コスト等の割安な地域へ製造拠点を移転することによる収益圧迫

●技術リスク
・低・脱炭素社会に向けて構築が進む水素サプライチェーンに対し、当社グループの技術が適合できないリスク
・新規参入者、代替品の出現による競争激化、低炭素技術の開発投資の増大による収益圧迫

●市場リスク
・石油化学プラント向け、石炭火力発電所向けの従来型のポンプ・システム製品の収益機会の減少
・LNG需要の減少に伴いLNG関連製品・サービスの収益減少
・水素サプライチェーン構築の遅延によって、水素エネルギー関連資産の価値下落リスク
・EVシフトの進行遅延、インフラ向け電子部品需要が伸びず、電子部品製造装置の収益が限定的
・水素、バイオ燃料のコストが上昇、航空機運賃が割高となり、航空機利用客が減少する結果、民間航空機向け製品の収益機会の減少
・エネルギー価格の上昇などに起因し、顧客医療機関の経営状態が悪化、透析装置購入サイクルの延長・買い控え





●評判リスク
・脱炭素移行対策にかかる実行度が遅れる場合の評判リスク

■ 物理的リスク(注4)
リスクの種類重要度
●急性リスク
・増加、激甚化する異常気象によるサプライチェーン分断リスクへの対応費用の増加
・サプライヤーの生産拠点移転、各種対応費用の増加に伴う原材料調達コスト上昇

●慢性リスク
・増加、激甚化する異常気象やこれに起因する新たな疾病罹患を要因とする従業員の出勤率悪化、生産性低下、操業停止、工場閉鎖
・常態的な気温上昇による空調コスト増加、労働条件・環境整備等に関する法規制が厳格化し、対応コストの増加


■機会
機会の種類重要度
●資源の効率性
・民間航空機の機体軽量化に貢献することで収益機会の増大
・eVTOL(注5)など電力駆動の次世代移動手段の需要拡大
・省資源、省エネルギー、エネルギー効率性の向上、廃棄物の減量と再資源化などに関する収益機会の増加


●エネルギー源
・合成メタン(注6)の利用拡大によりLNG向け関連機器の収益機会の増加
・水素・アンモニア混焼・専焼(注7)に改修されたLNG・石油・石炭火力発電所向けを含む、アンモニアポンプ、水素ポンプ、アンモニア燃料船舶向けポンプの収益機会の拡大
・CO2回収・貯留(CCS)やそれに利用を加えたCCUS前提の火力発電所や原子力発電所向けの従来型製品サービスの収益機会の維持・増加


●市場
・省エネルギー型・高性能半導体の需要増により電子部品製造装置の収益機会増加

(注1)時間軸;短期(~2030年)、中期(2030年~2040年)、長期(2040年~2050年) 以下本文で同じ。
(注2)移行リスク;低炭素社会への移行に関連したリスク(TCFD最終報告書2017年6月)。
(注3)重要度;大(当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している)、小(重要な影響を与える可能性は少ないと認識している)、中(大小以外) 以下本文で同じ。
(注4)物理的リスク;気候変動の物理的影響に関連したリスク(TCFD最終報告書2017年6月)。
(注5)eVTOL ;Electric Vertical Take-Off and Landing 「電動の垂直離着陸機」。
(注6)合成メタン;水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を反応させ、天然ガスの主な成分であるメタン(CH4)を合成して製造する。メタンは燃焼時にCO2を排出するが、合成メタンの原料として、発電所や工場などから回収したCO2を利用すれば、燃焼時に排出されたCO2は回収したCO2と相殺されるため、大気中のCO2量は増加しないとされる。
(注7)アンモニア混焼・専焼;火力発電の燃料の一部/全部をアンモニアに置き換える手法。アンモニア(NH3)は炭素を含まないため、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから、CO2排出削減の有力な技術とされる。
ロ 当社グループを取り巻く事業環境における移行リスク・機会の及ぼす影響と対応策
[事業環境に関する認識]
次の2つの事業環境を認識しています。
●低炭素社会へ移行する事業環境
各国政府によるすべての気候変動関連の公約が完全かつ期限内に達成され、2100年の気温上昇を1.7℃に抑えるシナリオ(IEA World Energy Outlook 2022、同2023のAPS(注8)などを参照)に基づく事業環境を想定。この事業環境においてエネルギー源は、原子力、再エネ、CO2の回収・貯留(CCS)、それに利用を加えたCCUSを前提とする火力発電、再エネ由来のグリーン水素となる。とりわけ水素、アンモニアは脱炭素排出型エネルギーとして重要な選択肢となり、発電(燃料電池、タービン)、輸送(自動車、船舶、航空機、鉄道等)、産業(製鉄、化学、石油精製等)の様々な分野の低・脱炭素化に貢献すると予想される。
●化石燃料に一部依存する社会が発展的に存続する事業環境
現在の各国の政策以外に新たな政策がない場合には、化石燃料の利用が継続され、低炭素排出型のエネルギー利用へのシフトは十分には進まない結果、2100年の気温上昇が産業革命前と比較し、2.5℃になると予測するシナリオ(IEA World Energy Outlook 2022、同2023のSTEPS(注9)などを参照)に基づく事業環境を想定。この事業環境においても、気候変動対応の観点からではなく、エネルギー安全保障などの観点から、水素・アンモニア関連分野への投資は継続することも予想される。なお、World Energy Outlook 2023は、STEPSにおいても、2030年までに石炭、石油、天然ガスの世界全体の需要がすべてピークに達する見込みとする。
(注8)APS;IEA(International Energy Agency 国際エネルギー機関)の3つのシナリオのひとつ。APS(公約シナリオ)はNDC(国が決定する貢献)や長期的なネット・ゼロ目標を含む、各国政府による全ての気候変動関連の公約を考慮し、それらが完全かつ期限内に達成されると仮定するシナリオ。これによれば、年間CO2排出量は2022年以降まもなくピークに達した後、2050年までに120億トンまで急速に減少し、2100年の気温上昇は1.7℃となる。
(注9)STEPS;IEAの3つのシナリオのひとつ。STEPS(既存政策シナリオ)はエネルギー、気候、関連産業政策を含む最新の政策設定に基づく見通しを提供するシナリオ。これによれば、世界全体のエネルギー由来のCO2排出量が2025年に年間370億トンでピークに達し、2050年には320億トンに減少する。その結果、2100年の気温上昇は2.5℃となる。
[認識する2つの事業環境における事業別の移行リスク・機会の及ぼす影響と対応策]
以下に当社グループの主要事業について実施した低・脱炭素社会への移行に伴うリスク及び機会に関するシナリオ分析の結果の概要を掲載します。シナリオ分析結果の詳細は、当社ホームページの次のページに掲載しています。https://www.nikkiso.co.jp/company/stakeholders/environment.html
インダストリアル事業

<移行リスク>低炭素社会へ移行する事業環境においても、化石燃料に一部依存する社会が発展的に存続する事業環境においても、石油化学プラント・火力発電所向けの従来型の製品・サービスやLNG向けの当社製品・サービスの収益は減少もしくは成長が緩和するリスクがあります。この点に関して、2030年までに石炭、石油、天然ガスの世界全体の需要がすべてピークに達するとの予測もあり(IEA World Energy Outlook 2023)、この場合には、クライオジェニックポンプを含むLNG関連機器・サービス事業も中長期的には成長は緩やかになり、やがて鈍化すると予想します。
<時間軸・重要度>中期から長期/大
<機会>他方、低炭素社会へ移行する事業環境においては、回収したCO2と再エネ由来のグリーン水素によって合成される合成メタンはLNGと混合して供給される可能性も踏まえると、クライオジェニックポンプを含むLNG向け関連機器の収益は底堅いと見込みます。また、再生エネルギーのうちでも水素、アンモニアは脱炭素排出型エネルギーとして重要な選択肢とされ、発電、輸送、産業の様々な分野の低・脱炭素化に貢献すると見込まれることから、低炭素社会へ移行する事業環境においては、アンモニアポンプ、水素ポンプ、アンモニア燃料船舶向けポンプの収益機会(注10)は拡大すると予想します。化石燃料に一部依存する社会が発展的に存続する事業環境においても、2030年までの天然ガスの上流開発投資が増加し、2050年までLNG需要が当面継続するとの予測もあり、その場合にはクライオジェニックポンプを含むLNG関連機器・サービス事業の収益は中長期的に引き続き堅調に推移すると予想します。
<時間軸・重要度>中期から長期/大
<対応策>当社グループは、電力の安定性と機動的調整力、またエネルギー安全保障の観点から、天然ガスを含む化石燃料システムは低炭素社会においても一定の役割を果たすものと見込み、引き続きクライオジェニックポンプなどLNG向け関連事業の収益向上に注力します。あわせて、低炭素社会への移行を見据え、水素・アンモニア分野(注11)、省エネルギー・高性能社会関連分野へ経営資源を適切に配分していきます。
(注10)アンモニアポンプの収益機会;『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』(経済産業省 2021年)は、2030年までに石炭火力への20%アンモニア混焼の導入・普及、2050年までに混焼率の向上(50%)や専焼化技術の実用化を目指すとします。需要量は、国内では2030年に年間300万トン、2050年に3000万トンと想定される。
(注11)水素・アンモニア分野の当社グループの取組;水素航空機向け液化水素ポンプは2025年度の地上実証向け納入を目指します。液体アンモニア用ポンプは2026年に市場投入を予定します。
航空宇宙事業

<移行リスク>国際民間航空機関(ICAO)が国際航空分野で2050年までにCO2排出を実質ゼロにする目標を採択するなど、民間航空業界は運航改善、航空機等の技術革新、SAF(注12)の活用等航空燃料の低炭素化などによって、脱炭素社会構築の実現に向かっています。脱炭素社会へ移行する事業環境において、水素、バイオ燃料が化石燃料よりも高くなったり、炭素税が広く導入されたりする場合には、航空運賃の値上がりの可能性も予想され、航空機利用客の減少、民間航空機への投資意欲が減速、後退するときは、当社の民間航空機向け製品の収益機会が減少するリスクがあります。
<時間軸・重要度>中期から長期/中
<機会>他方、低炭素社会の事業環境においてはもちろんのこと、化石燃料に一部依存する社会が発展的に存続する事業環境においても、CO2排出規制、省エネルギー、省資源に向けた世界的な気運が逆行することは考えにくく、また、民間航空機の需要は中期的には拡大すると予想され、民間航空業界は機材、部品の軽量化、燃費効率の向上を一層強く求めると見込まれます。よって、いずれの事業環境においても、機体の軽量化に貢献する当社グループ製品の収益機会は維持・増加するものと予想します。
<時間軸・重要度>中期から長期/大
<対応策>当社グループは、CFRP(注13)成型品加工に関して高度な技術とノウハウを保有し、40年以上にわたる実績があることから、民間航空機の機材、部品等の軽量化と燃費効率の向上に貢献することができます。民間航空業界における脱炭素社会移行の世界的基調を見据え、民間航空機部品の製造で蓄積したCFRP加工技術を活用し、衛星事業、eVTOL、水素燃料航空機など、従来の民間航空機部品の製造にとどまらない事業展開を確実に進めていきます。
(注12)SAF; Sustainable Aviation Fuel.「持続可能航空燃料」 植物や廃油などから作ったバイオ燃料で、CO2の排出を従来の燃料よりも大幅に削減した航空燃料。
(注13)CFRP; Carbon Fiber Reinforced Plastics. 「炭素繊維強化プラスチック」 CFRPはプラスチックと繊維の特性を併せ持ち、比重1.5〜1.7(鉄の20%、アルミニウムの60%)と非常に軽い素材で、炭素繊維の種類や配向方向などによっては鉄の10倍の比強度(重さに対する強度)を持つのが大きな特徴。航空機部品の素材としては、強度を保ちながら軽量化できることから、燃費の向上によるコスト削減や環境負荷の低減につながるとされる。
メディカル事業

<移行リスク>低炭素社会へ移行する事業環境においては、エネルギー価格の上昇が顧客医療機関の経営を圧迫する場合、血液透析装置の購入サイクルの延長、製品価格の値下げ要求による価格競争激化等により、当社血液透析製品の採算性が低下するリスクも予想されます。また、気候変動リスクに関する新たな法規制に対する対応費用が増加する場合には、収益減の要因となりえます。
<時間軸・重要度>中期から長期/中
<機会>他方、低炭素社会へ移行する事業環境においても、化石燃料に一部依存する社会が発展的に存続する事業環境においても、省資源、省エネルギー、エネルギー効率、廃棄物の減量と再資源化などに関する当社顧客の医療施設の期待に応えることで、収益増の機会となります。
<時間軸・重要度>中期から長期/大
<対応策>気候変動リスクに高い関心を持つ医療施設、医療関係者、患者さんの期待に応えるため、製品製造過程における原材料や部品の再利用による環境対策にかかる取り組みを強化し、さらに部品点数減少、軽量化、エネルギー使用量低減、3R(Reduce、Reuse、Recycle)等の循環型の製品開発を行ないます。また、2024年、血液透析装置など血液透析関連製品を製造する国内基幹工場 金沢製作所において、消費する電力全量を実質的な再生可能エネルギーに切り替える計画を進めます。(注14)
(注14)当社金沢製作所の消費電力全量の実質再エネ切替計画;本有価証券報告書提出日現在、当社金沢製作所では電力の一部をオンサイトPPA(2023年4月から稼働)の方法で調達するほか、エネルギー高効率の生産設備への更新などにより、CO2排出削減、消費電力節減に努めていますが、これらの施策によっても削減しきれないCO2が残ります。これら残存するCO2について、2024年から非化石証書を利用することで、本製作所にて消費する電力全量を、CO2を排出しない実質的な再生可能エネルギー由来電力に切り替える計画です。本計画の達成により、年間約7,400t-CO2の削減を目指します。
ハ 当社グループを取り巻く事業環境における物理的リスクの及ぼす影響と対応策
<事業環境に関する認識>各国が気候政策を導入しない結果、GHG排出量が非常に多く、2100年の気温上昇が1850~1900年を基準として4℃上昇するとのシナリオに基づく事業環境を想定。この事業環境では、当社グループが事業展開するアジア、北米及び欧州のほとんどの地域において、熱波を含む極端な高温、大雨、台風、洪水等自然災害の強度と頻度が増し、また海面水位が上昇し続けると予測されます(IPCC(注15) 第6次評価報告書など参照)。
<物理的リスク>増加、激甚化する異常気象やこれに起因する新たな疾患等を原因とする従業員の出勤率悪化、生産性低下、工場閉鎖、サプライチェーン分断リスクへの対応費用の増加(生産・物流拠点の移転・分散、製品在庫の積み増し等)が財務面に悪影響を及ぼすリスクがあります。常態的な気温上昇が空調コストを押し上げ、労働条件・環境整備等に関する法規制の厳格化がすすめば、その対応コストの増加が予想されます。さらに、サプライヤーによる工場移転、各種対応費用増加に伴う価格転嫁による調達価格上昇のリスクも予想されます。
<時間軸・重要度>短期~長期/大
<機会>他方、メディカル事業については、顧客病院施設が異常気象への対策として、治療可能ベッド増設など収容能力を拡大する場合、透析装置及び関連製品の需要が増加する可能性があります。また、治療に不可欠なディスポ(消耗品)製品について顧客施設の保有在庫を増加する場合には、当社の物流コストを合理化できます。インダストリアル事業などでは、被災した化学、発電プラントなどから災害復旧需要も予想されます。
<時間軸・重要度>短期~長期/中
<対応策>在庫の積み増し、サプライヤーの複線化、実効的なBCP対策の継続的改善による災害時における本社・本部機能の確保、漏れのない効果的な損害保険の継続的付保などを維持、実施していきます。これに加え、血液透析事業においては、災害発生時に故障製品の状態をただちに把握できる遠隔監視及び復旧作業を遠隔指示できるシステムの普及拡大とサービスの機能強化を急ぎます。
(注15)IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change);気候変動に関する気候変動に関する政府間パネル。世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織。

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